第十章「水賊」19


「お遊びは終わったかしら?」
「えっと……できればもうちょっと続けて延命を図りたいと思います、自分の」
 背後にいる声の主は件の持ち主でもある金色の髪の女性である事は間違いが無かった……が、肩に乗せられた細身の長剣の刃は、直接あたしの首筋に触れているわけではなかった。
 首を前から後ろへ撫でているのは、あくまで“風”。一定の場所に、一定の方向へ、一定の速さで動き続ける空気の流れは自然では起こりえるはずも無く、それが魔法によるものだとすぐに思い至る。
 ―――“風”系統を操る魔法剣士……!
 これで、耐久力のない細身の剣を武器にしていることにも合点がいった。
 魔法使いは軽い武器しか装備できないのは、肉体の鍛錬と魔法の修練とを同時に行うのが難しいからだ。身体を鍛える事に重点を置けば魔法は使えず、魔法を学ぶ事に重点を置けば剣も満足に振るえない。これは時間を二倍三倍とかけることで解消される問題ではあるけれど、人に寿命と言う時間の制限が設けられている以上、“天分”と言った才能が無ければ、矛盾を乗り越えて両方を同時に極めることは難しいと言わざるを得ない。
 魔法剣士はその矛盾を最低限に抑え、剣と魔法の技術の両方を身に付けたからこその名称だ。……けれどそれは、“剣と魔法を両方使える”と言う、悪く言えばどちらに関しても中途半端な存在とも取れるのだ。
 フジエーダで出会ったクラウド王国騎士団所属の魔法剣士は主に肉体強化系の付加魔法を使っていた。一つの応用が利きそうな魔法のみを習得することで、剣士としての戦闘力を向上させていた。
 そして今、あたしの背後にいる女性が使っているのは風系統の魔法。おそらく、あたしの肩に乗せられている剣には幾重にも風が纏わりついているはずだ。その風を切断力に変えることで剣の切れ味と攻撃力を何倍にも高めているのだ。
 重さのない風をま刃にして剣を振るうのだから、当然軽い剣の方がいい。あたしの頭上を飛び越えたのも、何かしらの風系魔法の補助を受けてのことだろう。―――となると、剣士としての技量もそれなりに高いのだろうけれど……?
「お姉さまぁ、できればきちんと愛の告白をしてくれるまで待ってていただけませんか?」
「悪いけど、恵子のお遊びに付き合ってる時間はないわ」
 ―――うわ、マジですよ、この人。
 首に伝わる冷たい感触が怒りの感情が乗り、あたしの背筋にも冷たい汗が伝い落ちる。
 ―――来る。
 そう悟るなり、あたしの身体が反射的に動こうとする……が、いまだ力を失っていない意思の力が疲れた体の動きを押さえつけ、変わりに口を開かせていた。
「こ、降参、降参します!」
「今さら? でも安心していいわよ。傷を残さないように気を失わせて、後でたっぷりと鳴かせてあげるから……」
 今度はあたしが弄ばれそう……と、泣き言を言うのは後だ。
「えっと、えっと、その前に一つ。お二人とも、何であたしを襲ってこられたのでしょうか?」
「それは―――」
 肩に乗った県がわずかに動き、泥まみれになったマントを引き寄せながら恵子と呼ばれた魔法使いの女性も体を起こし、視線を横へ動かした。
 ―――舞子ちゃん?
 大木の根元に座り込んで泣きべそをかいている舞子ちゃんのほうへ恵子さんの目が向いたのを、確かに見た。
 どうして舞子ちゃんを狙うのかと不思議に思っていると、こちらの考えを読み取ったかのように背後の女性が目的を口にした。
「私たちは、あそこにいる彼女を保護しに来たのよ」
「へ……な、なんで?」
「それは自分の胸に手を当てて考えてみることね」
 ―――ちょ、それで終わり!? そこまで話しておいて後は自分で考えろって、それはちょっとひどすぎるような!
「お姉様、あの、少し待っていただきたいんですけど……」
「話がややこしくなるから恵子は黙ってなさい。この子を気絶させたら、あなたから可愛がってあげるから―――」
 そう言うエッチ関係の話をするとは、もう余裕がありすぎだ………が、あたしの目の前で金色の髪の女性を止めようとする恵子さんの胸が目に入り、
「や、でもあたしは試合に負けて勝負に勝ったなぁ、うははははっ!」
 ………精神的に追い詰められたあたしは、自分でもなに言ってるのかわからなくないまま、思いついた事をそのまま舌の上に乗せてしまっていた。
 それでも相手の注意は引けたようで、剣の動きが首筋直前でピタリと止まる。
 その気を逃さず、あたしは閃くままに言葉を放ち、
「だって、女性としての魅力ではあたしが勝ったわけだし!」
 もう勢いで喋ってます。
「パートナーの人はあたしが寝取っちゃったし、胸の大きさではあたしが勝ってるし、ベッドの上での勝負だってどうかなぁ、どうでしょう、あは、あははははは!」
「………戯言を」
「ふふん……恐いんでしょう? あなたはプライドだけは高そうだものね。でも……ベッドの上で泣いて許しを請うのはどちらかしら?」
 最後だけ少し、娼館で耳にした「お姉様喋り」で声に艶を持たせてみる。
 効果は予想をはるかに上回っていた。肩に触れている細身の剣から伝わる痙攣は徐々に大きくなり、金色の髪の女性の心の乱れが拡大して行くのが伝わってくる。
「落ち着いてください、お姉様。この人は―――」
「お黙りなさい! この女は私を侮辱したのです! 私を、この私を―――!!!」
 ―――しめた、剣が肩から離れた!
