Racing With The Moon/9


   



 『恋の奴隷』
 治療の為に脱げとの指示を向けてくる周兄さんに対し、何て答えて良いのか解らず、恐る恐る顔を上げると、
「脱げないなら僕が脱がせてあげようか? でも、脱げないなんて事はないよね。だって沙智菜は裸を見られるのが大好きな、厭らしい女の子なんだから」
 そんな揶揄するような言葉を浴びせ掛けられました。「酷い。どうしてそんな意地悪な事を言うの?」そう思うのに、私の身体はゾクリと打ち震えるんです。
「どうしたの? 見てあげるよ。沙智菜のエッチな所。見て欲しいんじゃなかったの?」
 そう重ねて脱ぐように言われる内、
―もしかして治療なんて単なる名目で、これって実は……エッチのお誘いなのかも?―
 私の中ではそんな淡い期待が湧いてきました。
「脱げば……いいんだよね?」
 言って私は白いワンピースの肩紐を解き、スルリと床に落とします。それだけでもう、下着を着けていない為、あっという間に全裸です。
「綺麗な身体だね。人に見せたくなる気持ちも解るよ」
 嘲笑うような冷笑と共に長い前髪を掻き上げる仕草が男の人なのに凄く色っぽくて、私の胸はドキドキと脈打ちました。私は周兄さんに酷く虐められたい。そんなイケナイ気分になっているのかもしれません。
 周兄さんは値踏みするように私の身体をじっくりと眺め見た後、
「ちょっと荒療治になるかもしれないけど……付いておいで」
 言って私の手を取り、廊下へと歩き出しました。
―何処に行くんだろう。二階の周兄さんのお部屋?―
 引かれていない方の手で股間を覆い隠しながら周兄さんに連れられるまま歩いていると、周兄さんの足は二階へと続く階段を過ぎ、玄関の方へと向かって行きます。
「ま、待って! 何処に行くのっ!?」
 玄関口に辿り着き、さすがに不安になってきた私がそう尋ねると、「並びの公園」そんな信じられない言葉を返してきました。
「い、いやぁっ! 冗談でしょ!? 私、裸なんだよ!?」
 公園は二件隣に位置しますので、とても遠いとは言えませんが、距離の問題では在りません。一糸纏わぬ姿で外に出る事に抵抗が在るのです。
「だから荒療治だと言っただろう? いいからおいで」
 言って周兄さんは強引に私の手を引き、外に出ようとしました。
「やだぁっ! 裸で外になんて出れな……いやぁーっ!!」
 叫んで身を引く私を無視し、周兄さんは掴んだ腕をグイグイ引っ張って私を外へと引き摺り出します。全身に力を入れて強張らせていても、男の人の力には適いません。……結局、私は靴さえ穿かせて貰えないまま、真っ裸で夜の歩道へと連れ出されてしまいました。
「信じ……られない。こんな……裸で外を歩いているだなんて……」
 日常から懸け離れた出来事に、「これは夢なんだ」と思う事で遣り過ごしてしまいたいと思うのですが、初夏の風が素肌を撫でて過ぎるので、否応無しに「これは現実の出来事なのだ」と思い知らされます。
「背を伸ばして、もっと真っ直ぐ歩いた方がいいんじゃないかな。歩みが遅いと余計、誰かに見られる確率が上がると思うよ」
 そう言われても、恥ずかしくて曲がってしまう背を真っ直ぐに伸ばすだなんて出来ません。唯々腕を引かれるまま、震える脚を一歩一歩と踏み出すだけです。
 公園には、すぐに着いてしまいました。いつ誰に知れるかしれない恐怖に怯える私に取っては長い時間でしたけど、実質の時間的には短かったように思います。
 木々が植わる公園はそれ程広くは在りませんが、砂場に滑り台、ブランコといった子供好きする要素は充分に備わっています。私も小さい頃は、よくここで遊びました。でも、今は来ません。大きくなったからという事も在るけど、変な噂を耳にするからです。
 周兄さんは私の手を引いたままベンチに腰掛け、
「もう自分で弄ってるの? エッチな子だね」
 股間を覆い隠している私の手を見て失笑しました。
「ち、違うよ! 隠してるだけなんだから!!」
 焦ってそう返すものの、周兄さんの指摘は当たらずとも遠からずといった所で、さっきから硬くコリコリとした感触と、ヌルヌルと生暖かい液体を手の平に感じます。……歩く度、手の平に擦れてしまうから。
