第九章「湯煙」16


「アむ……ん…んんゥ……んチュ……あ、ゥむ………」
 ――何かこれは……一種の罰ゲームかと思ってしまうほどのエロスな行為なんじゃなかろうか……
 湯船にひざまずく美由紀さんを見下ろしながら、その唇に指を舐めさせる……見た目からしてあたしより年上で、どう見ても男好きのするグラマーな体つきをした美由紀さんがタップリと量感のある乳房を小さく奮わせながら指に吸い付いている姿は、あまりにも扇情的である。
 あたしの右手の手首を両手で軽く掴み、揃えて差し出した人差し指と中指とをネットリと唾液がまとわりついた舌が這い回る。そのくすぐったさにあたしがエッチな気分になりつつある事にも気づかずに、まるで主人に命令された犬のように、飽きる事無く繰り返し、指先から根元までを丹念に舐めしゃぶり続けている。
 もしこれがあたしのおチ○チンだったら……そうじゃなくても、背負い袋の一番奥に押し込んだ擬似ペ○スででもいい。もしあたしの股間からはえたモノを美由紀さんの前へ差し出せば、きっとしゃぶってくれる……そんなふしだらな妄想が頭の中を駆け巡り、美由紀さんの口の中からチュパチュパと音が響くたびに熱いモノが体の奥で大きくうねり、甘い興奮に触れてもいない乳首がビリビリと疼いてしまっていた。
「ハァ…ンッ……ああァ…たくや君の……ん……ん…んんん……」
 一心不乱に指を頬張り、滴ろうとする唾液を音を立てて吸い上げる美由紀さんが、一際深く指を飲み込んでしまう。不意に喉の奥の壁に触れてしまって驚く指先を舌の上で優しく包み込み、うっとりと蕩けた表情を浮かべながら美由紀さんは少しずつ、頬がへこむほどに吸いながらあたしの指を吐き出して行く。
 ――ッ……美由紀さん……そんな事までされると……あたしもう、自制が……!
「ぁ……たくや…君……どう? これで…いい?」
「――――――ッ!」
 よほどあたしに満足してもらいたかったのだろう、チュポンと指先から唇を離した美由紀さんはアゴへと幾筋も涎を垂らしていて、大きく息を乱していた。
「私……よく分からないから……たくや君に嫌な思い、させてない?」
 ―――ゴクッ
 温泉の火照りと欲情の火照り……二つの熱さで顔を赤くした美由紀さんの見上げる表情は――
「うん……上手く出来てたよ、美由紀さん……」
 濡れた太股を擦り合わせ、肌が張り詰めた乳房を左腕でしたから抱え込んだあたしは、自分でも自覚してしまうほど湿り気と熱気を孕んだ言葉を美由紀さんへと向けてしまう。
「だから今度は……ココの、しゃぶり方を教えようと思うんだけど……」
 そう言うと、あたしは美由紀さんの唾液で濡れた指で自分の唇を指し示す。
 この行為が意味することは、すぐに美由紀さんにも分かったようだ。けれど美由紀さんは目を伏せてモジモジと両手の指を絡ませて、恥ずかしさが強いせいではっきりとした返事は帰してはくれなかった。
「美由紀さん……いくよ」
 けれどあたしは止まりはしない……満たせない男としての昂ぶりが女同士で求め合う気持ちを昂ぶらせ、美由紀さんの答えを待たずに覆いかぶさろうと湯船へひざまずいてしまう。
 急接近する美由紀さんとの距離。手を付いて身を乗り出し、お互いの乳房が変形するほど押し付けあってしまうぐらいにまで近づいたあたしは、今度は顔を背けようとはしない美由紀さんの顔へ自分の顔を寄せ……あと数センチと言うところで、動きを止めてしまう。
「ねえ……本当にしてもいい?」
 意地悪な質問だな、と自分でも思う。もし無理やりにでもあたしがしてしまえば、美由紀さんはそれを抗いもせずに受け入れてくれるというのに、
「しても良かったら……美由紀さんからしてみせて」
