第39話「マネキンと一緒に裸で」


 崎長食品会社の男子社員たちに早急に改善して欲しいのは?と質問する と、決まってこの答えが返ってくる。  トイレの清掃をしっかりして欲しいと!  もちろん、清掃会社が毎日8時に行なってはいるが、清掃時間の大半は 女子トイレに割かれてるようだ。  少しでも汚いようであれば、社長令嬢の奈緒が清掃会社にクレームを出 すので女子トイレに限っては念入りに清掃されている。  が、女性の奈緒にとっては男子トイレなどどうでもいいので、こっちは いくら汚れていようがお構いなしである。  だから、男子トイレの清掃は適当になっており、ますます汚くなってい く有様だ。  こんな男子トイレを裸になって全部清掃しろなんて、社内いじめのレベ ルとしては恐らく最強なものと言えるだろう。  大抵の女子社員は伊持からこのいじめを受けた際、気が狂うほど泣き叫 んで必死に許しを請うのだが、結愛子は何の抵抗も見せずに清掃を始めた。 「・・・ぅぅ、改めて見ると本当に汚いわ..ここまで放置するなんて信じ られないわ」  今まで、結愛子は社内いじめで何回か男子トイレに入っているが、いつ も汚れまくったトイレを何とかしたいと思っていた。  そう、それは嫌悪感ではなく掃除したくてうずうずするような感覚だっ た。考えてみると結愛子は自主的に課内の机拭きをしたり、掃き掃除をす るぐらい、お掃除が大好きなところがある。  つまり、この社内いじめは結愛子にとっては好機であり、目の前にある ものすごく清掃甲斐がありそうなトイレを前にして目を輝かせていた。 「さてと!徹底的に綺麗に磨き拭くわよっ。裸だったら服も汚れないし、 思い切り掃除しちゃうからぁぁ〜」  社内いじめを受けてるとは思えないほどに元気いっぱいでトイレ掃除を 始める結愛子。それも、複数の清掃道具を瞬時に持ち替えて、しつこい汚 れを落としまくる。  もう裸でいることを忘れているような..汚れを落とすことに真剣にな っており、これならどう?ダメならこっちよ!と張り切って便器を磨いて いた。  驚くことに、異臭を放っていた便器が顔が写るぐらいピカピカになって いく。嫌々ながらでは決して出来ない見事な出来栄えだろう。  そんな徹底的な清掃を続けてる男子トイレに、結愛子の全裸清掃の噂を 聞いたスケベな男子社員たちが股間を膨らませて犯す気満々でやってきた。  が、男子トイレの中に入った男子社員たちは、裸の結愛子よりも綺麗す ぎるトイレに思い切り視線を向けた。 「うおっ!何だなんだ、この輝きはっ!」「!異臭もないぞ。いや、すご くいい香りがするぞ!」「すげー、便器がピカピカだぁ〜」 「こ・これ、桜野さんが1人でやったのか?」 「は・はい..あっ!用を足すならどうぞ。そっちの方は終わってるので」 「ああ、す・すまないな..」 「悪ぃ..さっそく汚してしまって..」 「気にすることはないですよ。そういう目的のものなんですから」 「・・・そ・そうだな」  犯しにきたはずの男子社員たちが縮みこもって用を足していく。  何故か、裸の結愛子が近くに居るというのに、綺麗になったトイレの方 に視線を奪われてしまうのだ。  そして、気が付くとさっきまでビンビンだったチンポがすっかり縮まっ て項垂れている。  肝心のチンポが全く固くならないので当然、変な気も起こらず用を足す しかない。  知らず知らずの内に性的欲情が抑制されており、これはまるで犯罪抑制 を激減させたブロークン・ウィンドウ理論(割れ窓理論)と同じ原理が働 いたのであろう。  