ルート4−5


「相原さんとはココで勝負をつけるわよ!」
 そう言う涼乃ちゃんに連れて行かれた場所は、入り口を開けた途端に白い湯気があふれ出してきた。
「………お風呂?」
「そ。早く入んないとお母さんに怒られるし、リラックスできて今日一日負けが込んでるフラストレーションの発散も出来るから一石二鳥、いや三鳥!」
「………で、お風呂でどうやって勝負するの?」
 まあ……冷静に考えて、お風呂でできる勝負なんてせいぜい潜水か、どれだけ長くお風呂に入っていられるかの我慢比べぐらいだろう。見たところ、あたしの家のお風呂場の二倍か三倍はありそうな浴室だけど、滑って転びそうなこんな場所でバレーも羽根突きもまず無理だ。しかも湿度百パーセントのまさに蒸し風呂。スポーツ勝負やるのにこれほど不適当な場所も無いと思う。
 ―――それだけに嫌な予感がするんだけど。
 涼乃ちゃんの表情をうかがうと、勝利を確信した笑み……と言うよりも何か悪巧みをしているとしか思えない笑みを浮かべている。
「さあさあ入った入った。別にとって食べようって訳じゃないんだし♪」
「ちょ…ちょっと待って。あたしまだ襦袢を脱いでないんだから!」
 足袋は着物と一緒に脱いでいるので裸足だし襟もはずしているけれど、長襦袢はまだ身につけたままだ。ほとんど肌着も同然だから紐の結び目を解いて脱ぐで振袖に比べればそう手間は掛からないけれど、だからと言ってきたまま浴室に入るようなものでもない。
「でもさ……せっかくなら、その姿の相原さんをヒィヒィ言わせてみたいし。お正月らしく♪」
 なにがお正月なんだ……と呆れるあたしの背後で、バンッと音を立てて浴室の引き戸が閉められてしまう。
「……これで逃げ場は無いわよ」
「えっと……やだなぁ涼乃ちゃん。ちょっぴり恐いわよ♪」
 そう言えば「ヒィヒィ」なんて言葉を女の子が使う!?……なんて疑問が頭をよぎると、熱気と湯気の充満した浴室にいるのに背筋につめたいものが流れ落ちていく。
 ―――ここにいるとマズい。
 けれど入り口には涼乃ちゃんが立ちふさがり、外に繋がるのは換気の天窓ぐらいだけど、さすがにあれを通るのは無理だ。必死になって他の逃げ道を探すけれど、笑みを浮かべたままの涼乃ちゃんに詰め寄られると、どうしようもなく後退さるしかなくなってしまい、
「………あれ?」
 軽く胸を押されただけでひっくり返り、襦袢を着たまま大きな檜の浴槽へ倒れこんでしまう。
「―――プハァ! な、なにすんのよ!?」
「せっかく着物姿なんだし、こう、濡れてた方がエロスっぽくない?」
「あ………っ!」
 涼乃ちゃんに指摘されて体を見下ろすと、襦袢が濡れて透けているのに気付いて慌てて両腕で胸を覆い隠した。
 とてもじゃないけれど人に見せられる姿じゃない……うっすらと肌の色が透ける襦袢には乳首まで浮き上がり、今日一日ずっと締め付けられていた胸の膨らみに濡れた襦袢の白い布地が張り付いている。水を吸った襦袢はあたしの胸に普段とは違う艶を与えていて、純和風……と言う言葉が頭をよぎるようないやらしさを感じさせる。
 ―――まさか本気でエッチな勝負するつもり!?
