第22話


「じゃ、タオルどうぞ♪」 女性はそういいながら、私のハンドタオルを、遠くに投げました。 「やだっ!」 「取りに言ったら?」 「そ、そんな…」 私は手で隠しながら、すぐにそのハンドタオルを取り、体に当てました。 そのとき、女性は指である方向を指しました。 するとそこには、横長のベンチがありました。 そして、父親と思われる男性が、赤ちゃんを抱いて座っていました。 その男性は40歳くらい。 頭頂部は髪が薄く、それを隠すかのように、周りの髪を寄せています。 顔には無精髭が生えており、表情は暗く、ハッキリ言って、あまり見ていて気 持ちのいい顔はしていませんでした。 男性は、腰にハンドタオルを当てていました。 言い方は悪いですが、変質者とも思える、粘着的な表情をしています。 子供もその親の子からか、正直かわいいとは決して言えない顔でした。 すると女性は言ったのです。 「さ、一人で行ってきなよ」 「え?」 「私たち、ここで離れて見てるから」 「そんな…」 そのあと、女性は信じられないことを言いました。 「いい? 今から、あのベンチに、何があっても10分間は座ってること」 「え?」 「そしてここでルール。あのパパの言うことは、全部聞くこと」 「そうそう。こっちで見てるから、ちょっとでもあの男が顔しかめたら、あな たの今までに撮った写真、全部本名入りでネットにバラまくよ」 気持ちが凍りました。 「ほら、早く!」 「あ、いいんだよ。行かなくても。無理して」 私はもう、選ぶことはできません。 「い…。いきます…」 「そーう? あの男、気持ち悪いから、やめておいた方がいいんじゃなーい?」 「そうそう。やめておいたほうがいいよー?」 からかうように、そんなことを言うふたり。 私は涙をのんで、足を進めました。 「いきます…」 「あは♪ がんばってー!」 「こっちで応援してるから」 「間違っても、あいつが顔しかめたらアウトだからね」 私は、しかたなくベンチの側にいきました。 男性は、目を丸くして、私のことを見つめています。 私は必死にハンドタオルで前を隠しながら、ベンチに向かって歩いていきまし た。 そしてそのまま、横に座りました。 男性は、そのままずっと私の方を見ています。 普通なら、目をそらしてもいいはずです。 この人には、遠慮というものがないんだろうか。 私はそう思いながら、目をそらして、ただ目の前にあるお風呂を見つめていま した。 座っているだけでいいのです。 お願いだから、話しかけないで。そんな気持ちもむなしく、男性から声が響き ました。 「ひとり、なんですか?」 なんて陳腐な質問。 私は答えをためらいます。 すると男性は、少しずつ顔をしかめました。 女性が、私の方をにらみます。 無視するわけには行きません。 私は答えました。 「…あ、はい…」 すると男性は、答えることに気をよくしたのでしょうか。 すぐに質問をしてきました。 「どこから?」 「名前は?」 まるで尋問のようです。 私はしかたなく、答えていきました。 もちろんその間、男性はいやらしい目で、私の体中を見ています。 ハンドタオルで隠してはいますが、それこそ裸まで見られているような、イヤ な気持ちになりました。 この人、赤ちゃんを抱いているのに。奥さんがいるはずなのに。 私はそう思って、たまらず言いました。 「奥さんはいらっしゃらないんですか?」 すると男性は、「あ〜…」とひと言だけ言って、それ以上は話しませんでした。 都合の悪いことを言われたときの、気持ちの悪い男性の特有の反応です。 「あっ!」 男性は、私のことを見ながら、さも何かを思いついたかのように、声を上げま した。 「そうだそうだ。子供の記念に、撮っておくんだった」 そして下にあった荷物の袋の中から、ハンディカメラを出しました。 まさか。 私がそう思っていると、男性はわざとらしく言いました。 「じゃ、撮ろうかなぁ…」 そして赤ちゃんを、私と男性のあいだに、ハイハイの形で置きました。 さらにカメラを回して、その姿を撮りはじめました。 そのカメラの先は、私の方をチラチラと向いています。 どう考えても、私の姿を映しています。 それでも、ここから立ち上がるわけにはいきません。 私はすぐに、タオルを体に押しつけるように、身を固くしました。 「困ったなぁ〜。これじゃうちの子、ベンチから落ちちゃうかもしれないなぁ… 」 男性は両手で抱いている子供を抱えながら、私の方を見ました。 「困りましたねぇ…」 私は、とにかく流すかのように言います。 すると男性は、私に言ってきたのです。 「ちょっと、抱いててもらえるかな〜?」 信じられない。初対面の女性に。 それに私はハンドタオル一枚です。 たとえ座っていても、両手を伸ばしたら、タオルが腰に落ちてしまうに決まっ ています。 私はそう思いましたが、女性の視線を感じて、OKしないわけにはいきません でした。 私はとにかくタオルが落ちないように、子供を抱いて、タオルの上に押しつけ るために、ゆっくりと手を伸ばしました。 