stage1「フジエーダ攻防戦」46
ひんやり冷たい空気が漂う長い階段を抜けて二人の衛兵が「清めの泉」へ駆け込む。
先に辿り着いていためぐみが悲鳴を上げていた事もあって、剣の柄に手掛けていつでも抜剣出来るように身構えていたが、地上の神殿の大聖堂よりも広い地下の一室にはめぐみとその護衛をしているオークとリビングメイル以外に何者の姿も見当たらなかった。
「シスター、なにがあったんですか? モンスターでも出たんじゃないかって駆けつけたんですが」
「い、いえ、あの……ゴブリンさんが二人ほどいらっしゃったんですけど、オークさんたちがやっつけてくれて……」
自分の悲鳴が聞かれていた事を恥ずかしがり、めぐみはモンスターに「さん」付けしながらたどたどしく事情を説明する。だが一方で、何事もなかったと聞かされながらも、二人の衛兵は緊張を解けないでいた。
理由はすぐ近くにいるオークの存在だった。
彼ら二人を含め、多くの衛兵が佐野のフジエーダ進行の際にモンスターに捕まり、牢屋に押し込められて苦渋を強いられてきた。そんな彼らを見張り、拘束していたのがオークだった。
しかもたくやが契約したのは牢番……捕らえられた衛兵が最も接していたオークだ。人間のことなど何も考えておらず、狭い牢に埋め込まれた彼らには食事も与えられなかった。いくら要求しても聞く耳を持たず――本来はオークに人間の言葉は通じないが、たくやの言う事は素直に聞くので彼らは誤解していた――、支配者として君臨していたオークに恨みの感情を抱くのは当然と言えた。
「あいつ等に何もされませんでしたか? もしかして、さっきの悲鳴はあいつ等に襲われたからじゃないんですか?」
衛兵はめぐみにそう訊ねるが、意味が理解されていないらしい。もともとそんな事を考えてもいなかったようで、
「いえ。あの、言葉は分からないんですけど倒れそうになったところを支えてもらったりして、スゴく助けていただきました」
オークと言うモンスターにおびえる様子もなく、笑みを浮かべてそう答えた。
(………どうする? あいつ、いつ襲ってくるか分からないんだぜ。あんなのと一緒にいなきゃいけないのかよ)
(たくやちゃんの言いなりだってのは分かるけど、あいつらに仲間を殺されたんだし……シスターには後から説得すれば分かってくれる)
(そうだ。あいつらが俺たちの街をメチャクチャにしたんだ……あいつらが来なければ……!)
本当ならば、フジエーダ襲撃に際して衛兵に志願した二人とオークとでは最初から勝負になりはしない。しかし、衛兵詰め所で衛兵長の指示の元とは言え勝利を収めたことや、こちらに背中を向けて辺りを警戒しているオークが想像以上におとなしい事が、二人に確実に勝てる、復讐できると言う誤解を与えてしまっていた。
(たくやちゃんには悪いけど、こいつだけは許せないんだ……!)
