Z.先生


「!たくやくん!」 「タク坊!もう大丈夫なのかい!」 「ええ、何とか」 あたしは苦笑いをしながら調理場に入っていった。真琴さんだけではなく、あゆみさんまでもがそこにいた。 さすがに、あの後すぐには仕事は出来そうに無かったので、少しの間だけ部屋で休んでいた。 目覚まし(起きれるように借りました)の時間を見ていたあゆみさんには、この時間に調理場に来るのが分かってた ようだ。 ちなみに、あたしの格好は新しいメイド服。しかも今度は短すぎないスカートだから、もうパンツを見られる 心配は……少しあるかな? 下着は上下ともダメになったので、当然新しい下着を着けている。着ていたメイド服はあちこち破られ、 あんな男の精液で汚れてしまったので、そのままごみ箱直行。 テーブルの上にはおにぎりの乗った皿が置いてあり、それを見た途端あたしのお腹が、きゅるるる〜〜〜、と 鳴ってしまった。 「まったく、あんな目に会ったってのに、腹が空くとは、因果な生き物だね、人間は…ほれ、さっさと食いな、 それ、あんたのなんだから」 真琴さんの表情が戸惑いから、あきれた、と言う顔になる。 「ありがとうございます、真琴さん。では、いただきま〜す」 今日は寝坊してあまり朝食を採る事ができなかったのに加え、佐藤先輩のお父さんとの激しいSEX、そして 布団部屋でのレイプと午前中に二回戦こなしているから、結構疲れた。 それが食欲に直結し、用意されていたおにぎりはあっという間にお腹の中に消えてしまった。 「ふぅ、ご馳走様」 「いい食いっぷりだねぇ、これならもう大丈夫そうだね」 「はぁ、今までにも似たような事が何度かありましたから…ぶたれた頬が少し痛いですけど」 少しはれた頬を、手でさする。 「…あんた、女になってからすさまじい人生送ってるね…」 真琴さんの感心したような、可哀想なというような言葉に、あたしは苦笑で答えた。 おそらく、女性になって一月ちょっとで、普通の人なら経験しないような事を何度も経験してきたあたしには、 今回のレイプなんて、ある意味たいした事が無いのかもしれない。 真琴さんは、そんなあたしの態度を強がりと思ったのか、その顔には少し引きつった笑顔が浮かんでいた。 「……たくやくんが元気そうでよかった」 「あ、そうだ。あゆみさん、助けてくれてありがとうございます。あゆみさんがあの男を追っ払ってくれたんですか?」 「え?あ、あの、その…」 「いんや。あゆみとあたしが布団部屋に向かってると逃げる奴が見えたんでね、タク坊が倒れてるのを見て、 急いであたしが追っかけたんだけど、見失っちゃってさ…そうだろ?あゆみ」 「う、うん。そうなの…」 「そうだったんですか、真琴さんもありがとうございます。あたしのためにそんな危険な事を…」 「別にいいって。それよりも、その後タカ坊や梅さんにばれないうちに布団を干しちまう方が疲れたよ」 と言って、首を左右に、コキッコキッ、と鳴らす。 「あ、あははは。どうもありがとうございます。」 結局あたしは朝からほとんど仕事をしていない。これは当分の間、二人には頭が上がらないなぁ。 「そう言えば、犯人に心当たりは無いのかい?見つけ次第、ぶっ殺しとくけど?」 包丁を舐めながら、真琴さんが物騒なことを言う。はっきり言って、殺気が篭ってて、メチャクチャ怖い…… 「あ〜、いえ、暗かったんでぜんぜん分からなかったんです……声色も意識して変えてたみたいですし……」 男の声にはどこか聞き覚えがあったけど、意識が朦朧としていたあたしにはそれが誰かわからなかった。 それに、あたしを「売った」男のこともある。どちらにせよ、はっきりした事が分かるまで、話さないほうが いいだろうな…… 「そうか……でもタク坊、あんたももうちょっと周りには注意するんだよ。男はみんなスケベだけど、 みんながみんな、タカ坊のような明るいスケベじゃないんだから」 「…隆ちゃんはスケベじゃないもん」 「なんて言っといて、新婚一ヶ月、いや、その前二人が付き合い出してから子供ができるまで、毎晩お楽しみ だったじゃないか。