第53話「中間テスト」


 周兄さんが海外に帰ったのが、まるで昨日だったような気がしたなと現 実逃避している沙智菜です。 「うわぁぁぁ〜!1年の頃に戻りたいよぉぉ〜!何かどんどん教科のレベ ルがあがってきてるよぉぉ〜!こんなの理解できるかあああ〜」  机にあった参考書や問題集を床に投げつけてみた。これも夜中に露出行 為をしていたツケなのかも..  だって春って暖かいし、夜中に裸で出ていっても身体の火照りが勝っち ゃうんだもん!  ハッ!と気づいたら、2年生になってるし、3年間クラス替えをしない 学校なので、2年になった実感がなかったし! 「いや、もう中間テストって..時を戻してぇぇぇぇ〜!」  そうなんです!来週から中間テストが始まるからです。  赤点は取りたくないし..いや赤点なんて取ったらお母さんがそれを口 実にして何かをしてきそうなので、ここは必死に勉強して頑張らなければ いけないだろう。 (はぁぁぁ〜こういう時、美紗里みたいに頭が良ければなぁ〜)  おそらく、上位トップ3はほとんど決まっており、美紗里と内川さんが 名を連ねることには間違いないであろう。  どうすればあんないい成績が取れるかをじっくり聞きたいとこだよぉ〜  まあ、今はともかく勉強をしなければないないと言うのに、放課後も学 校で勉強をしてると、それを邪魔する輩がいるのだ。  むにゅむにゅ〜♪ 「私はぁ〜だぁれだぁぁぁ〜〜♪」 「毎回言うんだけど、普通は目を押さえるんじゃ..」 「いいじゃないの〜ついこっちの方に手がいっちゃうのよぉぉ〜」  そういって私のおっぱいを揉んでくる礼璃ん。  みんながテスト勉強中だという中で、おっぱいを揉んでくるのは礼璃ん ぐらいであろう。 「礼璃んは勉強しなくていいの?」 「う〜ん〜礼たんはとりあえずテストの山を当てるから大丈夫♪」 「あいかわらずね..小テストとは違うのよ」 「先生の性格を分析してっから問題ないのだ〜」もみもみっ。  礼璃んはそんなに頭がいい方じゃないけど、山を当てていい点を取る辺 りは賢いといってもいいのかも知れない。 (と言うより、こういう時こそ礼璃んを使うべき?) 「あ・あの礼璃ん..現国の山なんかわかるかな〜」 「う〜ん、それは結構いい線で当てられるかな〜」 「ど・ど・どの辺りかなぁぁ〜」 「もっと強く揉んでいいかなぁ♪沙智菜ちん」 「うう..足元見るなんて卑怯よぉぉー」 「いい点を取るための等価交換の原則よ♪イエス?ノー?」  人の足元を見て交渉をしてくるなんて卑怯だぞぉぉぉぉぉーーーーー。  けど、おっぱいと引き換えにテストの山を知ることを出来れば...  あああぁぁぁっ!どっちを取ればいいのよぉぉぉーー。礼璃んは未だに 人のおっぱいを揉んでるし、ずるすぎるよぉぉぉぉーーー。 「さあ、沙智菜ちん。どっちを選ぶのカナァァ〜」「ううぅぅ..」  なかなか答えの出せない私に礼璃んの揉みは勝手に強くなってきている。  どんどんと暴走していく礼璃んに何の抵抗も出来ない危ない状況の中、 それを一変させる出来事が起こった。 「相変わらず仲がいいわね〜。姫條さん、もし良かったら私の立派なおっ ぱいも揉んでもいいですわよ」  おっぱい揉みもみ大好きの礼璃んに、大きいおっぱいをわざと揺らして  とんでもないことを言ってくる女子生徒。  だが、礼璃んはその女子を見ると慌てておっぱいを揉むのをやめて自分 の教室に戻っていった。 「あははははっ、また今度揉ませてもらうわ〜。じゃあね、沙智菜ちん」 「揉みごたえがあると思うのにね〜新宮さんもそう思うでしょ〜」 「そ・そうね..愛賀さん」  礼璃んを逃がしたことに惜しそうな目をして見ているクラスメイトの愛 賀仁美(あいが ひとみ)さん。  1年の頃は、長い黒髪で控えめな性格の子だったので印象が薄かったけ ど、2年になってからは色々変わってきた気がする。 「…そういえば、周知さまじゃなく、周知さんはあれからずっと海外なの?」 「周兄さん?うん、次は冬頃に帰ってくるって言ってたわ。そういえば愛 賀さんも会ったんだって?」 「ええ、会ったと言っても2,3分だけ世間話をしただけよ。