49 - 「幸せの夢」


「ねーねー、せんぱ〜い、遊びに行きましょうよ〜」
「あのねぇ……見て解んない? あたし、いま、アルバイトの真っ最中なんだけど……!」
 コンビニのカウンターの向こう側から身を乗り出し、馴れ馴れしく手を握ってくる弘二に対し、あたしはこめかみをヒクつかせ、顔が引きつるのを感じながらも笑みだけは絶やさずに、バカの頭を横へ押しのけた。
「どわぁ!」
「次のお客様、いらっしゃいませ〜♪」
「ひ、ひどいです、先輩。ボクとの愛の語らいよりもコンビニのバイトのほうが大事なんですゲハァ!」
「やかましい! それもこれもあんたがあたしに薬飲ませて女にしたのがいけないんでしょうが! おかげで夏の予定は全部キャンセル。明日香といくはずだった旅行の費用も全部研究費で千里に持っていかれたんだからね!? これ以上邪魔するなら営業妨害で警察呼ぶんだから!!!」
「だったらボクと旅行にいってくれてもいいじゃないですか! 30日31泊、ボクのお父さんの実家へ結婚報告の婚前旅行に!」
「あ、もしもし、警察ですか? 実は今、とち狂った人が店の中で……はい、あたしにいやらしい事を要求してきて……ええ、お願いします、すぐにこのバカ逮捕してください!」
「うわぁあああああっ! なんてこと言うんですか! 僕と先輩の絆はそんなもんじゃグエェエエエッ!」
 本当に電話をかけていたわけじゃないけど……でも潰れた蛙のような呻き声を上げた弘二が気になって受話器を下ろすと、
「あ、店長」
「店長じゃないよ、このバカ。お客待たせてなに夫婦漫才やってんだ、お前は」
 そこにいたのは美人でありながらも男勝りのコンビに店長に、隣のレジでレジ打ちをしていたバイトの同僚だ。
 ちなみに、弘二の後ろに並んでいたお客さんたちは「いつもの事か」という目を向けながら、隣のレジで全員清算を済ませていた。
「ったく、たとえ男でも美人でオッパイでかかったら良い客寄せになると思ったのに、なんだいこの彼氏は。コブつきなんてきいてなかったよ、あたしは!」
「だから彼氏じゃないって何度も言ってます。あたしだって、このバカのせいで、決まったバイトを次から次にクビになって迷惑してるんです」
 北ノ都学園の夏休みは8月と9月の二ヶ月。だからといって、研究やレポートがなくなるわけじゃない。バイトをするのにも時間制限があるのだ……けど、その事をまるっきり理解していないバカのおかげで、せっかくのバイトが長続きしない。これはあたしにとって男に戻れるかどうかの死活問題なのだ。
「お前の事情はわかってるよ。でもこのままじゃクビだな〜、かわいそうにな〜、でもあたしだって店が大事だからな〜……というわけで、今からあんた、こいつとデートしてこい」
「………なんで?」
「こいつ、溜まってんだよ。バイト明けの時間過ぎてんだし、今からホテルで朝までしっぽり過ごしてきな。んで、骨抜きにして明日は来ないようにしとけ。わかったな」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや! あたしが男だって知ってるくせに! なんで男とホテルに行けとか言えるんですか!?」
「したことあんだろ? カマトトぶるなよ。よし青年、ホテル代お前もちなら、たくやもオッケーだってさ」
「了解しましたァぁぁぁああああああああああ!!!」
 せっかく潰れた弘二が復活したァ! あ、こら、いきなり人を外に引っ張り出さないでよ。真って、せめて着替え、財布も携帯も全部ロッカーの中なのにぃぃぃ!!!


