]]]V.一蹴
「よりにもよって、また相原くんを泣かせるなんて……当然…覚悟はできてるんでしょうね?」
「んん〜〜! んむぅ、んんん〜〜〜〜!!」
松永先生、助けて、助けてぇ〜〜〜!!
突然響いた男の叫び声と共に現れた松永先生の姿が、男たちのイヤらしい愛撫に晒されていた今のあたしには、
湯上りで髪をアップにしている浴衣美人が誰よりも格好いいヒーローのように思えた。
そして、口をふさがれている事も忘れて助けを求める声を上げた…けど…よくよく考えてみれば、貧弱そうな
の(今は腕を捻りあげられているヤツ)もいるけど大の男三人に、ナイスボディーではあるけど、どう見ても筋肉
はついてなさそうな松永先生……どう考えても勝てるなんて思えなかった……
それでもこんな男たちに身体をまさぐられるのはイヤ!! 絶対にイヤ!!
この時だけはそんな気弱な考えはどこか遠くの方に捨て去って、声の出ない口で一生懸命大きな声で叫び続け
る。
「へ…へへへ…姉ちゃんよ、俺たちに何か用かい? 用が無いなら、あっちに行けよ。こっちはお楽しみの最中
なんだからよ」
「んむぅ!?」
先生の現れたことによる動揺もすぐに収まったみたいで、体格のいい方の男が下着を脱がされ掛けで、太股の
辺りが上手く動かせない私の肩を抱いて、松永先生に正面から対峙した。
「へぇ……いやがる女の子に無理やり肉体関係を強要するのが合意の上…とでも言うのかしら?」
「あ…あぁ、そうだよ。俺たちとこのメイドは今からたっぷりとお楽しみなんだ。そうだろ、なぁ?」
「んっ、んんんっ!!」
ふ…ふざけた事言わないでよ!! なんであたしがあんたたちみたいなヤツとお楽しみなの!?
男の手を未だ開放せず、目を細めながら問い掛ける松永先生にとんでもない事を言い出した男の言葉に、あた
しは慌てて顔を横に振ろうとしたけど、太い指に顎を掴まれ、無理やり上下にうなずかされてしまう……
「そう言う事だ。悪いけど、邪魔者はあんたの方なんだよ。さっさとどっかに行ってくれねぇか?」
「おい…いいのか、そんな事言って……俺たち、昨日あの女に……」
「弱気になるなよ。昨日のあれは酔ってただけなんだよ。だいたい、こんな女に俺たちがやられると思うか?」
「そりゃまぁ…そうだな…へへへ」
さっきまで一緒になってあたしの下着を脱がそうとしていた長身の男は少し気弱になっていたけど、浴衣姿で
湯気と一緒に大人の色気のにじみ出ている松永先生を上から下までたっぷりと見つめ、口元にいやらしそうな笑
みを浮かべた……
「それにこっちにはこの姉ちゃんもいるしな…いっそのこと、人を呼ばれる前に一緒にヤっちまうか?」
「そりゃいいや。晩飯なんかどうでも言いから、あの女をヒィヒィ言わせてやるか」
一応松永先生に聞こえないように多少声を小さくはしているものの、腕の中に抱かれたあたしには二人の会話
は丸聞こえ……そして…あたしと松永先生、二人揃ってこの男たちに犯されるところを……想像してしまう……
こ…この人、なんて事を……そんなのダメ、絶対にダメなんだから!! 先生、あたしはどうなってもいいか
ら早く逃げてぇ!!
「んっ、んんん、んんんんん〜〜〜!!」
ほっぺたに食いこむ指の痛さに顔を歪めながらも、せめて松永先生だけはこの場から逃げて欲しい…そんな意
味を少しでもくぐもった叫びに込めようと一生懸命大声を出すけれど、松永先生は全然理解してくれてくれず、
逆に…学園の男子生徒を魅了する、いつもの優しげな微笑みを浮かべていた。
「相原くん、少しの間でいいから我慢しててね。すぐに…助けてあげるから」
………ゴキッ
「あがっ!?」
その時、松永先生に拘束されていた男の口から間抜けな声が漏れるのと同時に、何か鈍い音が聞こえたような
気がした。
「ギャアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
一瞬遅れて迸る、耳を塞ぎたくなるほど痛々しい絶叫!!
