23・お見合いは人生墓場だなんて言ってみる!?(XC3)-中編
「ふぅ………」
頭の中で考えが上手くまとまらない。答えを出そうとすればするほど思考は泥沼にはまり込み、同じ事柄がグルグルと巡りまわるだけだ。
あたしのお見合いの事。
別れてしまった明日香の事。
結婚してるくせに自分の同級生であたしのお見合い相手の父親と不倫関係にある義姉・夏美の事。
この三つの事に共通しているのは、どれもが肉体関係を結んでいる所を想像してしまうことだ。
組み伏せられて無理やり膣内射精され、初対面の男性の子を宿されてしまうあたしの姿。
二人のタフな外人と夜毎にベッドの上で乱れ、あたしには見せたことのない表情を浮かべている明日香の姿。
今ごろは別室で二回りも歳の違う男性の腕の中で淫らに腰をくねらせ、快楽に溺れているであろう夏美の姿。
お見合いの席からは逃げられず、元・恋人の幼なじみとの関係修復は絶望的で、他人には言えない義姉のただれた性関係に悩みは一層深みを増す。せめて三つのうち、一つにでも何らかの答えを見出せれば胸を締め付ける重たい気分も少しは軽くなるのだろうけれど……今のあたしには、答えに至れる余裕がなかった。
「ふぅ………」
徳利から注がれるままに日本酒を受け止めるお猪口。ゆらゆらと揺れる水面を見つめながら舐めるように飲み干すと、小さな器を机の上に戻し、淵を軽く指で押さえる。
先端部分に上から圧力を受けたお猪口は、高台の一点を支点にして斜めに傾く。それを倒してしまわないように指を回せば、お酒を飲むための小さな焼き物はクルクルと踊るように机の上で回転する。
―――カタン
ほんのりと酔いの回った指先ではいつまでも上手く回せるはずもない。理由も特になく始めたお猪口回しは、指先が滑り、お猪口が小さく硬い音を響かせて水平に戻ることで終わりを告げた。ただ、お猪口は水平になった後も動きは全て失われたわけではなく、カタカタと小さくも激しく、そして短い振動を繰り返した末にようやく静けさを取り戻す。
その様子をボンヤリと見つめていたあたしは机に頬杖を突き、今度は回す事無くお猪口の滑らかな飲み口を指でなぞり始めた。
―――あたしも一緒なのかな、このお猪口と。
もし中にお酒が注がれていれば、あれだけ回せば中身なんて今ごろほとんど残っていなかっただろう。それと同じように、あたしは女になってしまったことで、日常と言う安定を失ってトラブルに振り回され、明日香を失い、男であった自分が忘れ去られていき、今は……小さな騒動がいくつも起こりながら、女である事があたしのとっての日常になりつつある。
お猪口の最後の振動は、男である事を忘れきれないでいるあたしの心そのものなのかもしれない……どこかさびしさを感じながら。そう思う。
………失ったモノが、それだけ多くて大きかったって事なのかな。
いつの間にかお猪口をなぞる指が動きを止めていた。遅れてそれに気付き、指先を逡巡させながら結局引っ込めると、今の自分へ向けてため息を突いてしまう。
何を悩んでいるのか自分でもわからなくない。
あたしが見ているのはいつも後ろばかりで、過去への未練が思考を捕らえて離さない。
過ぎ去ってしまった事はいくら悩んでも元には戻らない。自分の体の事でさえ確定していない不確かな現状では、いくら悩み抜いて未来や将来の展望を導き出しても絵空事としか思えない。
―――あたしは……何がしたかったんだっけ。
「結論は出ませんか?」
ふと横から声をかけられて顔を上げれば、お見合い相手の雄介さんが回転運動を止めたお猪口にお酒を注いでくれていた。
