たくやちゃんと赤ちゃんパニック −4
――う……なんか胸がスゴく張り詰めてる……
麻美先輩のもって来た薬を飲んで三十分。あたしの胸は予想通りと言うか、予想以上と言うか、痛いぐらいに張り詰め、服を大きく押し上げている。ブラのワイヤーは跡が付くぐらいに乳房に食い込み、ジンジンと痺れるようなその痛みが神経へ流れ込むたびに、乳首へピンポイントに快感が突き抜けてしまい、ゼミ室を片付けてる最中でもどうにも落ち着かずにモジモジとしてしまう。
――世の中の新人お母さん方は、いっつもこんな感じでおっぱい張り詰めてるのかな……
とても信じられない女体の謎に頭と身体を悩ませながらも、時が経つに連れて増していく悩ましい感覚に意識が飲み込まれてしまいそうになっていく。薬で強制的に活性化させられた乳腺がジンジンと疼き、次々と母乳が胸の膨らみの中に急速にたまっていくのを感じながら、今にも先っぽから噴き出してしまいそうになっていたあたしは、ただただ困惑してしまうだけだった。
「相原く〜ん、もうそろそろいいんじゃない? この子もおなかが空いたって〜」
そう声が聞こえてきても、すぐには振り返れなかった。
ついにこの時が着たか……なんとなく死刑宣告を受けたのにも似た心境でぎこちなく声のしたほうを振り返れば、麻美先輩の腕に抱かれながらもあたしのほうへ手を伸ばしている赤ちゃんの姿が視界に映ってしまう。
「あの〜…やっぱりやめません? 男のあたしが赤ちゃんにおっぱい上げるのって、やっぱり……てなわけで、あたし早退しますから!」
春休みに出てきておいて早退も何も無いだろうけれど、母乳が出そうになってるこの段において、やっぱり勇気は萎えてしまう。シュタッと片手を上げ、帰宅の意思を示して逃げ出そうとして……不意にあたしの肩を誰かが掴む。
「なに言ってるんですか。こんなおもしろい……もとい、貴重な経験、体験しない手はありませんよ、相原先輩?」
ち、千里……あんた、赤ちゃんの世話するのも掃除するのもイヤだって言って逃げてたくせに、どうしてこのタイミングで戻ってくるのよォ!
「せっかく無駄に大きい胸を活用するまたと無い機会です。何をためらうことがあるんですか」
「ためらうわよ! だって、男のあたしが母乳上げるのって胸が大きい以前になんか間違ってるし。ここには先輩は千里だっているのに!」
「はぁ……何をいまさら。もし今、私たちが検証を終えていない薬を飲んで身体に不調をきたせばどうなります? あの子の性別を三日で戻さなければならない、この時に。―――相原先輩は、そうなってもいいと?」
「うっ……」
「どうせ一週間もすれば男に戻るんですから、胸からミルクが出ようが練乳が出ようが構わないじゃないですか。それに三日の間、研究の邪魔にならないように赤ん坊の世話をするのは相原先輩なんですから、状況から見ても相原先輩以外に適任者はいないんです。ですから――」
それでも動けずにいるあたしの腕を千里が引っ張る。そしてあたしへ普段は絶対見せない可愛らしい笑顔を見せて、
「データ収集用の機材は私が持ってきました。さあ、タップリ母乳を出して見せてください」
カメラや電極やいかがわしい機械がぎっしり詰め込まれたカバンを掲げてみせる。……やっぱり、あたしをモルモットにする気は満々なわけか……
「佐藤先輩、必要な物は全て揃えてきました」
「じゃあ準備をしましょうか。さ、相原くん、脱いで脱いで。工藤君がゴミを捨てに行ってる今がチャンスよ」
「性転換者の先輩の身体で授乳するのは貴重なデータですからね。この機会を逃すわけにはいきません」
うわぁ……この二人、滅茶苦茶見る気満々だぁ……
嬉々としてカメラを三脚に設置し、訳の分からない機械をテーブルの上へ並べていく二人に言い様の無い怖さが込みあがってくる。―――そして、それを感じたのはあたしだけではなかったようだ
「ふぇ………フェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」
