第2話「渡部さんの変化」


 1週間の新人研修を終え、入社してから2週間ほど経った。  運がいいことに渡部さんとは同じ課で働くことになり、僕との関係の方 は研修の時から変わらない感じであった。  あと、席もかなり離れており、僕の方は先輩の仕事に付き添う形で外出 が多いので、1日に2・3回ほどしか渡部さんの姿を見ることが出来ない のが残念だ。  あとで知ったことだが、僕が仕事で外出してる間に渡部さんの身にはい ろいろと起こっていたらしく、当然ながら会社に入ったばかりの僕の耳に は入ることはなかった。  社内カレンダーを見ると明日は花見となっており、僕の告白の気持ちを、 花見が終わった後に確認すると言った渡部さん。  天気の方は明日も快晴で桜も満開となってきているので花見日和だろう。  社会人初めての僕にとっての花見はワクワクするものがあるのだが、何 故か、先輩や部長の顔も、花見が近づくに連れてにやついてきている。  この時の僕はまだ入社したばかりで何も分からず、ただ変な感じでしか しなかった。  また新人親睦会の時みたいに馬鹿騒ぎをするのだろうか?  あの時の野球拳は意外にみんな覚えているらしく、酔って忘れてると思 っているのは渡部さんぐらいであった。 (僕も含めて何人かにおっぱいやあそこを見られたのは内緒にしないと..)  明日の花見では今度こそ、僕が渡部さんを守らないとな..  そう誓う僕だったが、この時の僕が思う以上に事は進んでおり、不穏な 動きをしている先輩OLに気づいていなかった。  先輩OLは先週から花見の準備をしているのだが、男子社員に見せない ようにしながら動いている。  もちろん、新人である僕がこれを追及できるわけはなく、ただ見ている だけであった。  渡部さんも新人女子社員の代表として一緒に手伝っているので、聞くこ とも出来そうだけど、きっと口止めされて話してはくれないだろうな。  まあ、花見の準備内容よりも聞きたいことがあり、それを今日中に聞い てみるつもりだ。  そんな僕の前に丁度良く渡部さんが現れ、明るく話し掛けてきた。 「たっくん(平田の愛称)。おはよっ」 「おはよう。渡部さん」 「明日はお花見ね。天気も花見日和みたいよっ」 「うん。そうだね...」 「たっくん?どうしたの?何か変だぞっ」  そう、僕は一瞬、言葉を失いかけていた。それと言うのも渡部さんの胸 が気になってしまったからである。  別に、この前まではこんな事はなかった。むしろ、何か変なのは渡部さ んの方と言えよう。 「たっくん。見て。蝶々飛んでるよ」明るく窓の方を指差す渡部さんの胸 がぶるんと大きく僕の前で揺れる。  社服の上着が大きく波を打ち、ボタンとボタンの間から胸の一部が見え てしまう。  それもボタンの間の隙間から見えるのは下着ではなく、柔らかなおっぱ いの肌色なのだ。  ドキッ!!(うあぁ!おっぱいが..)  そう、渡部さんはここ数日ブラジャーをしていないのであった。  渡部さんの胸はどう見てもCかDぐらいあり、ブラジャーをしなければ 誰がどう見てもすぐにわかってしまう。  朝は上着の上にベストを着ているからいいのだが、1時間も経つと渡部 さんが自分からベストを脱いでしまうのだ。  この上着がしっかりとした厚着のものなら問題ないが、実際はワイシャ ツに近いもので生地が薄いせいか、ブラが透けてしまうぐらいだ。  ブラが見えるほどの上着でノーブラだと正直、おっぱいが透けて見える のは当たり前だ。  さらにはそれだけではなく、日の当たり具合によっては胸の先の乳首ま で透けて見えてしまうのだった。  現に渡部さんの席は日差しが差し込む位置に座っており、角度によって は胸が透けて丸見えになると社内の先輩たちが噂しているぐらいであった。  だから僕はここ数日、何とか注意しようと思っていたのだが、実際に渡 部さんを目の前にすると、なかなか口に出せないものであった。 (素直に胸が透けて丸見えだよなんて言えないしな..)  今日もこのまま注意できないことに困っている僕に、何と渡部さんの方 から、きっかけを出してきてくれた。 「・・・たっくん?もしかして変なとこ見てるでしょ?スケベ!」 「そんな事ないよ。あ・あの1つ聞きたいんだけど..そ・その..」 「ブラの事でしょ?ちょっと苦しかったから外してたの」 「で・でも、それじゃ目立つし..まずいよ..」 「そう?ちょっとは透けるけど..大丈夫だよ」 「けど..