プロローグ


「はぁぁ〜、やっぱりダメだったわ..拓哉怒ってるかな..」  市営プールの外のベンチで溜息を吐いている女子がいた。彼女の名は相 川 唯花(あいかわ ゆいか)高校2年生。  今日は彼氏と初めてのプールデートだったが、水着に着替ていざ更衣室 を出ようとしたときに、急に恥ずかしくなって、慌てて服を着てプールの 外へ逃げてしまった。 「普通のワンピース水着なのに..何であんなに恥ずかしくなっちゃうの かしら..水泳競技会はもっとすごいのを着てるはずなのに..」  また溜息を吐く唯花の目の先に、爽やかな笑顔を見せながら走ってくる 男子がいた。唯花の彼氏で水着デートが出来なかった斎藤 拓哉(さいと う たくや)だった。 「まだ顔が真っ赤だな。もう少し、ここで休んでから近くの美術館でも行 こう」と少しも怒る様子を見せず、優しく微笑んできた。  この日の温度は猛暑に近かったが、暑苦しい厚着で一切の服装の乱れを 見せない斎藤が上機嫌で唯花を気遣っていた。  一方、唯花の方も長袖にロングスカートと殆ど肌の露出を見せない、彼 氏同様、暑い日に相応しくない姿で斎藤の上機嫌ぶりに驚いていた。 「…怒らないの?拓哉、プールデート楽しみにしてたよね?」 「まあ、唯花の水着姿を見たこと無かったから、どんな水着を着るか楽し みにしてたけど、やっぱ唯花は唯花だったんだなと俺は心底嬉しいんだよ」 「???」 「いや、ほら、最近、競技会ですごい水着着てたって男子が騒いただろ? 正直、そういうのは破廉恥でやめて欲しくてな..けど唯花が自分で選ん だとしたら..俺は..」 「あれはタイムを優先して教頭が選んだの..それに他の選手も同じのを 着てるから..それを破廉恥というのは失礼よ、拓哉」 (私自身も必死に自分を言い聞かせて着てるんだから..あまり破廉恥な んて言わないで..次の大会で着れなくなっちゃうよぉぉ〜) 「そうだな、確かに皆似ていたのを着ていたか..でも俺は唯花には似合 わないと思うし、唯花が嫌なら競技会なんて出なくてもいいんだぜ」 「だ、大丈夫よ。拓哉って、そんなに私に肌を出して欲しくないの?まあ、 私自身、人前で肌を出すのはすごく苦手だからいいんだけど..」  そう、唯花は厳格な両親に育てられたせいか、何の理由もなく人前で肌 を露出することが大の苦手になっていた。  ただ競技会のように正当な理由があれば肌の露出が多いものを着ること が出来るらしい。  まだ1度も行ったことがないが、きっと温泉なら唯花は裸になって浸か れるだろう。 (まあ、彼氏の斎藤は絶対に温泉なんか行かせないはずだ)  今は学校と互いの両親公認の堅物彼氏の拓哉が生真面目な唯花を気に入 っている為、何の問題もない。  ちなみに唯花と交際しているといっても、その交際レベルは小学生程度 で、彼女の唯花にした行為はチューとハグまでで、いまだにデートで手を つなぐのも出来なかった。  皮肉なことに、堅物男子の拓哉は学年一のイケメンであり、成績トップ、 運動神経抜群、体脂肪5%の細マッチョ(おまけに巨根)なのである。  残念なのは超堅物な考えの持ち主で、唯花以外の女子は皆、破廉恥に見 えるようだ。  そんな彼氏と交際しているので、唯花の真面目ぶりにも拍車がかかるよ うになり、校内では堅物カップルとして知られていた。  結局、人生初の水着デートはまたの機会となり、定番の美術館デートを 楽しんで帰宅するが、どこか唯花の表情は曇っていた。 (高校2年になっても、こんなに恥ずかしがるなんて..何か情けない.. 私らしいけど..拓哉もそれでいいといってくれるけど..本当に健全な のかしら?でも大胆なことなんてできないし..そもそも、まだ私..)  最近、クラスの女子とお喋りして自分の成長がかなり遅れてることに不 安を感じていた。身体の方は立派になっていくけれど、唯花はいまだにオ ナニーをしたことがない。もちろん処女であり、性行為も一切経験ゼロだ。  さすがに感じたことがないわけでもなく、股間が疼いてきたときは必死 に我慢してやり過ごしてきた。 「クラスの女子の中でオナニーしたことないのは私だけだし..これって 私の方が間違ってる?でも..しようとしても恥ずかしくなってできない し、我慢すれば治まるし、気持ちいいのは分かってるけど、やっぱ無理っ」  しばらくは真面目のままでも問題ないと、いつも通り勉強を3時間ほど して眠ることにしたけど暑くてたまらない。手足しか出ていない厚目のパ ジャマに下着もしっかりと着けているので身体が熱くなるのも当然だろう。 「敬子は確か..こういう日は裸で寝ると気持ちいいっていってたけど.. パジャマぐらいなら..」  あまりの暑さに寝間着を脱ごうとしたが、恥ずかしさで余計に身体が火 照ってしまう唯花。 「だめだめだめぇぇ〜。下着だけで寝るなんて無理だよぉぉ〜。顔も真っ 赤になってきてるしぃ〜!」  本人以外に誰も居ない部屋でも、敬子のようなことを真似できない唯花 だった。  おまけにこういう時に限って股間が疼いてしまい、必死に目をつぶって 我慢し続けないといけない。  ようやく疼きも治まり、眠気もきたころには窓の外から雀のさえずりが 聞こえる。 「はぁぁ、やっぱりオナニーぐらいはした方がいいのかな..」  寝不足で少し憂鬱な気分で制服に着替える唯花。そしていつもと変わら ない優等生、唯花の1日が始まったのであった。


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