Dルートその3


 カチャ…… 「相原さん、お待ちしていました。僕の方の準備は整ってますよ」 「はぁ……」  やっぱり……いるよね………どうしよう……  お風呂から上がって着替えを終えた後、入る事に抵抗感のあるマッサージをするといわれた部屋の扉を少しだけ  開けたと同時に、ベッドメイクをしていた先生はすぐさまあたしの方を振りかえって、にこりと優しげな笑みを  投げ掛けてきた。  お風呂を借りてすぐに出ていくのは、なんだか早くマッサージをしてもらいたいみたいに思えて恥ずかしくて、  一体どんな事をされるのかと20分か30分ぐらい湯船に使ってたり、触られても恥ずかしく無いように二度も  三度も身体を洗ったりしていた。おかげで、全身は熱と擦り過ぎでうっすらと赤く染まっているけど、ボディー  ソープのおかげか、肌の表面はいつもよりしっとりとしていて、ほんのりと甘い石鹸の香りが身体に残っている。  でも、お風呂に上がった後にも時間が掛かったんだけど……結局一時間ぐらい待たせてるんだけど…… 「さぁさぁ、そんなところにいないでどうぞお入りください」  ううう……ここで「遅い!」とか、キツいことを言われたら帰ろうかと思ってたのに……  先生は待たせちゃった事をおくびにも出さず、わざわざ近づいてきて扉を開けてくれたりしちゃってくれた……  こう言うのを紳士的と言うのかな…… 「………はい……」  功までされると、もう逃げようが無いように思え、あたしはしぶしぶと、心の中ではこれから始まる事への期待  と不安でドキドキしながら、水着の上から羽織ったバスローブを押さえて薄暗い室内に入った。  先生があたしの逃げ道を塞ぐかのように扉を閉める(まぁ、開いてたら気になるし…)間、マッサージ室を見まわ  すと、ブラインドを下ろされて室内になんとも言えない微妙な薄暗さを作る大きな窓と、あたしが三人か四人  ぐらいゴロゴロ寝てもまだ余りそうなぐらいに大きなベッドだった。あたしの受けた印象は、はっきり言って、  恋人同士が昼間からあのベッドの上でいろいろしちゃうような……と言うものである。  ま…まさか、あたし……この女みたいな先生に……あ…あうあうあう……  もしかして…とか、ひょっとして…とか、美由紀さんに話を持ちかけられてから今日まで、エステと聞いて想像  していたエッチなシチュエーション、それをお風呂場の中で思い出して顔を真っ赤にしていたんだけど、まさか  本当に……  無理やり男の人(女の人の場合もあるか…)にエッチな事をされる事が多いだけに、この雰囲気に対して頭の中で  危険信号・黄色が点灯し始める。でも…… 「どうかしましたか?」 「ひゃああぁぁぁ〜〜〜!!………あ…いえ、なんでもないです、あは…あはははは……」  いつまでも入り口の近くで突っ立っているあたしを不審に思ったのか、先生の細く、しなやかな手があたしの肩  に置かれると、いけない妄想に浸っていたあたしは驚いて、振りかえりながら飛び退った。  お…驚いた……このままじゃ人間不信か何かになっちゃうかも……  乾いた笑いが、妙にあたしの耳に響いている……反省しよ。まさか、こんな女!っぽい人がいきなりだなんて、  あるはずがないのに……あはは…… 「あの…もしおいやなら、やめておきますか?」 「あはははは………へっ?」  急な先生の申し出に、あたしは何とも間抜けな声を上げてしまう。 「先ほどから拝見していますと、動にも落ちつかれていないご様子ですし……それなら、ここでやめておいた方  がよろしいかと……」  それまでの優しそうな微笑が、急に雨でも降ったかのように暗く沈んでいく。どっちかと言うとあたしの方が  落ちつかなくて先生にイヤな思いをさせているように思うんだけど、まるで自分の方が悪い事をしていて、  その罪悪感に打ちひしがれている、と言うように見える。 「そ…そんな事ないですって! ほら、そんな暗い顔してないで、早くマッサージはじめてくださいよ。ね♪」 「あ……」  慌ててあたしが元気付けるように明るい声を出し、ベッドの方に引っ張るように手を引くと、先生は小さく驚き、  見る見るうちに白く美しい顔を真っ赤に染めてしまった。 「そ、そうですね、それでは始めましょうか」  あんなに整っていた顔が暗くなったり、赤くなって慌てたり……もっと落ちついてる人かと思ったんだけど、なん  だかかわいいかも……  握り締めたあたしの手から自分の指を引き抜くと、先生はあたふたしながらベッドの横に置かれた小さなワゴンの  前に歩いていった。 