けど、それ だけでも素晴らしい方と理解できましたわ」 「そうなんだ」(一体、周兄さん、何を話したんだろう)  入学当時、引っ込み思案でおどおどしていることから悠子と同じに内川 さんたちに目を付けられていたし、軽いイジメにもあってたはずなんだけ ど..  2年生にあがってからは、人が変わったようになり、まあ、礼璃んが逃 げ出すんだから、内川さんたちでは太刀打ち出来ないぐらいになっていた。  しかも、頭の方も私のクラスのトップ3の1人であることから手強い女 子である。 「ねぇ〜♪新宮さん。例の話、考えてくれたかしら?」 「あの話?でも、今は中間テストがあるから、まだ考え中だけど..」 「新宮さんに絶対に似合うキャラがいるのよぉぉぉ〜♪服だけでも着てく れると嬉しいんだけどなぁぁ〜」 「う〜ん..でもコスプレって何か..」 「それは偏見よ♪偏見♪一度着たら絶対にはまるからぁぁ〜ねっねっ♪」  私に必死にコスプレを勧める愛賀さん。  そう、彼女はコスプレ大好き少女で、それを強引に人に勧める悪い癖が あるのだ。  意外に礼璃んはコスプレが嫌いみたいで、それを勧めてくる愛賀さんが 苦手となったみたいである。  内川さんの時もコスプレが原因でイジメられたはずなんだけど、2年に なったばかりも、内川さんたちに多人数で囲まれて脱がされそうになった んだけど、愛賀さんは余裕の表情でこう言って来たのだ。 「私、コスプレしてる関係で囲まれる危険が多いので慣れてますけど.. いいかしら?」 「はぁっ?ずい分と生意気な口を聞くようになったわね。おい、こいつを フンドシ一丁にしろ」「ぷぷっ、了解ですっ、内川さま」 「そうそう、あの方もイジメはよくないって仰ってましたわ。開花させて いただいた守る力、使わせていただきますね」 「何わけわからんこと言ってんだ!剥いちゃえ!」「はい!」 「そうそう、私、合気道習っているのですよ」  そういって、囲った女子たちを次々と鮮やかに空に投げていく愛賀さん。  どうやら、合気道の達人だったみたいで、内川さんたちが勝てる相手で はなかったらしい。  しかも、その後で釘をさすような口調で「私、陰湿なこと嫌いなの♪も しそんな目にあったら内川さんをもっと恥ずかしいキャラに着替えさせち ゃうかも〜」  と言いながら、ちゃっかり用意していたアニメの尻尾つきスクミズキャ ラに内川さんたちをコスプレさせて去っていってしまった。  さらに内川さんの制服や下着を全部、持ち帰っていったので、相当恥ず かしい目にあって家に帰ったとの話であった。  本来ならすぐに仕返しを企む内川さんたちだけど、その日からしばらく 愛賀さんがいろんな衣装を持ってきたことから、あえて仕返しをワクワク しながら望んでいたみたい。  案の定、返り討ちされた女子たちが恥ずかしいコスプレをしたままで泣 きながら家まで逃げ帰ったのは数回見かけた。 (いや、合気道って、あんな早着替えまで出来るのか?)  そんな愛賀さんが私をコスプレに引き込もうとしており、どう答えを返 していいか困っている状況であった。  まあ、断るほど嫌でもないし、正直コスプレには少し興味があるので考 えてしまうよぉぉ〜〜 「ねっねっ、ちょっとだけでも着てみるのもOKだから♪」「う〜ん」 「ドキドキ感が最高だから〜ねっねぇぇ〜」「そうね..」  何かこのまま愛賀さんの押しに負けそうな気がしてしまいそうな..  まあ、でもそろそろ、この会話も終わりそうかも。  そう、私への愛賀さんの押しが強くなってくると、必ずと言ってそれを 止めてくる流れとなっており、今日もツカツカとわざと足音を高く立てな がら美紗里がやってきた。 「愛賀さん、今はみんな勉強中よ。そういう話はやめてくれないかしら〜♪」 「あら♪今日は勉強中ってことで止めるつもり?信谷さん」  2人とも声のトーンを和らげながら言ってるけど、目の方は火花を散ら している気がするんだけど..  何か美紗里と愛賀さんって、お互いにライバル意識をむき出しにしてい るような..  ここは、トップ3の2人のプライドのぶつかり合いという事にしておこ う。(本当の理由は、わかるけど口には出せないから)  まあ、みんなが口に出さないことをあっさりと言う子もいるんだけどね.. 「あちゃ〜また始まったよ〜まあ、AとHカップじゃいがみ合うかも知れ ないな」 「蘭ちゃん。