分岐1→4:大人なムードのクリスマス…ってのは袋に入りきらないよね…
(う〜ん……明日香とアダルトな雰囲気でロマンチックなクリスマス……高級ディナーの後はホテルで……な〜んて、この袋には入らないし、準備するにしてもイブの前にしないと。今からじゃ完全に手遅れよね)
とりあえず袋に手を入れ、自分が望むものをアレコレ考えてみる。
(大人のムードがダメなら子供のムード……ははは、なによそれ。でも子供かぁ……クリスマス、明君や翔君はどんな事してるんだろ?)
サンタのおじいさんの話にも何度となく子供は登場していた。そのせいだろうか、明君たちの事が頭に浮かぶと、そのことばかりを考え始めてしまう。
(筆おろし……二人の童貞を奪っちゃったときのこと、まだしっかり覚えてる……明君たちとクリスマスなんか過ごしたら、あたし……自分を見失っちゃうかも……)
エッチな事をしたのはあれ一回だけ。教え子にエッチな事をした罪悪感から家庭教師のバイトも辞めてしまい、明君との接点も失ってしまった……ちゃんと携帯の番号でも聞いていたら、もう一回ぐらい明君になら……
「………え?」
あたしはまだ願い事を決めてはいない。……それなのに白袋は淡く光を放つと、差し入れたあたしの手の中に押し付けるように硬いものを握らせた。
「―――あ、携帯! しかも新機種! しかも番号あたしのだ!」
恐る恐る手を引き抜いてみると、手にしていたのは新しい携帯電話だった。チェックしてみると明日香や他のみんなのアドレスもちゃんと入ってるし番号も引き継がれてるし、何より最新機種。タダガケできる違法携帯などではなさそうだ。
「お〜、なにやら付属品やら契約書やらいっぱい出てくるのう。なんじゃこれは、ポケット辞書か?」
サンタのお爺さんが袋をひっくり返すと、書いた覚えの無い書類までが……ま、いっか。物凄いプレゼントを貰おうかとも考えていたけど、新しい携帯はなにかと便利だし、怪しい物じゃなさそうだし。
「サンタさん、ありがと。大事にするから―――」
―――プルルルル……プルルルル……
「? 誰からだろ、いきなり……」
おじいさんへお礼を言おうとしたタイミングにあわせ、まだ着メロを設定していない携帯からシンプルな呼び出し音が鳴り響く。
番号には覚えが無い……無言でサンタさんに視線を送るけれど、「どうした、電話が鳴っておるぞ?」と言う顔をされてしまう。
(見覚えの無い番号に出るのはちょっと恐いんだけど……)
「………もしもし?」
通話ボタンを押して、誰かも分からぬ相手に呼びかける。
返事はなかなか返ってこない。数秒待って、まるでおびえるような小さな声で、
『せ…先生……ですか?』
とだけ男の子の声が聞こえてきた。
「その声……もしかして明君!?」
『は、はい。あの、すみません、突然電話をかけちゃって……覚えていてくれて、嬉しいです』
電話の主が前に家庭教師で勉強を教えていた明君だと知ってホッと胸を撫で下ろす。ただ……あたしの携帯の番号、明君に教えた覚えは無いんだけど……
『本当にごめんなさい。先生の携帯、勝手にいじって番号を控えてて……今までも何回か掛けようかって思ったんだけど……め、迷惑になるんじゃないかと思って……』
「そんなことないよ。ちょっとビックリしたけど……もう、番号知ってたんならもっと早くにかけてきてくれたって良かったのに」
『う…ん………』
(―――何かあったのかな? 顔は見えないけど明君の声、あたしと喋れて嬉しそうではあるんだけど、なんかためらってるって言うか……)
なにか奥歯に物が詰まった喋り方をする明君の事が気にはなるけれど、それでもこうして電話をかけてきてくれたって事はあたしの事を忘れてくれてないという事でもある。
(時々……明君とのエッチを思い出してオナニーもしちゃってるし……男の人とエッチするのはイヤなのに、年下のかわいい子とは逆に興奮して……変態なのかな、あたしって)
『―――先生、あの、先生?』
「あ……ごめんね、ちょっと考え事をしてて。……だて、明君から電話もらえて、本当に嬉しいから」
『そうなん…ですか?』
「ええ。これもサンタさんのプレゼントなのかもね」
