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 下げた頭は上げるもの。バスから一人目の女の人が降りるのにあわせてお辞儀したあたしは、身体を起こし―― そして動きが止まってしまった。  温かい風に流れていく髪をカバンを持っていない左手で押さえた女性はバスを降りたところから動かずに、ジッ とあたしを見つめていた。  この後はお客様から丁寧に荷物を受けとって客室にお連れする……その仕事をしなければならないんだけど、頭 も、身体も、女性の姿を見た瞬間にそんな事はきれいさっぱり忘れてしまって、視線を真っ直ぐ受けとめていた。 「……なっ……なんで………」  胸が大きく鼓動する。  言葉を話そうと口が動くけど、溢れ出てくる言葉や想いは喉元で渋滞を起こし、出てくるのはほんのわずかな 言葉だけだった。 「えっと………たくや、久しぶり。元気にしてた?」 「あ……あ…ああ……」 「えへへ………きちゃった」  恥ずかしそうに、それでも先に口を開いたのは……… 「明日香ぁぁぁ!?」  あたしが一番会いたいと想っていた人だった――― 後書きへ


後書きその1へ