慌てて周りを見れば、既に日は完全に落ち、暗くなった室内は電気の照明ではなく和室にマッチした行灯の灯火に照らされていた。温もりを感じる橙色の明かりの中、机の上には食べかけの料理のほかに徳利が二十本以上並んでいて、どうも……そのほとんどを、注がれるままにあたしが一人で飲んでしまっていたようだ。
「あ……ご、ごめんなさい、考え込んじゃってて……」
「構いませんよ。一生の事なんですから、いくら悩んでくださっても」
「はぁ……」
どれだけ悩んでも答えなんて出ないと思う……お酒が大量に入って何が悩みなのかすら分からなくなってるのだから。
「僕は結婚を前提にお付き合いして欲しいんですけど……どうですか?」
「お断り」
「おや、即答ですか。これは手厳しい。少しは悩んでもらえるかと期待してたんですけどね」
「フンだ……あたしがどう答えるかなんて、最初っから分かってるって顔だったよ、今」
「そうですか?」と笑いながら自分の顔に手を当てる雄介さんだけれど、どうもいまいち実態が掴めない。見た感じも話した感じも優しくて悪い人ではなさそうなんだけれど、今のようにあたしの答えを予測したようなリアクションが、どうも気になってしまう。
それに加えて、今しがたお付き合いはお断りしたにもかかわらず、雄介さんの目はあたしの事を諦めているようには見えなかった。いやらしい目をしているわけじゃない。言葉では上手く言えないんだけれど……あえて言葉にするなら、既に獲物を手中に収めていながら、その獲物がもがいているのを見つめているような笑みだろうか。
―――そういえば義姉さんが、雄介さんは孕ませたがるって言ってたよね……
もしかすると、お付き合いを受けようが断ろうが、危険日のあたしを無理やり犯して孕ませてしまおうと考えているのかもしれない……
「あ、あたしを酔わせて、一体何しようと思ってるんですか!?」
なんかダメだ。お酒に強いほうじゃないけれど、悩みながら飲んだお酒がいつもとはまったく別のところに流れ込んじゃっていて、完全に悪酔いしている。感情の昂ぶりと共に頭の中に思い浮かんだ言葉がそのまま声になって溢れ出てしまい、ポ〜ッと熱を帯びた頭では口を抑えると言う一番簡単な判断すらできない。
「何度も言いますけどねェ、あたしは男、れっきとした男の子なんです! そんな女を抱いたら同性愛ですよ同性愛! そりゃあ、自分でも美人だな〜って思う事だってたまにはあるけど、手ぇ出したりしたら叫んでやるんだから。「変態ィ〜!」って。それでもいいなら孕ませでも何でもしたらいいじゃないですかァ!」
「へぇ……ボクのこと、夏美から聞いてたんですね。全然関心を持たれてないのかとショックを受けてたんですけど」
「ちがッ! あたしは! 雄介さんに関心なん…て……はれ?」
あたしはお見合いにもお見合い相手にも興味も感心もないんだと否定しようと身を乗り出した途端、グニャリと視界が歪んだ。
―――あ、やば。
頭が右に左にフラフラと傾ぐ。何とか体勢を立て直そうと傾いた方とは逆に身体を起こそうとすれば、重たい頭がカクンッとそちらに方向に移動して、バランスは次第に大きく崩れていく。
「はうゥ〜……」
もう支えていられない。最後に、前へ垂れていた頭が視界を縦方向へと回転させながら後ろへ反り返ると、あたしは着物の裾から生足を蹴りだしながら、すってんころりんと畳の上へ仰向けに倒れこんでしまった。
「おやおや、まるで僕に襲ってくれと言ってるような格好ですね」
言われるまでも無く……着物の裾は肌蹴て、よじり合わせた膝が突き出てしまっている。胸元はブラ代わりの晒しの締め付けとウエストに巻いたタオルでキッチリ寸胴を作っているから乱れてはいないけれど、胸とお腹の圧迫感と帯の重さとが邪魔をして身体を起こす事もままならず、そもそもそれ以前に、酔った頭は畳に体を預けてしまう楽さから逃げ出そうともしてくれない。上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながら雄介さんが覆いかぶさってきているのに、まるで期待しているかのように浅く唇を開いて熱く湿った吐息を漏らしてしまう。
