第3話「普通の考え、やすみに似たり」


 私の名は紺屋 麻希(こうや まき)、出席番号6番のごく普通の女子 高生である。  もちろん成績も普通、容姿もスタイルも標準。目立つ特技もなく週末は 友達とカラオケに行って歌いまくると普通の学園生活を過ごしている。  中学まではこんな普通な生活を苦とも思わなかったのだけど..  高校生になってから何か普通って言葉がだんだん嫌になってきた。  何せ、私がいる1年4組は普通と言える女子がいないからだ。  そう、気がつくと担任までも普通じゃないのがやってきたのであるから。  キンコーン、カンコーン♪ 【柔紀】「えっと、これから出席は取るけどホームルームはクラス委員に 任せて私は出かけます」 【美紗里】「はぁ?それはどういうことですか!先生?」 【柔紀】「朝食食べ忘れましたので中華まん買ってきます」 【蘭】「先生っ、私肉まんとあんまんとカレーまん」「1つずつでいいか?」 【美紗里】「蘭っ!何、頼んでいるのよっ」 【蘭】「中華まんだよ。ホカホカだよ。ちゃんとお金も出すって」 【凛】「そういう問題か..」 【麻希】(いつものどんちゃん騒ぎが始まった..) 【沙智菜】「蘭、ダメよ。先生におつかいを頼むなんて」 【蘭】「ぶーぶー、だって中華まんだよぉ〜ホカホカだよ〜」 【柔紀】「だから買ってきてあげるわよ」 【美紗里】「先生っ!ホームルームを抜け出さないでください」 【蘭】「固い事いうなよぉ〜、美味しいんだよ〜、中華まんなんだよぉ〜」 【凛】「だから..そういう問題か..」 【壱郷】「走って買ってきていいですか?」「いや、私が買いにいくから」 【取り巻き】「内川さまっ、今こそ先生をパシリに使えるときですよっ!」 【内川】「いや..別にそこまでして中華まん食べたくないから」 【蘭】「あ〜〜、中華まん食べたい、たべたい、たべたいよぉぉぉー」 【柔紀】「買いにいくって言ってるでしょ」 【美紗里】「ダメですからねっ!先生」 【壱郷】「走って買ってきます..」「行くなっ!」 【取り巻き】「内川さまっ、いざ出陣を!」「うむ、ご決断を」 【内川】「あんたたち、趣旨違ってるでしょ!」 【蘭】「ああーーー、お腹が減ったよぉ〜。中華まん買ってきてくれー」 【凛】「もう誰でも買ってきた方がいいわ..」 【柔紀】「つまり、みんなの分、買ってくればいいのね?」 【美紗里】「だからダメ!蘭も我慢しなさい」 【壱郷】「買って走ってきました..みんなの分、ありますからどうぞ」 【美紗里】「いつの間にこの子は..」 【柔紀】「ごめんね。壱郷さん」「先生は肉まんをどうぞ..」 【沙智菜】「ありがとう、壱郷さん」「新宮さんはあんまんです」 【蘭】「おおっ、エビだぁぁーエビまんだぁー」「はい、エビまんです」 【内川】「おい..これは何だ..」「・・・・最近、流行の中華まんです」 【取り巻き】「!内川さま、何か紙みたいのが入ってますっ」 【壱郷】「某国で有名なダン●ールまんです」 【内川】「くえるかっ!って言うか、どこで買ってきたのよっ」 【壱郷】「お気に召さないようで、すいません。では、こちらの新鮮冷凍 ギョーザと交換します..某店で買ってきた謎の穴つきなのでバッチリです」 【内川】「もういいわよっ!私に関わるなっ」「それは残念ですので走っ てきます..」 【麻希】(はぁぁ..やっぱり話には入れないわ..)  そう、私にはとても彼女たちの会話に入り込む勇気はなさそうです。  特にあの壱郷さんとはとても知り合いになれないと思うわ。 【壱郷】「そんなことないと思いますよ。あっ、走ってきました壱郷です。 親友になりたい方はこちらの入会用紙に記入していただければすぐに友達 です。あと、ツボは好きですか?」 【麻希】「か・考えておきます..」「そうですか..」  ううぅ、人の思考に勝手に突っ込んでこないでよぉぉぉーーー!  やっぱ、壱郷さんとは関わることなんで出来ないかもぉぉ〜。  でも、そんな壱郷さんにわざわざ絡んでくる女子もいるから、驚きとし か言えないよね。  