明日香編 _後編―ヨアケ―(IF)
明日香 ――ヨアケ――
――脳裏に浮かんだ優しい微笑みに、
「何――やってんだろう……私――」
明日香はポツリと呟く。
――拓也は風邪で寝込んでいるのに。
身体は発情したままだ。
あと、ほんの少し――刺激があれば絶頂していただろう。
なのに――
ただ、快楽を貪っていた指が止まる。
気持ちいい――と感じていた指にまとわりつく、ぬめぬめとした感覚をたまらなく不快に感じて。
――ふう。
天幕状に被っていたタオルケットから顔を出し、溜息を一つ。
――ホント……なにをやってるんだろう?
「シャワーでも浴びよう――」
ゆっくりと、身体を起こしベッドから降りる。
――シャワーを浴びて……頭と身体をすっきりさせたら、拓也の部屋に帰ろう。
起きた時に、傍にいれるように――
「わぁあああ!?」
「きゃ!」
ドアを開けて――悲鳴が二つ重なる。
一つは明日香。
もう一つは――
「なっ! なんですか? あなた――」
目の前に男が一人。
遊び人風な――日に焼けた風貌に引きしまった身体。
しかも、バスタオルを腰に巻いたままという格好で。
(あっ……この人――)
見覚えがある――当然だ。
目の前の男は先ほど夏美と――
「え……っと……君……誰?」
男の方も明日香が夏美の部屋から出てきたのは予想外なのだろう――そこそこ整った顔をぱちくりとさせている。
(あまり好きなタイプじゃない――)
「夏美さんと……出かけたんじゃないんですか?」
警戒心を含んだ声が出てしまう。
「出かけたぁ! あの女……人がシャワーにいってる隙に……」
がっくりと肩を落とす男。
どうやらこの人も夏美の気まぐれの犠牲者らしい――が、
「早く服を着てくれません? それに――」
帰ってください――そうつなげようとした時、
男が持っている怪しげな機器に気付いて――
「――なんですか? それ……」
「あっ!? これ? 夏美をイかせるためのオモチャ♪」
怪しげなサイトで見た事のある――あだるとぐっず?と呼ばれるものだろう。
「……せっかく、とっておきまで用意したのに……高かったのになぁ……これ……」
――薬の小瓶?
残念そうに男の言葉が止まる――視線の先は、
(やだ……見られてる――)
汗の浮かぶ自分の身体が男の目に晒されている。
気付かれてはいないだろうが、さっきまで自分で慰めていた身体――を。
(このぉ――)
不快感が全身を這いまわる――が、強くでれない。
自分も、夏美とこの男の行為を――覗くつもりは無かったとはいえ――何らと変らぬ目で見ていたのだ――が、
「……きみ……可愛いよね? どう? これ使ってみない? ぜったい気持ちいいから………」
ぷちっ……我慢も限界――
「さっさとでてけぇえええええ!!!!!」
―*―
「はぁ……はぁ……」
裸同然の男を蹴り出して、その背中に服を投げつけ――
――まったく……あの人達のせいで。
夏美と、あの男のおかげで今日は、何かもうめちゃくちゃだ。
さっきまでとは別の火照りが頭を支配している。
温度を低めにして、シャワーを頭から浴びる。
――違う、めちゃくちゃなのは、
――私だ。
涙が零れた――
自己嫌悪。
身体を流れるお湯の感触と、バスルームの床を打つ水音に心を預けて――
天罰――かなぁ? 拓也が病気なのに浮かれていたから――
拓也が好きなのに素直になれないから――
水に濡れた髪をかきあげると、するするとした感触が指の間を通り抜ける。
閉じた瞳から溢れる涙は、お湯と混ざって境界を失う。
水音と――わずかな嗚咽が室内に響き――
――ただ、泣く。
形容しようもない胸の感情にまかせて――
どのくらいそうしていただろう?
――ふう。
ようやく――ざわざわとした感覚も落ちつく。
治ったら……う〜んと、優しくしてあげよう、せめてものお詫びに――
そして甘えよう、素直に――
赤くなった鼻先を擦り、明日香はシャワーを止めた――
―*―
――う〜ん……
眩しさを感じて――相原拓也は目を覚ます。
身体が重い――が、昨日まで感じていた気だるさは無い。
(そ……っか。オレ……風邪引いてたんだっけ……?)
