第十五話


「は〜い、ここでストップ」 「はぁっ……ン」  どれくらい散歩を続けたのだろうか。もはや時間の感覚すら失うほど悦楽にまみれた少 女は、それでも快楽を与えてくれる男の命令には素直に従い、その歩みを止める。 「よっしゃ。ほな、ちょっと顔上げてみよか」 (顔……?)  お尻の穴から優しく甘い刺激を受け取りながら投げかけられた言葉に、真由の身体は頭 が理解するより前に行動を始める。そして意味も分からぬまま散歩の間下げられていた頭 を上げると、そこには予想していなかった光景が広がっていた。 「あ……」 「どうや、真由ちゃん。感動のご対面って感じかな」  視線を上げた真由の目に映ったもの。それは半開きの口からヨダレをこぼし、快楽に濡 れた虚ろな瞳でこちらを見つめている少女――葉月 真由自身であった。 「あっ、ン……どうして……くぅん!」  相変わらず陽の指により、真由はアナルからイかない程度の刺激を感じ続けているが、 まるで快楽に喘いでいる自分自身の姿に魅入られてしまったかのように視線をそらす事無 く、はしたない表情で啼き続けている少女の姿を観察する。 (これって……鏡?)  目の前にいるもう一人の自分。それは真由が気づいたように、鏡に映し出された鏡像で あった。  何度も右折左折を繰り返した為真由には分からなかったが、陽の目指していた場所は先 ほどまで彼女が着替えていた場所、三面が鏡張りの更衣室の前であった。真由が着替え終 わった後カーテンを閉じずに出てきた為、今こうしてその前で四つん這いになっている彼 女の姿は、しっかりと鏡に映し出されてしまっていた。 (ン……私、こんないやらしい顔してたの?ダメェ……こんなの見てたら、またお尻の穴 が……)  もちろん真由はAVなどを見た事は無いため、知識として今自分が浮かべている表情が いやらしいかどうかは分からない。だがそれは、無垢な彼女ですら本能的に淫猥な雰囲気 を感じ取るほどに蕩けきったものであった。  そしてそんな自分の姿を見るほどに、弱々しく責められ続けている肛門が熱を帯びてい くのが自分でも分かってしまう。そして完全に羞恥心と快感がリンクしてしまっている真 由は、決して目をそらそうとはしない。それどころか、より強い刺激を求める為に腰を左 右に揺らし始め、そしてその浅ましい自分の姿を見る事でさらに羞恥を感じてしまうとい う恥辱の循環に陥ってしまっていた。 「なぁ、真由ちゃん。今の君、スゴイいやらしい顔してるやろ」 「あふぅ……そ、それは……」  自分と顔を並べるようにしながらも、視線は鏡の中の少女に向けながら陽が投げかけた 言葉に、真由は口ごもるものの反論はできず、ただ正面にいる陽の瞳を見つめてしまう。  この時の彼女の表情は、陽の方を見ていた為自分では気づかなかったであろうが、何か を求めるような、あたかも『待て』をかけられたイヌのような雰囲気を漂わせており、そ れは単に快楽に溺れていただけの表情よりも、男を興奮させるものであった。 「えぇ加減認めてもえぇんとちゃう?自分はお尻の穴を弄られて感じてイきたいと思って しまう、エッチな女の子ですって」 「そんな……んぅ!私……」  もちろんその事に気づいている陽は、指の動きはそのままに言葉でも真由を責めていく。 対する真由は、言葉では否定的な事を言いながらも、前から視線を外さないその瞳には確 かに悦びの色が浮かんでおり、腰の動きも大きくなっている。この状況でより興奮し、そ れを快楽に昇華していっているのは、誰の目にも明らかである。  しかし直後、今まで絶え間なくアナルに与え続けられていた刺激に変化が生じた。  ぬちゅっ…… 「あくぅうん!はふぅ、ハァ、ハァ……え?」  肛門から指が一気に引き抜かれる。