格安の代償4


(やすこぉ…)
バスは発進した。美香の声が遠ざかっていく。恭子は座席に一人、後ろの槍杉から両手を引っ張られて胸を張って座るしかなかった。
「あ、あの…やっぱり美香と一緒に…」
「ここまで来てそれはないですよ。予想外のことが起きるからいいんですからぁ。」
「こっこんなことしていいと思ってるんですかっ!」
「…槍杉さんが担当になっちゃったんだぁ…」
いきなり車内に声が響いた。運転手がマイクでしゃべっている。
「運転手さんっ、あなたもやめるなら…」
「いやあ、槍杉さんに付かれちゃったらたいへんだねぇ。み、美香?恭子?」
「恭子っ。」
槍杉が声を飛ばす。二人ともに警告の声は届かない。
「槍杉さん趣味が偏ってるからねぇ。恭子は付いていけるかな?」
「偏ってるかね。」
「自分で言うかね。」
貞操の危機を感じていたのだが、どうもそうではないらしい。なんだ趣味の話か。いまから周る史跡についてなのだろう。談笑がそんな雰囲気だ。考えてみればどうかしている。他に誰もいるわけではなく、後ろから手を伸ばしてくる気配もない。ここに来てから会った数々の人みんなが、槍杉が市役所職員であることを証明してくれているではないか。
自分達だけがバカみたいに騒いでいたのだ。美香もいまごろ別の車に乗ってどっかを案内されているのだろう。恭子はちょっと恥ずかしくなった。
「あの…そんなにつまんないんですか?」
「…え?」
「槍杉さんがこれから案内してくれるとこって…」
「…あ…う…え…ん…ん…」
どうやら槍杉にも予想外の質問をしてしまったようだ。後ろで答えに詰まってるのがわかる。
「…んんー、まあ俺は気に入ってるんだ…けど…」
バカな問いかけだ。好きな人にそれが好きかと聞くなんて愚かなことだ。恭子は吹き出した。
「…あ、ネイルアート…」
「ああ、それ。」
「きれいだねぇ。これどこで?いくらくらいかかったの?」
「うちの近くにネイラーがいるの。趣味でやってるから安くしてくれるんだ…いくらだったかなぁ…」
普段の会話に戻って恭子も気を取り直した。なにげない話のなか、バスは山中に入っていく。そのうちまた高度が下がってだだっ広い駐車場に車は進む。なんとなく既視感のようなものを感じたが気のせいだと思った。
「さ、着いた。降りましょう。」
「はーい。手錠取ってほしいんですけどぉ。」
「いやまだこのまま。そんじゃあありがとね。」
「え?バス行っちゃうんですか?」
いつのまにか手錠には紐が付けられていた。恭子は槍杉に引っ張られてバスを降りた。手首が痛いので槍杉の手首につかまって一緒に歩いた。振り返るとバスは向こうに走り去っていった。
「ちょ、ちょっとっ」
槍杉はスタスタと足早に歩いた。しかし恭子はうろたえている理由はそれだけではない。山合いの見晴らしのきく相当広い駐車場に車が結構止まっているのだ。そして降りて車に寄っかかってるのもいるが、大抵は車の中にいた。そのなかを連れまわされる。みんながこちらを見ていた。まるで逮捕されているようなどぎまぎした気分だった。何人かが槍杉に向かって手を振る。恭子は自分がどうやら珍しいものではないらしいことを理解した。
「あの建物ってなんですか?」
さっきから気になっていたものを尋ねた。駐車場中央に透明というか青っぽい段組の建造物があったのだ。
「ああ、あれ?。アクア。ははっわからないやね。通称でアクア。レクリエーション施設というか集会場みたいなもんだ。久しく使ってなかったんだけど急遽お祭りをすることが決まってね。準備のためにみんなおおわらわさ。」
なるほど、言われれば周りがそう見える。アクアの手前には大画面スクリーンとかなり大きなスピーカーが置いてあった。きっとライブ会場だ。ステージはいまから設営するのだろう。
