回り道編・第1話「リザードマンからの依頼」-3


 ―――お願い! 後でならなんでもするから、今は、あたしに近づいてこないでェ!
 まん丸の身体をぱっくりと割り開くほど口を広げたバルーンは、内側に秘めていた毒々しいほどに真っ赤な粘膜と何本もの極太触手を蠢かせながら、高く突き上げたあたしのお尻へと覆いかぶさってくる。
 巨大ローパーの上面をびっしり埋め尽くす白い触手も迎撃のために、空中にいたあたしの足首を捕らえたムチの様に長い触手を何十本と飛ばすけれど、バルーンはそれを太い触手ではじき返す。
 赤と白……対照的な二色の触手だけれど、違いのは色だけではない。基本的に同じ形状の細い触手を束ねてあたしを凌辱しているローパーに対し、淫蟲のバルーンの内側から溢れ出た触手はそのほとんどが平均的な男根のサイズよりも太く、その形状ですらも様々だった。オークのペ○スのようにねじれているものもあれば、肉茎部分にゴツゴツとした突起が無数に飛び出している触手もある。子供の拳ぐらいありそうな亀頭のカリ首に魚卵のように小さな肉粒がびっしり並んでいて、まさに肉の凶器と呼べそうなものもあるし、亀頭の変わりに何百何千と言うミミズのような極細の触手が生えているものもあるし、まるでノコギリのように巨大な肉のコブが並んでいるものもあり……その中のどれを選んでも気が狂わんばかりによがり狂わされるであろう自分の姿が脳裏に浮かんでしまう禍々しさだ。
 ―――あ、あんなのを挿れられたら……
 もし声が出せていれば、恥も外聞もなく泣き叫んで挿入を拒んでいただろう。けれど痺れ毒で全身の力を奪い去られたあたしにはバルーンを拒む余力はない……力ずくで巨大ローパーの触手たちを払いのけたバルーンはついにショーツを降ろされかかっているあたしの下半身に取り憑くと、アナルをかき回している白い触手だけはそのままに、括れた腰に触手を巻きつかせ、太股とニーソックスの間へ何本もの触手を捻じ込んで、そしてそのまま射精した。
「ヒッ―――――――――――――――――――!!?」
 ローパーの粘液に含まれた媚薬成分を刷り込まれた肌が、火傷しそうなほど熱い濃縮粘液に覆われていく。太股だけとは言え、過敏に火照った肌には淫蟲の吐き出す精液の感触は強烈なおぞましさを生む……けれど今はそれが背筋を信じられないほどにゾクゾクと震わせ、ニーソックスの内側から溢れ出た精液がドロッと滴る感触さえもが全身に鳥肌を立たせるほどの恍惚感を生み出していく。
 ―――下半身を精液まみれにされて……イッ、イっちゃってる……あたしはそんなことでも感じるぐらいの……変態になっちゃってるゥ………!
 強くまぶたを閉じた瞳から涙を溢れさせながら、あたしは強く歯を噛み締める。バルーンはあたしをローパーから引き剥がそうとしてくれているのだろうけれど、大きく開いたバルーンの“顎”に咥え込まれたヒップは密着した触手や粘膜のざわめく振動の前に打ち震えて快感を訴えてしまっている。中途半端にズリ降ろされたショーツと割れ目の間へ滑り込んだ触手が狙いを膣口に定めても、脚を閉じる事も腰をゆする事も抵抗らしい抵抗は何一つ出来ず―――
「んはあッ! あッ、お、おアッ、ん、クフッ、あッ…お、おぁあああぁぁぁ!!!」
 媚薬に犯され、あたしの意思とは裏腹に犯される事を望んでいた蜜壷に、ズリュリュリュリュ…と太長い触手があたしの膣内へと入り込んできた。長さはもちろんの事、太く、表面のコブがゴツゴツと膣口に引っかかる凶悪な形の触手はぬかるんだ膣壁を容赦なく抉りながら、蛇が獲物を捕らえたかのように容易く子宮口に達してしまう。
「ん、んうゥ! あっ、ふぁ…ああああ、んぁあああああッ!!!」
 バルーンの触手はそのままズボズボとあたしの膣内を穿ち抜く。左右にうねりよじれる肉茎が大量の潤滑液にまみれた膣粘膜にコブを引っ掛けて抉り上げ、その動きのすべてが伝達する亀頭部分が子宮口を荒々しく擦りあげ、叩きつけ、子宮口の周囲に存在する過敏なスポットにまでその鎌首を擦り付けて来る。
 ―――な、中で…膣の中で…よじれ……イ…イイいイく、イッっちゃってる、あ…ああッ、前も後ろも……ふ、二つ同時に、あ、んァアアア―――――――ッッッ!!!