 ―――というわけで


「ああああああァん! すごい、も…もっとゆっくり、じゃないと、壊れ、壊れちゃうぅぅぅ!!!」
「うおおおっ、ボク、いま、先輩とSEXしてるんですよ。最高です、先輩のおマ○コ、キ、キモチいいぃぃぃ!!!」
 ホテルに着くや否や、あたしの唇へ無理やりねじ込み、唾液をタップリとまぶしたペ○スは、スムーズに出入りはしない。弘二の乱暴なクンニリングスでタップリと嘗め回され、愛液に溢れたヴァギナだけれど、今回の女性化では初めて弘二に抱かれる興奮がいつも以上に蜜壷を締めあげてしまっている。そのせいで膣内と肉棒とが強く摩擦し、抽送されるだけであれ繰るような快感が下腹部に沸き起こってきてしまう。
 ―――ああァ、これ、これスゴいィ……おなかの中で、弘二のが、あ、あ、あ、キちゃう、やだ、奥に、奥にズンズンキちゃってるぅぅぅ!!!
 弘二に身体を引き寄せられるたびに、大きな乳房が重たげに弾み、肉の杭に突き上げられた子宮に重たい衝撃が叩きつけられる。嫉妬するほどに逞しい肉棒を深々と根元まで埋め込まれ、肉ヒダの締め付けなんて意にも介さないというように力強くヴァギナを蹂躙されれば、それらは全て会館になってあたしに跳ね返ってくる。
 耐えられない。こんなに激しく抱かれたら……弘二に抱かれたら、堕ちる、堕ちちゃう、女の快感から抜け出せなくなって……!
「おお、うおあああっ!ま、また一段と締め付けが……先輩、そんなにボクに、抱かれて喜んでるんですね!?」
「いや、あたし、こんなの嫌なんだからァ! 絶対、男に、戻っ……――――――ッ!!!」
 あたしの言葉をさえぎるように、弘二はあたしの唇を奪い、あたしのおマ○コが弘二のおチ○チンの形にされそうなぐらいに腰を押し付けてくる。
 ―――弘二のが、ビクビクして……中に、あたしのおマ○コに、膣出しされちゃうぅ……!!!
「ほら、やっぱりボクの精液が欲しいんじゃないですか! 先輩のおマ○コ、ボクのおチ○チンを締め付けて離しませんよ。ビクビク震えて喜んでるじゃないですか、ホラ、ホラホラホラホラホラァ!!!」
「んあっ! ああっ! そんな、もう、もう、イ…イッ、イィ〜〜〜……ッ!!!」
 弘二が全身を躍動させて腰を叩きつけ、肉棒を打ち込んでくれば、あたしのヴァギナはそれさえも受け入れて悦びに打ち震える。
 決して愛してなんていない後輩に女の身体を内側から犯され、支配され、今また汚されようとしているというのに、あたしは、自分が女であることを何よりも実感してしまっていた。
 涙が溢れ出るほどに被虐に、羞恥に、屈辱に悶えているというのに、弘二が鼻息を荒げ、今にも射精しそうなペ○スで膣の奥を抉ってくれば、ベッドの上で髪を振り乱し、細いアゴを突き上げるように背筋を仰け反らせてイき喘いでしまう。
「もう、もうすぐですよ、先輩の、涎垂らしたおマ○コに、今日こそ種付けしてあげますからね……!!!」
「ダメェ、そんなのダメなのぉ……! あたしもう、死んじゃうから、ああぁん、んあァあああぁぁぁん! こんなに、ズンズンされたら、こんなに、こんなに気持ちよくされたらぁあああああっ!!!」
「くっ……せ、先輩が離してくれないんじゃないですか! もう止まりません、出します、先輩のおマ○コにずっとずっと溜め込んでたのを全部ぶちまけます!!!」
「あたしも、もう、もうゥ―――………!!!」
 どんなに我慢しても声が溢れて止まらない。こんなに乱暴に抱かれてるのに、汗にまみれた裸体を仰け反らせ、先端の硬く尖った乳房を突き出しながら腰をガクガクと震わせる。
「―――――――――――――――――――――――ッッッ!!!」
 まるで爆発したかのように、おなかの奥で子宮が跳ね上がり、一気にオルガズムへと駆け上ってしまう。そして同時に、何度もやめてっていったのに弘二はそれを全部無視して、あたしの胎内へ大量の精液を直接注ぎ込んできた。
 ……………………ッ!!!
 物凄い量の精液が至急の一番深い場所にまで流れ込んでいく……もしかすると、今度こそ受精しちゃったかもしれないという予感の何度となく、ノドを鳴らし、他の男の人に抱かれても感じる事のない強烈なエクスタシーに肩を震わせて酔いしれてしまう。
 ―――明日香……ごめん……本当にごめんね……
 身体を穢され、心も穢された……好きではない相手とのSEXで感じて昇りつめ、自分がイヤらしいメスに成り下がってしまった事実に、ただただ後悔と悔しさが込みあがってくる……
「―――さあ、それじゃ二回戦をはじめましょうか」
「え………こ、これで…終わ…り……」
「なに言ってるんですか。。ボクはまだまだ余裕ですよ。これから先輩には、朝までボクの精力を搾り取ってもらいますからね」
 そういえば店長も言ってたっけ………それじゃ、まだアクメの余韻も引いてないのに、あたし次また……あうゥうううぅぅぅン!!!」



 そして、それから朝まで……なんて生易しいものじゃない。バイトが始まるその直前まで、あたしは弘二に延々と犯され続けた。
 前の穴も後ろの穴も……そして身体の隅々にまで、弘二の精液は撒き散らされた。
 イヤと言ってもダメと言っても、弘二の耳には届かない。肉の凶器のような男根は狂ったように精液を吐き出し続け、あたしは……ただ、快楽に身を震わせ、この時間が早く終わる事を祈り続けていた―――