 あたしの言葉にプライドを刺激された金色の髪の女性は、激昂するままに剣を大きく振りかぶる。
 けれどそれは明らかな“隙”だ。あたしへ向けた感情の起伏が生んだ大振りの動きは、あたしが自由に動けるだけの自由を返してくれる。
 ―――明日香や姉さん相手で、強気な女性の反応はよく分かってたからね。
 口先一つで相手をコントロールするのは、あたしが過ごしてきた過酷な人生経験の賜物だ。
 大きく振りかぶった剣は速く、強く、鋭く振り抜かれるけれど、元の位置を通り過ぎるまでに時間がかかる。
 その間にあたしが取った行動は脱力だ。元から立っているだけで精一杯だった膝から力を抜き、相手に動きを読ませない“落下”と言う動作でしゃがみこむ。
 風をまとった剣は軌道を変えられず、あたしの頭上を通過する。行過ぎた剣をすぐに引き戻せないのも大振りの欠点だ。
 さらに追加された時間の中で、あたしは再び膝に力を込める。全力でなくてもいい。ただ身体を後ろへと押し、女性剣士の足を後ろ手に取りながらもたれかかる。
「しまっ―――!」
 女性はあたしの手が足首に触れた瞬間、後ろへ跳ぼうとする。
 けれど既にあたしは相手の足首を掴んでいる。その状態で跳躍すれば、こちらがこれ以上何もせずとも勝手にバランスを崩し、そこへあたしが体重をかければ、力を込めなくても相手は重力に引かれて地面へ倒れこんで行く。
 ―――後はもう、あたしの勝ちだ。
「こ…のッ! 私を泥の中に倒しこむとは―――!」
「ジェル、おまたせ!」
 相手の声に耳を傾けず、あたしは魔封玉へ呼びかける。
 今いる場所には大量の泥がある。そして大量の水がある。
 相手が非難の言葉を紡ぎきるよりも早く、あたしの手はすり鉢上にへこんだ地面にできた大きな水たまりに触れ、呼びかける。すると水溜りの中から、魔封玉からモンスターが現われる際に放たれる輝きが迸り、一瞬にして周囲の水気を取り込むと、ググッと盛り上がる
「なっ…なんですのこれは!?」
 今さら困惑しても遅い。相手の女性は泥の中に倒れさていて初動が封じられ、風の魔法を使うと手の内をこちらに晒してしまっている。
 もうジェルをけしかけるのに恐れも躊躇いもなく、あたしが女性の上から退くのと同時に、雨水を取り込んで普段の数十倍に巨大化したゼリースライムが周囲から大波のように立ち上がり、覆いかぶさって行く。
 ―――まさか、こういう役立ち方をするとはね。
 大量の水を浴びて地面へ叩きつけられた時、あたしは対抗手段として魔封玉を一つ、思わず呼び出していたのだ。偶然にもあたしの全身が水の中にあった数秒間、剣士としての実力も高い金色の髪の女性に小さな魔封玉を呼び出したことには気付かれていなかった。おかげで魔封玉を呼び出した瞬間を狙われる事もなく、最小限のタイムラグで巨大スライムのジェルを呼び出すことができたのだ。
「ひっ…!? あ、なにこれ、スライム!?」
「大丈夫、安心していいよ。この子、人を溶かして食べたりしないから」
「そ、そんな言葉、信じられると思ってるの!?」
「む、失礼だな。あたし、ウソついたりなんかしないもん。―――あ、それと、風の魔法はスライムに効きませんよ?」
「あなたがこのスライムを操っ……んムゥ!」
 スライムに手足を絡めとられた女性が何かを喋ろうと口を開いた瞬間、触手のように伸ばされたスライムの塊が口腔内へ捻じ込まれる。スライムが喉の奥にまで達し、苦しさのあまりにむせかえるけれど、敵もさながら、アゴに力を込めて噛み切ろうとする。
 だけど弾力のあるジェルはそう簡単には噛み切れない。また、噛み切ったところで二つに分かれて蠢くだけ。それを理解できずに必死に歯を立てる様子を見ていて、まるで自分のアレを噛まれているような気分になってしまう一方で、頬を硬直させながら必死に口淫を防ごうとしているのに、それでも大量のスライムに口内を這いずり回られて息を詰まらせる女性の表情の艶かましさに、思わず喉を鳴らして唾を飲んでしまう。
 その間にもスライムは女性の服の下へと滑り込んで行く。スライムとは思えないほどの丁寧さでマントの止め具をハズし――この辺はあたしのしつけの成果だろう――、その下から現れたレザーアーマーと身体との、隙間とも呼べない隙間から入り込むと、粘着質な音を響かせて女性の肌を這いずり、スライム特有のネットリ吸い付く質感と微細な圧力で微細に、繊細に、女性の性感を穿り返し、半ば強制的に快感を引きずり出していく。
「んっ……ふぅ…んんっ、んんゥ、んんんぅ〜〜〜〜〜!!!」