ホームルームが終わり休憩時間になると、さっそく噂の女子2人が他ク ラスだというのに壱郷さんに会いにきたのであった。 「おはよう、壱郷さん」「にーはぉ〜♪」 【壱郷】「おはようございます」 「今日こそは、その自信たっぷりの鼻を明かしてあげるわよっ!放課後、 100m走で負かしてみせるわ。そしてトップの座は返上してもらうわ」 【壱郷】「望むところです」  あの壱郷さんに宣戦布告をしてきたのは2組の荷剛 隼乃(にごう は やの)さんであり、中学時代はあやゆる陸上競技でトップの座を維持して いたスーパー陸上少女であったが、高校に入ってからはその記録を全て壱 郷さんに塗りつぶされて、2位の座に転落してしまったそうだ。 【荷剛】「あんたには分からないけど、あなたのせいで私は屈辱の日々を 過ごしているんだからねっ」 【壱郷】「それは悪い事しました。お詫びにこの新鮮冷凍ギョーザを差し 上げます..」 【荷剛】「いるかっ!こっちはあんたのせいで、いつも2号って呼ばれて るんだからね。これほどの屈辱はないわよっ」 【壱郷】「”にごう”ですか..それはすいません」  いや、そこは謝らなくてもいいような..荷剛さんだから、にごうさん って呼ぶのが普通だけど..他にどう呼べばいいのよ。 「あはははははははははっ、2号ダー!2号ダー!2号2号っ」 【荷剛】カチンッ「黙れっ、リー!」「あはははははははっ、嫌でぇす」  荷剛さんの隣で大声で笑っているのは同じ2組の女子であるヴィス・リー (ぶぃす りぃ)さんで、香港からきている留学生だ。  よく荷剛さんと一緒に行動しているが陸上選手ではなく、ただ荷剛さん のことをすごく気に入って付きまとっているだけのようだ。  ちなみに外見的特長としてはバレー選手と思うぐらいの長身で、あとは ものすごい大声で喋ったり笑ったりするところだろう。  小柄の荷剛さんと並んでると、余計にリーさんが大きく見える感じだ。 【リー】「あははははははっ、今日も2号の負けなのダー!」 【荷剛】「今日こそ勝って、2号の名を返上してやるんだからっ!」 【リー】「でもぉ〜、2号ちゃんは2号ちゃんだよぉ〜。荷剛じゃないの?」 【荷剛】「そりゃ..本名は荷剛だけど、あんたらの発音は絶対に2号っ て言ってるんだよっ!」 【リー】「そんなことないよぉ〜。リーはちゃんと2号って言ってるからぁ」 【荷剛】「だから2号って言うなぁぁ〜。荷剛って言えぇぇー!」  何かすごく難しい注文のような気がするのは私だけではないでしょうか?  まあ、人から2号って言われる辛さは分かるけど.. 【荷剛】「そういうわけだから、明日からは誰にも2号って言わせないか らね。もちろん、壱郷!あんたにもね」 【壱郷】「私は最初から2号って呼んでませんよ」「うそだっ!」 【壱郷】「嘘ではありませんよ」「じゃあ、私のこと何て呼んでるだよっ!」 【壱郷】「一文字さんです」「!!!!!」 【リー】「あははははははははははっ、一文字だってぇぇー」 【荷剛】「何か2号よりもすごく悔しい気がするぅ..」 【壱郷】「そんなことないと思いますよ、一文字さん」「一文字って言うな」 【壱郷】「将来はカメラマンですか?一文字さん」 【荷剛】「てめー、明らかに嫌味で言ってるだろ!」「違いますよ」 【リー】「あはははははははっ、一文字ぃぃー!一文字ぃぃー!」 【荷剛】「てめーだって、続けて呼べはV3だろっ!このブイスリーやろう」 【リー】「いいですよぉ〜。V3憧れのヒーローだから嬉しいのダー」 【荷剛】「きぃぃーー!何かその言葉がむかつくぅぅーー!今日の100m 走は絶対、勝ってやるからなっ!」 【リー】「あはははははっ、期待してるよ〜。でも2号ちゃんの走りは、 ちょっと雑すぎるよね?」 【荷剛】「私の走りはパワーなんだよ!雑じゃないんだよっ」 【リー】「そうなんダー。力の2号ちゃんなのねぇ〜」「力の2号って言うな」 【壱郷】「力ですか..