「どうかしたんですか? あの、お二人とも、顔がスゴく恐いんですが……」
何事かと心配するめぐみを押しのけ、二人の衛兵は鞘から剣を抜き放った。そしてカンテラで周囲を照らし、もうモンスターがいない事を確かめていたオークの背後に忍び寄る。
「や…やめてください! 何をするんですか!?」
二人から放たれるさっきを肌で感じためぐみは止めようと手を伸ばす。だが高々と剣を振り上げた二人の衛兵は、めぐみが止めるよりも早く、手にした刃を勢いよく振り下ろした。
「あっ………!」
目の前で、ここまでいっしょに来たオークが斬られようとしている光景に、めぐみの体はすくみ、声が出せなくなる。―――だがカンテラを放り投げ、勢いよく振り返ったオークはそのまま突進し、剣を掻い潜って二人の男を、そしてめぐみをも抱えると壁に向かって走り寄って行く。
「こ、このッ!」
三人抱えていては、いくらオークが怪力といっても抱え方に隙が出来る。そのまま壁に叩きつけられると思った男は身をよじってオークの腕から逃れ、地面へ転がると、
「――――――!!」
口から息が迸る。
衝撃は一瞬で男を吹き飛ばしていた。鎧に直撃したおかげで一命は取り留めたものの、鉄球を叩きつけられたような重い一撃に肋骨はまとめて砕ける。体は手まりの様に高くバウンドし、何回か地面へ落下した後、床にうずくまったまま咳き込み、辺りに血の臭いを撒き散らした。
「ブヒブヒッ!」
めぐみと残った衛兵の一人とを階段へと繋がる部屋の入り口へ押し込めたオークは大剣を体の前で盾の様に構え、倒れ伏したまま動けないでいる男の下へと駆け寄る。だがその途中で正面から何者かによる攻撃を受け、恵みたちのいる場所の横の壁へ重い巨体が勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「な、なんだ、なにかいるのか!?」
無事だった衛兵は自分たちが持ってきていたカンテラを前へ突き出し、目の前に広がるくらい地下泉にいるであろう何者かを視認しようとする。―――だがそれは自殺行為に近い。泉の傍で燃えるカンテラの炎とは別に、揺れ動いた灯りを目標にして、光の届く範囲の外から何者かの攻撃が一直線に飛んでくる。
「あ―――」
それが命を奪う一撃であると理解する行為よりも速い。一瞬にして衛兵と、その横に立つめぐみの眼前に迫った巨大な「脚」だが、とっさに黒装束のリビングメイルが飛び出し、短剣で切り払った事で一命を取り留めた。
「い、今のうちです。あの人を助けなくちゃ…!」
幸い、壊れたカンテラからは油が漏れ、引火した火は大きくなって周囲を明るく照らしている。まだ倒れたままの衛兵のところへ、自分の身が危険な事も忘れて駆けつけためぐみは、傍らにひざまずいて水の女神への祝詞を口にする。
「じ、慈悲深き水の女神、アリシア様……お願いです、この人を…この人を助けてください……!」
手にした聖印に癒しの光が灯り、苦しんでいた男に近づけるとわずかに呼吸が楽になる。けれど死んでいてもおかしくないほどの重傷の人間をすぐに癒しきれるほどめぐみのレベルは高くない。そんな彼女を守るように、剣を構えたオークと黒装束が湖の上にいる何かとの間をさえぎるように前へ出た。
―――――キシャアアアアアアアアアアッ!!!
暗闇の向こう側から攻撃し続けていれば労せず勝てただろうに、まるでめぐみとオークたちの勇気に敬意を表するかのように敵が姿を現した。
ミストスパイダー……それがただの蜘蛛ではなく、気体状の体をした強力なモンスターである事をめぐみたちは見聞きして既に知っていた。以前、静香を誘拐しようとした男が操り、つい先刻も広場で二匹のこの大蜘蛛がその攻撃力を振るっていたのを、偶然衛兵たちと合流して隠れていためぐみたちも直に目撃している。
広い地下室の隅々にまで響き渡るほど、ミストスパイダーは声を発するのに適さない口から奇声に似た叫びを発する。それが獲物を前にした喜びの声である事は、その場にいる者にはなんとはなしに伝わっていた。
水面に浮かぶ大蜘蛛が前脚を上げる。
オークと黒装束がそれぞれの剣を構える。
大蜘蛛が水面上にいる以上、オークたちの攻撃は届かない。防戦のみの厳しい戦いになる事を覚悟しながらも、それでも二匹のモンスターは「めぐみを守れ」と頼ってくれた主の願いに答えるために、その場から一歩も引こうとしなかった。
水面がねっとりとした輝きを放ち、静かに波打つ。
―――そして、一方的な戦いが始まった。
「あっ……あう……ああ………んッ……急がなきゃ…いけないのに……んクッ……こんなに……あうッ、うゥゥゥ!!!」
オチンチンガ…ホシイ……
口に……おマ○コに……入れてくれるならどこでもいい。お尻でもいい。胸の谷間でも、おチ○チンをくれるなら、なんだって……なんだってする…からぁ……!