 次第にスライムの体積が増し、透き通るゼリー状のモンスターに囚われた女性の体が地面から持ち上げられていく。まるで透明な分娩台に乗せられているかのように、Mの字に開脚させられた女性の股間から深いスリットの入ったスカートがめくり上げられ、むき出しになった下着の上へさらに多くのスライムが覆いかぶさる。それらが一斉に蠢き、下着の上から一斉に秘所を揉みたてると、金髪の美女の全身がガクガクと震え、白い肌に薄桃色の火照りが浮かび上がってくる。
「んふぅ! ん、うムゥ、んふぅうううぅぅぅ〜〜〜〜〜〜!!!」
 突然、スライムを頬張らされたままの女性の首がガクンと大きく仰け反り、体を硬直させてくぐもった悲鳴を迸らせる。
 それはあたしの目から見ても分かるほどの、明確なオルガズムの痙攣だった。ジュブジュブと卑猥な音を響かせてスライムの塊が抽送されている唇から大量の唾液を溢れさせ、レザーアーマーに包まれた乳房を何度も突きあげるように、スライムにまとわり疲れた全身を打ち震わせる。
「うわぁ……あれ、スゴいんだよなぁ……」
 ジェルからあたしへのサービスのように胸、股間、お尻、脚と全ての場所を愛撫される様を見せ付けられると、疲労でボロボロのはずなのに、スライムに全身愛撫された経験を思い出してしまい、体の芯から甘い疼きを湧き上がらせてしまう。
 もし状況が許すのなら、あたしも手を伸ばして女性のレザーアーマーをハズしてあげて、その下から現れるであろう魅惑的な肢体を思う存分撫で回していたかもしれない。
 ―――まあ、状況がねぇ……今は追われる立場だから。
 少〜〜〜し残念には思うけれど、これ以上スライム凌辱ショーを見ていたら舞子ちゃんにさらに怒られてしまう。名残惜しいもののすぐにでもこの場を逃げ出そうと踵を返すと、金色の髪の女性と透明なスライムとの幻想的とも言える交わりを、真っ赤な顔で食い入るように見つめている舞子ちゃんがあたしのすぐ後ろに立っていた。
 そしてもう一人、スライムに嬲られ、悶絶している女性のパートナーでもある恵子さんまでもが、いつの間にかあたしの横に並び立ち、太股をモジモジさせながら唇から湿った吐息をこぼしていた。
「スライムって不気味なだけかと思ってたけど、エッチに使っちゃうとマニアックかつエロティックなんですね……いいなぁ……私も試してみたいかも……」
 と、指先を軽く咥え、熱のこもった視線をあたしへと向けてくる。
「え、ちょ、まだやるつもり!? 最初に言っときますけど、あたしにはモンスターを女性にけしかけてイヤらしい事をする趣味はありませんからね……目の前の光景は、あたしが故意にやってるわけじゃないし」
 ジェルが金色の髪の女性を責め立てているのは、あたしへ危害を加えたことへの怒りが原因だ。あたしに「食べてはダメ」と念を押されているので、怒りをそのまま性衝動へと向けているだけなのである。
「あはは、それは残念ですね。でも、私たちがあなたと戦う理由はもうありません。ちょっとした勘違いでした」
「か……勘違い?」
「はい。本当は最初から戦わなくてもよかったんです」
 指から口を離し、まだ火照りの残る顔に笑みを浮かべてそう言われたけれど、斬りつけられたり魔法を放たれたり、挙句の果てには見に覚えのない疑いをかけられてレイパー呼ばわりされて、首を切り落とされそうになったのを、「勘違い」の一言で納得できるはずがない。
「あ……あたしがどれだけ恐くて死に掛けて、挙句の果てに精神的に追い詰められたと思ってるんだ―――!!! ちゃんと説明してくれなきゃ、収まるものも収まらないわよ!」
「ええ。こちらの不手際ですし、お詫びもしますし、きちんと説明もするつもりです―――でも一応、確認だけはさせてほしいんですけど」
 舞子ちゃんは年上の金髪美女がスライムに嬲り弄ばれる様を見入っていて、あたしと恵子さんの会話が聞こえていないようだ……だったらそっちは置いといて、「確認」と言う言葉にいまだ疑いの目を向けて緊張してしまうあたしに、恵子さんは少し困惑気味に表情を崩し、
「あなたのお名前はなんですか?」
 と、まるで子供に訊くような事を訊いてきた。
「名前って……たくや、ですけど」
「そうですか。じゃあそちらのお連れの人は?」
「舞子ちゃんです……って、もしかして、名前を聞き出して呪いをかけようとか、そう言うのじゃないですよね?」
「う〜ん…やってやれないことはないと思いますけど、私の魔法の腕だと、名前だけじゃカースマジック(呪術)は難しいですね。それにそんな事しちゃうと、冒険者ギルドから登録抹消されちゃいますし」
「冒険者……ギルド? じゃあ、二人とも冒険者!?」
 意外な言葉を耳にして言われた言葉をそのまま返すと、恵子さんは「はい」と返事する。
「ウソ……てっきり水賊の仲間だとばかり思ってた」
「それは少し心外です。こんなに美人なのに水賊のはずないじゃないですか」
