Gルートその1


 こ…怖かった……明日香ってば本気であたしを殺そうと思ったんじゃないの?  あたし的にはごまかせたと思ったんだけど、どうにも不信なところが(特に最後の笑いに)あったみたいで、明 日香ってば街中なのに拳を握り締めたりあたしを捕まえようとしてきた。  恐るべきは女の感……でも、今日は大事な約束がある以上、あたしもむざむざと捕まるわけにはいかなかった。 だって、今日は―― 「………まさか女子寮潜入の日だなんて言えないわよね」  そう、明日香を振りきったあたしはその足で、この近辺で有名なお嬢様学校「円山聖心女学院」その女子寮の前 までやってきた。  といっても、覗きとか、そう言ったイヤらしい目的じゃないんだけどね。  う〜ん…門の前にいるだけでなんだか緊張しちゃうなぁ……  女子寮、それは男子禁制の女の園。この中には蝶よ花よと育てられたお嬢様がきらびやかな生活を…と、男た ちの勝手な妄想を掻きたててやまない場所である。あたしは別に興味が無かったんだけど、とある用事で中に侵 入して以来、ちょくちょくやって来るようになったので、中がそんな現実離れをした世界じゃない事はよく知っ てるけど……  もし明日香にこの事を知られたら、明日の朝日は…拝めないだろうな……  去り際に垣間見た幼なじみの怒っている顔を想像しただけで背筋に冷たいものが流れ落ち、全身に寒気が走り 抜けるが、こんなところに立っていてもどうしようもないどころか、女とは言っても女子寮前であんまり変な行 動をしているとすぐに通報でもされちゃいそうだし……早く中に入っちゃおっと。  この量の管理人さんは結構目が悪くて、あたしの顔を見ても別人(まぁ、その人とそっくりな事もあるんだけ ど…)に間違えてくれるので、入るのにはそんなに苦労はいらない。ただ、あたしが目的地につくまでの間にす れ違う寮生の目が面倒なのよね。 「あれ、ひょっとしてあれじゃないの、静香が言ってたのって?」 「蛍ちゃん、人を指差してそんな言い方しちゃダメだよ。怒られるよ」 「……んっ?」  いざ、覚悟を決めて足を踏み入れようとした時に、若い、たぶんあたしと同じぐらいの女の子の声が聞こえた。  何気なく振り向いてみる。すると、あたしがきた道に二人の女の子がいて、一人ひとつずつ、白地に青でコン ビニのロゴが入ったビニール袋を手に持ち、その片方、あたしより少し髪の長い女の子が人差し指を真っ直ぐあ たしの方へと伸ばし、隣に立つ眼鏡をかけた女の子に大きな声で話し掛けていた。 「ほら、こっち見たじゃない。あれが噂の男女よ、きっと」  男女って…あたし? あたしの事!?………まぁ…きっとそうよね…… 「だ、だから人をあんまり指差すと怒られるよ。それに人違いだったら……」 「絶対そうだって。あの顔見てよ。本当に静香そっくりじゃない。それに宮野森の制服着てるから間違い無いわ よ」  ひょっとして静香さんの友達かな? そういえば女子寮の中でも他の娘を紹介された事って無いな…… 「あ…あの……」  徐々に…というより、普通に歩いて近づいてくる二人はあたしに用があるみたいなので、とりあえず先に話し 掛けてみる。 「! 静香が喋った!?」  ………そんなに静香さんって寡黙だったっけ? まぁ…あんまり喋らないけど……  あまりにも失礼と言えば失礼な女の子の物言いに、喋る事が苦手で、口を開けば時間を止めてしまうような冗 談を言う、あたしと同じ顔の人が頭に浮かび上がってくる。あたしも結構失礼かな……なんて思ってしまうけど、 その間にショートカットの娘はじろじろとあたしの顔や全身を見つめてくる。  別にイヤらしい視線って言うわけじゃないけど、珍しい珍獣でも見るかのような目つきは勘弁して…… 「け、蛍ちゃん、いくらなんでもそれは失礼だって。あ、すいません、相原さんですよね。私は静香さんのクラ スメートで駿河未歩(するがみほ)って言います。お話はかねがね――」 「あたしは里中蛍(さとなかけい)。蛍って呼んでくれていいよ。それよりもさぁ、本当に男なの? どこからど うみても女にしか見えないんだけど……ええっと……」 「あ、えっと、あたしは相原たくや。よろしく…ははは……」 「へぇ、名前だけは男っぽいのね」  な…名前だけ……シクシク…(泣)。 「蛍ちゃんってば! す、すみません、さっきから。気を悪くなさらないで下さい」 「い…いいですよ、別に…ははは……」 「そうそう、未歩も今のうちに見ておきなよ。この胸なんて、どこからどう見ても本物にしか見えないんだから」  フニュン 「きゃあ!!」  あたしが彼女たちの言葉に(主にショートカットのこの方…)自分が漢っぽくない事を自覚させられて(今の女 の体で男っぽいと言われるのも考え物…)悲しんでいる隙に、蛍と名乗った女の子は袋を持っていない右手を上 げ、あたしの胸の膨らみの先端を指で押しこんだ。 「うわっ!? 何これ、ものすごく柔らかいじゃない!? 本当にこれが作り物なの!?」  ムニュムニュムニュ  あたしのことを女装しているとでも思っていたのか、押しこんだ指先の感触に覚えた蛍…だけじゃ言いにくい から蛍ちゃんは驚きの表情を浮かべ、道に袋が落ちたのも気にせずに両手であたしの双乳を揉みしだき出した! 「ちょ、ちょっとやだ、こんなところでやめてったら!」 「うそ、この胸って本物なの!? シリコン? パッド? うそでしょ、だってなんで男なのにこんなのが……」  ムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュムニュ 「ああぁん! もう、いいかげんにして!」  ゴムマリをこねるような手つきに思わず感じ始めてしまったあたしは、自分の体を抱き締めるように体を翻し て女の子の小さな手から逃げ出した。 「何するのよ! いくらあたしだって、こんな事されたら怒るわよ!」 「あ…ごめんごめん。なんだか触ってるうちに腹が立ってきちゃってさ。あはははは、怒らないでよ」  ううう…全然反省してない……どうしてあたしがこんな目に……  カバンを抱えて胸を隠しながら涙の浮かんできた目で睨んでも、女の子は意にも介さず、明るく笑いながら袋 を拾い上げた。 「もう…蛍ちゃん、少しやりすぎ。後でちゃんと言っておきますから、気を悪くしないで下さいね」 「なによそれ! あたしが悪いんじゃないわよ、この子の胸があたしよりも大きくて柔らかいから――」 「はいはい、部屋に戻ったらちゃんと聞いてあげるからね。じゃあ相原さん、中へどうぞ。静香ちゃんも待って ますから。蛍ちゃんも行こ」 「はぁい」 「は…はぁ……」  長い髪を首の左右で束ね、体の前に垂らした眼鏡の娘はまだ何か言い足りなさそうなもう一人の子の腕を掴ん で女子寮の入り口に向かって歩き出した。  なにやら突然の展開に付いていけていなかったあたしも、しばし二人の背中を呆然と見送った後、自分も中に 入るんだと言う事を思い出して慌ててその後を追い掛けた。


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