それとも何か、もしかしてスケベなのは、あゆみの方なのかい?」 「!…あ、それは…その……」 あゆみさんの顔が見る見る真っ赤になっていく。俯いて、腕を前でもじもじしていると、胸が中央に寄せられて、 ブラウスのボタンが谷間に隠れて見えなくなる。 …ほんとに凄い。あたしでも出来るかな?……じゃなくて、 「真琴さん、あゆみさんをいじめちゃダメじゃないですか」 「はははは、ごめんごめん」 真琴さんは笑って謝ってるけど、その視線は、何故か、あゆみさんの胸に注がれていた。 「…もう、知らない」 「はははは……」 最初調理場に来たときの暗い雰囲気はもうなく、三人の女の子の明るい笑い声が響いていた。 「あ、そうだ。たくや君、制服の事なんだけど…それが最後の一着なの」 「え、そうなんですか?」 そう言えばそうだ。この旅館に来てから二日間で一着盗まれ、一着をボロボロにされた。 それにあたしの胸に合うメイド服がそんなに多くあるとも思えない……目の前に同じか、それ以上の胸があるけど…… 「じゃあ、明日はどうすれば…」 「私の予備の服を貸してあげる。たぶんサイズは合うと思うから。それに今日の仕入れのときに仕立て屋さんに 新しく頼んでおいたから明日にはできてると思うよ」 「ありがとうございます、何から何まで」 「ううん、あたしにはこんな事しかできないから…」 これはあゆみさんなりの気遣いなんだろう。あんなひどい目にあった後だから、とっても嬉しい。 あれ?そう言えば真琴さんは…… あたしとあゆみさんが話している間に、いつのまにか真琴さんの姿が消えていた。 「真琴さんどこに言ったんだろう……あ、あんな所にいた」 見ると、真琴さんは床にしゃがみこんでテーブルの影に隠れていた。こちらに背を向けているので顔が見えない。 「真琴さん、なにをやって……」 「…どうせあたしの胸は小さいですよ…これでも人並みにはあるのに…この二人がおかしいのよ…それにタク坊なんか男なのに… なによあの胸…どうせあたしは男よりも胸の小さい女ですよ…ブツブツ……」 こ、声をかけづらい…真琴さん、なんでそんな胸にこだわるんだ? 真琴さんの周りには、どんよりと暗いオーラが漂っている。 「真琴さん、どうしたの?」 「え?あ?いや、あはは〜〜」 明るいあゆみさんの声で、何とか正気に戻ったようだけど、声に乾いた響きが残ってる。 「あっ!お姉ちゃんだ!」 「あれ?遙くん」 振り返ったあたしの視線の先、調理場の入り口に立っていたのは、砥部さん夫婦の子供、遙くんだった。 「どうしたの、こんなところに?」 あゆみさんが尋ねる。遙くんはそのかわいらしさから、あゆみさんや真琴さんにも好かれている。 「うん、お姉ちゃんを探してたんだ。朝からずっと探してたんだよ。ねぇ、遊ぼ遊ぼ」 「てことは、タク坊、ご指名だぞ」 まだ少し拗ねている真琴さんが、あたしに遙くんを押し付ける。 「って、何であたしなんですか?」 「あたしは遙には名前で呼ばれてるから。それにあゆみにガキの遊びに付き合わせるわけにはいかないだろ? 身重なんだから」 確かに、妊娠してるあゆみさんにそこら中を走りまわさせるわけにはいかない。けどあたしだって疲れてるんだけど…… 「ごめんね、お姉ちゃんたちもうすぐ仕事だから、また後でね」 「え〜〜、朝も遊べなかったのに〜〜。昨日約束したのに〜〜」 遙くんがほっぺたを、プ〜、と膨らませる。 あ、かわいいかわいい。 「ね〜〜、あそぼ〜〜、ね〜〜ってば〜〜」 「ほんとごめんね。そうだ、お父さんとお母さんはどうしてるのかな?」 あたしは纏わりつく遥くんの意識を他に向けるため、質問をしてみた。 どちらかが暇そうなら、そちらに行ってもらおう。 「お父さんとお母さんなら部屋でけんかしてるよ」 明るい遙くんの声が、さらりと気になる事を言ってのける。 「「「えっ?」」」 あたし達三人の声が見事にはもる。あゆみさんと真琴さんは、遥くんの顔を見た後、なんとも言えない顔で あたしに振り返る。 うう〜〜〜、じ、地雷踏んじゃったかも…… 「ど、どうしてけんかしてるのかなぁ〜?」 