汚いトイレでは罪への意識が薄れて犯しやすい空気だったが、綺麗にし たことで清々しい空気へ変わって犯す気など起きなくなってしまったのだ。  むしろ、あれほど汚かったトイレをここまで変えた結愛子が眩しくて、 まぶしくて直視できないぐらいだった。  結局、男子社員たちはただ用を足しただけで男子トイレを出て行った。  あと、男子トイレは各階に1つしかないので、1日あれば全て清掃する ことが出来るだろう。次々と汚かった空間が見違えるような心地良い空間 へ変わっていく。  もちろん、何度か邪まな男子社員たちがやってきたが、全て玉砕して用 を足しただけで終わってしまった。  こうして、結愛子はこの社内いじめを難なく乗り越えてしまい、この結 果を知った伊持の足はガクガクと激しく震えはじめた。 「う・嘘でしょぉぉぉぉ!ふ・普通、裸で男子トイレの清掃などしたら、 屈辱な思いで泣き叫ぶんじゃないのぉぉぉぉ〜!生きがいみたいに清掃す るなんてバカじゃないのぉぉぉぉぉぉ〜」  何故か、社内いじめをしてる伊持の方が、あまりのどんでん返しっぷり に鳥肌が立ち、心が折れそうになった。 「・・・ま・まだ、いくらでも手はあるわ..まだやれるんだからぁぁ」  かっての中條のように、このままじゃ自分も同じ運命を辿ることに伊持 は不安を感じていた。  だけど、まだ伊持は結愛子を負かすことを諦めたわけではない。  が最強のイジメOLが連敗していることは社内中に伝わっており、これ を機に伊持を何とかしようという動きがくすぶり始めてきた。  特に喫煙室では、結愛子の男子トイレ話で盛り上がっており、タバコを ふかしながら男子社員たちが感動していた。 「そっか〜、男子トイレがあんなに綺麗になったのは桜野さんのおかげか」 「けど、割れ窓理論で危機を乗り越えるなんて凄すぎねーか?」 「いや、桜野さん本人はそんなこと考えてないで掃除したんじゃないか〜。 俺の灰皿なんて前はいつも汚かったんだけど、桜野さんが配属してからは 定期的に綺麗になっててよ〜。いつもこっそり掃除してくれるようだ」 「って言うか、俺たちが今居る喫煙室の灰皿も時々綺麗になってるし、窓 も磨かれてるし、ここも桜野さんが掃除してるよーだぜ」 「要は無類の掃除好きってことか..それじゃ、今回のいじめは全く無意 味だったってことだな。伊持の悔し顔が目に浮かぶぜ」 「だけど、伊持の奴は懲りねーよな。確か翌日の水曜も桜野さんの社内い じめをしたよーだ」 「おい、そりゃ初耳だな。いったい水曜は何をされたんだよ」 「目撃者は少ないよーだけど、男子社員の社内内科検診でもマッパを晒し たようだぜ。デマかも知れねーが」 「それって、ばったり会った事件のことだろ?実は俺、その場に出くわし て桜野さんの美乳を間近で拝ませてもらったぜ」 「間近って..どれぐらいはっきり見たんだよ?まさか乳首まで..」 「ああ、ピンクの乳首ばっちしだったぞ。見たのは俺のほか、10数人ほ どだけどさ。見事な真っ裸だったな」 「うおぉっ!もっと、どーいう事か詳しく言えよっ!」 「すっごく簡単なことさ。俺たちが検診会場に入って、下着姿だけになろ うと着替えてた時に近くの白のカーテンがばっと開いて、全裸の桜野さん が出てきたんだ。その時に分かったんだけど、すでに服や下着が入ってた 籠が1つ、俺たちの近くに置いてあったんだ」 「おいおい、それって大騒ぎにならなかったのか?悲鳴とかあげたんじゃ」 「まあ、軽い悲鳴はあげたさ。だが、すぐに声を止めて恥部を手で隠しな がら慌てて自分の籠を持って逃げていったよ。おそらく、桜野さん自身も 分かってたんだろうな。先輩OLが仕掛けた罠であることや、俺たちが何 にも知らずに入ってきたことをさ。