昨日までの記憶がおぼろげに浮かんでくる。
――せっかく、昨日は明日香と二人っきりに慣れるはずだったのに。
間抜けにも体調を崩した。
しばらく帰ってこなかった義姉が姿を見せた。
で、がっがりして結局――自分はそのまま寝込んだのだ。
(はぁ〜情けない――)
男であっても、女であっても――結局極まらない。
女性化――という世にもまれな現象のせいで、明日香には迷惑をかけた。
何かと世話を焼いてくれる幼馴染
自分の事を一番近くて見てきた兄妹のような関係。
ちょっと素直じゃないけれど、必ず自分の事を考えてくれてる――
――その関係に甘えていた。
女性化していたとき――どこか、今までとは違う生活を――楽しんでいた。
男にもどれなくてもしょうがない――いや、もどりたくない――とまで考えた。
――でも、
どんな魅力的な女のコ――それこそ『拓也』には不釣り合いの――と一緒にいても、
どんなに惹かれた男性――心まで女になっていた自分――に優しくされても、気が狂うのでないか? と男では味わえなかった快楽の極みに晒されても―――
明日香を忘れることはなかった――
――だから、
大事なことに気付いて――
一番、そばにいたい、
一番、そばにいてほしい、
男にもどれた時、真っ先に――ただ素直に――その気持ちを伝えた。
今でも憶えている。
昔、本当に幼かった頃に見た明日香の泣き顔――
それ以来、明日香は泣かなかったのに――
明日香は泣きながら――でも、笑って――
――幼馴染から、恋人へ変る関係。
(はぁ〜……二人きりなんて久しぶりなのに……)
ため息が出た――その時、
ようやく、自分の胸が重いことに気付いて――また女性化?(胸が邪魔で足元が見えない程の巨乳は仰向けになるとかなり重い)と焦ったが――
「――明日香?」
布団の上から――自分の胸に顔を埋めて――すやすやと規則正しい寝息が聞こえる。
ベッドに寄りかかるよう――まるで自分を見守ったまま――明日香が寝ていた。
一晩中、そばにいてくれた――?
状況からみても疑うまでもない。
意地っ張りで、頑固、おまけに口と同時に手も出る――だけど、
幼い頃から、ずっとこうしてそばにいてくれたのは――
「明日香……」
まだ力の入らない腕を伸ばして、その髪に触れる。
――ありがとう
するすると指の間に髪を滑らせ、拓也は呟く。
「んんっ……」
微かに唇が動き、吐息が零れた。
――起こしてしまった?
もう少し、明日香の寝顔を見ていたかったが――
――いつか見た微笑みを浮かべて、
「おはよう――」
重なる二人の言葉。
―*―
――んんっ?
気持ちいい――暖かな感触が髪を撫でている。
心地よい感覚に身をまかせながら、意識がまどろみから覚めていく。
(寝ちゃった……)
何時頃かは憶えていないが、熱も下がり、穏やかな寝息を聞いているうちに拓也の寝顔を見ながら、いつの間にか明日香も寝むっていた。
――そうだ! 拓也は?
目を開けると、微笑む拓也の顔が見えて――髪を撫でている感触が、拓也のものだと気付く。
――何か、照れくさくて、
――でも、元気そうな拓也に、嬉しさが込み上げて
最初に出た言葉が、拓也と――重なる。
「おはよう」
髪の間を通り抜ける指先に、自分の指を重ねて――
ぎゅっと、握る。
「明日香――?」
いつの間にか、涙が溢れていた。
心配そうに見詰める拓也に、「何でもないよ、心配しないで」と言いながらも止まらない。
いろんな『想い』が詰まった感情の爆発。
「よかったぁ――」
拓也が元気になって――
拓也が男のコにもどってくれて――
拓也が自分を選んでくれて――
拓也のそばにいる事ができて――
拓也と幼馴染として、出会う事ができて――
――運命なんて、信じない――が、
結局、自分と他の女のコ達との違いは『時間』でしかない。
『偶然』、自分が一番早く拓也と出会えただけ――
――ただ、それだけ、だからこそ――
「よかっ……た…よぉ」
涙を止められない。
ただの『時間』の積み重ね。
ただ、その積み重ねた時間分だけ、明日香は拓也を、拓也は明日香を見てきた――
ずっと――
――見てた。
――共に。
――それが、片桐明日香の日常。
ちょっと頼りなく、だいぶ情けない幼馴染――拓也――と、同じ時間をずっと――
共有してきた――
明日香は、それは、誰にも負けないし、ゆずれない――。
「明日香――?」
拓也が自分の名前を読んでくれる事がうれしくて――
――溢れる涙を止められない。
―*―
「びっくりしたよぉ……明日香。突然泣き出すし」
「うるさいの!!」
明日香は――昨日から泣いてばかりの――赤くなった鼻先と目頭を隠し、拓也の入れてくれたお茶をすする。
泣きじゃくる明日香に、拓也は泣きやむまで抱きしめてくれた。
(……ついでに、朝食まで拓也が作ってくれたし……)
――しかも、おいしい。
何故? 明日香の知る限り拓也は料理なんて出来なかった。
女になっている時の拓也の行動は、意図的に明日香には隠されていた事もあるが――
(料理が上手くなる状況ってなんなのよ――?)