階段を一歩降りるたびに、ほんのわずかな振動が脚を伝って股間へ到達し、ヴァギナを狂おしいほど震わせる。ストッキングに包まれた内股は太股どころか足首までぐっしょり濡れていて、何とか立っていられているたくやの足元へポタポタと大粒の雫を滴らせていた。
「まだ……あたしは…う……うぁ………ダメ…イっちゃう……いく…いく……イッ…クゥゥ………!!」
あたしがフェラをしていた場所から、まだ二十歩と離れていない。一歩進むのに一時間かけているかのようなゆっくりとした動きの中で、もう何度も絶頂を向かえてしまっている。
「は…ぁ……胸……こんなに苦しい……んっ……」
まだ出してもらった精液が纏わりつき、濃厚な臭いを放っている乳房に手をあてがい、ゆっくりとこね回した。
量感と張りとを兼ね備えた乳房は手の平でこねればその動きに合わせて形を変える。足を進めながら次第に激しく胸を揉み始めたあたしは、前を開いたままのブラウスの中へ手を差し入れ、吸い付くぐらい汗ばんだたわわな膨らみを直にこね回す。
「ああっ………♪ す、スゴい……胸でこんなに……ああッ、あ…ああ…あ――――――ッッッ!!!」
おっぱいがスゴく気持ちいい。ジンジンと疼いているところへ指をキツく食い込ませてやると、胸の谷間から息が詰まるほど濃厚なフェロモン臭を放ちながらんくづきのよい体を引き絞り、位置を調えた下着の中へ愛液を撃ち放ってイきまくる。壁にすがり付いて階段の途中でひざまずくと、ギュンギュンうねっている下半身を大きく後ろへ突き出し、乳首の根元から乳房全体へと広がる疼きを鎮めるために指を食い込ませ、短い黒髪を振り乱してヴァギナをブルブルと打ち震わせた。
けれど気持ちいいのはそれだけじゃない。まるで初めて胸に触ったときのように……いや、それ以上の心地よさが手の平全体に広がっている。指が吸い付いて離れない柔らかい膨らみ葉も目が揉むほど弾力を増し、指を押し返してくる。そのままゴムまりのように強く揉みこめば美しい曲面を形作っていたバストが形を歪め、胸の先が熱く強張り、千切れるのではないかと思うほど伸び上がってしまう。
そこまで気持ちよくさせているのは、他でも無いあたし自信の手。胸を揉む手の気持ちよさ。揉まれる胸の気持ちよさ。その両方によって意識が蕩け、冷たい空気が流れているはずの周囲の空気がねっとりと纏わりつくような濃密なものへと変わっていく。
―――媚薬に侵されてるからって……こんなに体がおかしく、なる…なんてぇ……!