それはだめったらぁ〜」  蘭ちゃんの余計な言葉で余計に邪険なムードになっていく感じであった。 (ぁぁぁ..蘭ったらぁ〜〜何てこう核心部分を言っちゃうのよぉぉぉーー)  キケンな言葉をさらりと言ってきた蘭ちゃんに、すぐに2人が反応した。 「蘭..別に私は愛賀さんの胸なんて気にしてないわよ..大体、そんな に大きかったらバランスが悪いんじゃないかしら♪」 「そうよ、蘭さん。私も気にしてないわ。むしろ信谷さんが羨ましいわ。私 なんて仰向けに寝ると圧迫されて苦しくなっちゃうし〜」 「それなら取れば楽になるわよ。愛賀さん♪」 「そうね〜取った時はあげてもいいわよ♪信谷さん」「・・・・・・・・・」  その言葉で少しだけ考え込んでしまう美紗里に、さすがの愛賀さんも少 し戸惑っていた。 「冗談で..言ったんだけどぉ」「わかってるわ..真に受けるわけない でしょ」  しかし、こうして愛賀さんを見ると完成された彫像みたいで、ずるい気 がしてしまう。  何せ、おっぱいは弾力抜群のHカップ、スタイルも良くて、顔も可愛い。  それで頭が優秀で合気道の達人なんて、かなりずるいステータスだよぉ ぉ〜。ただ、神様は悪戯好きなのだろうか、そんな完璧愛賀さんに変な欠 点を与えており、それはコスプレが大好きという事と重度の甲冑フェチで あった。  理想の男性像は全身をがっちり甲冑で身を固めた騎士であり、ゲームで 言うと、魔界村のアーサーなんか、すごく好きと言っていた。  一度、蘭ちゃんが「仁美〜あんた聖闘●なんて好きでしょ〜」との質問 に「甲冑度が足りなすぎるっ!肌を出しすぎるわっ。まあ、頭部をつけた サガ様ばかりなら、はまっちゃうけどぉぉ〜」と答えるぐらいの危ない甲 冑好きであった。  私が好きな男性は全身甲冑なのよっ!デートしたいなら甲冑してきなさ いって、告白した男を全員玉砕させてるから恐るべし.. (いや..街中を甲冑でくる男性など居るのだろうか..)  私がいろいろ考えている中、よく見ると2人の衝突は終わっており、愛 賀さんが私に手を振りながら自分の席に戻っていった。  とりあえず、これで試験勉強に集中できそうだし、テストが終わるまで は何事も変なことが起きないように願っていたのだが、またトラブルが起 こりました。  何と翌日の体育の授業後に私の新品の夏服が丸ごと盗まれてしまいまし た。  まだ衣替えが始まったばかりというのに制服が盗まれるなんてぇぇ..  それも今回は私だけ無くなっており、悠子の夏服が無事だったのは不幸 中の幸いかも知れない。 「さっちん、みんなで探すから元気出して」「そうだよ。まったく何回も くだらないことをしやがってぇー」「悠子..蘭ちゃん、ありがと」 「とりあえず先生には私が伝えておくわ」「ありがと、美紗里」 「しかしっ、超むかつくぅ〜。内川の奴をとっちめてくるぜ」「蘭ちゃん..」  頭にきていた蘭が私たちの制止もきかずに内川さんの方へ向かっていく。  そんな蘭の前にあの愛賀さんが立ちふさがったのだ。 「邪魔する気..仁美」「すぐに行動を移すのが貴女の悪いとこね、蘭さ ん」「内川の味方をするつもりか..」 「あなたでは話しにならないわ。信谷さん、あなたはどう思ってるの?」 「そうね..悔しいけど内川さんが指示した証拠もないわ。もし確証があ れば私が真っ先に内川さんに抗議するわ」 「さすが信谷さんね。今は犯人を捜すよりも服のほうを何とかするべきだ と思うわ」「同意見ね..愛賀さん」 「ああぁぁっ〜わかったよ。今回は我慢するけど、次はマジキレるからな」 「そうね..次は止めるつもりはないわ。けど、今は夏服の問題よ。新宮 さん、予備はあるの?」 「あるけど..お母さんにどう言って説明していいか..」 「難しいところね..ここは見つけ出すことを優先しましょう。ただ、急 には見つけられないとは思うから、その間は代わりの夏服を用意した方が いいわ」 「用意するって..どうやって」「そうよ。誰かに借りるのも難しいわよ」 「借りるんじゃないわ。作ればいいだけよ。夏服ならスカートだけ似せて 作ればいいだけのことよ」 「なるほど..そういえば仁美はコスプレ好きだもんな」 「でも、すぐに作れるの?」 「まあ〜それは聞いてみないとわからないけどね〜」「えっ?」 