でも私もコーチに改造されてパワーアップしてます」 【荷剛】「改造って何だよ..」 【壱郷】「今の私は48の走り技を持っています。技の1号と呼んでください」 【荷剛】「そんな名で呼ぶかぁぁー!」 【リー】「じゃあ、私は力と技のV3ダー!あはははははっ」「てめぇぇー」  何か3人ともすごい独特な味を出してるよぉ〜。やっぱり、あういう人 たちを見ると私がどれだけ普通が身にしみて分かってしまいそうだよぉ〜。 【リー】「あっ、そうダ!さっきの中華まん、渡してくれましたかー」 【壱郷】「はい、渡しました。皆さん、喜んでました」 【荷剛】「相変わらず大量の中華まんを持ち込んでいるのかよ..」 【リー】「中華まんはリーのエネルギーなのダー。校内のあちこちに蒸し 器を置かせてもらっているのダー」「そんなの置くなぁぁー」 【リー】「そうダー、好評ということで皆さんに追加の中華まん、差し入 れしますね〜」  そういってリーさんが、下に置いてあった大袋を持ち上げて中に入って いた中華まんをサンタクロースのように4組の女子たちに配り始めた。  っていうか、あの大袋の中って全部、中華まんなの?リーさんも相当、 おかしな人かも知れない.. 【リー】「はい、凛たんにはピザまんです」「あ・ありがと..」 【沙智菜】「リーさん、ありがとう」「新宮さんは栗まんです」 【蘭】「おおっ、豚まんだぁぁー豚まんだぁぁー」「はい、豚まんです」 【内川】「おいリー、これは何だ..」「癖になる中華まんダー」 【取り巻き】「!内川さま、やはり紙みたいのが入ってますっ」 【リー】「某国で作ってもらった有名なダン●ールまんダー」 【内川】「さっきのもあんたの仕業かっ!どういうつもりよ?」 【リー】「嫌いなおめぇに食わせる中華まんはねぇ!」 【内川】「そこまでストレートに言われると変に納得するわね。けど、そ こまで私に言って、どうなるか分かってるでしょうね?」 【リー】「それはとっても怖いのダー、怖い時はカカトおとしダァー」  そういってリーさんが内川さんの目の前で片足を頭上に上げると、次の 瞬間には内川さんの机目掛けて打ち下ろしてきた。  一瞬のうちに机が谷折の状態で真っぷたつになり、緊張した雰囲気とな ったが、意外に内川さんの方が落ち着いていた。 【内川】「穂耶紀、新しい机を持ってきなさい」「はい、内川さま」 【リー】「あははははははっ、ずい分落ち着いてるのダー」 【内川】「机が壊れたのは今月で5度目だからよ。4度はそこにいるバカの 仕業だけどね」 【蘭】「豚まんも超々美味しいなぁぁ〜〜〜。リーさん、もっとプリーズ」 【リー】「あはははははっ、いいですよぉ〜。蘭たんとはいいお友達にな れそうですぅ〜」 【内川】「ふんっ、今に見ていなさい。リー」 【リー】「う〜ん、怒らしすぎましたかぁ〜。じゃあ、変り種の中華まん 差し上げますね」「ふんっ、そんなの要らないわよ」 【リー】「そうですかぁ〜。もち米の皮で作った和風あんまんですが、要 らないのですねぇ〜」「!も・もち米の皮ってまさか..」 【リー】「さくっと焼いた皮の中に餡を入れるのが特徴です。その名も最 中まんです」「も・も・もなかまんっ」 【麻希】(って言うか..それって中華まん風のモナカでしょ!) 【リー】「中国3千年の焼きのテクで作った至極の最中まんですよぉ〜。 要らないなら、蘭たんの口に放り込むのダー」 【蘭】あ〜ん「ぷりーずぅぅー、ぷりーずぅぅー。放り込んでくれぇぇ」 【凛】「恥も外見もないやつだな..」 【リー】「じゃあ、放り込んじゃうのダー」「ああっ、待ってぇぇー」 【リー】「どうしましたか。私の嫌いな女」「・・・・」 【内川】「嫌いで結構だから..その最中、く・ください」「ヨロシイ」 【麻希】(リーさんって、すごくしたたかな人かも知れない..) 【リー】「蘭たんには代わりの極上肉まんを投げるのダー。アシカのよう に口を開けてどんどん食べるのダー」ぽいっ、ぽいっ♪ 【蘭】ぱくっ、ぱくっ「超々美味しいぃぃー。