「真夜中の図書室」1周年記念作品
メモリー
沼 隆
(1) 再会 《マルケ王、万歳!》 《コーンウォール万歳!》 熱狂する男たちの合唱で第1幕が終わる。 高揚する音楽とともに、理美の胸も高鳴っていた。 理美は、渋谷のオペラハウスの客席にいる。 成城に住む叔母の信子が誘ってくれたのだ。 3ヶ月前、信子から電話があった。 「《トリスタンとイゾルデ》なんだけど、一緒に行かない?」 信子の誘いに、理美は即座に応じていた。 夫の秀一が止めるはずはなかった。 家事を義母に頼んで、福岡から出てきたのである。 《トリスタン》は、理美にとっては、特別なオペラだ。 4年前の宇田誠との愛の日々に深く絡まりあっている。 4ヶ月ほどの、つかの間の愛の暮らし。 彼の部屋で何度も聞いた旋律。 なじみにくい旋律が、いつの間にか心に焼きついた。 開演を待つ客席のざわめきから、観客の興奮が伝わってくる。 誰もが、この公演を心待ちにしていた。 理美も。 あ… 客席に、宇田誠の姿を見つけたのだ。 大勢の人の中に、誠は簡単に見つかった。 まるで向こうから飛び込むようにして、視界にくっきりと誠の姿が浮かび上がった。 もしかしたら、会えるかも… 淡い予感が的中した。 いや、誠はきっと来る、と思っていた。 休憩時間に、声をかけよう… 場内が暗くなった。 オーケストラが前奏曲を演奏し始めた。 全3幕の愛のドラマ。 4時間後のクライマックスに向かって、ピアニッシモの弦楽合奏による、静かな幕開き。 たちまち、理美は、誠の部屋で過ごした甘美な時間に引き戻された。 音量を絞った《トリスタン》をBGMに、互いのからだをむさぼった記憶。 いつ果てるともなく続く、うねるような旋律に身をまかせて、誠の腕の中で理美は何度も達し、誠の射精を受 けた。 第1幕終了後の休憩を利用して、大勢の人々がロビーに出た。 化粧室に入っていく信子の後ろ姿を見送る。 誠の姿を探そうと振り向くと、目の前に立っていた。 じっと理美を見ている。 変わらぬまなざしで。 あのころと、何一つ変わっていない。 周囲のざわめきが聞こえなくなり、見えなくなって、誠をじっと見つめる。 誠を愛してる… 誠も私を愛してる… 理美は確信した。 甘酸っぱいものが胸に込み上げてくる。 4年もの長い空白。 4年ぶりの理美。 いっそう美しくなっていた。 ボクは君を愛してる… 君に愛されていることも感じてる… 言葉はいらない。 熱いまなざしが、燃える心を互いに伝えていた。 誠が口づけをする。 理美は応じていた。 ロビーに大勢の人がいるのも忘れて。 ちゅっ… ちゅっ… ちゅっ… ちゅっ… 見つめあったまま、何度も口づけを交わす。 何十回も… 予鈴がなり、人々が客席に戻る気配に我に帰った。 「きっと、理美に会えると思っていた」 「私も…」 誠は、理美に名刺を渡す。 札幌にある法律学校の講師の肩書きがあった。 裏に携帯の番号をすばやく書き込んだ。 「電話もらえると、うれしいな」 誠の目を見つめながら、理美はうなずいた。 (2) 出会い 理美が宇田誠に初めて会ったのは、5年前の秋のことである。 理美は九州の福岡にある冷泉学園高校3年生。 夏の名残の強い日差しも消えて、秋の色が一段と濃くなっていた。 慶鳳女子大学に進学を希望していた。 学校見学日に、理美は上京できなかった。 父が急逝したのである。 40代の働き盛りであった。 葬儀に続く一連のあわただしい日々が去った。 校長が女子大の理事長に電話をして、理美のために学校を案内する日が設けられた。 理美の祖母が冷泉学園の理事をしている特別の計らいだった。 女子大の和久井理事長は、理美の祖母の後輩でもあった。 その日、女子大の入り口で守衛に教えられた建物に入り、理事長室に通された。 部屋には、和久井理事長と、宇田がいた。 「宇田先生はね、フランスのケーホーを研究してらっしゃるの」 理美は、「ケーホー」の意味がわからなかった。 15歳年上のちょっと醒めた目つきをしている目の前の男に、惹かれていた。 その目が、唇にかすかな微笑を浮かべながら、じっと理美を見つめている。 ひざのあたりで組んだ両手の指が、細く、すうっ、と伸びていた。 (綺麗な指…) その指がやがて理美のからだを開き、しなやかな動きで理美の性の歓びを引き出すことになるのを、このとき はまだ思ってもみない。 宇田の案内でキャンパスを少し見て回った。 宇田の研究室に案内された。 窓から差し込む淡い光とひんやりした空気が気持ちよかった。 書架には、専門書や、洋書がぎっしりとつまっていた。 理美は、背表紙の文字に、それほど関心を示さなかった。 (なんだか、難しそう…) 長椅子に腰を下ろす。 宇田は、部屋の隅で、コーヒーメーカーをセットする。 やがて、コーヒーの香りが部屋いっぱいに広がる。 カップの準備を手伝おうとすると、君は、今日はお客さんだからね、と制された。 宇田は、理美に魅せられていた。 何百人も何千人も女子学生を見てきたはずなのに、理美には特別に惹かれるものがあった。 理美の中に、自分の官能に働きかける強い力を感じていた。 はっきりと自分の意見を言う様子が好ましかった。 生き生きとした表情、時折見せるはにかんだ様子。 宇田は、理美を抱きしめたいと思った。 理美を恋している自分に、宇田は気がついた。 建物の入り口まで送るという宇田と並んで歩いた。 