今までもこのような動きはあったが、今回は違う点 がある。抜かれた指が再び差し込まれないのだ。  恥ずかしい粘着音を響かせながら真由の直腸内から抜かれた指は、第一関節の半分程度 のみを入れたまま、完全に動きを止めてしまっていた。  菊門へのキスが終わった後、一瞬抜かれることはあっても、すぐにまた指が挿入されて いた真由のアナルは、この予想外の事態に喪失感を覚え入り口が激しくひくついてしまっ ている。思わず振り向いてしまった真由は、何とか快楽を得ようと必死に腰を振るが、陽 はその動きに合わせて指を動かし逃げる為その望みは叶えられない。  そんな真由に、今までとは違うどこか静かな声がかけられた。 「さて。そろそろ本気でどないするか決めよか」 「え……っ」  その声に再び鏡に向き直った真由は、そこに映る陽の表情に息を飲む。そこには相変わ らず笑っている陽の顔があったが、それはからかいを含んだものではなく、どこか温かく 感じさせるものであった。  もっともそれは、今の真由の精神状態からそう感じただけかもしれない。それでも彼女 は、責めが中断されているという事実にも関わらず静かに陽の瞳を見つめ続けた。 「真由ちゃん。君はイきたい?それともイきたくない?もしイきたいんやったら、はっき りと声に出して言うて。そしたら賭けは俺の勝ちになるけど、すぐにイかしたる。せやけ どイきたくなかったら、賭けは君の勝ちでえぇ。俺はおとなしく警察に捕まる。せやけど 賭けはここで終わる。君をイかしたりはせぇへん。ちなみにノーコメントはイきたくない と判断する。で、どうや。イきたい?イきたくない?」 「ぁ……」 (そんな……これで終わるだなんて……)  抑揚の少ない声で投げかけられた言葉に、真由の心の中のためらいが消えていく。  陽の言葉は、問いと言うよりもむしろ確認のような響きであった。いくら陽の行為に悦 び、はしたない姿を晒し続けていたとはいえ、まるで自分の心の中が分かっているとでも 言わんばかりの彼の表情と言葉は、真由に最後の一言を言わせなかった障壁を崩し、それ を言おうと口が動く。  だがそれより先に、そんな真由の決意を確かめるように陽が再び口を開く。 「後、最後に一言。どっちにせよ、ちゃんと責任持って答えや。君が勝った場合、俺は誰 にも写真は見せんで警察に捕まるけど、それでもニュースとかになるかもしれん。その場 合、女の子がどんな姿を晒したかは直接は見られへんまでも、知られはするしな。で、君 が負けた場合やけど、その時はさらに女の子がこういうイタズラされる可能性がでる。せ やから後で後悔せんよう、流されて答えるような事はせん方がえぇよ」 「っ!」  今までとは違う、笑顔ながらも真剣さを持っての言葉に真由は息を飲む。  賭けの存在はほとんど忘れられていたが、それでも勝った場合、自分にデメリットは無 いと思っていた。だが、確かに陽の言う通りだ。  こんな事で捕まった人間が出れば、ワイドショーなどで放映されるかもしれないし、さ らに低俗な雑誌に取り上げられるかもしれない。そうなれば、ここに来た事のある女の子 など、分かる人間にはすぐに分かってしまうだろう。  逆に自分が負ければ、もっと単純にこれから犠牲になる女の子が増える事を意味する。 どちらにせよ、それは彼女の言葉にかかっているのだ。  ついさっきまではイく事しか考えられなかったが、再び激しい悩みが生じてしまう。 (私、どうしたら……っ!)  自分にかかっている責任に、理性が蘇った頭で真由は迷うように視線をさまよわせる。 そしてその視線の先の一点で、自分が言うべき言葉を見つけてしまった。 「……イきたいです」  小さな、しかし確かに陽の耳にも届くはっきりとした声で、真由は陽に自分の敗北を告 げた。