そ・その胸の先が・・・」  僕は思い切って渡部さんの乳首が勃ってる事を言ったのであった。  生地の薄い社服じゃ、勃った途端にすぐ目立つからである。 「!!あはっ..たっくんのスケベッ。そんなとこまで見てたの」 「見てたんじゃない。それじゃ誰が見たって..」 「大丈夫よ。ちょっと擦れて立っただけだよ..」  渡部さんは明るく答えてきたが、自分の胸元を確認しないとこを見ると 恥ずかしくて見れない風にも思えた。 「・・たっくん、そんなに目立ってる?立ってるとこ..」  少し顔を赤らめながら僕に聞いてくる渡部さん。 「いや..そんなには目立ってないよ..うん..」 「そう?それなら良かった..ありがと..たっくん」  本当は凄く目立っていると注意をしたかったけど口には出来なかった。  何故なら僕が言うまでもなく渡部さん自身も気づいていると思ったから だ。上着の布で擦られ続けてる乳首は完全にピンと勃っており、白い上着 を押し上げてはっきりと見えている。  これをノーブラでないと言う方が無理があるというものだ。 「渡部さん..苦しかったらサイズを変えてブラを..」 「ふふっ。ありがと。あさってにはブラを買うつもりだから..」 「ご・ごめん。余計な事、言ったみたいで...」 「・・・たっくんって真面目ね。他の男なんかみんな鼻伸ばしてたよ..」 「ぼ・僕も同じだよ..もっと早く言えれば良かったのに..ずっと言え なくて、胸を見てたんだから..」 「そうね..たっくん、ここ数日って何か言いたかったみたいだもんね.. けど、胸が透けてるなんて言えないのもわかるわ」 「渡部さん..」  くすっ..「本当に真面目なんだからっ..」  どうやら、なかなか話せない僕の為に渡部さんが、自分から話せる雰囲 気を作ってくれたみたいだ。  情けない僕の為にここまでしてくれたんだ..  僕は勇気を振り絞って、疑問に思っていた事を全部、渡部さんに話す事 にした。 「もう1つ聞きにくいことを言っていいかな..」 「いいわよ..」 「その..透けてる社服なんだけど..えっと..」  くすくすっ「んもう、聞きたいことわかってるわよ。この社服、会社が 用意したものと違うんじゃないかってことでしょ?」 「ああ..」  そう、渡部さんが着ている上着は他の女子社員が着ているものよりも生 地が薄い感じであり、その薄さが日を越すことに増してきている。  今日は特に薄く、汗でもかいたら乳首が完全に浮き出そうな気がしてし まう。 「実は社服の方を無くしちゃって..今注文してるの..その間、うまく 誤魔化したつもりだけど、ばれてるのかな..」 「ごまかすって..それなら生地の厚いほうが..」  おかしい..絶対におかしい!これじゃ、わざと見せているような.. 「あ・あのー渡部さん..本当に苦しくてブラを外したの?その社服だって」 「!えっ..な・なんで?」 「何か無理している様な..まさか誰かに?」 「ううん...そ・そんな事ないわ..うん。ないわ..」  渡部さんは僕の問いに急に視線を外した。そうか..やっぱり誰かが渡 部さんに...  僕が少し問い詰めようとした時、渡部さんは急に話題を変えようとした。 「そうだ。たっくん。昨日のドラマ見た。あれ面白かったよね」 「うん。あのー渡部さん。そ・そのー」 「そう言えばたっくんってあの映画見た?ほら、ええっとあの俳優が出て るやつ..」 「・・・・・**が出ている映画?」 「そうそう。あれ評判いいんだって。私も見に行こうかな」  渡部さんはどうやら触れてもらいたくない感じだった。とりあえず明日 は花見だから、その時にでも聞くことにしよう。 「渡部さん。明日の花見、一緒に行かない?」 「ごめん。たっくん。明日の花見..私少し遅れちゃうので1人で行って..」 「渡部さん。用事?」 「ううん。先輩たちのお手伝いで遅くなるだけよ。ほら、新人代表で手伝 っているから..」 「そうか、花見の準備委員だって?」 「うん、それで遅くなるんだ..」 「けど、どうして渡部さんだけ選ばれたんだ?新人の女子はまだ他にもい るのに?」 「そうね..私だけだね。きっと、私が先輩たちに妬まれてるから... そのせいかな」  そう、渡部さんは今年の新人女子社員の中で1番の美人で、男子社員1番 人気の女子社員であったので、常に回りからちやほやされてしまう存在に なっていた。  その為、先輩OLからかなりの反感を買ってしまい、新人の僕でもその 空気が読めるほどだった。  