D)たくやルート 1
明日香が調子を崩してホテル本館のほうへ残る事になったので、あたしは一人、割り当てられた海上コテージへ夜の砂浜を歩く。
こんな事なら、美由紀さんやケイトと一緒に行動していればよかったのだけれど、今さら言っても仕方がない。今日一日、一緒に元気に走り回って泳ぎまくっていた明日香が、あんなにも急に具合が悪くなるなんて思いもよらなかったのだし。
(……でも、あたしがもっと明日香の事を見ていたら、あんなに具合が悪くなる前に、気付いてあげられたのかな……)
旅行前は準備に準備で大忙しだったし、こっちに付いた昨日は……改めて考えるまでも無く、進学が決まってから、明日香と二人で過ごす時間が少なくなっている。だからこそ、この旅行をあたしも明日かも楽しみにしていたのだ。
(この砂浜も、明日香と並んで歩いてみたかったな……)
夜空には今にも落ちてきそうなほどの満天の星。日本の街中では決してお目にかかれない星空を見上げれば、心地よい小波の音が耳をくすぐり、この幻想的なほどの異国の雰囲気が体の隅々にまで染み渡ってくるような錯覚さえ覚える。
(この格好が気分を盛り上げるのに一役買ってるのかな?)
自分の身体を見下ろせば、ブラもつけずにシャツ一枚を羽織っているだけの上半身。そして下は下着よりも小さな水着のビキニだけ。普段なら絶対にしないような開放的な姿でいるせいか、それとも一人でいるからなのか、いっそ全て脱ぎ去って全裸になって海に飛び込んでしまいたい衝動が込み上げてくる。
(ふふっ……明日香と一緒だったら、わざと誘って恥ずかしがらせたりしたんだけどな〜♪)
まあ、お堅い明日香が一緒になって全裸になってくれるとは思ってない。ただ、そうできない寂しさが、明日香が一緒にいない事を思い出させる。
「いいもんいいもん。こうなったら、明日香なしでもリゾートの夜を満喫しちゃうんだから♪」
意味もなく水平に両手を伸ばし、裸足で砂浜を蹴ってクルッと一回転。そのまま星明りを頼りに波打ち際を走ると、不意に足を止め、大きく息を吸いながら首を大きく仰け反らせると、頭上の星へ瞳を向ける。
「ん〜〜……」
気持ちがいい。
女になってからと言うもの、いつも回りの視線を気にして生活していたので、誰もいない、どこかもわからない場所で一人きりでいる事が、何事にも変えがたいほどに気持ちよく感じてしまう。
あたしが男であるとか女であるとかも、この広い星空の下では関係ない。そんな事で悩んでいる事が恥ずかしく思えてくる。………もし、ここが無人島で、あたし一人しかいなかったら……あたしは男に戻ろうなんて思わずに生きられたのかもしれない。
「………変な事考えてるな」
身体が後ろへと傾いでいく。
星を見上げながら倒れるのも一興と、あたしは重力に引かれるまま、抗いもしない。
どうせ下は砂浜なのだし、両手を広げて思いっきり倒れてやれとさえ思っていると………あたしの体を力強く抱きとめる逞しい腕が、あたしの意識を現実へと呼び戻した。
「ダイジョウブかイ?」
「……船長さん、こんばんは、ども」
こちらを覗きこんでくる船長さんに、右手を上げて挨拶一つ……て、今のあたし、ちょっぴり馬鹿っぽかった!? いやいやいや、それ以前にまず聞いておかなければいけないことがあった。
「あの……見てました?」
「もちろン。最初からゼンブ見ていたヨ」
(あちゃ〜……あ、あんなところを人に見られるなんて……恥ずかしすぎて顔から火が出そう……)
人が見ていないからと開放的になっていて油断した。あんなにクルクル回ってたら頭のおかしい子だと思われるかもしれない。
船長さんの腕から慌てて飛びのくと、あたしはコテージの方へと後退さってしまう。いっそ走って逃げ出したい気持ちなのだけれど、恥ずかしいところを見られたと言う思いが足をその場に縫いつけ、動き出す切っ掛けが得られずにその場で立ちすくんでしまう。
