第五章「休日」06


「は…はう……もうダメ……」
 夜遅く、部屋に帰りついたあたしは足をもつれさせて壁にすがりついた。
 全身がけだるい……初めての「射精」でジャスミンさんの膣内へ我を忘れて射精しすぎたのが原因だろう、腰のあたりに力が入らず、気を抜くと今すぐにも眠ってしまいそうだ。
「寝る前に…薬飲まなきゃ……」
 帰り際、汚れた体を洗うといってお風呂場に向かったミッちゃんとジャスミンさんに手渡された「バイブ」と言う例の擬似男根を入り口からベッドへと放り投げると、あたしはランプに火を灯すのも面号くさくて窓から差し込む星明りを頼りに部屋の片隅においてある背負い袋の元へ向かった。
「えっと……苺味はどれだっけ…これかな?」
 貼ってあるラベルの文字が見えず、適当にポーションのビンを選んで口をつける。と――
「………どくだみ味」
 そういえば試供品で貰ったっけ。……うっぷ、体には効きそうだけどスゴい味……
 けれど残すのももったいなくて一気に飲み干すと、わずかに体力が回復した安堵感からか、喉元をこみ上げる異臭を手で押さえながらぺたりとその場に座り込んでしまう。
「はぁぁ……なんかスゴい体験しちゃったな……一日で二度も」
 朝、この部屋でやっちゃった一人エッチも含めれば三回だ。――そう思いながら指を折っていく。
 今日一日は刺激的なことばかりだ。一人で火照る体を慰めた事も気持ちよかったし、誰にも見られなければ男の人に抱かれなくていいから気が楽だけど……
「あれをミッちゃんに見られたのが運の尽きなのよね……」
 そしてこの部屋にジャスミンさんまで現れ、二人と一緒に買い物に出て、剣や鎧を買ったんだっけ……
「………しまった。買った荷物を忘れてきちゃった。……取りに…行かなきゃいけないよね」
 本当にうっかりしていた。――でも、もう一度あの娼館にいく口実ができた事に心のどこかで喜びの声を上げている。
「別に期待しているわけじゃないんだけど……明日にでも行かないと」
 そうだ、もしかしたら勝ったばかりの下着をあの子達にいじられてるかもしれない。それであたしの事を想像しながら色んな事しちゃってるかもしれない。―――なるべく早く行ったほうがいいよね、うん。でも……
「うっ……やっぱりまだ濡れてる……どうしよう……」
 急いであの場を離れたから後始末をする余裕も無く、あたしのアソコは濡れっぱなしの状態だ。確かめるまでも無く、頭の中でほんの少し妄想するだけで割れ目がグチュリと音を立てて蠢き、ぴっちりと隙間なく股間に食い込む下着の中にトロトロと蜜を放ってしまっている。
「お風呂に入りたいけど……」
 娼館を出る前にお風呂に入らせてもらえたけれど、外であんなに激しく「初めて」なSEXをした体は汗と体液にまみれている。擬似男根から吹き上がった精液を顔からかぶった二人はあたしよりひどい有様で、帰るなりこそこそとお風呂に向かって行ったけれど、その後からは色香とも思ったけれどこの疲れ具合じゃ待つのが辛すぎる。
「入るのは明日でいいや……寝よ。フ……フッアァ〜〜ァ〜………ムニュ……」
 寝ると決めたらまぶたがますます重くなってきた。男の子って女の子以上に出すから体力使うんだね……
「んっ……これでいいやぁ……」
 シャツを脱ぎ、胸を締め付けるブラをはすして椅子の背もたれへ引っ掛けると、あたしは短パン一丁の姿でベッドへふらふらと歩み寄る。
 もう…起きていられない。細かいことは明日考えるとして……おやすみぃ〜……
 ――と、ベッドの上へ倒れこんだのはいいけれど、
「きゃあ!」
 掛け布団の下から聞こえた短い悲鳴。
 掛け布団の下から感じる柔らかい感触。
 まるで……あたしの体の下に、女の子がいるような……ダイビング姿勢で硬直したあたしは眠気など一気に吹き飛んで、ついつい抱きしめてしまった布団尾下のものの正体へと思いをはせてしまう。
―――ふにふに「んっ……!」
―――もみもみ「あっ……!」
―――むぎゅっ「ふぅうん……!」
―――…さわっ「ひあっ……!」
 こ…子猫ですか? それとも子犬ですか? この暖かくて気持ちがよくてあたしの手があちこち触るたびに腕の中で身悶えしていらっしゃるのはどなたなんですか!?