「ボクの授業、受けにおいでよ」 理美は、こくりとうなずいた。 「来年、君の美しい髪がここまで伸びていたら、うれしいだろうな」 宇田は、理美の背中、ブラジャーのあたりをそっと押さえた。 首筋が隠れるあたりでカットしていた髪を伸ばすことに、理美は決めた。 暖かい春の雨が降る日、宇田から、カードが届いた。 クリスマスカード、受験直前の励ましのカードに続く、3通目のカード。 《合格、おめでとう》 フランスからだった。 …学生たちの春休みのフランス語研修に、引率できています。 …授業が始まったら、会いましょう。 …お祝いをしてあげたい。 入学式を終え、華やいだ気分を引きずったまま授業が始まった。 宇田の《フランスの歴史と文化》の講義は、盛況だった。 内容が女子学生に魅力的なこともあったが、宇田の抑制が効いた、よく通る声も人気の理由だった。 学生時代、演劇を志していたらしい、というまことしやかな噂が流れていた。 それが間違いであることを、理美はベッドの中で知った。 宇田の興味は、演劇にはなくて、オペラにあったのだ。 (3) 初めての夜 新学年開始の興奮が冷めるころ、五月の連休が明けてすぐのことであった。 理美の入学のお祝いということで、代官山のフランス料理店で夕食をした。 オードヴルには、ウニのムース。 濃厚な味わいに、理美はうっとりする。 辛口の白ワインがとてもよく合う。 メインには、舌平目のパイ皮包み。 パイ皮のさくさくした歯ざわりと、クリームソースが絡まった舌平目の舌触り。 楽しそうに、おいしそうに食べる理美に、宇田もうれしくなっていた。 宇田は、理美を自分のマンションに誘った。 何度も口づけを交わすうちに、2人は、腰を覆う下着だけを残した姿でベッドに入った。 「髪、伸ばしてくれたんだね…うれしいよ」 誠は理美の長い髪に指を差し入れて、根元から毛先へ何度も何度も指を通して、その感触を楽しんだ。 本当にうれしそうだった。 胸に、腹に、キスのあとがついた。 誠の細く柔らかな指先が、パンティのなかに滑り込んだ。 草むらの感触をしばらく味わった後、これまで、誰にも触れさせなかった場所に侵入していった。 つぼみを下からそっとこすり上げられて、理美は、あ、とかすかにため息を漏らす。 そこは、理美のいちばん敏感なところ。 誠の手は、理美の内ももを押し広げるようにしてもっと奥のほうまで進む。 淫水が湧き出す泉のほとりをなでまわす。 そっと、ほとんど力を加えずに。 淫水で濡らした指先が、再びつぼみを刺激する。 そこは、ぷっくりと膨れあがって、包皮の下から顔を出す。 そこを、さらにさすり続ける。 んっ… 理美のあごがかすかに持ち上がる。 かすかに震えた乳首を、誠は吸う。 ああ… 乳首と、クリトリスに、同時に刺激を受けて、思わず声を出していた。 頬が朱色に染まっている。 アソコも、きっと熱くなってる… 目を閉じて、誠に身をゆだねている。 誠がパンティを脱がせるとき、ちょっとだけ腰を浮かせる。 いやあ… 誠に両足を広げられる。 誠の顔が、そこに近づくのがわかる。 (見ないで…) 恥ずかしくて、口に出せない。 誠がそこに口づけをしたとき、きゅんと締まるのを感じた。 誠の指で広げられる。 ちゅ、ちゅ、ちゅ… クリトリスに、それから、次第にキスの場所が下がっていき、とうとう、小さな開口部を、吸われた。 誠は、理美のひざを立てさせた。 それから、その間に下半身を割り込ませ、それからゆっくりと覆いかぶさる。 乳房を吸い、舌をさし入れてきて熱いキスを交わす。 目を開いた理美に、穏やかな誠の顔があった。 誠の下腹部に生えている硬いものがそこにあてがわれ、それから、ぐぐぐっ、と挿しこまれる。 ああああああっ… シーツをしっかり握りしめて、引き裂かれる痛みに耐えた。 「理美を愛せて、ボクはシアワセだ」 誠はそういいながら、理美のほほに、何度も口づけをした。 (4) 歓び 週に1度が、2度になり、3度になった。 性交の経験をつむにつれて、理美のぎこちなかった反応がしなやかになっていき、誠は喜んだ。 わずかな指の動きに、理美の肉が反応し、唇からあえぎ声が漏れる。 ある夜、理美は激しくからだを痙攣させながら、イッた。 《トリスタン》の第3幕が、鳴っている。 終曲、《愛の死》を歌う静謐なソプラノがかすかに聞こえる。 理美は誠の腕の中で、快楽の余韻にひたっている。 誠の指先が、ほてった理美の背中から尻にかけて、そっと撫で続ける。 やすらいで、目を閉じて、誠の愛撫を受けている。 ジャスミンティに浮かんだ氷をカリカリ噛み砕いた。 理美のしぐさに、誠は微笑んだ。 「おかしい?」 「いや…かわいいよ」 「うふ…」 氷のかけらを口に含んだまま、横たわる誠に抱き寄せられる。 誠の手が、理美のゆびをだらりとしたペニスに導く。 誠が何をしてほしいか、理美はわかっている。 上体をずらせて、ペニスを口に含んだ。 「おおっ…」 誠の手が、理美の頭を抱きかかえるようにした。 「キモチ、いいよ…」 理美のひんやりとした口に包まれて、ペニスが刺激され、むくむくと張りを取り戻す。 冷たい舌で舐められて、ペニスがひくりひくりと揺れる。 理美の横顔を見ようと、長い髪をかきあげる。 唾液で濡れたペニスが、理美の口に出入りしている。 唇と舌がひきだす快感を求めているにしても、理美がペニスをすわぶる姿を見つめることも喜びなのだ。 ペニスが理美の口の中で怒張していた。 