第1話【エックスレンジャー出動せよ!?の巻】
前編@
「あぁ〜ふわぁ〜〜〜い」「拓也ぁ〜、また夜更かししたんでしょ?」
昼食の後のひととき…あ〜眠い。食べたら余計眠くなったみたいだ。
「へ?…うん。この間買ったゲームが面白くって、つい、ね」「…拓也。まさか約束忘れてないでしょうね?」
ん?約束?何だっけ…あ、明日香がこちらを見つめる視線が…怖い。お、思い出せ相原拓也!今、お前に人生
最大の危機が迫っているぞ!ここで怒らせたら…あ!そうか!
「わ、忘れる訳ないじゃないですか、明日香くん!もちろん覚えてますよ。今日の放課後…」
「うん!そう、放課後!」怒りの顔が一変、満面の笑みに変わる。可愛いな、明日香。帰ったら俺の部屋で、
むふふふ…
「でも、部活があるからその後だけど…」「もちろん判ってるわ。部活の後…」
「うん、約束通り一緒に帰ろ!で、その後、俺の部屋に来なよ。で、もちろん…」
「…拓也…何云ってんの…」「何って、“一緒に帰ろう”って約束でしょ?判ってるって、あ・す・か」
「…」「あ、あれ?あ、明日香、さん?ど、どうかなさいました、で、しょうか?」
明日香は再び憤怒の形相でこちらを窺っている…あれ?違った?
「ぬぅわぁにぃぅを云ってるぬぉよぉぉぉおおおお!!!ぶわくぅわああああ〜〜〜」
(「何を云ってるのよ〜馬鹿ぁ〜〜〜」って云ってるんだよね、明日香…)
明日香、渾身の右ストレートを受けながら心の中で明日香に尋ねる俺。顔、曲がっちゃうよぉ〜明日香ぁ。
「放課後、あたしの買い物に付き合ってくれるって云ったじゃない!今朝よ!今朝の約束よ!」
「そ、そうだったね。つい忘れちゃってて…はっ!」しまった!
「やっぱり忘れてたんじゃないのぉ!拓也の馬鹿ぁ!!」
バキッ!!左フックは切れ味バツグン…ふ、普通の女子校生やらしとくにはもったいない…ぐふ…俺が床に崩
れると同時に教室を出て行く明日香さん…ま、待ってせめて保健室へ…つれてって、いただけませんか―――
はれて宮野森学園の3年に進級した俺達は、このように平和(?)で、ごく普通(??)の学園生活を送って
いたのだ…そう、この時までは…
あ〜あ。すっかり明日香を怒らしちゃったよ。『もういい!一人で帰る!』って…ちょっとど忘れしただけな
んだけど。そのぐらいで怒らなくてもなぁ〜。買い物くらい付き合うのに…まぁ、いいや、部活、部活。
ガラッ「あ、部長。こんにちは」後輩の河原千里、1年生である。入部してすぐに部のエース(?)となる…
まぁ仕方がない。佐藤先輩が卒業してからは、途中から化学部に入って来た弘二と教科書に載ってるような実
験ばかりをやるだけだったのだから。
自分で薬や機械を作ってしまう千里は、凄い天才に見えたのだ。
…しかし作るものは変なものばかり。しかも失敗ばかりで…実験台になる俺や弘二の身にもなって欲しい。
「先輩!今日こそ女の子になるんですよね!」…工藤弘二。後輩。2年生である。
ある事故で女になってしまった俺は、女の身体の快感を味わいたい誘惑に負けたせいもあったのだが、ラブレ
ターをくれた弘二とその時関係を持ってしまったのだ。
もちろん1度だけという約束で、しかも俺はその後、男に戻ったのだから、あの時だけの想い出…って事にして
くれればよかったのだが。弘二はその後、科学部に入部し、性転換薬の研究に没頭している…もちろん作れる
わけないのだが。
「部長…やっぱり工藤先輩と…」「そうだよ、千里。僕と先輩は運命で結ばれた仲なんだ」
「やめろぉぉおお!弘二!誤解を招くような…」
「いいじゃないですか、誤解されたって僕はかまいません!」「俺がかまうんだっ!!」
「まぁ…先輩達の趣味ですから…私にはどうでもいいんですが」
「どうでもよくないぞ、千里ぉ!そんな趣味は俺には無いんだ!」
…毎日のように繰り返される不毛なやりとり…このお約束を経ないと活動できない化学部っていったい…何?
しかし今日は違った。お約束もそこそこに千里は真剣な顔になり俺達に向かって云った。
「もう、いいですから、そんな事は。それより聞いてください。真面目なお話があります」
俺と弘二は真剣な千里の態度に圧されて、椅子に座って話を聞く態勢になった。
「私がこの学園に入って2ヶ月くらいになります。先輩達…ここのところ生徒達におかしな点ありませんか?」
「おかしな点?」弘二が聞き返す。
「ええ…実は5月に入ったあたりから、急に不登校になった生徒が何人もいるんです」
「それはよくある五月病とかじゃないの?毎年何人かは必ずいるし、そういう噂や話も聞くよ」
「ええ、最初はそうだと思ったんですが…」「違うの?」
「どうやらもっと大変な事態かもしれないんです」「そんな大袈裟な」
「5月末の時点で、不登校の生徒は33人。そのうち女子は31名です」
「そんなに?」驚いた。俺のクラスには…ん?そういえば由美子が…
「そういえば…先週くらいからウチのクラスの由美子も来てないな…でも病気って云ってたけど」
「僕のクラスにはいませんよ。でも各クラスで数人だとしても全体でそんなになると…確かに多いですよね」
「そうなんです…そして休んでる女の子を調べたんですが、実はそれが…」「何?」
「みんな…女の私から見ても可愛い子ばかりなんです」
「何ぃいい!!」俺と弘二が同時に叫ぶ。そんな、もったいない!!
「…先輩?部長?」じ〜〜っとこちらを睨む千里。
「ど、どうした、千里」「なんでそんなに『可愛い子』に反応するんですか」
「ま、まぁいいじゃないか…でもそれがどうしたんだい?俺達には直接関係無い気が」
「実は不登校の生徒に私の友達が一人いて、家に行って逢ったんです。何故登校しないのか話を聞いたら
『アレが怖い…あれにマカレタラ…』って、それだけしか聞けなくて」
「『マカレタラ』?巻かれる?訳わかんないなぁ」
「先輩!部長!」千里が大声を上げる。
「わぁ!…な、何だよ千里」「そうだよ、びっくりするじゃないか」
「この学園には何かあります!それを解明する!まさに化学部の仕事じゃないですか!」
「…先生たちだっているじゃないか。百歩譲って生徒が調べるとしても、新聞部とかそれらしいのがあるぜ」
「この2ヶ月、先生たちは何も対策を立ててないんですよ。それにもしかしたら怪しい生き物…怪物の可能性
だって」
「それこそ、いち生徒に何か出来る問題じゃないよ!そんなのいたら世間が黙ってないだろう!」俺は声を荒
げて反論する。
「…何か、学園に対する悪の組織や陰謀を感じるんです」
「千里…お前TVの見すぎだよ」あきれる弘二。…そりゃそうだ。考えが飛躍しすぎだ。
「そ・こ・で!」
「うわ!?千里ぉ〜!急に大声を出すなってば!」
「先輩達には学園を守る正義の戦隊『化学戦隊エックスレンジャー』となっていただきます!!」
―――――――――?
「…はあ?」
続く。
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