33・夏の暑さで暴走してます・その3
夏休みが目前に迫っても、日曜日は日曜日である。
半ドンの授業の後で暑い日差しの下を駆け回る部活も終わり、バス停でバスを待っていると、後ろから声をかけられた。
「よ、毎日暑いのに頑張ってるね、運動部♪」
相原……だ、だって仕方ないだろう。お前の後ろの席でブラの戦とか油薄の張り付いた背中見ながらむらむら溜め込んだ性欲を、スポーツで無理やり発散するしかないんだからよォ!―――とは、口が裂けても言えない。
けどそう言う相原だって、髪が湿ってるじゃないか。科学部にシャワーなんて必要ないだろ?
「あはは……いや、ケイトに誘われてちょっと水泳部で……」
なにィ!? てーことはなにか、学年一の巨乳して金髪留学生のケイトと相原のW水着!? マズい、考えただけで股間に地が集まる……平常心平常心、落ち着けマイサン、よ〜しよしよし……ふぅ。
「プールに入れたのはまあいいんだけど、去年水泳部を兼部に用意してもらってた水着、胸が入らなくなっちゃってて」
ぐはっ!
「仕方ないからケイトの私物って言うビキニを貸してもらったんだけどさ」
げほっ!!
「泳いでたら結び目が解けちゃって……ううう、全部見られた……」
ごほォ!!!
な…なんつー破壊力だよ、頬染めて恥らう相原は……お前、もうそれは完全に“女”じゃないかよ……
それにしても相原のビキニか……やべ、想像しただけでモッコリが……疲れてる時はなんでこんなに勃ちやすいんだァ!!!
「どうしたの、顔色が悪いけど。ちゃんと熱中症対策してる? スポーツドリンク、残りでよければあげよっか?」
心配するなァ!……あ、いや、心配してくれるのは嬉しいんだけど……ほら、俺って頭悪いから、夏休みの間中ずっと予備校通いだから気が重くってさ。はは…あはははは……
「お互い大変よね……そう言えば、何でバスなの? 徒歩通学じゃなかったっけ?」
ちょっと欲しいゲームがあるから街までな。そういうお前は……まさか、毎日バスに乗ってて、痴漢に会ったりしてないか?
「なっ……!?」
………あるんだな、痴漢されたこと。そ知らぬ顔で言葉を濁しているけれど、思い切りバレバレだ。
女になって日が浅いせいか、それとも元々男だからなのかは知らないが相原のヤツ、かなり男に対して警戒心が薄い。
今もそうだ。他に並んでる奴だっているのに、まるで恋人みたいにちゃっかり俺の横に並んできたけれど、後ろにいる奴がどんな目で自分のことを見ているかにまったく気付いたそぶりがない。スカートを形よく盛り上げる丸みを帯びたヒップ、大きくなった胸をきちんと納めたブラの線、学園指定のブラウスを脱いで露わになった身体の曲線。
そういう物を授業の間中、俺はずっと目の前に晒され続けているのだ。はっきり言って俺ほど相原の後姿に詳しいものはいない。もはやマイスターといっても過言ではない。もし相原が相原でなければ……つまり元・男でさえなければ、一日と待たずして告白してエッチして童貞卒業してハッピーな毎日を送っているはずなのだ。
「な、なによ、ジッと見て……別に、痴漢なんてどうって事ないんだからね。身体触られて、気持ち悪いだけだったんだから」
そう強がる相原もまた可愛い……って、だから違う、俺は普通の女の子が好きなノーマルな男子なんだよ! あえて言うなら片桐とか渡辺とかケイトとか、周囲には学園有数の美人がいて……よく考えたら全部相原関係じゃねえかよ!!!
「本当にどうしたのよ。調子悪いんなら、今日はゲーム買いにいくのやめて家に帰ったら?」
大丈夫……と言おうとするけれど、前に回り込んで俺の顔を覗き込んでくる相原の仕草や、上から見下ろすせいでますます際立って見える胸のボリュームとかに意識が集中してしまう。
マズいって。いくら相原の色香に鉄の忍耐力で耐え抜いてきた俺でも、こんな息も吹きかかりそうな間近に相原を感じたら、り…理性が、夏の暑さで溶けて……ウガガガガガガガガッ!!!