淫裂をなめたくなる。 理美の下半身を口元に抱き寄せると、誠は、濡れそぼつ淫裂に舌を這わせる。 皿の底に残ったミルクをなめる猫のように。 誠は、肉のひだの奥に舌を挿しこんで、なめまわす。 ちゅるちゅる… 溢れ出る淫水を、誠は音を立てて吸った。 理美は、フェラチオを続けることができなくなって、ペニスをつかんだまま、上体をのけぞらせ、喜悦のあえ ぎ声を上げる。 「ああん…ああん…」 誠は、理美をベッドに横たえると、再び挿入した。 (5) 午睡 メトロポリタン歌劇場公演の夜を、シティホテルで過ごすことにした。 土曜日の正午過ぎ、渋谷にオープンしたばかりのホテルにチェックインをした。 今夜のために用意した真っ赤なミニのワンピースを見せると、誠は、とってもきれいだ、と喜んだ。 「それに合う下着を買いにいこう」 軽いイタリア料理の昼食をすませると、青山にあるランジェリーショップに出かけた。 カラフルで、しゃれたデザインのランジェリーが並んでいる。 可愛らしいもの、セクシーなもの、レースをたっぷり使った華麗なもの… 誠が選んだのは、鮮やかな緋色の一揃いであった。 ホテルに戻る。 買ったばかりの下着をつけて誠の前に立つのは、気恥ずかしかった。 「似合ってるよ」 誠は、理美を鏡の前に立たせる。 「ほらね」 「うん」 初めてつけた、ガーターベルトが、なまめかしい。 「カメラ持ってくるんだった」 誠は理美を抱き上げるとベッドに運ぶ。 「もう、こんなに濡れてる」 「いやあん」 「理美、感じやすいからね」 「言わないで」 「パンティ、びしょ濡れだ」 誠は、パンティだけを脱がせると、ガーターとストッキングをつけた理美に挿入した。 後始末のあと、全裸になってベッドに戻る。 背後から誠の腕に抱かれる。 セックスの心地よい疲れが、理美を午睡に引き込んだ。 満ち足りた幸せな気分で、まどろんでいるとき、腰に硬いものが触れた。 くすっ… 「ふふ…」 亀頭が淫裂にあてがわれ、先端が挿し込まれる。 理美は、最初のぐっという感覚が大好きだ。 背後から抱きかかえられた姿勢のままずぶずぶと進入してきた。 ペニスが、普段触れにくい場所をこすりあげる。 それは、理美の膣の右よりの場所であった。 「ああああああんっ」 強い快感が、理美を襲う。 誠のペニスも、思いがけず強い刺激を受けていた。 2人一緒に感じていた。 指を挿しいれたときに、確かに感じやすい場所であることは知っていたが、これほどの快感を与えてくれると は… 誠は、腰を突き出し続ける。 「ああ…ああ…ああ…」 (6) 真夏 夏休み、フランス語の研修に行きたいという理美に、祖母がお金を出してくれた。 優しい祖母にウソをつくのは、つらかった。 旅行の準備の買い物に母と出かけるのも。 2ヶ月近く、オーストリア、ドイツ、フランスを回るのだ。 誠と2人きりで。 旅行の準備は、結構大変だった。 スーツケース2個分の荷物になった。 東京に戻ると、母が買ってくれた白い下着のほとんどを、鮮やかな色のものと入れ替えた。 成田空港から、祖母に電話をかける。 「気をつけてね」 心配してくれる祖母の優しい声に、ちょっぴり涙ぐんだ。 ウィーンの町で、聖シュテファン教会の鐘楼に登った。 落ち着いた佇まいの町を散歩する。 立ち寄ったお菓子屋では、生クリームたっぷりのコーヒーに、名物のチョコレートケーキを添えて。 プラター公園の大観覧車からは、夕闇が迫る町並みを眺めながら、長いキスをした。 ベッドで、理美は誠と溶け合った。 モーツァルトの生家があるザルツブルクを経て、南ドイツに入る。 2人が待ち焦がれていた目的地が近づいていた。 ドイツの田舎町、バイロイトの祝祭歌劇場で《トリスタン》を観るのだ。 正装して、手を取り合って、劇場が建つ丘に続く道を登っていった。 演奏の開始を待つ暗闇の中で、目を閉じ、手を握り合った。 前奏曲の最初の音が聞こえてきたとき、誠は理美の手を握り締め、理美は握り返していた。 トリスタンとイゾルデの強い愛の姿が、自分たちに重なった。 第2幕第2場、愛の二重唱が高まっていくあいだ、じっと手を握り合っていた。 《ああ、愛の夜よ 《降りてきておくれ 《生きていることを忘れさせてくれ 《おまえのふところに抱き上げて 《この世から解き放っておくれ》 ふたりは舌を絡めて、熱い口づけを交わしていた。 理美は目を潤ませていた。 うねるような官能のドラマに酔いしれて、その夜、ふたりは明け方まで何度も交わった。 ロマンティック街道に行ってみたいという理美の希望で、誠はレンタカーを走らせた。 フュッセンの郊外にある、白鳥の城、ノイシュヴァンシュタイン城を訪れた。 《トリスタン》を愛した国王、ルートヴィヒ2世が建てた城。 夏の日の青空の下でも、その城は魅力的だった。 山腹に建てられて、森に囲まれて、まるで緑の湖面に浮かんでいる白鳥を思わせた。 土産物屋で、この城の、霧に浮かぶ幻想的な絵葉書を買った。 《トリスタン》を聴きながら、車を走らせる。 バイロイトでの陶酔の夜、ロマンティシズムの結晶である城の散策。 まるで夢の中のできごとみたい… 気持ちか高ぶる。 ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ… 理美は、ハンドルを握る誠の手の甲を口元に引き寄せて、キスをした。 それから、その人差し指を、しゃぶる。 