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たくやとマッチング(略) 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2024/03/28(Thu) 08:41 No.4159 
タイトル「たくや、マッチングアプリにハマる」


「キミ、どこかで会った事なかったっけ? いやいや、絶対会ってるって!」

「そこの彼女、これ、カバンから落ちたよ?……え、キミのじゃない?」

「それよりこっちの服がオレの好みだな。よかったら着てみせてくれよ」

「ちょうど2対2だしさ、これから一緒にカラオケにでも行かない?」

「時間ないならアドレス教えてよ。嫌ならすぐにブロックしていいし、ね、いいでしょ?」

「突然すみません。あなたに一目惚れしてしまい、思わず声をかけてしまいました!……あ、待って、話を聞いてぇ!?」



 −*−



「もうやだ……おうちかえりたい……」
「いや〜、噂には聞いてたけど、ここまでくるとさすがに羨ましくないかな〜……」

 執拗に声をかけてくるナンパ男たちから身を隠すように入店した喫茶店で、疲れ果てていたあたしは八重子の苦笑いを前にしても机に突っ伏して思いっきり溜息をもらすことしか出来ずにいた。

 一月下旬の休みの日に、あたしは冬物の服や下着を買うためにクラスメイトの八重子と街まで遊びに来ていた。
 なにしろ卒業する三月まで……下手すると四月に行われる北ノ都学園の入学式ギリギリまで女のまま過ごさなくてはいけなくなったからだ。

『先輩が卒業したらデータ取りが難しくなるんです。お願いします、卒業まで女の身体で過ごしてください!』

 ようやく完成の目途がついた千里謹製の性転換マシーンなのだが、モルモット二号こと弘二を用いた性転換実験では高出力故にたまに爆発を引き起こし、いまいち安定性に欠けている。
 ところが性転換に慣れているあたしの場合だと、装置は暴走することなくある程度安定して起動していた。
 千里としてはその原因を解明し、ついでに性転換後の経過観察して少しでもデータを取りたいらしい。なにせこれまでは女体化しても半月ほどで元の身体に戻っていたので、一ヶ月を超えた経過観察のデータはない。加えて、あたしが卒業すれば毎日会うのも難しくなるので、千里にとって今がデータ取得のラストチャンスというわけだ。
 この一年の間に千里に遭わされてきた酷い目の数々を考えれば断っても良かったんだけど……あたしだって化学部の部長だったのだ。あの先輩を先輩とも思わない千里が殊勝にも頭を下げて頼んできたという事もあって、女のままで過ごすことを了承したのである。

 今回はデータ取りが中断されることに目を瞑ればいつでも男に戻れるし、最も確実に元の体に戻れる性転換薬も用意されているので制作費用のためにあくせくバイトに励む必要もない。それでも男に戻れなくなる危険性はゼロじゃないけど、今までで一番安心はしていられる。
 ただ約三ヶ月もの期間を女の体で過ごす上で、問題となるのが服だ。特に下着がヤバい。以前女になった時、何度も何度も強引に犯される羽目になり(大半は弘二が相手なのだけれど)、元の体に戻れた時には下着も含めて服がほぼ全滅という自体に陥っていた。
 なにせ無理矢理剥ぎ取られたりしてホックが壊れたり引き裂かれたり伸びたり破れたりぶっかけられたり……たまにポッケに入れて持ち去られたり。女でいると着ている服が悲惨なことになるケースが多く、そうやって積み重なる洋服代があたしの財政を圧迫するのだ。

 ただ、今回に関していえば八重子のおかげで思ったほどの――三ヶ月過ごすのに必要な下着や冬服その他あれこれを購入した割には――出費には至らなかった。
 年末年始のセールはとっくに終わっているから期待してなかったんだけど、情報通の八重子は最終売り尽くしセールをやっているお店に詳しく、当初の予定よりもお安く冬服を揃えられたのだ。
 下着に関しては……採寸してもらったらバストが90を軽く超えており、微笑んでいるはずの八重子の視線がやけに怖かったことだけ伝えておく。

 それはそれとして、今回はというか今回も、ナンパ男たちにしつこく付きまとわれたのが非常に鬱陶しかった。
待ち合わせ場所で待ってる間にも、電車での移動中にも、買い物中にも、友達と一緒だと言っても、はっきりきっぱり断ってもしつこく付きまとわれ、あしらうのも一苦労。そんなのが次々にやってくるもんだから、疲労感も半端ない。買い物するのよりも疲れたぐらいだ。

………下手にあしらって無理やり犯されるのもヤダしなぁ……

ナンパなんて無視すればいいとか言われるけど、人気のないところに連れ込まれたり車に押し込められたりしたことのある身としては、雑に扱うのはそれはそれで怖い。
それはそれとして、今日は思った以上に声をかけられたんだけど、

 ………やっぱりあれかな。女性二人組というのが標的にされやすかったんだろうか。

なにしろ、一人口説き落とせばもう一人ついてくるんだから、お得といえばお得だ。

「何言ってるのよ。あいつらたくやくんのことしか見てなかったじゃない。おまけ扱いされて傷ついたから、ここはたくやくんの奢りね」

テーブルから顔を上げて考えていたことを口にすると、呆れ顔の八重子がいつの間にか注文していたサンドイッチをパクリと頬張る。
………まぁ、買い物に付き合ってもらったんだし、それぐらい奢るけどね。

「でも聞きしに勝るモテっぷりよね〜。明日香から聞いてたけど、見ると聞くとじゃ大違いって感じだったもん」

「ホントいい迷惑……なんであたしなんかに声かけるんだろ。あいつら頭おかしいって。あたしなんかより可愛い子いっぱいいるのに……」

「え……たくやくん、それマジで言ってる?」

十組目から数えるのをやめたナンパたちのことを思い出して辟易していると、八重子はなぜか驚きの表情を浮かべていた。

「そういうあざといこと言ってると周りから嫌われちゃうよ? 私なんて可愛くありませ〜んって言って男に媚び媚びしてるの、女子から一番嫌われるパターンなんだから」

「いやいやいや、あたしが何で男に媚びなきゃなんないのよ!? 美由紀さんとか、ケイトとか、舞子ちゃんとか、あたしより可愛い子なんていくらでもいるじゃん!」

 美由紀さんは長身に加えて抜群のスタイルの良さ、目鼻立ちもくっきりしてるから舞台上では一段と映えるタイプの美人だ。今は卒業を待たずに昔から憧れていたという劇団の稽古に混ざって頑張っている。
 留学生のケイトはあたしでも及ばない圧巻のプロポーションを保持している。それに人当たりもよく男女ともに人気で……まぁ、水泳部では色々とあったけれど、あの活発的な明るさはあたしではとても真似できない。
 二つ下の学年の舞子ちゃんなんて、もう可愛いとしか言いようがない。同性が好きであたしのことをお姉さまと呼び慕ってくれるのは嬉しいんだけど……それは置いておいても、妹にしたい女の子選手権なんてものがあれば間違いなく優勝は舞子ちゃんだ。それぐらい可愛らしい。

 他にも恋人の明日香や、大人の女性と言うのであれば松永先生も。
 自分の事をちゃんと美人であることを認識しているけれど、周りには他にもたくさんの女の子がいるのだ。それなのに本来は男であるあたしをわざわざ狙うようにしてナンパ男たちは声をかけてくるんだから……やっぱり女性を見る目が腐ってるんじゃないかと思う訳なのだ。

 そういったことを八重子に力説すると、

「しまった……たくやくんって天然だった……」

 あれ?……なんか失礼な扱いされてない?

「まさかあんなに何度も女の子になってたのに、現状把握すらできてなかったなんて……いや、出来てなかったからちゃんと男に戻ってたのかな? そういえば毎回ドタバタだったもんねぇ……」

「ちょっと、一人で納得してないで説明してよ。あたし、なにか見落としてたの?」

「見落としっていうか……男子からめちゃくちゃ注目浴びてたし、写真のモデルのバイトとかもやったんでしょ? それなのに解ってないなんて誰が気づくかっての」

 そう言って八重子は首をかしげるあたしの鼻先に指を突き付けた。

「たくやくんには、自分が美人だって言う自覚が足りない!」

「………いや、わかってるよ?」

「わかってない! てか自覚が足らないって言ってんの! 普通に可愛い子でも半日で十回も二十回もナンパされないの、されてるって時点でたくやくんはとびっきりかわいい、はい論破っ!!!」

「え……ええええええ……?」

「自分の事は自分が一番わからないって言うけど、ここまでわからないものなのかなぁ……たくやくんってさ、立ってるだけでも様になってるのよね、モデルみたいに」

「さすがにモデルは言い過ぎでしょ?」

「だから自覚しなさいって。あと、女の子の体になってる期間が短いからって服にも無頓着だったでしょ?」

「そりゃまあ……女になるたび買い直してたら高くつくし、普段は男の時の服をそのまま来てるかな。制服は別だけど。あとは義姉さんのを拝借したり……」

「服装に気を使ってない子がナンパされやすいって知ってる?」

「………し、知らない」

「外見を気にしない子って男慣れしてないって思われるの。男の視線を意識してないわけだし。つまり、服装どころか外見全てに無頓着なたくやくんは、男たちにとって絶好のカモってことになるの。馬の目の前にニンジンぶら下げてるみたいなものよね。なんでたくやくんばっかりナンパされるのかな〜って思ってたけど、落ち着いて考えたらそりゃ男も寄って来るって」

「で、でも、ナンパされた回数は着替えてからじゃない!? 八重子が似合うって選んでくれた服!」

 女物の冬服なんて持ってなかったし、義姉の夏美も冬物コートまでは貸してくれなかった。お高いらしい。
 だから今日は男物の服で八重子と待ち合わせしてたんだけど……あー、言われてみれば「もっと似合う服選んであげる」という切り出し方で声をかけてきた男の人多かったっけ……

 でも服なら別になんでもいいという無頓着さがナンパ男の目に着けられやすいというのなら、買い物中盤以降はどうなるのか。今のあたしの服装は白のニット&薄いグレーのパンツ。さすがにアウターまでは高くて手が出なかったんだけど、今日は一月にしては暖かいもので、少し肌寒いぐらいで済んでいる。
 下はゆったりとしているものの、伸縮性のあるニットは胸のふくらみがはっきりと浮かび上がってしまうので、実はこの格好、かなり恥ずかしい。その羞恥心に比例するように男の数は一気に増えたんだけど……

 これって最初の話と矛盾してない?

「………体型ストレートって説明してわかる?」

「………し、知らない」

「体型っておっぱいが大きければいいってわけじゃないの。たくやくんはメリハリのある立体的な体型で腰の位置も高い。骨格診断でも思いっきりストレートよ。そういう体型だと重ね着すると太って見えやすいから体型ぴったりのジャストサイズが一番似合うの。下手におっきなおっぱい隠そうとすると途端にだらしなく見えるからむしろ見せつけるぐらいの方がいいわね。ていうか、胸にばかり目が行くけど鎖骨のラインも綺麗なのよね。そこはむしろもっと見せて行かなくちゃ。あとタイトなスカートは良いけどパンツの方はタイトすぎると太腿の太さが際立っちゃって―――」

「ストップストップストップ! そんなに一気に説明されても覚えきれない!」

「簡単に言うと、私が良い仕事をしたってことよ。おかげでたくやくんの魅力がさらに引き出された、みたいな?」

「へぇ、そうなんだ……そう……いや、そのおかげでナンパされまくって大迷惑だったんだけど!?」

「ナンパされるような隙を見せてるたくやくんが悪い」

「身も蓋もなくない!?」

 なんとなくではあるが、あたしが男から言い寄られる理由が分かったような気がする……んだけど、外見に気を使って、つまりは女性らしく身なりに注意する、という事でいいんだろうか。
 いつもなら一週間か二週間で男に戻れていたけれど、今度は二ヶ月以上女のまま過ごさなくてはいけないので、服装に気を使わなければならなくなって、かなり気が重い。幾分安く済んだとはいえ、今日の出費はかなり痛かったので、しばらくはバイトにも励もうと思っていたんだけど……いや、隙さえ見せなければ、いつものように襲われることも減るはず。

 ここは頑張りどころだ……心の中でそう自分を叱咤激励したんだけど、



「でもさぁ、ナンパされるのってそんなにイヤ?」



 八重子のその一言で、あたしの中に芽生えた決意がいきなり揺らぎだした。

「あったりまえじゃない。何が悲しくて男に口説かれなきゃいけないのよ。もう、考えただけで身の毛がよだつというか……」

「私がたくやくんだったら、良さそうな人に声を掛けられたらついていってもいいかな~……なんて思っちゃうんだけど」

「へっ………?」

「だってさぁ、進学先も決まって暇してるのに彼氏もいないなんて青春できてなくない? ナンパだって出会いの形の一つなんだし、マッチングアプリで相手を探すより直接的だし。進学前に羽目を外して遊べるのは今だけなんだし、だったら経験しちゃっても……と私は思うわけだよ、たくやくん」

「ま、待って……八重子は、それで本当に良いの? 遊びで、その……初めてを……」

「まぁ……私にだって好きな人はいたけどさ、その人、とっくに恋人がいたから何も言えなくて……」

 溜息をついた八重子が何故かあたしの顔をジッと見ているんだけど……まさか八重子の好きな人ってあたし? いやいやまさかそんなこと。

「期間限定だっていいじゃない。素敵な彼氏捕まえて思い出作りしたって。それなのにナンパ男は最初からアウトオブ眼中なんて勿体ないよ」

「でも……ナンパって遊び目的っていうか……ヤったらおしまいっていうか……」

「そういう奴もいるだろうから、良さそうな人だったらって言ってんの。……てか、たくやくん、何でもかんでもセックスにつなげ過ぎじゃない?」

「え゛!?」

「男を見たら全部野獣って思ってそう」

「そんなことは思って……………ない、はず?」

「なんで最後が疑問形なのよ……あ、わかっちゃったかも。毎回そうやってエッチな目に遭うんじゃないかって思ってるから、女になるの好きじゃないんでしょ」

「うえっ!? べ、別に女になりたくないわけじゃ……いや、なりたいわけじゃないしならなくていいならなりたくないけど、好きかどうかって言われたら……」

「どっち?」

「………考えたこともない」

 そう、好きか嫌いかなんて考えたこともない。
 一度もそういう事を考えないぐらいに……あたしは性転換して女の体になることを嫌悪していた。

 あたしには明日香という恋人がいる。だから女になったら男に戻る。
 セックスの快楽に飲まれて女のままでいようと思った事はあるけれど、無理やり思わされただけで、正気に戻ればちゃんと男に戻る道を選んでいる。

 だから、嫌いなのだ。
 女になんてなりたくない。
 男になんて抱かれたくない。
 許されるなら今すぐにでも男の体に戻りたい。

 ―――あたし……こんな不安を抱えたまま二ヶ月も三ヶ月も過ごさなきゃならないの?

