その19「亀さん久々の登場!」


 「んっ……あふうんっ……あんっ」  艶かしい声がワンルームマンション内に響いていた。  姫子はベッドの中で久し振りの一人エッチに耽っている。 「あの子が……あんっ! いやらしいこと……するから……我慢できないよぉ」  蕩けた声をあげてベッドの上でクネクネと身悶えしながら清楚なライトブルーのショーツの中に右手を挿し込 み、クチュッ、クチュッとかすかな粘液音を立てているのはもちろん姫子である。  天才少女、ようかのテクニックで絶頂寸前まで燃え上がらされた官能の炎は、姫子に自慰を強いていた。 「あんっ! ……あの娘が……あひっ! 悪いんだからね……あんなに舐めたり、吸ったり……おっぱい弱いの に……きゃんっ!」  ようかにじっくりと舐められた余韻が残ってジンジンと甘く疼いている乳首を指先で摘み上げた瞬間、想像以 上に強烈な快感に身体を貫かれて姫子は可愛い悲鳴を上げてのけぞってしまう。  右手で胸をこね回し自分でもほれぼれするほどの柔らかさと弾力、そして熱い波のように沸き起こってくる快 感に身をよじりながら、股間に差し入れた左手でクチュクチュと荒っぽく秘裂を弄る。あまりピンポイントで「 気持ちのいいところ」を刺激すると、あっという間にイってしまいそうなので、少し自分を焦らして快感を味わ っているのである。 (ここ何ヶ月かであたしって随分エッチな女の子になっちゃったよぉ……あ、ダメっ! イくっ、あ、、あ……) 「やはあああんっ! 来ちゃうっ! あ、あ、あ、……イ」 『おーっす、姫ちゃんお久し振り〜』  少し焦らしたせいでいつもよりもちょっとだけ「深い」絶頂を姫子が迎えようとしたその瞬間、脳内にいきな り懐かしい声が響いた。 「どえぇぇぇぇぇっ! 亀さんっ!? 何でこんなとこに出てくるのよぉ!!」  もう少しでイけそうだと思っていた矢先に響いた亀甲魔の声に、姫子はベッドの上に跳ね上がって叫んでいた。  爆発寸前まで高まっていた興奮が急激に冷めていく。 『いや、こっちにも都合というか、予定というか、雑用というか、ストーリー進行上の都合というか……まあ、 要するに色々あったんだよ。で、最近、淫魔の活動が盛んになってきてるんだけど……』 「だからってこのタイミングで呼びかけてこなくてもいいでしょ! 後一分待ってくれたら良かったのにぃ!  このバカガメっ!!」  姫子の叫びがワンルームマンションの室内に響き渡る。 『ひょっとして、オナニーしてて絶頂寸前だった? そいつはすまないことをしたなぁ』  全然すまなく無さそうな亀の声が頭の中に響き渡る。 「恥ずかしいことをはっきり聞くなぁ!」ズバーン! と音を立てて枕にパンチを打ち込み、再び姫子は絶叫し てしまう。 『だって、ほら、わたしだって一応淫魔だから、そういうこと聞くのに何の抵抗もないんだよね、むしろ得意だ ったりして。はははははっ』  妙にさわやかな亀甲魔の笑い声は姫子の神経を逆撫でする。 『まあ、とりあえずそういうことで、今夜、久し振りに出動だからよろしくっ♪』  姫子の頭の中から亀甲魔の気配が消えた。 「もぉ! 言うだけ言ったらさっさと消えちゃうんだもんなぁ……」  ぶつぶつ文句を言いながらもシャワーを浴びてエッチな気分の残り火を無理やり消した姫子は、ちょっと疲れ た表情でグローバルビデオジャーナルのオフィスへと戻っていた。 「ただいまかえりましたぁ〜」 「おかえり〜。姫子ちゃんなんだか疲れてますねぇ」  ふにゃっ、とした柔らかな笑みで出迎えてくれた由美子が、ちょっと心配そうな声音で尋ねてきた。  いつも元気一杯の姫子が疲れた顔をしていると、オフィスの空気も何となく重くなってしまうのである。 「よっ、お帰り。どうだった、天才少女作家殿は?」  滝の質問の言葉で、ようかによってその身体に送り込まれた妖しい快感を思い出してしまい、姫子は頬を染め てしまう。 「えっ、いや、まあ、天才っぽかったですよ……あははは」  乾いた笑い声を漏らした姫子はそれ以上の会話を打ち切り、インタビューデータの入ったビデオディスクを由 美子に手渡すと、そそくさと退社した。 「はぁ……そういえば今夜は菊花先生が一席設けてくれるんだったなぁ。よし! 思いっきり食べてウサ晴らしだぁ!」  気持ちの切り替えが早いのも、姫子の長所である。 「あ、来たわね。……なによ、あなたのその格好は!」  江楠田ステーションホテルの最上階にある高級チャイニーズレストラン前にいそいそとやってきた姫子に、黒 いドレスに身を包んだ麗子が馬鹿にした視線を向ける。  ツンと上を向いて突き出した美乳のラインと、細くくびれた腰、日本人離れした脚線美を引き立てるデザイナ ーズブランド物らしいドレスをまとった麗子に対して、姫子は白いコットンシャツとカーキ色のハーフパンツの 上にブルーのヨットパーカーというカジュアルスタイルである。 「そんな事言ったって。あたしはそういうセクシー衣装が似合わないし、持ってないもん」  口を尖らせて子供っぽい不満の表情を見せる姫子にちょっと優越感に満ちた視線を注ぎながら、麗子は深紅の ルージュを塗った形のいい唇に笑みを浮かべている。  どうも、姫子のことを出来の悪い妹のように感じているらしい。 「……遅いですね」 「ひょっとしてバックれたんじゃないでしょうね?」  約束の時間を五分過ぎても菊花医師が現れないので、二人は多少焦れ始めていた。 「ねえ、麗子さん。今夜、出動するように亀さんに言われたんだけど、ちょっと気になってることがあるんだよ ね」  姫子はちょっと言いにくそうな口調で話し掛ける。 「何? 例の仮面ファイター情報の書き込みのこと?」 「そう! あの書き込みの犯人がわかったんだよぉ! とってもひどいガキンチョなんだよ! 凄く小悪魔な人 だし……」 「会ったの?」  ちょっと興味ありげな表情になって尋ねてくる麗子に、ようかのことをかいつまんで話している最中に、エレ ベーターホールから、ようやく菊花医師がやってきた。 「ごめんなさいね、急患が入っちゃったのと、その後で知り合いを迎えに行ってたので少し遅れちゃったわ」  そう言ってやってきた菊花医師の背後にたたずむ小柄な少女を見た姫子の目が大きく見開かれる。 「あ、あ、あなたはぁ! ようかちゃん!」  魔性のロリータ仮面ファイター、ようかがそこに立っていた。  続く


その20へ続く