第2話


 放課後の後、ちょっとした用事があったので明日香と一緒に繁華街にまで出てきた。  こうやって明日香と二人だけで並んで歩くのも久しぶりのような気がする……あたしが女になってからはデー トもあんまりしてないし、それに何より最近は―― 「はぁぁ〜〜……お腹空いたぁ……明日香ぁ…アック(もしくはアクド)でハンバーガーでも……」 「なに言ってるの。ダメに決まってるでしょ」  声に力のない提案は、少し眉を動かして険しい表情になった明日香の一言できっぱりと断られた。 「じゃあ…そこのお店でクレープでも買って、歩きながら……」 「ぜっったいにダメ。甘い物は厳禁」  お店の前で立ち止まったあたしの腕に明日香は自分の腕を絡めて、無理やり引きずっていく。 「あぁ…香ばしい匂いが……」 「そっちじゃないでしょ。道はこっち」  露天から漂ってくる誘惑の香りにふらふらと引き寄せられるあたしの頭を鷲掴みにして、進行方向に向ける。 「あ、明日香…酷い……」  そんな事を十数回と繰り返し、ついにあたしの細い我慢の糸はぷつりと音をたてて切れてしまう。 「さっきからあたしがこんなに空腹で苦しんでるって言うのに…明日香はあたしに飢え死にしろって言うの!?」 「食べたらたくやの命が危ないでしょうが!」 「………ごめん………あれ?」  通りを歩いていた何人かの人が、いきなり大きな声を出したあたしたちの方を振りかえる。それに気付いたあ たしたちは、大急ぎでその場を離れなければならなかった。  あたしが太ると男に戻った時にどんな悪影響が出るか分からないと脅されてダイエットをはじめて以来、明日 香とはずっとこんな調子……明日香と一緒にダイエットに挑戦した時から妙に怒ってばっかり。  嫌われたのかと思ったんだけど、どうやら逆に気を使ってくれているみたいで、お豆腐弁当はしなくなったけ どカロリーを低く押さえたダイエット弁当を作ってくれたり、あたしが買い食いをしないように見張っていたり している(財布やアルバイト代も没収されてるし…)。  それでも、育ち盛り真っ最中の女の子になってしまったあたしは甘い物やおいしそうな物を見つけるたびに、 ふらふらと…ふらふらと…… 「おまんじゅう…肉まん…あんまん……」 「だ〜か〜ら〜〜…そっちにいくんじゃない! 男に戻るまでなんだから我慢するの!」 「でも……ねぇ……はぁぁぁぁ………」  それが当分先だから…つらいのよねぇ……  肩を落とし、力が抜けるに任せてうつむくと、視界を埋め尽くすような制服の膨らみが目に映る。  何気なく、鞄を持っていない右手を上げて下から掬い上げてみると、ついこの前までとは比べ物にならないほ どの重さを手のひらに感じてしまう。  ぷにぷに…ぷにぷに…  もうちょっとだけ力を込めると、ボリューム満点の丸い膨らみは心地よく揺れ、振動が波紋のように身体の中 に広がっていく……  これさえなければなぁ……はぁぁ……  いったい一日に何度溜息をついているんだろう……出しても出しても止まらない重たい空気が、また一つ、あ たしの口から吐き出される……  何故なら今現在、あたしが男に戻る研究はまったくと言っていいほどに進行していないからである。  千里はダイエットマシーン改め、バストアップマシーンさらに改め、バストダウンマシーンになってしまった 機械の修理作業を、授業をサボり、学校に寝泊りしてまで続けている。  そんなに胸が縮んだのが悲しいのかな……  あたしにしてみれば胸には早く小さくなってもらいたいぐらいである。なにしろ……一時的にとはいえ、確実 に世界一大きいバストを体験してしまったんだから……  HかIかJかKかは知らないけれど、1m50なんていうサイズが入るブラなんて見つかるはずもなく、ほと んどおっぱい丸出しですごした日々……弘二に徹夜で揉みまわされるし、帰りのバスでは無理やり制服に詰めた おっぱいを触られて車内でボタンが全部弾け飛ぶし、仰向けで寝ると息苦しいし……結局のところ、胸が数日で 小さくなったけど、その間は学校を休む羽目になり、一時は2cm大きくなっただけですんだ胸もリバウンドで 5・6cm大きくなっている……  でも…もう一度ぐらいならいいかも……  手の上で自分の乳房の弾力と重さを確かめるうちに、指が動いて無理やりEカップのブラに押し込んだ膨らみ を少しだけ押しこむ。