「たくやくん、ごめ〜ん! 現実に戻ってきて〜! あんまり深く考えないで〜!!!」

「あ……うん、大丈夫。気にしないで」

 八重子に声を掛けられて意識は現実に引き戻されたものの、一度認識してしまった不安は深呼吸したところで拭い去る事は出来ない。
 これはマズいな……そう思い始めていた矢先、不意に八重子がパンっと両手を打ち鳴らすと、

「じゃあさ、たくやくんは女の子を楽しむってのはどう!?」

「………レズれと?」

「違いますー! そういうエッチな意味じゃなくて、女であることを楽しむ的な?」

 言い直されても、よくわからん。

「例えばお洒落とか、スイーツバイキングとか、彼氏づくりとか♪」

「いや、男はちょっと」

「まぁ話を聞きなさいって。たくやくんさぁ、女の子になれるのって今度が最後なんでしょ?」

「う〜ん……たぶんそうかな。将来は遺伝子研究の道に進みたいから、もしかしたら自分で性転換薬を再現するかもしれないし、絶対とは言い切れないけど」

「そんな細かい事はどうでもいいって。つまりは、宮野森の学生でいる間の最後の女の子期間なんだから、いっぱい思い出作ろうよ♪ 女の子だって楽しいって、私が色々教えてあげるから♪」

「そっか……思い出……女の体での思い出ねぇ……」

 考えてみれば、女の体でいる時は慌ただしくて楽しい思い出を作ろうにも作れなかった。
 そんな事では悪い記憶しか残せず、トラウマの一つや二つはこさえてしまうのも頷ける。
 セックスだって……女のままでずっといたいと思うぐらい気持ちいい思いをしたのは間違いないんだし、女のまま長く過ごすというのなら思い出作りというのはありかもしれない。

 でも、

「よーし、決まりね♪ 私も気合入れてたくやくんを連れ回しちゃうから覚悟して………あ、ちょっと待って、今何時……」

 そう言って左手首の可愛らしいデザインの腕時計に目を向けた八重子は、

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! やばい、待ち合わせの十分前!?」

 叫び声をあげると、慌てて席から立ち上がった。

「ごめん、たくやくん。私、この後待ち合わせがあるから、もう行くね!」

「何か用事があったの? 言ってくれてたらよかったのに!」

「用事と言えば用事なんだけど……ちょっと恋活ね?」

「こいかつ?」

「そう、恋活、素敵な恋愛相手を探す活動を略して“恋活”。ほら」

 八重子がスマホをちょいちょいっと弄ってから掲げると、そこには八重子の顔写真と、名前な趣味などのプロフィールが掲載されていて……ていうかそれって、

「まさか出会い系!?」

「違いますー! マッチングアプリですー!……って言ってる場合じゃなかった! この埋め合わせはまた今度ね!」

「ちょっと八重子、話がまだ―――!?」

 慌てて引き留めようとしたけれど、八重子はあたしの伸ばした手をスルリと躱し、喫茶店の店主さんに騒がせたことを謝罪しながら店から飛び出していってしまった。
 もちろん伝票は机の上に残されたまま……つまり全額あたしの支払い確定である。

「まったく、しょうがないんだから……けど八重子がマッチングアプリねぇ……」

 席に座り直して大きく息をつくと、友人がマッチングアプリで男とあって何しようとしているのか気になって頭の中がグルグルしてきた。
 とりあえず落ち着こうと、運ばれてきてから長い時間が過ぎていてすっかり冷めてしまったコーヒーに手を伸ばす……が、その直前、ソーサーごとカップが宙を浮き、代わりに入れたばかりのコーヒーがあたしの前に置かれた。
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たくやとマッチング-2 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2024/03/28(Thu) 08:40 No.4158 
「こちらは店からのサービスです。ぜひ暖かい内に」
「す、すみません! ありがとうございます!」

 顔を上げると、テーブルの横には初老の店主さんが立っていた。
 頭を抱えている間におかわりのコーヒーを運んできてくれたらしい。

 ………気づけなかった。

 せっかくのコーヒーを冷たくなるまで放置したことに今さらながら気づくと、恥ずかしさと申し訳なさで顔が一気に熱を帯びる。
 勢いよく頭を下げるものの、謝罪よりも顔を隠すためという理由の方が大きいかもしれない。

「お気になさらず。聞くとはなしに聞いてしまったのですが、随分と大変な目に遭われたようですね」

「あ、あはは……できればご内密に」

「それはもちろん。喫茶店をやるには口が堅い事が絶対条件ですからね」

 八重子と話した内容を思い返すけれど、ファッションの事はともかく、ナンパのこととか性転換のこととか、何気にヤバ目な内容も含まれていたんじゃないかと冷や汗が溢れ出してしまう。
 いったいどんな顔して頭を上げればいいのやら……せっかくコーヒーから香ばしい香りが立ち上っているというのに、このままだとまた冷めるまで口を付けられそうにない。

「よろしければ、カウンター席に移動してみませんか?」
「………?」

 頭上からの店主さんのいきなりの提案だけれど……「なぜ?」という疑問がまず脳裏をよぎる。
 そんなあたしの内心を知ってか知らずか、

「マッチングアプリに興味がおありでしたら、もう少しで良いものが見れますよ」

「えっ………?」

 心臓が跳ねる。
 さっき八重子から聞かされた「マッチングアプリ」という単語を違う人からすぐまた耳にした事に驚いてしまったのだけれど、思わず上げた視線の先では声を上げないようにと店主さんが口の前で人差し指を立てており………









「―――どなたかと待ち合わせですか?」

 入店するなり、きょろきょろと店内を見回す若い男性。
 歳の頃は三十前後と言ったところだろうか。清潔感のあるシンプルな服装だけれど、その表情から緊張しているのが窺い知れる。
 気になるのは、左手にスマホを握りしめており、視線が画面と店内を往復しているという事なのだけど……

「………………」

 ふと、カウンター席から観察していたあたしと男性の視線が合ってしまう。
 男性が思わずといった様子で声を漏らしてあたしへと一歩踏み出すけれど、カップを口元に運ぶ手元を見て脚を止めた。どうやらお目当てと違うらしい。

「お客様、奥の窓際の席の方が……」

「っ!?………ど、どうも……」

 店主さんに促されて奥へ目を向けた男性は、あたしより一回りほど年上の女性がそこにいるのを確認すると安堵に胸を撫で下ろしながらそちらへと近づいていく。
 女性も立って会釈をし、向かい合って座り直した二人のところへ店主さんが注文を取りに行って……そんな一連の流れを自然と観察できる一番端のカウンター席から、あたしは興味津々なのを何とか誤魔化しながら視線を向け続けていた。

「………あの女性は週に一度か二度、この店を利用するんですよ。マッチングアプリの待ち合わせにね」

「………口が堅いんじゃなかったんですか?」

「これはいけない。それじゃあ口止めをしなくては」

 チーズケーキの乗った皿がカウンター越しにあたしの前へと置かれた。これが口止め料という事なのだろうけど……喋りながら用意しているのが見えていたので、最初からあたしに出す気満々だったでしょって突っ込みたくなってしまう。それはあえて口に出さずにフォークを手にすると「買収されちゃいますね」とお礼を伝えてから小さく切って口に運ぶ。
 ………ふおっ!? すっごい濃厚!

 それからしばらくして二人は親密さを表すように腕を組んで喫茶店を後にした。

「ここから少し歩いたところに小さなラブホテルがあるんですよ。そこに行ったんでしょうね」

「………このお店じゃ絶対に内緒話はしない事にします」

 店主さんの口がペラッペラだわ。
 色々と話を聞けて面白かったけど、守秘義務なんてあったもんじゃない。

 そんなあたしに笑みを向けながら三杯目となるコーヒーが出される。

「それで、マッチングアプリで出会う男女を見ていかがでしたか?」

「………不倫?」

「そうかもしれませんね。でも違うかもしれない。最近では異性の友人をセカンドパートナーと呼んだりもしますが、二人は互いに望んで出会った。これからプラトニックなお付き合いが続くのか、一日だけ激しく燃え上がるのかは本人たち次第。この場所でも何度も目にしてきましたが、それが“今どき”というものですよ」

「ふぅん……」

 ふと、出ていくときの女性の顔を思い浮かべる。
 紅潮しているのが隠しきれない表情には、出会ったばかりの男性とのこれからの行為への興奮が見て取れた。
 わざわざ一度きりの逢瀬に付き合ってくれる男性なんて……普通に探しても見つからないというのは判る。体が満たされないから、女性としての自信を取り戻したいから、理由はいくつか思い浮かぶけど……女性の顔に喜びが浮かんでいたのも事実ではある。

「………スマホでつながる恋、か」

「なんでもネットと言うのは味気ないかもしれませんが……出会いの全てがアプリという訳でもありませんし。手紙でも電話でもナンパでも、形が違えども出会いは出会いですよ」

 出会いを探そうと思えば時間がかかる。卒業までしか時間がない八重子がマッチングアプリに出会いを求めた気持ちは、今ならわからないでもない。

 ―――じゃあ、あたしは?

 恋人がいるけど、男に抱かれたくなんてないけど、さっきの二人の事を考えていると体が疼いてしまう。
 でも明日香が受験勉強で頑張っているこの時期に、後腐れがなくても男性と関係を持つのは……そう苦悩していると、隣の椅子に店主さんが腰を下ろした。

「お客さん、実はあなたの悩みを解消するとっておきの言葉があるんです。聞きたいですか?」

「………嫌な予感しかしないんですけど、一応聞きたいとだけ答えておきます」

「いえいえ、とても簡単なことですよ」

 そう前置きして店主さんは、



 ―――バレなきゃいいんですよ、バレなきゃ。

 

 凄く当たり前のことを、とてつもない名言のように口にした。

「………ぷっ、なに当たり前のこと言ってるんですか」

「当り前ですね。だから気にせずに試してみればいいんですよ、マッチングアプリ。バレたって、最近の人はみんなやってるよーって誤魔化せば……何とかなりそうじゃありません?」

 もし明日香にバレたらどうにもならないかもしれないけど……店主さんの話を聞いてると、それでも何とかなりそうな気がしてしまうから不思議だ。

 ―――悩んでるのが馬鹿らしくなっちゃった。

 あんなに女でいる自分が悩ましかったのが嘘のようだ。
 最初からナンパの事を毛嫌いしなくても、体じゃなくて出会いを求めていると思えば、気の合った相手とだったら別に食事やカラオケだって付き合うし……セックスぐらいしたっていいとすら考えている自分がいる。マッチングアプリがどういうものか目の当たりにした事で悩みが晴れてしまったせいだろうか。

 ―――あとは、あたしの「女としての楽しみ」か……

 それはおいおい考えることにしよう……と思っていたのだけれど、

「ところでお嬢さん」

「なんですか?」

「あなたの事をナンパしてもいいですか?」

「………なんですって?」

 隣の席からカウンターに片肘をついてあたしの方に顔を向けていた店主は、開いている方の手でスマホを取り出す。
 その画面に映し出されたのは……

「セックス目的、既婚者OK、アブノーマルOK、今すぐハメたい、近場の女性大歓迎……て、これ出会い系!?」

「ノンノン、これはマッチングアプリだよ。実はこのお店、ついさっきから休憩時間に入っちゃってね。だから今すぐセックスしたいのでマッチングアプリで募集中という訳なんだけど……」

「………あたしにお試ししろ、ってことですか?」

「アプリ、登録してみる? 簡単だよ〜、ものの数分で出来ちゃうからね〜」

 なにその宣伝文句……苦笑を漏らしたあたしの肩に店長さんの手が優しく回され、抱き寄せられる。そのままニットの上を滑り落ちるように肩から腕、そして胸へと手の平が移動すると、

「ふあぁん………!」

「素晴らしい……大きさもさることながら、この弾力は何物にも代えがたいね」

 暖かいとはいえ一月。上着も無しに街中を歩いて芯に冷えが残っていた膨らみが繊細な指使いで揉みほぐされる。固さを帯び始めた乳首をニットとブラ越しに円を描くように撫でまわされれば、もどかしい刺激に乳房は一気に熱を帯び、店長さんの指を押し返すように張り詰めていく。

「やめたければやめてもいいんだよ? これは飽くまで“出会い”だからね。楽しむなら男も女も同意の上でなくちゃね」

 その合意の証がマッチングアプリなのだろうか……何とかインストは出来たけど、快感に打ち震えるたびに名前やメアドの入力を間違えるので、登録は遅々として進まない。少しずつ呼吸が乱れ、うっすらと汗ばんだ首筋に店長の吐息を感じながら……それでもあたしは湧き上がる疑問を口にせずにはいられなかった。

「ね、ぇ……ひとつ、聞いてもいい?」

「なにかね? ちゃんと避妊具は用意しているから心配しなくてもいい。紳士の嗜みだとも」

「それは……必要ないから……」

「生もOK!? いやいやお嬢さん、もっと自分の体を大事にしたら!?」

「そうじゃなくて……やっぱり、バレるのが恐くって……」

「そのことかい? さっきも言ったようにバレなきゃいいんだがね。それでも不安なら……」

「不安……なら……?」

「相手にちゃんと“口止め”をしておけばいいんだよ」

「………んむぅ」

 椅子に座ったまま体を伸ばし、こちらに身を寄せていた店長の唇に自分の唇を押し付ける。最初は驚きを見せた店長だけれど、すぐにあたしのことを両手で抱きしめ、口内にぬめる舌先を押し込んでくる。

「ん……んんっ……キス…お上手なんですね……」

「………できればアプリの登録、早くして欲しいんですけど」

「ふふっ、どうしよっかな〜♪ 嫌ならやめて良いって言われちゃったし〜♪」

「お願いだから生殺しはやめてね!?」

 焦らしはしたけれど、あたしはもう止まれない。
 セックスしたい。この人とだったらセックスしてもいい!
 そう思える相手を前にして自分の中で何か回路めいたものが切り替わるのを感じると、全身の産毛が逆立つようなゾクゾクする感じに、たまらない喘ぎ声を漏らしながら身を震わせていた……








 なお、アプリの登録には三十分ぐらいかかってしまい、待ちきれなくなった店長にズボンの中でヴァギナを掻き回されたあたしはパンツの中で愛液をたっぷりとお漏らしする羽目となった。
 ズボンもパンツも、買ったばかりのに…… 
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XCタイムリープ 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2024/01/07(Sun) 15:38 No.4157 
<プロット>
千里の実験の最中に機械がいつものように大爆発を起こし、気付いた時にはなぜかS学四年生になっていたたくや。しかも死に別れたはずの母が生きており、何故か自分は最初から女の子だったことになっていた。

父が再婚していないので夏美もいない。元の姿に戻りたいと思うものの、麻美も千里もいない現状ではどうする事も出来ない。しかも二度と会えないはずの母親・まおとの生活への未練を振り切る事も出来ないたくやは、男の時と同じルートを選んでいればそう遠くない内に麻美や千里と再会できるだろうと思う事にして問題を先送りにしてしまう。

S学生時代

- 四年:一度目の人生ほどではないが女の子として二度目の人生を歩むことに決めたたくや。幼馴染の明日香の協力もあって次第に女子の輪に溶け込んでいく。その一方、男か女か判らないぐらいに凹凸のなかった体は次第に他の子よりも急速に乳房が発育し……
- 五年:Bカップ。明日香ともども押しも押されぬ美少女に。けれど同性であるためか、明日香は将来結ばれるはずのたくやを選ばず、放課後の教室で六年生の男子とキスしてしまう。ファーストキスを奪われたはず……なのだが、明日香の表情は蕩けていて、膨らみかけの胸を男子に言われるがままに露わにし……その数日後、明日香は自分の部屋でその男子と初体験を迎えてしまう。
- 六年:C〜Dカップ。初セックスが親にバレて揉め事になった明日香はますます美しくなっていく。一方、たくやに告白してくる男子も多く、ちょっとしたお姫様気分を味わっていたのだが、とある男子・大介が股間を膨らませて迫ってきたので、襲われてロストバージンするよりはと仕方なく手コキしてあげたら他の男子にもバレてしまい、十三人の男子たちと一度きりという約束で手コキ・フェラ・素股までの疑似セックスで……

C学生時代

- 三年後に宮野森学園に進学しようと思っていたので公立C学に行こうと思っていたのに、街中で出会ったたくやそっくりの少女・静香との出会いが切っ掛けで、明日香と一緒に中高一貫教育の円山清心女学院に入学する羽目に。

K高校時代

- どうするかな……(思案中)