明君にはあたしが小さく笑ったのが聞こえただろうか。向かいに座っているサンタの老人は、明君と電話で話すあたしを見てニコニコと微笑んでいるだけだけど、その顔は役に立てた事を喜んでいるように見えた。
(ありがとうね、サンタさん♪)
感謝の想いを込めてウインクを送ると、三倍以上歳が離れていそうな老人の顔が赤く染まる。それを見てもう一度笑ってしまいそうになると、不意に電話の向こうから明君の真剣な声が聞こえてきた。
『先生……今から、僕の家に来てもらえませんか?』
「え……行くのは別にいいんだけど今から? だって時間が」
時計を見ると二時を過ぎている。こんな時間にたずねていくのは明君のご両親に迷惑が掛かるだろう。
『お願いします。先生しかいないんです。僕には……先生だけなんです』
「ちょっと、明君? どうかしたの、様子が変よ!?」
あたしが呼びかけても、明君は無言。急に貝のように口を閉ざし………その背後から、かすかに小さな声が聞こえてくるのが気になった。
『………お父さんとお母さん、今日はいません。だから待ってます。僕……先生の事を……』
「明君!?」
―――そこで電話は切れてしまう。
「ん〜…明君どうしたんだろ」
「どうかしたのか? 途中から様子がおかしかったが。ワシでよければ力になるぞ」
「うん……実はね―――」
あたしはサンタの老人に先ほどの電話の内容を話した。――もっとも、年下の男の子に手を出したという部分は内容を「好きになられちゃったから身を引いて…」と少しマイルドにアレンジしては置いたけど。
「ふぅむ……」
説明を聞き終え、サンタの老人はアゴに生やした長い白ヒゲを撫でる。そして一言、
「行けばいいではないか。ここで考えておっても始まらんぞい」
「だから時間が問題なんじゃない。こういう時間に会うのって、あんまりよく無い気がするし……」
「今は冬休み中じゃし、きっとその彼も羽を伸ばしておるんじゃろう。じゃからほれ、これを着て早く行くのじゃ!」
な、何でそれの存在を……サンタさんはあたしが部屋の目立たない位置に置いておいた紙袋を手に取ると、その中からチューブトップの胸元や肩が大胆に露出するサンタワンピース、しかもスリットがかなり深いのを取り出し、あたしの前へと突きつけた。
「この赤いウルトラマグ○スの異名を持つワシには分かる。もしたくやちゃんがこの服を着て行かなければ、その少年が不幸になると! 後のことなら安心せい。ワシは歳の差カップルには肯定的じゃから!」
「お爺さんが肯定しても世間一般が認めないんです、そう言うのは!」
「おにょれ、まだためらうか。それならばこれもプレゼントじゃい!」
言うなり、サンタの老人は大きな白い袋へズボッと手を差し入れ、何故かあたしにサイズがぴったり合いそうなブラとショーツとガーターと言った下着一式を取り出してしまう。
「ワシ的には黒いストッキングと黒い下着の取り合わせなんかが脱がした時にグーと思うんじゃが子供には刺激が強すぎる。ここはいたいけな少年の前に降臨したエロスな天使様のイメージで責めてみよグホァ!」
「いきなり性格変わりすぎなのよ、あんたはァ!」
あまりにしつこいサンタの顔に、あたしは思わず蹴りを入れてしまう。まあたいして効いてはいないだろうけれど、そのまま「きゅ〜ッ」と倒れて気を失ってくれたので、肩で息をしながら息を吐き出す。
「まったくもう……なんでこんなものまで着なくちゃいけないのよ。愛に行くのはあたしもイヤだとは言わないけど、どうしてサンタのコスプレに勝負下着までつけて―――」
(でも……明君、こういうの、好きなのかな……あたしも体に自信が無いわけじゃないし、この服ならバイトでも着てるし……)
意見を聞こうにもサンタの老人はすっかり伸びてしまっている。
「〜〜〜〜〜………」
困った。
あたしの手には子供向けでは無いサンタの服に勝負下着。そして床に転がっている大きな袋。
「別に……あたしが行くだけでもいいんだもんね……」
とりあえず行くと言う事は決定事項にして………その後はどうするか。もちろん―――
「ああ……結局着ちゃった……」
ちょうど手にしていたチューブトップの赤いサンタ服に合わせるようにアームカバーも身につけ、大胆に露出した方を隠すように白で縁取りした肩掛け風のコートを羽織って着ている。
