第30話「味試しの会合」


 4月中旬、桜の花びらで会社の前の道路がピンク色に染まっていく。  そして社内では桜野結愛子の全身がピンク色に染まっていた。  朝、出社してきた結愛子に伊持が雑用を頼んできたのだが、今ここで裸 になって用意された服に着替えろと言ってきた。 「あの..ここ廊下なんですが..」 「うっふふぅ〜、時間がないのよぉ〜。ほら、急いで脱がないと人が来る わよ〜」「わ・わかりました」  これが社内いじめである以上、結愛子には断る権利はなく、いつ人が来 てもおかしくない廊下で服を脱ぎ始めた。  いや、きっと間に合わないのは結愛子自身も分かっている。脱いでる間 に後ろから男子社員の談笑の声が聞こえてきたからだ。 (やっぱり..人が来るのね..でも..脱ぐしかない..脱ぐしかない の)  小刻みに全身を震わしながらブラを外すと、ブルンとDカップのおっぱ いが思い切り揺れる。そして、そのままショーツに手をかけて一気に下ろ した結愛子。  遠くの方からはすでに男子社員の視線が刺さっており、惨めな思いだ。  それでも足元で丸まってたショーツを足首から抜いて、結愛子は裸を晒 すしかなかった。 「うおっ!」「何だ?朝からストリップか〜」 「・・・お・おはよう..ございます」  結愛子は顔を青ざめながら、男子社員の方へ向いて挨拶をすると伊持が 後ろの方でお腹を押さえながらゲラゲラ笑ってた。  当然、これが伊持の社内いじめと分かった男子社員たちは慌てて目を逸 らして通り過ぎていった。  どうやら、あまり伊持とは関わりたくないのだろう。あと結愛子の裸を 見れただけで満足するらしく、後でその体験談を喫煙室で他の男子社員た ちに自慢するのであった。 「おいおい、今日は朝からいつものイビリがあったそうだぜ」 「俺バッチリ見たぜ。廊下で桜野さんが脱ぐところをな」 「で、一体どんな辱めをされてんだよ?下着無しってのは聞いたが..」 「ああ、行き先掲示板に脱いだ下着がぶら下がってたな〜。何か社服を着 てなかったみたいだったな..」 「どうやら、朝から蛍光灯の球替えの雑用をしてるぜ。汚れてもいいよう にラフな格好で交換しているようだ。いひっ」 「おい、何だよ。そのニヤけた顔は?ひょっとしてラフな格好って、すご くエッチな姿かぁぁ!」 「いや、さすがにそれは不味いだろ。俺は遠くから見てたが、タンクトッ プに半ズボン姿で交換してたな〜。エッチというよりはボーイッシュって 感じだったぞ」 「お前馬鹿だなぁ〜。近寄って見てこいよ!桜野さんの胸チラとマンチラ がバッチリ見えるから」 「胸チラとマンチラって..いくらノーブラ、ノーパンで蛍光灯の球替え だからって簡単に見れるかぁ〜」 「それがなぁ〜。だぼだぼ半ズボンに、ゆるゆるタンクトップだからたま らんぞぉ〜。横乳は丸見えだし、ズボンの隙間からは恥丘がちらちら見え るんだぜぇ〜」 「うおおおおお〜」「すげぇぇ〜」 「おまけにズボンがだぼだぼだから脚を閉じるとストンと落ちるよーだぜ。 いや、すでに椅子の上で2・3回ストンって落としたらしいぞ」 「!モロマン付きかよっ。何か桜野さんのマッパ勤務が実現しそうな勢い じゃねーか。雑用の内容が過激になってきてるし〜」 「けど、桜野さん自身も何とかこの状況を抜けようと考えてるよーだぜ! 要は大きな仕事をもらえれば雑用から解放されるだろ?」 「と言ってもな〜。新人の桜野さんがどうやって大きな仕事を取るんだ? まだ入社したばっかりだし、無理だろ〜」 「それが1つだけ手があるぜ!明日行なわれる味試しの会合に出て認めら れればいいのさ。新人でも自由に参加できるしな」 「おいおい、味試しの会合に出る奴って、みんな料理の達人ばかりじゃね ーか?桜野さんって川阪みたいに料理得意なのかよ?」 「聞いた話だと、相当な腕を持ってるし、味覚もすごいらしいぜ。その才 能を活かせるチャンスがないだけってことだ」 「なるほどな..でも問題は、この味試しの会合はあのわがままお嬢が仕 切ってるってことだな。自分から魔窟に飛び込むようなもんだぞ」 「だな..こりゃ下手すりゃ、大きな仕事を取る前にマッパ勤務の方が先 に来そうだぜ..」  そう、これは結愛子にとっては大きな賭けであろう。この味試しの会合 で失敗したら、とんでもない結果が待っているはずだ。  それでも結愛子は参加することを決意し、翌日金曜の昼に開催場所であ る近くの料亭に向かった。  料亭「千兆」には午後勤務を免除された料理の腕が優れてる社員50名が 次々と座敷へ通された。  