 美人と水賊の関係性はさておき、
「そういえばちゃんとした自己紹介がまだでしたね。既にご存知とは思いますが、私は恵子と言いまして、あっちの」
 と、スライムに弄ばれてくぐもった喘ぎを漏らしている自分の「お姉様」を指差す。
「先手必勝をかけてしまいましたのが私のパートナーである美里お姉様です。事前にお名前を聞いてから攻撃を仕掛けていれば、間違いも犯さずにすんだんですけど……お姉様ってば、雨の中を何時間も走らされてたからイライラしてピリピリしちゃってたんです。見てのとおりの性格の人ですから」
「け…恵子……余計な事を言わずに、た、助け……クゥんんんゥ!」
 美里と呼ばれた女性剣士は先ほどまでの高飛車な態度がわずかに崩れ、口調こそ変わっていないものの目に涙を浮かべて恵子さんに助けを求める。だがジェルのほうはまだまだ開放するつもりは無く、皮の鎧が描く曲線からも内側に秘められた美しいラインを想像させてくれる乳房と、完全にスライムベッドに埋まってしまった下腹部とに、小さな振動音を響かせて透明なボディーに波を打たせ、凶悪極まりない快感振動を送り込む。
「ひあっ、やめ……早く、私を…か、開放、しないと……はうゥん! そんな…くッ、うぅんんッ! ああぁ……そこは、ダメ……あ、んああああァ!」
 全身を揉みしだくようなスライムの動きと局所へ送り込まれる振動とに、美里さんの体が震え、スライムの上で堪えきれない会館に耐えられずに悩ましく腰をくねらせる。開放された唇からは、涎ともスライムの粘液とも知れない雫が溢れ落ち、弾力に満ちている均整の取れた体をいつ果てる事無く震わせ続けながら、恥丘への愛撫を求めるように突き出していた。
 肌寒ささえ感じる雨振る森の中で頬に興奮の火照りを赤く灯すほどの興奮を感じ取れないジェルでもない。マント同様に、レザーアーマーの止め具を巧みに探り当ててはずしてしまうと、服の上から乳房の上にスライムの塊を浴びせかけ、まるで透明人間の手で揉みしだくようにこね回す。
「あ、あぁ……私が…こんな…スライム、なんかに……あ…あ――――――ッッッ!!!」
 ジェルの乳房への愛撫は、その姿の通り、徹底的に粘着質だ。あたしや恵子さんほど大きくないとは言え、十分な大きさと非の打ち所のない綺麗な形を併せ持つ美里さんに対して、膨らみの根元と乳首の根元の二箇所同時に圧力を加えて絞り上げる。膨らみ全体が透明なリングに締め上げられるように形を歪ませている間にも、服の上からでも見て取れるほど硬く大きく充血した突起へスライムが絡みつき、絞り、ひねり、引っ張り上げるように舐めまわす。
 人の舌や指では味わえない全体愛撫に、美里さんの首は仰け反ったまま戻らず、苦しそうに喘ぎながら背中を逸らせ、股間をガクガクと振りたてる……けれどそこにもジェルの魔の手が忍び寄る。
 ジェルがまず行ったのは、ただ単に張り付くことだ。恥丘を覆うショーツの上から張り付いたジェルは、もぞもぞと動きながら、痙攣を繰り返す淫裂を覆いつくし、その力で強引に割り開く。下着を身につけていながら、クリトリスの充血振りや、ググッと力を込めて陰唇が割り開かれていく様がくっきりと下着に形として浮かび上がり、あたしや恵子さん、そして身を乗り出して見つめている舞子ちゃんの目にくっきりと見えてしまっている。
 透明すぎるスライムでは多少歪んで見える程度で、彼女の白い肌も、そして淫靡にも見立てられている秘所の形も、一切隠すことも出来ない。ジェルがリズミカルに音を響かせるたびに、粘液にまみれた秘所が圧力に屈して形を変え、美里さんの赤く染まった美貌が屈辱で、そしてそれを上回る羞恥と快感とでゆがみ、次第にあたしたちを見つめていた瞳からも焦点が失われていく。
 股間から鳴り響く水音は徐々に激しさを増していく。下着に浮かび上がった膣口は、まるで太い肉棒を捻じ込まれたかのように丸く開き、異常なまでに充血したクリトリスが下着を突き上げるほどに自己主張していた………そしてその時になって、この周囲に鳴り響いている粘液と、そしてジェルに吸い上げられているであろう濃厚な愛液とが奏でるリズムが何を意味しているのか、ジェルが美里さんに何をしているのかを、男性経験のあるあたしと恵子さんにだけは理解出来てしまう。
「み…見ないで……こんな……恵子、やめさせ……んあァ! ひッ、ああァ、はあッ、あ……ダメ、そこは……そんな、とこ……は…はいって……ヤメッ、ハァ、はあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 女性として魅力的で、十分すぎるほどに経験してしまっていた為に、堪え切れなかったのだろう……美里さんはスライムに包まれた全身をガクガクと震わせると、イヤイヤと抵抗する少女のように泣き濡れた美貌を左右へ振りたくる。反り返らせた喉から甲高い嬌声を迸らせて、狂った嵐のようなオルガズムの快感に飲み込まれていくと、さらに追い討ちをかけるように、服の上から乳房をまんべんなくこね回し、まるで母乳を搾るように根元から締め上げる。