<人物>

- 相原まお
23歳で相原和之(かずゆき)と結婚し、二年後に長女たくやを出産。Eカップ。
人当たりがよく、たくやにも優しい母親。料理好き。髪は長いが女体化したたくやによく似ている。
本来の世界では早くに命を落としていたが、タイムリープ世界では存命。
たくやがS学校に通っている昼間の間だけ、近所の喫茶店「四季」でパートをしている。
なお、たくやは喫茶店のオーナーである四季冬樹(しき・ふゆき)との不倫関係を拒みきれずに孕んでしまった子供。もっとも和之は結婚前から冬樹の妻・四季春陽(はるひ)と不倫関係にあり、その当てつけ的な意味合いが強い。
まおと和之は相性が良くないのか、いくらシても子供が出来ない。
- 相原和之(かずゆき)
たくやの戸籍上の父。血液型は違う。
うだつの上がらないサラリーマンだが、たまたま街で出会った春陽に仕事でたまったストレスを性欲に代えて注ぎ込んだ。結構変態。
- 四季冬樹(しき・ふゆき)
相原家・片桐家の近所で喫茶店「四季」を営む男性。
長く伸ばした髪を後ろで束ねたイケメン男性だが、女性関係が激しく、心配した親によって強制的に春陽と見合い結婚させられた。
美人だが包容力のある春陽は微妙に冬樹の好みから外れており、セックスレスに。しかし春陽が隠れて浮気して長男・夏海(なつみ)が生まれた事で、怒るよりもむしろ興味が湧き、相手が誰か確かめようとした際にいじめ甲斐のあるまおを見初める。その後、興信所に依頼して集めた春陽と和之の浮気の証拠を盾にしてまおに関係を強要し、夫しか知らない肉体に性の悦びを骨の髄まで刻み付け、妊娠させた。
他に何人もの女性と関係を持っているが、妊娠させ、執着しているのはまお一人だけ。
- 四季春陽(しき・はるひ)
冬樹の妻。Cカップ。スレンダーな褐色肌の美女。さっぱりとした性格で男性らしい一面も。
結婚するまで処女であったが、秘めた性欲が強いマゾ気質のある女性。そのせいでサド気質の冬樹と相性がいいかと思いきや、いじめ甲斐がないためセックスレスに。
貞淑な妻を演じていたが、和之が自分に向けた劣情に刺激されて抑え込んでいた性欲がどうにもならなくなり、不倫関係になり、夏美を出産。まおと違って積極的に求める春陽とストレスを溜め込んだ和之の相性は良く、次第に二人は野外露出やSMなどの変態思考に染まっていく。
夏海出産後は和之と共に乱交パーティーに参加するなどして楽しんでいたが、ある日のこと、夫の冬樹に呼ばれた部屋ではまおがベッドに組み伏せられていて……次男・秋也(しゅうや)を妊娠する。
- 四季夏海(しき・なつみ)
冬樹と春陽の長男。本当は相原和之と春陽の子。
たくやや明日香にとっては三歳違いの良い兄貴分……なのだけれど、前世の義姉・夏美の面影を感じてしまうのでたくやは少し苦手としている。
明日香の(本当の)初めての相手。C学生とS学生だったが、父親譲りの巨根とテクで幼い明日香に女の悦びを教え込んだ。
しかし夏美の本当の狙いはたくや……なのだが、前述の理由で微妙に避けられているため堕とすには至っていない。
- 四季秋也(しき・しゅうや)
冬樹と春陽の次男。
たくやや明日香より一つ年下で、夏美に似ていない美少年。
たくやと一緒に入浴した時に我慢できず勃起してしまい、一線を超える前にたくやのフェラで抜かれてしまう。
なお、年上の女性が好みであり、たくやの母のまおに最も欲情してしまう。
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たくやヌードモデル2 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2023/06/07(Wed) 07:54 No.4156 
 まともにデッサンの練習をするつもりがない害悪を外へ締め出すと、ようやくモデルの時間のスタートだ。
 練習会では休憩は二十分毎。休憩をはさむたびにポーズを変え、ひたすらにデッサンを繰り返す。
 これがデッサンではなく油絵や塑像など製作に時間のかかる作品の場合だと休憩をはさみながらでも同じポーズを取り続けなくちゃいけないので、それに比べればまだマシだと思う。………いや、それでもかなりキツいんだけど。

 何度か経験済みの写真のモデルとはまるで違う。首やうなじをよく見えるようにそれほど長くない髪をアップにし、一心に筆や木炭を走らせる音を聞きながら全裸で立ち続けるのは恥ずかしい……というのを通り越して、暇であり、かなり苦痛だ。
 ぼんやりしてたら姿勢が崩れ、そのたびに動かないでと指摘され、元のポーズを取り直したつもりでも少しずれて、また指摘され。だから目印にした部屋の一点を常に見続けて目線を固定し、休憩に入るまで常に緊張を維持し続ける。

 そもそも人間の体が同じ姿勢を取り続けるようには出来ていないのだと理解するのに、さしたる時間はかからなかった。。
 けど集中しているみんなのためにも、そして割高なバイト代のためにも、あたしはモデルに徹し続ける。
 こんな状態で羞恥心が〜とか言ってられない。気合を入れないと!

 とはいえ、午前と午後で三時間ずつ、計六時間。
 色んなバイトを経験してきて体力も付いたつもりだったけど、これはもう本当にキツい。
 昼食休憩をはさみつつようやく午後の部を終えた時には、全身がガチガチに硬直し、座るのもおぼつかなくなったほどだ。
 女の子たちに支えられてソファーに座らされたものの「ありがとうございました」とか「お疲れ様です」とかの感謝の言葉が今までで一番身に染みたかもしれない。



 そんな状態でバスや電車を使って帰宅するのはマジしんどかった。
 ケチらずにタクシー呼べばよかった……!



 −*−



「うわぁ、これがあたしかぁ……」

 モデルも二日目ともなると、サークルのメンバーともかなり打ち解けてきた。

 やっぱりと言うべきか、最初の話題は本当に男なのかどうか。
 これに関してはよく聞かれる質問なので、スマホに男の姿の写真を準備してある。
 あたしの顔と写真とを交互に見返し、見比べ、一部は『これは違う!』と叫んでデッサン帳に筆を走らせていた。
 描かれたのは……妙にキラキラしたあたし(男)だったり、口に薔薇を咥えたあたし(男)だったり、三馬鹿の一人に後ろから抱きしめられて悩ましげに眉を歪めているあたし(男)だったり!?
 言っとくけど、あたしはノーマルだからね!?



 次に多いのがプロポーションについて。
 さすがに男子が堂々とこんなことを聞けるはずもない。むしろ女性陣から率先して聞かれたのが驚きだった。
 そして、

『お願いです、そのおっぱい一度でいいから揉ませてください、いや吸わせてください!』

 女子全員から羨ましがられたおっぱいである。ポーズを変え、角度を変え、妬み嫉みを越えた、一種の崇拝を込めたような眼差しでそうお願いされて……結局、女子全員に揉まれた。
 最悪なことに、見られることでちょっと濡れる程度に興奮していた体が複数の女子の手で胸を揉みしだかれたことで火が付いてしまった。床に仰向けになったあたしはバスローブを肌蹴られ、露わになった胸の先端を音を立てて吸われながら、ちょっとその毛のある女の子にアソコへツプッと指を入れられ……そこへ昼食を終えた男子が一人、ナイスタイミングで戻ってきたことだ。
 良い所に指が当たってしまってガクンと恥丘を突き上げた瞬間を目撃されたんだけど、彼は部屋を飛び出して……トイレに立てこもってしまった。
 その後、説得に辛うじて成功してトイレは解放してもらえたんだけど……中で何をしていたのかはお察しのとおりである。



 で、そんな騒動が一日目にあったにも関わらず、二日目の昼食休憩は皆が描き溜めたおチ○ポデッサン画を見せられたりしたのだけれど。
 なお、モデルはサークル男子たち。モデルさんを雇えない時はサークルメンバーが持ち回りでモデルをしているそうなんだけど、脱ぐ脱がないは個人の自由。芸術のためとはいえ、女の子にヌードモデル強要というのは問題がありそうだけど……いや、男たちもなんで脱いでるの!?

『大きさをアピールして彼女を作りたかったとか?』
『ちゃんと時間内は勃たせっぱなしにしてくれないから困る』
『お尻の穴に鉛筆刺したら大きくなりっ放しになるんじゃないかって話になって涙目になってさぁ♪』

 あんたら鬼か!?
 見られる性癖に目覚めたのかもしれないけど……無心でポーズを維持し続けるあの虚無タイム。あたしは勃起し続けられている自信がない。
 しかも縮こまった後も一日中モデルさせられたんでしょ?……上と下、逆方向を向いた二本のデッサン画を見比べながら、あたしはご愁傷さまと呟きながら心の中で手を合わせた。



 ここから先は猥談がメインに。
 下手すると、かなり問題発言を連発したかもしれない。

 最初は三馬鹿との馴れ初めを聞かれて、過去の悪事をきっちり説明しておいた。明日以降、女子の間でどれだけ先輩の尊厳が残っているか、あたし知らない。
 んで、その後は女の体になってからの経験を聞かれ、体育教師に処女を奪われた事とか、家庭教師のバイト中に教え子とそのお父さんと3Pしたこととか、お酒を飲まされた後に夜の公園でいただかれた事とかを放す羽目になったり。
 ただ……女子の目の色が変わったのはさらにその後、あたしの男性としての経験を話し出してからだ。

 うん、あれは獲物を狙う肉食獣の目だった。
 チ○コデッサンを見せられた際に、あたしの“大きさ”も喋らされたので、そんなに期待されてはいなかっただろう。むしろ童貞疑惑まで掛けられていたかもしれない。
 でも大きさだけが全てじゃない。
 朝から恋人をベッドに引きずり込んだりとか、実験ばかりの先輩の初めてを×××したりとか、金髪の留学生と教室で……とか、よくよく考えたら、あたしの女性相手の経験人数って両手の指でも足りないんだよね。しかも女の体のことをあたしほど知り尽くしている男もよほど経験豊富じゃないといないだろうし。



 ―――後日、あたしが男に戻ってから……何人かとホテルに入ったのは明日香には内緒でお願いします。



 −*−



 二日目の仕事を終え、帰り支度を整えたあたしは、美大生の男子が運転席に座る軽ワゴンの助手席に乗り込んだ。

「それじゃあ運転、よろしくお願いしますね」
「おまかせあれ! いや〜、こんな美人乗せてドライブできるなんて役得だなぁ♪」
「あはは……あたしが男なんだって解った上での発言ですよね……?」

 昨日はバス・電車・さらにバスと乗り継いで帰るのがツラかった……そんな話をしたら、二日目から車を持ってる男子に家まで送ってもらえることになった。
 一番長い昼食休憩では女子に囲まれているので男同士で絡む時間はそれほど取れなかったけど、モデル中の休憩時には普通に会話はある。まぁ、あたしは全裸なのでなかなか話しかけづらいようではあるけれど。

 さて、ここで唐突ではあるけれど、あたしの服装について言及しておこう。
 昨日はジャケットやショートパンツといった女性時によく来ているいつもの格好だった。でも今日は違う。
 上はたわわな胸が入るように大きめのメンズのブラウス。袖を折り返して手首や前腕を見せることで軽快さを出し、下は膝丈のスカート。ちょっとラフかとは思うのだけれど、きちんと女性らしさを考えたコーデをしてきている。

 理由は特にない……とは言えない。
 車に乗る時は軽快な言葉を交わし合ったのに、走りあdしてすぐに車内には緊張が漂い始めた。
 ハンドルを握っているのは、昨日あたしの痴態を目にした彼だから……

「たくやちゃん……ほんとにいいの?」
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たくやヌードモデルをする 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2023/05/30(Tue) 14:49 No.4155 
「絶対にヤダ。なんでそんな頼みを聞かなくちゃいけないのよ」

「はぁ? あんた、あたしに何したか忘れてんじゃない? アレってぶっちゃけ犯罪よね? 警察に訴えられてもおかしくないことくせに、どの口が……!」

「合意の上!? ふざけないで! 疲れたところを集団強姦しといて、言うに事欠いてそれ!? 大事にしたくなかったから黙ってたけど、あんたたちがそういう認識だったって言うならこっちにも考えがあるからね!!!」



 ―――という感じに電話で口論したのが三日前の事。

 宮野森学園時代の友人である由美子が後から謝罪してきたけれど、またもあたしが女になったことを明日香経由で知り、たまたま居酒屋で出くわした別の同級生(男)にそのことを口を滑らせたらしい。
 その事には特に怒ったりしていない。あの頃の宮野森の卒業生からすれば、あたしを含めた化学部の面々が騒動を起こすことは日常茶飯事だったので『また相原が女になったの?』『元・化学部は相変わらずだな』『物好きだね』と思われるぐらいだし。たまに昔を懐かしんで直接会いに来るヤツもいるけど。

 そんなあたしの地雷を逆鱗ごと踏み抜く馬鹿も時々出てくるから困りものではある。
 当時、女になったあたしを襲ったやつらだ。一度関係を持ったからもう一度……そんな甘い考えで再び近づいてくる。

 そして今、あたしの目の前で丸めた頭を地面に擦り付けている三人もその類いだ。

「「「失礼なことをお願いしてしまい、誠に申し訳ありませんでした!!!」」」

 キラッと光るほど頭をツルツルにして土下座しているのは、宮野森学園の美術部に在籍していた男たち。つまり『美術室であたしを三人がかりで襲ったやつら』である。

 思い返してみても、初めて女になった時はハプニングの連続だった。
 バスに乗ったら痴漢に遭い、寺田に処女を奪われ、義姉の恋人にも犯され、痴漢バスで何人もの男に弄ばれ、校長には調教されかけ……
 もちろん黒歴史の数々には、こいつらに穢された事も含まれている。しかも経験の浅い男子学生三人に滅茶苦茶にされたのだ。思い出しただけで尻の穴が痛くなってくる。

 それだけのことをしでかしてくれたというのにこいつら、詫びるどころか『あれは和姦』『たくやちゃんだって感じてたくせに』『チ○ポが欲しいんだったら(以下略』などと電話口で悪びれもせずに宣った。
 どれだけ都合よく脳内変換したってのよ、この性犯罪者ども……!

 だからね?
 反省を促すためにね?
 ネットにね?
 ちょこっとね?
 あれこれとね?

 そこそこバズった記事のアドレスを送り付けてやりました。
 よかったね、もうちょっとで実名を暴露されるところだったよ。
 勘のいい人は気づいたかもしれないけどね。
 記事は消しといてあげるから海より深く感謝しなさい。

「ちくしょう……来週の合コンこそはって気合入れてたのに……」
「俺、内定がやっと貰えたとこだったんだ……将来を棒に振りたくない……」
「二人とも諦めろ……完全に身から出た錆なんだから……」

 まだ記事は消してないんだけど。
 被害者意識が抜けてないみたいだし、自分たちが加害者だって解るように背中を押してあげよっか?