頭にはサンタの象徴っぽい三角帽をかぶり、手には気絶したまま目を覚まさないサンタ姿の老人から勝手に拝借してきた白い袋を持って、あたしは明君の家の前までやって来てしまっていた。
………あたしが着替えてきたのは、なにもサンタの老人から言われたからじゃない。せっかくのクリスマスなんだから可愛いサンタさんで家に一人でいるはずの明君を励ましてあげたいし、妙に気合をいれた格好をしたらしたで年下の男の子になにを期待しているのかと考えて、かといって普通の服も……ある意味、明君に会うならこのサンタ姿が一番無難じゃないかと思ってしまったのだ。
ちなみに服の下は「あの」勝負下着……ガーターもつけてるし、サイドが紐になっているから脱がせやすくて……べ、別に履きたくて履いたわけじゃない。ただ、久しぶりに明君に会えるのかと思うと濡れてしまって……あううう、どういう顔であったらいいんだろう……
「変な格好じゃ……無いよね……」
大きく前へ突き出した膨らみに手を這わせたり、スカートの裾が上がりすぎて無いかとか、かれこれ十分ぐらい明君の家の前で服装のチェックを繰り返してしまっている。目を閉じて深呼吸してみても、自分から明君に会いに来たと言う事実が胸の高鳴りを激しくしてしまうだけだった。
「………こ、ここにいつまでもいても寒いだけだもんね。ミニスカートだからアソコだって冷えちゃうし。な…中に入らせてもらって、顔を見たら電話の事を確かめてすぐに帰ればいい……それだけなんだから」
大きく息を吸い込んで胸の隅々にまで冷たい空気を行き渡らせると、体を前へ倒しながらそれを一気に吐き出す。それで決意を固めたあたしはガバッと顔を上げると呼び鈴の上に人差し指を触れさせた。
『あの……もしかして相原先生ですか?』
呼び鈴を押そうとした瞬間、玄関の扉の向こうから明君の声が聞こえてくる。それにすぐに答えられず、もう何回か深呼吸してようやく自分の名前を告げると、鍵をはずす音が聞こえ、すぐに扉が開いて明君が姿を現した。
「先生、本当に来てくれたんだね!」
「あうっ……」
(い…意識しちゃダメ……冷静に…冷静に……)
「えっと……久しぶりね、明君。元気にしてた?」
以前と変わらず可愛らしい明君に変な事を口走らないようにと言葉を選んで慎重に話す。それは当たり障りの無い言葉だと言うのに、あたしの前までやって来た男の子は少し赤くなった顔に笑みを浮かべたが……
「うん……先生がボクの前から急にいなくなっても、ずっと待ってたんだ。先生は……きっと帰ってきてくれるって」
「あたしを待っていた」とはどんな意味だろうか?……あたしの体が目当てで、もう一度SEXをしたいだけなのか。それとも……まさか本気!?
「あ……それほど、でも……」
どもるな、あたし!……と思ってみても、明君を前にしてあたしの緊張は昂ぶるばかり。世間一般で言う元カレなんかと再開した場合もこんなに緊張するもんなんでしょうか!? でも明君とは筆おろしだけの関係で……って、それだけでも世間一般では「ものすごい関係」に分類されちゃうのかも!?
「ごめんなさい……急に呼び出したりして」
「あう……」
お互いの吐息が掛かってしまいそうな距離にまで近づいてきた明君は、呼び出した事を詫びながら袋を持ってない方のあたしの手を取る。……ヤバい。これは非常にまずい。そんな女の子と見紛うような顔で、ダメ、それ以上見つめられたらあたし――――――!!!
……絡み合うあたしと明君の視線。緊張と興奮で何もしゃべれなくなってしまったあたしと同様に、明君も一言の言葉も漏らさなくなり、身長も年齢もあたしの方が上なのに変な気持ちに胸震わせながら見詰め合ってしまう。
そして、そんな時間を崩したのはあたしでも明君でも無い。家の中から出てきた第三者の声によってだった。
「その人が明の言ってた先生なの!?」
突然聞こえてきた声に驚いて慌てて手を離すと、あたしがドキドキしている胸を押さえながら玄関へ目をやる。……すると、明君と同年代っぽい男の子が一人、そしてその後ろに二人、さらに玄関横の部屋の入り口から首だけ出してる子が一人………って、ええええええ〜〜〜ッ!!?