 ヴァギナをバルーンの触手に占拠された事で、既にアナルを埋め尽くしていたローパーの無数の細触手たちも一斉にざわめき出す。元々男であるあたしにとっては感じてはいけない直腸内で無数の触手たちが蠢くたびにあたしは禁断の快感に暗い快感を感じながら背筋を凍りつかせる。薄い肉壁を挟んでヴァギナと触手とを形状の異なる二種類の触手に犯され嬲られ、競い合うように責めを加速させられると、あたしの尿口からは淫液が噴出し、それが呼び水となって緊縮する二穴を二種類の触手はさらにうねりを大きくして性感帯を抉り抜いた。
「う、うああああァ……! ああ、ぐッ……も…んぐっ!? んむうううううッ〜〜〜〜〜〜!!!」
 ヴァギナとアナルで一対一……次に狙いをつけてきたのはあたしの唇だ。バルーンの触手は服の中であたしの肌を嘗め回しているローパーの触手を掻き分け、ローパーもまたあたしの身体が半分以上沈む込んだ触手の地面から何十もの触手をうねり立たせ、苦しげに喘ぎ声を漏らしているあたしの唇目掛けて両者同時に殺到する。
「んぐ、んぐゥ、ッ―――――!!! ぷアァ! ォ、んムゥウウウ、ううううううッ!!!」
 グチャリグチャリと音を響かせて絡み合う二種類の触手が口内を埋め尽くした途端、喉の奥に目掛けて濃厚な液体が撒き散らされる。バルーンの触手から放たれたであろう精液にむせ返り、唇と触手の隙間から白く握ったものを溢れさせながらも、顎の裏、舌の裏にまで媚薬を塗りつけられながらの強制触手フェラに嗚咽の言葉を満足にもらすことも出来ない。ヴァギナとアナルの引き裂かれるような圧迫感に顎をガクガクと震わせても、二種類の触手はあたしの唾液を奪い合うかのように狭い口内で暴れまわる。
 ―――なんであたしが……バ、バルーンの馬鹿ァ!!!
 喉とヴァギナ、同時にグイッと太い触手を押し込まれる。頭の天辺からつま先に至るまで、媚薬成分の混じった粘液と濃厚な雄臭を漂わせる白濁液にまみれた裸体をビクッと震わせると、あたしの膣内で触手は一際大きさを増してしまう。
 ―――しゅ…しゅごい……子宮口が…今にも押し広げられそう……裂けるよ…こんなに太いのでアソコを突き破られたら……一番深い場所まで触手で埋め尽くされたら……あっ!? くぅ…やめ、やめ…やあぁぁぁ!!!
 大きな乳房の先端を細触手が摘み取る。次第にバルーンの太い触手に薙ぎ払われながらも、小さいながらも敏感な突起を捉えたローパーは、よりにもよってそこへ痺れ毒に針を突き立ててきた。
「―――――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!」
 鋭い痛みが張り詰めた乳房の内側を駆け巡り、頭の中が一気に灼熱と化した。突き刺さった針はそのまま抜かれる事無く、あたしが身体を震わせるたびに神経へ電撃のような快感を直接流し込み、全身の筋肉が緊縮する……そのような状態で唇とヴァギナとアナル、三つの穴を触手たちに責め嬲られるとあたしの意識など嵐の前の紙切れのように簡単に吹っ飛んでしまい、触手のもたらす連続絶頂の快感に溺れながらお尻を高々と突き上げ、はしたない音を響かせて結合部の隙間から淫液を噴き出しバルーンの真っ赤な粘膜との間に生暖かい感触意を広げていく。
 ―――イヤァ……もう…止まって……股間が気持ち悪いィ……あたし…こんなの……して欲しくなんか……あ、あああァ……そこは、クリは、そこだけは…んハァああああああああああ!!!
