■第二話


一気に走って行きたいけど格好が格好。
嫁入り前の生娘がこんな姿を見られたら人生おしまいだ。
誰もいないのを確認しながら少しずつ進む。
校舎に入って二階まで上がった時、
カツ、カツ、カツ・・・
(足音!)
足音は上から聞こえてきた。一旦下の階に下がろうとするも
カツ、カツ、カツ・・・
(ウソ!挟み撃ち!?)
下からも足音が聞こえて来る。
廊下には誰も居ない! 猛ダッシュでその場を離れ、トイレに駆け込む。

トイレの中にも誰も居なかった。が、
(しまった。ここは・・・)
慌てていたせいで間違えて男子トイレに入ってしまった。
まあいいか。どうせ誰もいない。
さっきの足音をやり過ごしたらすぐに出よう。しかし
「先生、おはようございます」
「おお、おはよう。随分と早いね」
「野球部の朝練ですよ。そちらは?」
「今日の職員会議で――――」
トイレのすぐ外で雑談が始まってしまった。
「ああもう・・・」
イライラしながら待つ。
もし入ってきたら大変なので個室に隠れることにする。
「あ、良い物発見」
トイレットペーパーがあったから2ロール分体に巻きつけた。
これでも恥ずかしい格好な上に所詮は紙で頼りないが、裸よりはいくらかマシ。

巻いている内に話も終わったようなので、トイレから出て教室に向かう。
急いで階段を登り、教室の前まで辿り着く。
しかし、ドアを少し開いて隙間から中を覗くと人影が見えた。
「あれは・・・浅野さんか」
クラスでも大人しく目立たない女の子。
いつも一人で本を読んでいて友達と話しているところも見た事が無い。
今も人のいない教室で黙々と分厚い本を読んでいた。
「なにもこんな時間に登校しなくても・・・」
運の悪いことに浅野さんの席は私の真後ろ。
体操着袋は机の横にかかっていて、気付かれずに持ち出すなんて不可能だろう。
トイレにでも立つのを待とうか?
しかしもう7時を過ぎた。待っていては今度は誰が来るかわからない。
覚悟を決めて教室に入った。

浅野さんは突然入ってきた私に・・・というより私の格好に驚いているようだった。
「ゴメン! 理由は聞かないで! あとできればすぐ忘れて!」
そう言って机から体操着を持ってトイレに駆け込んだ。
あとは個室に入ってこれを着て・・・と思ったら浅野さんがついてきた。
「杉原さん、どうしたの?」
無表情な顔を薄っすらと心配そうに歪ませて浅野さんが尋ねる。
「えーと、大したことじゃないんだけど。とりあえずちょっと待っててくれる?」
苦笑いを浮かべて個室に入ろうとしたらドアを押さえられた。
「ダメ」
相変わらずの無表情で・・・今度はなんだか笑ってる気がするけど・・・言う。
「急いでるの。わかるでしょ? ほら、この格好じゃ」
「・・・・・・」
浅野さんは私の顔と手に持った体操着を見たあと、
私の体操着をひょいと奪って個室に入り、鍵を閉めた。
「あ! ちょっと!」
「ちゃんと話して。そうしたら返してあげる」
むむむ・・・ネクラのくせに〜。
しかしここで押し問答している暇は無い。
私は勝手にプールで泳いでいたことから着替えや水着を持っていかれた事を話した。
「わかった」
話し終わると浅野さんは扉を開き、
「えいっ」
窓から私の体操着を投げ捨てた。


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