 いくらなんでもそんな事は……と半分冗談のつもりでいたんだけれど、肩までお湯に使って体を隠し、洗い場に仁王立ちしてほくそえんでいる涼乃ちゃんを見てしまうと、そんな妄想が一気に現実味を帯びてきてしまう。
「正月から負け続きって言うのは性にあわないのよね」
 言うなり、まだ頭が現実に追いつけていないあたしの目の前で涼乃ちゃんは何の恥じらいも感じさせないぐらいに着ていたシャツを勢いよくたくし上げてしまう。
「――――――っ!!!」
 綾乃ちゃんの妹だ。見ちゃいけない。……と分かっているのに、真っ赤になった顔を緊張度驚きで固まらせてしまったあたしは衣服を次々と脱ぎ捨てていく涼乃ちゃんから目が離せなかった。
 ………年下とは思えないほどに、涼乃ちゃんはグラマーな体つきをしていた。バレーで鍛えられた体は余分あぜい肉など見当たらないのに、出るところは出てへっこむ所はへっこんでいる。張りのある乳房は形もよく、ブラから開放された途端、一回り膨らんだかのようにも感じられ、小さな乳首を突き出しながらプルンッと震えている。その乳房に目が釘付けになっていると、涼乃ちゃんの体は前のめりになり、男にとっては生唾もののアングルで胸の膨らみを見せ付けられてしまうと、プッツンプッツンと理性の糸が切れる音が頭の中に鳴り響いてしまう。
 これは……もしかして誘われてる?
 明日香と競い合っている時にはそんな雰囲気は微塵も感じなかったんだけれど、涼乃ちゃんにはレズッ気があるのだろうか? あたしはあまりレズでどうこうと言うのは好きじゃないんだけれど、目の前で瑞々しい涼乃ちゃんのしたいがむき出しになっていくのを見て何も反応しないほど男を捨てたわけでも無い。
 ―――そういえば女子校のバレー部って言ってたっけ……やっぱりこういうのに、慣れてたりするんじゃ……
 頭の中にブルマ姿の涼乃ちゃんが他の美少女たちと戯れる光景を想像し、豊かな胸の内側で心臓がバクバクと鼓動し出す。そんなあたしを見て涼乃ちゃんは柔らかそうな唇に笑みを浮かべ、後ろへ突き出したヒップに滑らせるようにズボンを脱ぎ降ろしていく。
「ふふっ……相原さんが男の人だって思うと、ココを見せるのはやっぱり恥ずかしいかな……」
 もう涼乃ちゃんのことしか考えられなくなっていたあたしの目の前で、ズボンが洗い場の床へ落ちてベルトが音を響かせる。そしてショーツ……伸縮性のある布地の内側へ指先が差し入れられると、かすかにためらい感じさせる間をあけて、その後は一気に膝へと丸められながら下ろされてしまう。
 ―――濡れてる……
 先ほど着物の裏でのまさぐりあいの名残だろうか、体を起こし、あたしの前で全裸になった涼乃ちゃんの股間は汗やお湯とは違うネットリとした輝きの粘液で濡れ汚れていた。それを見せると言う事は……?
 ゴクッと唾を飲み、わなわなと体を震わせてお湯を揺らすあたしの前で涼乃ちゃんが一歩、浴槽へ近づいてくる。
「うちのガッコてさぁ、生意気な後輩が入ってきたらまずは―――」
 そんな話、聞いている余裕……あたしの頭には、もうこれっぽっちも残っていない。話の途中で湯船から体を上げたあたしは、警戒せずに近づいてきた涼乃ちゃんの手を掴み、そのまま湯船へと引っ張り入れてしまう。
 据え膳食わぬは……と言う言葉が頭をよぎる。たんに裸を見せられていただけなら恥らって直視する事もできなかっただろうけれど、着物の裏で感じた涼乃ちゃんの体の柔らかさや甘い体臭の記憶が、あっさりと理性のタガをはずしてしまい、差し出されたおいしそうな果実に……あたしは考える事をやめ、美味しくいただく事を決意してしまう。