「たくや君……だめ……」
「うわああああああああああっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ〜〜〜!!!」
 気持ちがよくてついつい抱きしめ続けていたあたしは「ダメ」と言われて一瞬にして現実へと引き戻されると、自分でも信じられないぐらいの跳躍で跳ね起き、部屋の反対側まで一気に後退さった。
「………ふみゅ?……ん〜……おかえり」
「ただいま。――じゃなくて! どうして静香さんがここにいるのよ!?」
 どんな人でも目を覚ますあたしの慌てっぷりで、薄くて風通りがよく湿気のこもらない布団を頭からかぶったまま身を起こしたのは完全に予想外の人物、こんな汚い部屋にいるはずもない、クラウディア王国の王女の静香さんだった。
「………うん、静かにしてる。いい子だから」
「いやいや、そうじゃないでしょ。―――寝ぼけてる?」
 とりあえず相手が誰だか分かったこともあって胸の動機を何とか落ち着かせたあたしは、ミッちゃんの持ってきた下着やなにやらの箱に埋もれていたランプを取り出すと火をつけ、さっき服をかけた椅子の上へと置いた。
「………んのわぁ!? ごめん、服着るからちょっと向こうむいてて!」
 寝るつもりだったから服を脱いでたのをころっと忘れていた。あたしは先ほど脱いだものの中からシャツを取り……すぐまた元の位置に戻した。
 静香さんがいるのに、ミッちゃんやジャスミンさんの香りが残ってる服を着れないよね。たしか背負い袋の中にもう一枚シャツが……っと、これでよし。
 頭からすっぽりと大きな男物のシャツをかぶり、軽く髪の毛を撫でて整えながら静香さんへと振り返る。……しっかりこっちを見てるし。
「たくや君……きれい」
「えっ!?」
 何でそこでうっとりした感じのため息を突くのよ……あたしと静香さん、顔も体系もほとんど同じなのに。
 どちらかと言うと、お姫様として育てられてきた静香さんのほうが肌のきめが細かくて、ちょっぴりうらやましかったりする。髪の毛だって、長旅をしてきたとは思えないほどツヤツヤサラサラだし、さっき抱きしめたときの感触だって……って、あたしは何を考えてるのよ。これじゃうらやましがってるんだか興奮してるんだかはっきりしないじゃない。―――でも、そんな静かさんにきれいといわれてうれしくは思うんだけど……
「それで……静香さんはどうしてあたしのベッドで寝てたの? たしか神殿の奥のほうの立派な部屋に泊まってるはずでしょ?」
「…………………?」
 あたしが問いかけると、静香さんはアゴに指を当て、なんともいえない色が見える瞳で天上を仰ぎ見る。そうして一分以上経過してから、
「……………思い出せない」
「あら…そうですか、とほほ……」
「たくや君の匂いのするベッド…スゴく気持ちよくて眠ってたの……だから忘れたの」
「あたしの匂いって……」
「うん………………くぅ〜……」
「だから寝ちゃダメだってばぁ!!」
 ぽてっとベッドに倒れこみ、枕に顔をうずめている姿はお姫様と言うよりなんだか危ない人を連想してしまう。―――そう言えばあたしも、子供の頃に明日香の布団にもぐりこんで、あんな風な事をした事があったっけ。あれはいい香りだったなぁ……その後それがばれて、軒下につるされた挙句に三日身晩御飯を与えてもらえなかったっけ。頭に血は上るし縄に締め付けられたお腹が痛いぐらいに音を立てるし、下ろされた時には立つこともできなかった……思い出したくない思い出よねぇ……
 女の子になると、そういった匂いまで変るのかと疑問に思いながらも、静香さんをここで眠らせるわけにはいかない。あたしは枕を抱きしめている静香さんの肩を掴むと乱暴にならないよう注意しながら体を揺さぶった。