壁に頭をもたれかからせると、乱れたメイド服から激しく疼く乳房をあらわにし、スカートをまくるのももどかしいぐらいに空いたもう片方の手で股間をなぞり上げる。
「きゃふぅん!!!」
下着の上からでもコリッとしているのが分かるクリトリスを引っかくように刺激する。撫でるだけでも十分達しそうなのに、考えもなしに突きたててしまった爪の先端の鋭い刺激にヴァギナは大きく跳ね、通路に木霊していつも以上に声が大きく響いてしまうのに思わず喉を震わせてしまう。
「おマ○コ……ビクッビクッて…震えてるぅ……あ…あたし……はふっ…また…イって……んあああっ!!」
喉を反り返らせて吠えたあたしは壁へ乳房を押し付け、両手を濡れた太股の間へ差し入れる。表面は長年染み込んだ水分のせいでヌルッとしているけれど、体重を掛ければ掛けるほどに大きな乳房は押し潰れ、凍る寸前のようにひんやり冷たい壁に密着し、暑く火照った肌と体が鋭敏に反応して身震いしてしまう。
「うあっ、うあっ、あ…あたし……えっちぃ……えっちぃの……ごめん…手ぇ……とまんないぃ……!!!」
股間をまさぐる手の動きが加速し、突き出した腰から込み上げる快感にあわせて体を前後に揺さぶる。瞳を閉じ、野太い巨根にヴァギナはおろか子宮の奥までかき回されている自分を想像しながら膣口へ指を差し入れると、改めて自分のヴァギナの締め付けとヌルヌルと蠢く膣壁の背筋まで震える気持ちよさに恍惚としながら腰を踊らせ、壁に押し付けた乳房を縦横に蠢かせていた。
「もっと……もっと欲しいの。おマ○コに、おマ○コにおチ○チン欲しいの。おチ○チン、おチ○チン、おチ○チぃぃぃン!!」
まるで指から射精してしまうんじゃないかと思うほど、あたしのヴァギナは指を激しく締め付ける。口から男性器を示す言葉を連呼し、壁の微妙な凹凸にビンビンに尖った乳首を擦り付け、背筋をオルガズムが駆け上がってくる。
「イくの。愛液垂らしてイっちゃうのぉ!! おマ○コが、グチュグチュ言って、言って、ああぅうううっ!!」
もう子宮は下がりっぱなしだ。指先から関節、綺麗に形を整えた爪の先端や根元まで余す事無く一本の指に絡みついてくる膣壁を強引に掻き分けて容易く触れられる子宮口をなぞり上げる。
「――――――〜〜〜〜〜〜!!!」
ハンマーで頭を殴られたような衝撃に襲われる。あまりにキツすぎるタッチングに強烈な火花が脳天で弾けて意識が真っ白になる。
右手の指が二本になり、左手も人差し指を無理やり挿入する。絶頂状態が長く続きすぎて指一本でもキツいおマ○コにそれだけ指を入れたらリズミカルに動かせないけれど、深く挿入した指で淫汁の溜まった膣の最奥をかき回し、白濁しきった体液をあわ立てるように入り口を小刻みにかき回す。広げられたヴァギナが悲鳴をあげるけれど、涎と涙を流してよがるあたしは自分の感じる場所を自分の指で責め立てながら喘ぎ感じて、お尻で小さな円を描くように身をくねらせる。
「こ…このまま……あたし…ずっとオナニー、オナニーしてる……あ…あはッ♪ いいの、出る、イく、おマ○コが、ふあっ、ふあああああああっ!!!」
冷たい壁でおっぱいが蕩けるの。
おマ○コから愛液が爆発するの。
膨らみきった肉芽を手の平で押しつぶし、膣内を指で執拗にかき回し、感じる場所を抉り抜く。角度を変えて壁に乳首を押し付け、指先を子宮口へ突き上げる。
「おマ○コ……きもちいーの……ま、また……あああ、欲しいぃ…太いの欲しいぃ……指じゃ足りない、足りない、のぉぉぉ!!!」
アクメに達しながら、濃厚な愛液を勢いよく撒き散らす。体を回して背中を壁に預けると、おマ○コ汁でドロドロに汚れた左手でスカートをまくり、火照った脚の間へ冷たい空気を取り入れるけれど、そんなの、一瞬で熱く湿ってしまう。
ビュルッと、左手が開いたスペースから白く濁った淫液が噴きあがった。絶頂射精は一度では収まらず、悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げながらヴァギナを引き絞り、連続して女の射精を繰り返してしまう。
「はぁあああっ!……ま、まだ、まだイけるの? あうぅん! ああああぁ!! ッ―――――――!!!」