抱いてくれていた麻美先輩が機材の設置の方へ意識を向けるとすぐ、赤ちゃんは小さな体を震わせ、声を上げて泣き出し始める。寂しいのか、それとも苦しいのか、喋れない言葉の代わりにただただ喉が張り裂けんばかりに声を振り絞り、全力で、力一杯、もうこれで死んじゃうんじゃ無いかと思うぐらいに盛大に涙を流しては泣き続ける。
「わ、わ、わぁ! あ、相原くん、お願い!」
「なんであたしに!?」
こんな状態で渡されても困るんですけどォ!……と叫ぶのは後回しだ。困惑も耳を塞ぎたくなる衝動もとりあえず置いて、麻美先輩から受け取った赤ちゃんを抱きかかえる。
「ふぇえええええええええ、フェ、ふぇぇぇぇ……」
「おお、あっという間に泣きやんだ」
「相原くんならいいお母さんになれそうね」
……なんかそれ、微妙に嬉しく無い褒め言葉だな。
「さ、これで準備は整ったわね。あとはおっぱいを上げるだけですよ、たくやママ?」
「うぐっ……」
麻美先輩にそういわれても、今は言い返すのが難しい。腕の中にいる赤ちゃんの目の前で声を荒げるわけにもいかないし、小さな手の平にほっぺたをぺたぺた触られていて……
「……い、言っときますけど、見せるのは最初だけですからね!」
「まあ、やっぱり赤ちゃんが可愛いのね♪」
「違います! あたしはただ、ただ……う、うぅぅぅ……」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。だって相原くん、男の子なんでしょ? 胸ぐらい平気よね♪」
「男の子だから今の胸には色々と複雑すぎる悩みを抱えてるんですけど……トラウマ化しそうな経験も山ほど」
「そんなの関係ないから見せて♪ 見せてくれなきゃ男の子に戻れなくしてあげる♪」
なんかもう……今日の麻美先輩、ノリノリだよぉ……あたしが女になって困ってるのがそんなに楽しいかぁ……訊いたら「うん♪」て言われそうだから訊かないけど。
これ以上問答しても、男に戻る薬を作ってもらう立場では逆らい続ける事などで気はしない。諦めて嘆息したあたしは機嫌を取り戻した赤ちゃんを準備を終えた千里に預け、上着を脱いで着ていた男物のシャツをたくし上げる。
「んっ………」
大きく突き出している膨らみを露わにすると、恥ずかしさとブラの締め付けの苦しさから声が漏れてしまう。……が、すぐに二人の研究者の視線に気付き、身体が固まってしまうほどの
「わぁ……予想してたよりも大っきくなってる。Gカップでも納まらないんじゃない?」
「な、なかなかですが……まぁ、所詮は無駄に大きいだけで、ははっ、べ、別になんとも思っていませんよ、私は」
「こんなに大きくなってるのに形が全然崩れてないし……女としては、ちょっと理不尽を感じるぐらいの自己主張よね」
「はンッ! なんですかそれは。私にはあなたの胸も大差無いように見えますけどね無駄無駄無駄無駄無駄なのです。ですからさっさと終わらせましょう、フンッ!」
「まぁまぁ、相原くんの胸はめったに見れないんだし……あっ、ブラの先っぽ、もしかしてこの染みって母乳? そうなんでしょ?」
「お漏らしですか? だらしない胸ですね……おお、そうだ。せっかくですからこの状態を写真に収めましょうか。初乳の出た記録です」
――すみません。全面的にあたしが悪くていいですから、二人してあたしの胸に話し掛けるのやめてくださいぃ……
今まで何度も恥ずかしい目に会ってきた。今まで何度も辛い目に会ってきた。……が、ブラに締め付けられてる乳房に顔を寄せられて話しかけられるのは、恥ずかしさなんてものの限界をあっさり振り切り、なんか物凄く悲しくなって泣いてしまいそうになる。
「ダァ……ダァ……♪」
そんなあたしの心のうちを知ってか知らずか、千里の腕の中から赤ちゃんはあたしの胸へと手を伸ばす。そして重たい膨らみを、ぺちぺち、ぺちぺち、と叩いては、かすかに揺れ弾む感触と光景を前にして楽しそうに笑い声を上げていた。
「………この子ってもしかして、胸フェチとか?」
ふと、そんな事を思いついて口にしてみるが……
「そういえば私の胸にもすがりついてたわね」
「な、なんですか。私の胸では不服だというのですか!?」
「不服と言うより……そもそも……ねえ、相原くん?」
うわ、そんな危険なところであたしに振らないでくださいよ、麻美先輩!