−*−


「お〜…たくやちゃんの彼氏って絶倫だねぇ。いーなー、わたしもそういう彼氏欲しいー」
「欲しけりゃあげますよ。いつでも持ってって……タタタッ……う〜…ホントに精根尽き果てるまでやめないんだから……」
「……なんか遠慮しとく。好みじゃないし、あんなケダモノと付き合えるのって、絶対たくやちゃんだけだよ〜」
「だから付き合ってないって! いい加減にしてよね、まったく……」
 バイトには間に合ったものの、空腹と寝不足と鉄やSEXの疲れで身体はガタガタだ。
 何とか忙しい時間帯を乗り切って、しつこく弘二との夜を聞いてくる同僚に手短に説明すると……うん、やっぱり引かれちゃった。
「でもでもぉ、何度も彼とはエッチしちゃってるんでしょ?」
「ほとんど強姦でね」
「でことはさぁ、二人は強〜い赤い糸で結ばれててぇ、神様がくっつきなさいって言ってるんじゃないのかと思うんだけど〜」
「やだ」
 一刀両断で切り伏せた。
「あいつのおかげで、あたしがどれだけひどい目にあったか知ってる? 女にされるたびに、元に戻るのにどれだけ研究費稼がなきゃいけないと思う? あいつの我侭な性欲解消のためだけにあたしだけが一方的に損してるのよ!?」
「だよね〜……わたしも、あのすとーかーっぷりはないと思うわ。いつか逮捕されるレベルだよね〜」
「そう思うでしょ!?」
「んじゃさぁ、“もう一人”の方とはどうなわけぇ〜?」
「うっ……」
 問われ、あたしは口をつぐんだ。
 実は、ここのコンビニでバイトをしだしてからは、弘二以外にももう一人の男の人に付きまとわれている。
 その人は……と彼のことを考えそうになったタイミングで、入り口の自動ドアが開く。さすがにお客様のいるところで店員のおしゃべりはよろしくない。あたしは居住まいを正し、疲れが顔に出ないように意識を切り替えながら満面の笑みを浮かべ、
「いらっしゃいませ〜♪」
「や、たくやちゃん、元気してた? デートしようぜ♪」
「………………」
「おいおいおい、俺に遭いえたのがうれしいのは判るけど、なんで崩れ落ちちゃうんだよ。可愛い笑顔が見れないじゃん」
「………今日のあたしは疲れてるから。だから回れ右してさっさと帰って」
「そしたらオレ、晩飯どうすんの? ここの弁当うまいんだぜ?」
「問題なのは毎日コンビニ弁当食べてるってとこでしょ。栄養は大丈夫なの?」
「そーだな。朝と昼は自分で作ってるけど、時間なくて手抜きだしな―……あ、だったらさ、たくやちゃんが作りにきてくれるってのはどうかな? 心配してくれるんなら是非ともアイテェ!」
 レジに身を乗り出してきたので、でこピンで迎撃する。
「まったく、すぐに調子に乗るんだから。当店ではそういうサービスは行っておーりーまーせーんー」
「えー、オレ本気なのにィ。恋愛ゲームならもうとっくに結婚までして車に乗り切れないぐらい子供作ってるところだぜ?」
「それは恋愛じゃなくて人生ゲーム!」
 まったく、どうしてあたしに言い寄ってくるのはこんなヤツばっかりなんだろう……あたしは手に何も持たずにレジの前へやってきた“健二”さん冷たいまなざしを向けつつ、そんなことを考えた。
 ―――まったく、この人もなにを考えてるのやら……
 見た目の年齢はあたしとそう変わらない。いつもお客様のいない谷間の時間帯にやってきては、お弁当を買うついでにしつこくアプローチを繰り返して繰る困った男性だ。
 服装は土木の仕事をしているらしくて作業着姿だ。でも休みの日にはシンプルながらも好感の持てる服装で現れ、やっぱりあたしを口説く。
 ―――まあ……顔がいいのは認めるけどさ……
 弘二がストーカーなら、こっちはナンパ師だ。元・男の美人として、あたしと遊びたいだけなのだ。
 でも、こっちも何とかしないと……そんなことを考えていると、不意に健二さんはヒクッと鼻を動かした。
「もしかしてたくやちゃん……さっきまでSEXしてた!?」
「なっ……!?」
 時間の許す限り、徹底的に身体を洗ってきたのに、なんで解るの!? 犬? もしかしてこの人、犬人間!?
 今までナンパ男には車の中に押し込まれたり乱暴されたりと、いい思い出がまったくないのだ。ここは何とかごまかして危機回避……とか考えているうちに、隣のレジからバイトの同僚が身を乗り出してきた。
「そーなんですよ。なんとたくやちゃん、ついさっきまで彼氏さんと昨日の夜からエンドレスエッチしてたんですよ〜!」
「なにぃ!?」
「ちょっと待って。あいつは彼氏じゃないって! いいかげんなこと言うと、ホントに怒るよ!?」
「でもエッチしてたのはホントだよね〜」
「ぐぬぅ……!」
「そーゆーわけだからぁ、たくやちゃんはもう売約済みなのですぅ〜。お客様、ごめんなさいね〜」
 と、そう健二さんに話しつつ、同僚さんはあたしの方にウインクしてみせる。
 ―――ああ、そういうことか。
 つまりあたしに恋人がいる事にして、健二さんには諦めさせるという手だ。あたしが男である事を知っていても口説く手を緩めなかった相手でも、彼氏がいると知れば少しは―――というのは甘い考えだった。
「んじゃ次の日曜日にデート決定だね。ヤッホゥ!」
「はあっ!? なんでそうなるのよ!?」
「大丈夫だって。遊びにいくだけだから。エッチなことは何もしないって。これでも社会人だからデート費用も全部オレ持ち。ってことでいいよね♪」
「勝手に決められていいわけないでしょ!」
「でも、たまには羽根伸ばしたほうがいいぜ。結構気苦労ためちゃってるんじゃないの?」
「むっ………」
 そりゃ女になってからは気苦労の連続だ。痴漢に遭う。強姦魔に遭う。輪姦される。弘二に犯される。それだけでもまだ足りないほどハプニングの連続だし、金銭面がキツくて遊びにだって行けやしない。
 だからまあ、純粋に遊びに行くだけなら付き合ってもいいと思う。奢りだし。
 でもその日もバイト入ってるし……だから断ろうとしたのだけれど、
「お得意さんの頼みだからな。うむ、許可する」
 店長のその一言で、デートする事になったのだった………