「さぁ、相原くんを返してもらいましょうか」
松永先生はすぐ目の前で泣き叫ぶ男の事を意に介した風も無く、ポイッと横に投げ捨てると、静かに前に歩き
出し…気づいた時にはあたしと男たちの目と鼻の先にいた。
「なっ!?」
「えっ?」
そして一言も喋る間も無くあたしの後ろに移動し――
ダダン!!
――同時に、二人の男の身体がスローモーションのように上と下が逆になるように回転して、廊下の床に背中
から叩きつけられていた。
…………へっ?……いま……いったいなにがおこったの…???
はっきり言ってあたしの頭が状況に追いついてない。目の前で起こった事も、男の腕から開放されて身体が自
由になったことも理解出来ずに、廊下に横たわる男三人を前に、呆然と立ち尽くしていた……
「相原くん、大丈夫だった? 怖かったのね…こんなに固まっちゃって……」
「はぁ……え…あ…あれ?……えっと……はい?」
浴衣の袖から伸びる松永先生のしなやかな腕が後ろからあたしの首に絡みつき、口の中に入っていた濡れた靴
下を取り除いてくれた。でもあたしは、そこまでされてもまともな反応ができず、ポカンと開いた口からは間抜
けな言葉しか出てこなかった。
「まぁ…ほっぺたが赤くなってる……可哀想に……」
レロ…レロ……
さっきまで掴まれていたほっぺたに、なにか温かくてねっとりとしたものが押しつけられ、下から上に、指が
食い込んでいた部分をスッ…と撫でられる…っていうか舐められてる!?
「ひっ、ひゃああああ〜〜〜!?!?」
「あらん? もう怯えなくたっていいのよ…先生に身を委ねて……ね♪」
それが一番危険なんですよ〜〜〜!! 誰か助けて〜〜〜!!
「さて…これからスケベなオス犬さんはどうするのかしら? 負けるのが分かっていても襲いかかってくるのか
しら…私でよければお相手してあげるわよ、ふふふ」
「くっ…このアマ……」
濡れて少し冷えた首筋に絡みつく先生の腕の温かい肌……耳に心地よくて聞く人の心を落ちつかせてくれる優
しい声……首筋に吹きかかる石鹸の甘い香り……そんな先生に抱きしめられて、身の危険を男たちに触られてい
たさっきと同じくらい感じてはいるけれど、心のどこかで、先生に抱きしめられていて…このままでもいいかな
……なんて安心しながら思っていた。
でも……あの人たち、怖い目をしてあたしの方を見てるんですけど……
あなたたちを痛い目に会わせたのは先生で、あたしは無関係です…そう言いたかったけど、あたしの後ろにい
る先生をにらんでるから…結局は間に挟まれたあたしが睨まれるのね……
「畜生、覚えてやがれ!! おい、いくぞ!!」
冷や汗の流れる背中にふっくらとした先生のおっぱいを押し当てられて、このままどうしよう…と考えている
と、立ちあがった男たちはその場で身を翻してトイレ前の袋小路から去っていった……一人を除いて。
「ま…待ってくれよ、腕、俺の腕が動かないんだよぉ!! 痛ぇ…痛ぇよぉぉ!!」
最初に腕を捻り上げられていた男だけは廊下に座ったまま、手のひらでもう片方の肩を押さえていた。少しだ
け視線を下げると………な…なんだか肘から下があっち向いてホイしてるんですけど……
「あら、ごめんなさい、すっかりあなたの事なんて忘れてたわ」
それまで絡み付いてはなれないのではないかと思っていたほど、ギュッと押しつけられていた柔らかな身体が
離れると、あたしの横を通りすぎて、涙と涎と鼻水を同時に流して――きたない…――泣き叫んでいる男の方に
近寄っていった。
「さすがにこのまま放っておくのは可哀想よね。こんなヤツを診察する病院の先生が」
………その人が可哀想じゃないんですね…結構キツい……
「ち…近寄るなぁ!! やめろ、来るな、来るなぁ!!」
いつも微笑みを絶やさない先生の怖い一面(別の意味で怖いのは知ってるけど…)に内心驚いてしまう……既に
それを身をもって知った男は、笑みを浮かべて近づいてくる先生から、お尻を床についたまま後退さっていた。
「ひっ…う、うわぁぁああああああああ!!」
ついに恐怖が頂点に達したのか、無事な方の手をついて立ち上がりながら身体の向きを変えて逃げ出そうとし
た。
「じっとしてなさい」
ゲシッ!!