そんな真由の言葉を聞き、陽は答えが分かりながらも、自分が楽しむため、そして 真由を悦ばせるため質問を投げかける。 「なんでそっちを選んだん?」 「私がいやらしいからよ……」  正面を見つめながら、真由は今まで必死に否定してきていた自分がいやらしい事を静か に認めた。彼女は自分で自分を貶めるような内容の言葉を言う事への羞恥を感じさせなが らも、その瞳にはしっかりとした理性が浮かんでいた。 (そう。私はこんな状況で、イかされる事を望むようないやらしい娘……)  真由に敗北を認めさせたもの。それは鏡に映った自分の顔である。  鏡に映る彼女の顔は、陽の最終確認により確かに理性を宿しながらも、さらなる快楽、 そしてその先の絶頂を求めてしまっていた。まるで鏡に真実を映し出されたかのように感 じた真由は、今までの自分の痴態と合わせて、自分が淫乱であるという事を理性的に認め てしまったのだ。 「なるほど……で、いやらしい真由ちゃんは、初めての絶頂はどこでイきたい?」 「っ、お、お尻の穴でイかせて……」  だが、いくら自分がいやらしいと認めたからといって、羞恥心まで消せるものではない。 すでに先ほどまでの真剣さは消え、再びからかうような調子になった陽の言葉に、真由は 顔を羞恥に歪ませながらも鏡を見つつ、淫らなおねだりをしてしまう。  またそれと同時に、指が抜かれ入り口に当てられているだけの肛門が熱く疼いてくるの が分かる。それが自分が恥ずかしい言葉を言ったせいだと、鏡の中の自分の表情で分かっ てしまう真由は、より自分がいやらしい存在だと思い、そしてさらなる被虐を望んでいっ てしまう。 「ふ〜ん、オマ○コもひくついてんのに、お尻の穴がえぇんか。ひょっとして君、アナル っ娘ってやつ?」 「っ、知らないわよ、そんな事!でも、さっきからお尻の穴の方が熱くて……だから、だ から早くお尻の穴弄って!!」  焦らす様な口調に、思わず大声を上げてしまう。だが彼女は理性を無くしているわけで はない。しっかりと前を見て、はしたない言葉を叫ぶ自分の姿に興奮を覚えているのだ。 「お願い……もう、おかしくなりそうなの……」 「おっけ。ほな時間も残り少ないし、本気でイくで」 「っ、くひゃあぁああ!!」  一瞬時計に目をやった後、陽の指は一気に真由の肛門を貫き、そのまま前後に激しく動 かし始める。リミットまでは後数分といったところだが、今の真由の状態からすれば充分 な時間だと言えるだろう。 「はぅ……お尻、お尻もっとぉ!」  指の先を曲げて腸壁を引っかくような刺激に、真由は崩れ落ちるように肘をついてはし たなく叫ぶ。そんな訴えに応えるように、指はより激しさを増して彼女を初めての絶頂へ と追い上げていく。 「やぁっ、ン、何これ……?飛びそうな感じ……」 「それがイくって感覚。さ、思う存分イってえぇよ」 「イく……?あくぅ!私イくの……お尻の穴でイくのぉ!はあぁあああぁあん!!」  最後の瞬間、挿入する指を二本に増やされた真由はお尻を高く上げ、ひときわ大きな声 で叫び、そして全身の力を使い果たしかのようにゆっくりと床にへたり込む。  荒く息を吐き、トロンとした瞳を浮かべる少女に、陽は指をアナルに入れたまま、もう 片方の手で彼女の頭を撫でる。 「どうや、初めてイった感想は。気持ちよかった?」 「ハァ、ハァ……うん。お尻の穴、気持ちよかった……あふぅ」  夢見心地といった表情を浮かべながら、明らかに意識的に腰を揺すり快楽の余韻を味わ う真由。もはや賭けの勝敗など関係ないといったような彼女に、終わりを告げるかのよう にアラームが鳴り響き、絶対に勝つと誓った賭けはここに終了した。


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