「「「すみませんでしたぁあああああああああああああああっ!!!」」」

 うむ、それでよろしい。
 でもこいつらには言えないけど、宮野森のOB・OGにはこの話は広まると思うんだよね。由美子(情報発信源)が関わってるし。
 けど刑務所に入るよりはマシだろうから、針の筵ぐらいは我慢してもらおうか。

 さて、この件はこれぐらいにするとして……きちんとした話、聞かせてもらいましょうか。

「え……は、話って……?」

 あんたたちが言ってきたんでしょ?
 あたしに「ヌードモデルをして欲しい」って。



 −*−



 ―――まぁ、ヌードになるからって邪な目的じゃない……と頭では解ってるんだけど、三馬鹿にやらかされてるからねぇ……

 土下座謝罪された二日後の土曜、あたしは三馬鹿に連れられて、とあるマンションの一室を訪ねていた。

 馬鹿の上にあんぽんたんと付け加えても良さそうな元・美術部の三人ではあるけれど、あたしにヌードモデルを頼んできたのにはそれなりの理由があった。
 曰く、ヌードデッサンの練習は骨格、筋肉の付き方、体のバランスなどを観察し、人体構造を理解するためにも必要なことらしい。芸術に疎いあたしには、その辺りのことはよくわからないんだけどね。
 で、三人が所属しているサークルでは月に何度かヌードデッサンの練習会を行っているのだけれど、モデルをお願いしていた女性のお身内に不幸があり、急遽帰国されたそうだ。……って外人さんだったのね、その人。
 練習会は土日四週、計八日開く予定だったんだけど、急なことで代わりにモデルさんもなかなか見つからない。サークルのメンバーがモデルをするという話も出たそうだけど、顔見知りの前で全裸になるのは抵抗があるよね……特に恋人がいたりすると抵抗感がさらに増すだろうし。
 そこで先輩として良い顔を見せようと女性の知り合いに片っ端から声をかけては玉砕していた三人なのだが、そこにタイミングよく由美子からあたしが女体化したことを耳にし、連絡してきた……ところまでは良しとしても、人の神経を不躾に逆撫でする頼み方はやめろっての。

 ともあれ詳しい事情を聞き、後輩たちのために駆けまわっている三人に同情してモデルをする事を了承する辺りが、あたしが甘いと言われる所以だろうか。
 まぁ、突き放すのも目覚めが悪いし……仲介業者を介さないモデル代、結構うまうまだし。

 あたしの場合、元々は男なので女の体を見られても恥ずかしくない……事もないけど、普通の女性よりもまだ諦めがつきやすい。それに写真のモデルならしたこともあるし、なんとかなる、そう思いたい。

「ぶはっ! 先輩、その頭どうしたんすか!?」
「今までのセクハラを恥じて出家したんですね!?」
「ハゲなくてもいいんで、先週の昼飯代返してくださいよ!」

 そしてマンションに到着早々、このお出迎えである。
 ………三ハゲのインパクトには勝てなかったよ。

 中に入れてもらうと、かなり広い洋室。
 美大ってかなりお金がかかるイメージだけど、ソファーとかの家具も安物じゃなさそうだし、お金持ちの子がいるんだろうか……うらやましや。

 部屋のあちらこちらにはイーゼルが立てられいるけれど、広い部屋といっても限度があり、クロッキー帳を手に床に直に座っている人もいる。
 半円状に置かれたイーゼルの配置的に、あたしが立つのは大が置かれて一段高くなった壁際だろうか。

 集まっているのは男が九、女が六の合わせて十五人。といってもあたしと同年代だし、そんなに雰囲気は固くない。というか、かなり評価の低い先輩三人が連れてきたのがあたしのような美人だったことがようやく認知されて徐々に騒めき出している。
 そんな彼らと軽く挨拶を済ませると別室――これまた広いベッドルーム――に案内され、そこで衣服を脱ぐと、用意されていたバスローブに袖を通す。

「ほえ〜……」

 あの……さっきからじっと見てますけど、どうかしました?

「美人な上にプロポーション抜群……女の私から見ても非の打ちどころがまったくない……まさか先輩たちが自慢してた昔の女が実在してたなんて……」

 ………“昔の女”?

「みんなして絶対イマジナリー彼女だって確信してたのに……嘘よ、これは悪い夢なのよ……」

 ちょっといいですか? あの馬鹿三人、あたしのことをなんて説明してたの?
 ふむふむ、なるほど。
 ちなみに実際はかくかくしかじか。

「ですよねぇ! あ〜、びっくりした。グループチャットでむちゃくちゃ自慢しまくってたけど、おかしいと思ったんですよ。後でみんなと情報共有しとかなきゃ」

 誤解を招くと困るので、正確な情報をしっかり知ってもらわなくちゃ。

「任せといてください。ふふふ……この弱み、どう活用してくれようか……」

 三人とも、後輩に慕われてないなぁ……
 まぁ、自業自得よね。



 −*−



「「「……………」」」

 壁際の台の上に立ち、バスローブを脱いで素肌を晒すと、感嘆にも似た吐息のこぼれる音が聞こえてきた。
 さすがにヌードモデルにエッチな目を向けるのはマナー違反だと理解しているのだろうけれど、重力に逆らうように前へと突き出した美巨乳や、浅く開いた太腿の付け根、ほぼツルツルの形良く盛り上がった股間には男性陣の遠慮がちな視線が突き刺さってくる。

 恥ずかしさを感じないわけじゃないけれど……これから毎週、ここにいる人たちには全て見られるのだ。見られて恥ずかしくないような体をしているんだし、恥ずかしさに慣れるためにも手で隠さずに、むしろ堂々と背筋を伸ばそう。

「うわ、やべ、勃ってきた……!」
「あの体つきは反則だろ、エロ過ぎ……!」
「ハァ、ハァ、ちょっと隠し撮りしとこ」

 はい、そこの大馬鹿先輩三人組、退場!

「「「ごめんなさい、思わず出来心で―――!!!」」」

 出来心でも許されると思うな、性犯罪者ども!!!



 まともにデッサンの練習をするつもりがない害悪を外へ締め出すと、モデルの時間のスタートだ。
 休憩は三十分毎。そのたびにポーズを変え、ひたすらにデッサンを繰り返す。
 何度か経験済みとはいえ、同じポーズを取り続けるのは本当にしんどい。腕を上げたポーズとかマジ最悪……筋肉がパンパンに張ってくるし。
 それに180度ローアングルも含めてあらゆる向きから視線を向けられているので、大切な部分を隠しようがない。午前中最後のポーズの時、見られ過ぎて少し湿り気を帯びた股間を凝視しながらスゴく股間をパンパンに突っ張らせてれる人もいて……後ろの方にいる女の子なんて、デッサンする手を止め、他にも大勢人がいる中でスカートの中に手を差し込んでるんですけど。
 あ、あたしもあんな風に今すぐオナりたい……!

「たくやさん、ありがとうございました、ありがとうございました、ありがとうございました」

 昼食休憩に入り、熱を帯びた溜息を洩らしながらバスローブを羽織っていると、こっそり一人エッチしてた女の子に感謝された。
 なんで三回も言うかな!?
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水泳部・部員Aの場合 2 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2023/05/05(Fri) 18:34 No.4154 
「おい、芦田どこ行った!?」

 バスがトイレ休憩のためにサービスエリアで停車すると、比呂は忽然と姿を消していた。

 バスがトイレ休憩に入る直前のタイミングで投下された特大の爆弾。薬で男から女になったとは思えない巨乳美少女のおっぱいピース画像に座席で思わず前屈みになる男子たちを尻目に、隣の席の男子――日岡の背中に隠れ、ついでに、乗り物酔いか何かで調子を崩した男子をバスから下ろす動きに乗じてそそくさと外に出ただけなのだけど。

「想像以上の反応に思わず笑っちゃったぁ♪ 写真一枚でみんなどんだけモッコリしてんのって話だよね♪」
「笑うな。それだけオレ達は水泳に青春燃やしてんだよ」
「でもすぐ近くで水着女子が泳いでる環境だよ? 飢えてるのがおかしいって。むしろ欲求不満で押せば押すだけウェルカムな子も多いし!」
「部内での恋愛はご法度だって言ってもお前はちっとも理解しないもんな……」

 ともあれ車外に出た比呂は日岡を連れてバスの近くに泊まっていたトラックの陰に隠れていた。
 トラックはバスがサービスエリアに入る時に一緒についてきた車で、運転手もトイレではなくレストランのある休憩所に入っていった。
 だからしばらく動き出すことはないから安心……と説明されても、日岡は前を歩く比呂の姿に心がザワつくのを抑えられずにいた。

 女であることを強く意識づけされたからだろうか、比呂の後ろ姿はもう女性にしか見えなくなっていた。
 大きめのパーカーが描く緩やかな腰の括れ。裾の下からはみ出ているのは張りのあるヒップの下ラインであり、まっすぐ歩かずに右や左に逸れるたびに重量感のある二つの丸みが弾むように揺れる様は日岡の下半身をイラつかせてやまぬほどに悩ましい。

 もういっそこの場にしゃがみこんでシコってしまいたい……バスに置いてきぼりにされた男子たちが合宿所につくまで我慢を強いられているように、ジャージ越しだと勃起しているのが丸わかりな下半身を持て余した日岡は後でたっぷりオカズにしようと比呂のヒップを凝視してしまう。

 ―――でも、オレだけこんなところに連れ出して、こいつ何するつもりなんだ……?

 女体化した比呂は、男だとわかっていても一目で心奪われてしまうほどの美少女に変貌していた。
 さっきの写真も、比呂だと言われれば部員の誰もが納得してしまうぐらいに男だった時の名残も共通点もある。美人だと言うなら卒業してしまった部長たち三女神や女子水泳部のコーチも今の比呂に負けず劣らずの美人だった。けれど水泳というスポーツの中で磨かれた部長たちの美しさと違って、何人もの女性を虜にしてきた比呂は優男ぶりは男たちを魅了するために生まれてきたかのような小悪魔的かわいらしさなのだ。輪郭が一回り小さくなった顔は目尻が少し下がったところがあまりにも愛らしく、かといって男に媚びるわけでもない。周囲を驚かせて自分が楽しんでいる時に浮かべる無邪気な笑顔、それこそが男だろうが女だろうが関係なく芦谷比呂という人間の一番の魅力なのだと再認識させられる。
 何が言いたいかというと、

 ―――笑顔の破壊力が半端ない!

 愛想笑いとは違って内面の感情は溢れ出る美少女の笑みというものに、これほど魅了されるとは日岡も他の男子も思いもしなかった。
 しかも体つきが巨乳AV女優よりもエロい。なんだこれ、男として経験豊富な方がドチャシコエロボディへのTS限定条件とか付くのだろうか。

 もし女の比呂が男の恋人が欲しいと口にしたら、道を踏み外す部員がどれほど出る事か。
 だから当然、こうしてバスから離れていないのに刺客になっているトラックの陰に連れ込まれた日岡は、期待していないとは口が裂けても言えなかった。
 それでも比呂が男なのだと理性が訴え続けているので、自分から手を出すことは躊躇われた。だから視線で前を行く尻を追うにとどめ、揺れ方から弾力を想像して脳内保管していた……のだが、

「おわぁ!?」

 比呂が不意に足を止め、あろうことか後ろへ一歩下がってきた。
 咄嗟に抱きとめた手は自分の下腹部から比呂の腰へ。挟むように押さえたウエストは女性らしい柔らかさの下に筋肉の弾力があり、その細さに感触に心臓の鼓動が跳ね上がった。

「なんでいきなり下がって来るんだよ!?」
「行きすぎたから戻っただけだけど? 他のヤツに見つかっちゃうよ?」

 比呂の腰回りに目を奪われている間に、二人揃ってトラックの陰から歩み出そうなところまで進んでいた。
 あと二歩か三歩前に出れば、休憩所周りの他の部員に体を覗かせたところを見つかりかねない。だから後ろに下がったという言い分だけれど……尻しか見ていなかった日岡はともかく、それを察してわざと尻を振って視線を喜ばせていた比呂はちゃんと自分の位置を把握していた。把握した上で日岡との距離を故意に詰め、後ろに大きく突き出したお尻をジャージの股間を大きく膨らませている怒張に押し当てた。

「うっわ、日岡ってばチ○ポ思ってたよりでっか。オレのよりおっきいんじゃん。これで女に飢えてるとかマジわからんのだけど?」
「な、なに、してんだよ!?」
「オレのお尻にぃ、お前のチ○ポを押し当ててんの♪ いやもう、いつ後ろから襲われんのかってドキドキするぐらいガン見されてたから、お前てっきり尻派なのかな〜って思って」
「そうじゃなくて、なんでこんなことしてんのかって……!」
「ん〜……一言で言うなら、オレが美人になるって言ってくれてたお礼? チャットでお前だけじゃん、そう思ってくれてたの。だ・か・ら、一発ぐらい抜いたげよっかなって♪」
「……………っ!?」
「ひあっ!? おまっ、こっからまだデカくなるって……期待し過ぎだろぉ♪」

 なにも反論できない。
 背の高い日高の眼前ではパーカーに包まれた比呂の頭が揺れると、どこからか漂う甘い香りが鼻をくすぐる。それはもう、男の臭いなんかじゃない。興奮してジャージの内側から濃密な体臭を立ち上らせ始めた比呂と下半身で密着していると、理性が蕩けて男だなんて思えなくなってくる。
 すぐそばを通り過ぎていく水着姿の女子に目を奪われる事はあっても、これまで青春の全てを水泳に捧げてきた。それも水着姿の女子に触れられるのなんて違う世界線の話で自分には無縁だと思っていればこそ。最初はお尻に触れているだけだった股間が、ジャージを押し込んで比呂の尻の谷間に押し込み、奥でキュッと窄まる排泄口をぐりっと圧迫するほど肥大化してしまっているのは、一目惚れしてしまいそうな美少女になった比呂とヤれるかもしれないという期待を抱いたからに他ならない。

 ―――限界を迎えた理性が、頭の奥でプツンと弾けた。

「んあっ! こ、こら、そんなに乱暴に……んんっ! 尻穴を、突くなよぉ! か…感じちゃうだろぉ……!」

 オスの本能が目覚めた日岡は、比呂の細い腰に腕を回してトラックの外壁に押し付けると、フードに隠されたうなじに顔を埋めてフガフガと鼻を鳴らしながら小刻みに、けれど力強く比呂のアナルへ怒張を突き上げた。
 履いているズボンが邪魔をして挿入できないことも理解できず、しかも挿れる場所すら間違えているのにこじ開けようと腰を斜め上へと振りたくる。

「あっ……やっべ、犯されてるみたいで……あ、おぉ……こういうの、いいかも……んあぁ……♪」

 女体化して少し細くなったのか、抱き寄せられた比呂の体は日岡の胸にすっぽりと収まっていた。
 胸やお尻は大きくなったのに、男の時の無駄な筋肉が減って軽くなった体が持ち上げられては日岡の怒張に尻から下ろされ、圧迫感と衝撃が股の下から脳髄へと何度も駆け上がっていく。
 女になったんだから色々と楽しみたい……このまま日岡に乱暴に弄ばれてメスの気分を存分に味わうのもいいかなと頭の片隅で思い始めるものの、バスのトイレ休憩は十五分程度。いずれトラックの運転手も戻って来るし、今でも他の部員たちに見つからないか心配なのだ。

「しょうがないなぁ……おいたがすぎるDTくんには教育的指導が必要だな、こりゃ♪」

 その直後、日岡の眼前に甘い香りが溢れかえる。
 比呂がフードを脱いだ。ただそれだけなのに、ジャージの内側に充満していた汗の匂いがとめどなく立ち上って二人を包み込む。
 バスに乗っている内からどれだけ興奮していたのか。教室でもプールでも手を伸ばせば触れる距離に女子がいるのに、これほど濃密な女の体臭を嗅いだことは一度もない。特に部活中では、どんなに運動して汗を掻いてもも嗅げるのはプールの塩素に消毒された臭いだけ。それだけに体が密着するほどの至近距離で比呂の体臭はあまりに強烈過ぎた。ズボンの下で勃起しきったチ○ポが射精寸前だと言わんばかりにビクビク痙攣し、腰の動きを止めて括約筋を締め上げていないとパンツの中に暴発してしまいそうなほどに根元から精液が込み上がってきている。

「なぁ……早くシようぜ。オレだって、もう我慢しきれないんだからさぁ……」

 だらしなく表情を歪めながらも射精を堪えていた日岡の大きく盛り上がった股間。このままだと体臭だけで昇天しそうな相手に少し不満を漏らした比呂は、行動は大胆な割にシンプルなパンツをジャージのズボンと一緒に太腿まで下ろすと、胸に負けじと張りと丸みを帯びたヒップ、その谷間でモッコリテントを挟み込んで腰を緩やかに上下に蠢かせ始めた。

「や、やめ……それ、マズっ、いまは……あ、あへ……」
「あ、擦れて……ちょっといいかも、これ……♪」

 尻コキの圧力と気持ちよさに屈して一歩、二歩と日岡が後ろに下がれば、それを追いかけるように比呂がトラックに手をついてお尻を大きく後ろに突き出す。
 肩越しに振り向き、顔を紅潮させて息を荒げているのを見れば、比呂が何を望んでいるかは誰にでもわかる。そしてそれを断れるほど紳士でもない日岡はズボンの中から暴発寸前のペ○スを引っ張り出すと、愛液が滴るほどにチ○ポに犯されるのを待っている割れ目に先端を押し当てた。

