分岐1→1:男に戻りたいと願いながら、袋に手を入れる。
「―――これは…性転換の薬?」
袋から引き抜いたあたしの手が握っていたのは、側面に「性転換の薬」と書かれた小瓶だった。
(うわ…すっごく怪しい……これをあたしに飲めって言うの?)
証明の明かりに透かしてみれば、中に入っている緑色の液体はメロンソーダよりなお深い緑色で、インクと青汁を足して二を掛けたような色合いだ。
「けど…これを飲めば……」
今なら男に戻って明日香とデートしたり、クリスマスを楽しむ事もできる。そう思ったあたしは栄養ドリンクのような蓋を開けると、ごくっと唾を飲みこみ、心地よい緊張に包まれながら瓶を―――
「じぃーーーーーーー」
「……………」
「じぃーーーーーーーーーーーーー」
「……………」
「じぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「………あの…そんなに間近で凝視されると飲みにくいんだけど」
「おお、それはすまない。じぃーーーーーーーーーーーーー」
「あの……もしかして、スゴく興味があるとか?」
「モチのロンじゃよ。めったに見れるものでもないからのう。女が男になるところなど。いい土産話になるのう…じゃからワシの事は気にせんと」
「気にしますって。―――もういい。後で飲みます」
「え〜〜。見たい見たい見たい、男になるところを見たい。それにどんな味かも気になるのう…やはり男と女では人生が変わってしまうのじゃろうなぁ」
「………もしかして、飲みたい…とか?」
「い〜やいやいやいや、そんな、他人に渡したプレゼントを横からかすめ取ろうなどとは思いもせんよ。ただ、ワシも女じゃったら、こんな寂しい人生を送ってなかったかもしれんと、何気なく思っただけじゃよ。女なら子を生めるから一人きりになる事も無いしの。……これは老人のたわごとじゃ。もともと男だったのならさぞ戻りたかろう? さ、ググッと!」
「……………まぁ…いいか。クリスマスなんだし」
あたしは手にした瓶をサンタに差し出した。
「おろ?」
「あげます。いらなかったら返してください」
「いる!―――っと、よいのかのう…こんな老人に、大切な薬を渡してしまって……それにワシが女になったらいきなり老婆じゃし……デブでヒゲ面の老婆って目も当てられんぞ」
「じゃあ、やめたほうが……」
「いやじゃあああっ!! ワシ、人生を変えてみたいんじゃああああっ!!」
サンタのおじいさんはあたしの手から引っ手繰るように薬瓶を取ると、サルのように周囲を警戒しながら部屋の隅へ。
「マドモアゼルたくや。一つよい事をお教えしよう。サンタクロースは人間ではなく妖精なのだ。だから人間のように年を取る事も無いのだ!」
妖精………小さくて羽根が生えていて可愛いものを想像するけど、このサンタとはまったく関連性が無いような……
「しかも、先ほどのプレゼント袋や寒さに強い、ソリで空を飛べる、家への進入テクニックなど、さまざまな不思議パワーを持っているのだ。それらのエネルギー源は「想い」! 人の想いを力に変えるのが我らサンタ。ならば、我が想いにて我が姿を変える事も、この薬の不思議パワーとミキシングすれば可能なはず!」
「静かにして。父さんたちが起きるでしょ。それに、そこまで言うなら飲んでみれば……」
「むっ……それは……」
「大丈夫なんでしょ? おばあさんにはならないんでしょ? おばあさんだとサンタじゃなくなるかもしれないからサンタさんの不思議パワーを無くしちゃうかも……それでもいいの?」
「むむむ……そ…それでもワシは、トナカイにも見捨てられるようなサンタ人生を生まれ変わってやり直すのだ〜〜〜〜!!」
そう言うとサンタのおじいさんは、ヒゲの間にわずかに見える唇の瓶を指し入れ、身をのけぞらせて薬を一気飲みにした。―――そして、
「ううっ!!」
「だ、大丈夫? ほら、苦しいならこのジュースを飲んで」
「い、いらん……だが、体が、体が燃えるように熱…い……お…おおおおおおおおおお!!!!」
(これが……性転換? あたしの時もこんな風に体が変わっていったの!?)