 と……踏み出そうとしてこない美由紀さんの心を揺さぶってみたりしてしまう。
「わ、私は………んんゥ!」
 美由紀さんを待つ間、手を休めるつもりは無い。お湯の中で解け落ちたバスタオルを払いのけ、手の平を美由紀さんの太股へ触れさせる。すぐ目の前の顔に恥じらいと戸惑いの表情が浮かぶのを見つめながら、引き締まった筋肉の上に女性らしい柔らかさをまとっている太股の膝からヒップへと続くラインを滑らかに撫で上げ、じわじわと美由紀さんの理性をこそぎ取っていく。
「や…ンッ……なんか…ヤラ…しい……」
 一本尾指の動きにすら過敏に反応するエッチな表情に美由紀さんの高ぶりを確かめながら、あたしの指先は太股の内側から上へ、そして内股へと次第に敏感な場所へと近づいてゆく。
「そこは……ん…あっ、あんんっ!」
 指先が美由紀さんの大事な場所へ触れる。太股への“おさわり”でどれほど感じていたのか、ヌルッとした潤いを讃えている太股の付け根のその場所を指が捕らえた途端、美由紀さんは頭を後ろへ大きく仰け反らせ、太股を閉じ合わせたまま下腹部をグッと突き出してくる。
 拒んでいるのか、望んでいるのか……股間に触れているあたしの手を締め付ける太股に複雑な美由紀さんの心中を感じながら、あたしは押し付けあっている乳房を摺り合わせる様に身体を揺すり、お互いに固くなってしまっている乳首をお互いの乳房の柔らかさの中でよじれ、擦り合わせてみる。
「ふぁ……美由紀さんのおっぱい…すべすべしてて…気持ちいいよ……」
「…………」
「美由紀さんは……気持ちよく無い?」
「あ、ん、ふぁ……んアッ!」
 問いには唇を引き結んで徹底して答えようとしない美由紀さんに対して、今度は乳首同士を直接擦り付ける。もちろん、これはあたしにだって刺激が強すぎる。固く尖った突起が絡まり、ピンッと弾けるたびに豊満な膨らみ全体が震え上がって、性感帯の全てが刺激されたかのような快感と興奮が頭の中を真っ白に染め上げる。その一瞬の刺激が通り過ぎると、禁断症状を紛らわせるかのごとく再び乳首を擦りつけ、一瞬は連続になり、あたしたちは二人してお湯の中で身悶えしながら唇からあられもない喘ぎ声を迸らせてしまう。
 ―――ああぁ……あたしも……溢れちゃうぅ……!
 震えが走り抜ける内股の奥で、キュウッ…と収縮が起こり始めたのを感じると、脈動と共に、うねるヴァギナから熱い液体が漏れこぼれてしまう。まるでお風呂の中でおしっこするような背徳感に背筋を震わせ、そんな自分を慰める代わりに美由紀さんの割れ目を揉み解し、熱いぬめりを帯びたその場所へ指をうずめて行く。
「あううっ……! た、たくや…クゥン!」
 軽く指を膣口へ押し込んだだけでスゴい締め付けに襲われる。……鍛錬しているからだろうか、と思っていると、美由紀さんの腕がいきなりあたしの首へと巻きつけられてしまう。
「んむッ………!!!」
 抱き寄せられ、唇に唇が押し付けられる。
 快感に打ち震える美由紀さんは目蓋を強く閉じあわせ、あたしとの初めての……もしかすると、美由紀さんにとっては正真正銘のファーストキスに、怯えるように睫毛を震わせる。
 ――美由紀さん……
 あたしも口付けに応えた。
 両腕を美由紀さんの背に回し、抱き合うあたしたちの身体を温泉の淵へともたれかからせると、柔らかい唇にもっと強く、そこから蕩けあってしまうかのように口付けを交わす。
「……ん…んぅ……」
 今は美由紀さんの何もかもが愛おしい……恥ずかしさを堪え、自分から求めてきてくれた気持ちがあたしの心を否応無しに揺さぶりたてる。
 あんなに強いのに、唇は小さくて、柔らかくて、繊細で……温泉なんかよりもずっと温かくて気持ちいい。