そして地面には、アスファルトではなく、またかなり大きな鉄の円が敷かれている。相当大きい。直径10Mぐらいの広さだろうか。縦の継ぎ目がまるで子供の頃にテレビで見た秘密基地を思わせた。もしかしたらこの円がせり上がり式のステージなのかもしれない。
「へえぇ。お祭りってどんなのなんですか?」
どんなアーティストが来るのかとわくわくしながら尋ねたが、それには答えず槍杉はコンクリートの建物に近づいていった。
(教えてくれても良さそうなもんだけど…)
その建物の向こうにもうひとつ同じようなものがあるらしい。そちらのほうはこちらと違って人ごみであふれかえっていた。大勢の男性の一部が、やってきた槍杉に気づいてつつきあい振り返った。槍杉が手を振るので思わず恭子も照れくさそうに会釈をした。
「まずはここ。」
やはりこの小さい建物か。槍杉は扉を開け、恭子を建物の中に連れ込んだ。入るときにドアの上に書いてあるプレートを恭子は見た。
それには”公衆用施設−A指向”と書いてあった。

扉を閉めると槍杉はすぐ、そばにあった金具に手錠の紐の先についていたリングを取り付けた。
すたすたと槍杉は部屋の奥に行って、大き目のホワイトボードを持ってきた。
「えーとっとぉ…」
「なに書いてるんですか?」
「恭子は体やわらかい?」
「え?ええ…体操部にいましたから…」
「それはよかった。」
書き終えて置くときに自分の写真がそのボードに貼ってあるのが見えた。
近づいてくる槍杉にびくっと身体が震えた。槍杉は恭子の手を取るとぐいっと上にあげた。かちりと音がした。
「あっ!」
金具がカーテンのようにレールの中にあったのだ。ストッパーが働いてもう下へ降ろせない。恭子は天井に両手を向けて軽い背伸びをしたままになった。
「なっなっ…」
槍杉が腰を触ってくるので逃げるしかなかった。かちっかちっと音がして恭子は部屋の中央へ近づいていった。
そして槍杉は離れた。ボードを手にして扉を開け外に出て行く。恭子は一人部屋に取り残された。


なんともおかしな部屋だ。タイル張りとベンチがあるのは美香が犯されてる部屋と変わりない。しかしここには”オブジェ”が二つあった。一つは美香のと同じく中央がへこんで、もう一つの台は盛り上がっている。もちろん何も知らない恭子はこれがなんであるかわからない。
そして扉が開いた。ぞろぞろと男が入ってくる。槍杉の顔はその中になかった。
「あ、こんにちは…」
「こんにちはぁ。」
皆が愛想よく返事した。何人かはベンチに座り何人かはそこに立った。雑談が次第に消えていき、皆が恭子をじっと見据えるようになった。すぐ両脇に男が立つことにより行き場がなくなる。恭子は男達に取り囲まれた。
恭子はたちまち不安になった。まさか、というずっと感じてた思いが途端に強くなった。
「…な…なに…を…するん…です…か?…」
「さあて…な・に・を…されるんだろうねぇ…」
「…ひっ…」
脱兎のごとく走って逃げようとした。しかし前方向にはレールがなく進めない。後ろにはなにかわからない障害物、横に逃げたら男が脇腹を触ってきた。
「…いっ!いやっ!…」
反対方向に逃げるとこちらの男が一歩前に進んでいた。
「…やあぁっ!」
恭子は二人の男に挟まれながらもがいた。身をよじって逃げようとするも何の苦もなく男達は鼻息荒く恭子の体を撫で回す。蹴り上げようと足をあげるも開いた内腿に手が伸びて、叫び声を上げながら降ろすしかなかった。
「いやああぁっ!」
手が胸に進んできたところで扉が開いた。槍杉だった。
「忘れ物忘れ物…」
「ああっ!槍杉さんっ!たすけてぇっ!」
片手を立ててごめんごめんと腰を低く槍杉が何かを取って出て行こうとする。
グルだ。槍杉を含めてみんなグルだったのだ。恭子は自分が罠に嵌められたのだとようやく確信するに至った。それでも助けを求めずにはいられなかった。知人といえるのはこの槍杉だけなのだ。
手が乳房を掴んだ。恭子は叫んだ。
