第四話


 ずるずると柱を滑り落ち、膝立ちの姿勢で止まる。とは言え、今の彼女には膝で立つ力もなく、全身に絡みついた触手とのバランスでそうなったに過ぎない。
 あくまで獲物の肉体に過度の付加を与えないように、落ちるに任せて腕の拘束を緩め、直立から膝立ちへの変化に合わせ、吊るす高さを調節する。
 こうしてレイチェルは膝を付き、両手を差し上げて石柱に縛り付けられている。

「イった……?」
「あぁ、今ビクビクって……」
「ふうむ、胸でいきよったか……どうなんだ?この娘は、どのくらい男を知っているのだ?」
「さあ、さすがにそういった事までは……」
 年かさの男の問いに苦笑交じりに答える教授。
「やっぱ自分であのデカいのを揉みまくってるのか?それとも男にしてもらってんのか?」
 漁村の者らしき男が誰とは無しに問いかける。

「やだぁっ……お願いっそれはやめてっ」
 無遠慮な質問を切り裂く悲鳴。一同が思わずそちらを注視するとレイチェルの豊かな胸を覆い隠すビキニトップがくいくいと引かれているのが見て取れる。背面の上下二ヶ所の結び目のうち、下側――両胸を覆う三角形の底辺から背中へと伸びる紐を触手が捕らえていた。このまま引っ張れば紐は解け、胸を隠す事はできなくなる。懇願虚しく結び目を解かれ、下から持ち上げる支えを失った両胸が圧迫を解かれて本来のナチュラルなラインを取り戻す。

「あぁ……」

 窮屈なビキニから開放され、残った上側の結び目から垂れ下がるだけの布一枚下で重たげに弾んだ柔肉に男達の視線が突き刺さり、篝火以上にレイチェルの肌を焦がす。
 固唾を呑む観衆を前に既に更なる触手が三角形の頂点から伸び、首の後ろで結ばれたもう一対の紐を捕らえていた。

「んん……くぅっ……」
 抵抗して身を捩れば上の結び目が解けるのを待たずして乳房が露になる。そのため身じろぎすらできず、柱に磔られた身体を強張らせる。期待に満ちた視線から逃れようと目を硬く閉じて顔を背けるレイチェル。硬く張り詰めた首から背筋をくすぐる様に触手が蠢き、そして――

 べちゃり、 と重く湿った音がした。

 男達の視線の先で、海水と、汗と、そして粘液をたっぷりと吸い込んだ濃紺のブラが岩場に叩き付けられた音。それを皮切りに静寂が打ち破られる。
「うぉおっ!」
「やっぱでけぇ!」
「立ってるよ乳首っ!」
 男達は興奮の面持ちで口々に生贄の美しさを褒め称える。その胸の大きさ、形のよさ、肌の白さ、目の前で揺れる柔らかさ、そして先端で震える蕾さえ遠慮なく観賞し、賛美する。

「嫌ぁ……こんな、こんなのって……うぅっ……」
 羞恥と快楽で赤く染まった頬を涙が伝う。だが、この洞窟にその涙を見て彼女を憐れむ者は一人もいない。

「さぁ次だ」
「は、早く……」
「もう一枚だ」
「どうした、もう一丁、ほれっ」

 今の彼女が身に着けている唯一のもの、秘部を覆い隠す最後の一枚、ビキニボトムへ触手が伸びる。

「やっ……やぁっ……」
 涙声で鼻を鳴らして魔手から逃れようともがくたびに、露になった両の乳房が揺れ、細腰がくねり、男達の欲望を煽る。後ろに引いた尻がすぐに石柱に当たり、柱に尻を擦り付けながらの逃亡も虚しく、ついに触手はボトム両脇の結び目を捕らえた。
 膝立ちの足をピンと伸ばし、吊られた上体を反らしたその姿勢が今の彼女に許された精一杯の逃避。だがそれを嘲笑うかのように追い詰めた触手は至極あっさりと彼女を追い詰めてしまった。

「あ……あぁ……」

 喉が引きつり、許しを請うことも叶わず青い瞳を潤ませる。
 弄ぶ様に本来の位置である腰骨より高く引き上げられた結び紐がクイクイとリズミカルに引かれる。左右同時に、交互に、前後に、左右に。

「あと一枚」
「あと一枚」
「あと一枚」
「あと一枚」
 その場にいる男達全ての願い。それを彼らはリズミカルに囃し立てるでなく、重く呪詛の様に繰り返す。その唄に合わせるようにゆっくりと、だが確実に結び目を緩めていく。
「グスッ……い、や……」
 涙ながらに懇願しても、唄は、触手は止まらない。俯いた彼女の滲んだ視界の中で白い紐が伸び……

「おおおおおおおぉ」

 触手の引く力に抗し切れず片側の紐が解け、そして――

「おおおおおおぉ――――ッ」

 じっとりと湿った布地の重さに緩んだ紐は耐え切れず――

 べちゃりと、トップ以上の水音を響かせてボトムが地に落ちた。

 重いどよめきが洞窟を震わせる中、遂に名も知られぬ邪な神に捧げられた生贄は一糸まとわぬその姿を露にした。


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