1000万ヒット祝賀小説「ブラック・エルフ」-2・前


 ―――あ、あんまり見ないで。自信が無いわけじゃないけど……そ、そんなに若いわけじゃないし、クロムくんみたいな小さな子にジッと見られるのは……
 “彼女”も森の中で見つけたその日、ボクは生まれて初めて出会った森の外から来たその人から、人間の世界の話をいっぱい聞かせてもらった。
 “彼女”は自分のことを探検家だと言った。世界のいろんな場所に行って珍しいものを持ち帰ったり、天気とか地形とかいろいろなことを調べてくるのが仕事なんだそうだ。
 ドラゴンが住み着いている火を噴き出す山とか、青色に輝く海を泳ぐサカナと言う生き物と一緒に泳いだこととか、地面よりずっとずっと下のほうに穴を掘って暮らしているドワーフと言う種族のこととか、“彼女”から聞かされる話は、どれ一つとってもおとぎ話にしか思えない。だけど全部ホントのことなんだと思うと、胸がワクワクする。
 いつか、その光景を自分の目で見たい……この森を出て、色んな物を見る旅に“彼女”と一緒に行ってみたい。ボクは初めて自分がしたいことが自分の中に生まれた喜びに興奮を抑えられなくなって、一番最初に聞かなくちゃいけないことも忘れて“彼女”に新しい話を聞かせてとせがみ続けてしまっていた。
 気がつけば夜も深けていた。夕食の間もずっと探検の話を聞いていたけれど、エルフの里に辿り着くのに大変だったらしくて、“彼女”は「明日の朝になったら、もっといろんな話をしてくれる」と約束してくれて、その日はもう休むことになった。
 けど、ボクの家には狭いベッドが一つしかない。一人暮らしのボクには、里のエルフたちのように他の人と抱き合って眠ることがないから、狭くても問題なかったからだ。でも、昨日の内にでも“彼女”が来ると分かっていたなら、大急ぎで森の樹々の精霊にお願いして、とっても大きなベッドを作ってもらっていたのに。
 そんな話をしたら“彼女”は優しい笑みを浮かべて、新しいベッドを造るところをぜひ見たいと言ってくれた。“彼女”と新しい約束をしたボクは嬉しさのあまりにはしゃぎまわりながら、衣服を部屋中に脱ぎ捨てながらベッドへと飛び乗った。
 するとおかしなことに、“彼女”は顔を赤らめ、服を着たままベッドに上がってこようとする。絶対変だ。寝るときは裸になるのが当然なのに。ボクなら、服を着て寝たらごわごわして寝ることなんて出来やしないのに。
 「人間は服を着たまま寝るの?」って訊ねたら、“彼女”が困った笑みを浮かべたのを覚えてる。そしてエルフが服を着て寝ないと説明したら、
 ―――大丈夫…よね。実年齢は年上でも、相手は子供なんだし間違いなんて……
 なんて小さな声で呟きながら、腕も足も覆い隠す丈夫そうな服をボクの目の前で脱いでいった。
 その時からだ……ボクは、急におかしくなってしまった。
 ボクと違って、彼女は服をゆっくりと床に脱ぎ落としていく。一枚……また一枚……つぼみが花開くみたいに、少しずつ彼女の素肌が露わになっているのを見つめていると、なぜか耳の後ろあたりから全身に熱が広がり始めていった。里の女性ほど白くはない肌……腰や太股にはいっぱいお肉が付いていたけれど、鹿の足みたいに物凄く張りがある。腕も里の男性に力比べで絶対負けないぐらいに太いけれど、ボクは……薄着になって、エルフよりずっと丸みを帯びた彼女の姿が、スゴく美しく感じられた。
 ―――あの……見ても、笑わないでね?
 ちらりとボクのほうに目を向ける“彼女”に、ボクは何も考えずにカクカクと頷いていた。そんなボクを何秒か見つめて、ようやく“シャツ”と言う服に手をかけた“彼女”は、それまでのゆっくりとした動きからは信じられないぐらいに一気に“シャツ”をめくり上げた。
 その下から現れた“彼女”の胸には、白い布が何重にも巻かれていた。さらにその布の結び目に手をかけ、
 ―――人間の中でも、私より大きい人には会ったことが無いんだけど……