後頭部が壁を打つけれど、神経は快感に埋め尽くされて痛みを感じない。
もうこのまま死んでしまうまでイき続けるんじゃないかと、そんな非現実的な想像が現実のものへと変わっていく。
手の平を股間へ叩きつけるたびにビシャッビシャッと愛液が噴き、底なしの快楽に溺れながら豊満な乳房を天井へ向けて突き上げる。
もう、快感から逃れられない……
「はぁ、はあぁ…おチ○ポ、ここ、おマ○コに、おチ○ポ欲しいの。太いの欲しいの。あ…あああああああっ!!!」
ヴァギナの中は暑く煮えたぎっていた。……もしこんなおマ○コにあたしのおチ○チンを入れたら……そんな想像が頭をよぎる。
「―――あた…し………おと、こ…? こんな…淫乱で……オナニー…とめらんないのに…………い…イヤアァァァ!!!」
一瞬だけ戻りかけた理性……けどそれはすぐに焼け焦げる。
考えちゃいけない。考えたらあたしは狂う。考えたらあたしは今のあたしじゃいられなくなる。それは……スゴく恐い。
止められない。やめられない。
もう自分が正気じゃないのは自分でも分かってる。獣の様な声を上げてよがりながら、十分慣れてしまった豊満な女性の体を震わせる。おマ○コの中は蕩けるように柔らかく、熱湯のように熱い。音を立てて指を挿入するだけでヒップが浮き上がり、何人もの男性に抱かれてきたイヤらしい体に震えが走る。
「い……やぁ…………」
だけど涙が止まらない。
誰かの姿が脳裏をよぎり、悲しそうな目であたしを見つめるけれど、もうそれに答えられない。喘ぎと指の動きをシンクロさせて悶え泣き、何度も何度もヴァギナを突き抜ける。
「あ、ぁ、んんんっ……んあぁぁぁ! ぁあああああっ!!!」
………もう限界だった……限界なんてとうに越えていた。
むせび泣くような声を上げながら、あたしのヴァギナは強烈に収縮する。
「あぁっ、あひッ、ああぁあっ、んっ、んぁぁぁ…ひうッ、ひッ、い、ひぁあああ……も…とめ……とめてぇぇぇええええええっ!!!」
自分の意思ではヴァギナから指を引き抜くことさえ出来はしない。もう何もかも手遅れ……全身からにじみ出た大量の汗と、辛うじて残っている男の精液の臭いに包まれながら口を喘がせ………不意に、
「ひぁああああああああああっ!!!」
指がズルッと、密着するほど絡み合っていたヴァギナから引き抜かれる。
手首や腕に何かが力が加えられ、あたしの意思とは無関係に体を操っている。何度も乳房を波打たせ、膣口から愛液をとめどなく滴らせながら悶絶を繰り返す中で、あたしは重たい左腕を動かして自分の右腕を確かめると、ほんのり赤みの浮いた白い肌に食い込むように細い糸が巻き付いている。
「え…………あ…………蜘蛛………」
いつからそこにいたのだろうか、まつげを震わせながら開いた瞳の先には、天井から一匹の蜘蛛が垂れ下がっていた。
かなり大きな蜘蛛で、あたしの手の平ほどの大きさ。そして暗闇の中でほんのり灯かりを灯す黄色く透明な腹部を持つ蜘蛛に、あたしは見覚えがあった。
「蜜蜘蛛……ずっと…ここにいたの……?」
あたしが尋ねると、物言わぬ蜘蛛はポトッと地面へ落ち、敏感になっている肌を避けてメイド服をよじ登り、あたしの肩へと這い上がってくる。
そこには以前、小さなスライムが乗っていた。久しぶりに感じる肩の重みに寂しさと嬉しさを感じ、蜜蜘蛛の口元へ指を伸ばす。
「ありがと……あたしを…助けてくれたんだよね……」
小さな口先で指先に纏わりついた淫液をすする蜜蜘蛛。あたしが最後に放った「とめて」と言う言葉に従って助けてくれたのか……どうかは、今の疲れきった状態じゃちょっと分からない。それに一瞬でも気を抜けば、まだ全身にわだかまっている快感の疼きが暴れ出しそうで、とても平静とはいえなかった。
「っ………早く…下に降りて………降り…て………」
清めの泉ではめぐみちゃんが待っている。そこでなら魔蟲に打ち込まれた媚薬を浄化できるはずだ。
けれど、あたしの体はもう動かない。立ち上がろうにも膝にはまったく力が入らず、壁にすがっても立てない有様だ。休めば体力は回復するかもしれないけれど、それまでに媚薬のもたらす果敢地獄に意識を飲み込まれる可能性の方が大きい。
―――どうすればいい…?