「な、なにすん……ン――――――ッッッ!」
 頭から浴槽に落ちた涼乃ちゃんがもがきながら勢いよく顔を上げる。―――それは十分予測できる。だからあたしは大きく口を開いて息を吸い込んだ涼乃ちゃんの顔を両手で挟み、かすかに震えているあたしの唇を押し付けて涼乃ちゃんの唇を塞いでしまう。そして抵抗されるよりも先に唾液にまみれた舌を差し入れてしまう。
「ムッ……ムグゥゥゥ………!」
 驚き、抵抗しようとする涼乃ちゃんを抱きしめ、舌を絡め取る。お互いの唾液が口の中で音を鳴らし、泡立っては唇の端から零れ落ちる。
 体の震えが腕の中に広がる……どんな気持ちであたしを誘ったのか分からないけれど、入ってしまったスイッチは戻しようがなく、右手の指を涼乃ちゃんの髪の間に差し入れて激しく、興奮と本能の赴くままに可愛らしい唇を吸い上げた。
「―――……ぷ…ぁ………」
 呼吸さえ忘れてしまいそうな濃厚な口付けを終え、粘り気のある唾液の糸をお互いの唇の間から伸ばしあいながら顔を離す。
 目の前にあるのは「大人のキス」の味に気をやってしまったかのように呆ける涼乃ちゃんの顔。頬は赤く火照り、最初こそ抵抗を見せていたのに、今では肩で大きく息をして蕩けるような眼差しであたしの事を見つめている。
「相原…さん………」
「たくやでいいよ……」
 そして、離れてしまった唇をもう一度触れ合わせる。
「っ………」
 今度は涼乃ちゃんも自ら受け入れる。どこかまだおずおずとした感じこそ抜けきらないけれど、最初のキスで要領を得たのか、あたしの舌の動きにあわせて口の中をもごつかせる。それに気を良くしたあたしは、襦袢に包まれたままのあたしの胸と負けじと大きく張り詰めている涼乃ちゃんの胸を擦り合わせながら、軽く腰を浮かせる。
「ンッ……むゥ……んぅ………んふぅ………」
 顔を上向かせ、唇の中へ唾液を流し入れると、涼乃ちゃんは目を伏せ、まつげを震わせながらそれを飲み下していく。唇から溢れたあたしの唾液が雫になって涼乃ちゃんの首筋を伝い落ち、喉へと流し込まれた唾液を飲み干すたびにその動きがあたしの胸と唇に伝わってくる。
「涼乃ちゃん……可愛いわよ……」
「はぁ…はぁ………ふやぁん!」
 あたしの口付けに答えて食えたお礼に、あたしの指はお湯の中にある涼乃ちゃんの割れ目をなぞり上げていた。お湯よりも濃厚でヌルッとした愛液の感触を確かめ、そして想像以上に敏感に反応して見せてくれた涼乃ちゃんの感じ方を確かめ、あたしの指は太股に挟まれながら閉じあわされた花びらの奥へもぐりこんで粘膜をゆっくりと擦り、弄ぶ。
「ひッ……んゥゥゥ……あい………たくや…さん……あたし……は、はじ…めて……んッ!」
「安心して……そこまで奪ったりはしないから………」
 行動に反してピュアな反応を示す涼乃ちゃんの耳元でそう告げ、膣口とクリトリスの周辺をグリグリと圧迫する。
「んいィィィ………!」
 お湯を跳ね上げ、共生を放とうとした涼乃ちゃんだけれど、とっさに両手で唇を押さえつけて声を噛み殺す。
「涼乃ちゃんも触りたかったら触っていいのよ?」
「―――、――――――……!」
 目に涙を浮かべ、避難するような眼差しで見つめてくるのをさらっと受け流し、首筋へ唇を滑らせる。そしてまた一段と体を反らせ、恥丘を突き出す涼乃ちゃんを指先一つで弄び、年下の女の子の思うがままに悶え狂わせる。
「涼乃ちゃんのエッチなお汁……また奥の方からあふれ出してきてるよ……?」
 恥ずかしい事を言われても、口を押さえたままでは何も言えない。それを知りながら言葉で軽くいじめ、そのまま割れ目を弄んでいた指をスッと引き抜いてしまう。