「ふあっ、やめなさッ、イアッ、もう、もう奥は、奥は、イヤァ!!! いく、イくイくイく、イくゥ! あッ、ッ―――――――――!!!」
 突起と言う突起をスライムに責め立てられただけにしては、あまりにもあっけない幕切れである……が、あたしの想像通りなら、開き切った膣口から恥ずかしいほどに大量の淫蜜を噴き出しているだろう。
 秘孔をわななかせ、細い腰をカクカクと振りたてながら昇りつめたその様子は、軽い絶頂などでは済まされない深く濃厚な限界を堪えに堪えた末に迎えた事を否応なく感じさせる。―――そして、あたしが描いていた想像を裏付けるように、下着が張り付いたまま緊縮と視姦を繰り返していた股間が、突然盛り上がった。
「……や、やっぱり…中に入って……?」
 液体と固体の中間のような魔法生物のスライムは、下着や服の上から染み込んでしまえば内側にも入っていけるわけで……まるであたしに想像が正解だった事を喜ぶかのように、下着を秘所へ押し付けることで通過し、ヴァギナの中にまで入り込んでいたスライムが、下着を内側から押し上げてその姿を現す。
「う…わぁ……」
 スライムは透明だけれど、輪郭は見て取れる。美里さんの膣内から引き抜かれたスライムのサイズには、さすがにあたしも背筋に震えが走り抜け、ズンッと重たい衝撃が走りぬけた股間を手でついつい押さえてしまう。
 太股に力を込めて閉じ合わせても、“アレ”に秘所を縦横無尽にかき回される想像をしただけで、熱いモノが子宮の奥から膣道を伝って今にも溢れ出てしまい、自分が男だと言うことも忘れてイけない気分が込み上げてきてしまいそうになる。
「あ…あのぉ〜……助けた方がいい……んですよね?」
 パートナーの人がスライム責めで気をやっているのに、何一つ喋ろうとしない恵子さんに、あたしは恐る恐る声を掛ける。
 もちろん怒られる事を覚悟の上で話しかけたのだが……
「いえ……お姉様もスゴく悦んでますし、このままにして放置してくださって構いません。ええ、もうこのままずっとでも……ハァァ……」
 と、上気した頬に手を当て、うっとりとした表情で答えを返されてしまう。
「それならそれでいいんですけど……ジェルも喜んでますし。でも、冒険者ギルドの人が何であたしを襲って、しかも急にやめたりしたか、その説明だけはきちんとしてもらいますよ」
 放って置いたら舞子ちゃんと並んで「屋外スライム陵辱ショー」に見入りそうな恵子さんに、少々強引に話を戻させる。
「ああ、その話ですか?………今じゃなきゃダメ? お姉様がもう一回イってからでも……」
 既に肉棒をかたどったスライムは、今度は下着をお子へすらし、舞子ちゃんや恵子ちゃんに見えるようにして美里さんの女穴へと押し込まれていた。まだ開く目の収まりきっていない蜜壷にはあまりにも大きすぎるサイズ。すぐさま絶頂を迎えることは美里さんの声も出せないほどのヨガリ様から見ても分かるけれど、
「ダメです」
 ここはキッパリ言い切った。
「しかたないですね……私たちがここへ来たのは、もちろん依頼を受けたからです。本来の依頼は国からのもので、「水賊討伐に協力せよ」だったんですけど、その途中で一人の女の子を助けまして。ちょっと身体の方は未成熟ですけど、妹に欲しいな〜ってぐらい可愛い子だったんです、その子♪」
「!? もしかしてそれ、綾乃ちゃんとか言ってませんでしたか!?」
「そうですよ。彼女から、水賊に捉えられてるかもしれないあなたと舞子さんを助けて欲しいって頼まれてたんです」
 ―――そうだったんだ……
 今まで佐野に囚われていた舞子ちゃんの救出を第一に考えていただけで、決して綾乃ちゃんの事を忘れていたわけではない。それでも思いがけない名前を聞けたことで安否を確かめられると、胸のつかえが一つ取れて気分が軽くなる。
「それで……頼まれたんですけどね、その……本人を前にしてスゴく言いにくい事なんですけれど……」
 急に恵子さんの歯切れが悪くなり、言葉の続きを言おうにも戸惑い、視線をあたしから逸らしたりし始める。
「怒らないで聞いてくださいね?………えっとですね、たくやさんの特徴を綾乃さんから聞いてきてたわけなんですが………」
 ―――うっ……なんか嫌な予感がする。
 綾乃ちゃんは時々、一切悪気無しでグサッと来るようなこと言う時ある。ひょっとして―――