−*−


 ―――まったく、冗談じゃないわよ……なにが悲しくて男とデートしなくちゃいけないのよ……
 デート当日、あたしはいまだに諦め悪く、駅前の待ち合わせ場所でため息をついていた。
 服装も簡素なものだ。ノースリーブのブラウスにジーパン。男の人に会うのにスカートって言うのは気恥ずかしさが勝ってしまってズボンを選んだのだけれど……肉付きのいい下半身がぴったりのジーパンでさらに強調されて、余計にイヤらしく思えたのが難点だ。
 あとは義姉の夏美が残していった荷物の中から適当なバッグを選んだだけ。化粧っけもないし、足元だってスニーカーだ。
 ………だというのに、
「ねえ彼女、もしかしてヒマしてる?」
 なんていうナンパがこれで6組目だ。いい加減うっとうしい。
 ―――そんなに早く来すぎたかな……
 明日香とのデートが三十分前行動なので、ついその時間に家を出たのが間違いだった。
 女性ものの腕時計で時間を確認すれば、ようやく五分前。さて、もうそろそろかと思っていると、
「たくやちゃ〜ん!」
 名前を呼ばれたのでそちら振り返る。すると、ジャケット姿の健二さんがこちらに走ってきていた。
 ―――あ……
 軽く手を上げ、唇を開く。……その間に健二さんはあたしの目の前まで走ってきていて、そのまま力いっぱい抱きしめられた。
「んぐぅ!」
「やー、もしかしたら来てくれないんじゃないかと思って早くきたのにさ。たくやちゃんのほうが先にきてくれてたなんて感激だなァ♪」
「ちょ……苦しい! 離れてってばァ!」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと嬉しかったから。それじゃ、早速行きましょうか!」
「え? へっ? もういきなりぃ!?」
 健二さんは会ったばかりだというのに、もうあたしの手を引いて動き出している。それに追いつこうとして足を動かして、
 ―――ま、まさかいきなりラブホテルとか!?
 反射的に身体が硬くなり、歩みが遅れ、前を行く健二さんを逆に引っ張ってしまう。
「あ、あの……」
「だーいじょうぶだって。今日はキミを絶対満足させてみせるからさ♪」
「ま…満足って………まさか、やっぱり……!?」
「おいおい、その“まさか”ってどういう意味だよ。オレ、自慢じゃないけど女の子を昼間っからホテルに連れ込んだ事なんて一度もないぜ」
「ホントかなァ……」
「それは今日のデートが終わったときには解ると思うよ。それより、今日一日なんてあっという間に終わっちゃうんだからさ、急いで急いで」
「だ、だから走らないでってばァ!」
 今日はスニーカーを履いてきてよかった……慣れないパンプスだったら絶対に何度もこけてるなって、くだらない事を考えながら、楽しそうな笑顔をしている健二さんにあたしは一生懸命ついていった―――


 −*−


 それは、とても“普通”のデートだった。
 あまり来た事のない街を健二さんの案内で見て回って、
 途中でクレープを買って二人並んで歩きながら食べて、
 あたしも興味のあったアクション映画を見ながら手に汗握り、
 ファミレスでF1やサバゲー、テレビゲームの話で盛り上がり、
 ゲームセンタで対戦ゲームに熱中したりプリクラ撮ったり、
 海の見える公園を二人で手をつないで歩いたりして、
 ちょっとだけ贅沢なレストランで談笑しながら食事をして、
 それは本当に、誰でも出来る、気のおけないカップルが二人で休日を楽しむための“普通”のデートだった。


