第二話「マジックボックスの罠」
軽い足取りでマジシャンの元へと向かう少女。コートの下は黒いブラウスにジーンズという
格好だったようです。その短めに整えられた髪と合わせて、快活な印象を受けますね。そのキ
リッとした顔立ちには、野性的な魅力があります。どちらかといえば、異性よりも同姓に人気
がありそうなタイプですね。
「それでは、あなたの事を少し教えて下さいませんか?」
魔術師に問われるままに、少女は自分のプロフィールを話していきます。少女の名前は鈴野
愛。彼女はこの近くの学校に通っている女子大生だそうです。ここには、隣に座っている由利
という友人に無理矢理連れて来られたとのこと。魔術師の手前、普通はこういう事は少し誤魔
化すものですが。どうやら、はっきりと物を言うタイプのようです。
「それでは、そろそろ始めましょう」
「鈴野さん。あなたには、あの箱に入ってもらいます」
マジシャンの声に合わせて、ステージの後ろに黒い箱が用意されます。手前に両開きの扉
が付いた、人が入れる程の大きさのそれは、マジックボックスと呼ばれている物のようです。
中に入った人間がいつの間にか消えているという、おなじみのマジックですね。しかし、この
魔術を成功させるには中の人間の協力が必要なはず。いきなり客席から呼んだ少女などで大丈
夫なのでしょうか?
「それでは、お願いします」
少女は魔術師に促されるままに、黒い箱の中へと入ります。扉が閉められ、厳重に鍵が掛け
られます。そして、セオリー通りにマジシャンは剣を取り出しました。
ですが、そこはさすが黒埼です。普通に刺すような事はせずに、剣自体を一度空中に浮かべ
ました。左右に3本ずつ、計6本の剣が箱の横に並びます。魔術師の合図でそれが一斉に箱へ
と突き刺さりました。
「それでは中を見てみましょう」
黒崎は鍵を外し、扉を開きます。そこには驚くべき光景が広がっていました。
「そんな……」
「きゃー、串刺し!」
「う、うそだろ……」
「おい、よく見ろよ。あれ、服だけだぜ?」
「あっ、ほんとだ。なんだ」
「やだ、びっくりした」
箱の中では、少女が身に着けていたブラウスとジーンズ、そしてソックスやシューズなどが
剣に刺されていました。確かに、パッと見には少女自身が串刺しになっているようにも見える
かもしれません。しかし、服の中はからっぽ。それを身に纏うべき彼女はどこに行ってしまっ
たのでしょう?
そんな客席の疑問に答えるように、魔術師が円形ステージの中央を指差しました。そこから
スモークが湧き上がります。そして大方の予想通り、箱の中に入ったあの少女が煙の中から現
れました。ですが、彼女が着ていた衣服は後ろで串刺しになってしまっています。彼女が身に
着けているのは、一対の下着だけでした。
その大半が晒された少女の体。何かのスポーツをやっているのでしょうか。その顔と腕、そ
して脚の部分が少し日焼けしています。腿と肩の部分に、白い肌との境界線が表れていました。
その小麦色の肌に見合う、引き締まった体つきをしており、まるで全体がバネのような印象も
受けます。もっとも、胸までがスレンダーなのは少々残念ですね。
その胸を、下の秘密の部分を包む下着は、薄い桃色の品物です。ブラのカップや股の前面部
分に刺繍の入った、なかなか凝ったデザインの物です。ショーツの端の部分には、綺麗な縁取
りも施されています。ここら辺は、やはり女性だと言った所でしょうか。しかし、そっけない
ジーンズの下に履くのは、ちょっともったいない気もしますね。
突然の出来事に呆けていた少女ですが、ようやく我に返ったようです。周りの光景に、そし
て自分の姿に気が付き慌てて体を隠してうずくまりました。
「なにすんのよ、このエロマジシャン! あっ、私の服。あんなにしてどうしてくれるの!」
少女は掴みかからんばかりの勢いで黒崎に詰め寄ります。まあ、服を串刺しにされた上に、
下着姿までも晒されたのですから当然でしょう。しかし、あの黒崎相手にここまで強い態度を
とれるとは、なかなかの大物ですね。
「これは申し訳ありません。未熟ゆえ、服は移動できませんで」
黒崎の言葉は明らかに嘘でしょう。彼がそんな失敗をするはずがありませんから。それに服
が残るのなら下着も残るはずですし。
「まあ、これでお許し下さいませ」
マジシャンが指を鳴らすと、少女の格好が変わりました。あられもない下着姿だったのが、
きらびやかなドレス姿へと変化しました。
「こ、これって私が……」
フリルの付いた薄桃色のドレスを身に着け、頭に金の冠を被っている少女。まるでおとぎ話
に出てくるお姫様のような姿です。
「その通り。これは、鈴野さんがアンケートに書いて下さった衣装です」
そう言って魔術師はアンケート用紙を掲げてくれます。そこには、「憧れの女性に着せたい
衣装。女性の方は自分が着てみたい衣装。」と書いてあります。なるほど、先程のアンケート
の内容はこういうものだったのですね。
どうやら、今度も少女の気を静めるのに成功したようです。彼女は、それ以上黒埼に詰問す
ることはしませんでした。先程もそうですが、こうも簡単に機嫌を直すなんて意外と単純なの
でしょうか? まあ、自分の憧れの衣装を着られたのなら気分が悪いはずはないのでしょうが。
それにしても、このような服を選ぶなんて。彼女、意外と少女趣味なのかもしれませんね。
「それでは、鈴野さん。その姿のまま、みなさんに挨拶してくれませんか?」
少女は衣装が全ての方向から眺められるように、円の中央でゆっくりと一回転します。そし
て再び正面を向き、両腕を広げてゆっくりと礼をしました。衣装のせいか、本物のプリンセス
のような優雅ささえ感じます。
「さて、次はみなさまの中で一番お答えが多かった衣装です!」
魔術師が指を鳴らすと、再び少女の姿が変化しました。
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