「と、とりあえず、おっぱいあげましょう。ほらほら、千里も恐い顔しないで準備して、ね♪」
「……いいでしょう。私の胸が女性として間違っているのかどうかの議論は、後でキッチリして差し上げますから覚悟しておきなさい!」
そう言い、千里は噛み付きそうな表情で赤ちゃんをにらみつけると、憮然としてあたしへと押し付けてきた。……それよりも、千里はどうやって赤ちゃんと胸に関して議論するつもりなんだろうか。怒りで何かを見落としてるとしか思えないんだけど……
「ははは……ほら、もう恐いお姉ちゃんはどっか行ったからね。大丈夫だよ」
「アブゥ……」
「え〜っと……ま、マズかったら吐き出してもいいからね」
それはそれで困るんだけれど……あたしがブラをたくし上げて母乳で張った胸を露出させるのを麻美先輩と千里が凝視している。その視線が既に研究者のものに変わってはいるんだけれど恥ずかしさを拭い去れないまま、膨らみの先端を赤ちゃんの口元へ近づける。
「ッ………!」
やはり哺乳ビンよりも母親の乳房の方がいいのだろうか、前にミルクを上げてから一時間ほどしか経っていないのに、赤ちゃんは乳首へ吸い付くと、たまっていた母乳を小さな音を響かせて飲み始める。
あまりに母乳がたまりすぎて小さな乳輪ごとぷっくりと膨れ上がった乳首は、赤ちゃんの小さくて柔らかい唇に食まれただけで母乳を勢いよく噴出する。興奮しているわけでも無いのに十分尖ってしまっている先端の突起の内側をミルクが通り抜けるたびに、あたしは感じてはいけない感覚を身を揉みながら耐え続けなければいけなかった。
「く…ぅん……ひぅ……ダメだってば…そんなに…強く吸っちゃ……あ、ぁぁ……」
お腹がすいているはず無いのに、赤ちゃんは唇から母乳があふれ出るほどの勢いであたしの胸を吸いたてる。そして吸われれば吸われるほど、生まれて初めて……本来なら味わう事なんてありえない母乳放出に恍惚とした表情を浮かべて酔いしれてしまう。
「やっ……先輩…千里……み、見ちゃ…ヤダ……んッ、この子…スゴく吸ってる……あ、あたし……」
刺激がそれほど強いわけではない。けれど赤ちゃんに授乳する姿を先輩と後輩に見つめられている恥ずかしさが否応無しにあたしの性感を刺激し、興奮を昂ぶらせている。
恥ずかしく……けれど、胸を赤ちゃんに吸われている事が、どことなく嬉しい。その事を意識すればするほど、張り詰めた膨らみは理性さえ蕩かせる甘い官能の中に不思議な“感覚”に打ち震え、赤ちゃんの喉の渇きを癒すための授乳と言う行為に心地よささえ感じてしまうようになっていた。
「ッ……ん…ゃん……」
「相原くん……あんまり変な声を出さないで欲しいんだけど。“資料”として撮影しているビデオがいかがわしい別の物になっちゃうわよ、それじゃ」
「だ…だって……おっぱい吸われてると……なんか変な気分に……ひゃあん!」
「………まあ、こうなるかなって思わなかったわけじゃないけどね」
カメラに映らない位置で椅子に座る麻美先輩だけれど、その顔は熱を帯びているかのように赤い。左手はスカートの上から股間のあたりを押さえ、その肘を右手で押さえている姿は、理知的ではあるけれど普段なら感じさせない上気した色気を滲み出している。