「バカヤロォォォォォ!!!」
そ、そうだ、俺は馬鹿野郎……って、今言ったの誰だ? 相原じゃない、別の誰かの大声に背後を振り向くと、謎の一団が砂煙を巻き上げる勢いでバス停に向けて突っ込んできていた。
「練習試合の時間、14時じゃねえか。誰だ、4時と間違えたヤツは!?」
「はい、それは一年です!」
「ウソつけェ! スケジュール管理は庶務のお前の仕事じゃねえか!!!」
「オラオラオラ、そこのけそこのけナイスタイミングでバスが来たぞォ!!!」
そのダンプーカーのような勢いに飲まれ、バス停に待っていた連中は散り散りに逃げ去っていく。俺もとっさに相原の手を握って避けようとするけれど、
「なっ!? 何で手ェ握ってんのよ!?」
俺は右、相原は左。手でつながってそれぞれ逆方向に動いた俺たちはその場から動くことが出来ず、そのまま……
−*−
「ぜ…絶対に手を動かしちゃダメだからね……」
わかってる……大丈夫、俺を信じろ。
「信じられるわけないでしょ……エロ本隠して持ってくるような普段のあんたを知ってるんだから……!」
お、お前が女になるって知ってたら、下ネタなんて聞かせてこなかったよ!!!
けどまあ……どこの運動部かしらないけれど、そいつらに巻き込まれてバスに乗り込んでしまった俺は相原を後ろから抱きしめていた。しかもとっさに守ろうとした成果、左手は相原のボリュームのあるオッパイをブラウスの上から鷲掴みにし、カバンを持った右手は相原の股間に拳を押し付けてしまっている。傍から見た人間が俺を痴漢扱いされれば……まるっきり弁解の仕様がない、そんな危険極まりない体勢だ。
しかも、バスの車内はすし詰め状態。体勢を変えるスペースはおろか、両手の位置を変えるゆとりさえない。
そんなわけで、
「んっ……!」
このまま握り締めてしまいたい相原の柔らかく重量感のあるオッパイ……その感触を手の平いっぱいに受け止めながら、必死に握り締めまいと痙攣している俺の指なのだけれど、
「やっ…こ、こらバカ……ァ……!」
バスがブレーキを踏んだり、周囲から押されたりすれば、当然指先を相原の乳へ押し込んでしまう。
「ハァ、ハァ、こ、この……揉むなって言ってるのに…んん、はぁ、ゥ―――ッ!」
これは決して俺の意思ではない。そもそも俺は相原のオッパイになんて興味ない。だから先っぽを指先で転がしたり、リズミカルに強弱付けて揉みしだいたり、鼻息を荒くしてこね回したりなんか絶対にしていない!
「やめて……ダメだって何回言ったら……あ、ああァ……!」
相原だって、バスの中でなに変な声出してるんだよ。お…俺の手の中に、硬いものを押し付けやがってェ!
「いじり倒したの…あ、あんたじゃないの……後で、絶対にやり返してやるんだか…らァ……!」
俺の腕の中で声を押し殺していた相原が一際大きく身を震わせる……気付けば、俺はカバンを手握り締めたまま、右手の中指を立て、熱と湿り気を帯び始めていた相原の股間をグッと押し込んでしまっていた。
と言うか……相原、お前、もしかして……?
「――――――ッ!!!」
“何も言うな”と言う目で振り返られ、俺は続きの言葉を相原の耳元に囁くことなくグッと飲み込んだ。
けど……相原、スゴく敏感なんだよな。
すぐ顔を前に向けたけど……恥らう顔もスゴく色っぽくて……
「んんゥ……! やめ…どこに顔を押し付け……ハ…ァ……鼻息…くすぐったいって……」
プール……入った後だって言ってたっけ……塩素の臭いが……相原の…匂いが………
「つ、次の…バス停で降りるから……も…やめ……大丈夫だって…言ったのにぃ……」
お、俺が悪いんじゃない……だって俺はノーマルだもんな。悪いのは……男のくせに、こんなスケベなオッパイは、あったかいおマ○コしてる相原のほうじゃないのかよォ!!!
