回り道編・第2話「綾乃の悩み事-野宿編」-3


 ―――体が……どんなに冷やしても……熱い。
 ―――股間はいつまでも収まらなくて、
 ―――先輩の姿を見るだけで、
 ―――先輩の声を聞くだけで、
 ―――先輩が傍にいるだけで、
 ―――苦しくなるほど大きくなってしまう。
 ―――どうしても小さくする事ができない。
 ―――思いつく手段は、もう、あと一つしか残っていないのに……



 テントに一足先に帰ったあたしは、剣やジャケットを元あった場所へ戻し、寝袋へともぐりこむ。
 ………う〜ん、結局どうやって綾乃ちゃんを何とかすればいいのやら……
 股間に溜まっている闇属性の魔力のせいで、あんなにも情緒不安定になっているのだろうか? それならあたしが体を張って、綾乃ちゃんの身も心もすっきりさせてあげればいいんだけど……トラウマ作っちゃったりしないか、ちと不安だ。
 はぁ……こんな事になるんだったら、娼館で媚薬をちょっと貰ってくればよかったかな……
 多少は女の子の体でエッチする事になれてしまったとは言え、素面(しらふ)で自分から男に抱かれようとは思わない。アルコールにはそれほど弱くないので、娼婦としてお客に尽くす前には軽い興奮剤に頼る事もある。
 あたしは、綾乃ちゃんにだったら抱かれてもいいと思っている。一緒に旅をしている大切な仲間だし、妹のようにさえ感じている女の子が苦しんでいるのなら、何をしてでも助けてあげようと思う。それに、あたしは体が男から女に変わってしまい、綾乃ちゃんは一ヶ月に一度だけとは言え大切な場所に男の子のモノが……そんな普通じゃないところにシンパシーを感じているのもあるだろう。
 けど……エッチしてあげようと思って相手が来るのを待つこの時間の、なんと辛く、ハズかしい事か。
 落ち着こうとしても目はギンギンに冴えてしまい、寝袋の中で押さえつけている胸はドクドクドクドク激しく力強く全身に興奮した血液を送り込んでいる。んるまえにブラをはずしているからシャツ越しにも乳首が軽くたっているのも分かってしまうし、モジモジすり合わせている太股の付け根にも熱い湿り気が立ち込めつつある……はっきり言って体の準備は完全に整ってしまったわけなのだが、“男”のあたしとしてはそんな自分が恥ずかしいやら恨めしいやら。頭の中であの綾乃ちゃんをどんな風に可愛がってあげちゃおうかなんていうピンク色の妄想まで広がってしまい、それに気づいて自己嫌悪がますます深くなってしまう。
 ―――か…覚悟を決めたのはいいけど……やっぱりこの時間は長すぎるよォ〜〜〜!
 呼吸さえままならなくなりそうな緊張を押さえ込みながらどれだけの時間が過ぎただろうか……すっかり頭の中がユデタコになってフラフラしていると、テントの入り口が開けられ、涼しい夜の空気がテントの中へ流れ込んでくる。
 ―――ピシャ
 違う……テントの中に綾乃ちゃんが入ってくる気配を感じた瞬間、あたしの頬を撫でた空気の冷たさが夜闇のものではなく、冷たい水の傍を撫でるように通り過ぎたためである事に気付く。
 川の水の湿り気と臭いを含んだ空気と、テントの中に響いた不自然な足音……それは綾乃ちゃんが体を濡らしたままテントまで戻ってきた事を意味している。
「セン…パイ……」
「――――――」
 綾乃ちゃんが出て行った時と同様、あたしは返事を返せない。軽い驚きが昂ぶっていた興奮を一気に醒めさせてしまったためなのだけど……それ以上に、綾乃ちゃんの声に含まれていた異様な雰囲気に心を飲み込まれかけたせいでもある。
 ………いつもの綾乃ちゃんじゃない……?
 そんな事は態度の違いから既に気付いていたはずなのに、今の綾乃ちゃんは想像以上……まるでテントの入り口にいるのがサキュバスかと思うほどに、その幼くて可愛らしい声には相手を魅了して理性を蕩かせる魔力のような雰囲気を帯びていた。
「先輩……覗いてましたよね、私が……森の中でオナニーしてるとこ」
 ―――ば、ばれてた!?
