肉欲の罠(修正版) 13
沼 隆 おことわり この作品は、フィクションです。 登場する人名、地名、団体名は、 実在するものと一切関係がありません。 登場人物 小野寺郁恵 千葉の女 上原 彩美 郁恵の友人 * * * 小菅 一樹 〈蘭香商事〉営業課長 深津 梨江 〈蘭香商事〉社員 上原真樹夫 〈蘭香商事〉社員 牟田 淳史 〈三茶信金〉職員 牟田 沙織 看護師 淳史の妻 (1) 郁恵 小野寺郁恵(おのでら・いくえ)は、ベッドに横たわっている。 娘は保育園、 父親は、会社、 母親は、カルチャースクール。 離婚した元旦那は、娘の養育費を振り込んでいた。 だんだん遅れがちになっているので、 先週、文句を言ってやったのだ。 旦那の浮気がきっかけで、離婚にまで進んでしまった。 結婚してすぐに、 なんてつまんないやつなんだろう、と思って、 思ったとたん、身体を触られるのもいやになって、 触らせないでいるあいだに、 浮気をしてくれたのだった。 元旦那というのが、 弓削 栄(ユゲ・サカエ)といい、 老舗料亭〈おか福〉の跡取り息子。 経営は、母親が仕切っているので、 母親の使い走り役。 世間的には、みっともないことこの上ないが、 母親のおかげで、贅沢三昧。 ブランドものを身につけ、外車を乗り回す。 ぜいたくな暮らしに、未練があったけれど、 老舗の看板におごり高ぶった舅、姑、 郁恵の美貌に嫉妬する小姑、 郁恵の姿態に淫らな視線を向ける義弟たちに、 郁恵はうんざりしたのだった。 離婚調停では、弓削家が、娘の養育権を主張したのだが、 郁恵は譲らなかった。 で、娘の美鈴を連れて、千葉の両親の家に戻ってきたのだった。 夫に触られるのはいやだったが、 郁恵のからだは、男をほしがっていた。 男が欲しくてたまらなくなって、 でも、浮気はガマンした。 離婚が成立する日まで、辛抱強く…… で、離婚が成立すると、 もう、ガマンできなくなっていた。 ネットのオフ会で知り合った男と、ラブホテルに行く。 同年代の男や、年配の男と、激しく燃えた。 で、その少年と知り合って、 九州まで出かけていったのだった。 少年が残した肉の快感が、 郁恵の身体の芯に残っていて、 ちろちろ、燃え続けていた。 もっと強い快楽をほしがっていた。 パンティは、あふれ出した蜜で、じっとり濡れていて、 郁恵の指先を濡らす。 尻を浮かせて、パンティを脱ぎ捨てた。 左手の指先で、淫裂を手前に引き上げるようにして、 右手の指先を、淫裂に滑り込ませていく。 「ううう」 たったそれだけで、郁恵は声を漏らしていた。 クリトリスが、ぷっくりとふくれあがって、 郁恵の愛撫を待っていた。 蜜に浸した指先で、 硬くふくれあがったクリトリスを、 そおっと、さする。 「あうっ」 キモチ、いい…… ひざが、カクカク震える。 いじりやすいように、郁恵は両膝をたてる。 左手で、淫裂を手前に引き上げて、 右の人さし指を濡らしてはクリトリスをこする。 頬が、火照ってくる。 「うくっ、いいっ」 言葉にせずには、いられない。 熱い吐息が混じった、郁恵自身の淫らな声が、 郁恵の官能を高めていく。 右の中指を、肉穴に埋め込む。 男の肉棒と比べたら、 ほっそりとした指でも、 広げられる快感を、引き起こすのだった。 キュンと締め付ける。 「あうっ」 右の指が、クリトリスから肉穴へ、 肉穴からクリトリスへと、這いまわる。 郁恵は、ブラジャーの中に左手をもぐり込ませた。 火照った乳房が、うずいていた。 こうして、左手で乳房を、右手で淫裂をいじくりながら、 郁恵は、悦楽の頂点に、ゆっくりと上っていく。 シャワーを浴びて、 下着を取り替えて、 そろそろ昼食にしようか、 お昼、なに、食べようか、 迷っているときに、 携帯が鳴った。 上原彩美だった。 「ねえ、どうだった?」 「ん?」 「福岡に、行ってきたんでしょ?」 「ふふ」 「なにが、ふふ、よ」 「楽しかったよ」 「お泊まり、したんだった?」 