第三話「消えていく衣服。」


 魔術師がシルクハットより取り出したのは、緋色の大きな布。人間をすっぽりと包み込める ほど大きなこの布は、マジックの小道具としてはメジャーな物でしょう。 「ここに取り出しましたこの赤い布。今度はこいつを使ってちょっと面白い事をしてみようと 思います」 「さてとこの布、こうして裏にしてみましてもただの布。見ての通り、種も仕掛けもまったく ございません」 「まずはこいつをこうして我らがヒロインに被せます」  マジシャンはそう言って、布を少女の上に被せます。布はかなり大きく、少女の体を完全に 覆い隠します。そして、カウントと共にマジシャンは布を取り払います。定番ならば、ここで 少女の姿が消えていたりするのですが、どうやら様子が違うようです。  少女はキョトンとして客席を見つめています。彼女の立ち位置に変化があった様子はまった くありません。一体何が変わったのか。客席の方でも少女をじっと見つめています。そして、 しばらくの沈黙の後、客席がざわめき始めます。 「おい、なんか変わったか?」 「いや、そうは見えないが」 「なんだ? なんにも変わってねえぞ」 「どうした? 変化がねえぞ。しくじったか? このへぼマジシャン」 「どうかお気を落とさずに。失敗は誰にでもありますから」  さまざまな野次が舞台上に飛んできます。黒崎は自分は本物の魔術が使えると言いました。 その彼がミスを犯すなんて。それとも、やはり彼の話はでたらめだったのでしょうか。しかし、 当の本人からは動揺した様子はまったく感じられません。右手を挙げてざわめきを征すと、客 席に向かって、語り掛けます。 「ご来場のみなさま。もう一度よくこの神崎嬢の姿をご覧下さい。上から下まで隅々と」 「どうですか? ちゃんと変化している所があるでしょう。わかりましたか?」  マジシャンの言葉に誘われて、観客全員が少女の体に視線を向けます。そう、それこそ舐め るように、彼女の肢体を注意深く見つめます。そんな粘りつくような客席からの視線を浴びて、 少女は再び頬を染めます。これほど多くの人間にこんな風に見つめられた事など今までなかっ たのでしょう。  やがて、前の方の席が再びざわめき始めます。わかったとか、ほらよく見ろ、とかいう声が 聞こえてきます。やがて、皆の意見を代表するように一人の男が声を上げました。 「シューズがなくなっている。それにソックスも」 「おお、本当だ。すげー」  会場中を包んでいた野次は、今度は大きな歓声となって舞台を揺さぶります。少女もやっと その変化に気付いたようです。しかし、いくら自分の視線の中になかったとはいえ、靴や靴下 を脱がされていれば普通は気付くと思いますが。少し鈍感な所があるのでしょうか。 「それでは、気を取り直してショーを続けましょうか!」  魔術師は再び布を少女に被せます。しかし、興奮状態にあるせいでしょうか。それの意味す る事に気付く者は誰もいないようです。そう、少女自身でさえもその事に気付いてはいない様 子。冷静に考えればすぐにわかるようなことに。  再び布が取り払われます。場内はまた静まり返っています。また、失敗に見えるから? い え、そうではありません。今度の変化は誰の目にも明らかです。しかし、そのあまりの事に言 葉を失っているのです。 「え、や……」  今度は少女もその変化に気付いたようです。季節は夏へと向かっている頃。彼女の服装は白 い半袖のブラウスに青いフレアスカートというものでした。そのブラウスが消えていました。 結果、彼女の白いブラジャーが露わとなり胸の谷間も覗いています。ブラジャーもやはり余計 な機能などないシンプルなものです。縁には簡単な飾りがついていますが、それも最低限のも ので、レースになっていたりとか、底上げの機能があったりという物ではないようです。そし て、そのブラジャーに包まれた胸はCといったところでしょうか。どちらかというとあどけな い、その顔に似合わずなかなかの大きさです。  多くの視線が少女の胸元に突き刺さります。彼女はなにかをしゃべろうとしますが、それを 遮るように魔術師は再び布を被せました。  次に布が取り払われた時、大方の予想通り少女のスカートが消えていました。彼女のショー ツはさっきもじっくりと見れましたが、こうして立位で正面から眺めるとまた違った趣があり ます。しかも、なんといっても今はブラウスも身に着けていない、まったくの下着姿なのです から。服を着ていた時にはわからなかった、彼女のプロポーションの良さに観客達は感心し、 正直にそして卑猥に褒め称えました。 「いや、マジシャンさん。あんたも憎いね」 「良いもの見せてもらいましたよ」  客席から盛大な拍手や賛美の言葉が飛んできます。しかし、ショーはこれで終わった訳では ないのです。


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