 −*−


「さて、今日のデートはこれまでだけど、ご満足してもらえたかな、お姫様?」
「そうね〜……ま、85点はあげよっかな♪」
「ちぇ、100点くれないのかよ。キビシーなぁ……」
「ふふふ、満点デートにはちゃんとした彼女を連れてってあげてね♪」
 食事を終え、あたしと健二さんは昼間にも通った公園を駅に向けて歩いていた。
 ………100点、あげてもよかったんだけどね。
 あたしだって、普通のデートをしたことがないわけじゃない。明日香とこういう休日を何度も過ごしている。
 ………でもそれって、あたしが明日香をエスコートしてたもんね。
 今日のデート、あたしはいつもとは違い、健二さんにエスコートされる側だった。
 それは何度も体験した事があるようでいて、まったく違った初デート。
 健二さんがあたしが楽しんでくれると思ったデートプランで、あたしは心行くまで楽しめた。知らない街を歩いて、そこに軽い驚きがあったり満足があったり。共通の趣味で盛り上がって二人の距離が近くなったような感じがして……
 ―――だから、100点じゃ困るのよ……
 楽しかった。だからダメ。
 そう遠くないいつか、あたしは男に戻る。その後、男と女として出会った健二さんとは、こうして楽しい休日を過ごす事は二度とない。
 デートが楽しいほどに、楽しい時間が過ぎるほどに、そんな思いが頭をよぎる。自分で面倒くさい女だなって思うけど、元から性転換の訳ありなのだからどうしようもない。
 ―――だから85点。だから……
 そういえば、ひとつ疑問がある。
「ねえ、聞いていい? どうしてあたしをデートに誘ったの?」
「聞いていいかって、もう聞いてるじゃんか」
「別に答えなくてもいいわよ。その代わり、85点が80点に下がっちゃうだけだから」
「で、デート終わりだって言ってんのに、まだ評価点下げるか!?」
 そうブツブツつぶやきながらも、諦めたように笑顔で嘆息すると、
「たくやちゃん、全然楽しそうじゃなかったなかったからね」
 そんな感じの理解できない答えが返ってきた。
「正直言ってさ、男の女の子がアルバイトの店員になったって聞いて、面白半分で見に行った。そしてそこで一目惚れした。けどさ、嫌々仕事してるように見えたんだ。てゆーか、嫌々生きてるなーってレベルの感じで」
「あう……あたし、そんなに顔に出てた!?」
「彼氏とエッチしたって聞いたって、むしろ前より酷くなってたぜ。だったらオレがって捻じ込むとこだったろ、あそこ」
 まあ……ぶっちゃけると、女になると良いことはほとんどない。下着代やら研究費やらの出費、ところ構わず襲ってくる人たち、破綻しそうで恐くなる明日香との関係、これでストレスを感じないほうがおかしい。
 でも、それが顔に出てるなんて思いもしなかった。そういうのをあんまり感じない性格なんだって自分で思っていたぐらいだし。
 いいことなんて何もない女の姿……でも、この人はそんなあたしを見て―――
「だからさ、いつか消えちゃう一目惚れした子に、一日でもいいから楽しんでもらいたかったんだよ。“女の子”としてね」
「………ちょっとクサい」
「ぬああああああっ! お、オレいま格好良いこと言ったのに! 最っ高に格好いいこと言ったのにィ!!!」
「あははははっ! でも今日はありがとね♪」
 だからこれはそのお礼……ショックを受けてる彼の元に駆け寄ると、左腕に自分の手を絡ませ、ギュッと身体を押し付ける。
「おっ、こ、これは―――………いいの?」
「いいんじゃないかな。ここじゃカップルは……そうするものだと思うし」
 海の見える夜の公園。見上げれば夜空に星が瞬き、夏の暑さを涼やかに吹き流す海からの夜風がロマンチックな雰囲気を演出してくれる。
 ―――緊張、伝わってくる……
 腕を組み、身体を寄せ合って歩くあたしと健二さんは、周りにいるカップルたちとなにが違っているんだろう。
 夏の夜はまだ終わらない。
 暑いはずなのに、相手の体温が心地よくて、
 高鳴る鼓動を、あえて相手の腕に押し付ける。
 歩く早さはゆっくりで、ずっと口を開かない。
 公園を抜けて、
 街中を抜けて、
 駅がやっと見えてきた。
 時間は23時を過ぎていて、
 もうすぐ帰りの電車がホームに来る頃……なんだけど、
「このまま……別れたくないかな……」
「オレも……キミを帰したくない」
 お互いの視線が相手を見つめ、絡まりあう。
 そしてあたしたちはお互いの身体を引き寄せあうと、周りの人たちに見られている事も気にせず、ためらいがちに開いた唇を重ね合わせた―――