―――期待なんてしてない。このまま妊娠させられるかもしれない正念場なのに……そのはず…なのに……
「ん……っ」
キスで唇をふさがれると、吐き出していた酔いの火照りが体の内側へ逆流してくる。最初は触れるだけの口付けが、密着した唇が口内にこもる吐息の湿り気でヌルヌルに濡れてくると、お互いの唇を滑らせあうような濃厚なキスへと変わっていく。そうして覆いかぶさってきている雄介さんの口から大量の唾液を流し込まれてくると、抵抗もままならないあたしは唇の端からこぼれるのも厭わずに喉を鳴らして飲み下し、むせ返るように呼吸を荒げながらそれでも口付けを交わし続けていた。
「ん……ンッ…んウッ……やァ、ンゥ、あン…オ……ム…ンムゥ……ぇ…あ……あムッ………」
キスは……今まで経験がないわけじゃない。アゴを無理やり捕まれて舌を捻じ込まれた事もあったし、快感に酔いしれてあたしからねだった事もある。
けれど雄介さんとのキスはそのどれとも違うように感じられた。あたしの事を愛していると言ってくれている弘二との情熱的なキスでさえ、この口付けの甘美な感触には及ばない。頭の後ろに手を回され、舌がナメクジのようにあたしの口内に絡みつき始めると、その想いは一層強くなり、導かれるがままにあたしも自ら舌を蠢かせて雄介さんの舌の動きを貪ってしまう。
「ふふッ……可愛いね、君は。反応のどれひとつ取っても、僕を飽きさせない。処女のように初々しいのに、こんなにもイヤらしい顔で僕を魅了する……」
「…ァ……はぁ……」
気が遠くなるほど長い口付けでたっぷりと唾液を飲まされた後、ようやく解放されたあたしは唇を喘がせる。まだキスだけしか済んでいないのに、着物の内側では次第に熱を帯び始めた身体がビクビクと痙攣し始め、上半身を締め付けているせいか太股の内側を中心に下半身には汗が大量に滲み出していた。
………このまま抱かれるんだ。今日、はじめて会ったばかりの人に……
諦めにも似た気持ちが胸を占めつつある最中、雄介さんの手があたしに膝に置かれる。その手の動きに抗えぬままに膝を開くと、夏美が選び、そして履かされた真っ赤な下着を目の当たりにした。
「これは準備がいいね。最初からこうなる事を予想していたのかな?」
サイドが紐の、布地なんていつも履いているショーツの半分もないような下着……着物でトイレに入る時、少しでも楽だからと説得されたけれど、結び目を右…そして左と解かれていくと、“脱がされている”と言う感覚もないままに股間を露わにされてしまう。
「綺麗な形をしているね。夏美の話とは大違いだ……」
「ッ………!」
夏美があたしの事をどういう風に話して聞かせていたかは知らないけれど、雄介さんの舌があたしの秘所に触れた瞬間、そんな悩みなど一気に吹き飛んでしまうような快感が背筋を駆け上ってきてしまう。
「ん……ぁ…んんゥ……! あ…ああ……ああァ……あっ、あ、あ―――ッ!」
左右に押し開かれた太股の間で雄介さんの顔が蠢くたびに、あたしは息も絶え絶えに腰をよじらせる。広い和室にはあたしの喘ぐ声と股間から鳴り響くクンニの音だけがやけに大きく木霊し、硬く細く尖らせた舌先が陰唇に埋没して粘膜と擦れあうと着物の裾から露出している両足が跳ね回してしまうほどにヴァギナを震わせてしまう。
―――こうなるかもしれないってずっと警戒してたのに……なんで、あたしは………!
