■第三話


「・・・・え?」
窓から落ちていく袋を呆然と見送る私。
「あははっ、ヘンな顔!」
「ちょっと! なんてことするのよ!」
我に返って詰め寄ると、浅野さんは見たこともないような笑顔を浮かべていた。
「そんな格好で凄まれても怖くないよ」
そうだった。私は今裸に紙を巻いただけの・・・ってそれは関係ない。
「この〜、友達もいないクセに・・・」
「だってツマラナイんだもん」
「は?」
「学校に来ても毎日同じことの繰り返し、
 クラスの子はカラオケとかショッピングとかくだらないことばっかり。部活は上下関係が面倒。
 家も家族が鬱陶しいから早く学校に来るし、放課後も一人で出かけてるの。でもね・・・」
「・・・・・・」
「今は楽しいのよ! こんな刺激的なイベント初めて! ありがとうね!」
「フザけんなー!」
思わず大声で怒鳴る。ナゼに私が刺激的なイベントでこの子を楽しませなきゃならんのか!
大人しいコだと思ってたらとんだ性悪だよ!
「あんまり大声出すと人が来るよ」
「ぐっ・・・」
今誰かが来たらマズい。
制服は行方不明、水着は用務員室か落し物保管所、体操着はたった今窓の外へ。
外を見ると中庭の茂みに落ちていた。そろそろ部活の朝練で人が増えてきている。
あの位置なら上から覗きこまない限りは見つからないだろうけど・・・
「杉原さん、早く拾ってきた方がいいんじゃない? その格好で」
クスクス笑いながら浅野さんが言う。

「・・・・こせ」
「え?」
「その服を寄越せぇー!」
掴みかかって服を脱がせる。
とりあえずコレを着て体操着取って水着を返して貰って鞄を探そう。サイズも殆ど変わらないから大丈夫。
その間コイツは裸だけど自業自得。うん、余計なコトしたコイツが悪い。
「ちょ、やめて、誰かっ! むぐ」
人を呼ばれそうになったので体に巻いた紙を一掴みむしり取って口に詰め込む。
「さっさと脱ぎなさいよ!」
「むー! んぐぐ、ペッ!」
私は浅野さんの服を無理矢理に剥ぎ取る。
浅野さんは抵抗しながら私の体からトイレットペーパーをビリビリと破く。
トイレで取っ組み合いのキャットファイトを演じる私たち。
何をやってるんだか・・・
今誰か入ってきたらなんて言おう・・・
そんな事が頭を過って情けなくなってきた。

そして十数分後。
「はぁ、はぁ・・・」
「ふぅ、ふぅ・・・」
辺りにはビリビリに破けた紙と、同じくビリビリに破けた制服が散らばっていた。
ショーツやブラジャーまで破けていて、着られた物じゃない。
掴み合いになる内に全部破けてしまった。二人とも素っ裸。
「ヒドいなー、このブラお気に入りだったのに」
「うるさい。アンタが悪い。そんな事よりどうすんのよ!」
着るものは全部ボロ切れになって使えない。
さっきまで身に着けていた紙もバラバラ。
ついでにここのトイレにあった紙も取り合いになってバラバラ。予備も無い。
「はあ・・・とんだ災難」
「大変だねえ」
浅野さんがケラケラと笑いながら肩を叩いてきた。
「アンタだって裸でしょうが。なんで笑ってられるのよ」
「だってこんなにスリリングで面白いイベントなかなか無いし」
駄目だコイツ。頼りにならない。というかコイツがいなけれなこんな事には・・・
「早くしないとみんな登校してくるよ」
浅野さんはそう言いながら破けて散らばった紙や服を拾い集めていた。
「それどうするの? 着るの?」
「こんなのどうやって着るのよ。片付けておかないと、こんなの誰かに見られたら騒ぎになるわよ」
ああ、そうか。もっと冷静にならねば・・・
ボロ切れを片付けても私達が見つかったら意味が無い。なにかいい方法は無いものか?

「あ、そうだ」
すぐ隣に男子トイレがある。そこには紙もあるはず。
まずはそれを使って体操着を拾ってこよう。
「何? いいこと思いついた?」
浅野さんが顔を寄せる。ヤカマシイわ。アンタになんか教えるもんか。
「あー、イチかバチかで体操着取ってくるわ」
紙の事は端折って言う。
「ふーん。頑張ってね。制服も取ってこられたら体操着は私に貸してね」
「なんでアンタに・・・」
「破いちゃったんだから弁償代わりに。当然でしょ?」
「あーもう! 今は話してる暇は無いから後でね!」
話を打ち切って急いで隣のトイレに向かう。


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