要は桜野さんは俺たちと検診がぶつか るような時間を言われて、まんまと騙されて裸を晒したってことさ」 「けどよ〜。何で検診でマッパなんだ?普通は裸で受けねーだろ」 「それも上手い具合に騙されたんだろ。理由なんていくらでも作れそうだ し」「確かにな。しかし、それでも桜野さん我慢したのか?これって、知 らねー男におっぱいやあそこを見られたってことだろ?」 「いや、下の方はすぐ隠したから見れなかったぜ。まあ、あの桜野さんの おっぱいだけ見れれば大満足さ」 「ちっ、羨ましい奴だな。俺も桜野さんのあられもない姿、拝みたかった」 「おいおい、そんなに悲観することないぜ。どーせ、今日もどこかで裸に 剥かれてるんじゃねーか?」 「そうかもしれねーな〜、けど予告がねーから遭遇するのが難しいぜ」 「それにしても、俺たちは男に生まれて良かったよ〜」 「ああ、女のイジメっていうのは聞くだけでもゾッとするからな」  男子社員たちは、伊持が次にどんな辱めを結愛子にするかをニヤニヤし ながら妄想していた。  ちなみに、今日のいじめもかなりとんでもないものであり、結愛子は社 内展示室で全裸で立たされていたらしい。  社長令嬢の奈緒が半年に1回、社内で私服チャリティーオークションを 開催しており、展示室には奈緒の私服を展示するためのマネキンが大量に 搬入されていた。  このマネキンが高価なため、社員に悪戯されないように結愛子が1日監 視することになり、何故か一緒に裸で立っていた。  言うまでもないが、監視などはただの名目で結愛子をマネキンと一緒に 裸で立たせたいだけだろう。  展示室が開けっ放しになっているため、人が通るたびに結愛子は身体を 動かさないようにして見つからないようにしていた。  けど、パッと見ればマネキンと人の区別なんて付くものであり、すぐに 見つかって大騒ぎになりそうだが、意外にも最後までバレなかったらしい。  どうやら大量のマネキン達はどこか怖い雰囲気があり、近づいて見よう とする社員が居なかったらしい。  あと驚くことにこの社内展示室、一番人が集まる喫煙室の真正面にあっ た。当然、煙草を吸いにした男子社員たちの視界には必ずマネキンが映っ ていたはずなのに全然気づかれなかったのだ。 「マネキンっていっぱいあると気持ち悪いよな〜」と、俺たちの目に映ら ないように配慮しろよって文句を言うぐらいで、まさか裸の結愛子が混じ って居るとは思っていなかったのだろう。  あとは灯台下暗しっていうのか、すぐ近くで社内いじめが行われるわけ ないと思い込んでいるせいか、裸の結愛子もただのマネキンに見えたのだ。  後でふと「何かリアルなマネキンが1つあったよな〜」と思い浮かべて、 「!いや本物じゃねーか」と急いで展示室へ来て、肝心の結愛子が居ない のを知って後悔する男子社員たちも居た。  どうやら、結愛子があまりの恥ずかしさで吐きそうになったので早々に 切り上げたらしく、高価なマネキンを汚すわけにはいかないからだった。  こうして、木曜の社内いじめを乗り越えた結愛子であったが、週末に新 たな恥辱が始まろうとしていた。  それは1つの大事件から始まり、金曜の朝から崎長食品会社は大騒ぎと なった。  何と大手新聞社が、崎長食品会社の実態はピンク会社と報じてきたのだ。  まあ、実際ピンク会社だから、事実を言ってるだけに過ぎないが、この 記事が大きな圧力で書かれたものであった事が分かった。  記事には、崎長食品会社はピンク会社らしいピンク食品しか作ることが 出来ず、そんな最低の会社だから、ろくでもない男をいつまでも雇ってい るんだ!