雄介さんの頭を押し返そうとしても、あたしの股間を嘗め回す舌の動きはますます激しくなるばかり。舌先に淫蜜のあふれ出す膣口を穿られ、男だと言うプライドを守るために必死に押し殺していた女の身体の悦びが無理やり引きずり出されてしまうと、紐を解かれて脱がされたショーツをお尻の下に敷いたまま、ヴァギナを絞り上げて大量の愛液を噴き漏らしてしまう。
「ダメぇえええええええ! や、はあ…んはあああぁぁぁ――――――!!!」
「スゴいな……吸えば吸うほど愛液があふれ出してくるよ。こんなにイヤらしい酒泉は初めて味わうよ」
「んァ―――――――――――――――ッッッ!!!」
突然、雄介さんの舌が大きくうねり、さながらドリルのようにあたしの膣肉を書き分けて奥深くに達してしまう。反射的に押し返そうと収縮する膣肉を逆に擦り、舐め上げ、大量の蜜にまみれている舌をゆっくりと抜き差しする。想像していたよりもずっと精緻なテクニックにあたしの下腹部には痺れるような快感の波が次々に押し寄せ、しっかりと抱え込まれた太股の付け根からは“お酒”と比喩された愛液を雄介さんの顔目掛けて撃ち放ってしまう。
「イッ……イく……イかされちゃう………もう、許して、それ以上、ダメ…ダ…メ……………ぁ……」
巧みな舌使いで折り重なる肉ヒダをたっぷりと舐め抉られながら、何も考えられぬままに昇りつめようとしていたあたしの身体……けれどあと一舐めされればアクメを迎えるあまりにも残酷なタイミングで、おもむろに雄介さんの舌はチュポンとあたしの膣内から引き抜かれてしまう。
「………………」
やめて欲しいと懇願して、やめてもらえたクンニ……けれど唐突に快感を中断された身体はそう簡単には止まれなかった。たっぷりと嘗め回された陰唇は今なおヒクヒクと緊縮と弛緩を繰り返し、この後に続く更なる快感を期待するような蠢きを繰り返してしまっている。
………抱かれちゃうんだ……そして……義姉さんが言ってたように……
口奉仕の中断が次の行為に及ぶためのものだと察してしまうと、途端に嫌悪感がさらしに締め付けられている胸の奥から沸き起こってくる。それがもう避けられない運命だとしても男性の……それもよく知らない相手の子供を宿されようとしているのだと思うと、
「………………ッ」
―――涙が溢れ出てしまう。
悔しいのかも悲しいのかも、もしかしたら諦めの涙なのかも、今のあたしには分からない。自分の身体が男性相手でも節操なく感じてしまう事に恥じらいや絶望を感じているのかもしれないし、もしかしたら………そんなはずはないと唇を噛み締めても、完全には否定しきれない一つの答えが頭に浮かぶ。
「どんな気持ちだい? 自分が身も心も女だと思い知らされただろう?」
ふと、どこか楽しげに雄介さんがあたしの耳元で囁く。
「認めてしまえば楽になれるんじゃない? 我慢している今のキミはとても苦しそうだよ?」
「あ……あたし……は………なにも………」
すぐ傍にある雄介さんの顔を見ていられず、顔を背ける。すると顔の代わりに向けてしまったうなじへと優しく吸い付かれてしまい、ゾクッとするような甘美な震えと共に下腹部の奥でヴァギナが大きく跳ね上がってしまう。
「くぅ………!」
「本当に可愛い反応をするね、キミは……だけど、そんなに嫌われてるのかと思うと残念でもあるけど」
「……………」
あたしは……男性としては雄介さんの事はそれほど嫌いではない。嫌いにはなれていない。お見合いの最中もずっと紳士的だったし、話していても楽しいし、それに……あまり乱暴に事を運ばなかった。いっそレイプ同然に身体を奪われていたなら、妊娠させられても仕方なかったんだと諦めが付いたかもしれないのに、それなのに―――
「………少し場所を変えようか」
「え……」
堪えに窮して戸惑っていると、雄介さんはあたしの身体の下へ腕を回し、そのまま立ち上がる。そして和室を出てすぐ外、風流をあまり解さないあたしの目にも美しさを覚えてしまう庭園に面した廊下へ座り込んでしまう。