たしか蜜蜘蛛がお腹に溜め込んだ蜜にはポーションのように体力回復の効果があったはずだ。けどそれを飲んでも、すぐには動けるかどうかも分からない。それに……体が動くようになったら、すぐにでも体をまさぐってしまいそうで……恐い。快感に溺れている間はなんとも思わなかったのに、もう一度そこに足を踏み入れてしまいそうな自分に、思わず震えが込み上げる。
めぐみちゃんたちが迎えに来てくれれば……と、唯一の望みに掛けてジッとしていようと消極的な決意をする。そんなあたしの肩の上で、蜜蜘蛛がしきりに足をモゾつかせ、メイド服の襟をクイックイッと引っ張ってくる。
「どう…したの……?」
あたしが顔を向けると、蜜蜘蛛は顔をあげる。どこか見詰め合っているような雰囲気に苦笑が漏れ、少し気分が明るくなるけれど、蜜蜘蛛が口に咥えている糸に気付くと、それに意識が集中してしまう。
………太い糸だ。暗闇の中では見えないほど細い蜜蜘蛛の糸は、先ほどのようにあたしの手を引っ張ったり、束ねればオーガの怪力を止めたりと、普通の蜘蛛に比べて強度がある。けれど蜜蜘蛛が差し出す縫い糸程度の太さの糸は明らかに今まで目にしてきたものと違う。それを今、あたしに気づかせようとする蜜蜘蛛の意図を考えると……
「これを……あたしに………?」
一縷の望み……と言うほどではない。それはほんの気休めのつもりだった。でも蜜蜘蛛の手からその糸を受け取った直後、あたしは不思議な感覚を感じ取っていた。
太い糸はかなり湿っていた。指で触れるとゼリーでも纏わりついているかのように指に吸い付いて離れない。まるで糸があたしの指にじゃれ付いているような感覚さえ覚えてしまう。
けれどそんな感触とは別に、細い、きわめて弱く細い何かの意思があたしの頭の中へと流れ込んでくる。
「もしかして……」
あたしはまさかと言う思いで蜜蜘蛛へ顔を向ける。
この蜘蛛は……肝心な時にあたしを助けてくれる。
そして、助けてくれていたのはあたしだけじゃなかった。
「―――ありがとね。色々頑張ってくれてたんだ」
相手が蜘蛛で気持ち悪い……と言う気持ちはない。あたしは尽くしてくれた蜘蛛のモンスターに軽く唇を触れさせると、手にしたい戸を強く握り締め、残った力を振り絞って言葉に意思を込めた。
「ジェル、迎えに来て!」
清めの泉での戦いは、決着はもう時間の問題となっていた。
オークと黒装束のリビングメイル、二体のモンスターはかなり強い。パワーのオーク、スピードの黒装束、実際に戦えばともにここまで降りてきた衛兵など簡単に切り伏せるだけの実力を持っていた。
だがミストスパイダーに物理的な攻撃は通じない。大質量によって気体状の体を一気に吹き飛ばすのならまだしも、剣などの斬りつける武器には無敵と言っていい。オークたちは強敵であるミストスパイダーにダメージを与える攻撃手段を何一つ持たない状態で戦うことを余儀なくされ、ましてや水面と言う剣の届かない位置にいる相手に対してなんら有効的な行動をとることも出来ないでいた。
けれど二匹のモンスターは衝撃を受け続けてボロボロになった剣で、背後にいるめぐみと倒れた衛兵を辛うじて守り続けていた。
めぐみは治療魔法はまだ続いていた。。その甲斐もあって肋骨を余さず砕かれていた男の顔にも血の気が戻ってきてはいるが、まだ意識を取り戻すにいたってはいない。
そもそも先だって十人以上の怪我を癒しており、めぐみは魔力も精神力も尽き掛けていた。聖印に灯る奇跡の光はもう灯火ほどの輝きしかなく、いつ消えても不思議ではない。それでもめぐみは必死になって祝詞を唱え続けていた。