と書いてあった。  どうやら、この記事を指示したのは食の世界で絶対的な力を持っている 大物の美食家、陸永洋蔵であり、たった1人の社員を崎長食品会社から追 い出すためにした行為らしい。 「あのクソ中年、全くムカつくわぁぁ〜。ここまで隼人を追い詰めてくる なんて!」と社長令嬢の奈緒が激怒していた。  そう、何とこの記事は川阪を辞めさせるために、陸永洋蔵が指示した記 事だった。  これを知った川阪は辞表を出しに、郷幡部長のとこに行ったが郷幡部長 は受け取った辞表をビリビリに破り捨てた。 「部長っ!何で俺の辞表を..」 「こんな記事ぐらいで、辞めるなんてどうかしてるぞ。俺はこんな辞表は 認めん!」「だけど..この会社の実態が..」 「それがどうした。ここがピンク会社ってことは、どこも知っているさ! 大手新聞がこんなくだらん記事を出すとはな。川阪、お前は気にすること ないぞ」 「すいません、部長..」 「しかし、この陸永洋蔵って野郎はピンク料理を馬鹿にしすぎだな。川阪、 お前はピンク料理をどう思っている?」 「ピンク料理ですか..やっぱり、ピンク料理はピンク料理だと思うけど」 「ぐっししし〜、情けないぞ!それじゃ、お前もあの陸永洋蔵と同じだな。 しょせん、血は同じってことか」 「!なっ、俺が奴と同じなわけないだろ!あんな奴、俺の親じゃないっ!」  何と、川阪は陸永洋蔵の実の息子であり、中学の頃に家を飛び出して以 来、絶縁状態になっている間柄だった。  それからと言うもの、川阪の腕が食の世界で活かされない様に様々な妨 害をしてきたのだ。 「ぐっししし〜、川阪よ。お前に良い事を1つ教えてやろう。陸永洋蔵が 食の世界を掌握してると思ったら大間違いだ。食ってのは、もっと貪欲で 何もかも引き換えにしても手に入れたいものだ。奴はそんな貪欲な料理の 凄さを知らないのさ。それは川阪、お前にも言えることだがな〜」 「!ど・どういうことだ」 「お前も陸永洋蔵も人を狂わす料理は作れないってことさ。ピンク料理を 小馬鹿にしてる段階で、お前は駄目なんだ」 「別に馬鹿にしてるわけじゃない。どんな料理でも作ってやるさ!俺は洋 蔵とは違うっ!」 「ぐっししし〜、ならお前にピンク料理の凄さを見せてやろう。その凄さ を知ったら、川阪っ!お前にはこれから辞めずに俺が言うピンク料理を作 ってもらうぞ」「・・・凄さを見せるって..何する気だ」 「ぐっししし〜、ちょっと知り合いの先生方に電話を一本入れるだけさ。 この先生たちはなぁ、ピンク料理のためなら何だってしてくれるのさ」  そう言って、どこかへ電話をする郷幡部長。その電話が終わった後の夕 方、何と記事を載せた大手新聞社が謝罪を載せて、朝の記事が出まかせだ ったと訂正してきたのだ。  このことに一番驚いたのは川阪であり、急いで郷幡部長のとこに聞きに 行った。 「部長〜、これってまさか、あの時の電話で..」 「ぐっししし〜、こっちも、ごーまんかましたぞ。どうだ、これがピンク 料理の凄さだ。どうだ、お前も作ってみる気になっただろ〜」 「・・・ピンク料理か..いいだろう。俺もあの洋蔵にギャフンと言わせる ためにやってやる!部長、俺は何を作ればいいんだ」 「そうだな。ピンク料理と言えば、やはり定番であり王道である女体盛り だ!それを作ってもらうか〜。ぐっししし〜」  郷幡部長が口元が怪しく弧を描く。これが最悪な恥辱の始まりだった。  そう、結愛子の知らないところで、媚薬料理への序章が奏でられたので あった。


(最終更新:2011年6月14日(前編)新規追加
      2011年6月15日(後編)一部新規追加
第40話へ