「あ、あの、ここで……ですか?」
火照った内股を冷たい夜風に撫でられると、急激に恥ずかしさが膨れ上がる。雄介さんの両腕に背中と膝の裏とを抱えられたまま、あたしは着物の裾を引っ張り寄せて股間を隠すと、涼しくなるほどに火照りを意識してしまう顔を俯かせて身体を小さく縮こまらせてしまう。
―――それに……お尻に硬いモノが当たってて……
「申し訳ありません。たくやさんとこうして触れ合っているとどうしても抑えが効かなくて」
「え……い、いえ、あたしは別に気にしては……」
お尻をしきりにモゾモゾさせていたので気付かれたのだろうか、少々罰の悪そうな笑みを向けてくる雄介さんにしどろもどろに返事していると、必死になって言葉を探していたあたしの唇が、いきなり奪われてしまう。
それは前のキスよりももっと激しい接吻だった。いきなり乱暴なまでに口の中へと舌先を捻じ込まれると、ピチャピチャと音を響かせてあたしの舌を絡め取られ、溢れこぼれる唾液さえ惜しむように口内の何もかもを吸い上げられてしまう。
「ん…んはァ、んん、あ、んムッ……雄介さ…んゥ!……ん…んふゥゥゥ………!」
情熱的過ぎる口付けに、絡み合う舌と舌。最初は拒んでいたはずのあたしも、いつしか雄介さんにしがみついて鼻息を荒く漏らし、頭の芯がしびれるような酸欠の恍惚感の中で着物に締め付けられている胸を幾度も打ち振るわせる。
そうして夜風に晒されながらのキスを終えて舌を唇から引き抜かれると……雄介さんの両腕があたしの肩を抱き、自分の胸へとあたしの頭を引き寄せる。
「あ…ぁ………」
雄介さんの胸の鼓動が聞こえてくる。
背広とシャツとネクタイと……頬と耳とを押し付けていると、あたしを受け止める引き締まった胸板の温もりを直に感じるのにその服が邪魔だと思ってしまう。
「ボクはあなたが好きですよ、たくやさん」
「雄介…さん………」
「今日初めて会ったばかりなのに、もう自分が抑えられそうにない。抱きたくて、犯したくて、子宮の繰り返し射精して今日中に種付けしてしまいたい」
―――それは……あまりロマンチックな言葉じゃないかも……
「本当は付き合ってくれると言ってもらってからにしようかと思ったんだけど、今日一日傍にいただけで自分が抑えられなくなるほど興奮している。たくやさん、キミを手に入れられるならキミの憂いも、過去も、何もかもを受け入れてしまいたいと思えるほどにね」
いつしか……雄介さんの鼓動だと思っていた心臓の音は、あたしの胸から込み上げる音と摩り替わっていた。
告白されて……だけどそれが男の人からで、だけどあたしはそれを……それを、喜んでしまっている。
男に戻り、いつかは明日香とよりを戻したいと望んでいるあたしが、受け入れてはいけないと心の中から必死になってわめきたてている。だけど同時に、この人を一瞬でも愛おしいと思ってしまった瞬間から、女としてのあたしが理性に抗うように雄介さんを求め始めてしまっていた。
………以前、弘二に「好きだ」って言われても、こんな気持ちにはならなかったのに……
頭を雄介さんに預けたまま、自分でも思っている以上に心まで女になりきってしまっていたことに、そして男の自分から遠く離れていたことに驚いてしまう。そしてその驚きを感じてしまった時から、あたしの心は雄介さんの胸へと大きく傾ぎ始めてしまっていた。
ただ―――
「………あの、一つ……ううん、二つ質問していいですか?」
「なんです?」
「えっと……どうしてあたしなんですか? 雄介さんみたいな素敵な……あ、いえ、他意はないんですけど、雄介さんなら元々男のあたしじゃなくても普通の女性はいくらでも……」
「そんな事はないよ。ボクの性癖は聞いてるだろう? それに加えてうちの家系は精力旺盛なものだから、普通の女の子だと壊れやすいんだよ、心も身体も」
………えと……つまりそれは、あたしなら頑丈って事なんでしょうか?