「やめてぇっ!あたし…あたしまだなのぉっ!」
出て行こうとする槍杉の動きがぴたりと止まった。
「助けてくださいっ!あた…あたし…男の人まだなんですっ!」
「…え?…」
場が凍りついて一同が黙り込んだ。脇の男も手を離し後ずさった。部屋にはいつのまにか泣きじゃくっていた恭子の呼吸と鼓動だけになった。槍杉が立ち上がって言う。
「どういうことだ…」
「…えっ…ひっくっ…わたしまだそんなこと…したことないんです…」
「そんなことって…恭子おまえ…まだバージン…なのか?…」
答えることもできずに恭子はこくんと頷いた。
「…だから…許してください…お願い…」
顔をあげると場が異様な緊張感に包まれているのがわかった。周囲の目がぎらぎらと光っている。
「…ひ…ひっ…」
そして一人が立ち上がるのに合わせてベンチの皆が腰を上げた。
そのとき腰を引き気味だった恭子の全身がどくんと揺れた。
「ちょ…ちょっと待てっ…みんなちょっと待てっ!落ち着けっ!」
槍杉が振り向いて皆を制した。
「出ろっ!みんなひとまず外に出ろっ、おまえもだっ!出ろ出ろっ!」
皆が恭子を見つめたままで槍杉に押し出されていった。ドアをいったん閉めると槍杉が一人近づいてきた。
「…本当なんだな…」
まじめすぎるほどの表情で槍杉が問う。力なく頷いたが念を押すように声に出した。
「…はい…本当です…」
「はあーあ、参ったな。でもそんなふうには見えないがな、あっちこっちに旅行してたって言ってたじゃないか…彼氏とかとじゃなかったのか。」
「そんな…男の人と一緒だったことなんてないです…」
「寝たこともないってのか?ていうか…」
「はい…ありません…だからお願い…えっえっ…」
「…わかった…ちょっと待ってろ…」
槍杉はそう言うと大きく深呼吸をして自分も外へ出て行った。ドアが閉まると恭子の体からがくんと力が抜けた。
「ふはぁっ…はあっはあっはあっはあっ…はっ…」
思いもかけない救いの手だった。どうやら遊んでる女が目的だったらしい。彼らにしても純潔を踏みにじるような惨いことまではしないということだ。
…頼むっ、俺も知らなかったんだ…悪かった悪かったっ…お前には絶対次に…
と、それを証拠に外から槍杉の声が聞こえる。
助かった。少なくともあの槍杉が自分を守ってくれるだろう。もうすぐ皆を説得して手錠を外しに戻ってきてくれるのだ。
周囲からの文句は聞こえなかった。どうやら説得できてるらしい。恭子はほっと溜息をついた。
かくして扉が開き槍杉が入ってきた。
(ありがとう槍杉さん…早く外し…)
恭子とちょっと違う予想だった。他の連中も入ってくる。元通り恭子は囲まれた。
「わかった。安心していい。とりあえず恭子の処女は守る。」
恭子の顔から笑みがこぼれた。
「じゃ、じゃあ放して下さい。」
「だからこちらもそれなりの対応をする。」
「…え…」
槍杉はポケットから鋏を取り出した。慄いた恭子に近づきシャツのすそ真ん中にちょきんと切れ込みを入れた。
「いやっ!そんな約束がっ!」
「処女は守りたいんだろう?恭子しだいということだ…」
ぶるぶると体が震えた。にっと口元で笑った槍杉が振り返った。
なんてことだ。バスの中で拘束されたときに気づくべきだったのだ。いやそれ以前に予兆はあった。気づくべきだった。
「みっ美香はっ!美香はどうしたのっ!」
「・・・友達思いだな。じゃ、任せたよ。」
「まっ待ってっ!どうする気なのっ!」
それきり槍杉は戻ってこなかった。あとには一人の獲物と多数の捕食者が残された。
「さっさわらないでっ!」
じりじりと男達が近寄ってきた。まるでたっぷりと時間かけて狩りを楽しむかのように。二人の男が脇に来てシャツに手をかけた。そして叫びと同時にびーっと布が真っ二つに裂かれた。
「いやっ!やめてっ!おねがいっ!」