――せっかく、自分が作ってあげるつもりだったのに――
結局――
自分が慰められてるし――
泣き顔を見ない様、後ろから抱き締めてくれた拓也。
伝わる体温に――たくましさを感じて安心できた。
「…………何?」
ぐいっ!とそでをつかまれ、拓也が不思議そうにこちらを見る。
どうせ、不様な姿を見せたし――
素直になろう――と決めたのだ。
拓也の方に顔を向けて――瞼を閉じる。
ばくんばくんと、心臓が早打ち顔に血液が集中してくる。
――素直になる……って決めたけど……これが私の精一杯。
肩に暖かな感触――拓也の手だ。
目を閉じて――感覚が鋭敏になったのか――やけに大きく、熱い。
それを合図に、唇をわずかに上に向ける――
ゆっくり――見えなくてもわかる――拓也の顔が近づいてくる
柔らかな感覚が触れる――
「明日香――」
「拓也……シャワー……いこう――?」
―*―
ゆっくりと、目の前の扉を開ける――
先にシャワーを済ませた拓也がそこで待っている。
二人とも身体にバスタオルを巻いただけの格好。
まるで初めての時の様に――独特の緊張を感じて――身体が強張るけれども――
――心は落ちついていた。
無言のまま、ベッドに――拓也の隣に腰かけた。
すぐ横に拓也の顔があり、まっすぐにこちらを見つめてくる。
どちらともなく、二人の顔が近づき――
すぐに離れて、視線を向け合い、再び唇をつける。
「んんっ……」
重なる唇の間から漏れる吐息。
今度はすぐ離さず、わずかに唇を開くと、拓也の舌は口の中に入ってくるので、明日香もそれに応えて舌を絡める。
耳元で聞こえる舌が絡み合う音。
自分のモノではない、拓也の舌はやけに熱く感じる。
舌で舌を舐め合う――ただそれだけでぼんやりとした感覚が――何故、この感覚を甘いと感じるのだろう?――全身に広がっていく。
唇を、舌を離さぬまま、拓也に逆らわずにベッドへ身体を沈めた。
身体を横たえた時、はずみで巻いていたバスタオルがほどけて、裸身を晒す。
恥ずかしい――
閉じた瞳を、更に閉じるよう目頭に力がこもる。
今はまだ拓也に見られていない――唇はまだ離れない――が、すぐに見られてしまう。
恥ずかしい――のは、拓也に見られる事ではない。
拓也と、周りの女のコ達と身体を比較されるのが――だ。
決して明日香のスタイルは悪いわけではない。
いや、充分すぎるほどに女性としての魅力を備えている――が、女になった『たくや』を含め、周りのスタイルが良すぎるだけだ。
――時間の問題……だとしても、明日香は積極的に拓也と唇を重ね続ける。
そうすれば少しでも長く裸を見られることがない――その想いが、いつも以上に大胆にさせる。
互いの唾液を嚥下し、くちづけしたまま熱い吐息を交換する。
舌を舐め、唇に這わし、口内へと招いて吸いつく――
今までしたことのない――熱い――キス。
呼吸がしづらい――頭がぼーっとなる――が止まらない。
――熱い。
身体が? ううん――身体もあついが――熱いのは――
お腹に当たっている熱く、柔らかくて硬い、拓也の――
「んん〜んっ!! はぁ……ふぅんっ!!」
明日香の身体が跳ねる。
あれほど、まるで同一部分のように繋がっていた唇が離れ――
見上げると――目の前に――拓也の顔。
つまり――
上気し、汗の浮かぶ裸身をあますことなく拓也に晒す。
大きすぎず、形のいい胸の先端は、瑞々しい薄紅色の頂点を充血させて硬く尖らし――
呼吸に合わせて上下するお腹を汗が伝い、その下へと続くなだらかなラインまで――閉じ合わせるはずの太ももに力が入らず――全てを拓也へと――
――!!!!