「そうだよ」 「へえ、そかそか」 彩美は、ちょっとためらっていた。 「覚えてる?」 「ん?」 「スワッピングパーティのこと」 「スワッピング?」 「うん」 「ああ、覚えてる、彩美、すっごく興奮したって、言ってたよね」 「そうなんだ」 「また、やった、ってこと?」 「じゃなくてさ、郁恵、仲間に入れて欲しいって、言ったよね」 「ウン、そうだった」 「でさ」 「えっ?」 「郁恵、参加する気、ある?」 (2) 小菅の計画 〈蘭香(らんこう)商事〉は、ちっぽけな会社である。 相模大野の駅の近く、小さな雑居ビルにある。 ワンフロアで十分な、小さな会社だ。 課長の小菅一樹は、朝から、ニヤニヤがとまらない。 「課長、どうしたんですか、キモイですよ、そのスケベ笑い!」 深津梨江は、とうとう口にしてしまった。 「おいおい、梨江ちゃん、きついねぇ」 「朝からずっと、にたにたしてるんだもん、ブキミですっ!」 「えええっ! おれの顔、ブキミだって! ひどいよ、梨江ちゃん」 「鏡で、見てきたら!」 「えへへへっ」 小菅課長が、にたにたするのも無理のない話なのだ。 上原真樹夫が、外回りから帰ってくるのが、待ち遠しくて仕方がない。 「あ、梨江ちゃん、上原のヤツが、いないから、いらついてるんだろ?」 「なに、言ってるんですかっ!」 「だってさぁ、梨江ちゃん、上原と、続いてるんだろ?」 「もおっ!」 「へっへっへっ」 「変態っ!」 「私、アオカンの経験、ありませんもんねぇ」 「もうっ! むかつくっ!」 小菅課長は、真樹夫のデスクを開く。 「なにしてるんですかっ、課長っ!」 「いいの、いいの、おれと真樹夫ちゃんの仲なんだから」 「どんな仲なんですかっ!」 「ないしょ、ないしょ、なあああいしょっ」 小菅課長は、知っている。 真樹夫ちゃんのデスクの引き出しに、 《週刊ワレメ投稿写真》とか、 《週刊なまハメ》とか、 《週刊エロギャル》とか 《週刊濡れ濡れ芸能》とか、 《週刊エロランジェリー》とか、 《月刊泡姫ガイド》 が、入っているのだ。 「暇つぶしに、ちょっと、お借りします」 小菅は、深津梨江に聞こえよがしにそう言った。 「なるほどねえ」 小菅は、梨江に聞こえるように、言った。 梨江は無視する。 「真樹夫ちゃん、こんな下着が、好きなんですねぇ」 それから 「ふうううううん、なるほどねぇぇぇ」 と、言った。 「梨江ちゃん、こんな下着、どこで売ってるの?」 「知りませんっ」 「だってさぁ、梨江ちゃん」 わざとらしい間をおいて、小菅は続けた。 「梨江ちゃん、こんな下着、でしょ?」 「ちがいますっ」 「へへへっ、どうかなあ」 梨江のデスクには、アフターファイブ用の下着がしまってあるのだが、 (ま、まさか・・・ 課長のやつ、あたしのデスクを、開けたの? ま、まさか・・・ でも・・・・・・ 見たんだ、エロおやじっ!) そう、ロッカーにしまっておくべきだった。 「おっ、真樹夫ちゃん、お帰り」 小菅課長が、あきれるほどうれしそうな声で、言った。 「なんです、課長、なんか、いいことでも?」 「上原くん、課長、朝から、変なんだよぉ」 「課長は、いつも、ヘンなんだよ、梨江ちゃん」 「へへっ、そういう言い方、ないですよ、真樹夫ちゃん」 小菅課長は、真樹夫に近づき、肩を抱くようにして、 廊下に連れ出した。 「ちょっと、屋上に、行きましょう」 「梨江ちゃんに聞かれると、まずいことですか?」 「そうですよ、真樹夫ちゃん」 「で、乱交パーティ、決まったからね」 屋上で、タバコに火を点けながら、小菅は言った。 日取りの調整と、会場の手配は、小菅夫婦がやった。 女4人の生理日調整は、大変だったようだ。 会場は、〈天狗鼻温泉〉濡れ岩旅館の離れ。 土曜日の午後にチェックインして、 日曜の午後までOKだという。 で、いつの間にか、4組の夫婦が参加することになった。 