「私ね……先輩の視線を感じながらおチ○チンを擦ってたんです。スゴく…気持ちよかった。興奮しすぎて……頭が変になるかと思っちゃいました……」
 綾乃ちゃんから流れてくる冷たい空気とは裏腹に、その声は興奮の火照りを孕んでいた。まるで告白する事で心の昂ぶりをより高めているかのように、陶酔を帯びた言葉を続けながら、入り口に背を向けて寝袋に入っているあたしの背後に屈み込む。
「さっきも見てましたよね。川の中で、私が腰を突き出しているところを……離れた場所で、茂みに隠れて、私……先輩に聞いて欲しくてパシャパシャ音を立ててたんです……あは、思い出したら…またおチ○チンが疼いちゃうゥ……♪」
 ―――今の綾乃ちゃんは女淫魔(サキュバス)じゃなくて、男淫魔(インキュバス)ってとこなのね……
 あたしは完全に動き出すタイミングを逸していた。
 綾乃ちゃんが入ってきた時に「お帰り」とでも声を掛けてればよかったし、その前の出て行く時でも声を掛けようと思えば掛けられた筈だ……と今になって思うけれど、オナニーしに行くのが察しついてて「どこ行くの?」なんてあたしに言えるはずもありませんでした。
 ………ううう……ええい、このまま寝たふり決め込もう。あたしは何も見なかったし何も聞かなかった!
「もう……寝たふりはダメですよ……」
 ―――うわ、バレバレだぁ!
 だけど、体を起こすどころか指一本動かす事さえ出来ない。ヘビに睨まれたカエルのように、綾乃ちゃんを声が耳の奥に流れ込むほどに金縛りになり、唇を噛んで意識を強く持っていなければ本当に何もかも飲み込まれてしまいかねなくなっている。
「起きてくれないんですか? 私……今、物凄く先輩とエッチしたい気分なのに……」
 動けていたらどう反応した事やら……複雑な気分を抱えても苦笑一つもらせないあたしの背後から、寝袋の前へと綾乃ちゃんは移動し、あらためて膝を突いて屈み込む。
「目を開けてくれたら……ギンギンになってる私のおチ○チンを見せてあげちゃいます………ふッ…んゥゥゥ……あ…ハァ………先輩、見て、私のイヤらしいおチ○チン。先っぽからヌルヌルしたのが溢れて止まらないのに……ねぇン♪」
 あたしの顔のちょうど正面から綾乃ちゃんの声が聞こえるのだから、目を開けばそこには秘唇の上で雄々しくそそり立っている肉棒を目にすることが出来るだろう……けれど、甘えた声で誘惑されたからと言って、頭と体が切り離されている今の状態では目を開けることも出来ない以上はどうしようもない。
「私のおっぱいって先輩ほど大きくないけど、今は物凄く張り詰めてるんです……おマ○コだって、先輩の顔の前で脚を開いてると思ったらヒクヒクが止まらないの……あ、あァ……イっちゃいそう…先輩の顔に、おチ○チンとおマ○コから、熱いのいっぱい、いっぱい噴き出しちゃいそう……ッ!」
「ッ…………」
「もう…もういいです。先輩がずっと寝たふりしてるなら、私も、勝手にしちゃいますから……いけないこと、しちゃうんですから……」
 と言うことは、あたしが綾乃ちゃんに犯される!?……一瞬、それもいいなとか思ったのは無視しつつ、ばれないようにこっそり喉を鳴らすと、おもむろにあたしの寝袋のジッパーが開けられ、内側に綾乃ちゃんの手が滑り込んでくる。
 そして……体の上にしていた左手だけを寝袋から引っ張り出したかと思うと、
「はあァん!」
 その手の平に、綾乃ちゃんは自分のペ○スを握らせ、甲高い嬌声を迸らせた。
「ん…ふゥうぅぅぅ〜……先輩の…手……あ、ああぁ…スゴく…気持ちいい………♪」
 緊張ばれないように必死になって弛緩させている左手に、小指が根元を向くように順手で肉棒を握らせると、綾乃ちゃんはその上から自分の手を重ねて強く握らせながら腰を降り始める。
 ………あ…あたしの手でオナニーしてるの!?