フェラチオをするように。 付け根から、先端へ。 舌と唇を使って。 「おい、よせよ…」 「いや…」 「はは…危ないよ…」 「うふ…しっかり運転してて…」 「やめろよ…だめだってば…」 「わき見しちゃ、だめぇ…」 いたずらっ娘のような目つきの理美が可愛らしくて、誠はまんざらでもない。 理美は、片方の手で誠の太ももを撫でる。 ペニスがジーンズの中で膨れ上がり、悲鳴をあげている。 理美は、ジーンズの上からその感触を確かめる。 ビクンビクン、脈打っている。 きっと、先っぽ、ぬるぬる… うふ… パンティがぐっしょり濡れている。 理美は、無性に欲しくなった。 ジーンズから、いきりたったペニスを引き出す。 染み出した粘液を指先で広げる。 「ぐふっ…」 「うふ…」 わずかな水滴はすぐに乾いてしまう。 唇を近づける。 舌先で、鈴口をなめる。 ぴくん… ぷっくりとふくれあがった亀頭を、おおきな飴玉のように、しゃぶる。 それから、くわえこむようにして、根元に向かって唇をはわせる。 根元から先端へ、唇と舌を使って、理美は何度も往復する。 愛する誠のペニスがいとおしく、こうしてフェラチオをするのが、理美は大好きになっていた。 唾液でべとべとになったペニスの快感が高まる。 誠は、我慢できなくなって、わき道に入り、河畔に車を止める。 パンティを脱ぐときにダッシュボードにぶつけたひざの痛みを忘れて、理美は夢中で誠に応えた。 感情の高ぶりが、理美の内奥から激しい喜悦のあえぎ声をほとばしらせた。 助手席のシートは、理美の淫水でぐっしょり濡れて、大きなしみができた。 (7) パリ パリで、誠は何軒も書店を回り、専門書を買い込んだ。 誠の専門が、フランス刑法であることを、このとき理美は知った。 初対面のとき、和久井理事長が話していた「ケーホー」の意味が分かった。 ある書店で見つけた、皮装の分厚い書物を開くと、誠は、見入った。 細密に描きこまれたペン画が、たくさんあった。 拷問の場面が描かれていた。 まがまがしい皮製や、金属製の器具にからだを締め上げられて、男女が身をよじり、顔をゆがめている。 悲痛なうめき声が聞こえてきそうだ。 「こんな趣味なの?」 理美は軽い気持でたずねた。 「いやかい?」 誠の目がかすかに微笑んでいる。 書店員に配送を依頼して町に出た。 「いやかな?」 「え?」 「ああいうこと…」 「したいの?」 「ああ…」 「こわい」 「ふふ…理美を怖がらせるつもりはないよ…まねごとをしてみたいだけさ」 「痛いの、いやだよ」 「わかってる」 あらかじめ調べておいたのだろう、誠はタクシーの運転手に行き先を告げた。 SMショップで皮製の拘束具を数点、なめし皮でできたブラジャーとパンティを買い求め、ホテルに戻る。 その日の午後、大きく開いた窓越しの夏の明るさの中で、拘束具をつけて横たわる理美の写真を撮った。 ブリーフ1枚の姿になって、真剣なまなざしでデジタルカメラをかまえる誠の期待に応えて、理美はさまざま なポーズをとった。 足を大きく開き、ひざを立てて、レンズに向かって淫裂をさらす。 四つんばいになって、尻を高々と上げ、淫裂と肛門をカメラに向かってつき出した。 黒々としたまがまがしい形状のディルドゥを淫裂に挿しこまれ、左右に転がされる。 「見てごらん、ホントに、くわえ込む、って感じだよ」 「いやぁ…」 ディルドゥを挿し込まれた局部のアップの画像に、理美は頬を赤らめる。 ねじ込まれたディルドゥに、理美の陰唇がからみついている。 淫水を滴らせてびしょぬれになったそこは、よだれをたらして黒い棒飴をすわぶっている唇に見える。 「広げて」 自分の指で淫裂を開かされ、開いた口の写真を撮られる。 「子宮は、見えないな…もっと、広げて…奥まで、よく見えるように」 理美は、恥ずかしくてたまらなかった。 けれど、淫裂からは、とろとろと、蜜があふれ出る。 夕方、誠は理美に皮の下着をつけさせた。 黒い皮のブラジャーとTバック。 独特の感触。 「似合うよ、理美」 黒いシースルーのブラウス。 つけている下着が、はっきり見える。 レザーのミニスカート。 黒いハイヒール。 「出かけるよ」 「どこへ?」 「食事をして、それから、ライブを見に行く」 「恥ずかしいよ」 「美しいから、きっと、人目を惹く」 「いやだ、でかけるの、いや」 「理美、おまえの美しさを、ひとに見せつけたいんだ」 誠は、理美のわがままを許さない。 「まず、美容院だ」 予約してあるという美容院に連れて行かれる。 長い黒髪をした東洋の女に、美容師は喜んだ。 きわどい服装に合わせて、髪を仕上げ、メーキャップを施す。 ちょっとアグレッシブな感じに仕上がった。 「とても、いい。理美、とても、いいよ」 レストランの椅子が、むき出しのお尻にじかに触れる。 「どうした?」 「お尻が」 「気にするな」 そのレストランの壁は、鏡で覆われている。 空間を広く明るく見せるためと、鏡に映る自分や人の姿を楽しむためだと、誠が説明する。 鏡に目をやると、そういう楽しみ方が直ぐに理解できた。 さりげなく視線を移しながら、人間という景色を楽しめるのだ。 夕食で、どの客もおしゃれをしている。 恥ずかしい服装なのに、ヘアメイクと、化粧のおかげで、理美の個性が際立つ。 理美は、心もからだも、他人の視線を意識して、引き締まる。 「納得したか?」 「はい」 誠が言うライブとは、ロックコンサートではなかった。 