 誰かに見られたら怖いって、本気でそう思うのに、痛いぐらいに疼いてくる身体に自分でも呆れてしまいます。そんな私の気持ちを見透かしたように周兄さんは薄く笑い、
「言い訳はいいよ。そのまま割れ目を開いて、沙智菜の厭らしいアソコを僕に見せてごらん」
 耳を疑いたくなるような指示を向けてきます。
「こ……ここじゃイヤだよ。帰ろう? こんなの……恥ずかし過ぎる……」
「……沙智菜。この公園はね、覗きが多い事で有名なんだよ。知ってた?」
 私の不安に拍車を掛ける周兄さんが、何を考えているのか解りません。唯、同じ地域内に住む私は当然、この公園が覗きスポットとして噂されている事を知っています。
「し、知ってる。だから帰ろうって言ってるの」
「何言ってるの? だからこそ、治療の場に相応しいんじゃないか。……ほら、上村と小林を誘う程に我慢出来なかったんだろう? 弄っていいんだよ。思い切り」
 言って周兄さんは股間を覆う私の手を退け、勃起が止まないクリ○リスをツンと突付いてきました。
「ひぁんっ! い、いやぁっ! ホントに恥ずかしいの!! こんな……近所なんだよ!? 知り合いに見られたりしたら私……どうしたらいいの!? お願いだからもう酷い事しないでっ!!」
 誰かに見られている感が募り、確かに私の身体は熱くなっていくのですが、「知り合いに見られたらどうなるんだろう」との恐怖が先立ち、ブルブルと全身が震えます。
「……そうだよ、沙智菜。露出癖ってモノは怖いモノなんだ。いつ誰に知られて、想像だにしない酷い脅迫を受けるかしれない。そんなリスクが付き纏うんだ。……だからね、僕は沙智菜に露出癖を改めて欲しいと思った。こんな事をしたのは、沙智菜を虐めたいって理由じゃなかったんだ」
 言いながら切なげに眉根を寄せる周兄さんに嘘の欠片も見当たらず、ホントに心底私を心配してくれていたんだって事が、ヒシヒシと伝わってきます。でも、私が求めているのは優しさじゃない。周兄さんの心と身体が欲しいんです。
「これに懲りたら、もう危ない事は止めなさい。いいね?」
 言って何も無かったみたいに席を立つ周兄さんのシャツを掴み、
「そんなの……そんなにホントに心配してくれるなら、周兄さんがいつも一緒にいてくれたらいいんじゃない。お医者さんなんだから、私がこんなに濡れてるのだって……止めてくれたらいい」
 私は切ない胸の内を打ち明けました。
 急な告白に驚いて振り返った周兄さんの視線を痛いぐらいに感じますが、返事を聞くのが怖くて顔を上げられません。
「……それって僕に、露出癖の管理をして貰いたいって事?」
「え……? ちょ、ちょっと違う気もするけど……そういう事になるの……かな」
―エッチな事だけじゃなくて、好きって気持ちも一緒に打ち明けたつもりだったんだけど……改めてもう一度言うなんて、恥ずかしくて出来ないよ……―
 そう思いながら火照る頬を更に俯かせていると、
「僕はいいけど……沙智菜、君は後悔しない?」
 言って周兄さんは私の顎をグイと上げさせました。その瞬間、獲物を狩るような目付きで薄く笑う周兄さんの表情が目に飛び込んで来、ゾクリと身体が震えて思わず咄嗟に顔を背けたのですが、すぐまた正面を向かされてしまいます。……怖くて顔を背けた訳じゃなく、支配される悦びといったイケナイ快感に襲われていた私はゴクリと息を飲み込み、
「こ……後悔なんてしないよ。周兄さんの言う事なら私……何だってきける」
 ゾクゾクと毛羽立つ身体を庇うように抱きながらそう答えました。
「……今よりもっと恥ずかしい目に遭わせちゃうかもしれないよ? 服を着ている時間の方が少なくなるかもしれないし、下着だって厭らしい物しか身に着けさせてあげないかもしれない。それでもいいの?」
 周兄さんがそんな性癖を持っているなんてラッキー……いえ、意外でしたが、私の気持ちは変わりません。ずっと大好きだった周兄さんになら、もう何をされても構わない。



   


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