そんなこっちの様子を知ってか知らずか、こうして間近で向かい合えば改めてハンサムだと思わされる顔に船長さんは笑みを浮かべ、安心させるように両腕を広げる
「この島はタクヤたち以外に宿泊客はいないけど、モリには獣も住んでるからネ。こう暗くっちゃ、一人で帰ってるとナニかあるかもしれないと追いかけてきたんだヨ」
そう言う船長さんの服はジーンズにシャツと、シンプルそのもの。走ってきたのか、ほんの少し息が上がっており、分厚い胸板が薄いシャツを押し上げるように上下に動いていた。
だけどあたしの注意を引いたのは、船長さんの姿よりも、にこやかに語ってみせられた言葉の方だった。
「け、獣って……なにかいるんですか、ここ!?」
「いっぱいいるヨ。特に夜になると獰猛な連中がウゴき出すからネ―――ほら、耳をスましてごらン」
船長さんが指を差した森のほうへと視線を向け、息を吐く音さえ飲み込むように声を押し殺すと、暗くて見通す事ができない木々の向こう側からかすかに鳥の鳴く声が聞こえ、それに混じって、いくつもの音が重なり合って聞こえてくる。
「―――……」
先ほどまでの開放感は一気に吹き飛び、周囲に暗闇の静寂と共に緊張感が立ち込める。
口の中に溜まった唾を飲み込む動きさえもが苦しかった。足はすくみ、膝は振るえ、緊張が恐怖と入れ替わって全身を支配していくと、両腕で抱きしめるだけでは怯える体を抑えきれなくなってくる。
そんなあたしの肩に、背後から船長さんの手の平が置かれる。
大きな手だ……暖かくて、ただ触れられているだけであたしを守ってくれているように思える力強さがある。
ふと、あたしの鼻腔に潮の香りが流れ込む。海から漂ってくるものよりもずっと濃縮されたキツい臭いだ。……それが船長さんの身体から漂ってくる体臭なのだと気付いた瞬間、怯え竦んでいたあたしの体の奥で何かがビクンと跳ね上がった。
(なに……今の………?)
それが興奮の火照りだと気づいたのは、震えた下腹の奥にジワッと熱い疼きが広がり始めたのを感じたときだ。自分が元々男だということも、もうすぐ男に戻れると言うこともすぐに思い出せるのに、今のあたしの女の肉体は濃厚なまでの男性の臭いに本能を刺激されてしまう。緊張は解けていないのに力が次第に抜け落ちていき、息は乱れ、どんなに動かしても唾液が渇いたノドを湿らせる事はなかった。
(あたし……もしかして、この人に……)
頭によぎる考えを否定しようとしても、シャツの下の豊満な乳房が期待に打ち震えているのが分かってしまう。恐怖に支配される事よりも、男性の腕の中にいる事を選んでしまっているのだろうか、あたしは一歩後ろへ下がってしまうと、背中を船長さんの胸板へもたれかかってしまう。
(心臓が……バクバクいってる……)
考えないようにしようとしても、全身の血管と神経が同時に脈打つように、衝動的に沸き起こった興奮が薄布二枚しか身につけていない女の体の隅々にまで広がっていく。
けれどその感情に流されるのはいけないと、軽く唇を噛んで高鳴る胸を押さえ込もうと試みる……そんな時、あたしの耳元に船長さんの唇が今にも触れそうなほど近づいてくる気配を感じる。
(んっ………!)
胸が震えた。
くすぐったさと快感とを、耳たぶに吐息が触れるのと同時に感じたあたしは、肉付きと感度だけは不必要なほどによすぎる身体を小さく、けれど強くはっきりと震わせてしまう。
もし唇を噛んでいなければ甘い声を漏らし、瞬く間に快楽に溺れるスイッチをオンにしてしまうところだっただろう。ギュッと密着させ、一本の縦線をくっきりと描き出している太股の付け根では、ビキニに包まれた恥丘が怯えるように脈動と緊縮とを繰り返しており、このまま時間が経てば子宮の奥から熱いモノが滴り落ちてきそうな予感を感じてしまう。
(あたしは……旅行が終われば男に戻って、それで、それで………!)