真樹夫夫婦、 小菅課長夫婦、それに、 牟田夫妻は、小菅課長が引き入れた。 もうひと組は、夫婦ではないのだ。 小菅の友人、草野修と、 真樹夫の妻、彩美の友人、小野寺郁恵である。 「待ちきれなくってさぁ、真樹夫ちゃん」 小菅は、楽しそうだった。 「真樹夫ちゃん、今度、うまくいったら、 もっと、回数、増やしましょうよ」 「そんなに、楽しそうにしてるとこを見ると、 課長、この仕事に、向いてるんじゃないですか?」 「しごと?・・・・・・仕事、ねぇ・・・・・・仕事にしてみるかなあ」 「本気ですか?」 「まさか・・・」 でも、冗談ばかりでは、なさそうだった。 「回数増やして、参加者、増やしたら、 生理日調整なんて、ややこしいこと、しなくてすむかもねぇ」 「な、なるほど」 「へへっ」 「なんだか、仕事よりも、熱心だなあ」 「そりゃぁ、真樹夫ちゃん、 こんなにわくわくすること、 簡単には、見つかりませんよ」 (3) 異業種交流会 「もしもし」 「おお、牟田さん」 「例の、あの会の件で」 「異業種交流会、ですね」 「あ、はい、そうです、異業種交流会、です」 小菅は、我ながらうまい名前を付けたものだと、うれしくなっている。 でも、今頃になって、何の電話なのか。 「いよいよですね」 「ええ、ええ」 「なんだか・・・・・・」 「はい」 おいおい、今ごろになって、怖じ気づいたんじゃ、ないだろうねぇ 「わくわくして、仕事、手に付かないくらいで」 「はは、牟田さん、私も、実は、同じで」 「ええっ、小菅さんもですか」 「もちろんです、牟田さん」 「ははは、そうですか」 電話の向こうにいる牟田が、ほっとする気配が伝わってくる。 牟田は、初めてなので、どんなことに気をつけたらいいか、 どんな準備をするといいか、 小菅に聞いてきたのだった。 小菅は、自分が何を準備するか、教えた。 使い慣れたコンドーム、 飲みなれたドリンク、 「あ、私、ピンクル皇帝液スーパーゴールドなんですけどね」 「あ、ピンクル・・・・・・」 「そ、そ、ピンクル。元気出して、がんばりたいから、ですね」 「そ、そうですね」 「実は・・・・・・」 「は、はい」 「バイアグラも」 「ば、バイアグラ、ですか」 「へへへっ、ま、だいじょうぶだと、思ってるんですけどね」 「はあ」 「立たないと、女性に申し訳ないでしょ」 「あ、はあ」 牟田が、当惑した様子だった。 「あ、それで、つ、妻は、何を」 「奥さんは、別に用意するものは、ないのでは?」 「はあ」 「おいでくださるだけで、良いのでは」 「そ、そうですね、そうですね」 「ま、あんまり、緊張されないように」 「はい」 「また、何かあったら、いつでも、電話、ください」 〈三茶信金〉、二子玉支店の駐車場の隅で、 牟田淳史は、ほっとしながら、タバコに火を付けた。 小菅に会って、10日もたたないうちに、 日取りが決まり、 異業種交流会という名前の、スワッピングパーティーが、 現実のものになった。 もう一年近く、夫婦生活は、味気ないものになっていた。 沙織も、自分も、きつい仕事。 セックスがおざなりになって、 でも、そこから抜け出せないでいた。 沙織も、同じ気持ちでいたのだろう、 ネットで、小菅の書き込みを見つけ、 「やり直す」ために、スワッピングに参加したい、と言うと、 沙織は、相手によるけれど、と言う。 淳史が小菅に会い、そして、沙織も納得して、 「交流会」参加を決めたのだった。 仕事帰りに、〈ドラッグ・どんき〉に寄って、 コンドームと、 まだ飲んだことがないピンクル皇帝液を 買うことに決めた。 小菅が、万一の時は、バイアグラを譲ってあげますよ、と言っていた。 (4) 梨江の婚約 真樹夫は、梨江とラブホテルに入った。 こじゃれたインテリアの、〈パープル・らびあ〉 梨江のお気に入り。 今日は、梨江のほうから、誘ってきたのだ。 