第4話「賽は捨てられた」


 前回に引き続いて、何故かまた私、紺屋 麻希(出席番号6番)が物語 の解説役に選ばれてしまった。  これも普通の女子である所以なのか..こういう役でないときっと出れ ないんだと思う私である。  キンコーン、カンコーン♪ 【柔紀】「授業おわり。みんな、来週から試験が始まるからちゃんと予習・ 復習しとくように。以上」 【麻希】(ううぅ、試験か..高校初の試験だから緊張しそう) 【柔紀】「1つ言っとくけど、各自クラスの平均点を下げないように勉強 しておいてね。学年最下位のクラスは校内掃除かっこトイレも含むをする ことになるからね」 【麻希】(うそぉぉ〜。トイレ掃除なんて嫌よぉぉーー。でも私は普通の 成績をキープしてしてるからクラスの足を引っ張らないよね?) 【美紗里】「先生っ、校内掃除かっこトイレ含むの話、本当なんですか?」 【柔紀】「ああっ、この学校では恒例だそうよ。校長がいってたわ」 【凛】「ちっ、あのタヌキの考えそうなことだぜ」 【沙智菜】「あ〜ん、トイレ掃除なんかやりたくないよぉぉぉーー」 【悠子】「さっちんの言うとおり、私もトイレ掃除したくない・・・」 【蘭】「2人とも大丈夫だよ。試験なんて適当に書けば当たるって」 【沙智菜】【悠子】(・・・もう、決定かも..)  新宮さんたち以外のクラスメイトも義岡さんの言葉を聞いて、一斉にた め息を吐いていた。  でも、まだ希望は残っているのかもっ。何だって、このクラスには頭の いい女子が何人かいるんだもの。  特に信谷さんは入学試験学年2位だから頼りになるかもぉぉぉーー。   【凛】「はぁぁ〜、ここは信谷さんに頑張ってもらわないとな..けど、 問題はそれを邪魔しようとしている蘭を何とかしないとな」 【蘭】「なぁなぁ。あたしも試験頑張るから、いろいろ教えてくれよ」 【美紗里】「ん、いいけど..何を教えて欲しいの?」 【蘭】「歴史が好きだから、試験で出る歴史の人物がいいなぁ〜」 【美紗里】「今回の試験範囲は戦国時代だけど..蘭、あんた誰か知って るの?」「バカにするなよ。こう見えても戦国時代は得意なんだぜ」 【美紗里】「そうなの?じゃあ、織田信長はどうなったか分かる?」 【蘭】「そんなの常識だぜ!本能寺だろ?」「「「おおぉぉぉぉーー」」」  義岡さんの言葉にクラス一同が驚いて喝采の拍手を送る。これなら問題 ないとみんなが思ったのだが... 【蘭】「”本能寺が変”は常識だぜ!なぁ、さっちん」 【沙智菜】「・・・蘭ちゃん、ちょっと違うような..」 【美紗里】「蘭..本能寺で何かあったか教えてくれるかしら?」 【蘭】「そりゃ、本能寺を見て言ったんだろ。変だから、燃やしてしまえ ホトトギスと」「凛っっ!この蘭を何とかしてぇぇーー」 【凛】「蘭、接続詞が間違ってる。”が”じゃないんだよ」 【蘭】「そうなのか?じゃあ、本能寺は変?本能寺に変?」 【美紗里】「ああぁぁっ〜〜、私の他にも勉強分かる人いるんだからぁぁ、 別の人に聞いてよぉぉぉーーー!」  うわぁぁ、頼りの信谷さんが壊れていく..やはり、この義岡さんを何 とか出来るのは入学試験学年3位のあの人かも知れない。 【内川】「悪いけど、お断りするわ。他人にかまってる暇などないわ」  あっさりと入学試験学年3位の内川さんが状況を察して断ってきた。 【取り巻き】「そうですよっ、蘭なんかに教える必要なんてないですよっ。 でも私たちには勉強を教えてくださいぃぃっ」 【内川】「それもお断り。自分たちで何とかしなさいっ」 【取り巻き】「そんなぁぁぁーー、私たちあっての内川さまですよぉぉー。 こういう時こそ是非、救いの手をぉぉぉーー」 【内川】「うるさいわねっ!私は勉強中なのっ!あんたたちに構う暇もな いのよっ!」 【取り巻き】ガァァァァァーーンン「ひ・ひどいです..内川さま..」 【内川】「ふんっ」  どうやら、今の内川さんは本当に勉強以外には興味がない感じだけど、 蘭と同じぐらい成績が悪い取り巻きたちは何か可哀想かも.. 