「うっ……うあっ、おおォ………!」

 女体化した比呂の淫唇を押し分けて亀頭が粘膜に触れると、それだけでイッてしまいそうになる。
 けれど童貞よさらばと言わんばかりに腰を押し出すものの、残る休憩時間と自分の我慢の限界という二つのタイムリミットに内心焦りまくっていては、未経験の日岡に上手く狙いをつけろという方が無理な話……なのだが、股下から延びてきた比呂の手が宛がわれ、先端を蠢く膣口に誘われると、まるで呑み込まれるように男子水泳部で一二を争う巨根が比呂の膣内へと突き入れられた。

「んぅううぅぅぅ……♪」

 反射的に比呂の腰を両手でしっかりと掴んで腰を大きく突き出していた。長大なペ○スは容易く女体化して間もないおマ○コの一番奥にまで届くものの、部活で鍛え上げられた筋力はそこでは止まらず、子宮を無理矢理押し上げて強引に根元までヴァギナへ捻じ込んでいた。

「は、はいった……これが、おマ○コ……すっげぇ……気持ちよ過ぎて、も、おおおうゥ……!」
「ば…かぁ……おま…もうちょっと……加減しろよぉ……今ので、イっちゃった……んんんゥ!!!」

 肉の棍棒のようなチ○ポが余すことなく膣粘膜に包み込まれ、蠢く肉ヒダに締め上げられていた。ミミズのような太い血管が何本も脈打ち、先端からカウパーが止まらなくなるほどに限界寸前だった肉棒は、男からザーメンを搾り取るためのモノとしか思えない比呂の女性器がもたらす快感にあっけなく屈し、かろうじて堰き止めていた精液が尿管を押し広げてチンポの先端目掛けて込み上げ始めた。

 だが、まだ。まだ終わっていない。まだ出していない。
 顎を突き上げて情けない声を上げそうになっていた唇を奥歯を強く噛みしめながら引き結ぶと、日岡は本能のままに腰を引いては比呂のお尻へ下腹部を叩きつけるようにヴァギナを貫いていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ……!!!」

 控え目にではあるが獣のように咆哮を漏らしながら比呂の柔肉を掻き回すように蹂躙する。射精するまで十秒もない。けれど今を逃せば一生セックスなんて出来ないかもしれないというもてない男特有の強迫観念にも囚われ、呼吸することも忘れてひたすらに腰を迫り出す、膣肉を徹底的に貪った。

 けれど比呂の方もセックスを楽しんでいる余裕などない。
 比呂よりも日岡の方が背が高く、腰の位置も高い。そんな相手に子宮を突き壊さんばかりにチ○ポをねじ込まれるたび、爪先が浮き上がるほどの衝撃が臍の裏側で弾け、挿入時に軽く絶頂を迎えたばかりのメスの身体は息を整えることもままならず、ブシャッと音を立てて結合部から絶頂汁を迸らせた。

 ―――やばいって、これ、チ○ポ、入ってくるたびに、マ○コが擦れて、イく、イく、これマズッ、女を抱くより、挿れられる方が、何十倍も、何百倍も、イイ、イイ、イイィイイイッ!!!
 
 不幸中の幸いだったのは、比呂が女になってすぐに処女を捨てていた事だけ。
 あまりにも乱暴で力強いピストンに女の体では抗いきれず、ジャージに包まれているだけの二つの膨らみはトラックの側面に押し付けられ、被虐の悦びに声を漏らしながら髪を振り乱していた。

「うあぁぁ……も、ダメ、オレ、ッ……っく、っくぅうううッ……!!!」
「あおっ、あおっ、あおぉおおおおおおおおおっ!!!」

 泣けどしそうなほど熱い愛液でぬかるんだ比呂の蜜壷の奥で、日岡の肉棒が精液をぶちまける。
 バスの中で煽られ、我慢に我慢を重ねた上での射精だ。少し早すぎないかと自分でも悩むことはあるものの、最後の瞬間まで比呂の膣肉を味わいつくした末での暴発はこれまでの人生で間違いなく最高の瞬間だった。
 神経が耐え切れないほど鮮烈な快感で頭の中が真っ赤に染まり、だらしなく開いた唇から溢れる涎以上の量の精液が尿道口から比呂の子宮の奥へドピュドピュと吐き出されている。
 しかもそんなチ○ポを限界以上に絞り上げるように緊縮する女体化マ○コ。あっという間にチ○ポと金玉から一滴残らずザーメンを吐き出させられた日岡はあまりに恍惚とした脱力感に腰が抜け、その場で尻もちをついてしまう。

「あっ……」

 肩を大きく上下に動かして春先に冷たい空気を喘ぐ胸へと吸い込みながら、比呂が背後へ目を向ける。
 ヤるだけヤって、出すだけ出して、一足先に満足しきった日岡は、その視線に射抜かれた途端に心臓が締め上げられるような昂りと共に、すべて出し切った股間をピクンと反応させてしまう。
 髪の毛が貼り付くほど額に汗をにじませ、荒い呼吸を繰り返している比呂。その顔に浮かぶ笑みは、日岡と同級生のはずなのに……あまりにも淫靡で、気が付いた時には視線を逸らす事さえできなくなっていた。

「なんだぁ? せっかく童貞貰ってやったのに、気持ちよ過ぎて腰が抜けたのかぁ? だらしねーんでやんの♪」
「う、うるせぇな! こっちは心の準備も何もなかったんだから、その、しょうがねえだろ!」
「きしし♪ んじゃ、心の準備ができた頃にもう一回ヤらしてやるからさ。ちゃんとチ○ポ洗って待ってろよ?」

 言葉を交わせば、普段通りの比呂がいた。……といっても、体は女になっていて、セックスした直後なのにそのことにあまり頓着していないので、逆に混乱してしまうほどだ。
 そんな日岡に比呂はホイッと自分のスマホを放り投げると、

「せっかくだからさ、初童貞狩り大成功記念に一枚撮ってくれよ」
「えっ……な、なにを?」
「決まってんだろ? こ・こ・だ・よ♪」

 日岡に見せつけるように股間を突き出すと、淫唇にあてがった指を軽く押し込んで太いチ○ポに犯されたばかりに割れ目を割り開く。
 いわゆる“くぱぁ”だ。
 割れ目の奥、ほんの一分ほどとはいえ巨根に押し広げられた膣口が日岡の目の前に曝け出されたかと思うと、奥からとめどなく溢れ出してきた濃厚な精液が出した本人の前で垂れ落ちていく。

「………オレのスマホでも、撮っていいか?」
「リベンジポルノはやめろよ?」
「そんなことするか!!!」

 相手は比呂。女体化した同級生。ノーカンにして黒歴史として封印してもいい初体験だった……はず。
 それでも喉をゴクリと鳴らして比呂のおマ○コを食い入るように見ていた日岡は、スマホを構えて精液を滴らせる比呂の姿を写真に収めていた―――



 −*−



「なぁ、いい加減に出てこいよ、でばがめ野郎」

 時間は既にバスに戻らなければならない時間だ。
 それでも二人一緒に戻れば周囲に下手に勘繰られるだろうということで、先にチ○ポを拭き終えた日岡だけが先にバスに戻っている。
 比呂はというと、膣内射精されたザーメンの後始末もあるので時間がかかっているのだけれど……どこを見るでもなく不意に言葉を投げかける。

 すると、都合よく比呂たちの姿を隠すようにトラックの隣に停められていたワゴン車の影から、比呂と同じジャージを着た男子が姿を現した。

「……ごめんなさい、覗くつもりは、無かったんですけど……」
「あ、ホントにいたんだ。適当に言ってみただけなんだけど」
「………へっ?」
「真昼間からこんなところでヤってたんだから、やっぱ誰かに覗かれてたかな〜って思ってさ。いや〜、もし誰かいたら格好いいかなってね、思っただけなの、いやホントに。あはははは♪」
「う…あうぅぅぅ……」

 同じジャージでも、姿を見せた男子の着ているものはまだ新しく、成長を見越して大きめのサイズを買ったのか、体の大きさには合っていない。
 比呂は人の顔を覚えるのが得意だ。去年もそうだったが、入学後に水泳部への入部することが決まっている有力選手は、希望すれば春休み中から練習に参加することも認められている。
 顔立ちは未だ幼く、体は平均身長よりも低め。名前は確か……

「佐々木……だったっけ? 人がやってるところを盗み見るなんて、おぬしもエロよのぉ?」
「ちちちちちがうんです! 見るつもりはなかったんですけどバスに戻る途中で偶然むぅ!?」

 足が竦んで動けずにいる佐々木へと近づくと、比呂はおもむろに抱きつき、その唇を貪った。

「見られちゃったからには……口止めしないとね……♪」
「な…なに…を………???」
「こんなにおっきくしといて……ちょっぴり期待してたんだろ?」
「ぁ……ゃ………だめ、先輩………んくぅ………!」

 ダブダブのジャージで大きさを誤魔化していても、密着すればたわわな膨らみの存在を実感できる。
 小柄な後輩の右腕に本当は男とは思えないほどに立派な膨らみを押し付けた比呂は、相手の股間をまさぐり、ズボンの中でシコシコと扱きたてる。

「あっ、あっ、んんっ、ああぁ……!」
「合宿所に着いたらいっぱい気持ちいいことしてやるからさ……とりあえず今はイっとけって♪」
「やだ、こんなとこで、んっ、せんぱ…いぃ! ああ、出ちゃう…あ……んぁあああぁ…………!」





 まともに歩けなくなった後輩を支えながら比呂がバスに戻ると、急病人が出たため出発時間が延期されていた。
 ラッキーといいながら席に戻る比呂ではあったが、通路を奥に向かうほどに異様な熱気が充満し、いくつもの視線がジャージの下で火照っている女体を視姦するように絡みついてくる。
 ちらりと日岡に目を向ければ、顔を横に振って自分は何も喋っていないとアピールを返してくる。そもそもチラ見せ画像をグループチャットに上げたのだ。休憩時間に姿を消していた休憩時間に、水泳に青春を捧げた童貞ばかりの部員たちはあれこれとたっぷり妄想したことだろう。

「〜〜〜〜〜〜♪」

 そんな部員たちの様子に変化を特に気にした様子を見せず、比呂は元いた最後尾の席に戻ると再びヘッドホンを耳に当てて音楽を聴き始める。

 このサービスエリアから後は、合宿所までバスは止まらない。
 体の疼きを解消するために何かしようと思っても、顧問が同乗しているから派手なこともそうそう出来はしない。

 ―――それなら体力を温存しておく方が、後で楽しめちゃうかな?

 なにせ、性転換薬との相性が良くて昨日の昼前に女の体を得てからというもの、すぐにチ○ポ仲間に声をかけてロストバージン、それから徹夜でハメまくってきたのだ。正直なところ、かなり眠い。
 バスに乗った当初こそテンションの高さもあったけれど、頭の中はかなり狂っていた自覚がある。

 そうこうしている内に、比呂の唇からは寝息がこぼれだす。
 性欲を刺激された狼たちに周囲を囲まれているのに、その寝顔はあまりにも可愛らしかった―――
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水泳部・部員Aの場合 1 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2023/04/04(Tue) 16:29 No.4153 
「じゃじゃーん! 噂のTS薬を買ってみましたー!」

 それは水泳部の春季合宿の三日前の事。
 練習後の男子更衣室で芦谷比呂は裏サイトの通販で購入した女体化薬を自慢げに取り出した。

 芦谷比呂を一言で言い表すなら、お調子者だった。
 県下有数の水泳部に所属しているのに、自分が楽しいと思ったことを優先するのでとにかくよくサボる。学業もちゃらんぽらんで、授業に姿を見せない時は誰かとヤってるなと思われるぐらいに爛れた学園生活を送っている。現に水泳部の女子も何人かは彼と肉体関係にあり、部活後に女子二人の肩を抱いて帰っていく姿を歯ぎしりしながら見送った男子も数多い。

 水泳部に所属している理由は「体型を維持して女子にモテるため」と言い切るぐらいで、レギュラーほどではないがなかなかに引き締まった色気のある体つきをしている。もっとも激しい練習についてこれないぐらいの持久力しかないのは仕方がないが、女性相手ではかなりタフらしく、満足させられなかった相手はいないと豪語している。
 整っているがやや垂れ目で、いかにもといった女受けのする顔立ち。けれど警戒心を抱かせない雰囲気と人懐っこい性格もあって、意外と距離を置く男子はそんなにいない。なんのかんのと言っても、同じ部活で二年も一緒に過ごした仲間であるし、彼がいるだけで部内のムードも良くなるし、彼の“お世話”になって大人の階段を上った者もいる。

 そんな彼だからこそ女になれる薬などという胡散臭い薬を購入したことにも「ああ、また面白そうって理由で手を出したな」と周囲は一様に納得し、男×男には興味なくても漫画でもアニメでも一般的になり出したTSネタに興味を引かれた輩は比呂の周囲に集まり出した。

「いやー、これ買うために色々とバイト頑張ったんだよ? もー、ヤりすぎてチ○チンもげるかと思っちゃったっスよ」
「チ○チンもげるバイトってなんだよ!? 俺にも紹介してよ!?」
「だからって三年の送別会ぐらいには顔出せって。先輩、お前がいなくて寂しがってたぜ?」
「ああ、そっちは三次会でいっぱい出したから。もー、玲羅先輩も南那先輩も氷雨先輩もオレが虚弱だって知ってるのに無茶苦茶するんだから、困っちゃうよなー」
「ま、待って、部長と副部長とエースと、お前なにやったんだよ!?」
「なにって……ナニ? 挿れたり出したり男も女もみんな幸せになれるラブアンドピースなお遊戯です♪」
「うぁああああああああっ! 氷雨先輩が、オレの永遠の〇〇〇がぁああああああああ!!!」
「お前、あの三人とは今まで何ともなかったじゃねぇかよぉおおおおおおおおおおおお!!!」
「世間体って大事だから。さすがに部長様方がセックスしないと好タイム出せないだなんて口が裂けても言えないっしょ?」
「テメェ、ざっけ―――」
「あ、その時の――見ます? よかったら―――で、―――の、―――とか」
「今日からお前は永遠のベストフレンドだ、よろしくな!」

 また懐柔されてる……何人もの男子が比呂と拳をこつんこつんと打ち合わせる様子を見て、他の部員は内心溜息をついていた。
 比呂が部活に出た時だけ部長たちの笑顔が多く、早々に諦めていた者が大半だった。

「で、なんでそんな怪しいTS薬なんか買ったんだよ。まさかお前、女になるつもりか?」
「イエース、ザッツライト! いっぺん女の体でセックスしたかったんだよね〜♪」
「うっわ、マジお前それはついてけね〜わ……」
「女になりたいならちゃんと病院行けよ……」

 現在では、カプセル薬一つで安全に性転換する技術が確立されている。
 正確にはカプセルの中には薬液と有機型ナノマシンが入っており、性転換後の容姿もある程度操作可能だ。
 ただ、技術が確立されたと言っても費用は高額である。大病院などの施設で遺伝子検査を受けた上で性転換時の身体の変動率を算出、薬の服用後の変化をシミュレートするなど、色々な手順を踏まなければならない。もし保険適用外で性転換しようとしたら100万でも足らず、およそ学生に払える金額にはなりそうもない。

「ちなみにそれ、おいくら?」
「にーきゅっぱ♪」
「「「絶対ニセモノだろソレぇ!」」」

 余談ではあるが、最初に登場した性転換薬が薬液のみのタイプである。
 こちらでも性転換は可能だが服用者との相性があり、元の性別に戻れない、そもそも効果が出ない、子供が作れないなどの副作用が生じることがある。
 それでもナノマシン併用型よりも格段に安く作れるメリットがあり、アングラに出回っているのはそういった薬液タイプだった。

