第十一話


(ふぅ……なんとかなりそうやな……)  唇を噛み締めながら俯く真由を見ながら、陽は心の中で息を吐く。  先ほどの言葉。あれはほとんどハッタリのようなものだ。いや、その前の写真を他人に 見せるという事すら、彼はやる気は無かった。単なる口止めと新たな客の呼び込みの為に そう言っているだけで、最初から他人に見せる気など無い。  それでも大概の少女はそう言われれば陽の言う事を聞くし、今回初めてのケースとなっ た真由のような娘も、他人の写真の事を出されればさすがに行動しづらい。  もっとも今回初めてその脅しに屈しない少女が客として現れた事は、予想外ではあった が楽しめる事でもあった。このような予想外の事態というのはそれだけでも楽しいし、こ ういった状況だからこそ楽しめる事もあるのだ。 「どないしたん、警察に連絡するんと違うん?」  自分のこれからの行動に悩んでいる真由に、陽は明るい声で問いかける。彼女はその問 いには答えず、ただ顔を上げて陽を睨みつけるだけだ。そんな彼女の様子に満足したよう な笑みで、陽はこの場にふさわしくない質問を投げかける。 「ところで君って、オナニーとかした事あるん?君くらいの年やったら、ありそうモンや けど」 「っ!?な、無いわよ!!」 「ほな男の子と付き合ったことは?」 「無いわよ!それが何なの!?」  いきなりの陽の問いに、真由はつい正直に答えてしまう。陽はその答えを予測していた のか、頷きながら彼女に一つの提案をする。 「なぁ。俺と賭けでもせぇへんか?」 「賭け……?」 「そ、賭け。それに君が勝ったら、俺は誰の写真も公開せんとおとなしゅう警察に捕まる。 で、俺が勝った場合は……そうやなぁ、君が俺の言う事を一つ聞くっていうのはどう?」  その提案は真由にとってマイナスではない。陽は"誰の写真も"と言っている。彼の言 葉を信じるなら、その賭けに勝てば友人である小枝子の写真だけではなく、自分の写真も 他人の目に晒さずにすむのだ。 「……どんな賭けなの?」  それが陽にとって有利な物であるとは分かりながら、彼女にはその賭けにのるしか方法 は無い。苦渋に満ちた表情で陽に問いかける。 「あぁ、そんなに難しいモンやないよ。君、オナニーした事も男の子と付き合った事も無 いんやったら、イった事なんか無いやろ。せやから俺が君の身体を触って、君が一定時間 以内……そうやな、十五分以内にイったら俺の勝ち、イかんかったら君の勝ち、っていう んでどう?」 「なっ!?何言ってるの!」  予想もしていなかった卑猥な賭けの内容に、真由は驚きを隠せない。性的な事に興味の 薄い真由も、さすがに「イく」という意味くらいは分かる。まともな賭けでは無いだろう とは予想していたが、さすがにこれほどまでに露骨な方法は考えてもいなかった。  この賭けにのったならば、自分はこの男に身体を触られる事になる。少女にとっては受 け入れがたい内容だ。 「別にいややったら、やらんでもえぇよ。俺みたいなんに身体触られるんはいややろうし。 あ、それともすぐにイってしまいそうで怖いん?」 「っ、イくわけないでしょ!」 「ふん、勝つ自信はあるわけか。まぁとりあえず、やるかどうかだけでも決めてくれへん? 早めに決めてくれな、次の客を待たせなあかんさかいな」  笑顔を崩さずに問いかける陽に、真由は沈黙を続ける。しかし、いつまでもこうやって いるわけにはいかない。その事が分かっている彼女は、静かに口を開いた。 「……十五分ね」  賭けにのる事を了承する問いかけをしてきた真由に、陽は満足そうに頷き返す。 「あぁ、十五分や。時間計るんは……俺の携帯でえぇやろ。これやったら、小細工なんか できんやろうしな。で、賭けは受けてくれんねんな」 「えぇ……でも約束はちゃんと守るんでしょうね」  屈辱的な賭けにのる事は了承したが、例え賭けに勝ったとしても、約束が守られるかは 分からない。その事を懸念しての問いかけに、陽は苦笑しながら答えた。 「それはお互い様やろ。俺が勝っても、君は通報するかもしれんしな。まぁ、その辺はお 互いに信用するしかないやろ」  確かにそう言われたらその通りだ。悔しそうに顔を歪ませながらも反論をしない真由を 見て、陽はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、どこかに電話をする。  どうやら受付にかけているようで、「十五分くらい待たせといて」などと言っている。 「さて、これで次の客はしばらく来んと。ほな、ちょっとルールの確認でもしとこか。ま ず、俺が十五分間君を触って君がイったら俺の勝ち、イかんかったら君の勝ち。これには 異存ないな?」 「一応ね」  本来なら異存しかないのだが、賭けの内容が分かって了承したのだ。不満そうな表情を 浮かべながらも、頷きで返す。 「よっしゃ、ほな細かいとこ決めとこか。十五分間俺は君を触るけど、抵抗はせんといて や。後、服とか脱がしたりすると思うけど、それもかめへんよな」 「……」  もちろん良くは無い。  こんな男に身体を触られるなど我慢できそうもないし、今まで男に見せた事のない部分 を見られる事になるのだ。  だが、それらの事も賭けの内容を聞いた時に予測できた。そのため彼女は、無言で肯定 の意を表した。 「えぇみたいやな。ほな、そこで四つん這いになってくれる?」 「っ、分かったわよ……」  いちいち反論していても始まらない。そう判断すると、真由はカーペットの敷かれた床 にヒザをつき、次いで手をつく。 (くぅ……絶対に負けないんだから!)  動物のように這いつくばる事に屈辱を感じつつも、真由は心の中で誓いを立てる。  それでも、今から与えられるであろう恥辱を思い、顔は羞恥に染まり、身体は少し震え てしまっている。  陽はそんな様子を観察しつつ、彼女の後ろにまわりしゃがみ込む。 「さて、始めよか。時計もちゃんとセットしたし。と、これはスタートさせたら、触れん ように遠くに置いとくで。大体の時間は、あそこに掛けてある時計で分かるしな。ほな、 心の準備はいい?」 「えぇ、いいわよ」  振り向かずに答えたため、陽からは彼女の表情は見えない。しかし声の調子から、彼女 の悔しさは伝わってくる。 「OK。もし俺が負けた場合は、強姦未遂罪もつけてくれてえぇよ。ほな……スタート!」


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