【取り巻き】「内川さまぁぁぁぁーー」 【内川】「しっしっ、私は勉強中っ!」「ううぅぅ・・・ひどいです」 【壱郷】ぴょこっ「お2人さん..私は、あなたたちを決して見捨てません」 【取り巻き】「い・壱郷さん..」じぃぃーんん。 【壱郷】「今日から、私のことを新・内川と呼んでください」 【取り巻き】「新・内川さまぁぁぁぁーー」 【内川】「・・・・ふんっ、勝手にしなさい」  本来なら怒るはずの内川さんが何故か怒らず、黙々と勉強を続けている。  おそらく、ていのいい厄介払いが出来たと思ってるのだろう。  しかし、相手の隙を突いて入ってくる壱郷さんは怖いです.. 【壱郷】「さて。新・内川となったからにはいぢめをしなければなりませ んね」「おおっ、さすが新・内川さまぁぁぁぁーー」 【壱郷】「では、さっそく悠子をいぢめます」「おおおっ〜〜〜!」 【悠子】「えっ?ええぇっ、私をいじめるって..」 【壱郷】「新・内川です。悠子をみんなで思い切りくすぐりましょう」 【悠子】「あはははははははは〜、きゃはははははは〜〜ひゃはははは・・・」 【取り巻き】「さすが新・内川さま、えげつないいじめです」 【壱郷】「もちろんです。では筋肉がほぐれた悠子をさらにいぢめましょ う。みんなで身体を揉みつくしましょう」 【悠子】「はぁぅぅっ〜、気持ちいいぃ..すごくリラックスするよぉ〜」 【壱郷】「これぞ筋肉いぢめです。かなりのリラックス効果が得られます」 【麻希】(と言うのか..ただのマッサージのような..) 【取り巻き】「素晴らしいですっ、新・内川さま。これは悠子に悪い点を 取らせるためのいじめなんですねっ」 【壱郷】「そうかも知れません。大正解だと思うので皆で走りましょう」 【取り巻き】「はい、どこまでも付いていきます。新・内川さまっ」 【凛】「・・・内川、いいのか?ほっといて」 【内川】「ふんっ、こっちは試験に集中できるから大助かりだわ」 【凛】「それなら、いいけどな..」(だんだん暴走しそうだけどな..) 【堂華】ガラッ「ひっく、4組の女子〜、もう次の授業の鐘はなったぞ〜。 さっさと席に座れぇぇ〜」 【蘭】「あっ、酔いどれ教師」 【沙智菜】「ちょ・ちょっと蘭、そういうことは口にしちゃ..」 【堂華】「ひっく、新宮。私のことは気にしなくていいぞ〜」 【沙智菜】「えっ?いつもは怒ってきませんか?」 【堂華】「何を言ってるの?義岡さまにこの酔っ払いが文句言うわけない じゃない〜。今度のテスト、先生応援してるからな、義岡さま」 【蘭】「あははっ、先生にそう言われると照れるなぁぁ〜」 【堂華】「分からない時は適当に書けばいい。テストなんてそんなもんよ」 【蘭】「そうだよなぁぁ〜、先生よく分かってるじゃないか〜」  堂華先生が本気で義岡さんのこと応援してるけど、きっと3組のためを 思っての行動だろう。3組ってそんなに頭いい生徒がいないから.. 【堂華】「信谷、内川。試験の日に体調が少しでも優れなかったらすぐに 休んだ方がいい。テストなんかのために身体を壊すなんてバカらしいぞ」 【蘭】「そうだよなぁ〜。先生、私も不調の時は休んでいいかな〜」 【堂華】「這ってこいっ!義岡、あんたは死んでもこい。欠席は許さん」  うわぁぁっ、本気で義岡さんに期待しているよぉぉ〜〜。  堂華先生、コロコロ態度が変わりすぎだよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜。 【壱郷】「先生、走ってきました新・内川です」 【取り巻き】「はぁはぁはぁ...はぁはぁはぁ...」 【堂華】「新・内川?そっか、いつもの遊びか..新・内川で構わないか ら、さっさと席座りなさい」 【壱郷】「はい..新・内川なので早弁していいですか?」 【内川】ぶっ!「何で私が早弁キャラなのよっ」 【堂華】「好きにしたらいいわ。どうぞ、新・内川さん」 【壱郷】「ありがとうございます。では新・内川なので食べたあとで早便 していいですか?」 