その横では千里も無言のままではあるけれど太股をモジモジと擦り合わせている。なにか言いたそうな目であたしを見ているけれど、視線が合いそうになるとプイッと視線を逸らし、しばらくするとチラチラと授乳するあたしの様子をうかがい出す。何事もきっぱり言い切る千里にしては珍しい恥じらいを含んだ態度だ。
そして二人がそれほど興奮させてしまうような声を漏らしている事も、よくわかっている。でも溜まった母乳を吸い上げられるたびに解放感にも似た快感を感じるのも事実で……結局のところ、声を抑えようにも、喘ぐのをやめようとしても、赤ちゃんが胸から口を離してくれない限りは二人の前で恥ずかしい姿を晒していなければいけないわけだ。
「も……いつまで飲んでるのよォ………」
あたしの感覚からすれば結構な量が出たと思うのだが、赤ちゃんはその小さな体のどこに入るのかと不思議になるぐらいに、乳首に吸い付いたままゴクゴクと母乳を飲んでいる。……前に飲んだミルクもどこに言ったのか。あれからオムツも替えて無いんだけど……
「あ〜〜〜〜〜〜!!!」
と、麻美先輩が喋ってからは、あたしの押し殺そうとして押し殺しきれなかった小さな呻きだけが聞こえるだけで誰からも話し出そうとしなかったゼミ室に、突然驚きとも怒りとも取れる女性の声が響き渡った。
「こ……弘…二……?」
「ひどいですよォ。私がいないときに先に始めちゃうなんてェ!」
いきなり性転換させられて着る服が無くてメイドの格好をしている弘二(♀)は両手にビニール袋をぶら下げたまま、プンプンと言う擬音語がピッタシあいそうな顔でゼミ室へと入ってきた。
「もう私は赤ちゃんに手を出さない……先輩がそう望むのなら、それに従おうと思ってました。………でも、空いているほうの胸だけは譲れないんです!」
なにか理解できそうで理解できない言葉を吐きながら弘二が指で指し示した対象物は、赤ちゃんに吸ってもらえずに乳白色の液体を先っぽからにじませてしまうほど張り詰めたもう片方の乳房だった。
「先輩のおっぱいを直接口付けで飲むことが出来るなら、私の性別なんて関係ありません。そうですよ、身体の男女の違いなんて私と先輩の愛の前では――」
「は〜い、いっぱい飲んだね。ほら、ゲップしてね」
ちょうど赤ちゃんが口を離してくれたので、麻美先輩にゲップは任せ、早々に胸をしまう。片方だけ母乳で張ってるのは妙にアンバランスではあるけれど、同性愛か異性愛か判別の付きづらい今の弘二の目の前に母乳の出る胸を晒しておくのは貞操よりも別のものが危機に陥りそうだ。
「そ…そんなに私嫌いなんですか……? 先輩、ひどいですゥ……」
「あんたがあたしに信用されるような行動をしてこなかった結果よ。こういうことは日々の積み重ねが大事なの。―――それよりも、そのビニールは?」
「これですか?」と弘二が掲げて見せたのは購買ではなく近所のスーパーのビニール袋だった。中身が何かと訊くまでもなく、大きめのビニールの口からはペットボトルの頭やお菓子の袋が覗き見えている。
「もう片付けも終わりですから、みんなで食べようと思って買ってきたんです♪」
「………その格好で?」
「はい♪」
いや……弘二、ちょっと待ちなさい。今のあんた、メイド服着てるってちゃんと自覚してる?