「うわぁ、話に聞いてたけどスゴい美人。サンタってのがちょっとダサいけど、スゴく似合ってるし。もしかしてモデルか何か!?」
「はじめまして。僕らは明の友達です。明の両親が旅行に出かけてていないって言うから泊まりで遊びに来てるんだよ」
「明だけなんだよ、女の人とエッチしてるの。だから無理言って呼んでもらったんだけど、サンタの格好して来てくれるなんて思ってもみなかったよ」
ちょ、ちょっと待って、こういう展開って、もしかしてアレですか!?
たちまち四人の男の子に囲まれ、さらに二人ほど外に出てきている。深夜の住宅街には似つかわしくない若すぎる声に戸惑いながら明君へ顔を向けると、
「先生……ごめんなさい、そう言うことなんです」
と謝って、落ち込んでしまう。
(は…あははははは……つまりなに? 「お前の彼女を連れて来い」って乗りであたしは呼ばれたわけ? ないよそれ、あたしのドキドキはなんだったのよォ!!!)
それならそうと言ってくれれば、あたしだって心の準備とか出来てたのに……と愚痴りたくなるけれど、
(………でもみんな、結構な美少年なのよね)
気落ちしかけていたあたしは、そのちょっとした「特典」に気付いて、現金だけど心の中でちょっとだけ期待が膨らませてしまう。
明君の両親はおらず、家の中にはあたしと明君と六人の男の子……男女比がかけ離れているけれど、明君と初エッチしたこの家の中でだと、ついついそう言う事を考えてしまいそうだ。それに―――
(この子達……さっきからあたしの胸ばっかり見てる……)
「―――ねえ、そろそろ中に入らない? ここまで歩いて来たからちょっと冷えちゃって」
少しわざとらしいけど、赤いサンタ服に包まれた体を両手で抱きしめてブルッと震わせる。もちろん腕は胸の下で組み、寒いのを我慢してコートの下の胸元の肌を間近で見せ付ける。
「―――――――――ッ!!!」
すると男の子たちは想像以上に敏感に反応してくれた。性的な経験の少ない――あたしの勘では全員童貞――男の子たちにとっては滅多に見ることのできない至近距離での乳房だ。普通ならいい物を見れたと言わんばかりに露骨にニヤニヤされたりするところだけれど、さっきまであんなに元気に喋っていた男の子たちは一斉に口をつぐんで、寒そうにあたしが体を震わせるたびにあわせて弾む膨らみに目を釘付けにされてしまっていた。
「もう……女の子をこんなに寒いところで待たせてちゃダメよ。それじゃ明君、行こっか」
中には股間を抑えてモジモジ足をすり合わせている男の子たちではなく、あたしを取り囲んでいる輪から一歩離れた位置にいる明君に呼びかけると、あたしはその手を取って家の中へと入ってしまう。
―――これはちょっとしたあてつけだった。
もしあたしが家の中に入れば、あの手この手でエッチな要求をしてくるのは目に見えている。だから最初に明君との仲を見せ付けて………ははは、なんか今日のあたし、男の子を惑わせる悪女っぽいかも………
(けどせっかくのクリスマス……自分勝手な理由であたしを呼び出したんだから、あたしも少しぐらい楽しませてもらわなくっちゃ♪)
そう……この子達で楽しむんだ……
決して暗い感情ではない。むしろこれから男の子たちと「楽しいクリスマス」を過ごす事を考えると、体の内側から心地よい疼きがこみ上げてくるほどだ。
大人の男性相手では味わえないクリスマス……
そして、あたしが気兼ねなく楽しむ事の出来るクリスマス……
これがサンタさんの袋からあたしへ与えられたシチュエーションなら、あたしが楽しんでも問題は無いはずだ。
「ふふふ……せっかく来たんだから、みんなで楽しく盛り上がりましょう♪」
―――今宵は年に一度のクリスマス。
サンタは子供たちへ夢の詰まったプレゼントを贈り、
子供たちは喜びの声を上げ、サンタへ感謝の気持ちを送る。
だったらきっとあたしにも出来るはずだ………サンタの姿をしたあたしは高鳴る胸をギュッと押さえつけると小さく、けれど湿り気を帯びた吐息を体を震わせながら吐き出していた。
「みんなには飛びっきりのプレゼントをあげなくちゃ……ね」
1−4(2)へ