 そして比呂が手にしているのは、ドリンク剤と見紛うような容器に入った薬液タイプ。

「まぁまぁ、物は試しって言うじゃない。聞き始めるまで三日ぐらいかかるっていうからさ、ここで男らしく一気飲みするのをみんなに見てもらおうと思って。んぐっ」
「「「躊躇なく飲みやがった!?」」」
「………おお、桜餅味で意外と美味い」
「「「どんな味だよそれ!?」」」

 心配する周囲を余所に、ほっそりとした自分の体を撫で回して「胸おっきくなってない!?」とボケ倒し、ビフォーアフターを確認したいからとスマホで撮影会を始め出す。

 もっとも、心配する必要はなかったかもしれない。
 比呂が購入した性転換薬は三本セット。元の性別に戻る分の一本に加え、もしも効果が出なかった場合の保険としてもう一本サービスされていた。
 だから本当に女になれてもなれなくても、男に戻れる保証はされている。

 けれど、









「あれ、ドリンク剤落ちてますよ。誰のですか、これ?」

 二人分にするには、一本少ない数だった。



 −*−



<合宿当日・移動日>

「やりぃ、オレ一番後ろの席ー♪」
「ズリィぞ、芦谷ぁ!!!」
「これでも一応、新三年ですので、この場所だけは譲れません、キリッ?」
「なんで最後は疑問形なんだよ!?」

 来年には水泳部に入部することが決まっている推薦枠の新一年などを含め、部員たちは男女別で大型バス二台に分乗すると、合宿所へ向かっていた。
 厳しい練習時間以外では生徒の自主性を尊重する風潮もあって、仲のいい部員同士で集まって座るバスの車内は賑わいが絶えなかった。鬼コーチなどは自家用車で現地集合で、同乗しているのが定年退職間近の顧問のみというのも、みんなが盛り上がる原因ではあったのだが。

 そんな車内で、最後尾の様子だけが妙におかしかった。
 騒いでいないわけではない。それでも気分が高揚しているというより、何かに気を取られていまいち乗り切れていない様子である事には前側に座る他の部員たちも気づいていた。

 なにせ、最後尾の右端には比呂が座っている。
 バスに乗車した部員全員がジャージ着用にもかかわらず、比呂は一人だけパーカーを羽織り、フードを目深に被っている。パーカーも部で指定してるものなので着ていても問題はないのだけれど、問題は彼が有線のヘッドホンで音楽を聴いているという事だった。
 ただし、少しファスナーを下ろしたジャージの胸元から飛び出すスマホのジャックにプラグを突き刺して。

「な……なぁ、芦谷、お前、その胸……」
「〜〜〜……♪」

 比呂は手をパーカーのポケットに入れて足を組み、目を瞑って音楽に聞き入っていた。
 そのせいで隣や前の席から声を掛けられても気づいていない。というか、わざと無視している。
 それでも周囲は比呂のことを意識せざるを得ず、気付いた時には多くの部員が席を立って比呂の姿を一目見ようと後部座席に殺到していた。

「〜〜〜……♪」

 パーカーもジャージも、細身の比呂にはサイズの大きくてブカブカ……のはずだった。
 けれど乗車する前の比呂のパーカー姿は、どこか太っているように見えた。なにせ詰め物をしているかのように胸元が大きく膨らみ、そこから下へストンとパーカーが垂れていたのだから。
 原因を知らない女子は首を傾げ、原因を知る男子はまさかまさかとその姿を凝視した。

 ―――もしかしてこれは当たりを引いたんじゃ……

 三日前は笑い話のネタになると思っていた比呂のTS薬。
 水泳部のグループチャット(男子部員専用)では偽物を掴まされたと思っている部員が大半で、もし女になっても見れたものじゃないだろうと思うのが残りを占めていた。ごくわずかに、比呂なら女装しても似合うだろうから……と一縷の望みに掛けているのも一人いたが。

 そんな中、集合場所に現れた比呂はフードで顔を隠し、体型まで隠していた。
 けれどパーカー越しに見て取れるほど大きく前に突き出したたわわな膨らみを目にしてしまうと、もしや……と期待する男子が一気に増加した。

 そして噴火直前のマグマのように平静を装う顔の下で滾っていた感情は、比呂が音楽を聴き始めた途端に噴き上げたくても噴き上げられずにジレンマを抱える羽目になってしまっていた。

 他の部員が来る前に、苦しいと言いたげにファスナーを下ろされたパーカーの下から現れたのは、男子にあるまじき丸々としたバスト。しかも二つあるはずの頂点と頂点を結ぶラインの中間辺りまでジャージのファスナーまで下ろされ、伸縮性のある生地に真ん中へと寄せ上げられた張りのある谷間まで露わにしたのだ。

 男子なら生唾ものの魅惑的な谷間に、今はスマホが挟まれて直立しており、バスが揺れて膨らみが振動するたびに男たちの股間に決して軽くない疼きが込み上がる。
 あのスマホになりたいと、何人の男たちが奥歯を噛みしめている事だろうか。
 けれどここで騒いで比呂に気付かれれば、せっかくのサービスタイムが終了してしまうかもしれない。

「………………っ!」

 それでも、隣に座る男子は一つの謎を究明すべく、生唾を呑み込みながらゆっくりと比呂の胸元へと手を伸ばしていく。

 おっぱいの圧力に屈しており広げられたジャージの胸元。けれどそこに見えていないとおかしいものが見えていない。
 それはシャツの襟首であり、もしくはブラジャーの紐である。
 一番間近から上乳とジャージのわずかな隙間を覗き込んでいるのに、インナーの存在を今まで確認できずにいる。
 もしかしてノーブラ、どころかノーシャツ!?
 このあまりにも重大過ぎる謎はチャットで静かに拡散され、スマホの画面に次々とメッセージが流れていく。それを今、己が手で究明すべく、緊張に震える指先はファスナーの摘まみを挟むことに成功する。

 が、

「お客さん、おいたが過ぎるヨ? ここから先は有料だヨ?」

 ファスナーを下ろすよりも早く、男子の腕を比呂の手が抑えていた。

「おまっ、起きて!?」
「こんなに視姦されながら寝てられるはずないじゃん。みんなしてオッパイに飢え過ぎだって♪」

 慌てて逃げていく腕やそそくさと顔を引っ込める周囲にフードの下で口元を歪める。
 左に目を向けると、手を伸ばしていた男子以外も全員目を反らしていた。だから、

「これ、努力賞ね♪」

 比呂はそういうと、右手の指をジャージに引っ掛け、左手の指でファスナーの摘まみ、そのまま真下に引き下ろした。

「………………っ!?」

 広がった胸の谷間からスマホが転げ落ちた。
 ファスナーがヘソまで下ろされたジャージが窓の方へと右襟を引っ張られると、ぷりぷりと揺れ弾む美巨乳が露わになった。乳肌は白く、よほど見られて興奮していたのか半球状に丸く盛り上がっている。
 ところが、乳首はどこにも見当たらなかった。ジャージの内側と擦れないように、巨峰と言っても過言ではない乳房の頂には絆創膏が張られている。それでも、女性の裸に飢えて夜な夜なエッチな画像を漁っているからだろうか、絆創膏がぷくっと盛り上がっているように幻視してしまい


ボリューミーな膨らみに比べて小さく思える乳首も精いっぱい反り返るように勃起し、汗ばむ肌をほんのり彩る桜色が比呂の火照りを明らかにしているようで妙に艶かましい。

「はい、ちーず〜♪」
「へ、は、え?」

 ぱしゃり。
 あまりにも圧倒的なおっぱいの情報量を叩きつけられ、脳が思考放棄している間に、比呂はスマホで男子の間抜けヅラを撮影していた。
 それからレンズを自分の方に向けると、

「いぇ〜い♪」

 フードを後ろへ下ろして素顔を晒し、片乳を露わにした自分の姿をピースサイン付きで自画撮りする。

「んじゃボーナスタイムしゅ〜りょ〜」

 そしてすかさずファスナーを首元まで引き上げた。

「え、ちょ、ちょっと待って、もう一回見せてくれ、よく見えなかった、だからもう一回!」
「ヘイヘイ、お客さん。間の抜けた顔してチャンス逃したくせに随分な言いようじゃね?」
「うぐっ……!」

 眼前に突き出されたスマホ。その画面に映し出された自分の鼻の下の伸びた顔を見せられては、それ以上なにも言えない。

「それよりもさぁ、他に言う事があるんじゃね?」
「え……お、おう………」

 騒ぎを聞きつけて急いで後部座席を覗き込んだ男子たちだが、その時には比呂はフードを被り直し、胸の露出もゼロになっていた。後部座席の左側からは、間近の男子の背中が邪魔をして肝心なところが見えず、結局一人だけ美味しい思いをした男子は後ろからゴツゴツと叩かれたりしていた。
 でも……鼻先をくすぐる甘い香りに、比呂が自分の目と鼻の先にまで顔を寄せていてくれたくれたことを再認識する。

「すっげぇ……可愛かったです」
「よし、合格にしといてやろう♪」

 そう言って、フードからわずかに覗く口元に笑みを浮かべた比呂は、スマホ画面をスワイプしてぽちぽち画面を叩く。
 するとしばらくして、男子部員用の部内チャットに一枚の画像があげられた。

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」」」

 それは男子たちが抑え込んでいた感情を暴走させる爆弾だった。
 先ほどの比呂の自画撮り写真。ピースしている比呂が先っぽに絆創膏を貼った右おっぱいを露わにしている姿なのだから。

 さすがに何事かと顧問の教師が後ろを振り向いても騒ぎは収まらない。
 誰も彼もが食い入るように自分のスマホを凝視する中、立てた人差し指を唇に押し当てた比呂はもうしばらくスマホを操作して、隣の男子に個人宛のメールを送る。



 ―――次の休憩所で、ちょっと付き合え。



 比呂ならきっと可愛い女の子になる……ただ一人そう信じていた男子は、悪戯が成功した子供のような顔で笑みを浮かべる部活仲間に胸を大きく高鳴らせていた。
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お師匠様は逃げました-3 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2023/02/05(Sun) 23:21 No.4152 



「申し訳ない。確かにヒルデガルデ様によく似ているが……あなたには怪しいところが多すぎる。本物と認めることはできない」
「ぼく……じゃなかった、私は、間違いなくヒルデガルデです! ええっと、誰か私のことをよく知る人を連れてきてはもらえませんか!?」
「我々は門番として、常日頃からヒルデガルデ様のご尊顔を拝している。見間違えることなどありえない!」
「そんなぁ……」

 まさか師匠がきちんと門から出入りしていたなんて驚きだ。絶対に歩くのを面倒くさがって転移魔法でひとっ飛びしてると思ってたのに。

 気が付くと、二人いたはずの門番さんが一人になっていた。
 どこに行ったのかは気になるけれど、どうすれば僕がヒルデガルデなのか信じてもらえるかを考えなくちゃならないので、すぐに門番のことを考える余裕はなくなってしまう。
 そこへ、

「ですが、本当のところを述べさせていただきますとヒルデガルデ様かどうか判断しかねているというのが現状です」
「そ、そうですよね! だって(体だけは)本物のヒルデガルデなんですから!」
「ですから……本物かどうか、確かめさせていただきたいんですよね」
「え……んぐっ!?」

 後ろからいきなり抱きかかえられたかと思ったら、口の中に布のようなものをねじ込まれた。
 いったい何が起こったのか判らない……それでも反射的に抗おうとするものの、僕を羽交い絞めにする腕はピクリとも動かない。そうこうしている内に道の脇の木々の中へ連れ込まれると、口元にイヤラシい笑みを浮かべた門番が、僕を助ける素振りも見せずにゆっくりと近づいてくる。

「それじゃあ、たっぷり確かめさせてもらいましょうか、ね!」
「んむぅうううううううっ!!?」

 ローブの下から露わになった胸へと門番が手を伸ばしたかと思うと、ドレスの生地を掴んで一気に左右へ引き裂く。
 男の力の前では、仕立ての良い高級生地のドレスの防御力なんてないに等しい。そして乳房は包み込むものがなくなるとぶるんと大きく揺れ弾み、門番の目の前に扇情的なラインを露わにさせられてしまった。

「うひょおっ! マジかよ、大当たりじゃねえか、このデカさで本物とか、マジありえねえ!!!」
「むぐぅうっ!!!」

 門番は露わになった膨らみをみて口笛を吹くと、両絵tで二つの膨らみを鷲摑みにし、下から上へと乱暴にこね回す。

 ―――僕、何をされてるの!?

 痛いぐらいの圧迫感が胸を駆け巡るたびに、おぞましい感覚が背筋を震わせる。
 しかも前だけじゃない。後ろにいる男――おそらくもう一人の門番――は、長い髪の鼻先を押し付けて立ち上る甘い香りを堪能すると、唾液を塗り付けるようにうなじを舐め回してきた。まるでナメクジが這いまわっているかのような身の毛のよだつ感触に、ただただ全身が硬直してしまう。

 ―――こいつら……まさか、僕のことを……!?

「たまんねえなぁ、こんなデカパイ、もう一生拝めないんじゃねえか!?」
「いいから早くしろって。この女の体、柔らかくて抱き心地がすげぇいいんだ。ヤらねえなら、オレが先に喰っちまうぞ」
「我慢してろよ早漏。こいつは確認検査だからな、ルイス様とあの女が結婚してから随分だってるんだ、処女だったら偽物、経験済みなら本物、あとついでに俺らにヤられて妊娠してたら種付け済みってことで本物ってことにしといてやるよ」
「もっとも、生まれてきた子が俺らの子じゃなって保証は出来ないけどなぁ!」
「十年経ったら誰に似てるか判るだろうけど、それまでに何人子供産んでるだろうなぁ? ぎゃははははっ!!!」
「んんんっ! んぅうううううううううううううううっ!!!」

 処女だったら偽物!? 冗談じゃない、そんな確認方法認められるか!
 だって、

 ―――師匠はチ○チンが恐くて本番できない千年物のメンタルビッチなんだぞォ!!!

 地面じ押し倒されると、じたばたと振り回していた脚の間に門番の一人が割り込んでくる。
 両手はもう一人の男が僕の頭の上で押さえつけられた。どうあっても逃げられない態勢にされた僕をニヤニヤと見下ろしながら、ズボンのベルトを外した男は仰向けになっても形が崩れない膨らみの上に覆いかぶさってきて―――



























「貴様ら、何をしておるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」



 僕の視界が影に覆われる。
 視線を上げると、今にも僕の股間に固くなったモノを突き入れようとしている男の背後に、林の中に差し込む星の光を遮る大きな人影が現れていた。
 その人影が、門番が持っていたモノよりもさらに巨大な槍を振り回したかと思った次の瞬間、

「ぺぎょ!?」

 ………僕の脚の間から男の姿がなくなっていた。
 恐る恐る視線を横に向けてみると、少し先の大樹の幹に………夜でよかった。見てません。僕は何も見てませんからぁ!!!

「だ、だ、だ、団長!? なんで、クソ女を探しに走り回ってたんじゃ!?」
「ルイス様の奥方になんて暴言を吐くのだ、この痴れ者がァ!!!」

 ―――ひあっ!? ま、股の間を何かが通ったぁ!!!

 僕の股に触れることなく――少し「ヒヤッ!」として「ピクンッ!」てなったけど――通り抜けた槍の石突が、頭上の男のアゴを跳ね上げる。
 さすがに消えた男ほどの惨状にはなっていないけれど、それでも巨槍の石突での一撃。そのまま真後ろに引っ繰り返ってしまった。………多分、しばらく硬いものは食べられないだろうね。

 ―――この流れだと、次は僕の番……とか言わないよね!?

 団長と呼ばれた男の姿は、僕からだと影になっていて顔がまるで見えない。
 そして門番の男二人をあっさり打ち倒した武威に、ちょっぴり股間からこぼれ出てしまったモノがあるけど……仕方ないんだ! だって今、猛獣を目の前にしてる気分だし、もしおチ○チンとか睾丸とかが残ってたら直撃してた股間スレスレの位置を金属の棒の先端が通り抜けたんだよ!? ぶっちゃけ犯されそうになった時より恐いィ!!!