「その……「先輩はものすごく弱そうだから、見たらすぐに分かる」って」
「なるほど、確かに。事実です、それ」
 予測して覚悟して待ち受けていただけに、ひどい事をイわれたはずだけど、あまりショックを感じない。加えて、綾乃ちゃんの言葉は常々あたし自身も思ってる真実なのであって、例え皮肉や悪口でそう言われたとしても否定できなかったりする……もし否定したら、「あたしは強いんだぞぅ」みたいでイヤだし。
「それでまあ、綾乃さんと、彼女の傍から離れない二体のモンスターたちから情報を提供して貰う代わりに、生存していれば水賊に囚われた可能性の高いあなたと舞子さんの救出を依頼されたわけなんです」
「で、水賊の生き残りから逃げてきて、ようやく一息ついたあたしたちを見つけて―――」
「イライラしてたお姉様が、武装していない舞子さんの方をたくやさんだと勘違いして、先制攻撃しちゃったんです。本当にごめんなさい―――それに私も、綾乃ちゃんからモンスター使いって聞いてたし、まさか剣士の格好をしてるとは思ってませんでしたし」
 ―――剣士……まあ、剣士に見えなくもないか。剣も持ってるし、部分的にとは言え鎧もつけてるし。
 まあ、理由を聞けば、納得できないところもあるけれど、これ以上怒るわけにもいかない。恵子さんに深々と頭を下げられると、やっぱり許して上げられずにはいられない所が、なけなしの男っぽいところでもあるわけだし。
「すみません、似合わない剣士の格好で……でも、あたしたちを助けに来てくれたと言う事は、助かるんですよね? 助けてもらえるんですよね!?」
 結局のところ、今の最大の肝心ごとと言ったらそれしかない。
 奇襲奇策で切り抜けたけれど、さっきの戦闘で体力も魔力も底を突いて、最後の回復手段だったポーションも使いきっている。
 もし助けてもらえないなら野垂れ死に……そんな恐い想像さえ思い浮かべながら恵子さんの返事を待っていると、
「ええ、もちろんですよ。本体の騎士団の方も近くにまで来ているはずですし、綾乃さんも一緒にこられているはずですから―――ただ、あくまでも目的は水賊の拠点を発見し、水賊団を壊滅させる事なので、それが済むまで街へは帰還できませんけどね」
「―――え?」
 思わず声が出る。
 その声の意味が驚きなのか、落胆なのか、それとも“アレ”を見られる事への気まずさなのかは分からないのだけれど、その一文字分の声は恵子さんの興味を引くのに十分過ぎるものだった。
「……そう言えば、たくやさんと舞子さんは水賊のアジトから逃げ出してきたんですか?」
「え? や、え〜っと、そうだったかなぁ……あたしってば、最近若年性の痴呆症っぽいところがなきもしもあらずですし」
「じゃあ知ってるんですね。だったら場所を教えてもらえませんか? 捜索の手間も省けた分だけ早く町に帰れますし」
「それは……教えてもいいんですけど…………一旦街に帰ってからじゃダメですか?」
「ダメです♪ 知ってることは全部ゲロってください。さもないと拷問ですよ? 国の軍隊さんは容赦ありませんよ? 何しろプロですからね〜♪」
 ―――笑顔で恐いこと言うな、この人。
 拷問と言う言葉が本気かどうかは分からないけど、できればあそこにはもう二度と近づきたくない。場所を教えるぐらいならいいかもしれないと思うけれど、アジトの中へ足を踏み入れることで恵子さんたちに及ぶ危険を考えると……いや、もう既に中へは入れるような状況ではないかもしれない。
「う〜ん……どうしたものか……」
「何をそんなに悩んでいるんですか? 戦力的には大丈夫ですよ。少数とは言え、後から来るのは軍の精鋭ですから。それに水賊に魔法使いはいないはずだから、あたしが大規模攻撃魔法でちょちょいのちょいっとやっつける事だって出来ますし」
「いや、それをやったら恵子さんたちの命がないかもしれない。何しろあそこはスゴく危険な場所だから。あたしだって命からがら逃げてきたんだもん。できれば速やかに、少しでもこの場から離れたいぐらいでして……」
 こんな言葉では、国から依頼を受けているという恵子さんには納得してもらえないだろう。きちんと説明して引き返してもらわないと……と、あたしが口を開きかけた時だ。
「あー! いやがった、あの女がいやがったぞ!」
「女のウッフンアッハンな声につられて来てみれば、お前たちそんなところで何やってやがる!?」
「ちくしょう俺も混ぜやがれ、いや混ぜてください!」
 あたしが最初に逃げてきたほう――つまり恵子さんたちの探している水賊の味との方から七・八人の男が姿を現した。
 ―――しまった、ジェルをさっさと美里さんから引っぺがしてればよかった!