もっとぷりーずぅー」 【凛】「食べ物のためなら人としての尊厳を捨てるのか..」 【荷剛】「おいっ、リー。そろそろ2組に戻るぞっ」「ぶーぶー」 【荷剛】「ぶーぶーじゃねーよ。用事は済んだんだから帰るぞ」 【リー】カキカキ「そんなこと言うと、勝利の陣を描いちゃうぞぉ〜」  そういうとリーさんが荷剛さんの背中に何か法陣みたいのを指で描きは じめた。 【荷剛】「一度聞こうと思ったけど、よく私の背中に描いてる勝利の陣っ て何なんだよ」 【リー】「陸上選手にはとても有利になる陣を描いているのダー」 【荷剛】「有利?何だよ、それっ?」 【リー】「走るのに邪魔なのを無くす陣なのダー。わかった?」 【荷剛】「分からないよ。隙あると描いてるけど何か邪魔なんだよ」 【リー】「おっぱいとアンダーヘアーダー♪つるんぺたんの陣なのダー」 【荷剛】「!!!!!て・てめぇぇぇー」  よく見ると荷剛さんって、かなり胸が小さいようだけど、まさか本当に 下の毛もないのかな.. 【リー】カキカキ「つるんぺたんの陣ダー!つるんぺたんの陣ダー!」 【荷剛】「や・やめろぉぉー、やめろぉぉーー!」  リーが描く陣を必死に止めようとする荷剛さんとは別に、私のクラスで もおかしな雰囲気を出してる女子がいた。 【取り巻き】「内川さま〜、新品の机を持ってきましたぁ〜。何か青ざめ てますが、どうしましたぁ」「な・な・なんでもないわよ..」ぞくっ〜 【沙智菜】「美紗里?何か急に顔が青ざめているけど、気分が悪いの?] 【美紗里】「だ・だ・大丈夫よっ..」ぶるぶるっ.. 【荷剛】「や・やめろぉぉー、4組の誰か止めてくれぇーー!」 【リー】「あはははははっ、勝利の陣ダー、勝利の陣ダー♪」 【柔紀】「ん?そこの2組の女子!もう授業が開始するぞ。さっさと自分 の教室に戻れっ」「先生ぃぃーー、このリーを何とかしてくれぇー」 【リー】「あはははははっ、いっぱい勝利の陣描くのダー♪」 【荷剛】「お願いだから、止めてくれぇぇー」 【リー】カキカキ「あははははは、つるんぺたんの陣ダー!」 【柔紀】「あまり関わりたくないが、一言言っておく。それ、つるんぺた んの陣ではないぞ」「えっ?」「嘘ダー」 【柔紀】「早知華ってやつが良く使ってたのと同じでな。それっ、性感向 上、濡れまくりの陣だぞ..」「ぬ・ぬれまくりぃぃー」ガァァァァーン  何か先生にトドメを指された感じで暗い表情で自分の教室に戻った荷剛 さんであった。  でも、また新たに変な雰囲気を出してる女子がいたのであった。 【沙智菜】「だまされたぁぁ〜〜、だまされた..元気になる陣じゃなか ったのね..ずっと濡れまくりの陣を描いていたのねぇぇぇーー!」  真偽のほどは分からないけど、効果が出ていたとしていたら新宮さんは 性感向上、濡れまくりにされてるかも知れない。(ま・まさかね..)


【人物紹介】B
紺屋 麻希(こうや まき)出席番号:06
 成績普通、容姿もスタイルも標準な、ごく普通の女子高生。
 普通すぎるせいで目立たない女子であり、標準であることが嫌いなとこ
からいろんな事に挑戦するが結局、普通の枠から抜け出てない。
 高校生になってから、普通さに磨きがかかき、普通であるゆえクラス内
ではいろんな女子から他の女子への伝言を頼まれる。
 悠子の親友でもあるが彼女はいじめられることがない。

<おまけ>
【蘭】「よくことわざで、どうしようもない例えで使われるのがあるよな?」
【悠子】「そうね..いろいろあるよね..」
【蘭】「夜景、死に水なんかもどうしようもないよな?」
【悠子】「夜景?死にみず..えっと、やけいしにみず..」
【蘭】「けど、夜景なんかにどうしてそんなことするんだろ?」
【悠子】「えっと..それ焼け石じゃ..」
【蘭】「まあ手遅れって意味なんだろうな」
【美紗里】「それでいいんじゃないの..繋げれば普通に聞こえるし..」

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