「仁美、あのコスプレって自作じゃなかったのか?」「裁縫はそれほど得 意じゃないわ。いつも、ちおんに頼んで作ってもらってるの♪」 「ちおん?ちおんって矢井中さん?」「あっ、そっか。同じクラスだけど あまり話したことはなかったわよね♪」  矢井中さんの名を聞いて、私も美紗里や蘭たちもいい顔が出来なかった。  何故なら、女子の中で一番暗く無口な性格で、誰かが話しかけても返事 を返さないクラスの中で少し浮いている女子だからだ。  よく考えてみたら愛賀さんとは、ある共通点がきっかけでよく一緒に行 動しており、みんな矢井中さんへの伝言は愛賀さんにお願いしていたかも 知れない。  ちなみにある共通点は、あまり人前で言えないことであり、その事が尚 更、女子たちを敬遠させる元にもなっていた。  けど、コスプレの服も作っていたとは驚きかも.. 「ちおん〜♪ちょっと、こっちきてきてぇぇ〜」「・・・・・・・・・」  愛賀さんの声を聞いて無言で私たちのところへやってきた矢井中 知緒 (やいなか ちお)さん。ちおんというのは愛賀さんが付けたニックネー ムだろう。 「ちおん、この学校の夏服を作るならどれぐらいかかる?」「う〜ん.. あの学園ものを流用すればいいから..そんなにはかからないけど」  無口で有名な矢井中さんが愛賀さんの質問にすぐに即答してきている。  正直、私たちは矢井中さんが喋るとこを見たことがなかったら驚いてし まった。 「新宮さんの夏服なんだけど..大丈夫?ちおん」 「…新宮さんのなら、すごく頑張るっ!」「えっ?」 (私、話したことないけど..そういえば、周兄さんは普通に挨拶できた っていってたけど..) 「周知さま..コホン、周知さんがお慕いする新宮さんの為に頑張るっ! 寸法がわかれば簡単..これぐらいで仕上げられるけど」  そういって指を3本立ててきたので、私たちは思わず3日と思って愕然 した。 「3日か..やっぱり借りないと駄目だな。さっちん」「そうね..蘭」 「3日じゃない..3時間。家庭科室を借りてくれればすぐに仕上げる」 「えっ..3時間って、そんな早く作れるの?」「ヒトミィーの衣装に比 べれば楽」 「そうそう、ちおんを甘く見たら駄目よ〜♪ねぇ〜」「とりあえず家庭科 室なら  私が先生に頼んでくるわ」夏服がすぐに作れると聞いて、美紗里が急い で職員室へ向かった。  とりあえず、愛賀さんと矢井中さんのおかげでほっとした私たちの前に、 なぜか内川さんがニヤニヤしながらやってきた。 「い〜けないんだ〜いけないんだ♪自作制服なんて校則違反よね〜。いく ら紛失したといっても勝手に作るのはいかがなものかしらぁ〜」 「別にいいじゃないか。なあ、仁美」「そうですわよ。ちおんが作ったも のは本物と見分けがつかないぐらい綺麗なのよ」 「そう〜。へぇぇぇ〜矢井中ってそういうことも出来たの?てっきり如何 わしい本ばかり作ってる腐女子だと思ってたけどぉぉ〜うっふふ」 「・・・・・・・・・」 「えっとぉ〜あんまり、ちおんを怒らせない方がいいと思いますわよ。こ う見えても、”ちおんの紅い縫製”と恐れられているんだからぁ〜」 「あっはははは〜何それぇぇーーちおんの紅い縫製?馬鹿っじゃないのっ! 良かったらいい精神病院紹介してあげるわよっ。あっはははは...」  腹を抱えて笑っている内川さんに矢井中さんが近づき、何かシュッシュ ッと素早い音を出した直後、とんでもないことが起こったのだ。  パラッ〜パラパラッ・・・・・「えっ?」  内川さんの足元にどこかで見たような布切れがぼろぼろと落ちていく。  それは良く見ると夏服であり、何と一瞬の内に制服の縫い目をほとんど 解いてしまったらしい。  いや制服だけではなかった。布切れの中には制服とは違うものもあり、 それはブラとショーツであることはすぐにわかった。  まるで漫画のように制服と下着をバラバラにされて真っ裸になってしま った内川さんが、すぐにしゃがみこんで悲鳴を上げた。 「きゃあぁぁぁっ!み・見ないでぇぇーーみないでぇぇ!」  全裸にされた内川さんが涙目でこっちを睨み付けてきた。これはとんでも ない波乱が起きそうです。


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