 考えるまでもなく、静かな森の中ででは美里さんのような高い喘ぎ声は遠くまでよく聞こえるはず。しかもモンスターたちに何度吹っ飛ばされてもゾンビのように起き上がり、あたしを執拗に追い掛け回すほど女性に飢えているのが目の前にいる連中だ。どんなに離れていたとしても、美女とスライムの組み合わせでエッチな事をしていたら、どこにいても必ず嗅ぎつけてきていただろう。
「さながら盛りのついたオス犬のように!」
「と…突然スゴい事口走ってますね、たくやさん……」
「うん、いい加減あたしは疲労のピークだから思ったことがすぐに口に出ちゃうのだ」
 もっとも、あたしの声が聞こえた聞こえないに関わらず、あの水賊たちが興奮していないはずがない。何しろ―――
「ひぁあん! もう、ゆ…許して……前と後ろを…いっぺんにだなんて………わ、私がこんな、下等で、いやらしい…す…スライムなんかにぃ………!!!」
 チラッと視線を横へ向けると、いつの間にか下着を剥ぎ取られた美里さんのヴァギナとアナルにぽっかり穴が開いているのが見えた。スライムに包まれているその場所に穴が空いていると言う事は、膣と腸の両方にスライムが入り込み、二穴を同時に陵辱していることに他ならない。
 あたしの視線に美里さんはもちろん、舞子ちゃんも気づいていない。ただ、もとより目が無く全身が感覚器のようなものであるジェルだけはすぐに気付き、すぐには目が離せないあたしを喜ばせようと、美里さんの股間に前と後ろから突き刺さっていたモノをズルリと引き抜いてみせる。
「ひアァ!!! ひ…引き抜くなんて……そんなこと……許…さない……いれなさい、もっと……私を満足させるぐら…いッ、クァアアアッ!!!」
 最後のプライドが言わせたその言葉は、ジェルを喜ばせはしたようだ。内部をかき回していただけのスライムペ○スは硬度を増し、真っ赤に充血した粘膜を捲り上げるほどに激しいストロークで美里さんの下腹部内を突きまわす。
 ジェルの思うままに長くも太くもできるスライムペ○スは、美里さんのヴァギナの奥にもアナルの奥にも届いているだろう。美里さんの恥丘にピタリと密着する形に輪郭を作ったスライムがピシャッと音を立ててぶつかるたびに、金色の髪がビクッと乱れ、もう口を閉じる事もできないほどに艶かましい嬌声を繰り返し迸らせた。
「ああぁ、ああああああぁ、スライムで、スライムなんかで、こんなに、私、イっちゃ…ああッ、スライムで、本気でイってなんか……イって、イってェ、イってなんかァァァ〜〜〜〜〜〜!!!」
 膣道と直腸を隔てる壁を両方の穴から強く擦りたてられ、同時に体の一番深い場所にスライムの先端を感じながら、美里さんが全身を打ち震わせた。
 ジェルからわずかにフィードバックしてくる美里さんの膣内の温もりや締め付けに困惑しながらも、哀願するように泣き悶える美女の姿に興奮を隠しきれないでいる。何度も水浸しになってる下着の中で、恥丘の膨らみには痙攣と疼きがひっきりなしに駆け巡っていて、暖かいものがあふれ出して……全身ずぶ濡れでお漏らししているのが気付かれない事だけは幸いだった。
 女の体のあたしがこれだけ興奮しているのだ。あっちで遠く離れて見ている男たちの我慢なんて既に限界点を軽く突破してしまっているだろう。……そしてついに一人が奇声を上げて駆け出してくると、残り全員が一斉に我先にとあたしたちの方へと殺到し始める。
「たくやさん、ここは先輩冒険者である私に任せてください。まとめて吹っ飛ばして格好いいところ見せちゃいますよ♪」
「ダメェ――――――!!! この辺で強力な魔法使うのダメ。できれば速攻で逃げた方がいいっ!」
「でも……気を失ったお姉さまを担いでは、そう遠くまで逃げられませんよ?」
 見ると、美里さんは膨張したジェルの上で失神してグッタリ横たわっていた。
 このままじゃマズい……
 あたしの剣は全身に水を浴びた時から手放したままだし、舞子ちゃんの竜玉・竜鱗は封印札が解けてない。頼みの恵子さんは全身に魔力をみなぎらせ、やる気満々だ……が、それが一番マズい。下手をすれば大勢の死人が出かねない。
「ともかく逃げよう。いいから逃げよう。もっと遠く離れたら、あんな連中は星の果てまで吹っ飛ばして構わないから、今は逃げる、分かりましたか!?」
「そこまで言うなら従いますけど……あの子に説明してる時間、ありますか?」
 恵子さんがそう言って指差したのは美里さんでも舞子ちゃんでも、当然あたしでもない。
 指が向いていたのはさらにその先、最初に美里さんが現れた方向で、水賊の生き残りが襲い掛かってくるのとは正反対の方向でもあった。
 ただ……なぜかそっちの方からは時折ピカピカと光が発せられ、近づいてくるにつれて轟音と共に木が倒れたりしている。
 ………錯覚だ。あたしの目の錯覚だ。なんかとてつもなく危険な予感がするけれど、錯覚に違いない。
「センパ―――――――――イッ!!!」
 だけど、久しぶりに聞くその声までは聞き間違えられない。
「―――綾乃ちゃん!?」
 自分のパートナーである綾乃ちゃんの、涙交じりのあたしを呼ぶ声に反応すると、
「セ―――」
『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
 綾乃ちゃんの声を掻き消すほどの大きな咆哮が森中に響き渡った。
 ………なんでプラズマタートルがこっちに直進してくるのよ!?