 −*−


「お……おまたせ……」
 あたしがバスタオルを巻いて外へ出ると、彼はバスルーム姿でベッドの端に腰をかけてカチコチになっていた。
「………まさかドーテー?」
「そ、そんなことないぞォ!?」
 返事の声は裏返っていた。
「……コホン、そんなことないぞ。経験はちゃんとあるけど、今日は、今までとまったく違うから……!」
「ふふっ、じゃあ今日は最後までエスコートしてくれるんだね♪」
 クスッと小さく笑うと、あたしはバスタオル姿のまま、肩が触れ合う距離で彼の左隣に腰を下ろす。
「うおっ……!」
「もう、目がオッパイに釘付けじゃない。デートの間に何度も見たでしょ?」
「ブラウス越しでもスゴかったけど、生の迫力はそれ以上で……!」
 もう……こんなに間近で改まって凝視されると、恥ずかしくなってきちゃうのじゃないのよぉ……
 健二さんが興奮しきっているのは判る。バスローブの合わせ目から、ギンギンになったものが飛び出しているのだから。
 ―――パワフルモードの弘二ほどじゃないけど、かなりおっきい。アレ入れられたら……やだ、妙に期待しちゃってるぅ……!
 チラッと視線を向けただけなのに、ある種予感めいた感覚が身体に軽い電流になって駆け巡る。バスタオルでは抑えきれなくなりそうなぐらいに身体が興奮し、一人の“女”として発情し始める。
「たくや…ちゃん……」
「んっ……」
 隣にいる人の体温を感じていると、健二さんの手があたしの肩へ伸びる。そしてお互いに相手のほうへ少し身体の向きを傾けると、彼の顔が近づいてきて、ヌルッとした舌先が唇を割り開いて差し込まれてくる。
「んんっ……ァ……ん……ん、んうゥ……ん、んぅ……」
 舌と舌とが絡まりあってイヤらしい音を響かせるほどに、頭の芯がジィ〜ンと痺れていく。ああ、これからこの人とSEXするんだって、ゆっくり噛み締めるように実感すると、
「あっ……」
 唇が離れ、方から胸元に彼の手が滑り落ちる。そしてバスタオルの結び目を少し緩められると、締め付けられていた膨らみが布地を押しのけるように一気に露わになる。
「ぬおおっ……!」
「もしかしてもしかしなくても、オッパイ星人?」
「巨乳が嫌いな男がいるか? いや、いない、男は、全員巨乳好きなんだァ!!!」
 世の中にはちっさいオッパイが好きな人だっているんだよ〜……と囁くヒマさえない。それまでグッとこらえてきたものがオッパイとともに溢れ出したのか、検事さんの手はあたしの胸を両方鷲掴みにしてきた。
「も、もう、いきなりなんて……んんっ! あ…け…健二さん……鼻息荒すぎ……ふあっ……!」
「コンビニで口説いてるとき、たくやちゃんのオッパイに興奮しなかったと思ってるのかい? それが目の前にあるのに……興奮するなって言うほうが無理だって……!」
「んあァ……!!!」
 力仕事をしているだけあって、健二さんの指は力強くあたしの乳房をこね回してくる。荒々しくはないけれど、シャワーを浴びたばかりの剥き身の膨らみが巧みな手つきで揉みしだかれてブワッと一気に膨張して……そこからもう止まらない。ヒクッヒクッて勃起し始める乳首は摘み上げられてコリコリ揉みしだかれ、女になるたびに大きくなっていく乳房に前進から血液が集まってるかのように張り詰めていく。
「あ……あぁ……はぁあああぁ………!」
 ―――や、やだ、先端ばっかり、そんなに……ああ、んぁぁぁぁぁ〜〜〜………!
 後ろに突いていた手だけでは、もう身体が支えられない。執拗におっぱいを攻め立てる健二さんの圧力に屈してベッドに仰向けに倒れこむと、彼の唇は天井に向けて付きあがった乳首へと吸い付いてきて、溜まらずあたしはノドを逸らせて声を迸らせていた。
 ―――い、いつもより……弘二よりも誰よりも、健二さんにされるのが一番気持ちいいぃぃぃ!
 健二さんの指が弾力のある乳房に食い込み、ビリビリと痺れている乳首を舌と唇とで吸い転がされるたびに、男の人に抱かれるときにいつも感じていた薄い膜のような隔たりが一枚、また一枚とはがされていくような感覚に陥る。
 すると、あらゆる刺激がこれまで感じたことがないほどにクリアに、鮮烈になって……これって、“素直”になってるのかな。健二さんの唾液でお風呂場で念入りに洗い磨いた膨らみを唾液でベトベトに穢されているとのに、あたしはその全てを受け入れ、大きなベッドの上で悩ましく身をくねらせながら、お尻にまで愛液が伝い落ちるほどに股間全体がトロトロに蕩けていくのを感じていた。
 ―――ダメ……それ以上おっぱいを弄られたら、あたしはぁ……!!!
 バスローブを脱ぎ捨てて全裸になった健二さんの躯を膝の間で挟み込み、あたしは胸だけで昇りつめてしまいそうなほどに高ぶっていた。
「ああっ……こ、このまま……はぁぁぁ………おっぱい、もっと、もっとぉ……!」
 先端も、谷間も、下側も、敏感な場所を全部舐め責め立てられ、あたしは息も絶え絶えに何度も喘いでいた。
 こんなの知らない。
 オッパイでここまで気持ちよくなれるなんて、あたし、知らないのにぃぃぃ!!!
 でも、不意に健二さんの右手が芋虫のように胸からおへそへ、そしてもっと下でヒクヒクしている淫唇へと這い降りていく。
「そ、そこはっ!?」
 上に集中していた分、下に触れられた驚きは強烈だった。シーツを蹴り、身をよじるようにして逃げようとするけれど、健二さんはこちらの左肩と右ひざを押さえつけ、熱いまなざしでじっとw足しの事を見つめてきて―――
「ぅ………」
 なんかもう、恥ずかしさで死にそうなのに……自分を女として、相手を男として受け入れられるようになった反面、快感に馴染むほどに羞恥心も高まってしまう。
 でも………唇から溢れていた唾液をすすり、ゆっくりと大きくノドを鳴らすと、あたしは健二さんから視線を逸らせて目蓋を伏せ、恐る恐る足から力を抜いていく。
「………綺麗な、形してるよね」
「ッ………!」
「クリトリスをこんなに大きく膨らませて……もうシーツに大きなシミが出来てる。これって……」
「や……説明するなんて、ひどいよぉ……」