 乳首が摘ままれたのなら股間の淫核を摘ままれたっておかしくはない。バルーンに占拠された下腹部、淫蟲の粘膜に何度となく擦りあげられた淫核の根元に隙間を掻い潜って細い細い触手が辿り着いてしまう。
「ああッ…ラ…メェ………ヒッ、ンうゥ!!!」
 三つの突起を同時に締め上げられ、なす術もなく全身を打ち震わせる。泣きながら、ポロポロと大粒の涙を流しながら、それでも膣内と校門を埋め尽くしている触手を区ちぎらんばかりに締め付け、腰をくねらせてしまう。
 ―――これは…ち、がうゥ……喜んでない、ヨロんでなんか……あ…うううゥ〜……! また…あたしの中で、熱いのが……中、中で…ェ〜………!!!
 直腸粘膜に直接媚薬粘液を刷り込まれた下腹部は狂おしいほどに緊縮している。そんな中で粘膜をバルーンの赤太い触手の表面に並んだ小豆大の突起が抉り、腸壁をローパーの細触手にシワや起伏の隅々にまで這いずり回られ、あたしはどれだけ快感を否定しても否定し切れないほどの愛液を搾り出しながら全身をガクガクと震わせ、触手にふさがれた唇から必死に助けを求める声を溢れさせる。
 ―――お願…いィ……このままじゃあたし…触手に、溺れちゃう、だから、早く、助けるなら…は、早くゥ! うあッ、アアアアアアッ! 膣内射精が…止まらないッ! お腹の中から…精液が、触手の精液が溢れ出るゥ〜〜〜〜〜〜!!!
 全身をくまなく赤と白の触手に絡み疲れたまま、あたしの脳裏で極大のスパークが弾け飛ぶ。………なぜか今は、おぞましいはずの触手が気持ちいい。イき狂って感覚までがおかしくなってしまったのか、ズチュリズチュリと肌を嘗め回され、這いずり回られる感触が気にならなくなるのと同時に、尿口と膣口を熱い飛沫が内側からつき上げてくる。
「ァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………ッッッ!」
 ―――イっ…ちゃった………
 頭の中と体の感覚が真っ白になった空白の一瞬。口内を満たしていた触手の群れを吐き出すほど大きく首を仰け反らせながら、あたしは完全に昇りつめていた。
 快感を拒めない。腸内を引きずり出される排泄にも似た恍惚感が、狭いヴァギナを捻るように突き上げられる圧迫感が、一秒にも満たないあたしの思考の空白を突いて全身の感覚の支配権を奪い取り、はち切れんほどに成熟した若い肉体を狂おしく、そして永遠に続くかと思うほどに悩ましく悶えさせる。
「あ………ふッ! ァ……んッ、んゥ、ん…ッ、んゥウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 連続アクメを迎えていても、必死に堪えていた快感が一気に吐き出されていく。「触手だから」と言う抵抗感は意識の内側から粉々に破壊され、突き上げたお尻から噴き出している絶頂液の奔流に飲まれて跡形もなく消えてしまうと、あたしにはもう、ズンズンと押し寄せる重たい衝撃に身を委ねて腰を揺らし続ける事しか出来なかった。
「イッ…ぐゥ……! あっ……あああ……中…擦れて……か、はあああ……ッ!」
 手足も腰も、各所を戒められて自由を束縛された身体を揺さぶり、苦悶混じりの嗚咽を喉の奥から搾り出す。長さを変え、角度を変え、うねりを変え、前後の狭い穴を擦られるほどに、触手の群れの中であたしは為す術もなく快感の連鎖へと飲み込まれていく………けれど、
 ―――いま……声が、出た!?