「ゃ………んッ、――――――!!!」
 一瞬悲しみと情欲の混ざり合った表情を見せた涼乃ちゃんだが、あたしの膝が股間へと押し付けられると、途端に眉をしかめて体を痙攣させる。そして同時に、涼乃ちゃんの股間へ太股を押し込んだあたしもまた、お湯の中で襦袢の前を開き、こちらの股間へ入ってくる涼乃ちゃんの太股へ紐パンの食い込む股間を滑らせるように押し付ける。
「ああぁ……涼乃ちゃんの足、スベスベしてて、気持ちいい……」
「たくや…さん……ひアッ……う、動いちゃ……ヒァン!」
「ダメじゃない。口はちゃんと塞いでおかないと……ね」
 手の届く位置に、丸められて脱ぎ捨てられた涼乃ちゃんの下着が転がっていた。それを涼乃ちゃんの口へ押し込んで浴室の隅々に響く涼乃ちゃんの悩ましい声を封じると、あたしは体を前後に揺すって自分と相手の淫裂をお互いの太股で擦り始める。
「ンンンッ!」
 お風呂の中なのに、あたしの全身に鳥肌が立ち、刺激を受けた股間からドッと愛液があふれ出した。まるで熱湯がアソコの中ではじけるような感覚に身を震わせると、一番敏感な突起を擦り付けるように腰を振り、豊満なあたしと涼乃ちゃんの胸を密着させたまま体を揺り動かす。
「涼乃、ちゃん、ほら、ヌルヌルしてる、感じて、るんでしょ?」
 コクコクと快感を堪える顔のまま頷く涼乃ちゃんをギュッと抱きしめると、後ろから回した左手でツッと涼乃ちゃんのアナルを刺激する。跳ね上がる若々しい体を抱きしめ、それでも太股と指で前後からの責めを続け、そして耳元でそっと囁いた。
「じゃあ…勝負しましょ。どっちが、先にイけるか、いい? いいでしょ?」
 イかせた方じゃなくてイった方が勝ち……その言葉の意味を理解したのかどうか、少しだけ逡巡するように動きを止めた涼乃ちゃんは、声で何も言えない代わりに体を動かし、あたしの太股に何度もクリと恥丘とを擦りつけ始める。
「もう……あたしだって負けないんだから」
 わざとそう聞かせ、自分のちょっとした悪戯心にクスッと微笑むと、浴槽の淵に涼乃ちゃんの体を押し付けながら右手を乳房の膨らみへと滑らせ、今日一日のお返しとばかりに指を食い込ませた。
「〜〜〜〜〜―――――――ッッゥ!!!」
 脈打つ乳房にはもちろん刺激が強すぎる。上半身を反り返らせ頭を仰け反らせた涼乃ちゃんにこれ幸いとばかりに唇を寄せ、右手で持ち上げた乳房の先端にチュッと吸い付いた。
「かわいいわよ、涼乃ちゃん。ほら、誰にも見られて無いんだから……」
 更新して硬く勃起した突起を上下から唇で挟み、右に左に軽くひねりながら先っぽを舌で舐めくすぐる。そして小さな乳輪を舌でなぞり、おもむろに口をいっぱいに開いて吸い付く。
「―――、――――、ゥ〜〜〜――――――!!!」
 胸を、お尻を、クリを、時間をかけて丹念に責め立てる。そのたびに引き締まった体をくねらせ、涼乃ちゃん本人の意思とは関係なくいやらしい表情を浮かべ、処女喪失の代わりの全身愛撫によって首を振りたてて泣き悶える。
 だけど早熟の身体は違う。お湯となかなか混ざり合わないほど濃厚なのに大量にあふれ出る愛液。そしてそれを潤滑液にしてあたしの太股の上で踊るように往復を繰り返す秘書はぱっくりと開いてしまっている。お湯の中で吸盤のように太股へ吸い付いて離れない粘膜に太ももの角度を変えて刺激を加え、両手をお湯の中につけてお尻を鷲掴んで左右へと割り開くと、涼乃ちゃんの口に押し込められた下着が困惑と快感の中でキツく噛み締められてしまう。
「もう……どうしよう、このままじゃ涼乃ちゃんに先にイかれちゃって負けちゃうかも。……どうしようっかな〜?」