 アソコに吐息が触れるほどに顔を寄せられ、どうなっているのか説明されれれば否応なしに羞恥心を煽られる。でも、身体をずらした健二さんはあたしの両膝をベッドへと押さえつけていて、180度開脚でどうあっても隠せそうにない。
「でもさ、本当に綺麗なんだ。もう……我慢できないぐらいに」
「んんぅ……!」
 生暖かいものが股間に触れる……でも、クンニされた事なんて、これまでにも何度もあった。それなのに、舌先で淫唇を割り開かれ、包皮を剥き下ろされてクリトリスを皮肉の奥から吸い出されると、鋭い快感があたしの身体の新を突き抜け……間近にあった健二さんの顔にめがけて大量に吐淫するほど感じてしまっていた。
「ああ…ごめ……なさ…ぃ……! あた、し……もう……こらえら、れ……んふゥ!!!」
 お返しとばかりに、今度は健二さんがあたしのおマ○コへ指を突き立て、ピンッと尖った淫核を吸い立ててくる。
 敏感すぎるクリトリスは健二さんの口内でビリビリと痙攣を繰り返し、あたしは自由な上半身を懸命によじりながら、根元まで挿入された指を愛液が湧き出して止まらないおマ○コで締め上げる。
 でも、敏感になりすぎているあたしの身体は、もうその愛撫に耐えられなくなっていた。おなかの奥で渦巻いていたマグマのような灼熱感が一気に噴き上がったかと思うと、指をくわえ込んだおマ○コからブシャッと音がなるほどの勢いで体液が噴出し、何度も何度も何度も何度も、おマ○コやおっぱいを突き上げるようにガクガク身体を弾ませた。
「イク、イク、イっちゃ、んひっ、イひィ、あっ、も、はあッ、ハァ、はあああァンンンンンゥ!!!」
 ベッドの上でブリッジするほど身体を反り返らせ、身体の内側から迸る透明な汁を次々と迸らせる。
「敏感なんだね。オレ、愛撫で女の子をイかせたのって初めてだよ」
「け、ンジ、さ…ぁ……ァァ……!」
 あたしの涙ながらの懇願にしっかりと頷きを返した健二さんは、こちらも先端から透明の知るが溢れている肉棒を握り締めると、ビクビク震えているあたしのおマ○コへグチュッと先端を埋め込んできた。
 ―――まってぇ! だめ、休ませて、まだイってるのに、そんなおマ○コに入れられたら、ああ、あはァ、んはァあああああああっ!!!
 言葉さえ満足にしゃべれないあたしには、健二さんを押しとどめる事は出来ない。あたしの首と背中に腕を回し、お互いに汗が浮き出た肌を密着させると、腰を押し進め、痙攣のおさまらない肉壷にズリュウッ…と肉棒を押し込んできた。
 ―――深いぃ……! おマ○コが、健二さんのでいっぱいになって、奥まで、奥までぇ……! あ、まだダメ、いま動かれたら、やァ、動いちゃラメなのにぃぃぃ!!!
 ここまできたら、お互いにもう止まれない。それでも健二さんは一突き一突きに時間をかけ、亀頭で子宮を突き上げたらカリ首が膣口から抜け落ちるほど大きく腰を引いて、膣内の愛液を押し出しながら逞しい男根を根元まで挿入してくる。
 もう、快感が止まらない。絶頂が収まらない。
 次第に腰の動きが激しくなってくる頃には、あたしたちの結合部は股間から噴き出した絶頂液でベトベトになっていた。鼻息を漏らし、嘗め回されてヌルヌルになった乳房をうらやむほどに逞しい胸板に押し付けながら、あたしの両脚は抱き寄せるように彼の腰に巻きつき、もっと激しく、もっと深い結合を求め始めてしまう。
「た、たくやちゃん……オレ!!!」
「きて……このまま、一緒にィ!!!」
「くあ…あああっ! たくやちゃんのおマ○コ、最高すぎる、もう、ダメだァあああああッ!!!」
「んイイイイいぃッ! も、もっと、もっと叩きつけて、あたしに、健二さんを忘れられなくしてェ!!!」
 ピストンのギアを一気に上げた健二さんが小刻みに、でも肺から空気が押し出されるほどの力強さで子宮を亀頭で突き上げ、愛液まみれの蜜壷を摩擦する。体内を揺さぶられる激しい抽送にあたしも涙を流して悶絶するけれど、狂おしいほどに絶頂を繰り返している蜜壷は奥へ奥へといざなうように蠢動を繰り返し、精液を絞り上げようとしていた。
「いいん、だな、このまま、中で、中で……孕ませるぞ、たくや!!!」
「このまま、このままイかせてェ! 健二さんを、最後まで感じてたいの、だから愛して、最後まであたしを愛させてぇぇぇ!!!」
「たくや、愛してるさ、好きじゃない女の子とこんなことするもんか! だから、オレと、オレとぉぉぉ!!!」
 スゴすぎるぅぅぅ!!! おマ○コが、体中が健二さん欲しがってて、弘二より、弘二とSEXするより何十倍も気持ちがいいのぉおおおおおおっ!!!
 あたしと健二さんだけの室内に肉と肉のぶつかる音が、世紀と世紀の擦れあう卑猥な音が木霊して、それにあたしたちの喘ぎ声が重なり合う。
「たくやッ! たくやッ!! たくやァァァ!!!」
 健二さんがあたしの名前を連呼し、そんな健二さんを抱き寄せたあたしは無我夢中で舌を絡ませ、溢れる唾液をすすり上げる。
「………、……………っ!」
 張り詰めきった太股が痙攣していた。その震える脚で彼の腰を引き寄せて一番深くつながりあうと、ヴァギナの中で限界を迎えようとペ○スが膨張し、飲み込んだものを食いちぎらんばかりに締め付けている膣の奥に熱い塊のような精液を迸らせた。
「ああぁ! 熱いの、熱いのがいっぱいくるゥゥゥ……!!!」
「まだだ、まだ出すぞ、全部、たくやの中に注ぎ込んで、オレは……お、おおおォ……!!!」
「ナカ…おマ○コの中で、あたし、は……、――――――………ッ!!!」
 長い長い射精を終えた肉棒が、ドロッとした精液と一緒にあたしの膣内から引きずり出される。
 そして、一息を入れている間に手で扱いて硬さを取り戻させるのを待ったあたしは、それを受け入れるため、 今度は自分の手で赤く充血した粘膜を左右へ広げてみせる。
「……………」
 口元に笑みを浮かべて、ただ頷きだけをすると、また健二さんは肉棒を押し付けてきた。
 もう一度……デートの一日が終わっても、あたしと彼はここにいる。
 だからまだ終わらない。もう一度だけ……最後にもう一度だけ、あたしは素直に受け入れられる女の悦びに溺れようとしていた―――