ヌードショーだった。 サン・ドニ街にあるクラブ。 狭い入り口を抜けると、小さなホールがあった。 ステージの周りを、テーブル席がいくつも取り囲んでいる。 案内係は、ハイレグのコスチューム。 乳房がむき出しになっていて、乳首を貝殻の形をしたアクセサリーで隠している。 むき出しの尻をぷりぷりさせて、理美と誠を席に案内した。 薄暗い客席の、最前列の席。 小さな円いテーブルの上には、赤いシェードのついたランプ。 シャンペンを注文する。 まもなく、狭いホールにびっしり客が入った。 男女のカップルが多いが、男同士、女同士のカップルも、いるようだ。 ショーが始まる。 白人女性のヌードショー。 手が届きそうなほどの距離で、美しいヌードダンス。 「綺麗だろ?」 「ええ」 コントが終わると、客席が真っ暗になった。 メインのショーが始まる。 誠は、理美を抱き寄せている。 組んだ両足の奥に、Tバックを感じる。 ステージだけが明るく浮かび上がる。 黒いTバック姿の黒人男性が、出てくる。 均整が取れた筋肉質の身体。 皮膚は、うっすらと光沢がある。 股間の盛り上がりが、ペニスの大きさを想像させる。 バックステージの方角に右手を掲げる。 「ナターリャ・イワノヴァ」 司会者のアナウンス。 「ロシア系の女性のようだ」 黒い極小ビキニをつけた色白の女が登場する。 ふたりは、音楽に合わせて、踊り始める。 次第に、ふたりの身体が接近してゆく。 ダンスは続く。 互いの下腹部を密着させ、足を絡ませながら。 「すごく、セクシーね」 「ああ…見ててごらん」 誠は理美の手を握る。 肩を引き寄せて、チュッとキスをした。 ナターリャの指が、男の股間を撫でさする。 大きさを確かめるかのように。 「すごい…」 理美は、女が指先で亀頭を撫で回しているのがわかった。 指が、じらすように、茎にそって下がっていき、サオの根元から、タマ袋を撫でるのも。 女は、乳房を男の胸にこすり付けている。 男のTバックが、ずいぶん盛り上がっている。 亀頭のくびれ、サオの青筋が、薄い生地を通してくっきり浮かび上がる。 「ねえ…」 理美は、まさか、と思いながら、誠にたずねようにも、返事をくれない。 ただ、理美の手をそっと握っただけだ。 黒人男の指が、女のブラジャーをはずす。 乳房がこぼれだす。 男は、ブラジャーを客席に向かって、投げた。 理美のところから少し離れた客のテーブルに落ちる。 女のパンティが、別の方角に投げられた。 いつの間にか、舞台にベッドが用意されていた。 女を寝かせると、男は腰をくねらせながら踊り続け、とうとうTバックを脱ぐと、 それも客席に放り投げた。 見事に、女性の二人連れの席に落ちた。 男は、真っ黒いペニスを誇示するように、踊りながらステージを一周した。 ベッドの上で、ふたりのセックスが始まる。 目の前で繰り広げられる性行為。 理美は、誠の手を握り締める。 男がクンニをし、女がフェラチオをし… 誠の指が、理美の股間を這う。 「だめ、ひとに見られる」 誠の耳にささやく。 誠は、返事の代わりに、舌を絡ませてきた。 誠の後ろの席のカップルも、同じことをしていた。 漆黒のペニスが、白い肌の股間に開いた蜜壷に進入していく。 極太の肉棒が、肉つぼを広げるさまを観客に見せつけながら。 理美は、漏れそうになる声を必死にこらえている。 誠の指が、Tバックの股ヒモをずらして淫裂に分け入り、クリトリスを擦りあげている。 「だめ…だめ…声、出ちゃう」 舞台の上では、仰向けになった黒人男性の腰にまたがるようにして、ナターリャが、腰を使っている。 あえぎ声をあげながら。 客席からも、かすかな喘ぎが聞こえてくる。 後ろの席が誠の肩越しに目に入る。 テーブルの上に、パンティがのっていた。 「ん」 こらえようとすればするほど、理美の快感は高まっていく。 誠の指が、ブラウスのボタンにかかる。 「だめよ」 誠はやめなかった。 ブラジャーを跳ね上げて、乳房がこぼれ出る。 誠は、舞台に背を向けて、理美の乳房を吸い始める。 「おぅ」 「あぁ」 理美の席の周りから、淫らなあえぎ声が。 舞台の上の女が大きく叫び、男が女体から抜き出したペニスをしごき続け、とうとう精液を女の身体にぶちま けるのを、理美はうつろな目で眺めていた。 ホールは闇に包まれる。 「あぅっ」 「おぅ、おぅ、おぅ」 客席のあちらこちらから聞こえるあえぎ声。 理美は、乳房を吸い続ける誠の頭を、両腕で抱え込むようにしている。 誠の指が、蜜壷に差し込まれたとき、理美はこらえ切れなくなった。 我慢していたものが、一気に噴出した。 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」 BGMが流れ出す。 客席のあちこちで、さらさらと、衣擦れの音がする。 着崩れを直しているのだろう。 誠が、ブラジャーを直し、ブラウスのボタンを留める。 やがて、客席が少しずつ明るくなり、はじめの明るさに戻った。 後ろのテーブルにのっていたパンティは、姿を消していた。 後方の席の客から出て行って、理美も席を立とうとして、蜜壷からあふれ出した淫水で、ぐっしょり濡れてい るのに気がついた。 「どうした?」 「濡れてる」 「トイレに行こう」 「うん」 びしょ濡れだった。 おしっこを漏らしたかのように。 替えのパンティは、ない。 そのまま、ホテルに帰るしかなかった。 