インターミッション


「R−2は小破、ヒュッケバインは中破、武装関係が全部破損、オーバーブーストを使用したから内部システムの焼けきれてる  ところもある、そしてR−1が見事に大破、ダメージで骨格フレーム歪んでる上に、両腕はボロボロ、全身に銃弾くらって、無茶  な動かし方をしたもんだから関節のモーターも全換え、か……これだけやられてよく生きて帰って来れたわね、彼ら。ま、この  島にはEOTの研究所もあるし、修理には問題なし…か」 「ミサト、その言い方だと死んだほうがいいって言う風にも聞こえるわよ。高価な機体を壊されたんだから当然の反応だと思うけど」 「な〜に言ってんだか。修理費用はEVAのに比べれば安いもんだし、なんと言っても費用はEOT研究所持ちよ。だからって、いくら  壊してくれてもいいってわけでもないけどね…それに、そんなひねくれた受け取り方するのはリツコぐらいなものよ」 「でもそれだけのダメージを受けながらパイロットは全員生還…スーパーロボット・グルンガストをたった三機で相手にしてね。信じら  れないわ」 「生還ってのは生きて帰ったってだけでしょうに。R−1に乗ってた彼、リュウセイ君は意識不明の重体なのよ」 「あら? 確か彼は肋骨六本に全身打撲、骨のヒビは数知れず、怪我をしていないところを探す方が難しい程だけど、命に別状は  なかったはずよ」 「ま〜ね〜。実はついさっき目を覚ましたらしいんだけど、すぐに泡吹いて昏倒しちゃったのよ。なんでもうわ言で「栄養ドリンク〜〜…」  って言いながら集中治療室に運ばれたわ。でも、いいわよね〜〜、青春よね〜〜♪ 愛しの彼女の差し出した、愛情いっぱいの  栄養ドリンク、あぁ…お願い、早く元気になって頂戴……なんてね。私だったら絶対に逃げてるわよ、アレは。見事な死に様よ」 「……見てたのね?」 「そりゃもち♪ なんたって付きっ切りで看病してたクスハちゃんに、起きて直後でどんな顔を見せるか知りたいと思うわな〜い?  ロンド=ベルの独身男性の人気の的、クスハちゃんについに恋人現るか!?だもんねぇ〜〜♪ だから作戦参謀の権限で  ベッドにちょっと盗聴機をね♪」 「いやな趣味してるわね…それで? 私のところに来たのはわざわざそんなゴシップを言いにきたからじゃないんでしょ?」 「さすがはネルフの誇る天才科学者赤城リツコ博士。よく分かっていらっしゃる。実はね…これを聞きたかったのよ」 「これは…戦闘レコーダーの記録?」 「そ。グルンガストと戦ったヒュッケバインMK−UとR−2からの記録よ。R−1のは打ち所が悪くて壊れてたからないけどね。  で、それ見てどう思う?」 「………ミサト、これは――!?」 「言っとくけど記入漏れじゃないわよ。ヒュッケバインの方は中破とはいえ、機体自体に深刻なダメージがあったわけじゃなく、  どちらのレコーダーにも外部からアクセスされた形跡はなかった……でもEOT研究所から回されてきた報告書では、どちら  も戦闘中の記録だけがぽっかりと消えている…と来たもんよ。クスハちゃんもT−LINKを使いすぎたせいで、後遺症はない  けど戦闘中の記憶はあやふや、リュウセイ君は当分絶対安静。ライ君はイングラム少佐につれて行かれちゃったし…だから  自分で調べられるものから調べようかと思ってね」 「ミサトはこれが人為的に操作された情報だと言うの?」 「そうね、限りなく白に近い真っ黒よ。あ、言っとくけどマサキ君の飼ってる猫の事じゃないからね、念の為」 「分かってるわよ、そんな事」 「いや、でもあんた猫好きだし、この前キャットフードでこの部屋に誘導しようとしてなかった? 喋る猫で実験するとか言う噂も  あるし……」 「目の錯覚よ。疲れてるんでしょ。それで、なんで白なのかしら?」 「当然、私が調査に立ち会ったからに決まってるじゃない。目の前で機体から引っ張り出されて、ケーブル繋いだりなんやらかん  やらしてるのをずっと見てたけど、怪しそうなヤツは触らなかったわ。だから――もしかしたら念動力って言うのであれの記録を  操作できないか――と思ってさ」 「無理ね。そっちの方は専門じゃないから断言は出来ないけど、リュウセイ少尉やクスハの能力ではそんな事は出来ないと思う  わ。例えそれが可能だったとしても、こうまで時間を限定して消去すると言うのはあまりに難しすぎる……でもどうして念動力  なのかしら? もしかして……」 「多分リツコの想像は当たってるわ。機体が運び込まれた研究所で調査よりも先に調べることが出来る人物、そして私と一緒に  調査に立ち会った色男といえば……」 「――イングラム=プリスケン少佐ね……でも彼が念動力者だとは聞いていないわ」 「だから白に限りなく近いんだけど、真っ黒なのよ…怪しいところはないんだけど…私の感でね……そもそも今回の偵察任務の  何から何まで引っかかる事が多すぎよ。なぜSRXチームなのか、なぜ彼らが狙われるのか、新たに表れた敵は何者なのか、  そして…イングラム少佐が何者なのか……」 「焦らなくてもそのうち分かるわよ。リュウセイ少尉が回復すれば敵のことも何かわかるんじゃないかしら。それに、下手な憶測  は先入観を持ちすぎることになるわよ」 「そう…分かってる…いつかは分かるかもしれないけど…それが手遅れにならなきゃいいんだけどね……」 (ふふふ…T−LINKのブレイカーが起動しなかったかと思えば、一瞬で焼き尽くすまでに念を高めたか…おもしろい……)  イングラムの私室……窓もなく、部屋の明かりもつけていない室内には卓上に置かれたパソコンのモニターの明かりしかなく、  わずかな光が生活感が感じられない室内の数少ない家具に深い陰影を与えていた。  そんな暗い室内で、イングラムはモニターに表示されたデータを見つめていた……それは戦闘レコーダーから消えていた筈の  戦闘データだった。そこにはパイロットの会話は言うに及ばず、敵機の機種、戦闘パターン、そして戦闘中におけるクスハの  念動力の変動を表すデータも表示されていた。 (R−1の方のデータは取れなかったが、ヒュッケバインと同様にブレイカーが焼き切れていた…ならば二人の念の強さは昨日  までとは比べ物にならないことになる…結果としては申し分ない……)  そこで思考を一旦止めると、イングラムはデスクの椅子から立ちあがり、何をするでもなく、自分の影の写る天井をじっと見上  げていた。 「……ウラヌスシステムの起動の日も近い…その時こそ…俺はこの手に掴むのだ……サイコドライバーの力をな……」 To be continued......the next stage...