第三話


 どくんっ
 身体の内外から湧き上がる熱を意識した途端、心臓が跳ねた。粘液を口の中に吐き出され、それを飲み込んでしまった喉奥から胃の腑に掛けてがじんわりと熱を帯び、体中に広がって行くそれが皮膚表面から染み込んで来る熱と混ざり合い、薄皮一枚下が熱くなる感覚。
 その熱は頭にまで回り、脳を溶かすようにして意思を、思考を奪う。内臓から肺に回った熱は口から熱い吐息となり呼吸を乱す。肌を表から裏から炙る熱は彼女を身じろがせ、縄を軋ませる。

「ふぅっんっ」
 緩慢に揺れるだけだった身体が撥ねる。手足に巻き付いていた触手が再び蠕動を始めたのだ。熱を帯びた皮膚はそれだけで先程とは比べ物にならない刺激を生み出す。ぞわりと鳥肌が立ち、その鳥肌一つ一つを撫でられるような濃密な刺激。普段ではありえないほどの高密度の情報を一斉に送り付けられ処理が追いつかなくなった脳が意識を手放しかける。
「ふあぁああっ」
 へたり込んでいた身体を思わず伸び上がらせたところで更に触手が巻き付き、膝立ちで腰を突き出したポーズで固定する。手足を縄で緩く柱に繋がれ、腰を締め上げる触手に身体を持ち上げられ、反らした上体を脊柱に付けて支える変形のブリッジ。
 そして身体を支える役目の無い触手達が再び這い寄る。膝まで降ろしたショートパンツ一杯の幅まで開かれた脚の間を触手が撫で回す。さらに開かれたパーカーの中に潜り、突き出された腰の裏から背筋、袖口から忍び込んだ触手が脇をくすぐり、着乱れて露になった肩から鎖骨に掛けての部分にも外から触手が殺到する。
 粘液の分泌が増えたのか以前よりさらに艶を増した体表を擦り付けられて、レイチェルの肌がぬめり、篝火に照らされて妖しく輝く。
「やあぁっ……やだぁ、擦るの……あぁっ……やあぁ」
 熱に浮かされたような声による言葉だけの拒絶には耳を貸さず、触手達ははその身を擦り付け続ける。そのうちの一本、内股に円を描くように先端を擦り付けていた触手が徐々にその円を狭め、回転を早めて行き、そのままどぷりと粘液を吐き出した。先ほど喉奥に直に放った物ほどではないにしろ、薄っすらと白く色づき粘りも増した粘液が比較的敏感な部位をねっとりと流れ落ちる感触。内股の触手はそれに飽き足らず、自ら放った白濁を塗り広げ始める。再びゆったりとした円を描き。内股全体に塗り付ける。それにしたがい、乳白色にぬめ光る内股が熱を帯びてきた。
「うぅ……だめぇ……そんなの塗っちゃ……あっ」
 内股の触手に続き、身体の各部に擦り付けられていた触手達も呼応するように乳白液を掛けて、それを塗り広げていく。特に触手の殺到する両胸は四方八方から突付き回していた者達が一斉に発射した事で大量の粘液が降り注ぎ、ユニオンジャックは塗りつぶされ、南十字星は輝きを失うほどだった。小麦色の素肌はもとより、濃紺の水着にも塗りたくられ、ぐっしょりと染み込んでいく。濡れた生地は濃紺からさらに濃い色へと変わり、その下の太陽に晒されていない部分にも染み渡っていった。
 
 拘束した触手に脱力した身体を委ね、荒い息を吐くレイチェル。腰を巻かれた触手に支えられている以外は四肢も首もだらりと垂れ下がっている。
 彼女が息を継ぐ度になだらかな腹部から胸に掛けてが上下する様が篝火の中に照らし出され、全身に塗り込められた粘液がてらてらと反射し、より一層レイチェルの日本人にはないダイナミックなボディラインの陰影を強調する。
 光と影に彩られた中で熱い吐息を漏らしてくねる豊満な肢体。多くの男に劣情を催させるだろうそれが今夜名も知られぬ神に捧げられようとしている。

「んんっ……あっ」
 身体を内外から苛む熱にうなされて脱力していた四肢が持ち上げられる。やや細めの触手が手足首に伸び、意外なほどの器用さで彼女を脊柱に縛り付けていた縄を解くと、支えを失った手足が力なく投げ出された。
 腰に巻き付いた触手もゆっくりとレイチェルの身体を地面に下ろし、波の浸食か人の手による物か、素肌が触れても傷つく事はない平らに成らされた岩場に横たえた。火照った身体を冷たい岩が心地よく冷やす、が、身体の熱は未だに燻り、胸の内も高鳴り続けている。