当然、料理の腕がある川阪も呼ばれるはずだったが、川阪はいつものグ ータラぶりで会場に来てなかった。 (んもぉぉ〜。隼人だけよぉぉ、まだ来てないのはぁぁ〜)  結局、川阪が来るのを待たずに味試しの会合が始まった。  まずは、社長が挨拶をはじめ、この会合の意気込みを語ってきた。 「今日はみんな遠慮せず、腕を奮ってくれたまえ!明日のわが社の命運を 託す社員を選ぶものだから、優秀な成績を出したものには新人であろうと 大きな仕事をしてもらうことになるだろう。もちろん、これから出すテス トは相当難しいものとなっているから頑張るように」  この社長の言葉を聞いて結愛子のやる気が断然アップした。 (絶対、いい成績を残してみせるわっ!そうすれば雑用もしなくなるし、 これ以上、エッチな目に遭ってたまるものですかっ!)  これは新人である結愛子にとって千載一遇の大チャンスとなり、社内い じめと化した雑用業務から抜けられる絶好の機会でもある。 (頑張らなくちゃ!こういうテストなら得意だし。必ず正解してやるんだ から)    屈辱の日々が一気に無くなるかも知れないテストに意気込む結愛子。  そして、集まった社員たちの目の前に@ABと書かれた3種類のケーキ と、CDEと書かれたワインが置かれた。  用意したケーキとワインの中から、これから社長が言う条件に沿ったも のを1つずつ選ぶのがテストの内容らしい。  だが、この味試しの会合がとんでもない恥辱なトラブルを呼ぶとは結愛 子は微塵も思ってもいないだろう。 「さて、君たちにはこれからケーキとワインの利き味をしてもらう。が、 ただ美味しいのを選ぶだけじゃ、君たちの実力なら簡単だろう」  社長がテストの内容を説明していく。社長の口ぶりからしてみると単純 な内容ではないのは確かだった。 (美味しいのを選ばないって、どういうことかしら..それにケーキの方 がわざと崩れてるのが気になるわ..)  じっとケーキとワインを見る結愛子。どうやら見た目だけで選べるほど 易しくないのが分かった。 「君たちには私が言う条件のものを1つずつ選んで欲しい。まずケーキの 方は味に関係なく一番甘いものを選んでくれたまえ。ちなみにここでいう 甘さは”糖度”としての値が高いものだ」 (つまり、甘さを消してるものを舌で見抜けってことね..) 「次にワインだが、こちらも1つだけ選んで欲しい。条件としては一番年 代モノであるものを選んでくれたまえ。ここで言う年代モノは寝かせて熟 成したものだ」 (あれ?何で社長はわざわざ年代モノの説明を..ここに居る人はそれぐ らい言わなくても分かっているはずなのに) 「制限時間は30分だ。さあ、今から開始してくれたまえ」  社長の開始の合図で集まった社員たちが一斉にケーキやワインを口に入 れて吟味し始めた。  結愛子も真剣に味を吟味してきたが、徐々に表情を曇らしてきた。 「えっ..これって、どういうことなの?」 (おかしいわ..このテストって答えが1つずつなんて、あり得ないわ)  結愛子はこのテストの正解が1つずつではないと思い始め、確証を得る までもう少し、自分の舌で確認することにした。  後々、この優れた結愛子の舌が元で大変なことになるのだが、結愛子自 身は自分の舌を最後まで信じることにした。 (!やっぱり..答えは複数あるわ!今は確証を得るまで何度も味を確認 しなくちゃ)  こうして結愛子が念入りに味を確認する中、社長の近くでは、あの社長 令嬢の奈緒や取り巻きの早紀と憂樹も同じテストを受けていた。 「奈緒様。このケーキ、@が見た目も綺麗で味も甘くて美味しいですね。 逆にBは見た目最悪で味もダメな感じです」 「そうね。@は高級洋菓子店の高級ケーキであることには間違いないわ。 ただA、Bへなるにつれて形が崩れているのが怪しいわね」 「確かに何かの意図が見えますが、私も舌には自信があります。A、Bは 正直、美味いとは言えません」 「いや..元々このテストの回答は一番甘いものを選ぶものよ。これはB が正解かも知れないわ。味は悪くても中の甘さだけは本物だわ」 「そうですか..じゃあワインはどれですか?正直Cが一番年代モノと思 ってますが、ワイン愛好家の奈緒様なら、もしかしたら違う答えを..」 「ええ、これも一番新しい味がするEが正解よ。年代モノでもこういう味 を出すワインがあったのよ。私の舌の記憶に間違いないわ」 「さすが奈緒様です。でも、何で社長に正解を聞かなかったのですか?わ ざわざテストしなくても聞けば教えてもらえるんじゃ..」  