プロローグ「マジシャン登場」


 冷たいビルが立ち並ぶ街。心の乾いた人間達が跋扈するこのコンクリートのジャングルも、 夜になれば輝くネオンに彩られます。乾き、疲れた心を潤すための繁華街。その片隅にあるさ びれた劇場で、なにかがひっそりと行われようとしているようです。劇場の入り口の看板には こう書いてあります。「真夜中のマジックショー」と。しかも、よく見ると「18歳未満観覧禁 止」とも書いてあります。それ程までに過酷な内容なのでしょうか? それとも、他になにか 理由があるのでしょうか? どちらにしても、ただのマジックショーではなさそうです。  その看板に惹かれたのか、場末の劇場にしては結構人の入りは良いようです。時間は日付も 変わろうかという時分。そろそろ開演の時間のようです。我々もこのちょっと奇妙な見世物を、 少し覗いてみることにしましょうか。  おや、間違えて楽屋の方に来てしまったようです。中には黒いタキシードにシルクハットの 男がいます。いかにもマジシャンという格好。彼がこのショーの主役でしょうか。おっと、こ ちらにやって来ます。どうやらこちらに気付いた様子。咎めるつもりでしょうか? しかし、 その表情には怒りではなく笑顔が浮いています。どうやらそのつもりはないようです。しかも、 我々を気に入ってくれた様子。自分と同じ匂いでも感じたのでしょうか。目の前まで来ると、 シルクハットを脱いで挨拶を始めました。 「今日は本当に良い日だ。あなたのような方に出会えるなんて。こいつは今日のショーは期待 できますかな」 「おっと、自己紹介がまだでしたな。私の名前は、黒崎誠二。ハンカチやシルクハット、その 他さまざまな道具を使って摩訶不思議なショーを演じることを生業としている、いわゆるマジ シャンと呼ばれる者でございます」 「日本全土を北に南にと渡り歩いて小さな劇場で公演をさせてもらっております。ただし、私 のマジックはそんじょそこらのマジシャンのものとは違いますよ。なんと言っても私のマジッ クは種や仕掛けが全くない、本当の魔術なんですからね」 「なに、そんなことが出来るのならこんなところでしがないマジシャンなんかしていないでテ レビにでも売り出せば良いって?」 「ご冗談を、私はああいう風に騒がれるのはあまり好みませんでして。それにあんな物は最初 こそちやほやされますが、最後には色々となんくせつけられて潰されると相場が決まっており ます。そんなことは真っ平ごめんでして」 「おっと、そんなことよりせっかくいらしゃったんだ。私のマジックショー、ぜひご覧になっ てはいきませんか? といっても、最初からそのつもりのようですな」 「最近、私はちょっと変わったマジックに凝っているんですよ。今、私が手がけているのは若 い女性を使ったマジックでして。それもわざわざ真夜中に上演するような内容のね」 「どうです? 興味が湧いてきましたでしょう。さあさあ、ついてきて下さいまし。特別席に ご案内しますよ!」


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