【内川】ぶっ!「先生ぃぃっ!1号に注意してくださいっ!」 【堂華】「ひっく。いちいち壱郷の言動にかまってやれるか。内川も気に するな」「そ・そんなぁぁぁーー」 【壱郷】「先生、新・内川なので用を足したあとで悠子に早鞭していいで すか?」「ええっ?早鞭って..(ドキドキ)」 【取り巻き】「さすが新・内川さまですっ、SMもマスター済みなんですね」 【内川】「先生ぃぃっ〜、このバカ3人を何とかしてぇぇーー」 【堂華】「ひっく。だから、構うな。さあ、授業をするわよ」  堂華先生も柔紀先生のように結構、見て見ぬふりをしてくる先生かも..  それにしても大事な試験の前だから、内川さんのペースを壊して欲しく ないよね。  けど、この後の休み時間でもっと大変なことが起きたのです..  次の休み時間..ふと教室内を見渡すと、あり得ない光景が映っていた。 「あうあうっ、あうあうっ!」 【美紗里】「えっと..私、悪い夢を見ているのかしら..」「あうっ」 【凛】「いや..現実だろう..まあ、現実逃避はしたくなるな」「あうっ」 【蘭】「はふっ、はふっ。超々可愛いぃ〜」「あうっ」 【沙智菜】「いったい..誰が校舎に持ち込んだの?」「あうっ」  教室内に響くあうっあうっの声。そう、これは動物の鳴き声であり教室 中にはずっとあうっあうっが鳴り響いていた。  ガラッ!「あのぉぉ、すいません。こちらにランちゃんが来てませんかぁ〜」 【蘭】「はふっ?」「あうっ?」 「ああぁっ、ランちゃん探したわよぉぉ〜。4組に逃げちゃダメでしょ」 【蘭】「はふっ」「あうっ」 【美紗里】「あなたは2組の銅武さん?」「はい、銅武です」  4組にやってきたのは2組の銅武 津栖紀(どうぶ つすき)さんであり、 よく学校に自分のペットを連れ込んで問題になっている女子であった。  まあ犬や猫なら分かる気がするけど..あうっあうっを連れてくるのは どうかしてるわ.. 【津栖紀】「わ・私、校則違反してませんよ。学校に犬・猫・鳥は持ち込 むなと書いていますけど、ランちゃんはアシカなんですから」 【凛】「いや..アシカを持ち込む自体、おかしいだろ..」  そう、銅武さんが持ち込んだのはアシカであり、明らかに常識がズレて るような気がする。 【津栖紀】「でも..このランちゃんはアシカでも頭いいんですよっ!」 【美紗里】「頭いいって言われてもね..所詮、アシカでしょ」 【津栖紀】「ひどいです。じゃあ、このランちゃんに何か問題を出してく ださい。言葉は喋れませんが口でマジックを咥えて答え書きますから」 【美紗里】「馬鹿馬鹿しいわね..じゃあ、こういうのを答えられるって ことね。徳川と豊臣が戦った天下分け目の戦いとは何でしょう?」 【沙智菜】「ちょっと美紗里っ、そんなのアシカに答えられるわけないで しょぉぉー」 【蘭】「そうだぜ。ちなみにあたしは知ってるぜ。席が腹の戦いだろ?東 軍と西軍が一斉に席に座って大食い勝負をしたんだろ?そういや、どっち が勝ったんだって、悠子?」 【悠子】「えっと..その..それは..」 【凛】「いちいち答えなくてもいいわよ。疲れるから」 【蘭】「何だよ凛。あたしの答えがおかしいって言うのか?」 【凛】「そうだな。笑いを取るにしても不十分だ」「何だとぉぉ〜」 【津栖紀】「あのぉ〜、ランちゃんが答えを書くので静かにしてください」 「あうあうっ」カキカキッ、カキカキッ。  アシカのランちゃんが器用に口にマジックを咥えながら紙にこう書いて いった。  ”当初、西軍の圧勝となるはずの戦いであったが小早川秀秋等の裏切り などもあって結果としては東軍の徳川の勝利となった関が原の戦いのこと である” 【美紗里】「・・・・・・・」【凛】「・・・・・・・」 【蘭】「小早川って何だ?そんな奴いたか?」 【美紗里】「蘭っ、何いつまでもそこにいるのよ。席に座りなさい」「あうっ」 【凛】「そうだぞ。ほら、いつまでもあうあう言わないで」「あうっ」 【蘭】「ちょっと待て、お前ら。