取り巻きのちょっとした提案に奈緒の眼光が鋭く睨み付けた。 「貴女たち、私の舌や料理の腕を侮辱するつもりかしら?返答しだいでは ただでは済まないわよ」「す・すいません、奈緒様。そういう訳では」 「奈緒様の実力は重々分かってますが、わざわざ一緒にテストを受ける必 要はないかと思って..」 「んふふ〜、ちょっとキツク言い過ぎたわね。まあ、これは私の実力を見 せ付けるためのものよ。BとE、これがこのテストの正解よ。もちろん、 貴女たちは私の真似ではなく、自分の舌を信じた答えを言いなさい」 「わ・わかりました。それでは私たちは@とCを選びます」  そう、取り巻きの早紀と憂樹同様にほとんどの社員が@とCを選び、B とEを選んだのは何と奈緒1人だけとなった。 「んふふ〜、誰もこのテストの真意を見抜けないとは情けないわぁ〜」  自分1人しか正解を出してないことに満足する奈緒であったが、そんな 奈緒に異議を求める回答が出た。 「あ・あの..私の答えなんですが、一番甘いものは@、A、Bでワイン の方はどれも年代モノではありませんので無しです」 「何ですって!今口にしたのはどこの誰よっ!」 「わ・私です..食品部食品課の桜野です」  何とその答えを出したのは結愛子であり、周りも結愛子が出した回答に 騒ぎ始めた。 「ちょっと、桜野さん。このテストは1つ選ぶもんだよ。@、A、Bって 言うのはどういうことかね?」 「@、A、B、どれも同じ甘さだからです。何度も自分の舌で確認したの で間違いないです」 「おいおい、それは自信過剰じゃねーか。それじゃワインの方はどういう ことだ?1年でも半年でも経てば一応年代モノじゃねーか?どれも無しは あり得ないだろ」 「それは、これがワインじゃないからです。葡萄を熟成したものじゃなく 人工的に作られた偽のワインだと思います。人工的だから年代モノという 答えには当てはまりません」  堂々と自分の主張を述べた結愛子だったが、この答えに怒り狂うものが 居た。それはもちろん、自分の答えに絶対の自信がある奈緒だった。 「桜野さん!ふざけたことは言わないで欲しいわね。お父様は1つ選べと 言ったのよ。貴女は耳が悪いのかしら?頭が悪いのかしら?おかしな答え を堂々と言わないで欲しいわね」  完全に奈緒の逆鱗に触れてしまった結愛子だったが、何と奈緒の怒りに 怯まずに反論してきた。 「いいえ、このテストは1つ選ぶところが引っ掛けだと思います。社の命 運を託すというほどのテストなんです。適当に選んで当たる人を外すため だと思います」 「!!ふ・ふざけないでっ!この私の舌が間違えてると言うの?ワインだ って貴女のような貧乏人じゃ決して飲めないものを毎日飲んでいるのよっ」 「それでも私は自分の舌を信じます。いくら社長令嬢でも、これだけは譲 れませんっ!」 「・・・わかったわ。それほどまで言うなら貴女の自信、買ってあげるわ。 それだけ断言する”覚悟”もあるってことよね?」 「・・・あ・あります。私だって、自分の舌を信じてますから!」 「ふ〜ん、それだけ舌に自信があるのね。それなら、もし貴女の答えが違 ってたら、この場で素っ裸になって土下座するっていうのはどうかしら? 舌に絶対の自信があるなら問題ないわよね?」 「えっ?」結愛子は一瞬、答えに迷った。もし、これが奈緒の罠だったら 見事に嵌ることになるからだ。が、奈緒の目を見ると、どうやらそんな事 を考えてない気がした。 「桜野さん..言っとくけど、私も自分の舌には絶対の自信があるわ。貴 女ごとき裸にするために、この舌に嘘をつくつもりはないわ!」  この奈緒の言葉を結愛子は信じることにした。相手もまた自分の舌に信 念があることを分かったからだ。 「わかりました。もし答えが違ってたら、この場で裸になって土下座しま す。約束します」 「ふふ、いい答えね。じゃあ、お父様に正解を言ってもらいましょう」  この場が完全に奈緒と結愛子の舌対決となったとこで、社長がこのテス トの正解を言い始めた。 「・・・うむ。それじゃ、答えを言おう。正解はBとEだ。間違いない」 「えっ..そんな..」  この瞬間、会場にいた社員の視線が結愛子の全身に集中した。  そう、舌対決で敗北した結愛子の全裸土下座が決定したからである。


(最終更新:2011年4月3日(前編)蛍光灯いじめ部分追加
      2011年4月4日(後編修正))
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