「おい、早くこっちに来い! そんなところにいたらいつか殺されちまうぞ!」
攻撃がめぐみの方へと集中しているために無傷のままの衛兵は入り口の影に隠れたままそう叫ぶ。けれど、若い女僧侶の耳にはもう届いていなかった。
「だい…じょうぶです……たくやさんって……スゴいんです……お姫様だって…助けちゃうし……悪い魔法使いだって……やっつけてくれますから……」
聖印に灯る光がわずかに増す。けれどそれは気を失う前の、最後の足掻きだった。
「わたし………あんな風になりたいんです……一生懸命で……何でも頑張って……それでもあんなに笑っていられて………だから…わた…しも……」
言葉が切れ、聖印の光が消える。そのままめぐみは横たわった男の上へ折り重なるように倒れこむ。
「ブヒブヒブヒッ!!」
「……………!!」
めぐみが倒れ、オークと黒装束の意識が後ろへ向く。同時に、二匹の隙を見逃さなかったミストスパイダーは、決着をつけるために二本ではなく前四本の足先をオークたちへと向けた。
―――そして、攻撃をしようとしたミストスパイダーは真下から噴きあがった水の柱に飲み込まれてしまう。
「――――――――――――――――――――――――!!!」
それは包み込む水の膜だった。単に噴き上がっただけでは気体の体のミストスパイダーに逃げられてしまう事を知り、大蜘蛛を取り囲むように水が噴き上がって上方を塞ぐ。そして一気に収縮した「水」は暴れる大蜘蛛を押さえつけ、咀嚼するように蠢きながら少しずつ溶かし、飲み下していく。
「あ………もしかして……ジェルさん…ですか……?」
あれだけ苦戦させられたミストスパイダーを飲み込んだ水面を見て、今にも意識を失いそうなめぐみがそうつぶやく。すると、広い地下泉の水面全体に小波が走り、めぐみに一番近い岸へ向かって全ての水が収束し始める。
現われたのは、めぐみの記憶にある小さなスライムではなく、不恰好な水の固まり……いや、水の小山だった。明らかに水面よりも高い位置にまで盛り上がった水の固まりはゆっくりと岸へ這い上がり、男は避け、眠りに落ちようとするめぐみをそっと包み込む。
「ブヒブヒブヒッ!」
「……………」
たくやと契約したモンスター同士、通じるものがあるのだろう。すぐに互いの存在を確認すると、使い物にならなくなった武器を捨てたオークと黒装束も巨大不定形スライムの中へと飛び込んだ。
「う……うわあああぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」
与えられた魔力が足らず、膨大な水を集約しきれずにいる巨大スライムが迫れば、普通はその異様さに思わず逃げる。そんなごく自然な反応を示して残っていた衛兵の一人が部屋の入り口から逃げ出すと、巨大スライムは一斉に狭い階段へ殺到した。
―――たくやが呼んでいる。
主の呼びかけで目を覚ましたスライムは、待ちわびるたくやの元へ激流となって階段を駆け上がっていく。めぐみたちの周囲は残っているわずかなたくやの魔力を集中させて可能な限り濃度を濃くし、怪我をさせないように注意深く急ぐ。めぐみはたくやの友達だ。怪我をさせたら怒られてしまう。
そして階段の途中で座り込んだたくやの元へ辿り着いたスライムは……久しぶりの再開に嬉しさを抑えることが出来ず、そのまま一気に抱きつき、飲み込んだ。
stage1「フジエーダ攻防戦」47