「それでは…そうですね………申し訳ありませんが、脱いでいただけますか?」 「………は?」 「あ、別にそう意味ではありませんよ。初めから全て脱ぐわけではなくて、まずはプロポーションの確認をしたい  からバスローブを脱いでくださいと言う意味で――」 「あ、そ、そうなんですか、あたしはてっきり……あはははは……」 「ははは……」  なんだか……あたしたちって、けっこう似てるのかも…………それよりも、脱ぐのか……で、水着を見せる………  ううう〜〜…分かってたけど、やっぱり恥ずかしいよ〜〜! 「そ…それじゃあ脱ぎますけど……あんまり見ないで下さいね」  さっきとは逆に、今度はあたしが顔を赤くしながら、腰の紐を震える指先でなんとかほどき、先生の方を向くよう  に背筋を伸ばして、前を開き、肩から白色のバスローブを肘まで滑り落とした……そして現れたのは、それと同じ  色の輝きだった…… 「……はぁ………これは…思っていたよりも………」  さっきあたしを観察したように、真面目な顔に戻った先生は顎に指を持っていき、水着――しかもビキニ姿の  あたしの身体を上から下まで何度も視線を往復させ、何度もふぅ…とか、ほぉ…とか、小さな呟きを漏らし始めた。  さっきみたいに目は恐くないけど……つぶやかれるのも恐いよ〜〜!! 何が「ほぉ…」なのよ〜〜!! あたしは  そんなに太ってるのぉ〜〜!?  お風呂から出た後、衣装室のような所に入ってみると、十畳ぐらいありそうな室内いっぱいに水着が所狭しと  並べられていた。しかも全部ビキニ!! ワンピースのように上下が繋がったのや、パレオやフリルのように  余分な布がついているものは一切なし。しかもAAからGまでの各サイズが揃っているからスゴい……  ひょっとして先生の趣味かと思えるぐらいのビキニの量に、思わず先生の水着姿まで想像しちゃうし……でも、  似合ってるし……  そんな中からあたしが選んだのは、ほとんど紐で支えられているようなビキニの中でもなるべく布の量が多い  もの選んだんだけど………女になってずいぶんと時間が過ぎたせいか、微妙に大きくなり始めている二つの  おっぱいがちゃんと隠せるようなカップで、首と背中で紐を結ぶ物を選んだ。下の方もハイレグみたいに食い  こみがキツかったり、TやYのようにお尻丸見えという事でもないので、腰紐と言う不安を抱えながらもその  まま着用している。色は白と短調だけど、まぁ…海で泳ぐわけじゃないし、脱がされるわけでもないし………  ――と思っていたんだけど、部屋においてあった姿見を見て、自分で自分の姿にかなり驚いた。それを見られて  いると思うと……  思っていたよりも大きくなっていた胸は水着を着ているせいで、熱を帯びてほんのり赤くなった肌に純白の水着  がよく映え、色の違いでその丸みと大きさが強調されている。そして二つの膨らみはわずかにビキニのブラに  持ち上げられ、肩や脇から胸の先端の乳首に向かって綺麗な曲線を描く一方で、谷間が深くなるだけならまだしも、  左右の乳房の密着が増し、肌の表面から滲んだ汗がそれを彩って、自分でも凝視してしまうほどの清純そうな色っ  ぽさをかもし出している。  後ろを向き、腰を捻ってお尻を鏡に映すとキュッと引き締まったウエストとビキニパンツに覆われた豊満なお尻が  目に飛び込んでくる。ヒップにぴったりと貼りついたビキニはお尻の割れ目に沿って真中が縦にへこみ、わずかに  食いこむビキニラインと合流しながら、股間と太股が作るデルタゾーンへと入っていく。  そしてそのまま振りかえると、太股の付け根に切れこむビキニの三角形の布地に包まれた股間……そんなにお腹も  露出はしていないけど、左右から挟み上げられてぷっくりと膨らみ、その気がなくても強調されているように見え  るアソコが、見てくださいと言わんばかりに突き出ている。  そんなわけで………ものすごく恥ずかしい……よくよく考えれば、白のビキニってほとんど下着と同じ訳だし、  それをじろじろと見られるなんて……  そんなあたしの気も知らず、じっくりと観察を続ける先生の姿を込み上げてくる恥ずかしさから見続ける事が  できず、目をキツく閉じて顔を逸らし、ただ時間が速く過ぎる事を祈りながらジッとその場にたたずんでいた。  んっ……はぁ………ぁ……ん………  見られて興奮しているのか………あたしの息が徐々に熱く、湿ったものに変わっていき、気がつくと、まるで  小さく喘ぐような吐息を繰り返していた……一度お風呂場で拭ったはずだけど、紅潮した肌の表面に再び汗が  滲み始め、火照る身体をしっとりと包み始めた。  