赤く染まった顔を拓也から逸らす――が、身体を隠そうとはしない――できない。
素直になる――そう決めたから。
「明日香――」
上から聞こえてくる優しい声色。
おそるおそる見上げると、微笑む拓也。
「あっ――」
軽く――一度目のように――短い、触れるだけのくちづけ。
(ああ……あったかい――)
胸に広がる余韻。
あれほど恥ずかしいと感じていた筈なのに――
離れていく拓也の瞳を追って――見つめあったまま、明日香は拓也に向けて大きく両手を広げる。
「拓也――」
こくん――と、拓也がうなづく。
「んっ……はぁ……んんっ……はぁんっ!」
両方の胸に拓也の手が置かれ、感触を確かめるように揉まれる。
こうやって動かされると、自分でも胸の形や重さを感じられて、身体がどんどんと――拓也を受け入れるための――準備を高めていく。
(んっ……胸があったかい――気持ちいい)
昨日、自分で慰めた時よりも全然――
拓也の指がまあるい乳房に沈み、ふるふると震わせる。
「んんぅ……んっ…あ……んぅ……はあ……」
指の腹がくすぐるように動いて、その度に明日香の口から短い声が漏れた。
「柔らかい……明日香」
拓也の声も熱を帯びている。
「はぁんっ……ああっ…あ……あたりまえでしょ? おっぱいなんだから……あふっ…」
「でも……ここが硬いのは?」
「ひゃうぅ!!」
指の動きに合わせて形をかえる胸――その先っぽである乳首を摘ままれて、一オクターブうわずったがった声になる。
やわやわとした――気持ちいいのに漠然とした――胸の感覚から、予想していなかった――一際敏感な先端への――刺激が沸き上がり――
「ねぇ? ここが硬いのも当たり前だっけ?」
ぎゅ!と、摘ままれる。
「はぁ!!」
胸先を圧迫される力が抜けて――「ふぅ……」と、安堵の息を漏ら――
「ひゃぁあ!!」
また、摘ままれた。
くにくにと何度も繰り返される動き――
「あっ! んんっ! んっ! ああっ!! た……く…」
刺激に身体が踊る。
胸への愛撫はそのまま、拓也の舌が乳房を舐める。
「教えてよ――明日香?」
「はぁっ!! いやぁ……拓也のいじわる………ひぃんんっ!!」
――熱い。
敏感な乳首の上を、舌が通過する――その感触と熱さに――
「きっ……気持ち……いいっ! から! 硬く! なってるぅ……のぉ!! 気持ちいいぃからぁあ!!」
舌先でつつかれ、弾くように転がされる。
そのすぐ下でばくんばくんっと、跳ね上がる心臓。
そして、触れられてもいないのに――相変わらず熱い感触はお腹に感じているけど――どんどんと熱をもっていく下腹部。
「ああっ!! だめぇ! 食べちゃ……あああぁああ!!!」
こりこりの感触にキスを受け――赤ちゃんがミルクを求めるよう――吸われる。
女の――母の――本能なのか? 「駄目」と言いながら優しく拓也の頭を抱きしめた。
疑似的な授乳の感触に胸が熱くなるが――
「んんっ……」
(赤ちゃんは……ああっ!! こんなえっちな吸い方はしないよぉ……)
拓也の唇に挟まれて、固定された乳頭を吸引される。
当然出る筈もないミルクを求め――交互に――何度も吸われた。
乳房を行ったり来たりする口内は『熱く』、唾液に濡れた胸先は、その感触が消えると外気に触れて『冷たく』なる。
「あああっ!! あんっ! あっ! ああ!!」
冷たさに感覚が鋭敏になったところに戻ってくる熱と――快感を引き出す舌の動き。
片方を舌にいたずらされている間は、もう一方は指で弄られている。
両方から来る――それぞれ別の感触だが――断続的な刺激。
――気持ちいい。
自分の胸に顔を埋める拓也を愛おしげに抱きしめ、明日香は身をまかせる。
――ちゅぽんっ、と少々間の抜けた音と共に、拓也の唇が胸から離れた。
(やめちゃうの?)