薬を飲んだ直後にうずくまったサンタの変化は劇的と言える。
顔の半分を覆っていたヒゲはいっせいに抜け落ち、その下から現れた顔は最初はシワだったが、内側から弾力こみ上げるように引き伸ばされていく。
力はありそうだが全体的に太っていた体は空気が抜けていく風船のように小さくなっていき、代わりに胸とお尻だけが大きなサンタ服の布地をグイッと押し上げていく。
「おぁあああ……アアあ……あああぁぁぁぁ―――っ!!」
あるときを境に一気に女性のものへと変化した叫び声を放ちながら身をのけぞらせると、赤い服と帽子で全身を覆われ肌を少しも見ることができなくなったサンタはがっくりと床に手をついた。
「だ、だいじょうぶ? ものすごい声だったけど……」
「え…ええ…ちょっと頭がふらふらするけど……え…これ、私の声!!?」
「なっ!?」
あたしとサンタが驚きの声をあげるのはほぼ同時だった。
サンタは自分の声に驚いて喉を押さえながら帽子を振り落とす。下から現れたのは先ほどまであたしとお喋りをしていた老サンタではなく、かといって老婆でもない。
零れ落ちる金色の髪、外人特有の透けるような白い肌に長い手足。そして顔は――
「ケイト!? ケイトが何でサンタ……え…これ、夢? え?」
「いやいや、わたしはエドワードだけど……本当に、本当に女になれたんだ。ああ…サンタ人生五百余年、その最後にこのような体験ができるとは…人生って捨てたものじゃないのね……」
手を合わせて祈るのはいいけど……顔があたしの女友達のケイトそっくり(ご都合主義)。……まぁ、ご都合主義と言う事で、っていきなり髪を結い上げ始めたし(ご都合主義)。
「うん、長い髪はこれでいい。それよりもどう? わたし、ちゃんと女の子になれてる?」
そう言って立ち上がると、巨体の老人と細身の女の子では服のサイズが全然違う。赤くて温かそうな服は美少女サンタの肩から滑り落ちると、あたしの前には胸とお尻のパンパンに膨れ、ウエストのくびれの悩ましい女の子が一糸まとわぬ姿をさらけ出した。
(……スゴく綺麗ではあるけれど……元々が老人だと知ってると、なんか興奮できないし……でも、外人でやっぱりアソコの毛まで金色なんだ……)
「ふふふ……どこからどう見ても女の子…これで、これで……」
美少女サンタはコブシを握ると、胸をぷるんと震わせ天井に突き上げ、
「これで子供を産める! いっぱいいっぱい産んで温かい家庭を作るんだぁ♪」
「こ…子供ぉぉぉ!? ちょっと待った、サンタさんって男だったんでしょ!? なんでいきなり子供を欲しがるのよ!!」
「だって…プレゼントを配るときにいつも思っていたんだもん。「ああ…わたしもこんな可愛い子供がいたらなぁ…」って。これこそ天が与えもうた最後のチャンス! 妻がいないなら、自分でばんばん産んでカムヒア子宝プレゼント!」
「北欧のサンタが間違ってるような英語を使うな! ―――それに子供子供って言ってるけど、女の体がどうやって妊娠するか知らないの!?」
「ふっ…愚問よ、たくや。サンタは子供にプレゼントを配るけど、子供が欲しがっていても配っちゃいけないプレゼントだってあるのよ。無修正のビニ本とかダッチワイフとかバイブレーターとか米製のAVとか。そう言うのはわたしが持って帰って、しっかり使わせてもらっているのよ(信じないでください)!」
「う…うそ…子供たちに夢を与えるサンタがそんなもので……」
「だから、抱かれるのはちょっと恐いけどぉ、日本人のペ○スって世界平均では小ぶりなほうだけどものすごく硬くて鉄の房を突き入れられてるみたいだって言うし……故郷に帰る前に楽しむのもいいかなって♪」
「全然よくない! それにほら、ここには男の人がいないんだからあきらめて男に戻って――」
「たくや、クリスマスイブだからと言って、少し騒ぎ過ぎじゃないのか?」
ああっ、父さん! どうしてこんなタイミングであたしの部屋に…先から大声あげまくりなせいなんだろうけど――逃げて、サンタに襲われるぅ!!