 しかも何も喋ってくれないのが余計に恐怖を掻き立てられてしまう。やば、泣いちゃいそう……

「―――若奥様、ご無事で何よりです。そして救出が遅れてしまったこと、誠に申し訳ございません。さぞや恐ろしい思いを為されたでしょう。この遅参の罪に対して、いかような処分を受け入れる所存にございます」
「………はい?」

 巨大な影は槍を横に向けて地面に置くと、片膝をつき、僕に向けて恭しく頭を下げた。
 なんで頭を下げられているんでしょう……次々に変化する状況を受け入れきれずに混乱していると、門の方からさらに十人近い鎧姿の騎士たちが駆けつけてきた。

「遅いわ馬鹿者どもが! 老人のワシより足が遅いなど、貴様らそれでもウィルヘルム家の騎士か!!!」
「はっ、申し訳ありません、ジャスウェル団長!」
「謝罪は若奥様に! 我らが遅れたせいで、あわや御身が穢されるところだったのだぞ!?」
「はっ、申し訳ありません、ヒルデガルデ様!」
「はっ、はい、僕は大丈夫です!」

 しまった、勢いに飲まれて思わず返事を返しちゃった。
 するとなぜか拳を胸に叩きつけて例を示した騎士たちは手際よく倒れた門番たちを縛りあげていく。……飛んでいった人、大丈夫かな?

「あの、えっと、ジャスウェル団長……さん?」
「若奥様、いかがなさいましたか。もしや早々に処罰していただけるのでしょうか?」
「処罰なんてしませんよ。助けていただいて、本当に感謝しています」

 騎士の人たちに支えてもらいながら門の前まで戻ってきた僕は、騎士たちから団長と……おそらくはウィルヘルム伯爵家の騎士団長を務める男性に声をかける。
 空に浮かぶ姉妹月に照らされたジャスウェル団長は、黒い鎧を身にまとった巨躯の男性だった。年齢は初老の域に達しているだろう。髪も髭も白いものが混じって灰色に見え、顔にも深いシワが何本も刻まれている。けれど険しい顔立ちと部下の騎士さんたちへの失跡の言葉は、この男性が厳格な性格であり、同時に下から慕われるほど実直な方なのだろうと想像することも出来た。

 ―――信頼……できる人だよね。

「ジャスウェル団長さん、お願いがあります。この魔法薬を倒れた二人に使ってあげてください」

 ローブの下、ドレスの腰には幻惑の薬などを入れた細い薬瓶を何本か差し込んでおけるベルトを巻いている。そこから二本取り出してジャスウェル団長に手渡すと、すごく不思議なものを見るような目を向けられた。

「僕の作った魔法薬です。万能薬とまではいきませんけど、飲ませれば骨折ぐらい直りますから、あの人たちに使ってあげてください。まぁ……大怪我から回復する程、体力の消耗も激しくなりますけど」
「よろしいのですか? あなた様に危害を加えようとした輩の命を助けることになるのですよ?」
「確かに恐かったですけど、助けていただきましたから。寸前で済んだんだから、なにも命を奪うまでしなくていいはずです。だって……あの人たちも、あなたたちのお仲間だったんじゃないんですか?」
「………ご恩情、感謝いたします」

 薬はジャスウェル団長から騎士に手渡される。これで全身複雑骨折&内臓破裂でも死ぬことはないだろう。
 まぁ……ベッドの上から動けるようになるのに一ヶ月ぐらいはかかると思うけどね。

 そうこうしている内に、騎士たちは木の板に門番二人を乗せて門の中へと戻っていく。そのうちの二人は門番の代わりに。
 そしてジャスウェル団長に付き添われながら、僕はようやくウィルヘルム伯爵邸の敷地内へ足を踏み入れることができたのだった。

「あの……ジャスウェル様は、僕が……私がヒルデガルデだと、信じてくださるんですか? 髪も白くなってるのに……」
「いいえ、信じておりません。あなたはヒルデガルデ様ではない」

 うわ、即答された!
 しかも別人だとわかってて敷地内に入れちゃったの!?

「ですが、あなたが伯爵に仇なす悪人だとも思っておりません。自画自賛になりますが、部下の訓練を見ているので人の身体を測る目はそれなりだと自負しております。故に、あなたの体がヒルデガルデ様のものに違いないと解るのです。ならば、部下たちの前で偽物とそしるのも気が引けます」
「………ありがとうございます。信じていただいて」
「いえいえ、信じておりませんから監視は付けさせていただきます。あなたをヒルデガルデ様の部屋に軟禁させていただいた上で、ウィルヘルム伯爵の判断にお任せして……とりあえずお召し物の交換と、暖かいお食事などはいかがですかな?」
「あ〜……そういえば師匠のせいで、今日は何も食べてないや……思い出したら一気にお腹が空いてきちゃいました……」
「それはいけませんな。若い内に食事をおろそかにすると、歳をとってからに響きますぞ」
「普段は一日三食、研究に集中してても取るようにしてるんですけどね。もっとも、僕の作った保存食は木の味とか土の味とか師匠に文句を言われるんですけど」
「師匠ですか……確か、ヒルデガルデ様が暮らしていた庵には、小さな少年が弟子として暮らしていたと聞き及んでおります」
「ええ、それが僕です」

 敷地の中に入れてくれるほど信じてくれて、着替えや食事なども用意してくれるという。
 そんなにも誠意を見せてくれる相手に嘘をつくというのは、僕には出来そうにない。だから師匠に馬鹿にされて……その後で、頭をグリグリ撫でられるんだけど。






「申し遅れました。僕の名はミア。魔女の始祖が一人、“真紅”ヒルデガルデ=スカーレットの不肖の弟子にして、“極蒼”スノウ=プリジアム、“紫電”ライア=ボルテクスの弟弟子にあたります。
 この度は我が師、ヒルデガルデと私の事情について、どうしても伯爵様そしてルイス様にお伝えしなければならない事があり、こうして罷り越しました。ジャスウェル様にはどうか伯爵様へのお取次ぎをお願いできませんでしょうか」

 ―――僕だって落ち着いてれば、ちゃんと喋ることできるんだからね!
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お師匠様は逃げました-2 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2023/02/05(Sun) 23:20 No.4151 
 ………右よし、左よし。今の内に、こそこそこそっと。

 僕が今いるのはウィルヘルム伯爵が治めるティースランの街。
 ルイス様が戦働きで名を挙げはしたけれど、もともとウィルヘルム家は内政に重きを置いた文官の家系だ。領地内の治安も良く、多くの商人が訪れるため国内でも有数の商業都市と呼ばれるほど経済もにぎわっている。
 街の中を網の目のように水路が整備された街並みは美しいだけでなく、下水も整備されていて生活排水がきちんと処理されるため、地方の小規模な都市のように悪臭はしないし清潔なため伝染病などの発生の危険も低く抑えられている。
 これほど見事な都市を築くことができたのは中・長期計画を立てて何世代にも渡って整備してきたからだとは聞いたけれど、都市周辺の農地開拓や鉱山開発なども含め、人間の知恵の結晶だと思えて仕方がない。また、この地の魔女組合もティースランの開発に技術供与を行っていて、他の都市と比べて魔女が受け入れられているのも特徴の一つと言える。

 ―――地域によっては、魔女と言うだけで火あぶりだしね……

 さて、そんな街で僕は何をしているかと、黒いローブで全身をすっぽり覆い、フードを目深に被って顔を見られないようにしながらウィルヘルム伯爵邸を目指していた。
 太陽は天頂を過ぎたけれど、まだ日は高い。人目に触れるのは出来るだけ避けたいけれど、出歩いている人の数もまだまだ多い時間帯なので、人通りの少ない裏道から裏道へと隠れるようにして進むしかないのである。

 ―――なにせ師匠の顔はこの街では知られ過ぎてるから……

 槍の腕前では国に並ぶものなしと謳われ、周辺国との戦でも実力をいかんなく発揮して見せたルイス様、
 そんな英雄と結婚して次期伯爵夫人となった師匠は。お披露目パレードで大勢の人に顔を晒している。付け加えるならば紅の髪の絶世の美女で胸がデカい。さらにお尻も大きいし背も高い。
 特徴のどれか一つをとっても十分すぎるほど人目を引いてしまう外見なのだ。街中を歩けばヒルデガルデであることに気づく人はすぐに現れるだろうし、正体が露見したらどんな騒ぎになるか想像もつかない。

 ―――例え、今の師匠の体の中身が僕だとしても……そんなの誰にも解らないんだし。

 想像が付くのは、人見知りの毛がある自分が大勢の人に取り囲まれたら、怯えて動けなくなるか、吐くか、この二択しかありえないという事だけ……情けないなぁ……
 できれば師匠が体を返してくれるまで庵に引きこもっていたいけれど、師匠はウィルヘルム伯爵家に嫁いだ身。せめて事情を説明してから出ないと引きこもる訳にもいかない。きっと急にいなくなって心配してるだろうし。
 だから僕は、抱えた不安を何とか宥めながら伯爵邸へと向かいながら……フードから零れ落ちた“白髪”を内側へそっと押し戻した。



 −*−



 床の上で目が覚めた時、僕の体は師匠……千年を生きる魔女の始祖、“真紅”ヒルデガルデの姿になっていた。
 鏡を見て、二度見どころか五度見ぐらいした。よりにもよって大魔王すら裸足で逃げ出すで最強・最恐・最凶と三拍子そろった珍生物になったら誰だって頭が沸騰するって!
 しかも師匠がローブの下に着ていた赤いドレス胸元が大胆に開いていて、たわわな膨らみが半分ぐらい露わになってるし! 何度もエッチな格好はやめてってお願いしてたのに! 僕には刺激が強すぎるんです、このおっぱい!

 結局、三回ぐらい卒倒したかな。気を失った前後の記憶があやふやだから、もしかしたらもっとたくさん気絶してたかもしれないけど。

 そうこうしている内に肉体と精神を入れ替えられてた事実を頭がようやく処理し終わった。
 いかがわしいドレス姿は目の毒過ぎるので黒のローブで覆い隠し、いかにも魔女らしい格好になって落ち着きを取り戻すと、今後のことを考え始める。

 まず現状確認。とりあえず師匠だけど、間違いなく頭がおかしい。
 肉体と精神を入れ替える魔法なんて今まで一度も耳にしたことないんだけど、そこは「師匠だから」で済ませていい。
 問題なのは師匠が既に逃走している事……なのだけれど、僕に叱られるような悪事を働いておきながらお行儀よく正座して待っているような人じゃない。今ごろ追跡できないほど遠くまで魔法で転移してしまっているだろう。
 それよりもとんでもない超絶大問題が発覚し、そのまま発狂してしまいそうなほど頭痛がした。

 ―――“魔力炉”と“書庫”まで師匠のになってるじゃないかぁあああああああああああああっ!!!

 “魔力炉”というのは、魔力を桁違いに生み出す人造器官。
 “書庫”というのは、自分の魔法の知識を記録・整理・閲覧するための人造器官。
 どちらも自分の魂を加工して生み出すものであり、おいそれと他人に譲渡できるものじゃない。でも魂は精神ではなく肉体に定着するモノだ。つまり精神だけ入れ替わったから、魔女の始祖のとんでもなく巨大な“魔力炉”と魔女の歴史とも言うべき“書庫”まで押し付けられていたのだ。

 もっとも、今はどちらも停止している状態だ。
 竈で火を焚くにしても着火する種火が必要なように、魔力炉の起動には魔力が必要になる。
 書庫の方も魔力で各機能を動かすので、こちらも現在は記録も閲覧も出来ない状態だ。

 ―――こんな物騒なモノ、永遠に停止させておきたい。

 とはいえ、魔力炉が稼働していないと魂からこぼれ出る魔力は微々たるもの。これじゃ僕は一般人と変わらず、魔法薬も作れないから現金収入も断たれてしまうことになりかねない。
 だから魔力炉だけでも再稼働したいのだけれど……あえて目を反らしていた事実を、改めて再確認する。

 覗き込んだ鏡には、男の僕ではなく絶世の美女である師匠の姿が映っている。
 ただ、師匠のトレードマークとも言うべき真っ赤な髪は色をすべて失い、今は雪のように真っ白になってしまっていた。
 これが意味するのは、

 ―――この体に、魔力は一滴も残ってない。

 師匠は魔導の高みに至るため、理想の美を追求するため、長い魔女生の中で魂だけでなく自分の肉体も細部にまでこだわり抜いて作り直し、作り替えてきた。
 そんな師匠の髪はもちろん特別製で、他の魔女と比べても桁違いの魔力蓄積量を誇る。朱く輝いているように見えるのは錯覚じゃない。あれは髪からこぼれ出た師匠の魔力の輝きなのだ。
 だけど今の僕の髪からは全ての魔力が搾り尽くされ、色も輝きも失ってしまっている。髪だけじゃなく、体中のどこにも魔力が残っていない。これでは魔力炉の起動どころか初歩の魔法を使う事も不可能だ。

「バカ師匠……どうしろってんだよ、こんなの……」

 下手をすると永遠に魔法を使えないかもしれない。
 作業台の上に残された「あんたの体は借りてくから。戻るまでは私の体で好き勝手してもいいけど、傷つけたら魂まで消し飛ばすからね♪」と書かれたメモを模わず握りつぶすと、そのまま床にへたり込み、やっと順調にめぐり始めた僕の人生がいきなりお先真っ暗……どころか、とんでもない爆弾を背負わされて詰みかけていることを自覚してしまい、何も考えられなくなってしまう。

 いっそ、魔女組合を頼るべきなのかもしれない。
 僕の体が行方不明だから元の姿には戻れなくても、魔力炉の起動に必要な魔力を分けてもらえる可能性がある。
 ただ、魔女組合はかなり閉鎖的な組織であり、いくら師匠が魔女の始祖でも簡単に協力してくれるとも思えない。相応の見返りを用意するか、魔力を取り戻した僕の身柄を抑えるか……最悪の場合、師匠の技術の結晶であるこの体を腑分けして調べるとか言い出すかも。

 ―――あ〜……そうだよね。組合の魔女からしたら、見習い程度でしかない僕を助けるより、この体の秘密を隅々までしゃぶりつくしたいだろうしねぇ……

 以前、師匠が別の地域の魔女組合と抗争を起こした時のことを思い出す。
 もう一回あんなのに巻き込まれたら命がいくつあっても足りやしない。しかも今は魔法が使えないんだし。

 他に頼れそうな人と言えば、姉弟子の“極蒼”さんとか“紫電”さんとかだけど……どっちも何処にいるかわからないし、居場所がわかっていても近くないと今の僕じゃ辿り着くのも難しい。
 だとすると……もう一度、奴隷に身を落とさなくちゃいけないかもしれない。でも今は師匠の体だし……

「そうだ、ルイス様だ!」

 自分の伝手ばかりを考えて、師匠が結婚していることをすっかり忘れていた。
 ウィルヘルム伯爵家に頼る? 冗談じゃない。お貴族様がなんで僕を助けてくれるとか考えられるの!?
 それでも師匠がルイス様の妻になった以上、いつまでも家を空けたままでは心配させてしまうことになる。いとことだけでも師匠の奇行をご報告しておくべきなのだろう。

 ―――もしかしたら……この庵には二度と戻れないかもしれないけれど。

 師匠の結婚は財産目当て。
 伯爵邸でどのような傍若無人な振る舞いをしていたか知れたものじゃない。
 そこへ「僕と師匠の心と体が入れ替わっちゃったんです!」なんて言いに行ったら、奇異な目を向けられるか、下手をすれば罪に問われて死刑とか……考えすぎかもしれないけれど、考えられない事じゃない。

 それでも、

「………人生終わっちゃうなら、するべきことをしないと」

 なに、いざとなったら火の秘薬とかぶちまけて伯爵家もろとも爆散してやる!
 ………そんなことをする度胸もないし、秘薬を持っていく気もないけれど、それでもやるべきことが決まると、わずかながらに気力が湧いてくる。

 そして準備を整えた僕は、ティースランの街へと赴き……



 −*−



「や……やっと着いた……!」

 町の外れから林を抜け、空が暗くなりだした頃になって、やっと伯爵邸の前まで辿り着いた。

 ―――街、恐い。人、恐い。もうおうちにかえりたい……!