明日香が物足りなそうな表情を、腕の間の拓也に向ける――
にっこり微笑み、拓也の顔が近づいてくる。
「今日の明日香、可愛い――」
(いつもは可愛くないの――?)と、つい、つっかかってしまう――が、
今はただ――可愛いという言葉が――素直に嬉しい。
今日、何度目かわからないキス――
明日香は拓也に腕を絡めたまま、素直に受け止める。
「ちゅ……んっ……はぁ…ああっ…ちゅ」
繰り返し、啄むようなキスを受け、緊張の残る身体を優しく、ほぐすような胸への愛撫に唇が自由になると、に熱い吐息を漏らす。
「ひゃうっ……」
胸に置かれていた指が少しずつ――尖りきった先端を弾き、なだらかな膨らみをなぞり降りて――お腹へと下がっていく。
気付いた時には――くすぐるようにお臍へと指が触れてこしょこしょと動き――くぼみを超えて――すでに自分にもわかるほどにぐしょぐしょに濡らしてしまった――快楽に浸りきり、力の入らぬ太ももの間に差し込まれる。
――ちょっと……動きがスムーズすぎない? 私の知ってる拓也はもうちょっと……
「ひゃあはっ!!」
ぽてっと膨らんだ陰唇を、拓也の指が押すように確かめてくる。
唇と胸への刺激を『じんわりと浸透する』と表現するならば、こちらへの刺激は『鮮烈が走る』だ。
『気持ちいい』ではなく、『快感』が背筋を駆け上がり、脳へと到達。身体を反らし、無意識に快楽を受け入れようとするが、許容できずに身体をくねらせる。
キスを続けることはできず、拓也に見つめられているのに、嬌声を押さえられない。
「あっ!! ああっ! っはぁ!! あんぃいい! はぁ! あっ! ああっ!!」
ゆっくりと、探るように入ってくる指の動きに腰を震わせながら、喉奥から空気が喘ぎとなって押し出される。
自分より熱い拓也の体温、膣口に差し込まれた指が動くたびに、脳裏にくちゅくちゅとした水音が聞こえる。
「はぁ! あっ! ああっ!! んっ! はんっ! あぁはっ! はあぁ!!!」
「すごい……濡れてる――」
「いやぁあ!!」
言わないで――と、いつもなら、そのデリカシーの無さに食ってかかるが――明日香は自分の顔を覆って、いやいやと頭を振るだけ。
今日の拓也はいつもより――男らしく――頼もしく感じ、明日香は――女として――弱々しく感じてしまう。
「あふっ……」
片胸に乗せられた手は、まわすように乳房を弄り、秘所に差し込まれた指は徐々に奥へと触れる。
「うううっ〜〜、はぁっ……ああっ! いぎっ〜いっ!!」
2本の指で、膣内の前後を擦られながら、ざらざらとした――おそらく親指の――感触が、まだ包皮に守られた敏感な突起をなぞる。
「あああああああ!? ひゃううんんっ!?」
喉を震わせ、背中をシーツから浮かぶほど仰け反らせる。
びりびりとした感じが下腹からお臍を昇り、いっきに脳髄まで到達する。
歯を食いしばり、快感に耐えるが、びくびくと――まるで電流を流されてるよう――上下する腰を止められない。
「たく……や!! つよっ…いよぉ!! ゆるっ!! ゆるしてぇええ!!」
涙に濡れる手の平で顔を覆ったまま、懇願するが――、
「だ〜め♪ 今日は思いっきり明日香を可愛がりたい」
――めくられた!?
「ああ! ああっ!? あああああああああああっ!!!」
一瞬、クリトリスに空気の冷たさを感じて――、
触れてくる『熱さ』。
喉から絶叫が迸る。
(ちょく…せっ…つ? さ……わられてるぅううう〜!?)
跳ね上がる身体を支え、両手でシーツを握りしめる。
開けた視界に輪郭のぼやけた拓也の顔。
ぱくぱくと、絶叫を吐き出した唇が空気を求めて動く。
許容を超えた感覚が明日香の脳を真っ白に染め上げていく――それでも、
「あっ……ああっ…あっ……あああっ…ああ…」
(弾かないでぇ……いひぃっ!!! つまんじゃ! はっ! はひぃ!!)