すると、大きくなったのに以前と変わらない張りを持つ乳肉がぷるぷると震えながら、中 身の重力と肌の張力で指先を強く押し返してくる…… 「――はぁぁ……」  今まで突いていた溜息とは違う……少しだけ熱い息………胸の下側の一点から湧きあがる小さくても、確かな 疼きが大きな胸を伝わって身体中に広がり、それに反応した乳首が窮屈なブラの中で硬く尖っていく……  あの時…スゴかったもんなぁ……一日中…家で……  何とか家に帰りついて、次の日から三日間……家に誰もいないのをいい事に、好奇心から脱衣所の大きな鏡に 自分の胸を映してみた……改めてその時の自分の姿に驚きながらも、大きさや形をじっくりと観察し、さすがに 重さでしたを向いていたけれど、鎖骨からの滑らかなラインを指で何度もなぞり……両手で何度も持ち上げてみ た……  そのうち、鏡の中にいる自分がまるで海外のモデルのような気がしてきて……邪魔な服を全て脱いで……じわ りと汗が滲み出した魅力的な乳房の下で腕を組んだり…身を屈めて自分でも目を奪われるほどの深い谷間を作っ てみたり…間に物を挟んで寄せ上げてみたり……  自分で触れば触るほど、柔らかく、大きく、そして魅力的になっていくあたしのおっぱい……胸をいじって… すっかり上気し頬を染めるあたしの姿に…さらに興奮していく……両手で口に寄せた二つの乳首を唇に挟んでた っぷりと吸い上げ…汗でぬめる乳房の肌に唾液の絡みついた舌をねっとりと這わせ…牛の乳のように、乳房の根 元から先端に向かって力を込めて搾ったり……  弘二に一晩中された事を、バスの中で痴漢に触られた所を、ひとつずつ思い出しながら自分で自分の胸にやっ てみる……舐めて…しゃぶって…揉んで…捻って…搾って……誰もいない家の中で、絶頂が止まらなくて、蜜が 溢れて止まらないおマ○コに自分の指を激しく出し入れさせながら、お風呂場では泡まみれにして何度も何度も 揉み洗い、廊下では雑巾がけのようにフローリングに押しつけて胸を押しつぶし、部屋ではベッドの上で時間を 忘れて自分で自分を犯し続け、どんなに激しい快感でも受けとめてしまう巨乳にあたしは恥ずかしげもなく声を 上げて、気を失うまで……そんな三日間…… 「――はぁぁ……」 「たくや、ちょっとたくやってば!」 「はぁぁ…あ、あれ? 明日香、どうしたの?」  いきなり肩を揺すられて我に帰ったあたしが目にしたのは、間近に迫った明日香の綺麗な顔……首を巡らせる と、そこは真っ暗なあたしの部屋ではなく、たくさんの人が行き交う待ちの通りのど真ん中だった。  あっ…あたし…何してたんだろ………  どうも意識が妄想の中にどっぷりと入りこんでしまっていたみたいで、あたしは少し靄の掛かったようにはっ きりしない頭を振って、無理やり顔を引き締める。 「たくや、本当に大丈夫なの? そんなに今のダイエットがキツいの?」 「そんな事ないって。ただちょっとぼ〜っとしちゃっただけだから…あはははは……」  さっきまでの眉を吊り上げた顔ではなく、心底心配している顔を近づけてくる明日香に、あたしは笑ってごま かす。  や、やだ、あたしったらこんなところで……最近感じやすいのかなぁ……  お腹が空いていて意識が切れやすい、周りの状況を認識しない、といった症状はあるけれど、どちらかと言え ば身体が前よりも敏感になっている事に原因があると思う。  だって…明日香や夏美にばれない様にこっそりとマッサージの先生のところに通ったり(だって間食が美味し いし…)、学園のトイレに入るたびにウォシュレットの鋭い水流をクリに当ててイきまくってるし…… 「あはははははは………はぁぁぁ………」  おかげで、体重は女になったばかりの頃をキープしてはいるけれど、胸は大きく、身体は引き締まって、以前 よりさらに魅力に磨きが掛かってしまっている。下駄箱のラブレターも三割増……とほほ……本当にこんなので 男に戻れるのかなぁ……あたし……  引き締めた顔が三分と持たずに崩れ落ちていく……やっぱりお腹空いてるから…あううぅぅぅ…… 「もう…ちょっとは元気を出してよね。せっかくの二人っきりなのに……」 「……え? 何か言った? よく聞こえなかったんだけど……」 「なんでもないわよ。それよりも、たくやも何か用事あったんじゃないの? 私はこれから図書館に行って調べ ものをするんだけど……」  聞き返すと、明日香は長い髪を振りながら歩き出し、あたしも慌てて後を追う。そんなあたしに、まるで何か を期待するような瞳を向けてくる明日香。  そういえば明日香……学園の図書室でもダイエットの事を調べてたっけ……そんなのに付き合う体力なんてな いしなぁ…… 「ごめん。今日のはちょっと外せないから。また今度と言うことで」  さすがにそんな理由でお誘いを断ることに罪悪感を覚えたあたしは、明日香の前に回りこみ、鞄を脇に挟んで 両手を合わせ、ぺこりと頭を下げる。 「いいわよ、気にしなくても。どうせたくやが来たって、お腹を鳴らすだけなんだから。早く家に帰ってご飯食 べなさい」  そんなあたしの考えも先刻お見通しの幼なじみは、あたしの頭を手の甲で軽く叩くと、可笑しそうに微笑んだ。 「あっ……でも、本当に今日は用事があるから。あたし、これから――」 E)「そうそう、今日はカラオケハウスのバイトに行く日だっけ」 F)「ちょっと本屋によって帰らなくちゃならないの。あはははは……」 G)「じ…実はちょっと行くところが……あはははは……」


続く