真樹夫は、給湯室か、トイレで、 立ったままやってしまおうかと思ったのだが、 梨江は、ホテルでしようと言って、きかなかった。 そして、部屋に入るなり、抱きついてきて、 真樹夫の唇を激しく吸い、 体をこすりつけてきて、 真樹夫の服をはぎ取り、 自分の服を脱ぎ捨てて、 肉竿にしゃぶり付いてきた。 「ねぇ、課長と、どんな悪巧み、してるの?」 「悪巧み?」 「そうよ、なんか、企んでるんでしょ?」 「何だよ、企んでるって」 真樹夫は、ベッドの端に腰を下ろして、 ピンクル皇帝液ゴールドデラックスを飲んでいる。 梨江は、上体を起こし、真樹夫の背中に胸を押しつけながら、言った。 色白の、ほっそりした指が、真樹夫の肉竿をつまんだ。 亀頭のくびれ、包皮のしわに、 1回目の射精の残りカスが付いていて、 ねばつく。 「ねえ、なに、企んでるんだよぉ」 「そんなことじゃ、ねぇよ」 「だって、あんたたち、最近ヘンだよ」 「へんって?」 「このあいだまで、上司と部下、って感じだったのにさ」 「いまでも、そうだよ」 「うそだよ」 「だって、課長は課長だし、おれは、ヒラだよ」 「ちがいますぅ」 「どうちがうんだよ」 「なんか、悪ガキがつるんでるって感じなんだよね」 「ああ」 「なによ」 「まあ、梨江がそう思うのも」 「なによ」 真樹夫は、内緒にしておきたかった。 「このあいだ、一緒にソープに行ったんだよ」 ウソである。 「そーぷ?」 「そ、ソープ」 「ソープランド?」 「そ」 梨江は、真樹夫が、デスクにしまってある雑誌を思い出した。 《月刊泡姫ガイド》 「また、お誘いがあったっつぅわけ」 「行くの?」 「おつきあいっていうものが、あるからさ」 「いやらしい」 ピンクル皇帝液ゴールドデラックスが、効き目を現してきた。 梨江の指使いのせいかも。 「あたし、結婚する」 「ええっ」 「そんなに、驚かないでよ」 「いや、まあ、おめでとう」 「なんかさあ、むこう、真剣な顔で、結婚してくれって言うからさ」 「おれが知ってる、あの?」 「うん」 「区役所勤めだったよな」 「うん」 「そか」 「でもさあ」 「なんだよ」 「なんか、ブルーなんだよ」 「なんで?」 「結婚、って、縛られそうなんだもん」 「ああ・・・・・・それって、梨江次第だろ」 「でも」 「気ままにエッチできなくなるってか?」 「ばか」 「はは、すまん」 「もう、真樹夫って、いい加減なんだから」 「ねえ、おれなら、いつでも、相談に乗ってやるよ」 「相談、か」 「梨江がお望みの時に、いつでも、エッチしてさし上げます」 「ば〜か」 「結婚、しちまいなよ」 「・・・・・・」 「嫌いじゃ、ないんだろ?」 「・・・・・・」 「嫌いなのかよ?」 「そうじゃないんだけど・・・・・・」 梨江のカレシというのが、 区役所に勤めているのだが、 物足りないところがあるというか、 きまじめというか、 で、亭主関白なんて言う言葉に、こだわっているのだ。 田舎の両親に紹介されたとき、 梨江の、自由に生きたいというキモチを、 わかったふうな口をきくのに、 でも、本音は、田舎くささがどんよりと漂っていて、 自由なんか、結婚したとたん、なくなってしまいそうなのだ。 〈うちの嫁になるひと〉と、近所の親戚に紹介されたとき、 梨江は、ぞっとして、鳥肌が立った。 〈うちの嫁〉なんて、今時、ないでしょう。 梨江は、ちょっとエッチな格好が好きだし、 自分に似合ってると思っている。 アウターに合わせて、インナーもエッチ系を着ているのだが、 つきあい始めたころは、そこが気に入っていたはずのカレシが、 いやがるようになって、 ブラとパンツは、白にしろ、 と言ったときは、大げんかになった。 それに…・・・ エッチ、あんまり、うまくない。 短大生の時、つきあっていたカレシに気に入られたくて、 クリトリスにピアスをしたことがある。 といっても、クリトリスの包皮なのだが。 