ざらざらした指先の感触に、敏感すぎる突起を嬲られて、
――気持ちいい――いや、良すぎる。
口から漏れる嗚咽と、頭の中で響く濡れた音。
「たくやぁ!? 駄目ぇ! いくっ!! いくぅ! いっちぁうよぉおお!!」
声を必死に振り絞って絶頂を告げる。
「いいよ? イっても……今日は何回でも……気持ちよくしてあげるから」
――違う。
必死に、震える身体を動かし拓也を抱きしめる。
「いっしょ……いっしょがいいのぉ……いっしょにいきたいぃいい!!!」
――今、自分はどんな貌をしているだろう?
溶けて浅ましい顔をしていないだろうか? でも――、
素直になる――のではなく、そんな事を気にする余裕もない。だけど――
「いっしょに……いってぇええ!!」
素の心で――自然におねだりがでる。
「明日香――」
ごくり、と拓也の喉が動く。
「拓也ぁ――」
のしかかってくる熱い身体に、指を這わせる。
指先に感じるがっしりとした、たくましい――男の身体――の感触。
「いくよ――」
「うん――」
秘唇に感じる、指よりも熱く、大きな感触に一瞬、緊張したが拓也の優しい声に安堵する。
――あつい。
背中に腕をまわし、拓也の身体に――これから来る衝撃に備えて――掴まる。
(あふぅう……広げて……るう)
柔らかくて硬い――いつ感じても不思議な――感触が、身体の奥底を広げ少しずつ奥へと進んでくる。
じゅぶぅう、と押し出された粘液がたてる音を耳に聞きながら――自分の体内が、拓也の肉棒に隙間なく絡み付いて――その熱さと、形をしっかりと感じる。
(なかぁ……はぅ……まんなかぁ……までぇ……)
収縮し、締め上げる内を割り開き、膣内の中ほどまで満たされて――気持ちよさと、安心感に―― 気を抜けばイきそうになるが必死に堪える。
「――いくよ?」
言葉と同時に――
「ひあっはぁあああ!!」
一気に深いところまで突き上げられて、背筋を震わせる。
――突き抜けた、衝撃が。
足先から、頭まで一気に。
「あっ…あ…ああっ……あっ……あぁ……」
びくん、と小さく跳ねる身体を拓也が抱きしめて押さえてくれる。
「……いじ…わるぅう……」
震える腰を止められぬまま、拓也に身体をまかせて――上目遣いに、一応非難を込めて――拓也を睨むのに、
「その顔……可愛い♪」
――嬉しそうにされてしまった。
「落ちついた?」
拓也の腕の中で――落ちつくまで抱きしてめてくれて――こくん、とうなずく。
確かに、あと少しでイってしまうところだったが、身体の内に感じる熱い塊のせいで落ちつくことはない。
拓也は明日香を気遣って動かないでくれていたが、下腹に感じる圧倒的な存在感は大きく、硬いまま、時折びくん、と震えてその存在を忘れさせない。
(拓也も興奮したまま……なんだ)
無意識に膣内が収縮し、拓也のモノを締め付けてしまうと――
「ああっ!」
切なげな声をあげたのは――拓也。
「んんっ!」
その震えは繋がってる明日香にも伝わり、くぐもった声を漏らす。
「はぁ……あ……」
ベッドを中心に――二人分の――荒い息が室内に響く。
見つめ合う二人の視線。
「明日香――」
拓也の問いかけに、こくん、と頷くと――抱きしめてくれたまま――キス。
それを合図に拓也の腰が動き出す。
「んんっ…んっ…はぁ……はっ…ぁあ」
馴染ますよう、ゆっくりと明日香の膣内を進み、戻る。
充分に濡れているにも関わらず、ぞりぞりと膣内を削りながら入ってくる熱い感触。
――大きい……ちょっときつい。
来た道を戻っていく大きな感触を追い、濡れて蠢く膣肉がせっかく開いた膣道を埋めていく。
「はぁあ! っ! ぅううう!! はぁ」
再びこじ開けられる膣内。
痛いわけではないが、異物感に慣れずに声がでる。
それでも――
久しぶりの――けれども馴染んだ、明日香の知る唯一の――感触に――
拓也の腰が動く度にひっかかる感覚は少なくなり、スムーズになっていく。
「はっ! んんっ! はぁ! ああっ! んんっ!」
思い出すかのように、膣肉を絡み付かせ、蠢かせる。