「静香さん、起きて。寝るなら自分の部屋に戻って寝て。そうじゃないとあたしが床で寝なくちゃいけないんだからね」
「すぅ……すぅ……」
 …………だめだ。完全に寝ちゃってる。御伽噺じゃないんだからさぁ………はぁ〜…今日は床で寝ろって言うことなのね。明日になったらジャスミンさんにでも苦情を言おう……
 ベッドは粗末ながらもそこそこ大きいので、詰めればあたしが入るスペースもあるにはある。けれど静香さんのような可愛い――あえて言うけど、あたしが可愛いということではなくて――女の子と同じベッドで寝る、あまつさえ自分からもぐりこんで行くような度胸、あたしにあるはずもない。
「野宿に比べればマシか。えっと…さすがにマントが要るかな」
 いくら暖かくても布団の代わりになるものがないと風邪を引く。一応病みあがりだし……そうしてさっきまでへたり込んでいた場所の側にある背負い袋へ向かって振り向いた時だ。
―――ギュッ
 ズボンに入れていないシャツの裾を、ベッドから伸ばされた静香さんの手がしっかりと握り締める。
「えっ………静香…さん?」
「たくや君………」
「えっ………?」
 起きているのかと振り返るけれど、あたしの名前を呼んだのは寝言らしくて続く言葉はない。けれど手はしっかりとあたしの服を握っていて、今夜の寝具となるマントを取りにいけそうもない。
「あの〜…静香さん、ちょっとでいいんだけど起きてくれない?」
「………すぅ……」
 弱ったな。……これじゃ動くに動けないよ。今日はこのまま寝るしかないかな。
 どうせ温かいんだから風邪は引かないだろうとベッドへ腰を下ろす。そして赤ん坊が母親から離れるのを嫌がるようにずっと服を握っている静香さんを見下ろし、苦笑交じりにため息を突いた。
「ホントにもう……静香さん、本当に寝ちゃってていいの? 実はあたし、静香さんのことが大好きで襲っちゃうかもしれないわよ?」
 がお〜っと獣っぽい仕草をして見せても静香さんは静かな寝息を立てるだけだ。
「まったく…あたしだって男の子のつもりなのに……静香さんはちょっとのんびり屋さんよね」
「んっ……んんっ……」
 おお、ほっぺた突付いたらちゃんと反応する。柔らか〜い♪……つか、一国のお姫様にこういう事しちゃっていいんだろうか……ま、あたしのベッドを占拠してるんだもん。このぐらいのいたずらは許されるよね、うんうん。
 けど……女の子の寝顔を見るのもいつ以来だろうか。子供の頃は一つのベッドで明日香と寝ていたこともあったけれど、お互い大きくなるとそういうことも自然と無くなっていき、いつしか部屋に無断で入ろうものならファイヤーボールで追い出されるようになった。あれは照れとか恥ずかしいからとかじゃない、どう見ても殺気のこもった火炎の一撃で、あたしも何度焼け死にそうになったか分かったものじゃない。
 静香さんの寝顔は、記憶に残る明日香の寝顔よりも数段可愛らしく思える。――綺麗、と言ってもいい。子供の持つ保護欲を掻き立てられそうな幼さは別だし、あたしと同じ顔を見つめていると言うのも倒錯感と言うか変な気がしないではないけれど、ランプに照らされてほんのり朱がさしている様に見える頬や寝息を漏らす小さな唇をじっと見つめていると、吸い寄せられるように――
「………はっ!? あ、あたしは何を……」
 あぶない……まさか寝ている女の子にキスしようとするなんて……直前で気づいたからいいようなものの、我が事ながら信じられない。
 あたしの手は静香さんの頬の丸みを愛おしそうに撫で回していた。指が静香さんの綺麗な肌から離れれ事が出来ず、その感覚を心行くまで味わうと指先を静香さんの耳の裏に這わせ、切ない吐息を漏らさせてしまう。――そこのところから少しの間、あたしの理性はどこかに行ってしまっていた。