カーディガンと化した裂け目から、ノーブラだった肌色の丸みが見え隠れする。他の男達もじりじりと近づきつつあった。内一人がかがんで床の大きなカランを取り上げた。必要以上に大きなくぼみができ、そのくぼみは白い陶器で出来ている様であった。ごとんと音がして部屋の壁という壁の地面縁から水が流れ出た。
男達は身体に手を触れない。しかし二の腕にひんやりとした感触を覚えた。脇の二人が鋏を袖に入れていた。
「いやっ!それだけはっ!」
ぱちんと音がしたと同時にシャツは体から離れて落ちていった。恭子の上半身があらわになった。
「いやーーーっ!」
「…ほう…」
「もう乳首勃ってるのか…さすがだな…」
そして男達は両方の乳首をつまんだ。いきなりそこだけを摘まれて息を呑みながら身体がびくびくっと震えた。かあっと血液が逆流し全身が熱くなるのを感じた。
「ひっ…ひっ…」
手が次々に恭子の身体を触ってきた。多数の手が身体をまさぐり揉んでくる。つままれた乳首はそのままで、これも指先でしこりをくりくりと揉んでいた。
「ひっ…んあっ…うあぁ…」
ホックが外されスカートが地面に落ちたのにも恭子は気づかなかった。わずかによじっていた身体が抵抗を見せなくなったのを見て、男達は一斉に手を離し恭子をみんなで持ち上げた。
「あっあっ」
紐先がレールをごろごろと後退していく。後ろにあった台に恭子は仰向けに寝かされた。ストッパーがかけられ両手は頭の後ろから前に出せなくなった。
ここの台は美香が乗せられた方と少し形状が違う。頭の傾きは同じなのだが腰のほうが幾分か上がっているのだ。そして一番違っているのは脇のところ、両方に発射台のように細い羽根がついている。
「よいしょっと。」
男達が恭子の足を持ち上げる。そして膝がその羽根に置かれてベルトでくくり付けられた。じたばたしながら恭子の身体はほぼ二つ折りにされた。尻が浮いて、大きく開いた股間が完全に上を向く形となった。
「ああっ!いやっ!こんなかっこっ!」
そして腰から下が丸ごと取り去られていく。台座は半分ほどの大きさになり尻の向こうにはなにもなかった。
「いやだあっ!犯さないって言ったじゃないですかあっ!」
「もちろん処女は守るよ…しかしもう濡らしてるじゃないかあ…」
「えっ?やっ!やああっ!」
いつのまにかスカートが取り去られている。恭子が身に付けてるものはパンツとソックスだけだ。そしてそのパンツの上にくっきりとシミが浮き出ていた。
「ホントに処女なのか?俺達がそばに寄っただけで感じてるってことだろう?」
「ちっちがうっ」
「じゃあなんだ、こんな格好してるからか?俺達ココにさわってもいないぞ?本当は恭子は股おっぴろげてオマンコ見られることに感じる変態なんじゃないのか?」
「いっいやああっ!ちがいますぅっ!」
男達残らず全員がその部分を見た。頭が次々とそこへ寄ってくる。悲鳴と同時に布が震え、じわっとシミが広がるのを恭子も見た。
「あっ…あっ…」
身体が燃え上がりそうだった。全身が淡い桃色に染まっていくのを全員が確認していた。
そして一人の男がまたも鋏を取り出した。靴下も脱がされ、刃物が求めるものはいまや一つしか残ってない。恭子は狼狽した。
「それだけは…それだけはやめて…え?…」
刃は下着の紐には入ってこなかった。男の指が股間の布をつまみあげる。しゃきんと音がして鋏はつまみ上げられた箇所を少しだけ切り取ったに過ぎず、布は元の場所に着地した。
(…え?…)
「…おおお…」
見ると大事な所は、シミがあるが依然として隠れている。そしてもっとよく見ると男達の視線が移っていた。全員の目線がその向こう側に集まっている。ふっと鼻息が直に触れてきた。
「いっ!いっ!いやーーーーっ!!!」
たしかに鋏はその部分だけを切ったのだ。男達は恭子の肛門を見ているのだった。


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