 もう永遠にこのままでもいいとさえ思うほどの満ち足りた時間が流れ……そして、あたしたちはどちらからともなく唇を離してしまう。
「………私……一つ夢がかなっちゃった」
 夢って?……と聞こうとして、すぐにそれがあたしとのキスなのだと思い至る。……少し恥ずかしい。
「胸がドキドキしてる……たくや君が女の子になってても構わないんだって、それでも好きだからって、苦しいぐらいに………ねえ、もう一回……」
 同じ高さにある潤んだ瞳に見つめられていると、もう理性なんてどうにでもなってしまいそうだった。あたしは美由紀さんの前髪を右手で掻き揚げると、求められるままに唇を押し付け、その口内を荒々しく吸い上げた。
「はっ…んむ、んゥ…はふ、ぅ…たくや…く…んぅぅ……!」
 裸のままで抱き合いながら、舌を絡め取り、唾液をすすり上げる。さっきよりも激しく、荒々しいキスに美由紀さんも感じているのか、次第にあたしの顔が覆いかぶさるように下を向く。
「あムゥ…! ああ、ああぁ…こんな、キスも…あるんだ……んんゥ!」
 知らないんだったら教えてあげる……肌と肌を擦りつけ、密着させ、もうあたしと美由紀さんの輪郭さえおぼろげになるほど濃厚なキスに、もう興奮が止まらなくなってしまっている。
 熱い吐息が溢れても構わない。
 唾液が滴っても構わない。ピチャピチャとしたが絡まりあい、唾液が爆ぜる音を触れ合う唇の隙間から漏らしながら、いつしかあたしたちの手は、相手のむき出しになっている乳房へと押し付けられていた。
「たくや君のおっぱい…スゴく柔らかい……」
「美由紀さんだって……こんなに大きいんだもん、ちょっとうらやまし…ふあァ……!」
 あたしたちは二人して、潰れあうほどに密着した胸の間に手を差し入れ、相手の畝の柔らかさと温もりに驚きの声を上げながら指を蠢かせる。
 美由紀さんの胸はとても手の平に収まりきるものじゃない……そしてそれはあたしの胸も同じだった。指が張りのある肌へ食い込むたびに、舌を絡め合わせた唇からは小さく喘ぐ声が漏れ、四つの乳房と四つの手とが絡まりあっている胸元へ涎が垂れ落ちる。それをローションにでもするかのように丹念に指を蠢かせては互いに互いの乳房を揉みしだいていく。
「ハァ、ハァ、美由紀さん……今度はあたしがお願いしていい?」
 名残惜しい気持ちを残しながら唇を離したあたしは、荒い呼吸を繰り返しながら膝立ちになり、美由紀さんの顔の前へ自分の胸の先端を差し出した。
「指をしゃぶってくれた時のように、ここもしゃぶって欲しいの……」
「そんなの……イヤ!」
 思いがけない拒否の言葉にショックを受ける暇もなく、今度は美由紀さんが膝立ちになり、
「私だって……さっきからたくや君に…して欲しいって、ずっと思ってるのに……」
 そう言ってピンッと勃起した乳首をあたしの前へさらけ出してみせる。何度も摺りあわせた乳首は赤く腫れ上がっていて、あたし同様に触れればはちきれそうなほどに乳房は張り詰めてしまっている。その胸の奥で渦巻いている熱い疼きがどれだけ美由紀さんを悩ませているかは、美由紀さんの顔を見るまでもなく、あたし自身がそうなのだから手に取るように分かってしまう。
「じゃあ……美由紀さん、こっちにきて」
 こういうときは娼館での経験と言うのは……とまあ、その事を口に出して言うことはしないけれど、湯船から洗い場へと上がったあたしはその場へ座り込むと、美由紀さんを手で差し招いた。
「どっちか一人じゃイヤでしょ? だったら一緒に…ね?」


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