 徐々に近づいてくる咆声に目を向ければ、久しぶりにあたしの声が聞けて、喜び勇んで突進してくるプラズマタートルの背中に涙目になってる綾乃ちゃんが必至にしがみついていた。
「先輩、助けて、この子暴走しちゃってぇええええええ!!!」
「―――ゴメン、無理」
「そんなァ――――――………!!!」
 馬車以上の速度で突進してくる重量級の暴走タートルを止める事など出来るはずもない。思わずヒョイっと横に飛びのいてしまい、しがみつくのに精一杯で目も開けていなかった綾乃ちゃんは、そのままプラズマタートルと共に水賊の生き残りのほうへと突っ込んでいった。
「………あ、マズ」
 ひどく冷静にそう判断した直後、目の前にいる敵を粉砕する為にプラズマタートルの背中から極太の電光が放出される。
「イヤァアアアアァァァァァ――――――――――――!!!」
 ―――爆発、振動、轟音に衝撃。さらにそこへ女の子の鳴き声が加わる。
 ほとんど体力の尽きていた水賊たちは、地面へ打ち込まれた強力の電撃の余波だけでまとめて吹き飛ばされた。
「しぇ……しぇんぱ〜〜〜い……たすけ…てぇ〜……」
 プラズマタートルも考えて電撃を放ったので、綾乃に怪我はない。だけど衝撃と閃光で目を回したらしく、今にも甲羅の上から落ちそうなんだけれど、


――――――――――ピシッ


「あ………」
 地面の下から、もっとも聞きたくなて、一番恐れていた音が聞こえてくる。
 ―――……随分、アジトから離れたと思ってたんだけど……
 それが地面の……仮に地下から見上げれば天井の崩れる音だと気付いたのは、実際にその光景を見てきたあたしだけだろう。吹っ飛んでいった水賊たちはあたしを押し倒すことしか考えてなかったし。
 今、この瞬間も足元からは不穏な振動が伝わってきている。次第に音が伝わってくる感覚は短くなり、やがて連続したひび割れる音へと変わっていく。
「綾乃ちゃん、舞子ちゃん、恵子さん……とりあえず逃げようか」
 何で、よりにもよってこの場所があの場所の天井なのかと、自分の不運を嘆かずにはいられない。
 あたしたちの足の下に何があるのかと言うと……水賊たちが大広間と呼んでいた地下の大空間がある。―――が、今、そこを『広間』と読んでいい状況なのかと言うと、そうでもない。
 本来なら、佐野が作ったあの地下味とが崩落する事はありえないだろう……が、今は壁一面が穴だらけ。と言うより、壁がない。乱闘の中でシワンスクナが打ち抜いたり、オークが体当たりして崩したせいだ。人間ミサイルが何回も突き刺さったせいでもある。
 そして天井も同様に穴だらけだったりする。
 壁が半分ぐらい無くなって広間がさらに広くなってしまい、絶妙のバランスで支えていたドーム状の天井を支えきれなくなっていた。これ以上広間で暴れると全員生き埋めになって危ないからと、逃げ出したのだけれど、大暴れしたジェルスパイダーや炎獣のポチが既に天井に何度も攻撃を当ててしまっており、時は既に遅かった……と言うわけなのだ。
 しかも、天井や壁の裏に網の目のように広がっていた通気口が一斉にひび割れて砕け、ひとつ上の階層にまでジェルスパイダーの八本足攻撃が貫通していた。それが決定的なダメージとなって水賊のアジトの大広間は本格的に崩落し始めていたのだ。
 もちろん逃げるときにも抜かりない。逃げ道をふさがれたので壁を粉砕して新たに道を作ったり、階段を塞ぐ為に天井をわざと崩したのも数知れない………だからこそあたしは、舞子ちゃんを連れて“水賊のアジト”から少しでも遠くに離れようとしていたのだ。
 ―――だけど、それも間に合わなかった。……と言うか、何でこの場所があの広間の真上辺りなのかと、不運を嘆かずにはいられない。
「………もう、逃げるのも間に合わないかな」
 あたしのこめかみに冷や汗が流れる間に、地面のヒビはあっという間に周辺に広がっていく。そこへ昨晩からの雨水の重みも加わり、電光や水蛇のダメージも相まって、一気に崩落を始めた。
 足の裏から地面を踏みしめる感触は消え、あたしを含めた女性五人と、その他大勢の水賊たちは、深い穴の底へ向かって落っこちていく。―――けれどそれは慣れ親しんだ感覚だ。なぜならあたしは、


「なんか今回、落っこちてばっかりだぁ―――――――――!!!」


 叫びながら、美里さんに纏わりついていたジェルへ、最大限に膨らむように命じた。










『水賊のアジト崩壊に関するレポート』
 
 重軽傷者――97
 死者――0
 損害――0

 逃亡していた元・冒険者ギルド所属の男は、崩落した場所よりもさらに奥で他の怪我人と共に発見される。
 水賊が拠点としていた地下アジトは崩落してしまったものの、全員が崩落した場所よりも開花に敵を失っていたため命に別状は無く、全員を野外テントにて拘留する。ただし、再逃亡される可能性も考慮し、それまで監視を強化する必要がある。
 首領と目されていた商人の男は、数名の部下と地下より小船で逃走。現在もその足取りは掴めていない。
 しかしながら、構成員の九割以上を捕縛し、拠点を抑えたことで、水賊は事実上壊滅したと見てよい。
 水賊のアジトは、崩壊したのが生活部分であり、港湾施設はわずかな補修で再利用が可能。ここを河川警備隊の新たな拠点とし、水賊の再発生を抑止する計画を提案する。


 また今回の水賊討伐において、依頼した冒険者に加え、先に山賊の一味を一人で討伐した勇敢な女性冒険者の助力があった事をここに書き記しておく―――


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