「だ…めェ……そんなに乱暴にしたら…他の…人に……き、気付かれ……、ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
これって……ク、クリトリスってヤツか? 下着の上からでも分かるぞ……こ、こうだよ、な?
「んッ、はゥ、やめ……ホントにやめて、おかしいよ、あたしたち……と、友達じゃなかった…の……?」
相原の声が、少しだけ湿り気を帯びている……けどノーマルの俺は、相原に何もしていない。そうだ、しているはずがない。こんな風に……下着の中に指を入れてなんか……!!!
「あ、アッ、バスの……中なのに……んイっ、やめてって……言って……あ、はァァァ……!」
変な声出すなよ。俺は……お前に誘惑されたりなんかしてないからな!!!
まるでアダルトビデオの女優みたいに……いや、それよりも色っぽく、相原は声を噛み殺しながら身体をギュッと緊張させている。俺の両手が胸と股間にあるから……だから恥ずかしいに違いない。俺は何もしてないのだから、だから、だから―――
―――不意に、バスがタイヤを軋ませながら急ブレーキをかける。
「あっ――――――」
俺の腕から離れ、そして俺の腕に引かれるように、身体を回しながら放れていく相原。そして俺の身体も送れて前に流れ、逆に回りに押し返された相原の身体は、前後の向きを変えてすっぽりと俺の腕に収まってしまった。
「ィ………あ、あの、あ…当たってるんだけど……」
そう、だな。固くて、小さいモノが、俺の、胸に……二つ。ギュッと。
「ち、違うの。もっと…その………ずっと、下……」
何を言っているのか解らない。それよりも俺が理解しなきゃいけないのは、汗もろくに拭っていない俺の胸へ密着するかのように押し付けられた二つの膨らみの柔らかさや弾力を記憶することだ。
だから思わず腕にも力が入る……膨らみを引き寄せようと、両手の中にある丸みを鷲掴みにして、
「んアッ!?」
そのまま、俺のほうに引き寄せて、
「いッ……ダメ、ダメったらダメェ……グ、グリグリ…きちゃうから、そんな…ん、んゥ〜〜〜〜〜……!!!」
なんなんだろうな、この感触……離したくなくて、握りつぶしたくて、理性と本能が命じるままにこね回しながら、俺は……なぜか熱を帯びた腰を、グッと前に突き出して、
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………ッッッ!!!」
次の瞬間、真下からきた相原の肘でアゴを跳ね上げられていた。
−*−
お願いします……せめて帰りのバス代ぐらいは残しておいて貰えないでしょうか……
「だ〜め。安物の水着じゃあたしの胸が入んないんだから。せっかくの奢りなんだし、ちゃんとしたのを選ばなきゃね♪」
気を失う前に、どうやら俺は何をしたらしい。見事の意識と記憶が飛んだんだけど、自分の胸をガッチリガードした相原に「あんなことして、あんなことまでしてぇ!」と半泣きで言われてしまうと、道行く人は犯罪者を見るような目を向けてくるし、俺自身も罪悪感で押しつぶされそうになってしまう。
おかげで相原の言うことに逆らえなくなり、どういうわけか相原の水着を躱される羽目に。
『受験前の夏休みだからって潤いは必要でしょ? よかった〜、直前で女になっちゃったから自分で買わなきゃいけないとこだったんだ♪』
ゲームやその他もろもろ夏休みを楽しむために貯めていたバイト代が全部パァ。とほほ……いったい何やっちゃったんだろう、俺。ノーマルのはずなのに、ノーマルのはずなのにィ〜〜〜!!!
せめて記憶が残っていれば反省もしようもあるし、相原に奢ることにも納得が行くのかもしれないけど……ああ、誰か教えてくれ。俺のこの手に残る感触はいったいなんですか――――――!?
「まあまあ悲嘆にくれないの。そのうち、あたしの水着姿を見せてあげるからさ♪」
―――今の言葉がちょっぴり嬉しかった俺は、そろそろ壊れかけてきているのかもしれない……
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