果たして、スーパーではどんな騒動が起こったことやら……褒めていいのか判断に困るけれど、女の身体になった弘二はそれなりに可愛い。胸も90近くあるし、メイド喫茶メイドに負けず劣らずのミニスカート&胸元露出。元が男だと知られていなければ、服装との効果とあいまって、かなりの男の注目を集めただろう。……メイド服で外に買い物に出て行けるほどにまで羞恥心が欠如してるのはどうかと思うけど。
でも留美先生に突然押し付けられた育児で疲れてもいたし、ゼミ室の片付けもそろそろ一段落するのも確かだ。千里が持ち込んだ機械が吐き出した長〜いグラフ用紙とかは研究班の二人に任せておけばいいし、ここらで一息入れるのも悪くは……
「ア…ブゥ……」
――どうやら、それも出来ないようだ。
「麻美先輩、寝付きました?」
囁くような声で訊ねると、麻美先輩は微笑んだ顔を頷かせる。おなかがいっぱいになった赤ちゃんはいつしかすやすやと寝息を立ててしまっている。もし息を抜いてジュースだお菓子だと食べ始めれば、すぐに起こしてしまいそうだ。
「やっぱりお母さんがいなくて緊張してたのかもね。相原くんのおっぱいをしゃぶって安心したのよ、きっと」
「でもミルクは哺乳ビンでもあげてましたよ?」
「バカね。そうじゃないでしょ?」
む……クスクスと笑われてしまった。横では千里も「分かっていませんね」と言うジェスチャーを取っている。よく分からないけれど、にわか女のあたしには分からないところがあるのだろう、色々と。
「そうかしら。理解できてないけど、体感は出来ているんじゃないかしら。さっきのおっぱいを上げているところのビデオ、見せてあげましょうか?」
「はい、是非見た―――」
あたしではなく弘二が先に反応したので、落ちてた研究書で後頭部を引っ叩いておく。あたしにも情けはある。女になってる今、裏拳で顔を殴ろうとは思わない。
「さ。それじゃ薬を作りに自分の部屋へ戻るから、後はよろしくね」
麻美先輩は椅子から立ち上がると、あたしへ赤ちゃんを預けてくる。
「大変なのはこれからよ。夜には何度も泣き声で起こされると思うから、覚悟しておいてね」
「……へ? よ、夜もあたしが面倒を見るんですか!?」
「当然でしょ。私と河原さんは、明々後日までに薬を作らなきゃいけないんだから。多分三日とも徹夜でしょうね……ん〜、美容に悪そう」
「けど、でも、だって!」
あたしだって今日はずっとこの子の世話をしてきたのだ。ほとんど休み無しなんですけど……
「じゃあ工藤くんに頼む?」
「弘二は……」
そもそも赤ちゃんが女になったのは弘二が原因のような気がしてならない。昼間に無理やり犯されたし………だからこそ、この子を預けたら突発的に何をしでかすか分からない恐さがある。
「私はそんな事しませんよぉ……」
「だから言ったでしょ。あたしに信用されたかったら日々の積み重ねだって」
「愛情の積み重ねだったら誰にも負けないのにィ……」
こいつは……本気で行ってるからタチが悪い。
「ううう……わかりました。わかりましたよォ……あたしがこの子の世話をちゃんと見てますよぉ……」
“女手”はあったはずなのに、結局はあたし一人か……いざとなったら綾乃ちゃんに応援を頼むかな。
この場にいない可愛い後輩の顔を思い浮かべながら、腕の中で眠っている赤ちゃんに視線を落とす。……その可愛らしい寝顔に世話をするのも納得してしまいそうになっている自分がいて驚くけれど、
「相原先輩、一つ忠告しておきます」
「ん? なに、千里。あらたまって」
「たまった母乳は自分の手ででもいいですから絞っておいた方がよさそうです。あとできれば母乳パッドを。――服ににじんでますよ」
言われて、慌てて自分の胸に視線を落とすと、着替えたばかりの男物のシャツの胸元には、乳房の先端を中心とした大きな染みが広がりつつあるところだった―――
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