 他人の手だから自慰と呼ぶかどうかはともかく、川の水と、それ以上に先端の小さな縦筋からあふれ出している先走りを纏いつかせた綾乃ちゃんのペ○スは想像以上に熱く、硬い。熱した鉄の棒を握らされているのかと錯覚するけれど、手の平と五本の指に押し付けられている人の肌の質感と吸い付くような触感、そして抜き差しされるたびに人差し指と親指とに擦り付けられるくびれと盛り上がりが、それが綾乃ちゃんの性器であると見なくても確信させる。
「先輩ったら、見てるだけで、わ…私に何もしてくれないから……待ってたのに。先輩が、わたしを襲って、目茶苦茶にしてくれるのを、なのに、それなのにィ……!」
 あたしの手の感触に酔っているのか、綾乃ちゃんは腰を前後に大きく動かし、グイグイと手の中へ肉棒を押し入れてくる。ヴァギナに見立てられたあたしの手が腰の動きにあわせて動いてしまうので手指で作った“穴”を出入りする幅は小さいものの、それでも綾乃ちゃんは悦びの声をあげ、次第にピッチを速めていく。
「んっ……あっ、はっ、あっああっ、ハァ、んあっ、んあっ、お…おチ○チンが…痺れちゃう……先輩の手が…物凄くイヤらしいから……♪」
 いやらしい手と言われても……あたしはただ、強要されて綾乃ちゃんのペ○スを軽く握っているだけで何もしていない。握力に強弱もつけていないし、手首にひねりを加えているわけでもない。
 それでも綾乃ちゃんは歓喜に震える声を上げながら荒々しいピストン運動を繰り返し、握り締めさせているあたしの手へ肉棒を根元まで押し入れてくる。
「んうううッ! んっんっ、あっ、せ、先輩…私……」
 最後まで言わなくても分かってしまう……腫れ上がったカリ首が折り重なる指の“輪”をくぐるたびに、未成熟の性器は手の平で暴れまわっている。射精にまで至らない自慰を繰り返している生で精液が溜め込まれているせいもあるだろう、もうすぐそこにまで白いマグマが込み上げてきている気配は張り詰めた肉棒越しにあたしにも伝わってきていた。
 普段はいやらしいことなど何も知らないような態度と取っていた綾乃ちゃんは本能のままに、男の快感を知って煮えたぎった精液を充満させているペ○スを前へと突き出してくる。あたしはついに耐え切れなくなって薄目を開けて様子をうかがうと、先倍利のしずくをあたしの指に擦り付けている亀頭が真っ赤に腫れ上がっている先端をあたしの鼻先へと突きつけてきているところで、今にも弾けそうな瑞々しさと鼻先で撒き散らされる先走りの匂いにあたしの頭はクラクラとしてしまう。
 子宮が収縮する……膣道が蠢いている……綾乃ちゃんが初めて見せる乱れた姿に、いっそ手ではなくあたしの膣のほうにペ○スを捻じ込んで欲しいとさえ思い始めている。浅く開いた唇からうっとりと吐息を漏らすと、綾乃ちゃんよりももっとイヤらしいあたしの体に発情のスイッチが入ってしまい、太い脈動で絶頂間近である事を主張しているペ○スに唾液でたっぷりと濡らした舌を伸ばしてしまう。
「や…やっぱりダメェ―――――――――!」
 けれど、綾乃ちゃんは突然動きを止めると、まるで押しつぶすかのようにあたしの手の上からペ○スを圧迫する。突然刺激を止められ、尿管を湯手で圧迫して込み上げていた精液をそのまま押し留めると、行き場を失った射精衝動がペ○スの内側で荒れ狂い、暴発してもおかしくないぐらいに暴れまわる。それでも綾乃ちゃんは淫らな表情から一転し、涙をポロポロ流しながら肉棒を締め上げ続ける。
 やがて、勃起したままだけれど長い時間をかけて脈動が収まると、綾乃ちゃんはあたしの手を離し、尻餅をついて倒れこむ。それを見て慌てて寝袋から飛び出すと、苦しげな呼吸を繰り返している綾乃ちゃんを抱きかかえて、その頬をペシペシと軽く叩いた。