 自分もベッドの上に上がり、静香さんの体に自分の体を覆い被せる。……殺気の路上での出来事がまだ体から抜けきっていないのか、気分は女の子に襲い掛かる男のそれだった。それどころか顔を近づけて何をしようとしていたか……もし静香さんが起きていたら言い訳もできない。
 今、あたしがしていたことは昨日の誘拐犯とどんな違いがあるんだろう。
 抵抗できない女の子にひどいことをしようとしている。……事の大小の差はあるけれど、あたし自身に誘拐犯へされた責め苦と同じようなことをしようとしているんじゃないだろうか――
「………静香さん、ごめんね」
 眠っている相手に届くはずのない謝罪の言葉を述べて体を起こそうとする。これ以上は体が触れ合っているだけでも罪悪感を覚えてしまいそうだ。
 だけど――
「あ……」
 静香さんが寝返りを打ち、あたしの体の下で仰向けになる。
 正面から見つめてしまう王女の…そしてあたし自身を映し出したような美しい寝顔に心臓がドクンと跳ね上がる。……でも、これ以上は本当にいけないことだ。静香さんを傷つけるわけにはいかないので、そっと体を起こそうとする。――と、離れるよりも速く、するりと首に巻きついた白い腕があたしの体を引き寄せる。
 静香さんの…唇へと……
「んっ……」
 狙い済ましたように、あたしの唇と静香さんの唇が重なり合う。引き寄せられるがままに……もしかしたら、あたしがそう望んでいたからこうなってしまったのかもしれない。現に、眠っている静香さんの力なら振りほどく事だってできるはずなのに、あたしは唇の温もりを感じてしまった時から頭の中で何かとんでもないスイッチが入ってしまったらしく、震える腕をベッドと静香さんの体の間に割り込ませると力を込めて抱きしめた。
「ん……んっ………」
 苦しげに身悶える静香さん。けれど小さな拳を作って必死にあたしのキスに耐えるそぶりを見せ、アゴをほんの少しだけ突き上げてくる。
 だからあたしも……唇から伝わってくる静香さんのぬくもりに頭の芯まで侵されたように唇を突き出すと、震える歯茎を舐め上げて唾液をすすり上げてしまう。
「んっ……んふぅ………」
「………静香さん……起きてるでしょ」
 顔を離し、口の中に残った王女の唾液と匂いとを喉の奥へと飲み込んだあたしは、早鐘のように鼓動する胸をドレスに包まれた静香さんの膨らみへ触れさせたまま、そう尋ねた。
「……………」
 思ったとおり、静香さんは苦しそうに息を乱したまま瞳を開くと、潤んだ視線であたしを見上げる。
「たくや君……キス、上手……」
「えっ……それは…まぁ、いろいろと……」
「私……初めてだったから驚いた。気持ちがよくて……」
 まさか静香さんのお付のジャスミンさん直伝…なんて言える筈もない。
「あ…あのさ…どうしてこんなことを……」
 静香さんの体から離れようとしても、静香さんの手があたしの服を握り締めて離してくれない。
「……………あうっ」
 なかなか口を開いてくれない静香さんと見詰め合っていいるうちに、あたしの頬が徐々に熱くなっていく。
 あたしたちの大きな胸は衣服を着たままお互いの先端を押し付け合い、息をするだけで密着具合が微妙に変化して心地よい。柔らかく重なり合う膨らみは熱く、相手に緊張しているのが伝わってしまうのではないかと思うほど高鳴っていた。
 ―――そんな均衡を破ったのは、静香さんの小さな声での告白だった。
「たくや君に…会いたかったから……」
「あたしに……?」
 そう聞き返すと、静香さんは目を伏せてしばし思案するかのように押し黙るとコクッと顔を下に動かした。
 もしかしたら……聞き返したことで余計に静香さんを恥ずかしがらせてしまったかもしれない。そんな後悔が後からやってくる。
「ご、ごめんね。変なことを聞いちゃって」