もしかして……見られてるだけで感じてるの………?  意識し始めると、それまで遠火であたしをあぶっていた官能の炎がゆっくりと身体の中に燃え広がり、水着に  包まれた乳房の膨らみや股間の奥底に羞恥という名の疼きが心臓の鼓動にあわせて襲いかかってくる……  やっ……乳首……ジンジンしてきた………なにもしてないのに……!?…ひょっとして……先生…見てるんじゃ……  胸が一つ鼓動をするたびに、徐々におっぱいが張り出して水着のブラがキツくなり、乳首を押し返す布の圧力が  大きくなっていく……そんな風にあたしが感じている事を気付かれたんじゃないかと心配になって、閉じていた  目を睫毛同士が触れ合う程度にうっすらと開き、横目で先生がいる方向に視線を走らせた。  やっぱり……胸の辺りを見てる……それに…近づいて……!!  さっきのリビングほどではないけれど、十分に広いこの寝室。それに先生は少し離れたベッドのところにいたのに、  今はあたしから…長身の先生が手を伸ばせば届くんじゃないか、と言う位置にいた。そして、それほど近くにいる  のに、無言で、緊張と興奮ですっかり汗ばんだ身体を見続ける……  おわって……早く………じゃないと…あたし……このままじゃ……! 「はい、もういいですよ。恥ずかしい思いをさせてしまいましたか?」 「い、いえ!……そんな事は……」  とは言いつつ、観察が終わると同時に急いで先生に背を向け、振り向いた勢いですそが翻るのも気にせず、あたふた  とバスローブを引き上げてきっちり胸の前を押さえながら、しゃがみこんで大きくはぁはぁと深呼吸を繰り返した。 「あの……大丈夫ですか?」 「だ…大丈夫…大丈夫です……ただ…ちょっとあがり症だから…はは…あはははは……」  ある程度落ちついてから妙に乾いた愛想笑いを浮かべながら振り向くと、腰を屈め、しゃがむあたしの上の方から  心配そうに顔をのぞきこむ先生の顔が真正面に――  なんでこんなに近くに……ま、また顔が熱くなってる……そんなに見られたら…動けないよぉ……  さっきまでの恥ずかしさは何処へやら、髪をかきあげながらこちらを見つめる先生の瞳を見つめ返していると、  汗を優しく吸い取ってくれるバスローブの内側から、押さえつける両腕を跳ね除けようとするかのようにドックン  ドックンと心臓の鼓動が突き上げてくる。そうはさせまいと力をこめて、胸がへこむほどに押さえこむと、見られ  ているだけよりもはっきりとした気持ちよさが身体の中で目覚め始めてしまう……  そんな……あたしは男なのに……男の人に…見とれてる……  一度絡まった視線はなかなか振りほどく事ができなくて、先生の心配げな表情を浮かべている綺麗な顔をそのまま  ぽ〜〜っと見つめ続けていた。 「さ、つかまって下さい」 「はぁ………あっ、へっ、あれ?…あ、ああ、はい、すみません……」  先生の差し出した右手がぼんやりしていた視界をたまたまよぎったせいで、なんとか意識があっちの世界から  戻ってきた。そして目の前の手のひらがあたしを立たせてくれるために先生が差し出してくれたものだとよう  やく気付き、その上に自分の右手をそっと乗せると、しなやかな五本の指でキュッと握り締めてくれて、その  ままあたしを抱きしめるように―― 「んっ!!」  身体を支えようと、あたしと同じようにひざまづいて背中から回された先生の左手が、バスローブの上から  あたしの腰に触れる。  同時に、ゾクゾクっとした感覚が手の触れた場所から背中を駆け上り、あたしは思わず頭を後ろにそらせ、  全身をビクッと震わせてしまった。  腰骨の膨らみの上部に手を当て、指先を滑らせるようにウエストの括れへ……水を吸い取りやすいように  分厚くなっているバスローブ越しに微妙に感じる他人の手の感触に、内でじわじわと蓄積されていた快感  が一気に溢れ出そうになる。 「さっきからどうしたんです? どこか身体の具合でも悪いんですか?」 「そうじゃないんですけど……ちょっと緊張しすぎちゃって……」 「そうですか。初めての人には恥ずかしかったかもしれませんね。ちゃんと気付いておくべきでした……」 「あ、違うんです、これはあたしが悪いんですから先生は気にしなくていいんですよ、ほんと」  やっぱり中身は男性と言うべきか、一瞬だけ感じてしまったものの、しっかりと腰を抱かれて立たせて  もらったあたしは、支えられたままゆっくりとベッドまで歩かされ、ダブルと言うよりトリプルと言った  大きさのベッドの端に並んで腰掛けさせられた。 