うわ…踏みつけた……男の人相手だと全然容赦ないなぁ……
「た…たす、助け、助けて…たったた助け…助けてくれぇぇぇぇーーーーー!!」
「ふふふ…安心して。ものすごく痛くしてあげるから♪」
ゴキッ!! ベキッ!! バキッ!! ボキボキッ!!!
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
男が動かないように背中を踏みつけたまま関節が外れている腕を取ると、鈍い音を立てさせながら、引っ張っ
て、捻じ曲げて、押しこんで……見ているだけでも痛みが伝わってきそうな動かし方で引っ張りまわす。
でもそれも数秒の事で、最後に強く押しこんだ先生は握っていた腕を放り投げ、浴衣の懐から取り出した手拭
いで、汚いものでも触ったかのように手をごしごしと拭き始めた。
「さ、一応関節をハメてあげたわよ。もう痛くないでしょ?」
「はぁ…へっ…あっ…あぁ…お、覚えてろぉ!!」
「はいはい、頭が雑魚なら手下も雑魚ばかりね。もうちょっと気の効いた台詞は言えないのかしら」
関節のはまった自分の方と背中を向けている松永先生を交互に不思議そうに見つめていた男は、悪役の定番み
たいな台詞を言いながら、この場から逃げていってしまった。
松永先生もそちらは気にした風はなく、振り向きもせずに…あたしに近寄ってきた……
「相原くん、大丈夫だった? ごめんなさい…私がもう少し早ければ、こんな目には……」
「い…いえ、いいんです。ちゃんと助けてくれたんですし……」
松永先生に感謝はしている。感謝はしているんだけど……胸の先っぽが当たるまで近づいてこなくてもいいよ
うな……
「いいのよ、強がらなくって……先生がやさしく慰めてあげるから……」
顔に笑みを浮かべながら近づいてくる松永先生……ひょっとすると、さっきの男もこんな怖さを味わってたの
かもしれない……
今までの経験から来るこれからの先生の行動パターンを考えると……自然と足が後ろに下がってしまう。でも、
下着が邪魔をして足が動かしにくい上、すぐ後ろは壁……に…逃げられない!?
はっきり言って大ピンチ!! こんなんじゃさっきの男たちと全然変わらないじゃない!!
しかしその時、あたしの大混乱の頭の中で、天啓のようにナイスな言い逃れが閃いた!!
「あ…あの、先生、もうすぐ夕食なんでこう言う事はその後にしまよ、ね、ね♪」
「別にそんなのいいわよ。食事を一回や二回抜いたって人間死なないわ♪」
「で、でもですね、この旅館は全員揃わないと食事が始まらないんですよ。だから後にして、行きましょうよ、
ね♪」
こ…ここで引き下がったらなし崩し的にエッチされてしまう!! それだけはもうイヤァ〜〜!!
「……しょうがないわねぇ」
や…やったの?……助かったぁ〜〜〜〜〜♪
松永先生が少しだけ身を引いてため息をついた瞬間、あたしはやっと窮地から脱したと実感した。
「十分」
「………へ?」
「十分ぐらいいいでしょ。それに近くにトイレもあるし……助けてあげたお礼は十分で貰うわよ…相原くん♪」
「ちょ…だめですってそんな、んむぅ!?」
そして…有無を言わさず、あたしの唇に松永先生の唇が重ねられた。
あぁ…結局あたしはこう言う星の元にあるのね……とほほほほ……
]]]W.爪先へ