第2話その1
「それじゃあ行ってくる。留守番は頼んだぞ」
「大丈夫だとは思うけど、今は女の子なんだからちゃんと戸締りはするのよ。この辺りで最近、空き巣が出たっ
て言うし……」
「そんなに心配しなくたって大丈夫よ。何かあったら明日香の家に行くし、うちに入る泥棒なんているはずもな
いじゃない」
「だったらいいんだけど……」
「今から旅行に行くってのに、そんな暗い顔しないでよ。せっかく福引でペアチケットが当たったんだから楽し
まなきゃ勿体無いじゃない。ほら、いつまでもタクシー待たせておくのも悪いでしょ?」
「そうね…何かあったら電話するのよ? 旅館の電話番号はメモ用紙に書いてあるから。きちんとご飯は三食食
べて、洗濯も毎日するのよ?」
「はいはい。それより父さんとっくにタクシーに乗っちゃったよ。義母さんも早く乗って乗って」
あたしが押しこまなければいつまでも心配していそうな義母を朝も早くにやって来てくれたタクシーの後部座
席に載せる。そしてあたしが一歩後ろに下がると、扉は心配そうな顔でこちらを見つめる義母とこちらの空間を
隔て、そうしてタクシーは待たされて苛ついていた気分を晴らすかの様に一度エンジンを大きく吹かすと駅に向
かって出発していった。
ふぅ…しばらくは一人か……ま、静かにはなるかな?
少し冷たい感じのする朝の空気に排気ガスを撒き散らしながら走り去るタクシーの後ろ姿が見えなくなるまで
マンションの入り口に立っていたあたしは、やれやれと言う気持ちで溜息を突いた。
近所のスーパーの福引で二等の温泉旅行を当てたのは、意外にも不幸と言う名の星の元で男から女にコロコロ
変わってしまうあたしだった。けれど学生の身分で四泊五日などという休みを取ることなど出来ようはずもなく、
代わりに両親が夫婦水入らずで行くことになったのである。
おそらく、十月十日後には弟か妹ができているのでは……などと言う心配は…かなりの確立で現実の物ともな
るかもしれない……
「ふっ…ああ〜〜〜あぁ……むにゃ…もう少し寝よっと……」
今日は土曜でお休み。雀がチュんチュんと鳴く声に誘われるように、部屋に戻ったあたしはそのまま自分の部
屋へ入り、Tシャツ短パンという格好のままでベッドの上に飛び込んだ……
「ん……んんん〜〜〜〜〜〜〜〜!! よく寝たぁ!!」
あたしが起きたのは既に時計の長い針と短い針が重なり合う時刻……お昼の12時を少し過ぎた頃だった。
う〜ん…二度寝って恐ろしいなぁ……普段の寝不足って言うのもあるんだろうけど、ここまで寝ちゃうなんて
……
毎日毎日明日香に叩き起こされるのが習性となっているあたしにすれば、その本人が来ない限り睡眠時間なわ
けであり、それはもうぐっすりと、頭の中に眠気のねの字もないぐらいすっきりするまで寝てしまったのである。
おなか減ったなぁ……起きてすぐは二人の出発準備でどたばたしてたから、朝ご飯を食べる時間なんてどこに
もなかったもんね。時間的にもちょうどいいし、朝昼兼用って事でご飯を作りますか。
ベッドに座ったまま上に腕を伸ばして関節を伸ばすと、あたしはフローリングの床に足を下ろす。その直後―
―
うっ…結構汗を掻いてるなぁ……
服を着て寝たのがまずかったんだろう、いつもなら全裸で睡眠をとるのに慣れている体は夏用の薄い布地一枚
でもかなり暑かったみたいで、脇の下や膝裏にネットリとした寝汗が溜まっている。少し動くだけでもネチャグ
チャ音をたてそうな汗の掻きっぷりに、シャツの襟元に指を差し込んで前に向かって引き伸ばし、当然ブラなど
つけていない胸元に視線を落とす。男の時にはついていなかった女性特有の丸いふくらみには特に多くの汗を掻
いていたらしく、水分を吸って肌に張り付いた布が引き剥がされた途端、ムワッとする熱気と水分が一面濡れて
いる谷間の間から立ち上ってくる。
「もう…気持ち悪いなぁ」
額から落ちてきた汗のしずくを手の甲で拭い、両手をシャツの裾にかける。誰が見ているわけでもない、ここ
にはあたし以外誰もいないんだからと、ゴム鞠の様に大きな乳房を弾ませながら、一気にシャツを脱いでしまう。
「あ〜〜、今日は結構暑いなぁ……エアコンつけとこっと」
一人で生活するんだから、これぐらいの役得はないとね。
上半身にまとわり付いていたシャツを脱ぎ去り、そのシャツを胸元で押さえながら窓とカーテンを閉めてまわ
り、あたしの部屋についているエアコンのスイッチを入れる。十秒ほどたつと、低いモーター御と共に冷たいか
ぜが少し湿ったあたしの部屋の空気の中に吐き出されてくる。