クリピアスは、付けるのを止めたら、 ふさがってしまったのだけれど、 跡は残っていて、 「この、くぼみ、何なの?」 と、しつこく聞かれて、 ピアスをしていたと言ってしまい、 カレシは激怒したのだった。 カレシ、童貞だったから、 梨江の過去の男遍歴が、どうにもガマンできないようで、 そんなこんなで、 梨江は、うっとうしくなっているのだ。 「やめな」 真樹夫は、言った。 「そんなやつ、この先、ややこしいくなるだけだよ」 「そうだね」 「梨江にお似合いの男、見つかるさ」 ただ、やっかいなことになるだけ、 梨江は、納得した。 「梨江、おれ、クリピアス、見たいよ」 「もう・・・・・・あれ、自分じゃ、できないんだよ」 「ん?」 「こわいもん」 「じゃあ、そん時は、どうしたんだ?」 「病院で、開けてもらった」 「病院?」 「そ」 「おお」 真樹夫は、梨江の淫裂をのぞき込む。 確かに、クリトリスの包皮に、ピアスの跡が、くぼみになって残っている。 「つけろよ」 「病院、一緒に行ってくれる?」 「ああ」 「わかった」 梨江は、カレシと別れる決心をし、 真樹夫のために、クリピアスをする決心をした。 「もう、いっこ、しよう?」 「ああ」 だらりとした肉棒に指を添えると、 梨江は唇を近づけて、 指を、舌と、唇を巧みにはわせながら、 硬く、硬く、そそり立たせていく。 (5) ピアス 〈聖らびあクリニック〉 美容整形専門クリニックで、 小田急など、私鉄沿線の各駅に看板を出し、 あらゆる媒体を使って、派手に宣伝している。 インターネットのホームページは、 安全、安心、満足をかかげ、 術前、術後写真を並べる。 豊胸、脂肪吸引、美顔、若返り…… 女性器形成…… ピアス穴開けも。 梨江は、名の通ったクリニックでの手術を求めたのだ。 はじめてピアスを付けたときも、 カレシに付き添ってもらったのだが、 今回は、真樹夫についていってもらった。 梨江は、緊張していた。 ほんのちょっと、穴を開けるだけなんだけど、 麻酔も使うそうだし。 診察室に入っていく梨江の後ろ姿を見送りながら、 真樹夫は、小菅からかかってきた電話に応えていた。 仕事の電話ではなかった。 いよいよ週末に迫った、〈天狗鼻温泉〉の乱交パーティの件だった。 小菅は、幹事役に燃えていた。 ちゃんと仕事をしているのか、真樹夫が心配になるほどだった。 といっても、真樹夫は外回りに出たふりをして、 梨江に付き添って美容整形の待合室にいる。 梨江は、有給をとっている。 待合室に置かれた〈聖らびあクリニック〉のパンフレットを眺めていると、 男性器美容、女性器美容のページに目がいった。 包茎手術つというのは、なじみがあるが、 男性器増強手術というのがあって、 シリコンボールを埋め込むのだそうで、 真樹夫は、イボイボ付きバイブレータを思い出した。 グロイけれど、女をもっと悦ばせることができるのかなあ、と ふと思った。 しかし、ムスコにメスを入れるのは、恐ろしい気もする。 小陰唇縮小、大陰唇縮小、クリトリス包茎手術、 そして、処女膜再生手術。 黒っぽい紫色をしたむき出しの大陰唇と、 切除後の、のっぺりした女性器の写真が並んでいて、 おれは、びらびらがいやらしく開いている方が好きだな、と 真樹夫は思った。 「終わったよ」 目の前に、梨江が立っていた。 ちょっと疲れた顔をしていた。 ピンクの制服を着た看護師が、診察室から出てきた。 次の患者を、案内するためだ。 真樹夫は、梨江をいたわるように椅子にかけさせるところだった。 看護師に、気がつかなかった。 看護師は、真樹夫に気がついた。 看護師の牟田沙織は、数週間前に、町田のラブホテルで、 真樹夫と激しくセックスを楽しんだ。 その後、ふたりの都合が付かなくて、会えないでいた。 メールで、連絡を取り合ってはいるのだが。 〈奥さん、かわいい人ですね〉 真樹夫の携帯に、沙織からメールが届いたのは、 支払いを済ませて、クリニックを出たときだった。進む