すると男性は、子供を少し自分の方に寄せました。 「!?」 「ほら、抱いてくださいませんか?」 距離が遠くなったぶん、私は手をより伸ばさなければいけません。 「早くしてくださいよ〜」 男性は粘着的にいってきました。 その間にも、男性の眉は少しずつしかめられます。 私はあわてて言いました。 「あ、はい…!」 私は、ベンチに横にかけたまま、手を伸ばしました。 タオルが、当然のように、はらりと落ちます。 そのままバストが、ぼろんとこぼれました。 瞬間、男性の目つきが、変わりました。 明らかに男性は子供そっちのけで、私の胸にカメラを向けています。 「おお! いい絵撮れてますよー!」 男性はニヤニヤと言いました。 屈辱で、少しだけ涙が浮かんできます。 私はすぐに子供を抱きかかえ、ぎゅっと胸に押しつけ、隠そうとしました。 「いいですねぇ〜♪」 男性はカメラで、子供を撮るように近づいてきました。 しかしもちろん、なめまわすように、私の体や胸を撮っています。 私はただ耐えています。 すると男性のカメラが、近寄りすぎたのか、子供の頭に当たりました。 その瞬間、子供が泣き出しました。 子供の顔は、やはり男性と同じく、気持ちの悪い表情です。 泣くと、さらにその嫌悪感が強まりました。 私はすぐにでもその子を投げ出したかったのですが、もちろんそれは許されま せん。 それを見て、男性はちょっと困ったように、しかしすぐに目を輝かせて言いま した。 「お腹減ってるのかなぁ〜?」 そんなわけはありません。明らかに、頭の痛みで泣いているはずです。 すると男性は、いやらしい顔で言いました。 「いつもは、家内がオッパイあげると、おさまるんですよ!」 私は、その言葉の意味を理解するのに数秒かかりました。 「あ、あの…。それって…」 すると男性は、繰り返すようにいったのです。 「オッパイですよ! オッパイ! あげてくれないかなぁ〜!?」 セクハラなんて域を超えています。 彼も、私が何を言っても逆らわないことを、うすうす感じているのでしょうか。 男性の要求は、どんどんエスカレートし、語調も強くなっていきました。 私は女性の方を見ます。当然のごとく、ニコニコと鋭い目でサインを送ってき ました。 「やれ」。 私はしかたなく、赤ん坊の顔をいったん胸から放し、乳首を赤ん坊の方に向け ました。 また、カメラがズームするかのように、私の乳首を撮り始めました。 私は焦りますが、しかし子供は、うまく私の乳首をくわえてはくれません。 「オッパイあげるときはね、乳首をつまんで向けるんですよ」 男の言葉に、私はためらいながら、右手で子供を抱きかかえ、左手で乳首をつ まんで子供に向けました。 すると子供は、反射的に私の胸に吸い付いてきました。 「あぁ、んっ!」 突然の行動。 私は思わず、変な声を出してしまいました。 男性は明らかに息を荒くし始めます。 それに子供は歯が少し生えているのか、私の胸にキリキリと食い込みます。 「いた…っ。いたい…」 「あ、ガマンしてください〜」 男性はニヤニヤと、横からカメラを回し続けます。 今、片方の胸は、子供に吸い付かれています。 もう一方の胸は、子供の肩に押しつけられています。 「オッパイ、出てますか?」 男性はわざとらしく聞いてきました。 「で、出てません…」 私は必死に耐えながら言います。 「だったら…」 すると男性は、突然に隠れている方の胸に手を掛けて、強引に子供からずらす ように、外に露出させました。 「やっ!」 「こっちなら、出るんじゃないですか〜?」 男性は乳首を露出させると、またカメラを回します。 そしてそのまま、乳首をコリコリとつまみはじめました。 「あ…。ちょっ…」 私は言いかけますが、男性の表情に気がついて、あわてて言いました。 「やだぁ…。で、出ませんよぉ…」 媚びている、情けない自分。 私はじんわり涙があふれてきながらも、とにかく笑顔を保とうとしました。 「いやいや、出ますよー♪」 男性はそういいながら、右手で乳首をつまんだまま、左手でカメラを回し続け ます。 ぐいぐいと乳首と胸はつままれ、揉まれ、形を次々と変えられました。 「しぼってみようかな〜♪ それー!」 男性はぐっと力を込め、乳首をつまみます。 「おっかしーなー。ウシの乳搾りは得意なんだけどなぁ〜」 「やっ! …や、やーん…」 私は情けなくも、抵抗することは許されませんでした。 はるか遠くで、女性たちが声を上げて笑っているのが見えました。 「見てよ、あれ!」 「最高〜!」 「変態パパに、オッパイ揉まれてるよ!」 「うんうん! 変態2世のガキに、オッパイ吸われながらね〜!」 「普通に見たら、ママだよねー!」 「言える言える!」 「それに、それ全部カメラに撮られてるんだから、もう最悪だよね。一生あの 変態パパのオナペットにされるんじゃない?」 「笑えるー!」 小さく聞こえるその言葉ひとつひとつが、私の心に突き刺さりました。 <つづく>


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