必死にこの状況を拒む理由を考えるけれど、船長さんに掴まれている肩や触れ合っている背中やお尻からもぞもぞとくすぐったい刺激が込み上げてきて、思わずお尻をくねらせてしまう。すると、ビキニ越しに船長さんの股間の硬いモノがヒップの谷間に触れてしまい、背筋から横転にかけて雷が駆け上るような衝撃に貫かれてしまう。
「キこえるだろう? 獰猛な獣が暗い闇から君を狙っている視線ガ……今にも背後から襲いかかっテ……こウ!」
それは不意打ちだった。予測していた不意打ちであり、密かに期待していた不意打ちでもあった。
あたしの耳元で一瞬だけ声を強くした船長さんは背後から手を伸ばし、それこそ獣のように指をあたしの胸へと食い込ませる。喉の奥から迸ろうとした喘ぎを何とか噛み殺したけれど、鷲掴みにされた途端、焼けるような性欲の疼きが乳房を一気に膨張させ、シャツを突き破らんばかりに乳首を隆起させる。……いや、揉みしだかれる前からあたしの胸は既に火照り始めていたのだけれど、大きくてゴツゴツとした手の平に乳肉を圧迫された瞬間に、緊張しすぎて何も感じられなくなっていた神経へと快感の奔流が堰を切ったように流れ込んだのだ。
それでも、あたし自身にはこれほど感じている事が信じられなかった。シャツの上からでも丸々とした形が見て取れるほど大きく突き出したFカップのバストをこね回すその手は、巧みにあたしの感じるポイントを刺激し、指を深く食い込ませては内側からの愛撫を繰り返す。
「はぁ…ん……ぁ……ぁああぁ………!」
力強くも繊細な愛され方にあたしの首は大きく仰け反り、船長さんの肩へ頭を預けてしまう。
「だ、だめェ……胸、そんなに揉んじゃ……」
「何を言っているんだイ? ヒルマ、あんなに揺らして見せていたじゃないカ。今さら何を恥ずかしがる必要があル?」
確かに昼間、ブラも水着もつけていなかった胸は、あたしが砂浜を走り、はしゃぐほどにふくらみを隠すだけのシャツの下で大きく弾んでしまっていた。どうせ誰も見ていないのだからと考えないようにして恥ずかしさを忘れていたのに、それを見られていたと知った途端に恥ずかしさが込み上げ、頬に興奮によるものとは別の熱さを感じてしまう。
「あれは……見せたくてそうしてたわけじゃ………」
「だけど僕は見ていたヨ。仕事が手に付かなくなるほどに、海と戯れるキミの美しさに見ホれていたんダ」
「だ、だけど……あたしは、こんな事をするつもりは……」
「ダッタラどうしてもっと抵抗しないんだイ? 腕を振り払って逃げればいいじゃないカ。声を上げればいいじゃないカ」
「それは……」
寝泊りするコテージには美由紀さんやケイトが、ホテルの本館には松永先生や他の従業員がいる。だけどあたしが今いる場所はその両方の建物のほぼ中央あたりの砂浜で、悲鳴を挙げても誰かに聞こえるとは思えない。それに、船長さんの腕の力へあたしが抗えるはずもない。
………いや、それは多分、全部ウソで、あたしの思い込みに過ぎない。その証拠に……
「ふァ! あっ、んあァ…くッ、ああ、ダメ、そこは―――!」
船長さんの右手が胸からビキニの中へ滑り込み、ヌラ付く粘膜を押し広げて強く強く窄まっている膣口に触れてきた途端、恥ずかしいほどに愛液がトロトロとあふれ出してきてしまう。耳を塞ぎたくなるほどグジュグジュと粘つく音を響かせる淫蜜は、瞬く間にビキニの内側から溢れ落ちて閉じ合わされている太股を伝う。その量が増えれば増えるほどあたしの抵抗心はあっさりと快感の波に飲み込まれ、体をくねらせながら指を動かしやすいようにと膝を開いてしまう。
(あたし……おかしいの……おかしく…なってるぅ………!)
寒い冬に暑い南国にいるから、
夜の砂浜に二人っきりでいるから、
まだ名前も知らない外人の男性の愛撫に、身も心も蕩けそうになっているから、
「タクヤ……この島ではナニも我慢する事はなイ。キミが素直に求めるのなら、従業員はいくらでもカンゲイするヨ、君の為に奉仕する事ヲ……」
「ンァアアアアアッ! だめ、クリは、か、感じる、から、よすぎるぅ〜〜〜〜〜〜!!!」
皮膚が硬くザラザラとした指先が充血してぷっくり膨れ上がったクリトリスを押さえつけると、鋭い悲鳴があたしの唇から迸ってしまう。全身を貫く快感に身を強張らせ、腰をガクガクと震わせると、船長さんはあたしのうなじへ唇を滑らせながら、たっぷりと愛液を絡みつかせた指をヴァギナへヌルッ…と挿入させてきた。
「ひッ……あああっ、そ、そこ…スゴいィィィ!!!」
根元まで挿入された二本の指は蜜がとめどめとなく溢れてくるヴァギナを奥の奥まで擦り立ててくる。指先があたしの子宮口に触れながら膣内で蠢くたびに、卑猥な音を立てて愛液が押し出され、次々と砂浜の上に滴り落ちていき、それが砂にしみこんでしまうよりも早くあたしの膣穴からは新たな愛液が迸る。
肉壁を掻き分ける指はあたしの想像以上に長く、巧みにあたしの感じる場所を探り当てる。膣天井をなぞり上げられ、ぷっくり膨れ上がったGスポットを抉るように圧迫されると、あたしはすさまじいほどの快感に打ち震えながら下腹部の筋肉を収縮させて指を締め付けてしまう。
「あ…ああっ!!! いい…いいいィ………!!!」
汗を吸い、乳房のラインに沿ってシャツの上から、荒々しく大きな手の平が食い込んでくる。張り詰めてさらに弾力を増したはずなのに、痛いぐらいに異国の男性は乳房を揉み潰す。あまりにも乱暴な愛撫にあたしの表情に苦痛の色が浮かんでいるのに、心の底ではそれがたまらない刺激になってしまっている。溢れた涙が頬を流れ落ちているのに、シャツに包まれた乳房と膣の奥のGスポットを同時に揉み抜かれる快感に全身をワナワナと打ち震わせてしまうのだ。
(あたし、このままじゃ、本当に、この人に………!)