 投げ出された足首に触手が触れる。反射的に引かれようとしたそれを難なく捕まえると、ストラップを外してサンダルを脱がす。足元に気を取られているうちに他の触手が膝にまとわり付いたショートパンツを引く。思わず伸ばした手の緩慢を動きをあざ笑うかのように引き下ろし、他の触手が手首を絡め取り。身体を引き起こす。
「あっ……な、何っ?」
 触手達の巧みな連携の前に熱に浮かされたレイチェルはなす術なく翻弄され、着衣を剥ぎ取られていく。捕らえられた手が後に回され、肩から半ば脱げかけたパーカーが滑り落ちる。
「あぁ……」
 裸足で岩の地面に触れる感触。そして前をはだけて着乱れていたとはいえ、パーカーを失い、肌が空気に触れる感触がレイチェルの不安をさらに掻き立てる。思わず自らを抱き締めるように身を隠そうとした彼女に再び触手が絡みつき、手足を引き伸ばす。
「きゃあぁっ!いやぁっ、放してぇ……やめてっ」
 手首を絡め取った触手が両手を差し上げ、そのままレイチェルの身体を引っ張り上げる。石柱にもたれる様に引き上げられた身体は両手を挙げた姿勢で立ち上がり、そのまま柱に貼り付けられる形で止まった。

 X字に手足を展ばした姿勢で石柱に磔にされた美女。その青い瞳は恐怖と不安に揺れ、そして今まで散々に受けた愛撫のせいで情欲に潤んでいる。手足を広げた姿勢で強調された起伏に富むボディラインがビキニのみの姿になった今は余すことなく見て取れる。その伸びやかな肢体が羞恥か情欲か、内側から湧き出している何かに突き動かされるようにうねる。
 遠い異国で祖国への愛着を僅かな洒落っ気と共に表現しようと選んだ国旗柄のビキニも今や生贄の産地を示すラベルでしかない。










 つ……と磔のレイチェルの前に差し出された一本の触手。それが目の前から真っ直ぐに、ゆっくりと下っていく。喉元から胸の谷間を過ぎ、鳩尾、臍と下る度にその場所をぞくりと震えが走る。そして下腹部から陰部を指されたとき、彼女の内側にある何かがどくんと跳ねる。心臓ではない何か、もっと下にある何か。そこに感じた揺れは全身に伝わり、彼女の無意識の期待を高めていく。
 そう遠からず自分は犯される。もしかして自分はその予感へ期待のようなものを抱いているのか、その考えを被りを振って打ち払う。そんなはずは無い、自分がこんな異形に望んで身体を差し出すなど……。
「ひゃぁうっ!!」
 時間にして僅かな、付き付けられた触手の先端を見つめる間の内省は自らの嬌声によって破られた。
 腕を吊り上げられて上向いた右胸の先端――ユニオンジャックの中心を僅かにずれた位置を軽く払われた、ただそれだけで昂ぶった身体は過敏な反応を示してしまう。さらに身動ぎの余韻に震える左胸の先端、南十字星の五つ目のイプシロン星のあたりを正確に弾く。再び嬌声を上げて全身をわななかせるレイチェル、膝が震え石柱に貼り付けられていなければとても立っていられない。
 すっかり感度の増した反応を確認すると、触手達は一斉に進行を再開する。
「ふあぁっ!」
 両胸に幾重にも触手が巻きつき、柔らかな双丘を揉み潰すと絡む触手の隙間から張り詰めた肉が溢れ出す。むにゅむにゅと触られるままに形を変えていくその姿が男達の目を奪う。
 激しく揉みしだかれた胸から水着がずれ、豊満なバスト相応の大き目の乳暈がほの見える。色素の薄い彼女らしく薄桃色をしたそれに釘付けになった幾本もの視線が突き刺さる。
「あっ!」
「おい、今……っ」
「はふぅんっ」
 水着がずれた所から直に触られ、思わず鼻に掛かった甘い吐息を漏らしてしまう。慌てて口を噤むも左右の頂に触手が殺到し、水着越しでも構わず肌が薄く染まる境目をなぞられ、息づくつぼみを押し潰される。特に胸の先端を二本三本と群がらった触手に挟まれて擦られるとビリビリとした刺激が走り抜ける。
「ふああぁっ」
 上下に巻き付いた触手にくびり出され、更に貼りを増した胸肉を弾くように揺らされると、先端以外でも心地よい痺れが走り、磔にされた女体から愉悦の声を絞り出すのに充分な刺激を与えられる。今や両胸は上下に震わされ、左右に揺らされ、頂を突き回され、間断なく嬲られていた。
「ああぁっ……あああぁんっ……ふああぁあんっ」
 ガクガクと震える膝はとっくに体重を支える役目を放棄し、今や両手と胸の上下に巻き付いた触手が吊るすことで彼女に立った姿勢を取らせている。
「ひっ!」
 その膝を撫で上げると脚がびくりと震え、身体を支えて立ち上がろうと試みるも、ガクガクと痙攣するばかりでとても体重を支えきれず崩れてしまう。力なく震える脚を這い登り、螺旋状に脚を締め付けてやると脚全体が強張り、引き締まった足首から形のいいふくらはぎ、そして膝を経て適度に脂の乗った太腿と部位によって異なる心地よい感触を返して来る。締め上げるに留まらず、巻き付けた触手を伸縮させて肌を擦るとぞくぞくと震えが走る。さらにアクセントに裸足の足に触れてやると堪らずに両足をばたつかせようとしてしまうが、しっかりと巻き付いた触手がそれを許さない。