――熱さを。
――形を。
――力強さを。
そして――それが教えてくれた『快楽』を。
違和感はなくなり、快感が生まれる。
「ひゃうんっ!!! はぁ! はっ! んんっ! はあっ! はうぅうんんっ!!」
何回に一回か、膣奥へと強い衝撃が走るたびに、振動がお腹を駆け巡る。
先ほど絶頂寸前まで追い込まれた身体が再びわななきはじめ、背中にまわした手でぎゅっと拓也を抱きしめる。
「すご……ぅい!! すごっ! 拓也ぁ! たくやぁああ!!!」
「うんっ! すごいよ!! 明日香……暖かくて、締めつけてきて……はぁっ!」
ずんっ! と衝撃が身体の奥底から喉まで突き上げる。
白い喉をそらし、次の快感に備えるが今度は――深く入ってはいるが――奥へは届かない。
――もどかしい、そう感じた瞬間。
白く細い足を拓也の腰に絡めて、拓也のモノを奥へと導く。
「うわぁ!!」
顔から火がでそうな自分の行動に、拓也も驚きの声を出す。
(恥ずかしい……)
快感を求めて無意識にした行動、でも――
――気持ちよくなりたい。
背中に回した腕を拓也の両頬に当て、真っ直ぐに見詰める。
「拓也ぁ……」
――気持ちよく……して?
熱い吐息と共に、愛おしい名を呼ぶ。
「あひゃぁあんんっっ!!」
どすん、と衝撃が何度もお腹を穿つ。
「明日香ぁ!!」
荒々しく――獣のように――身近にあった拓也の身体が離れ、見降ろされる明日香。
両の足を押さえられて大きく広げれられる。
「ああっ!」
結合部――いやらしく、拓也のモノを受け入れた秘所――が拓也と、明日香の目の晒される。
恥ずかしくて足を閉じようとしたが、拓也がそれを許さない。
(やっぱ……男のコだ)
力が――両足ともぴくりとも動かせない――まるで違う。
「あっはぁああ!!」
広げられ、大きく空いた空間を使い、拓也の腰が更に力強く秘奥へと衝撃が届く。
嵐に晒された小舟のよう、その荒波に身を任せて明日香の身体は打ち震える。
「明日香! 明日香ぁ!! 明日香!」
名前を呼ばれると胸の奥が熱くなる。
性感の集合体である膣内部をえぐられ――直接的な快感――に咽び泣き、胸からじんわりとした――精神の充足――を感じながら――
「あぁああああああああああああああ!!」
喉を震わせ、甘美な声を迸らせる。
さっきとはまるで違う――身体を貪られて――荒々しい動きは、明日香を確実に追い詰めていく。
(早いぃい!!! 強い!!! すごぃいい!!! 大きくて…たくましいのがぁあ!!)
快楽に塗りつぶされる、突き入れられる衝撃と共に鮮烈な感覚が脳髄まで届き、ただ悶える。
「はっぁああああ!!!」
深い部分を擦られ、膣口から――抜けそうになるほどに引き戻されて――、一気にえぐられる。
我慢しなければ――と、必死に歯を食いしばる。
強すぎる快感は、拷問の様に明日香を攻め立てるが――
「待って!! もう少し!!! もう少しでオレも――」
必死な拓也の声と息づかいを感じて、わずかに残った理性にしがみつく。
「ひゃああぅ!! 大きくなってる! さき! 先っぽがふくら……あひぃい!!」
膣内のもっとも快感を引き出してくれる先端が大きく膨らみ、張り出したカリ首にむき出しの性感を更に激しく引っ掻かれる。
最早、拓也が動くだけで――全身が
気持ちいい、けど――
「いっしょ!! いっしょがぁ! いいいのぉおおお!!」
八の字になった眉に切なさを表しながら、必死に絶頂に耐える。
(もうすぐ……拓也もイく――)
響き渡る肉のぶつかる音と、撹拌されしぶく水音。
2人の荒々しい息づかいはシンクロし、部屋内が満たされる。
「ああっ! あっ! ああっ! あっ! あっ! あぅ! あはぁ!!!」
奥へと打ちつけられる間隔がどんどん短くなっている。
――あつい。
身体の奥に火がつきそうな――心はとっくに燃えている――熱を感じ、その『熱さ』はどんどん明日香を、拓也を絶頂へと導いていく。
(はや…く! もう! イく! イく! イくぅうううううう!!!)