 その布が大きな胸を締め付けるためのものだと気付いた瞬間、ボクは大きく喉を鳴らして、渇ききっていた喉に生唾を流し込んでいた。
 大きい……信じられないぐらい、“彼女”の胸は大きかった。女性の胸が男性より膨らむのは知っているけれど、長い布の締め付けから開放された“彼女”のオッパイは片方がボクの頭と同じぐらいの大きさがある。
 そんなにもボリュームのあるオッパイに、ボクの目は釘付けになっていた。あのたっぷりとした膨らみは柔らかそうで、重たそうで、触ってみたくて、捏ねてみたくて……今まで里の女の人の裸を何度も見てきたのに、一度もそんなことを思ったことはない。それなのに、天井の辺りにいる光の精霊のほのかな明かりに照らされた“彼女”の胸の膨らみを見ていると、ボクの頭の中は煮えたぎってるみたいに熱くなって、おチ○チンがジンジンしながらビクッ…ビクッ…て脈打っちゃう。こんなの……今まで体験したことがない。ボク、絶対におかしくなったんだ……
 不思議なことに、“彼女”のオッパイの先っぽには、“先っぽ”が無かった。ボクの呼び出せる光の精霊の明かりはそんなに強くないけれど、ツンッと飛び出ているものがあるはずの先端のところには、代わりに縦筋みたいなのがあるだけだ。ボクにだって乳首はあるのに、人間っておかしい……と思いつつも、あの縦筋の中がどうなっているのか、ボクの関心はそっちの方に向いてしまい、浅く開いた唇から物凄く熱い吐息をこぼしてしまっていた。
 ―――それじゃあクロムくん、今夜はベッドを半分借りるね。でも……や、やっぱり狭すぎる? 私、そんなに太っちょ?
 最後に股間のところを覆っていた布地を脱ぎ下ろした“彼女”は、そこだけは手の平で隠しながらそそくさとベッドに上がってくるけれど……太っているわけじゃない。“彼女”の腰はキュッとくびれているし、里にいる誰よりも、ずっとずっと魅力的だとボクは思う。
 ―――きゃあ! ちょ、ちょっとクロムくん!?
 もう、我慢できない。ボクは彼女に飛びつくと、生まれて初めて眼にするたわわな膨らみの谷間に、思いっきり顔を埋めていた。抱き合って寝れば狭くたって大丈夫……そんな言い訳を口にしながら、想像以上に柔らかくて、想像以上にあったかくて、想像以上に気持ちのいい“彼女”の胸の感触を顔全体で味わっていた。
 いい匂いがする……土の匂いも、水の匂いも、葉っぱの匂いも、彼女の肌にいっぱい染み込んで、複雑に混じりあって一つの……まるで大地のような香りがする。そしてさらにその奥から、ボクと同じように火照った肌に浮いた汗の濃厚な匂いがボクの鼻の奥にまで流れ込んできて、溺れてしまうかのような錯覚に襲われて反射的に胸の谷間から顔を上げてしまっていた。
 ―――クロムくん……
 上を向いた視線のすぐそこに、“彼女”の顔があった。
 つぶらな瞳、そして精霊の放つ明かりを受け止めて輝いて見えるほどに美しい黒い髪。
 ボクより大人で、ボクより身体が大きくて、ボクよりもいろんなことをたくさん知っている人……そんな“彼女”に怒られるかもしれないと言う考えが頭をよぎった途端、身体が怯えすくんでしまう。
 ―――ねえ、もしかして、クロムくんは女性と…その……関係を持ったことってあるの?
 それはSEXのこと?……と逆に訊ね返し、それなら無いと“彼女”から目を離さずに答える。
 ―――じゃあ……これが初めての、長い夜になるんだね……
 “彼女”は手の中に持っていた砂時計のようなものをベッドの傍らに置いた。それは人間の使う魔術の道具らしくて、魔力に満ちたこの里の中なら効果も数倍だって、なぜか苦笑しながらそう言って、ボクらは惹かれ合うままに唇を重ね合わせていた。





 ―――そしてボクは、この時までの“彼女”の名前を聞いておかなかったことを、ずっとずっと後悔し続けることになった……




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