�]．睡眠

｢や……やっと…着いた……ふぇ〜〜〜｣
松永先生の部屋から従業員室まで大急ぎで――それでも普通に歩くのより遅かったけど――逃げてくると、
あたしは長い息を突きながら崩れ落ちるようにソファーに腰を下ろした。
大きなお尻が、古くてちょっと固くなったソファーに落っこちるとギシって嫌な音を立てたけど、別に体重
なんか気にしてないので無視。
でも……階段って登るより降りるほうが疲れるって今日初めて気付いたな……ほんと……
登る時とは体重のかけ方が違うせいか、誰も支えてくれない身体を手摺にひしっと抱きつかせて、まるで足場
を確かめるように一歩一歩震える足で降りるなんて経験、滅多にするもんじゃないし。
｢さてと……｣
そういえば従業員室ってあんまり入った事がないのよね。
それほど狭くは無い部屋なんだけど、あたしが座っている来客用のソファーにテーブル、帳面が並んでいる事務机
にビールやジュースが冷やされている冷蔵庫、テレビに内線電話等など――いろんな物があまり考えられずに配置
されているので実際よりも狭く感じてしまう。
隆幸さんからは｢疲れたらここで休憩してもいい｣って言われてるんだけど……休み暇も無いぐらいにエッチさせられ
てたって言うのが現状です。
｢はぁ……あたしってこの旅館に来てからエッチばっかりしてるような……何か呪われてるのかなぁ……｣
二度も三度も女になるのは、ある意味呪われてると言ってもいいような気がするけど………これは人災よね。
｢はぁぁぁ〜〜……｣
あたしはたっぷりとため息をつくと、メイド服の隠しポケットから松永先生から貰った薬瓶を取り出した。
松永先生がくれた薬は二種類あって、手のひらサイズの透明な瓶の中にはそれぞれ十錠ほど入っている。一つは
白いどこにでもありそうな錠剤で、もう一つはプニプニッと柔らかそうな橙色のカプセル。
あたしは歩くたびに微妙に傾く身体に鞭打って従業員室に備え付けてある小型の冷蔵庫からミネラルウォーター
を一本貰ってソファーに戻り、そこである事に気が付いた。
……何錠飲むんだっけ？
確か部屋を出る時に松永先生がなんか言ってたような気がするんだけど……慌ててたしなぁ……
はっきり言ってあたしは薬を飲むのには、かなり慎重な方である。なにしろ佐藤先輩や千里に実験と称して訳の
わからない薬を飲まされ続けてきただけに……苦手なのよねぇ……またおチ○チンが生えたりしないでしょうね？
でも、これを飲んで体力を回復させないと仕事にも戻れないし……どうしよう？


１番　松永先生に聞きに戻る――いま戻ると、こちらの体力が無いのをいい事に絶対にエッチな事されちゃうし、
　　　何より戻るだけの体力が残ってないので却下。
２番　薬を飲むのが恐いから飲まない――そうすると隆幸さんやあゆみさんにまたまた迷惑をかけちゃうし……
　　　やっぱりダメ。
３番　とりあえず薬を飲んでみる――まぁ松永先生だってお医者さんなんだし、エッチな所以外はいたってまとも
　　　なんだから、いきなり変な症状が出るような薬を渡す事はないと思う。それにこっちの白い錠剤は昨日遼子
　　　さんに渡していたのと同じ物のように見えるし……………よし。


あたしは覚悟を決めると、二種類の薬瓶の中から二錠ずつ取り出して、目をつぶって口の中に放りこみ、一気に水で
喉の奥へと流し込む。
｢んグ…んグ…ぷはぁ｣
普通の風邪薬とかビタミン剤は二錠ぐらい飲むんだから、それでいいよね。
慎重という割にはかなりアバウトに思える理由はさておいて、あとは地獄の夕食前も準備までゆっくりと眠るだけ。
従業員室の扉にも鍵がついてるから、眠ってる間に誰かが入ってきて変な事されちゃうなんて事もないし、三人掛けの
ソファには何故か傍に枕と毛布まで完備してある。
……あたしの部屋より安心して眠れそう。
｢ふぁ…はああぁぁぁぁ〜〜〜………ん…むにゅ……｣
これから眠ろうと思った途端、あたしは人には見せられないぐらいに大きく口をあけてあくびをした。
なんだかすっごく眠たいな……薬のせいかな………？
目の端に溢れた涙を指で拭いながら考えると、昨日の夜なんてほとんど眠ってないし、さっきの裏庭でだって気絶
しても無理やりアレで起こしちゃうんだもん……真一さんの…アレで………
｢な…何考えてるのよ！？もう…さっさと寝よ｣
ちょっと思い出しただけで変な気分になっちゃうなんて……難儀な身体よね、あたしって。
頭を振って真一さんや遙くんにされちゃう淫ら〜〜でエッチ〜〜な想像を打ち消すと、眠りやすいようにメイド服の
一部を脱いでいく。
白いエプロン、お腹を締めつけるコルセット、つま先から太股まで覆うロングソックス、そして首周りのブローチと
ネクタイ、ヘアバンドを外して、ブラウスのボタンも二個ほど外す。
うん、楽になった。これでゆっくりと眠れそう♪
あたしは外したものをテーブルの上にまとめて置くと、部屋の扉を確認する。
鍵は掛かってる。空調も効いてる。寝床もＯＫ♪それじゃあ、おやすみなさ〜…い………くぅ〜……
靴を脱いでソファーの上に横になると、毛布をかぶって目を閉じる。それだけで疲れきっていた身体と意識は、三秒も
たたずに暗い闇の底へと真っ逆さまに落っこちていった………



くぅ……むにゃむにゃ……すぴすぴ……ふにゅぅん………（熟睡中）
……うぅん……やだ、明日香……まって……んん……（熟睡中）
そんなのひどいよ……明日香はそんなにそっちがいいの……（熟睡中）
あたしだって……おっきいのが好きなのに……（熟睡中）
……まって…それだけはダメ！それはあたしの肉まんなの！！（熟睡中）
ん……くふふふ……ありがと…明日香ぁ……んにゅう……むにゃ……（熟睡中）
くぅ〜〜………（熟睡中）