 −*−


「………って、これで最後とかイっといて、結局何回やったんだっけ?」
「覚えてない……てか、もう勃たないよ……」
「あたしも疲れちゃった……」
 結局7回か8回はがんばったあたしは、先にベッドに倒れこんだ健二さんに寄り添うようにして身を横たえる。
 胸板に頬を押し付けると、彼の手があたしの背中に回り、まだ余韻に震えている背中を優しく抱きしめてくれる。
「んっ………」
 自分ではするほうだけど、いざされるほうになってみると、こういう後戯は結構心地よい。まるで猫のように鼻を鳴らし、とろけるような恍惚の時間に酔いしれていると、
「オレ……これからどうしよう」
「どうかしたの?」
「たくやちゃんとの気持ちよさを知っちゃったら……もう他の子と付き合っても絶対に満足できないと思う」
「女の子と付き合うのって、エッチだけが目的じゃないでしょ?」
「いや〜……やっぱり長く付き合うなら身体の相性も大事だと思うわけですよ。というわけで、子供できてたら責任取るから、俺と付き合わない?」
「謹んでお断りします」
 あっさり断った。……でも、どこかこういうやり取りなんだなって解ってたらしくて、二人同時に小さく噴き出してしまう。
「あ〜あ、残念。失恋しちゃいましたよ、オレ。だったらまあ、代わりにたくやちゃんが男に戻るの応援しましょうかね」
「無理しなくたっていいんだよ。あたしの事を罵倒したり怒ったりして」
「きみがバイトしてる限りは、あのコンビニで弁当を買い続ける。ま、機会があればまたデートに誘っちゃいますけど」
「ん………」
 “また”―――その機会があるのかと、ふと考える。
 でも、すぐにやめた。
「そうだね……“また”こうやって遊びに来れたらいいかもね」
 あたしに判っていることなんだから、きっと向こうも気づいてる。
 だから口にはせず、この甘ったるい幸せな空気に、今はただ浸っていたい。
 ―――でも“また”があったら、その時はきっと100点をあげちゃうんだろうな………
 あたしが手を伸ばすと、彼の手がそれに答えてくれる。指が絡まり、握り合い、今だけは一緒なんだって感じられる喜びに包まれたまま……あたしは目を伏せ、この幸せな夢を静かに終わらせた―――


49-「幸いの夢」へ