「もしマッサージの途中で気分が悪くなったりしたら、僕に声をかけてくださいね。それではマッサージを  開始しようと思うのですが……一つ、よろしいですか?」 「は…はぁ……なんですか?」  そう返事しながらも、あたしの胸のドキドキは収まっていない。肩や二の腕が先生の胸に当たり、バスロー  ブから飛び出したスリッパしか履いていない足も先生のズボンに軽く触れている。こうやって話している最中  もそこはどうしても意識してしまって、軽く熱を帯びているように感じられる。  どうしよう……このままじゃなんにもされてないのに……感じちゃいそう……  呼吸をするだけでも先生にわかるぐらいの反応を見せそうになるのをグッと我慢して、先生と視線が合わない  ように軽く俯き、左腕で胸を、右手で股間をしっかりと押さえこむ。 「先ほど相原さんの身体を見せていただいたのですが、最初にも言ったように、ダイエットの必要は無いように  思えます」 「そうなんですか? でも……」 「女性が自分の体重に敏感なのも分かります。ですが過度のダイエットはプロポーションを崩す原因になるだけ  でなく、過労や栄養失調で抵抗力が落ち、様々な病気になることもあります。あなたの姿を見る限り、非常に  均整が取れていますし、とても美しい。ですから今日のところは、やめておいた方がいいと思います」 「……でも、あたしはもう今以上に太る事ができないんです。ちょっと理由は言えないんですけど、一身上の  都合と言いますか、とても人様には口にできない理由で……とにかく身体に悪いんです。だからダイエット  を始めたんですけど……」 「そうですか……では今日のところは予約されていたダイエットコースはキャンセルして、普通のマッサージ  と特別マッサージだけを行いましょう。それで構いませんか?」 「コースって…そんなの予約してあったんですか!?」 「そうですが……もしかしてお友達からお聞きになっていませんでしたか?」 「はぁ……当日のお楽しみって言われてたもので……」  み…美由紀さん、とことんあたしの恩を売る気ね……これは当分の間、演劇部通いね……とほほ…… 「それでは早速、全身の疲れを取るマッサージから始めます。相原さん、このベッドにうつ伏せになって頂け  ますか?」 「は…はい……」  ついにこの時がきちゃったか……ええぃ、もうなるようになっちゃえ!!  先生が横からすっと立ちあがってワゴンの方に歩いていき、バスタオルや小さいタオルを手に取り始める。  それを見ながらもう逃げ場は無いと諦めたあたしは、スリッパを脱いでその場で振りかえり、ベッドの  シーツに皺をつけながら四つん這いで這い上がった……  くちゅ……  えっ……まさか………!  不意に、あたしの耳に湿った音が響き渡る。その音は外から聞こえたものではなくて、女になってから幾度  となく聞かされたアソコからの音………  先生は……こっちを見てないわよね……  首だけ振り向き、うらやましいぐらいに長く綺麗な黒髪がこちらを向いていることを確認すると、あたしは  ベッドの真ん中に座りこみ、股間を覆うビキニの中にお腹の方から手をすっと差し込み……引き抜いた。  その手を顔の前に近づけると、中指の先端が軽い湿り気を帯びている。  本当に……濡れちゃってる………見られてただけなのに…… 「では始めます。枕に頭を乗せるように寝てくださいね」 「……分かりました」  大丈夫……まだ外に漏れるほどには濡れてないから………このまま我慢してれば………んっ!  あたしは一度深呼吸をしてから、ふかふかの枕に倒れこむように顔を押し当てた。  声も出さない……感じたりしない……これは普通のマッサージなんだから。  ギッ…ギシッ…ギシッ……  先生がベッドに載り、あたしの方に近づいてくる音が、振動が全身に伝わってくる。  まるで顔を伏せて怯えているあたしの様子を楽しんでいるかのように、ゆっくりと、ゆっくりと、先生の  気配が伝わってくる……  ギシッ  そしてその音があたしのすぐ横に来た時――  ドクン  これから始まるであろう事にあたしの胸は一際大きく高鳴って――同時にアソコから一雫…こぼれ出して  しまった………


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