うっ…うううっ…直接風に当たるのは裸にはちょっとキツいか……部屋全体が冷えるのに時間もかかるだろう
し、今のうちにご飯ご飯っと。
外からの視界を全て遮った部屋でエアコンの温度を調整したあたしは台所へと向かう。途中の洗面所で絞れば
水滴が滴りそうなシャツを洗濯機に放りこみ、そこであたしは着替えのシャツを持ってきていない事に気がつい
た。
周りを見渡せば、洗面台の大きな鏡……上半身だけだけれど、そこには汗に濡れて悩ましげに輝く肌を惜しげ
もなくさらけ出した女の子が立っていた。いまさら見間違えたり驚いたりはしない、これが今のあたし、相原た
くやだ。
「……………」
これと言って意味はないけれど、なんとはなしに両手を洗面台につき、顔を突き出して鏡を挟んだ世界にいる
女の子の体や顔をじっくりと観察する。
顔は自分で言うのもなんだけれど、かなり可愛いと思う……男の時とこれと言ってパーツは変わっていないは
ずなのに、女になったというだけで飛びっきりの美少女に変身って……嬉しいような、悲しいような……
そのまま視線を少し下げると、下を向いた大きな乳房が自然と目に入る。
手を上げ、体を起こして正面から自分の胸を見据えると、白くて大きな乳房の全貌を見て取る事ができる。
本当におっきいよね……こんなに大きな娘って学園でもほとんどいないし、形だって……
「――んッ!」
88センチ…最近いつも張ってるような感触があるから、ひょっとしたら成長しているのかもしれない乳房の
形を確かめるように右手を下側から乳房にあてがい、軽く表面を撫でただけで、あたしの体は敏感に反応し、小
さな唇からわずかな呻き声がこぼれ出てしまう。
そんな…別に揉んだりしてるって言うわけじゃないのに……
適度に湿った肌に上を触れるか触れないかの位置でそっと撫でただけだった……けれど、男なら誰でも生唾を
飲みこんで食い入るように見つめそうなバストは瞬く間に火照り出してしまい、表面をピンク色に染めながら新
たな刺激を求めるように疼き始める……
そういえば……ここ数日エッチな目に会ってないから……
「んんっ……ああぁ……」
いつの間にか左手までもがバストを撫でまわしていた。けれど撫でるだけ…ぬめる汗に包まれたバストのきめ
の細かさを味わいながら指先が丸みに沿って曲線を描き、細い指の先端で乳首の周り…そしてピクピク痙攣しな
がら勃ちあがり始めた乳首の根元を入念にくすぐり、愛撫する。
「ふうぅぅぅ…!!」
ビリッとした電気ショックが全身に流れ込んでいく。それほど強烈ではないあたしの手の動きだけれど、あっ
という間に張り詰めた乳房にはまるで神経をなぞられるような快感がこみ上げてしまい、溜まらず低い声で喘い
でしまう……
「はぁ……あぁ…いい……んっ!……でも…こんなの……!!」
震える喉を反りかえらせ、唇からこぼれてしまいそうなほど口の中に溜まった唾液を飲み干したあたしは、膨
大な精神力を使って両手を乳房から引き剥がした。
こんな場所でいったい何をしてるのよ………いくら誰もいないからってこんな…こんな………
何度か唾液を咀嚼し、荒くなっていた息を整えてから目を開けると、当然目の前には大きな鏡……さっきまで
透き通りそうなほど白い肌をしていたのに、今は興奮と快感、そして感じてしまったことに対する恥じらいとで
でほんのりピンク色に染まり、大きな乳房をさらに大きく見せるように上下させているあたしの姿が映った鏡が、
そこにあった……
「うっ……」
いやらしい……恥じらって少し閉じられた瞳も、ツンと尖ってあたしの方を向いている乳房も、あたしに抱か
れたいと言っているかのようで、見ているこっちが恥ずかしくなる。
無意識に、あたしは太股をよじらせて自分の体を抱いた。目も完全に鏡から逸らせている。
けれど、あたしは既に見てしまった。すっかり感じて、女の色気に目覚めてしまったあたしの体を……
「………………うん…」
身震いしている体を抱き締めてたあたしは思いきって決心すると鏡に背を向けるように反転する。けれどその
まま洗面所を出ようとはせず、ショートパンツのチャックを外し、勢いよく下ろして足首から抜き取ってしまう
…下に履いていたパンティーと一緒に……そして、右手に持った二つの衣服をそのまま洗濯機に入れると、着替
えを取りに自分の部屋に…ではなく、誰もいない、あたしが何をしても気づかれない場所へと、その歩を進め始めた……
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