「むふ、男発見♪――――ねぇん、なかなか素敵なお・じ・さ・ま。わたしを妊娠させてくださいません?」
目をキュピーンと光らせた美少女サンタは、長い足を強調するようにモデル歩きで父さんへ近寄ると、首に腕を絡ませてあたしと同じぐらいに豊満な乳房を胸板に押し付けた。
「今なら私のバージンだって奪えちゃいますのよ。ほ・ら♪ 今日はクリスマス、サンタさんからのプレゼントですよ〜〜♪」
突然金髪全裸の美少女に抱き疲れてすっかり困惑した父さんの体に乳房を擦り付けながらひざまずいたサンタは、なぜか手馴れた手つきで父さんのパジャマとパンツをいっしょに引き下ろすと、乳房の感触だけで大きくなり始めている節操無しのペ○スを手に持ち、いきなり唇の中へと吸いこむように咥え込んでしまった。
「んんっ…す、すごい……私のよりも小さいけど、スゴい膨張率……あん、男の人って…素敵……ちゅぱ…んむぅ……あっ…欲しい、これを今すぐ欲しいの……」
「…………ちょ…ちょっとぉぉぉ!! 人の父親に何をしてるのよ!」
「いいじゃない。男の人のここからは一億匹の子種が出てくるんだもの。そのうちの一つを私のアソコで受精させちゃっても。ねぇ、お父様♪」
「あ…ああ……これは夢だ。最近母さんとしてないから…む、たくや。見るな、こんな汚れた父さんを見ないでくれぇぇぇ〜〜!!」
こ、この駄目親父は……
「んっ、んっ、んっ、んんっ……はぁ…口の中に入りきらないぐらいおっきくなっちゃった。これがわたしの中に……想像するだけでアソコが濡れてきそう…これが感じてるって事なのね…」
「これは夢…これは夢…だったら、いくら射精しても……行くぞ、口内射精、あおうっ!!!」
父さんはアゴを上げて一声叫ぶと、股間にケイト似のサンタの頭を押し込むように手で押さえ、腰を震わせて精液を解き放った。夢だと信じ、衝動のままに放ったはずだけど、その量はすさまじく、生ミルクのようにドロッとしたザーメンがサンタの薄い唇から溢れ出し、喉に直接流し込まれる精液に耐え切れずに顔を離したサンタの顔をスペルマミルクでどろどろに飾り付けた。
「んんっ!? んっ!……の、飲んじゃった…これが男の味……こんなに濃厚なのがわたしの中にそそがれるのね……はぁぁ、きて、ねぇ今すぐわたしを抱いてぇ…♪」
「だから! あたしの父親をあたしの部屋であたしの目の前で誘惑しないで!!」
床に四つん這いになって、犬のようにお尻を振りながら前後を入れ替えるサンタにふらふらと覆い被さろうとする父さんを、あたしはとっさに突き放した。―――すると、入り口から二歩三歩とよろけながら出ていった父さんは後頭部を壁にぶつけ、はらひれはれ〜と意味不明の言葉を言いながらその場に座り込んでしまった。………とりあえず生きてるから問題無し、うん。
「あぁん、たくやってばひどいぃ。わたしのロスとバージンのチャンスだったのに……もしかして嫉妬?」
「んなわけないでしょう! あたしは時と場所を考えろって言ってるの。…ほら、ここだとあたしの義母さんもねてるし、父さんを押し倒してるのを見られたら家庭崩壊の危機じゃない。それは困るから」
それにしても……ほんの数分で女の体への慣れ様……それにいつのまにか呼び方が「たくや」だし…ま、いっか。
「それもそうね。プレゼントを運ぶ幸せの伝道師のサンタが不幸に指せたら元も子もないし。じゃあさ、誰かたくやの知ってる男の人を紹介してよ。その人にまずは受精させてもらうから」
「あたしの知ってる男……」
分岐2
1:そういえば、夏美義姉さんが部屋において行った手帳に……
2:「男ねぇ……あいつの住所なら知ってるけど、まだ生きてるかしら……」
続く