 そんな言葉で涼乃ちゃんを焦らしながらも、あたしは口と手を休ませず、お尻から程よく引き締まったウエストをなぞり上げながら乳房へと指をかける。
「………涼乃ちゃんのエッチ」
 もう限界が迫ってきているのには気付いている。何度も擦られて包皮の中からむき出しになったクリトリスの勃起具合を太股に感じながら涼乃ちゃんの横手へ体を移動させ、背中から回した手で乳房を絞り上げ、太股から開放された秘所へはもう一方の手指を滑らせる。
「ん…んぅぅぅ〜〜〜――――――ッッッ!!!」
 白い薄衣を張り付かせた乳房を押し付け、お湯の中でクチュクチュと秘所をかき回す。まだ挿入の経験の無いそこは指一本でもキツく、それでも浅く早く、軽く曲げた中指の先を軽く挿入し続けると、こらえきれないほどの快感に涙を流した涼乃ちゃんがあたしへギュッとしがみついてくる。
「ふふふ……先にゴールさせてあげるから………」
「んッ、んッ……んんんんんぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 耳たぶに舌を差し入れ、クリトリスをコロコロと転がすと、キツく収縮した涼乃ちゃんのヴァギナから勢いよく熱い液体が迸った。………失禁だ。お湯の中だから見た目には分からないけれど、ガクガクと全身を打ち震わせオルガズムに突入した涼乃ちゃんの股間からはあたしの手を押し戻すかのような水流があふれ出して来ていて、あたしの指は淫裂を断ち割って粘膜を擦り、クリトリスを揉み潰すリズムに合わせて勢いを変えて噴出し続けていた。
 それでもあたしは涼乃ちゃんのクリトリスに指を這わせ続け、微細な振動を流し込んでは押しつぶし、お風呂の中でおしっこをしてしまう「いけない子」の一番感じる場所を何度も何度も攻め立てた。
「ん、ん……んんぅ……ふ…ぅん……………」
 力むままに愛液と小水の噴出を繰り返した涼乃ちゃん。やがてあたしの手の中から熱い水流の感覚がなくなってしまうと、涼乃ちゃんはガックリと首を仰け反らせて中が失神したみたいにお風呂の縁にもたれかかってしまう。
「あ〜あ、負けちゃった……」
 もちろんわざと負ける……言い換えれば、先にイかせるように責め立てたのはあたしだ。悔しさを感じるはずが無い。けれど涼乃ちゃんのような美少女を生かせた達成感に得も言えぬ興奮を感じてしまい……どうにも、このままあたしだけイけないままだと収まりが付かなくなってしまっていた。
「さぁ……次はあたしがリターンマッチしなくちゃね」
「ん…ふぅ………」
 涼乃ちゃんの口から下着を引き抜いても、まだ興奮冷めやらず、あたしの言葉にはっきりとした返答は返ってこない。それでもあたしへと向けられた瞳には抵抗の意思は感じられず、むしろ「この次」を期待しているようにも感じられた。
「……いい?」
 短い質問に、涼乃ちゃんの顔が縦に頷く。―――なら今度は、松永先生直伝のレズプレイの大本番を試そう……と、あれこれプレイ内容を考えていたとき、突然、まったく予期していなかったタイミングで浴室の入り口があたしたち以外の誰かに開け放たれてしまう。
 そしてあたしの目に映ったのは……微笑んではいるけれど絶対にメチャクチャ起こっている明日香と、その背後で信じられないものを見たかのように硬直している綾乃ちゃんの姿だった。
「お二人さん……いったいこんなところでなにをしていらっしゃるのかしら……♪」
「あ、明日香…いや、これはその、色々と事情が……」
「へ〜、ふ〜ん、そう〜。私たちが必死になってたくやを捜している間、あんたはあんたでよろしくやってたわけだ、よりにもよって、その子と……」