誠は、理美の淫裂に残るなめした皮の匂いに興奮していた。 脱がせなかった。 淫裂に食い込ませたパンティの細い股紐にクリトリスをこすられて、快感が高まる。 淫水を吸って細くしまった皮紐が、いっそう淫裂に食い込んだ。 理美は、何度も喜悦の悲鳴を上げていた。 皮の匂いの残る淫裂に怒張したペニスを挿しこんで、激しく腰を突き出しながら、誠は射精した。 (8) 結婚 成田空港の税関を抜けたところに、思いもよらない出迎えがふたりを待っていた。 祖母と、慶鳳女子大の和久井理事長だった。 祖母は、悲しみの表情を浮かべていた。 和久井理事長は、誠に怒りの表情を見せた。 「スキャンダルは、女子大の経営には致命的です」 理事長名で、何度も通達を出してきていた。 誠は辞職を求められた。 恩師の叱責も受けた。 夏休みが明ける前に辞表を提出し、追われるようにして、フランスの地方都市の大学に移った。 理美は、福岡に戻り、休学手続きの後、まもなく、自分の意志で退学した。 3年後、理美は、5歳年上の朝戸秀一と見合い結婚をした。 大学病院の勤務医だが、やがて父親の後をついで、朝戸総合病院の院長になるはずである。 誠実な人柄だとだれもがすすめた。 仲人の医大教授は、研究熱心な男ですよ、と褒めた。 結婚生活が始まった。 秀一の勤務は多忙であった。 外科医として、勉強熱心なのかもしれない。 夜間当直医の仕事が多かった。 普段の日も夜遅く帰宅した。 疲れきっているのか、理美のからだを求めるのも、どこかおざなりだった。 新婚の夫の務めでやっていると思われさえした。 そして… 理美の気持にほとんど関心を示さなかった。 理美の話も聞き流しているようだった。 理美の趣味が何なのか、覚えていないに違いない。 「成城の叔母に誘われているんだけど、オペラを観に上京してもいい?」 「ああ、いいよ」 だれに誘われたのか、なんに誘われたのか、何も覚えていないのだろう、と、理美は悲しくなった。 (9) 告白 渋谷のオペラハウス。 理美は、信子叔母と並んで客席にいる。 《トリスタン》の第2幕が陶酔のうちに終わった。 理美は、誠と並んでいる錯覚に何度も陥って、一度は信子の手を握り締めたほどである。 席が遠く離れているのに、心は同じ場所にあった。 「理美ちゃん誘って、よかった。こんなに楽しんでくれるなんて」 理美の胸のうちを知る由もない信子叔母は、理美の感動する姿に胸を打たれていた。 仕事に出かける秀一を玄関先まで見送った。 家事を終え、ディスクをスタートさせる。 東京から福岡に戻って、ここ数日、毎朝聴いている。 パヴァロッティが歌うアリア《だれも寝てはならぬ》 誠が大好きな、そして、理美も大好きになった曲。 誠が時々口ずさんでいたメロディ。 思わず口ずさむ。 ためらっていた。 誠がくれた携帯の番号。 携帯をじっと見つめる。 どうしよう… 理美、どうしたいの…? 番号を押す。 呼び出し音が鳴る。 ツーッ…ツーッ… 胸が高鳴る。 ツーッ… 誠が出そうな予感に、慌てて、電話を切る。 心臓が早鐘のように鳴っている。 ソファに寄りかかる。 目をつぶる。 からだ中の力が抜けていく。 動機がおさまりかけたとき、携帯の呼び出し音が鳴る。 一瞬ためらった。 「……」 「理美なの?」 「……」 「理美だね」 「……」 「うれしいよ」 「……」 「ボクはとってもうれしい」 昼間は、誠の空き時間に、深夜、秀一が寝静まってから、携帯でおしゃべりをした。 声をひそめて。 話したいことはいっぱいあった。 眠気が襲ってきても、つないだままにしておきたかった。 息遣いが聞こえるだけでよかった。 誠の腕に抱かれている気持ちがした。 ずっとこうしていたい… ある夜、誠が「愛している」と言い、理美が「愛してる」と応えた。 誠は、会いに来たがった。 「週末、福岡に行くよ」 福岡は大きな町だが、理美の知り合いも多かった。 「だめ…だめよ…」 (10) 冷たい手 翌朝、家事を終えた後、シャワーを浴びる。 バスローブを着て寝室に戻る。 下着の引き出しを開ける。 結婚生活に備えて買った、白い下着。 パンティを取り上げようと、伸ばした指が止まる。 一番下の引き出しに、秀一の目から隠すようにしまってある下着がある。 初めてオペラに行った時に、誠と買ったあの緋色の下着を取り出した。 パンティをはき、ブラジャーのホックを留めながらドレッサーに映った姿を見た。 「きれいだよ…似合ってるよ…」 あの時、誠はそういった。 背後から抱くようにして、ブラジャーに包まれた乳房をそっと包み込んだ誠の指の感触。 首筋への熱い口づけ。 それから唇に。 理美は、そっと乳房を持ち上げる。 誠、抱いて欲しい… 抱いて… ベッドに横たわると、左手でブラジャーの上から乳房をもんだ。 はじめ、おなかに置いた右手を次第に下腹部に滑らせていって、パンティの上から、淫裂をさする。 目を閉じる。 誠を感じる。 となりに横たわって、いとおしむように理美のからだに触れる誠の指を感じる。 首筋から、胸元に誠の口づけが下がっていき… 乳房を吸い… 乳首を口に含み… はじめはそっと、それから、力強く、吸ってくれる… 誠の、かすかな吐息を感じる… 誠… 秀一が出かけた家の中は、静まり返っている。 細やかな指の動きは、快感をひきだす。 理美は、夢中になっていた。 理美の指は誠の指。 ブラジャーの中に滑り込ませたその指先で、乳首をつまむ。 