今回のノーブラの件も何か深い関わりがあるのは間違いはないだろう。  しかし正直に言うと、回りのOLと比べるとつい面倒みてあげたくなる ぐらいの容姿を持っている。  現にすぐぶっ切れで怒る鬼の課長も彼女に対しては仏の課長となってし まう。結局そう言う態度を取る男性社員のせいで渡部さんは先輩OLに妬 まれてしまったのかもしれない。  やはり、妬みとノーブラの関連をもう少し確認した方がいいのだろうか.. 「たっくん、何まじめな顔してんの?考え事?」 「渡部さん、ちょっとだけ聞いていい?」 「・・・何?たっくん..」 「もしかして、ノーブラは先輩たちと何か関係がある?」 「・・・な・何言ってるのよ..ただ苦しくて外しただけなんだから」  明るい素振りを見せて否定する渡部さんだが、何か怪しい。  この際、もっと聞いたほうがいいと思った僕だが、とんでもない光景が 目に飛び込み、言葉を失ってしまう。 「えっ!?」 「どうしたの?たっくん?」 「えっと..その..」 「急にモジモジして変だよ。何かあったの?」 「いや、ちょっと胸がチラリと見えたから..ごめん」 「たっくんのエッチ♪けど、私の方が悪いかなぁ..えへっ」  僕は思わず嘘をついてしまった。  いや、何かの間違いだと思いたいから嘘をついてしまったのであろう。  実は、渡部さんのちょっとした動きでミニスカートが軽く捲れてしまい その奥が見えてしまったからなのだ。  わずか一瞬の出来事だが、奥に見えたのは下着ではなく、黒々とした毛 が見えた気がした。  いや、見間違いだろう..きっと黒い下着を僕が勘違いしただけかも知 れない。  ここの会社の女子社員のスカートは短いのがわかっているのだから、下 着を穿かないはずはない。  上は苦しくてブラを外したとしても下はどんな理由があっても脱ぐ女性 はいないからだ。 (いくら何でもノーパンなはずはない..僕がどうかしてたかも) 「たっくん、顔が赤いよ?暑いの?」 「うん、ちょっとね..」 「じゃあ、私そろそろ時間だから、先輩たちの手伝いにいくね」 「・・・うん、渡部さん..妬みなんか気にしないで頑張って」 「うん。ありがと」  渡部さんはそう言うと振り返り、元気に走っていく。  そんな渡部さんの走る姿を見て僕はまた凄くドキっとした。  そう、どう見てもスカートのラインにパンティラインが浮かんでないのだ。  ここの会社のスカートは短いだけではなく、生地も薄いせいで、どうし ても下着のラインがはっきりと出てしまうのである。  ただ、ラインを見せない下着を付けてる女子社員もいるので、これだけ でノーパンと判断するわけにはいかない。 (きっとそうだ..渡部さんがノーパンであるはずはないじゃないか..)  必死に渡部さんがノーパンでないことを自分に言い聞かせる僕に、まる で意地悪な運命が僕にとんでもないものを見せてきた。 「あっ..」コトン..コロコロ..  走っていた渡部さんが胸に挿していたペンを落としてしまい、そのペン を急いで拾い始める。  僕はその時だけ、いけない事だとわかりながらも渡部さんの捲れるスカ ートに目を向けてしまう。  そう、どうしてもさっきのあれが勘違いだという確証が欲しかったのだ。  だけど、ペンを拾うときに軽く捲れたスカートからは渡部さんのお尻の 下側が見えたような気がしする。 (そ・そんな馬鹿な..そうだ..Tバックなのかも..)  絶対にノーパンであることを信じたくない僕に、更なる衝撃的なものま で見えてしまった。  お尻の割れ目の奥に見えるぷっくらとした女性の部分。  それはまさしく性器のような形となっており、見間違いでは説明しにく い部分であった。  でも僕は信じたくない!心の中で必死に自分を言い聞かせたのだ。 (違うっ!僕は何を血迷った事を思ったんだ!きっと見間違いだ!)  僕はあれを見間違いだと信じる事にした。  それらしい形をしていたかも知れないけど、きっと何かの影がそう見え たんだろう。  でも..もし下も着けていなかったとなると事態はかなり深刻なものだ と僕は思っていた。 (明日の花見で必ず理由を聞かないと..でも何か嫌な胸騒ぎがする..)  そう、渡部さんが遅れてくることに僕は何か嫌な胸騒ぎがした。  だがその胸騒ぎは僕の予想をはるかに上回っていたとは思ってもいなか ったのであった。


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