 こんな現場に踏み込まれて、どう反論したらいいのだろう……とてもじゃないけれど、あまりに突然の出来事に困惑が隠せず、この場を切り抜けられそうないい訳なんて一つも思いつかない。
 しかも洗い場には脱ぎ捨てられた涼乃ちゃんの服一式が散らばり、あたしの手には今の今まで涼乃ちゃんの口に入っていた下着が握り締められている。
 ―――終わった。
 もう何もかも終わった。明日香との恋人関係も、綾乃ちゃんとのよき先輩後輩関係も、何もかも……明日香達二人を前に大きくため息を突いたあたしは無言の視線の圧力に耐えられず、湯船の中で身を縮こまらせてしまう。―――ところが、
「も〜……二人とも、なに怒ってんのよぉ〜……せ〜っかく気持ちよかったのにィ……」
 この場の雰囲気が燃え盛る業火であるなら、間違いなく燃え盛らせるガソリンのように蕩けきった喋り方をしながら涼乃ちゃんがあたしの首へと抱きついてくる。
「二人とも野暮なんだからぁ……せ〜っかく相原さんを襲っちゃったって言うのに……」
「「―――襲った!?」」
 まぁ……確かに襲われた。けどすぐに逆転したけど。―――嘘じゃない、よね?
「そ〜よ〜……これ、どういう意味か分かるでしょ?」
 それは明日香に向けられた挑発の言葉だったんだろうけれど、ふと、あたしをかばってそう言ってくれているんじゃないかと確信めいたものを感じてしまう。
 とは言え―――
 「何で恋人の私じゃなくて新年初めてのエッチをその娘としてるのよ!」と顔に出てる明日香と、
 「涼乃ちゃんが先輩を…? えっと、あの、えと……」と困惑しながら顔を真っ赤に染めている綾乃ちゃん。
 そしてこんな状況だというのに、あれこれしちゃったあたしをかばい、あまつさえ今も乳房を押し付けてきている涼乃ちゃん。
(たくやさんのリターンマッチ……楽しみにしてるからね♪)
 そう言う事を耳元で囁かれても……明日香ににらまれていたら素直に喜べない。確かに涼乃ちゃんのおかげで襲った立場から襲われた立場にはなって幾分お咎めはマシになるだろう。だけど……
「ねぇねぇねぇ。今日は相原さんとお味布団で寝てもいい? 襲わないからさぁ〜♪」
「だ、ダメだよ涼乃ちゃん。あ、あの、先輩は、先輩にご迷惑が掛かるから、だからちゃんと自分の部屋で……」
「ヤダもん。だって、すっごくプリプリのプリンプリンで抱き心地が最高なんだもん♪」
「あんた……私に喧嘩売ってる? たくやはねェ、私と寝るの!」
「片桐先輩、あの、今うちには両親とか親戚とか大勢いるから不穏当な発言は小声で……」
「そーだそーだ。あたしより胸がちっさいくせに」
「なんですってぇぇぇ!?」
「涼乃ちゃんも片桐先輩を刺激しないで!」
「だから洗いっこした仲なんだし、一緒の布団で寝るのは――」
「まだ言うの!? いい加減たくやから離れなさァい!!!」
 綾乃ちゃんが明日香を宥めようとしても、涼乃ちゃんの一言で場はさらに険悪になる。涼乃ちゃんが裸であたしに抱きついているのも明日香を不機嫌にさせる一因だ。
 ―――あたしとしては、なにはともあれ早くお風呂から出たいんだけど……
 三人の口論(?)に口も挟めず、だまって柔らかい「お年玉」の感触を味わってはいるものの、涼乃ちゃんが大量におしっこしたお風呂に浸かっているかと思うと……さすがにちょっと引いてしまう。
「はぁ………」
 あたしの頭の上を飛び交う三人の口論を聞くと話に聞きながら、今年もエッチな騒動が巻き起こるんだろうなと、半ば人生諦めたため息を襦袢を着たままの胸元へ向けてゆっくりと吐き出した―――


つづく