 巨大ローパーの触手に打ち込まれた麻痺毒のせいで舌が痺れ、助けを呼ぶための声を出す事も出来なかったはずだ。それなのに今、確かにあたしの口からは確かな意味を持つ単語が零れ落ちていた。
 ―――……毒の効果が薄れてきた?
 いや、それはない。凌辱の最中、乳房の先端に打ち込まれた毒の痺れがまだ胸に残っている。にも関わらず、指の谷間にまで触手が通り抜けてくすぐったい右手に力を込めれば、まだ全開とまではいかないものの確かな手応えが指先から返ってくる。
 ―――そうか、抗体か!
 膣を擦られる感触に歯を食いしばりながらも、初めに毒を打ち込まれたときの体の内側でチリチリとしていた感覚がなくなっているのを確認する。それはつまり、治癒の能力が毒を分解して無毒化するのではなく、あたしの体に毒が最初から効き難くなっている事を意味している……のだと思う。
 それはつまり、風邪を一度引いたら引きにくくなるように、あたしの体内で毒に対する抗体が出来上がったと言うことだ。「治癒」の回復力のおかげかどうかまでは詳しくわからないけれど、犯され嬲られ、イき果てて脱力する中でもあたしは振り絞れるだけの力が集まっていくのを確実に感じ取っていく。
 ―――だけどそれだけじゃこの状況からは逃げ出せない。
 体力が回復すれば魔力の流れも正常に戻る。そうすればバルーンに命令して空を飛ぶことは出来るだろうけれど、それ以前に巨大ローパーの触手の戒めを振りほどかなければならない。
 仮に戒めを振りほどいたとしても、相手は湖の真ん中に浮かぶ小島のような大きさのモンスター。その平らな頭頂部一面にびっしりと生えた伸縮自在の触手からは、バルーンの浮遊するスピードでは到底逃げられないのは実証済みだ。
 だけど―――あたしがローパーから逃げ出すチャンスは、すぐそこまでやってきていた。
「―――――――――――!?」
 爆音。そして衝撃。
 上げたままになっていた視線が巨大ローパーの一角で爆発が起こったのを捉えていた。
 ポチの火炎やプラズマタートルの電撃も効かなかったローパーにどうやって攻撃を届かせたのか……その心当たりが、あたしにはある。
『せんぱーい! 大丈夫ですか、無事なら返事をしてくださ―――い!』
 巨大ローパーをゆるがせた強力な攻撃魔法……それは綾乃ちゃんが失敗して失敗して失敗して失敗して失敗して、何十回と失敗した後に偶然発動する超がつくほど高威力のファイヤーボール、名づけて「どっかんボム」だ。
 遠くから聞こえてくるのは、あたしを心配する綾乃ちゃんの声―――その瞬間、今が力を振り絞る時だと感じたあたしは踏ん張る事も出来ない触手の群れの中で上体を起こし、胸いっぱいに空気を吸い込むと叩きつける様に叫んでいた。
「バルーン、飛んで!!!」
『バ、バル!!?』
 その一括と魔力の繋がりから流れ込んだあたしの意思とで暴走状態にあったバルーンは正気を取り戻す。そしてあたしはお尻とバルーンの隙間に手を差し込むと、アナルに埋まっていた無数の細触手をまとめて掴んで引きずり出した。
「んゥうううううッ!!!」
 肛門の奥から何もかもを引きずり出してしまいそうな快感に一瞬気が遠くなる。けれどすぐに、ヴァギナでつながったまま膨張したバルーンが空へと浮き上がりだすと、肉ヒダと思慕月触手がしっかり絡み合う苦しさにバネ仕掛けのように頭がビクッと跳ね上がる。
「あ…あんたってヤツはぁ〜〜〜〜〜〜!」
『バルーン、バルバルバル、バルルルルゥ〜〜〜ン!』
 ―――な、泣いて謝っても許してなんかやるもんかァ! 侵されながら空を飛ぶって……んゥ! この体制…不安定だから体が揺れて……んハァ!