「はふぅっ……はぁっ……ああぁ……」
 幾度となく全身を撫で回され、息も絶え絶えになるレイチェル、吊るされた状態のまま項垂れた滲む視界の先に動く何かを捕らえた。激しく乱れた呼吸によりひくひくと上下するなだらかな腹部に触手が伸びて行く。形の良い臍を軽くなぞるとそのまま撫で下ろし、ボトムに触れる。逃れようとした腰を引けば、背後から尻を撫で上げられ、思わず触手に自分から下腹部を押し当ててしまう。
「んんぅっ……」
 下端から上へ、陰部を水着越しに撫で上げられる。それだけで声が漏れ、身体がくねってしまう。粘液をたっぷり塗りつけられて湿ったボトムは肌に密着し、撫で付けられて複雑な陰影を露にしてしまう。ぐにぐにと揉み込まれた恥丘が薄布を盛り上げ、引きつれた布地が陰裂に食い込んでくっきりとその姿を現す。
「ああぁっ……そん、なとこっ……」
 レイチェルの切なげな懇願に耳を傾けることなく、更に貪欲に辱めようと触手がボトムの裾に触れ
「あぁ……あっ、だめっ……やあぁっ」
 身体をを引いて逃れようとする抵抗も虚しく、引いた腰が柱に触れたところで追い詰められ、ボトムへの進入を許してしまう。密着した水着と肌の間に滑り込んだ触手が這い回るたびに隙間が開き、艶やかな頭髪同様のブロンドがちらちらと覗く。柔らかな恥毛から恥丘、陰裂に到るまでを撫でられ、思わず細腰がくねる。
「あ……こっちも金なんだ……」
「ひゃあっ!」
 前のみに飽き足らず、後からも触手が入り込む。尻肉を押し込んで水着の後ろ側に潜り込んだ触手に引っ張られ、めくれ上がった水着が食い込んでいく。引き締まったヒップがほとんどむき出しになり、ビキニに覆われ日に焼けなかった白い尻肉との境界が晒される。
「やだっ、引っ張らないで……ああっ!」
 前後に潜り込んだ触手がうねり、窮屈になったボトムが陰部からずれて行く。両の腰骨の上で結ばれていた紐も今やその下まで下がり、結び目も解け掛けている。
「はぁっ……はぁあんっ……んんっ……んんぅっ」
 水着がずり落ちる事になど構う事無く触手は陰部を責め続ける。前から陰裂が撫で下ろされ、後から尻の間が撫で上げられる。二本が激しく蠢く度、水着の下端から開かされた内股へと粘液が滴り落ちてゆく。
「ほぉ……よく濡れる娘だ、これならアレも受け入れられるだろう」
「じゃあ、今垂れてるのって……」
「ほほ、粘りが違うであろう?」
 刺激に屈し、じゅく、と陰蜜を滴らせてしまうレイチェル。一度滲んだそれは意識しまいとするほどに染み出し、とうに吸湿性の限界を超えた布地では吸い切れず、陰部のみならず内股までを濡らしてしまう。
「あ……あぁ……あはぁっ!!」
 目を閉じ、どうか気付かれない事を祈る彼女の目が見開かれ、身体が仰け反る。
 胸元に潜り込んだ触手が直に乳首を捉えたのだ、薄布越しのどこかもどかしい刺激とは異なる鮮烈なそれに慣れかけていた感覚が上書きされ、再び両の胸を快楽に貫かれる。さらに
「はぁっ……はひぃっ!」
 鮮烈過ぎる刺激から逃れようと無意識によじった身体、その動きを読み切っていたのか、逆に動いた触手に自ら突っ込むように胸の頂を擦り付けてしまう。予想外の刺激が胸から身体の奥底まで響きわたり、体内で反響し、そして
「あふぁっ、あぁっああぁ――っ!!」
 一際強く身体を震わせると、そのまま崩れ落ちた。


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