無理やり笑顔を作って、つい、気になってしまったことを聞いてしまった。 あぁ、さらに墓穴掘っちゃったかも!? 「う〜んと、お母さんがね、お父さんの事「ふのう」とか「やくたたず」とか言っていじめてるんだ〜。 何でそんな事言ってるのかは、わかんない。近づくだけで、お母さん怒るんだもん」 ……子供の無邪気は、時として罪だと思う。「僕、わかんない」と言いながら、とんでもないことを口にする。 お父さんが「ふのう」で「やくたたず」……それっていわゆる勃起不全、通称インポ… 「あ!そうだ、たくやくん、そろそろお客さんをお迎えする時間だよ」 あゆみさんがドツボに落ちたあたしに救いの手を差し伸べてくれる。 「あ、あぁ、そうですね、それじゃあ行きましょうか。真琴さん、後はよろしく」 「あっ、こらタク坊待ちやがれ、あゆみも薄情だぞ!」 「ね〜、真琴さ〜ん、遊ぼ〜」 あ、ほんとだ。名前で呼ばれてる。 あゆみさんからの救いの手を握り返したあたしは、真琴さんに片手を上げて健闘を祈ると、さっさと調理場を 出て行ってしまった。 「二人の薄情者〜〜〜!!てめ〜ら、今晩飯抜きだ〜〜〜〜!!!」 「そう言えば、今度くるお客さんて、どんな人なんですか?」 興味本位であゆみさんに聞いてみる。 二人とも既に玄関に到着しており、バスの到着する時間まで、待っているのが暇なのだ。 「え〜と、確か女性の方が一人だったけど」 「はぁ〜、よかったぁ」 今この旅館にいる、隆幸さんと梅さんを含めた男性達は、佐藤部長のお父さんが言ったように、あたしを「売った」 可能性のある人たちである。 そんな中、新たに男性が増えれば、再びあたしが凌辱される危険性が高くなる。 「…たくやくん、あんまりお客さんを区別しちゃ行けないと思うの……」 「あ…違うんです、そんなつもりで言ったんじゃ…」 あゆみさんが哀しそうな顔で、あたしに注意する。 あぁ〜、罪悪感が〜〜 「二人とも何を話しとるか。バスが来たぞ」 「よっしゃ〜、ぎりぎりセーフ」 話していたあたし達のそばには、いつの間にいたのか梅さんと、遅刻ギリギリの隆幸さんがいた。 …あたしをおじさん達に「売った」のは、この人たちかもしれないんだ…… 考えた瞬間、あたしは頭を振ってその考えを打ち消した。 どうもいろいろあって、混乱しているようだ。この二人がそんな… そんな時、一台のバスが旅館の玄関前の停留所に停まった。 「よし、女性のお客さんだ、気合入れて行くぞ」 「でも隆ちゃん…」 「わかってる、みなまで言うな」 あゆみさんもやっぱり、隆幸さんがスケベだと思ってるんじゃないのかなぁ? 完全に停車したバスの扉が開き、サングラスをかけた髪の長い女性が降りてきた。 パッと見ただけで美人と分かる。 それに上半身は胸元剥き出しのタンクトップで胸の谷間やおへそが見えている。下半身は見事なラインの足が レザーのミニスカートから飛び出ていて、見事なヒップが盛り上がっている。 「いらっしゃいませ、ようこそ山野旅館へ」 「「いらっしゃいませ」」 整列して歓迎の挨拶をするあたし達。丁寧にお辞儀をする。 初めてにしてはこんな感じかな?失礼の無いように…… 「私、当旅館の主の山野隆……て、あの〜」 美人相手に気合を入れて自己紹介をする隆弘さんの前を、その女性はおもいっきりさっさと素通りしていた。 そして立ち止まったのは………あたしの前?なんで? 頭を下げているあたしに向かってその女性は聞き覚えのある声で話しかけてきた。 「はぁ〜い、元気にしてた?」 その声を聞いた途端、あたしは顔を上げ、目の前に立つ女性の顔を見る! まさか、この声は! そして、聞き覚えのある声の女性がサングラスを取った。その下から現れた顔は…… 「!ま、松永先生!」 「お久しぶりね相原くん、そのメイド服なかなか似合ってるわよ」 そして、あごに指をかけられると、訳がわからぬままにキスされた……


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