 赤い触手を腰を中心に身体へ巻きつけてもらいながら宙に浮かぶと、予想どおり、あたしを逃がすまいとローパーの白い触手もあたしの手足にキツく巻きついてくる。それを必死に払いのけるけれど、まだ完全には毒から回復しきっていない上に数も多く、すぐに何十本もの触手に空を飛ぼうとしている身体を捉えられてしまう。
 ―――魔封玉はまだ出せない。あのまま嬲り尽くされていたら逃げる力もなくしていたかもしれないけど、それでもやっぱりもう少し回復してからの方が良かったかな!?
『バルーン、バルゥゥゥ〜〜〜ン!』
 ―――えーい、うるさい! 事態をややこしくした事を反省してなさい、今忙しいから……って、それは!?
 下を向いた腕や脚だけではなく、首や顔にまで何重にも触手が絡み付いてくる。何度も毒を打ち込まれれば、効きにくくても次第に毒の効果が出て体が重くなっていく。その最中、バルーンが必死に何かを見つけたと訴えているので、そちらに目をやると―――そこに、あたしが欲していたモノがあった。
「あたしの剣!」
 これで最後―――奥歯を噛み締め、今にも触手の群れに塞がれそうな視界に映るショートソードへと渾身の力を込めて手を伸ばす。するとバルーンが触手を操り、手の平の中へ革紐を巻いた剣の柄を押し付けてくれる。
「――――ッんのおおおおおおォ!!!」
 魔力を剣へ流し込む。
 何度も毒に冒された体内では魔力は正常に流れていない。あたしの体に秘められた膨大な魔力が全身に負荷をかけながら、それでも曲がりくねった魔力逃れを押し広げて腕に、手の中に、そして魔力が流れるはずのない刀身へと流れ込み、圧縮されていく。
 ローパーも集約される魔力に気がついたのだろう。伸ばされる触手の量はあっという間に十倍以上にもなり、ショートソードもあたしの腕も、バルーンごと触手に絡め取られ、弄ぶ事をやめて絞め殺そうと圧力を加えてくる。
 だけど、遅い。
「フンガ――――――――――――――――――――ッ!!!」
 ………いや、この叫び声はなかったことにして。
 これだけ触手に巻きつかれていては誰にも聞こえてなんかいないだろうけれど、最後の決め台詞が「フンガー!」はあまりにも格好よくない……そんな事をふと思いながら、ショートソードの砕ける清んだ音色を手の平から伝え聞く。



 そして同時に、解き放たれた圧縮魔力は触手を、巨大ローパーを、そして湖をまとめて断ち切っていた―――










「とほほ〜……あれだけひどい目にあったのに依頼料もな〜んにもなしかぁ……」
 魔力で膨らませたバルーンの上にダラ〜と垂れながらため息を突く。
 巨大ローパーを倒した安堵感も手伝って、もう一歩も歩けないほどに体中から力が抜けきっていた。
 体内に打ち込まれた毒や吸収してしまった媚薬成分のせいで体力をかなり消耗してしまっていたのに加え、暴走状態のバルーンがエッチしながら魔力を結構吸い取ってくれていたので、リザ右衛門さんの村で少し休ませてもらったぐらいでは回復しきれないぐらいに疲れ果ててしまったのだ。
 しかもそう言う時に限って追い討ちと言うのはかかるもの。あたしの最後の魔力剣の余波はローパーのみならず、湖畔に建てられていたリザ右衛門さんたちの集落を直撃。不可抗力とは言え、加減も何もせずに放った一撃は家を何軒か根こそぎ吹っ飛ばしてしまったのだ。
 おかげで疲労困憊状態になるほどひどい目にあったのに、リザ右衛門さんたちリザードマンの表情はかなり恐かった。依頼料はくれると言ってくれたのだけれど、あの大きな口でかじりつかれそうな顔をズズイッと詰め寄られたら思わず「ノーサンキューです!」と断り、挨拶もなしにそそくさと逃げ出してきてしまったのだ。
 おかげで毒に犯されるは触手に犯されるはとひどい目にたっぷり遭ったのに収入はなし。それどころか最後の魔力剣でショートソードを木っ端微塵に粉砕させてしまった分だけマイナス収益……これが泣かずにおれようか。