「そんな事……ない。私が……たくや君に会いたかったの……それに、謝るのも私のほう……」
 静香さんの手があたしの額へと触れる。そしてゆっくりといたわるようにゆれながら後ろのほうへと回されていく。
 そこは、昨日あたしが怪我をした場所。――自分の力量も考えずに無理なことをして負ってしまった傷の跡だった。
「………気にしなくていいから。これは静香さんが悪いんじゃないの」
「でも……」
「本当に大丈夫だから。怪我も神官長の魔法で直してもらったし、それに……お礼なら、今さっき貰ったから」
「………今?」
「う…うん……」
 だ…ダメだ……自分で言ってて恥ずかしがってれば世話はない。とても女の子と付き合った経験ゼロ、それどころか男の人と×××したからマイナスに行いってそうなあたしが口にしたとは思えない台詞に照れてしまって、ツイッと視線を横に逸らしてしまう。
「だ…だからね、静香さんは悪くないの。気にしなくたって、あ、あたしはほら、こう見えても結構頑丈だからあんな怪我はヘッチャラで子供の頃から慣れっこだからだからだから静香さんは謝らなくっていいわけで」
「………うん……そうだね」
 静香さんの顔を見つめることができないまま口から飛び出てくるしどろもどろの言葉に、静香さんがうなずいた雰囲気が伝わってくる。
「………ありがとう」
「えっ……」
「助けてくれて……ありがとう。……謝るんじゃなくて…お礼、だよね」
「いや……あ、あたしは…あの……」
「………んっ」
 たどたどしく、けれど自分の意見はしっかりと述べてくれた静香さんはさも「もう一度…」と言わんばかりに唇を突き出す。
 ―――その魅力に抗えるほど人生経験積んでないし、オスの闘争本能も失っていない。あたしは誘われるがまま突き出された唇にもう一度キスをすると、さっきよりも優しく吸い、一分以上重なり合う。
「んんっ………たくや君…ずるい……」
 苦しそうな息を漏らし始めたのを感じて顔を離すと、なぜか静香さんはちょっぴり怒っている。
「息……そんなに我慢できない……」
「えっ……あの…キスしてるときは鼻で息をしたらいいから」
「………できない」
「でも、そういうものだし……」
「………気持ちいいから…息が止まっちゃうの」
 あ、なるほど………そんなにあたしとのキスが気持ち…いいんだ。―――あうっ。
「そ、そうだよね。気持ちよかったら行き止っちゃうもんね。んじゃそういうことで!」
「………まだ、ダメ」
「あの…静香さん、キスするの、嫌なんじゃないの? そんなに苦しいんだったら、あたしもお礼は十分だし無理にしなくてもいいんだから、ね、ね?」
 これ以上し続けてたら…あたしの精神のほうが先に参って吹き飛んじゃいそうだ。早く静香さんからはなれて心頭滅却をぉぉぉ!!
 ―――と、もう限界寸前、理性の糸が張り詰めてしまっているあたしはこれ以上過ちを犯す前に離れようとするけれど、静香さんはさらに熱を帯びて行く瞳をあたしに向けて、
「もう一回…………今度は…もっと……」
「し…静香さん………?」
 あたしの体の影の下で静香さんの手がもぞもぞと動く。―――服のリボンを解いている。
「ま……待っ――」
「好き………」
 あたしが叫ぶ前に放たれた、ハンマーよりも強烈な衝撃の一言。言おうとしていた言葉さえさえぎり、今耳にした言葉の意味を理解……できない。
「あ、あたし…は……」
 追い討ちを掛けるように、静香さんの襟元からリボンがするりと引き抜かれる。そして……あたしは何も考えられなくなり、ただ一つだけの確かな感触を求めて、夢中になって静香さんの唇へと吸い付いた―――


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