「それで普通のお付き合いは出来ずにいたんだけど、夏美からキミを紹介されてね。好きなように犯していいから上手い酒を飲ませろって」
「え……あ、あたし、お酒で売られたんですか!?」
「ははは、そうかもしれないけど、あれはあれで夏美なりの心遣いだったんじゃないかな? キミの過去を気にせずに幸せにして上げられる男なんてそうそういないし。でも、写真を見て一目惚れだったのは本当だよ」
それでも……今ごろ別室で雄介さんのお父さんとお楽しみの真っ最中であろう夏美があたしの幸せを考えた? どうにも信じられない話なんだけど……
「で、もう一つ聞きたいことって何? ボクの年収?」
「それは……」
こちらはあたしの好奇心から聞きたいこと。それだけに、本当に聞いてもいいことなのかと躊躇いながら重たい口を開く。
「えと……どうして女性を孕ませ……て言うか、妊娠させたがるんですか? 普通、避妊は―――」
「その方が気持ちいいから」
「………へ?」
意外にもあっさり過ぎるほどあっさり答えが返ってきて、少々面食らってしまう。
「家が金持ちだから相手を妊娠させても金の心配をする必要が無いってのもあるけど、避妊を気にしながらSEXするのって、遠慮してるのと同じようなものだろう? だから何も考えずにSEXに没頭してたら、たまたまそんな風になっただけ。でも―――」
「んっ………!」
話の途中から、雄介さんの手があたしの太股の隙間へと滑り込んできた。雄介さんの太股の上でビクッとお尻を震わせると、気をよくした指は形よく盛り上がった恥丘を人差し指と薬指とを使ってパックリと割り開き、中指で先ほど開く目寸前にまで昇りつめた膣口をグリグリと圧迫する。
「あ…あ……ん。んゥ………!」
「相手を妊娠させるのはね、ある種の快感なんだよ。その女性をボクだけのものにできる。ボクだけのものと言う確かな証を刻み付けるために孕ませるんだよ。形のない愛じゃなくて、形のある愛じゃないとボクは気がすまないんだよ」
言われて、敏感な場所を嬲りたてられてヴァギナを締め上げながら、あたしの意識は少し別の事を考えていた。
もし―――明日香をあたしが妊娠させていたらどうなっただろうか?
そうしたら留学先で別の男に寝取られる事はなかっただろうか? 子供が出来る事を恐れないぐらいに明日香を愛していれば……例えあたしが女になっていても、あたしたちの間に“形のある愛”は残っただろうか?
雄介さんの言葉の全てが正しいとは思っていない。相手の人生や生活の何もかもを無視して一方的に妊娠させるなんて事、あたしにはとても出来そうにないし………だからと言って、本当に愛し合っているのなら、妊娠と言う一線を踏み越える事も………
そして………今のあたしが最も欲しがっているモノが、ほんの少しだけ垣間見えた気がした。
「くッ、あッ、あ…あォ……い、はッ、あ、はぁああァぁぁッ!!!」
膣口を執拗に揉みしだかれて、あたしの中で何かが“壊れた”。
このまま昇りつめてしまいたいけれど、それだけじゃ今はもう満たされない。
―――欲しい。
唾液を吸い上げられた唇を、あたしは雄介さんの首に腕を回して押し付ける。
「ゆ、雄介さん、あたし…あたし………!」
―――満たされたい。身も心も。雄介さんの言う“形のある愛”で。
弾力のある陰唇の中央に挿入された指が、膣天井をなぞり、肉ヒダをかき回す。そんなイヤらしい動きを繰り返しあたしを追い詰める雄介さんの手を太股で挟みこむと、快感と感情と愛液をまとめて噴き上げながら、これからずっと“愛”と言う絆で結ばれようとしている人と貪るように舌を絡め合わせ続けた……
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