「依頼料……ああ依頼料……る〜……」
「先輩、元気出してくださいよ。あの状態じゃ仕方なかったんですから」
 泣いてはいるけれど、依頼料を断ったのはあたし自身だ。そのあたりのことはちゃんと納得しているつもりだ……が、それはそれ。苦労と対価が見合わないと言うのは、やっぱり色々と悲しいのだ。
「元気出してください。あんな大きなモンスターを退治したんですから、リザードマンさんたちだって喜んでくれてますよ」
「だといいんだけどね……でもあたしのショートソード、魔力剣に耐えられるぐらいの上等なヤツじゃないと困るし、新しく買うと………あ〜もう、腹が立つ。誰にじゃないけど腹が立つ。ほら、あんたは迷惑かけた分だけでも頑張りなさいよね」
『バルゥ〜〜ン……』
 あたしが上からペンペンと叩くと、まるで「ごめんなさい」とでも言うように触手の一方の当事者である淫蟲バルーンが情けない声を出す。暴走して言う事をきかなかった罰として、街の宿に帰りつくまでの足代わりだ。
 ―――ま、最後にはバルーンに助けてもらったところもあるんだし、これ以上責めるのはやめておいて上げますか。
 ふよふよ浮いているバルーンの上に乗っかっているのは結構楽だし気持ちがいい。ショックな事は多かったけれど、街に着くまでこの上で眠って嫌な事は忘れちゃいますか。
「先輩、明日は頑張りましょうね。きっといいことありますから♪」
「そだね〜……とりあえず、ショートソードの代金分のいいことはあって欲しいよね〜……」
 けど近場で依頼を探したら怒って追いかけてきたリザ右衛門さんに見つかるかもしれない。
 どうして娼館以外でお金を稼ごうとすると悲惨な目に会うのやら……いつもの事ながら頭の痛くなる思いを無理やり頭から追い出すと、あたしは大きな欠伸をしてからバルーンに顎を乗っけてムニャムニャと目を閉じた。




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『リザードマンの村を襲撃したローパーに関する報告書』

 重傷者―――0
 軽傷者―――0
 死者―――0
 被害―――家屋三棟

 リザードマンの居住区である湖に出現したジャイアント・ローパーは依頼を受けた二人の冒険者によって無事に退治される。
 ただし、いくつかのハプニングによりジャイアント・ローパーへの攻撃が少々目標をズレて湖を“両断”してしまい、湖周辺の家屋三棟を巻き込み、崩壊させてしまう。
 冒険者二名はこの事に罪悪感を覚えたらしく、依頼料の受領を拒否。しかしながら被害は想定よりも格段に少なかった事もあり、依頼主・リザ右衛門氏が是非にと誠意(?)をもって手渡そうとしたところ、冒険者二名は逃走。報告書作成時点で既に別の街に移動してしまっている。
 だがしかし、依頼達成になんら問題がない以上、当ギルドとしても依頼料を渡さなければならない。タダ働きはさせてはいけない。これは冒険者ギルドの沽券に関わる問題である。
 そこで逃走した二名を指名手配してでも依頼料を渡すよう各地の冒険者ギルドに通達。この処置は仁義に厚いリザードマンらの恩人に対する思いに担当者が心を打たれたからである。決して依頼主に剣を突きつけて脅されたからではない。彼らの熱意、いや殺意、いややっぱり熱意には担当者も冷や汗が出っ放しで頭が上げられない。



 ジャイアント・ローパーの死骸はすぐに分解されてしまい、サンプルの採取は出来なかった。その出現には謎が多いが追跡調査は困難。恐らくは水があったために起こった突然変異だと思われる。
 分解された死骸は養分となり、水生生物の成長を促進させている。一時は魚が死滅するかもしれない状態ではあったが、回復するのは早いと予測される―――


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