 裏路地を進んでいたら昼間からお酒飲んでる男の人に絡まれ、ローブを引っ張られて胸が大きいのがバレたら男はいきなり股間をボロンと出して迫ってきた。
 思わず護身用の幻惑の薬を叩きつけて逃げ出したら大きな通りに出てしまい、そこで大剣を背負った背の高い男性にぶつかってしまった。謝ったら許してもらえたけど、何故か手を引かれ、そのまま休憩OKな出会い宿に連れ込まれそうになってしまって再び幻惑の薬の出番になった。
 その際、うっかり手持ちの幻惑の薬をまとめて叩きつけちゃったから周囲の人たちにまで影響が出ちゃって、十人を超える男の人たちがズボンを突き破りかねないほどの興奮状態で僕に襲い掛かってきた。

 ………女の人って、こんな目に遭いながら生活してるの!? できてるの!?

 まぁ、幻惑の薬の効果は長くて十分程度。それに必ず無毒化されるように調整してあるから後遺症が出ることもない。
 それでも迷惑をかけた街の人たちに心の中で謝罪しながら、遠くに見えるお屋敷の方へと進んでいくと、

「とまれ! ここはウィルヘルム伯爵様のお屋敷だ、用事のないものが無闇に近づくな!」
「ひっ!?」

 大きな門が屋敷に続く道を隔てており、その左右に立つ門番の騎士が僕に大声を放ってきた。

 ―――だ、大丈夫、落ち着け、師匠はここの跡継ぎのルイス様のお嫁さん。門番さんなら顔を知ってるはず。何も問題ない。さっきみたいな事故は起こらないはず……!

「あ、あの、門を、開けてください、中に、入る……じゃなかった、帰りたいんです!」
「お前、女か? と言うか何を言っている? お前みたいな怪しい格好をしたヤツが何用だ!?」
「何の用かっていうと、えっと、ルイス様にお話をしたくて……」
「お前のようなヤツにルイス様がお会いになることはない、帰れ!」
「だから、ここには帰ってきたことになるんですけど……あ、そうだ、顔、顔を見てもらえばわかってもらえますから!」

 門番の人に全然話が通じない……いや、これは僕の喋り方が悪いのか。
 最初に威圧されてしまったせいで頭が回らなくなってしまい、喋るのも妙にたどたどしい。自分でいうのもなんだけど、怪しさ全開だ。こんな妄動を続けていたら、一生かかっても中に入れてもらえないだろう。

 それでも師匠だったら伯爵邸へもフリーパスのはず。
 目深に被っていたフードを後ろに下ろして顔を曝け出し、ついでにローブの前も開いて大きな膨らみをドーンと突き出す。
 ほら、どこからどう見ても師匠でしょ?



 −*−



「ヒルデガルデ……様? なのか?」
「髪が白いぞ。別人じゃないか?」
「でも胸はデカいぞ」
「確かにデカい。でも詰め物したら、大きさなんて誤魔化せるし」
「だよな。普通に考えて、あんなの偽乳だよな」
「見栄を張りたいんだろうぜ。噂じゃルイス様も一緒の部屋で寝てないらしいし」
「それにあの女だったら、もっと無駄に偉そうだしな」
「言えてる。偽乳と同じで態度もデカけりゃ偉そうに見えると思ってるんだぜ、アレ」
「ははっ、化けの皮が剥がれまくってるな! じゃあアイツ、偽物ってことで追い返すか」
「決めるのは早いって。どう見ても偽乳だけど……万が一にも本物だったら、もったいなくないか?」
「………確かめるか?」
「変な格好してるけど、よく見りゃ顔は別嬪だし、詰め物の下にはちっちぇのがついてるだろうし」
「じゃあ最初は俺な。昨日のカードの分、チャラにしてやるからよ」
「ちゃっかりしてるねぇ……クックックッ」



 −*−
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お師匠様は逃げました-1 投稿者:鶴翼斬魔 投稿日:2023/01/31(Tue) 04:52 No.4150 
「あんたさぁ、あたしの代わりに子作りしといてくんない?」
「は……? いきなり戻ってきてなに言いだしてるんですか。ボク、薬草から薬効抽出するので忙しいんですけど」
「なによ、弟子のくせにえっらそうに! あたしは伯爵夫人よ、お貴族様なんだからね!? 一般庶民のあんたは土下座して床に額擦り付けてあたしの声を聞ける喜びに打ち震えながらウレション漏らしてワンワン泣かなきゃいけないんだから!!!」
「………そんなこと強要してたら、例え王家でも市民革命待ったなしです」

 ―――何考えてんだ、このお師匠様は……いや、前から何考えてるか解らない人ではあったんだけど。きっと人に罵詈雑言浴びせるのは条件反射なのだろう。

 ここは森の奥深くにある魔女の庵。普通の家とは違い、地面に植えた直後の若苗を魔法で一気に成長させて家屋の形に捻じ曲げた摩訶不思議な建物だ。
 でも魔女の庵とは言うけれど、ここに引っ越してきてから三ヶ月と経ってはいない。師匠が「バエってるケーキ屋とかド派手なドレスとか売ってる街の近くの方が良くね!?」と言い出し、思い付きで移転してきたのだ。
 スゴい魔法で作った住居ではあるけれど……実はボクの師匠である魔女ヒルデガルデは、既にここで暮らしていない。生活しているのは魔法使い見習いのボクだけだ。だから魔女の庵を名乗るのは、少し詐欺のような気がして心理的に抵抗がある。
 では現在、師匠は何処に住んでいるのかと言うと……言いたくはないのだけれど、この辺り一帯を収めているウィルヘルム伯爵のお屋敷で生活していた。ドウシテソウナッタ!?



 次期伯爵ルイス=ウィルヘルム様と、彼の窮地を救った絶世の美女ヒルデガルデの婚姻とそこに至る話は、そりゃあもう街を騒ぎに騒がせた。
 凶悪な魔物と共に崖下に消えたルイス様。そんな彼を見つけた魔女ヒルデガルデは余人に知られてはいけない魔女の庵に匿って甲斐甲斐しく介抱する。魔女の薬で一命をとりとめ、瞬く間に傷も言えたルイス様ではあったが、庵を去る日になっても自分の前に姿を見せない魔女に、せめて一言でも例を言おうと押しとどめる弟子を押しのけて魔女の部屋に足を踏み入れ……そこから二人の恋は始まった。
 ………と言えば聞こえはいいんだろうけれど、実際のところはかなり違う。たまたま薬草採取をしていた僕がルイス様を見つけ、放っておけないから庵に連れ帰ったんだけど、

『偉い馬鹿弟子! こんな金髪イケメン、絶対に貴族か金持ちじゃんか。たっぷり身代金せしめられそうだなぁ!!!』

 なんて言い出しそうな師匠が要るので、僕の部屋にこっそり連れ込み、怪我が早く治るように薬も作って世話をした。
 で、庵の周囲には普通の人だと迷って辿り着けなくなる結界が張ってある。回復したルイス様を森の外まで案内すれば、二度とここに戻れなくなって関係もこれっきり……かと思いきや、「キミの主人である魔女殿にお礼を述べたい」とか言い出したんです。
 僕は頑張った。強引に入ってこようとするルイス様を頑張って押しとどめた。けど体格に大人と子供の違いがあるんだよ? 簡単に押しのけられて師匠の部屋に辿り着かれてしまい、運悪く、その時たまたま街に出る服を選んでる最中だった師匠は化粧前のすっぴんですっぽんぽん。

 ―――なにが「きゃー♪」だよ。エルフ並みに生きてるから羞恥心なんて腐ってるくせに。

 しかも最悪なのが、師匠ってばルイス様に魔法で、師匠の美しさに心奪われて暴走して既成事実を作っちゃったと暗示をかけたのだ。ベッドの上で一人でカクカク腰を振ってるルイス様の姿を思い出すたびに、申し訳なさで押しつぶされそう……
 あとは精魂尽きて気を失ったルイス様の横に裸で寝て、目が覚めたら「酷い……あんな乱暴をされてはもうお嫁にいけない……」とウソ泣きするまでがワンセット。一時的に結界を解いて庵まで誘導したルイス様捜索隊が、例によって僕を押しのけてその場に突入して二人が裸で同衾しているところを目にしてしまう。
 はい目撃者ゲット。もう逃げられません。……あううっ! 罪悪感で胃が痛い!

 こうして伯爵家に押し掛けた師匠は魔女の恨みやら魔女の呪いやらチラつかせて無理矢理ルイス様の婚約者の座に収まってしまった。マジあくどい。
 幸いだったのは師匠が絶世の美女(自称)だったことだろうか。魔力を漲らせて赤く染まった長い髪、永遠に美しさが損なわれることのないスタイルの良さ。やや目つきはキツいけれど、髪色に合わせた深紅のドレスを着た姿は「いったいどこの魔王ですか!?」と突っ込みたくなるほどの迫力がある……けれど美しい事に違いはなかった。
 街の住人に対するバルコニーからのお披露目や結婚パレードでも、この世のものとは思えない美女を一目見ようとして近隣からも人が集まって大盛り上がりだったらしい。

 ―――ていうか、ここまで人前に堂々と姿を晒す魔女が他にいただろうか。いるわけないだろ!

 僕もこっそりバレードを見に行ったけど、師匠のあの笑み……伯爵家の財産を根こそぎ奪いつくすつもりだ。下手すると住人全員を魔女の大鍋に突っ込んで禁忌の実験とかやりかねない。
 魔女としてはとんでもなく優秀だから手に負えないんだよね……

 そうして伯爵家に居座ってドレスだ宝飾品だご馳走だと贅沢三昧に過ごしている師匠とは対照的に、僕の生活はのんびりしたものになった。
 まずは朝に美味しいお茶を飲みながら軽く食事をし、小鳥たちから周囲の噂話を聞いて過ごす。
 日中は採取した薬草の処理を済ませ、生活費を得るために街でこっそり売っているお薬の調合。ルイス様に使用したものより効力は薄めて作るけど、僕の薬作りはなかなか上手いんです。
 日が暮れたら、魔法の明かりの光量を常に一定に維持して魔力操作の練習をしつつ、師匠が残していった魔道書で黙々と研究。夜更かしし過ぎたら圧縮睡眠の魔法でパッと寝てパッと起きて、また朝を迎えるという感じかな。
 はっきり言って、ぐうたらで自堕落で生活能力が一千年前に星の裏側へ投棄されてしまったような師匠の世話を焼きながら魔法を教わるより、何百倍も効率がいい。魔女組合に提出するレポートの執筆も順調だし、このままだと独学で魔法使いの称号を貰えてしまうかもしれない!

 これがフラグ、つまり運命力というものか……ボクが思いあがったばっかりに、増長させまいと抑止力が働いてしまった。
 つまり、師匠が戻ってきたのである。

「………で、偉大なる伯爵夫人様がどうしてこんな森の奥までお忍びでいらっしゃったんですか? お供の一人もつれずに、危ないですよ?」
「はっ あんた、私が獣に負けるとか思ってんの?」
「いえ、森が焼け野原に変えられたらたまんないんですよ。ここは珍しい薬草もいっぱい生えてますから」
「あー、ちまちまちまちま草を集めて頑張ってんの? ぶふー、みっじめねぇ! あんなもんより血の滴るステーキを食べたいって思わないの?」
「薬草は食事じゃありませんから。食事はちゃんと食べてますよ」
「あれでしょ、木の実と草を土で固めたようなクソまずいクッキー。うえ、思い出したら気分悪くなってきた。おい、お茶」
「はい、体にいい薬草茶」
「その喧嘩買ってやろうか!? 苦マズいもんだしやがって!!!」
「売ってませんよ、最初から。暴飲暴食してるようだから、薬草茶で胃腸を整えた方が、ご馳走もより美味しく味わえるかなって配慮したんです」
「ざーんねーんでしたー! 私が毎日飲んでるのは王室でも飲まれてるような最高級茶葉だもんねー!」
「お茶の味なんてわからないくせに……茶葉が可哀そう」

 お茶を一口啜った師匠は顔をしかめると、カップごと異次元の彼方に放り捨ててしまった。………カップを新調しないと。今度は木で作ってみようかな。庵を作った時の術式を試してみたいし。

「話を戻しますけど、今日はどうして戻ってきたんです? 伯爵家で豪遊してるから、師匠の性格だと二度と戻ってこないと思ってましたけど」
「んー、面倒くさくなっちゃった」
「………は?」

 あれだけ僕やルイス様に迷惑かけまくって伯爵家に嫁入りしといて、今さら何言いだしたこの人!?

「だってさー、口煩い婆さんが嫁なら子供作れ―子供作れーってうるさいのよ。人のやることにいちいち礼儀だマナーだって文句つけてくるし。あたしは別にぶっ〇してもいいんだけど」
「そんなことしたら魔女組合から抹殺者が来るからやめてください。魔女は権力に関わるべからず、って禁を破っても次の世代の魔女を産むってことでお目こぼししてもらってるんですから」
「そう、それよ! あいつらもあたしのところにカラス送り付けてきて、子供子供って! あたしが永遠に生きてんだから他の魔女なんていらねーだろーがよぉ!!!」

 色んな人が研究するから新しい事を思いついたりするんだけどね……などと考えながら師匠の愚痴を右から左に聞き流していると、不意に、手にしていた薬草の束が床に落ちた。

「………師匠、僕に、何を!?」

 体が動かない。しまった、よく喋ると思ってたけど、さっきの愚痴の言葉の裏に束縛の呪文を紛れ込ませてたのか!?
 かろうじて言葉を発せるぐらいには抗えているけれど、時間が経つごとに束縛の圧が増してくる。このままだとマズい! ボク、魔法を使った戦闘には慣れてないんだよ!?

「なにっていうかぁ、最初に言ったと思うけど。あたしの代わりに子作りしといてって」
「そん、なの、無理…だろっ!」

 体は小さいけど、女顔だけど、それでも僕は男だ。師匠の代わりに子供を作れ? いくら男×男で恋愛が成り立ったとしても、それだけは絶対に不可能だ!
 そもそも僕はノーマルだ! 師匠のようにケバいのじゃなくて、おしとやかで清純な感じの女性が好みです!

「そっだねぇ、あんたの尻の穴じゃ子供は産めないよねぇ……だからさ、ちょっと術式思いついたの。体入れ替えるやつ」
「………はっ?」
「あたしとアンタの体を入れ替えんの。そしたらあんたはあたしの体で子供産めるじゃん。ま、幸運に思う事ね。しばらくあたしの永遠の美ボディを貸してあげるんだから、百人ぐらい産んどいてね♪」
「ふ、ざけ……ッ!!!」
「その間はあたしがあんたの体を使ったげる。だいじょぶだいじょぶ、チ○チンってどんな感じか興味あるからしっかり有効利用してあげるし♪」
「やっ………!!!」

 遂に舌も口も動かなくなった。まるで心臓を握られているかのような全身の硬直に焦りが加速し、けれど解決法も見つからないし抗う事さえも出来ない。

 ―――腐っても魔女の始祖の一人か!!!

 僕の前に回ってきた師匠の唇が動いているのは見える。でも何を言っているのかが聞こえない。聴覚がやられ、視界も徐々に黒く塗り潰されていく。
 そんな僕の目を塞いだのは師匠の手の平であり、最後に見たのは大きく吊り上がった唇に塗りたくられた気持ち悪いほど赤い口紅の色だった―――
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