「綾乃ちゃん、しっかりして、綾乃ちゃん!」
「先輩……私…やっぱり恐い……気が狂いそうなぐらい苦しいのに……それなのに………」
「今は喋らなくていい。えっと―――」
 こういう時はベルトや胸元を緩めて呼吸を楽に……と思ったけれど綾乃ちゃんは既に全裸だ。それを見ないように、次は水を飲ませるべきか、風邪を引かせないように衣服をかけるべきかと考えていると、
「………先輩…い…いつから…起きてたんです…か?」
 何を今さらと思える質問を、綾乃ちゃんは表情を硬くして口にした。
「いつからって、まあ……ゴメン、綾乃ちゃん! 急に姿を消したり様子が変だったりで心配して、色々見てしまいました、本当にごめんなさい!」
「見たって……もしかして、わ、わわわたしの、ああああの、してるところとか…ですかァ!?」
 さらに何を今さら。
 綾乃ちゃんはあたしが覗いてたのに気付いてたのだから、今さら隠し立てしておく意味もない。あとはいつもよりエッチな雰囲気をかもし出している綾乃ちゃんにひたすら頭を下げるだけ―――と思っていたら、


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 突然、鼓膜が破れるかと思うほどの大音量で叫ばれてしまった。
「なんで、なんで、なんでぇ〜〜!? だって、先輩、寝てたじゃないですか!」
「へ……だって、寝たふりしてたって……綾乃ちゃん、自分で言ったでしょ?」
「言ってませぇん!―――あ、いえ、い…言ったかも…しれませんけど……あれは…その……」
「あたしもね、上手く隠れてたつもりなんだけど、昼間もさっきも、まさか見つかってるとは思わなくって」
「昼間って……う、ウソですよね? だってあの時、テントを張ってたりしてて時間がかかって……だ、だから私……う…うゥ……」
 あ、マズい―――綾乃ちゃんが喉を言葉に詰まらせながら目じりに涙を溢れさせた瞬間そう思うけど、こういう時、思った時にはたいてい手遅れである。
「ふ……ふえぇ〜〜〜ん!」
 ―――いや…あの……そう言う風にストレートに泣かれてしまうと、あたしにはちょっとどうすればいいのか分からないんですけど……
「先輩に…み…見られちゃった…ヒック、ヒック…ウッ……え〜ん、もうお嫁にいけませ〜ん!」
「でも…あの………あたしが寝ててもやったわけでしょ、握らせて…って」
 つい先ほどまで綾乃ちゃんのおチ○チンを握っていた手の平には、生々しく脈打っていた感触と鼻腔を刺激するオスの臭いがしっかりと残っている。―――その事で綾乃ちゃんを追い詰めるつもりはなかったのだけれど、左の手の平を掲げて見せて、ついでに右手で指差してみると、綾乃ちゃんは耳まで火照らせた顔をクシャクシャにして、
「ふえぇ〜〜〜ん、ごめんなさい〜〜〜!」
 と、手がつけられないほどワンワンと泣きじゃくり始めてしまう。
 ―――さて、どうしたものか。
 綾乃ちゃんがこうも泣いていては、何が起こっているのか事情がさっぱり飲み込めない。もし今、下手に言葉をかけようものなら逆効果でさらに泣かせてしまいそうだ。
 ―――まず落ち着こう。話は全部それからだ。
 本当ならあたしも頭の中が混乱しているところだろうけれど、綾乃ちゃんが泣きじゃくっているおかげか、ある程度冷静さを保っている。エッチなのかいつも通りか判断のつかない綾乃ちゃんの背中を擦りながら、今回は心配ほどに墓穴を掘っているのだとようやく気付き、あれこれ考えるのをため息を突きながらやめることにした。


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