そいつはアシカだろ。なあ、さっちん?」 【沙智菜】「蘭ちゃん、そのマジックカッコいいね〜」「あうっ♪」 【蘭】「おいっ、だからアシカだって。悠子、何とか言ってくれ〜」 【悠子】「蘭ちゃんの鳴き声、可愛いね」「あうあうっ」 【蘭】「悠子ぉぉ、お前もか!」  何かみんなしてアシカを新・義岡さんにしようとしているわ..まあ、 気持ちは分かるけどなぁ〜。 【柔紀】「ん?お前ら、何でアシカを教室に連れ込んでいるんだ?こっち は授業の代行を頼まれて頭にきてるんだからな」  どうやら次の数学の先生が休んだせいで、担任の柔紀先生が代わりに来 たらしい。 【壱郷】「先生、新・内川の壱郷です。彼女はアシカではなく、新・義岡 さんとなりました」 【柔紀】「新・義岡?また、何かくだらないことをやってるのか..授業 の邪魔だから早くどっかに連れていけ」 【津栖紀】「柔紀先生、授業の邪魔なんてひどすぎます。こう見えてもラ ンちゃんは頭いいんですよ」 【柔紀】「2組の銅武さんか..そうか、あなたが持ち込んだのね。大体、 アシカに何が解けるって言うんだ」 【津栖紀】「ひどいですっ!じゃあ何か海外の言葉で問題を出してくださ いっ。解いてみせますから」 【柔紀】「ふふっ、海外って言ったわね。じゃあ、これを答えなさい」  そういうと柔紀先生が英語ではないどこかの国の言葉で質問してきた。 【沙智菜】「今の何語なの?美紗里」 【美紗里】「う・うそっ、今のはフランス語よ。それも完璧な発音よ」 「あうあうっ」カキカキッ、カキカキッ。  アシカのランちゃんが再び、器用に口にマジックを咥えながら紙に何か 変な線みたいのを書いていった。 【蘭】「あははっ、やっぱりアシカだな。ぐちゃぐちゃの線書いてるよ」 【柔紀】「・・・それはドイツ語だ..それも正解だ」 【蘭】「えっ、これがドイツ語?いったいどいつの言葉なんだいってか」 【凛】「蘭、すべってるぞ..」【柔紀】「・・・・・・・」 【麻希】(何か..いやな展開がきそうかも) 【柔紀】「新・義岡、やれば出来るじゃないか。テスト期待してるぞ」 【新・蘭】「あうっ♪」【蘭】「先生、ひどいぃぃ〜」 【津栖紀】「ランちゃん、そろそろ2組に戻るわよ。せっかくリーさんが 新作の極上中華まんをたくさん用意しているんだから」 【蘭】ピキィィィーーン「!!はうっ、はうはうっ♪」 【津栖紀】「えっ?あ・あのぉぉ〜、義岡さんじゃなくて..」 【蘭】「はうはうっ♪新・アシカだよぉ〜はうはうっ」 【凛】「ということだ。銅武さん、悪いがしばらく2組に連れてやってくれ」 【津栖紀】「は・はぁ..?そういうわけなら..」 【蘭】「はうはうっ、はうはうっ♪」  こうして義岡さんが本当に2組に連れていかれちゃったけど、本当にい いのかしら、これで?(中華まんのために人の尊厳、捨てているよね..)


【人物紹介】C
内川 祐華(うちかわ ゆうか)出席番号:03
 女子いじめグループの頭であり、他のクラスの女子をターゲットにして
いじめをしている。クラス内では悠子をよくいじめている。
 実は頭もよく、学年でもトップ3の秀才(3位)に入り、容姿もいい。
 他のいじめをする女子と違って見極めがいいことから、クラスの女子た
ちには手を出してこないのだろう。

<おまけ>
【壱郷】「新・内川なので、これから宿敵の蘭を手なずけます」
【取り巻き】「す・すばらしいですぅ〜。新・内川さまぁぁぁ」
【壱郷】「お手っ!」「あうっ」「お座りっ!」「あうっ!」
【取り巻き】「すごいですよ。あの蘭がいとも簡単に新・内川さまの命令
を聞いているなんて..」じぃぃーん
【壱郷】「新・内川ですから、朝飯前です」「あうっ」
【取り巻き】「一生、走ってついていきます〜。新・内川さまぁぁ〜」
【内川】「おいっ!ただアシカを手なずけているだけだろっ!」

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