快感を堪えようと首を左右に振るたびに、本館とコテージが視界の端をよぎる。もしそれが見えない場所だったなら、あたしは快感に身を委ねて自分から船長さんに求めていただろう……だけど、昨日のナンパと違って、あたし一人でこの快感に身を委ねてはいけないと言う思いが最後の一線を踏み越える事だけはとどまらせていた。
「もう…やめてぇ……あたしは……こんなの…イ…イヤなんだか…らァ!!!」
あたしが言葉を言い終わる前に、リズミカルに抽送を繰り返していた指が、ググッと下へ降りてきていた子宮の入り口を押し上げる。小刻みに子宮口を刺激される快感に声が震え、仰け反った喉から声にならない悲鳴を上げてしまうと、そんなあたしの耳元に船長さんが唇を寄せて、悪魔の誘惑にも似た言葉を囁いてくる。
「我慢しなくていイ。キミはただ求めればいいんダ……ほら、こんなにもビクビクさせてるヴァギアを満足させたいとは思わないのかイ?」
ほとんどオルガズムと変わらないような痙攣を繰り返す膣壁を掻き毟られ、シャツを今にも突き破りそうな力強さで揉み上げられると、あたしの意思とは無関係に歓喜の喘ぎを夜空へ向けて放ってしまう。
「ホラ、これはなんなのサ!?」
それでも最後の要求を船長さんへしないあたしに業を煮やしたのか、突然ビキニの中から右手を引き抜かれると、手首まで愛液で濡れ汚れているその手を眼前へ突きつけられる。
「ここなら誰にも見られずにスリリングなSEXを楽しめるんダ。ナニも拒む必要はないのに、どうしテ!?」
「だって……あたしは……あたしは………」
自分の股間から溢れた淫液を顔にふれる寸前にまで近づけられると、鼻の奥にまで自分の欲情したときに発する濃厚な香りが流れ込んでくる。胸は大きく高鳴り、香りだけでアクメに達してしまいそうなのに、それでもあたしは赤らめた顔を縦に振る事だけはしなかった。
「………そウ。じゃあ仕方ないネ」
ようやく許してくれたのか股間だけではなく胸からも船長さんの手が離れる。……少し心の内側から寂しさや物足りなさを感じてしまうけれど、これでいいはずなのだと自分を納得させる。
だけど、いきなり抱きかかえられてしまい、目を白黒させる事になる。
「なッ……!?」
「気が変わったヨ。オーナーからは無理やりレイプする事だけは避けろと言われていたんだけどネ……そこまで抵抗するんなら、求めてくるまで犯す事にしたヨ。一晩中、キミのベッドの上でね」
「な、なに考えてるのよ!?」
「決まっているだろウ。キミを心の底から満足させるためサ」
指が引き抜かれてまだ間もなくて、ヒクヒクともの欲しそうに蠢いている股間をビキニの上から押さえながら、あたしは逞しい腕にお姫様抱っこされてコテージまで運ばれていく。
砂浜でロマンチックに抱きしめられるのよりも、ベッドの上で愛撫されたらどうなるか……逃げるなら、拒むなら、まだ力の残っている今しかないのに、あたしは一言も喋れないまま、ただただ身体を小さくすぼめて船長さんの胸に頭を寄りかからせてしまう。
今晩、あたしはどんな目に会わされてしまうのか……そんな不安に胸を打ち震わせながら、だんだんと近づいていくコテージへ目を向けると、まるであたしの到着を待つかのように、窓から照明の灯かりが零れ落ちていた……
分岐D−2へ