待ち望む、身体の深い部分まで届く『熱さ』はまだこない。
それが来るまでは――イけない。
そう自分に言い聞かせるが、すでにいつイってもおかしくない。
「あっ! はぁ! あっ! はっ! はぁ! ああっ! あっ! あぅううう!! あっ!」
重なる二人の吐息。
「イくよ!! 明日香ぁ! イくぅ……」
――イくんだ! 私も……あっ……避妊して……ない。
絶頂を告げる拓也の声に安堵し、焦り、避妊をしていない自分達を思い出す。
駄目!! 赤ちゃんは――
早い――けど、欲しい。
――欲しい。
「イってぇ!! お願いぃい!! このままっ!! このままぁああああ!!!」
――出た言葉は懇願。
心はすでに拓也へ――後は身体だけ。
ならば――
ぎゅううっ、と腰に絡めた足で拓也を抱き寄せ、一番深い場所へと導く。
頭の中に――とん――と、自分の身体の中で一番深い場所――子宮――へと届いた音が聞こえた。
新しい命を宿す――
女性のみに許された神秘の御業――
――赤ちゃんの……お部屋。
「ああああああぁあぁあああああああああああああああああ!!!」
収束し、胎内のモノをぎゅうう、と締め付けると――
熱さを――
硬さを――
大きさを――
その形――浮かび上がった血管まで――を感じて――
脈動する動き――拓也の根元からぐんぐんとせり上がってくる――を感じて――
――堕ちる。
心の中から波が引いていくような――『動』から『静』へ――穏やかな充足に包まれて――
身体は、震え、跳ねて、声にならない絶叫を上げて――『動』がさらに激しく――――
身体と心が切り離されたような、相反する状態をただ、受け入れて――
下腹――子宮の中――に熱いモノが流れ込む、何度も――満たされていく。
(出てる……熱い……)
――イっちゃった。
(まだ……奥で……震えてる――)
震える度に奥内へ熱い感触が広がる。
止まらない拓也の射精を受けながら、明日香は――大好きな――拓也の顔を見つめる。
切なそうな――おそらく、自分も同じ表情を――拓也を可愛いと感じて――
「んっ……」
「んんっ…」
今日、何度も、繰り返した――
いろいろな気持ちを込めた――
ありがとうの――
愛してるの――
キスを――
―*―
(あ……寝ちゃってたんだ……)
2人、抱き合うような格好で共にベッドの上。
肩にまわされた手から暖かさを感じて、きゅっと身体をまるめる。
目の前に安らかな寝息をたてる拓也。
こうして――2人ベッドの中で――朝を迎えるのはいつ以来だろう?
――正しくはもう昼なんだけどね。
嬉しさが胸に込み上げ、明日香は甘えるよう拓也に身を寄せる。
いつか、こうして起きる事が当たり前になる――よね?
無意識に下腹をなぞる。
今日は危ない日だっただろうか? 頭の中で計算しようとしたが――やめた。
――今はただ、この幸せな時間に浸ろう。
拓也の温もりを感じながら、明日香は瞼を閉じる――
夢心地でまどろむ中――ウェディング・ベルが聞こえたような気がして――
明日香は幸せそうに微笑む――
そう――幸せ。
昔から良く知る男のコと共に歩むコト――
それが――片桐明日香の望む――幸せ。
「拓也ちゃ〜ん♪ お見舞いに来ましたネ〜♪」
「ちょっと! 声が大きいわよ? 病人のお見舞いに来たんだから……」
――ため息
幸せな時間は短いものだなぁ、微笑みが苦笑に変わる――でも、笑っていられる。
これから先も苦労しそうだけれども――
きっと、今日みたいに――笑える。
「ほら、お客さんよ? 拓也――」
名前を呼ぶ。
そう、何度も――間違いなく、自分の名前よりも何度も口にした――名前を。
この朝は、きっとこれから何回も迎える朝と同じだろう――
それでも2人で重ねた時間だけ――共に朝を迎えた回数だけ――強くなれる。
そう信じて――明日香は、微笑んだ。
――でも『彼氏』がモテすぎるのは考えモノよ? 拓也――
<完>