第十話


(ん……肌に張り付くけど……もうちょっとで)  オシッコで股間やお尻にべっとりと張り付いてしまっているが、少しずつ確実にショー ツを脱いでいく。そしてヒザの辺りまで下ろすと、スカートの時と同じように脚を上げて 抜いていく。 (靴下を濡らさないように……)  尻餅をついた形でのお漏らしだった為、靴下は濡れていない。真由は靴下を濡らさない よう慎重に、かつできるだけ早く着替え終わるように脱いでいく。そしてショーツを脱ぎ 終わると、少し困ったようにソレを手に取った。 (コレ、どうしよう……いくらスカートもオシッコで濡れているっていっても、一緒にす るのは……)  今までに彼女が脱いだ物、いや、今まだ彼女が着ている物も含め、その衣服は全て汚れ てしまっている。もちろん後で全て洗うつもりだが、それでもオシッコで漏らしたショー ツが他の衣服に触れる事は避けたい。  そう思って、濡れていない部分を指で摘んだショーツを持て余しているが、このような 持ち方をしていればオシッコに濡れている部分が見えてしまう。できるだけ直視しないよ うに視線をずらしているが、やはり鏡に映ったショーツの一部分は見えてしまう。 (くっ……本当に悪趣味ね)  それに見えてしまうのはショーツだけではない。今、真由が下半身に着けているものと いえば、白い靴下だけなのだ。  真由自身、極端なまでの内股になって脚を閉じて性器を隠しているが、毛までは隠しき れない。慎ましやかな胸の大きさと同じく、真由の陰毛は薄い方ではあるが、オシッコで 濡れており、それが電灯の明かりを反射して光っている為、真由自身いやらしく感じてし まう。そのため腰をひねったり、脚を閉じたりして陰毛を隠そうとするが、そういった仕 草はそれだけで淫靡な雰囲気をかもし出す事に彼女は気づいていない。 「あぁ、そうそう。言うの忘れとったけど、籠ん中にタオルとビニール袋も入れてるから。 汗とか太股に付いたオシッコ拭いたり、お漏らしで濡れたパンツ入れたりしたらえぇよ」  相変わらずタイミングよく声をかけてくる陽に、真由は顔をしかめながらも反応しない。 ただ自分の行動が完全に把握されている事に対する羞恥と、結局陽の言う事を実施しなけ ればならない事への悔しさを表しながら、言われた通り籠の中を探してみる。  すると確かに言われた通り、籠の底の方にはタオルとビニール袋が二枚ずつ入っていた。 (……こんなの入れてるんだったら、最初から言いなさいよ!)  籠の中身を確かめようともしなかった自分の落ち度は棚に上げて、ただ陽への文句だけ が心に浮かぶ。そしてビニール袋の一枚にショーツを入れ、次いでタオルで股間を拭く。  白いタオルであったため、拭いた部分が黄色く染まってしまい、それを見ないようにし ながら、ショーツを入れた袋に入れる。オシッコを拭いたタオルをここに置いていくわけ にはいかないし、袋に入れず持ち歩くわけにもいかない。かといって、残り一枚の袋に入 れるのもためらわれる。その袋には脱いだブラを入れようかと思ったからだ。  結局このタオルは処分すると考えて、彼女はオシッコまみれのショーツと同じ袋に入れ る。そして直後、籠から取り出したショーツを身につける。  今まではいていた物とは違い、何の飾り気も無いシンプルな下着だが、オシッコで濡れ た物に比べれば格段にマシだ。久々に味わった濡れていない下着の感覚に、ホッと息をつ く。  次いで汗で濡れたブラを外す。  すると当然ながら、自分の慎ましやかな胸が目に入る。普段は何とも思わないが、陽に 胸の大きさでからかわれた直後だけに悔しさが巻き起こる。 (何よ、胸の大きさなんか……)  もう彼女くらいの年になれば、これからの成長に期待する事はできない。そんな事は、 もう何とも思わなくなったほどに分かっており、既に諦めていた事だ。しかし、このよう な場でからかわれ自分の目で見てしまうと、やはりコンプレックスに感じてしまう。 (っ、ダメ。今はそんな事を考えているときじゃない)  こうして何もせずにたたずんでいれば、いつまた陽から声をかけられるともしれない。 しかもその内容は、間違いなく彼女をからかうものだろう。 (とにかく早く着替えなきゃ。そしたら……)  そうすれば、警察に連絡する事もできる。撮られた写真が他人に見られるかもしれない が、ここから携帯で警察に通報すれば、他人に見せる方法といっても、せいぜい窓からば らまく程度だろう。もちろん、それでも耐え難い屈辱ではあるが、この通りに来る者の大 半が女性である事を考えればまだマシである。  そう判断した真由は、もう一枚のタオルで全身の汗を拭き、ショーツとおそろいのブラ を手早く身につけ、そのまま制服も身にまとう。そして脱いだ衣服を籠に入れると、羞恥 の更衣室から出て行く。 「お、ようやく着替え終わったんか。あ、カーテンは別に閉めんでもえぇで。それと、は いこれ。脱いだ服もって帰る用の袋」  更衣室から出てきた真由に、陽は「待ってました」とばかりに声をかける。そしてある 程度のサイズのバッグを投げて渡す。  顔をしかめながらもそれを受け取った真由は、陽に見えないように隠しながら籠の中の 服をバッグに入れる。 「ほんで?ホンマに警察に連絡するん?」 「当たり前でしょ!何、今更止めてくれなんて言うんじゃないでしょうね」  とぼけたような陽の言葉に、真由は怒声をもって答える。しかし陽はそれでも調子を変 える事無く、真由の予想していなかったセリフを吐いた。 「いやぁ、俺は別にかめへんねんけどな。ただ女の子らがかわいそうで。例えばそう…… 小枝子ちゃんとか」 「なっ!?小枝子は関係ないでしょ!」  いきなり話題に出た友人の名に、真由は動揺を隠しきれずに陽に叫びかかる。しかし陽 は、そんな真由の真剣な様子に対しても笑みを浮かべたまま口を開く。 「いやぁ、彼女が紹介した君が俺を訴えるんやったら、やっぱり彼女にも責任があるんと ちゃう?ほら、連帝責任いうやつ。そ・れ・に、ほら、よう言うやん。『死なばもろとも』 って」  そう言う陽の表情は、今までと同じからかって楽しむような笑顔で、口だけではなく目 も笑っている。しかしこれまでの彼の言動から、今言っている事が単なる脅しではなく、 真実なのだという事が真由にはよく分かった。 「……あなたって、本当に最低ね!!」  悔しそうに、そして本当の怒りを込めながら真由は陽を睨むが、彼は全く動じる事無く、 今までで一番の笑みを浮かべながらこう答えた。 「いやぁ、やっぱり君えぇわ。そんな当たり前の事、今更確認してくれんねんからなぁ」


第十一話へ