あんっ… かすかな悲鳴がもれる。 乳首から、淫裂に快感が走る。 悲鳴と同時に腰をヒクつかせていた。 指が、じっとりと濡れている。 んっ…びしょびしょ… 腰を浮かせながら、パンティを太ももまで下げる。 それから、左の人差し指と中指でVサインを作るようにして淫裂を左右に広げながら、開いてむき出しになっ た粘膜に右指をはわせる。 クリトリスが、ぷっくりと頭を出している。 そこを爪弾くようにしてやると、肉壷から淫水があふれ出す。 けれど、理美が好きな場所は、クリトリスと肉壷のあいだの粘膜の部分。 誠と見つけた場所。 その縦数センチほどのヌルヌルした場所が、理美のからだの芯に強い快感をもたらすのだ。 クリトリスを手前に引き上げるようにして、その場所をむき出しにすると、肉壷で濡らした指で、そっと、い とおしむように、こすり続ける。 からだが次第に熱くなる。 かすかに開いた唇から、小さな喘ぎ声を漏らす。 あっ…あっ…あっ… んっ…んっ…んっ… 指先に力が加わり、指の動きが早くなっていき… 腰を浮かせながら、そろえた人差し指と中指を肉壷に挿しこんだ。 ああああああんんっ… んんんんんっ……んんんっ……んんんっ 尻が、わなわなと震える。 理美がイッて、荒い息が次第におさまっていく様子を、寝室の戸口の影でじっと見ていた秀一の手には、久し ぶりに勃起したペニスが握られていた。 先端のぬめりを指先でのばしながら、そっと理美に近づく。 余韻にひたっていた理美は、人の気配に悲鳴を上げていた。 「ふふ…おまえ、淫乱な女なんだなあ…ふふ…」 秀一は、しごきたてていたペニスから指を離すと、おびえる理美を見下ろしながら、手早く着ているものを脱 いだ。 「したいんだろ…ん?」 ブラジャーをむしりとった秀一の手が、乳房をつかむ。 「いやあああっ!」 その手は、冷たく、しめっていて、理美を凍りつかせる。 「イヤはないだろ…夫婦なんだぞ…」 冷たい表情と裏腹に、秀一の声には怒気がこもっていた。 「そんなにしたいなら、してやるさ」 秀一は、思いがけない理美の痴態に興奮していた。 華やかな下着姿でオナニーにふける理美の姿が、AV女優を連想させる。 「なんだ…乾いてるじゃないか…」 秀一の指先がそこを掻き分けたとき、理美は身震いした。 冷たい指先が、まるで爬虫類が這いずり回るような感じがしする。 「いや…いやぁ…」 理美は、かすかに震えながら、耐えようとした。 秀一は、勘違いをした。 「はは…こうすると、気持ちがいいんだ…」 秀一は、人差し指を唾液で湿らせると、理美の肉壷に挿しこむ。 入り口から少し入ったところにあるざらざらした場所をこする。 「あっ…いやっ…」 秀一の指を追い出したくて、肉が締まる。 「はは…ここ、そんなに、いいのか…知らなかったぞ…」 理美は、いやでたまらなかった。 早く、抜いて… そう願って、じっとしている。 「ふふん…ここ、気持ちいいだろ?…ん?」 秀一は、中指も、肉壷に挿しこむ。 「理美、おまえ、さっき自分でやってたじゃないか」 秀一は、2本の指をV字に広げる。 「ほら、こうやってただろ…ん?」 お願い…早くすませて… 「ん?…乾いてきたな…」 秀一は顔をそこに埋めると、ぴちゃぴちゃと音を立ててなめる。 淫裂のひだの隅々に舌を這わせる。 下腹部で揺れ動く秀一の頭が、獲物をむさぼるトカゲを思い起こさせる。 秀一の舌先がふたまたに割れて、それがチロチロと理美の大切な場所をなめまわしている光景に、恐怖し、太 ももに力が加わって、秀一の頭部を締め付けた。 「ふん…そんなに気持ちイイのか…ん?」 理美の肉壷を唾液でべとべとに湿らせると、太ももの付け根、草むらのすぐ脇を激しく吸って、キスマークを つけると、舌なめずりしながら顔を上げる。 右手を添えて、怒張した陰茎を、理美の中に深々と突き刺した。 「あああっ…」 秀一は、ゆっくりと腰を使い始める。 秀一の視線を感じて顔を背ける。 早く、出して… さっき覗き見した理美のイクときの表情を見たくて、秀一は理美のあごをつかんで自分に向けさせる。 いやよ…早く、出してよ… 屈辱にゆがむ理美の顔を見つめながら、秀一はのぼりつめ、精液をたっぷりと理美の中に残して出て行った。 (11) 逢いたくて 理美は泣いていた。 シャワーを浴びながら、泣いていた。 指先で、秀一が残していった精液を掻きだすようにして洗い流す。 涙が、止まらなかった。 「会いたい…誠。会いたい…」 理美の泣き声に、誠は驚いた。 「今すぐ、会いたいよ」 「わかった。折り返し電話するから」 札幌から、福岡まで、乗り継ぎ便を調べる。 誠の仕事のやりくりもあって、どう急いでも、福岡到着は、夕方遅くになりそうだった。 「そんなに、待てない…待てないよォ」 「東京でなら、もっと早い時間に会えそうだ」 「そうしようよ」 「わかった」 羽田空港で待ち合わせることにした。 午後には、会える… とたんに、理美はうれしくなった。 何を着ていこうか… 迷っている時間は、誠を想ってときめいた。 下着が先に決まった。 パリのランジェリーショップで一緒に選んだワイン色の下着。 そう…思い出した… ブラジャーを試着するとき、乳房についたキスマークに、店員が微笑み、エロチックな黒い下着もすすめられ たのだった… ワイン色のワンピースにしよう… 下着とコーディネートするし… 薄手の生地で、触れるとからだの線が細かなところまでわかる… 誠、きっと喜んでくれる… 着替えをすませると、空港に急いだ。 東京までのわずかな飛行時間が、とても長く感じられた。 到着ロビーに誠を見つけて、駆け出していた。 予約しておいたホテルにチェックインする。 ボーイが出て行くのを待ちかねていたように、誠は理美をひしと抱きしめた。 見詰め合う。 「理美…」 「誠…」 「会いたかった…」 「うん…会いたかった」 激しく口を吸いあう。 もう、言葉は要らない。 互いの愛をはっきりと感じていた。 理美の背中を支える誠の手に力が入り、あふれ出る感情が理美に伝わる。 理美も、誠の背中をしっかりと抱きしめた。 誠の指が背中から腰に降りていき、スカートの中に入り込む。 パンティの上からなぞる。 ぐっしょりと濡れているのが薄い布地を通して分かる。 「うれしいよ…こんなに濡れてる…」 「だって…」 誠に抱きしめられるだけで、そこがぐっしょり濡れるのは、4年前と変わらない。 待ちきれなかった。 ひとつになりたかった。 理美は潤っている。 誠は激しく勃起している。 カーテンを引いて、昼間の明るさをさえぎる。 全裸になると、ほとんど愛撫もせずにひとつになった。 4年の空白がたちまち消え去り、理美は誠の腕の中で悦びの声をあげながら何度も達した。 誠は、朝の電話で理美が泣き声だった理由を知りたいと思った。 けれど、その理美が腕の中でうれしそうに、しあわせそうにしている様子に、聞かないことにしたのだ った。 オレといることで、こんなにくつろいでいるんだ…詮索するのは、余計なことかも… 「ああん…」 誠の指が、理美の淫裂を掻き分け、さする。 「んんっ…」 ぷっくりと膨らんで、ざらついた触感の場所を、そっと押すようにしてこする。 「んっ…ああん…あっ、あっ、あっ…んんん」 誠の指に、理美はもだえる。 「んんんっ…きもち、い、いいっ…」 誠の唇が、下腹部から、草むらに下がっていく。 理美の両足を開いて、股間に顔をうずめようとした誠の動きが止まる。 足の付け根、性器のすぐ脇に、秀一が今朝つけたばかりの、キスのあとを見つける。 誠は、嫉妬している。 理美のからだにキスマークをつけた男に。 夫に違いない。 しかし、その夫について、誠はほとんど何も知らないのだった。 名前すら知らないことに気づいた。 理美にたずねようとは、一度も思わなかった。 理美の口から、夫の話題が出ることもなかった。 意識して避けてきたのではない。 誠と理美のあいだには、夫は何の関係もなかったのである。 いま、この赤いしるしを目にするまでは。 突然、ふたりのあいだに、見知らぬ男が割り込んできたのだ。 そいつは、毎晩理美を抱いている。 いま、オレがしたように。 ついさっきまで、自分の腕の中でもだえ、あえぎ、達した理美の姿に、その男がおおいかぶさる。 そいつの腕の中で、理美はよがり声をあげ、何度もイッたことだろう。 誠の気持ちは急速にさめていった。 理美は、そいつの妻なのだ。 起き上がり、下着に手を伸ばす。 「どうしたの?」 振り向いた誠の目に、怒りと、悲しみとがあった。 冷ややかな顔に戻る。 立ち上がって、クロゼットに向かう誠の背中に、理美は抱きついた。 「いや…行かないで…」 追いすがる理美の泣き声に、誠は今朝のできごとを思い出す。 理美は、今朝のできごとを誠に話した。 秀一が、理美に何の関心も示さないことも。 誠は、今朝の泣き声の意味を理解した。 「秀一としても、気持ちよくないの」 誠は、理美をじっと見つめている。 「あのひととしても、何も感じないの」 理美は、愛しているのは誠だといった。 誠がいちばん大切なひと、と言い足した。 「オレもだ」 「ほんと?」 「ああ、ほんとだ。理美を愛してる」 「うん、わかってる。誠が愛してくれてるって」 四つんばいにした理美の背後から、誠は挿入した。 それから、あの場所、肉壷の右側、前よりの場所にペニスをこすりつける。 指で触るだけで、理美がイク場所。 そこは、ほんのわずかな面積、指先を少しずらすと、快感が弱まってしまうほどの点といっていいほどの場所。 誠の亀頭にも強い快感を与えてくれる場所だ。 誠は、理美の腰に手を添えて、引き寄せながら、ペニスを突き出す。 「ああ…あああん…あああんんんん…」 腕で上体を支えきれなくなって、理美は突っ伏した。 「あはあ…あはあ…あはあ…」 シーツに顔をうずめるようにして、あえぐ。 そのときだった。 誠の肉棒が埋め込まれた淫裂から、びゅっ、と液体が噴出した。 滴り落ちて、シーツに大きなしみを作る。 「んんん…んんん…んんんん…」 理美の尻が、わなわなと震える。 誠は、理美のイク表情を見たくて、理美の長い髪を脇にどける。 そのときの腰の動きが、例の場所を強く刺激して、一緒にのぼりつめた。 「おおおおっ…」 誠はうめきながら射精し、理美は、シーツを握りしめながら、イッた。 時計は9時を回っていた。 福岡行きの最終便は、とっくに出発している。 理美は、携帯を取り上げる。 自宅の番号を押す。 呼び出し音が、数度鳴り、秀一が受話器を取った。 「朝戸です」 「……」 「もしもし?」 「……理美です。今夜は……帰りません…」 それだけ言って、携帯の電源を切った。 誠の腕が、背後から、理美をしっかりと抱きしめた。 ーFIN− 2001/07/16 《愛のロンド》改題戻る